第11話「モニカ4」 「テチュ〜ン」 ボラギノールが積み木を積んで遊んでいた。 ボラギノールによって3段も積み上げられた積み木は、 彼女の目には、高くそびえ立つ摩天楼のように映ったに違いない。 「テッチ テッチ」 続いて、4段目に挑戦。 両手で自分よりも大きな積み木を抱えながら、 覚束ない足取りで、右に左に揺れながら、作業に取りかかる。 「テテェ!?」 バランスを崩した。 勢い余って頭より大きな積み木が顔面を襲う。 小さな悲鳴と共に、ボラギノールは目を瞑り、両手で頭を抱えて、その衝撃に備えた。 震える。お漏らししそうだった。しかし、ボラギノールは何時までもたっても来ない衝撃に 恐る恐る片目を上げた。 「……テェ?」 「テス」 「テェ!?」 寸での所で、モニカがボラギノールが抱えた積み木をキャッチしていた。 そして、モニカは3段積まれた積み木の上へそれを乗せた。 「チャァーーー!!」 4段積まれた積み木を見て、ぱぁぁぁと顔が明るくなるボラギノール。 もっと。もっと。そうせがむように、ボラギノールはおもちゃ箱へ向かい、 次なる積み木を手にして、モニカに渡そうとする。 5段目は、ボラギノールの背丈では、届きそうにもないからだ。 「テチュゥーーー♪ テェ?」 積み木を両手に、ボラギノールはモニカを見つめていた。 モニカは、積んだ積み木には興味は示さず、気だるそうにため息をつきながら、 じっと窓の外を見つめるだけであった。 ◇ 「テー」 毎日のようにモニカは窓の外を見ていた。 その視線の先は、庭の茂みの一画。 そうモニカが虹裏さん宅から抜け出した茂みであった。 あの茂みを逆に掻き分ければ、丁度虹裏さん家の裏庭に抜ける。 モニカも馬鹿ではない。それぐらいはわかっている。 あの茂みを抜けたら。 もしかしたら、ご主人様は帰ってきているのではないか。 このモニカを何処かで探してくれているのではないか。 そんな現(うつつ)の夢を見ながら、モニカは日がな窓からあの茂みを見つめるのだった。 そんなある日のことだった。 ◇ 「テスァァァァァッ!!」 窓の外を見つめていたモニカがいきなり大声で叫び始めた。 「テスァァァァァッ!! テスァァァァァッ!!」 何事だ?俺はモニカに近づき、その様相がただ事でないことを知った。 リンガルはあまり使わない主義だが、今は致し方ない。リンガルのスイッチを入れる。 『ご主人様ァ!?』 リンガルには、そう表示されていた。 モニカは、叫びながら、窓の外の一点を凝視している。 見れば、虹裏さん家に繋がるあの茂みが揺れていた。 『ご主人様ァーーー!! ご主人様デスゥ!!』 このモニカの言う「ご主人様」というのは、俺のことでない。 虹裏さん。つまり、モニカの前の飼い主を指しているのは明らかだった。 茂みがさらに揺れる。 『モニカ!! ここテス!! モニカはここテスゥーーッ!!』 揺れる茂みを見て、小躍りするモニカ。 『あ! ニンゲンさん! ご主人様が来てくれたテス!! モニカを迎えに来てくれたテス!!』 モニカの様子を伺う俺の姿に気づいてか、モニカの頬がぱぁと朱に染まった。 俺を「ニンゲン」と呼ぶモニカの近くに寄り、彼女の見る窓の風景を見た。 確かに茂みが揺れていた。 だが庭のその茂みが通じる垣根の隙間の道は、どうみても人間が通れる空間はない。 『ご主人様ァーー!! テスンッ!! テスンッ!! モニカはここテスゥーーッ!! ここテスゥーー!!』 その場で、ぴょんぴょんと跳ねるモニカ。 『ニンゲンさん!! 今までお世話になったテス!! 窓を開けるテス!! 開けるテス!!』 「あ、ああ……」 『何やってるテスッ!! 早く開けろテスッ!!』 俺は圧倒されて、居間の窓を開けてやる。 モニカは庭へちょこんと降り立ち、テスーーと叫びながら、その茂みに向かって走って行った。 『テェック!! テェック!! ご主人様ァ!! ご主人様ァァァッ!!』 その勢いのまま、揺れる茂みの中に飛び込んだ。 俺もモニカの様子が気になり、サンダルを履いて庭へ出た。 「テェ!? テェェェェェッ!!」 茂みの中から聞こえるモニカの声の質が変わった。 と思った矢先に、黒い塊と共に、その悲鳴の主であるモニカが茂みから吐き出されるように飛び出て来る。 「ギャァァァッッ!! ギャァァァァーーーッ!!」 中実装とは思えない声色で、モニカが叫んだ。 そのモニカに食らい付く黒い塊は、1匹の黒猫であった。 「テギャァァァァァァーーーッ!!アッアッーーーッ!!」 「A」の形の口を、最大限に縦に開き、血涙を流しながら、開いた瞳孔で虚空を見つめながら叫ぶモニカ。 「こらっ!!」 俺が思わず一喝すると、黒猫はその声に驚いたのか、耳を伏せ再び茂みの中へ消えて行った。 一方、モニカは。 「テッ…テテテテッ……」 歯茎をガチガチと鳴らせながら、血涙が溢れる瞼を何度も何度も瞬かせていた。 あの一瞬に、頭大の大きさにパンツは緑色の物体で膨れあがっていた。 そして、先ほど黒猫を追い払った俺の顔を見るや、 『ご主人サマッ!! ご主人サマッ!!』 と、びっこを引きながら、こんもりパンツを芝生に引き摺りながら、俺の足下へとしがみつく。 「災難……だったな」 『テェック!! テェック!!』 『怖かったテスゥ〜〜。怖かったテスゥ〜〜』 『ご主人サマ〜!! 二度と離れないテス〜〜!!』 そうリンガルに流れる表示を見ながら、俺は溜息をつきながら、リンガルを切った。 「テェェェーーンッ!! テェェェーーンッ!!」 モニカは震えながら、俺の足にいつまでもしがみついていた。 (つづく)
