双葉児童公園に愛護派がほとんど来なくなってから、ずいぶんと時間が経つと違うタイプが訪れ始めた。 そう聞けば多くの人が虐待派を一番に思いつくだろう。 だが現実には同じくらい多いのが、飼い実装を捨てに来る人々だ。 実装石の日常 捨てられ また太陽が昇るまで少し、時間がある時分。 野良実装にしては太った成体が1匹、公園のゴミ箱からそっと外をうかがう。 「デェェェェエン、ご主人様、帰ってきて下さいデスゥ————。 もう我がまま言わないデス、言う事聞くデスゥ」 ダンボールの中から泣き言が聞こえてくる。 意外と素早く野良実装が物陰から飛び出し、ダンボールに近づくと遠慮なく上から覗き込む。 「デ?」 驚く捨てられた実装石を無視して、さっと中を改める野良実装。 実装フードの入った袋が三つ、新しいタオルが2枚。 他にもおもちゃや捨て実装の着ている高価な衣服が目につくが、それらは生き抜くには役立たない。 ためらわず、野良実装は実装フードとタオルを奪う。 「何するデス、それはご主人様からもらったものデス」 さすがに捨て実装が抗議する。 野良実装、大口を開けて睨んだ。 「お前は捨てられたデス!」 「デ! ちが…・・・」 「お前は捨てられたデス! 愛されていないデス! 可愛がられていないデス! 大事にされていないデス!」 「デデデデ!!!!」 「捨てられたゴミデス!」 「デヒャアアア!!!!!」 「お前はこれをもつ資格さえないデス! つべこべ抜かすなデスゥゥゥゥ!!!!!」 「デヒャ————————————!!!!!」 一方的に捨て実装の精神を蹂躙すると、すかさず戦利品を抱えて走り去る野良実装。 捨て実装は嗚咽を上げてダンボールの中をのたうち、追うどころではない。 途中で、ボトリとタオル1枚と実装フード1袋を落とすが、拾い上げる間も惜しい捨て実装はそれらを諦めた。 自分のダンボールハウスに駆け込むと大急ぎで蓋を閉める(このダンボールは横倒し式であった)。 安堵して野良実装は座り込んだ。いまごろあの捨て実装を見つけた他の野良実装たちが、奪い合いと殺し合いをしていることだろう。 「長居して良い事はないデス」 この野良実装、じつは捨て実装に狙いを定めるという、特化した生活を送っている。 ダンボールハウスの中にあるタオル・新聞紙・エサ・容器、すべて捨て実装の所持品を奪って入手したものだ。 言うまでも無くダンボールそのものも捨て実装から奪った物である。 実装石は基本的に生産することができない存在だ。 だから飼い実装は飼い主から与えられる一方であり、野良実装はゴミ捨て場か自然に実った物を採集するほかない。 だが今この双葉児童公園は愛護派の無秩序なエサやりで、野良実装の個体数が異常に増大してしまった。 そして飽きた愛護派はエサやりをやめた。 小さな公園という環境では野良実装全てを養えるはずもなく、飢餓状態へすぐに陥った。 奪うか奪われるか、食うか食われるか、殺るか殺されるか。 この野良実装は奪うこと食うこと殺すことを選ぶことにした。 実際、そうせねば彼女も早々に屍を公園にさらしていたろう。 いまや公園は修羅場であった。 とにかくエサを手にしなければ餓死してしまう。 否、餓死は公園における死のパターンとしては上位に分類される。 餓死するほど弱体化すれば、ほかの強健な野良実装に食われることのほうがずっと多い。 この太った野良実装、力には自信がある。 それでも野良実装同士、しかも多数の乱闘になればただでは済まないし、負傷すれば次のエサ取りに響く。 一旦、体調を損ねれば転落していくのは間違いない、多くの実例を見てきたのだから。 「無理は禁物デス……」 大事な約束を果たすため、彼女は無理をしなかった。 ************************************* ある日の深夜。 公園に実装石が捨てられるのは深夜か早朝である。 さすがにひと様に見られるとまずい行為だという認識は一応持ち合わせているようだ。 また1人、闇の中からダンボールを持った人影現れて、そっと公園の入り口付近に置くと足早に立ち去った。 もちろん太った野良実装、ダンボールに忍び寄り、街灯に照らされた中を見てみる。 「テチャアアアアアア! 捨てられたテチ! 捨てられたテチィィ!!!」 「あのドレイ、殺してやるテチ! さっさと帰って来いテチ、ステーキもってこいテチャア!」 「そんなこと言ってるから、捨てられたテチ。 私たち終わったテチ……」 「次女を責めてもしかたないテチ。 ……なんとかここで暮らせるようがんばるテチ。 力を合わせればなんとかなるテチ」 ダンボールの中では姉妹らしい仔実装が4匹、悲嘆に暮れていたり、糞蟲全開であったりしている。 「お前たち、どうしたデス。 ママはいないかデスゥ?」 野良実装、ダンボールを上から見やりつつ仔実装に話しかけた。 まれに、ごくごくまれに捨てた人間が慌てて戻ってくることもないではない。 中身を確認しつつ、飼い主との関係を聞き出すことも必要だ。 「高貴な私を飼わせてやってたテチ! ところがあのドレイが私のささやかな願いも叶えられなかったテチ! 私がしつけをしてやったら、逆ギレして私たちをここにおいていったテチ!!!」 「……次女はこんな調子テチ、ご主人様が怒るのは無理も無いテチ。 ママはいないテチ、ママがご主人様にお願いして私たちを飼うよう、 してくれたテチ。 でも、また野良の暮らしに逆戻りテチ」 聞き流しながら野良実装、ダンボールの中身を確認するが古新聞を床に敷き詰めただけで目ぼしい物は何も無い。 捨て実装、と言ってもタイプがざっと三つに分かれる。 1 飼い主にやむをえない事情があって捨てる場合。 この野良実装にとっては願っても無い客である。何しろ大量の実装フードとタオルをダンボールに入れてあるのだから。 ただし捨てたはずの飼い主がどこかで見ている可能性もあるので注意がいる。 2 いくらか気をかけつつ捨てる場合。 ダンボールには最低限の物資がある。なんとか、生き延びて欲しいという願いだろうか。 もっとも実装フードなど他に使い道も無いから、ゴミに出す代わり程度かも知れないが、とにかく幾らかはある。 3 怒った飼い主に捨てられる場合。 ダンボールに有益な物資がほとんどない。 飼い主は買い置きのフードをあえてゴミに出す。 どう考えても今のケースは3である。 「オバサン……。 私、姉妹の長女テチ。 この公園で暮らしていきたいテチ、でもどうすれば良いか分からないテチ。 だから迷惑だと思うけど、教えて欲しいテチ、助けて欲しいテチ」 「……………………………………よし、その代わり静かについて来るデス」 次女以外は野良実装の答えに喜んだ。 不満げな次女は姉妹らが説得し、野良実装は彼女らを1匹ずつダンボールから出してやり、 周辺に他の野良実装がいないか警戒しながら、そっと帰宅した。 ダンボールハウスの中は隙間から差し込む月明かりだけが頼りの暗い世界だ。 野良実装が姉妹を入れて入り口を閉めようとすると。 「オバサン、暗いから開けておいて欲しいテチ」 「お前たちが逃げ出すから閉めるデス」 「……テ?」 長女がなおも聞こうとすると、次女が騒ぎ出した。 「お腹が減ったテチャアア、とりあえずステーキ食べたいテチ、デザートはもちろんコンペイトウテチィィ!!!!!」 「次女姉ちゃん、騒いだら駄目テチ……。 これからお世話になるのにテチ」 4女がたしなめようとすると、野良実装が制した。 「空腹が辛いのは分かるデス、肉が好きなのは私もデス。 ステーキは長いこと食ってないけどデス。 さあ、次女、こっちデス」 手招きする野良実装にテチテチ次女が近寄った。 「お肉を食べる準備を手伝うデス」 と、新聞紙を広げさせ、取り出したプラスチックの板をその上に敷く。 「肉は神戸牛テチ? 変な肉だったら許さテチャ————————————!!!!!!!!!!!!!!!!」 語尾は悲鳴であった。 野良実装、次女の肩を押さえ込むと左腕を捻ってあっさり切断した。 「テヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! お手手! お手手痛いテチャ————————————アアアアアアアアアアアアアアアアアア————————————!!!!!!!!!!!!!!」 目と口を限界まで開いて、次女は痛みを訴えた。 「「「………………」」」 姉妹たちは呆然と、ただ野良実装と次女を眺めている。 突如の暴力に実感が湧かないのだろう。 つまり、飼い主は暴力を振るうことすら無かったらしい。 今となっては慰めにもならないが。 左腕をねじ切られる痛みは絶叫しても治まらない。 倒れると、ばたばた、と体を動かす。 「……次女しっかりしてテチ」 長女が次女を抱えてやりながら野良実装をにらみつけた。 「オバサン! なんでこんなことするテ……チ…」 次女のねじ切った腕を野良実装はむさぼっていた。 口から血を垂れ流して。 目は食材を見る目つきだ。 言葉では理解できないことも状況が理解させることはよくある事だ。 仔実装姉妹は自分たちが食われるため、ここへ連れこまれたと理解した。 「「「「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」」」 姉妹は生まれてきてから上げた悲鳴全てを合わせたよりも大きな悲鳴をあげた。 3女が野良実装に足をつかまれて持ち上げられる。 「テチャアアアア! 離してテチ! 離してテチャアアアア!」 野良実装、黙って3女を敷いたプラスチックの板へ叩きつける。 「テベ!」 叩きつける。 「テベ!」 叩きつける。 「テベ!」 「やめてテチャアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」 優しい4女がたまらず飛び出すと、野良実装は面倒くさそうに3女を4女にぶつけた。 「「テベ!」」 半壊した4女が床に転がるのを確認すると、野良実装は3女を叩き潰す作業を再開した。 血肉が飛び散って新聞紙につく。 顔につくのも構わず野良実装、 「こうして生きの良い肉を潰して殺すと、なかなか美味しいデス。 お前らも覚えておけデス」 と、のたまう。 もう3女は何も言わない、言えない。 「テチャアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッ」 次女、絶叫してダンボールの隅へ逃げていく。 震える背中を惨状に向け、滝のように血涙を流した。 「ママ! ご主人様! 早く助けに来てテチ! 助けてテチ! 私たちが食べられちゃうテチャアアアアアアアアアア!!!!!」 「あまりうるさいとお前から食い殺すデス」 「テヒャアアアアアアアア———————————アアアアアアアア———————————!」 黙々と肉を潰す作業に戻った野良実装、頃合いと思ったか肉をかじる。 「おいしいデス!」 幸せそうな声と表情。 「やっぱり肉は飼い実装の仔肉デス。 味わい深いデス」 テチテチ、と半死半生の4女が野良実装の足元によると、テチテチとその足を殴る。 殴るというより、撫でるような動きだ。 「3女姉ちゃんを返せ、テチ。 ……返せテチ」 それでも面倒と思ったのか、肉を一旦プラスチック板の上に置く。 空いた両手で4女を捕まえるとコキンと首を折って静かにさせた。 そして食事を再開させる。 長女は座ったまま黙ってその光景を眺めている。 翌朝、野良実装は熟睡していた。 何しろ深夜の行動が多いため睡眠不足になりがちだ、朝寝もやむをえない。 涙を浮かべた次女は右腕だけで必死に首へ繋がれたヒモを外そうとしていた。 だが片腕、しかも仔実装の力で外せるものではなかった。 しかも野良実装がヒモの端を握り締めている。 だがほかに道は無い。 次女の姉妹は新聞紙に染み込んだ血痕しか残っていないのだ。 その新聞紙ももう、巣の外へ捨てられた。 己も同じ運命になりたくなければ、ヒモを外すしかなかった。 「……少し静かにするデス」 「テヒャアア!」 眠たげな声の野良実装、次女をにらみつける。 「うるさいと今すぐ殺すデス」 「…………」 「でも静かにしていたら、命だけは助けてやるデス」 「ほ、本当テチ?」 「騒ぐなと言ってるデス、睡眠の邪魔をしたらすぐ殺すデス」 次女は自分の口を右手で塞ぐ。 「そう、それで良いデス……」 すぐに野良実装は寝た。 昼過ぎに起床した野良実装は空腹を覚えると、新たな新聞紙を広げ始めた。 「テチャアアアアアアアアアアアア——————————————————————————————————————————————————!」 次女はそれを見て悲鳴をあげた。 しばらくすると汚れた新聞紙を丸めて、外へ投げ捨てる野良実装の姿があった。 ************************************* 順調に手際よく、野良実装は捨て実装を狩り続けた。 些細な手違いさえ死に直結するこの公園に適応した、と言って良いだろう。 さっそく今日も目ざとくダンボールに入れた実装石を運んでいる人間を発見した。 珍しく日中であったが、そういう時間でも捨て実装がないこともない。 人間が離れるとさっそく野良実装はダンボールへ近づいた。 案の定、飼い実装が1匹のんびりと鎮座している。 「お前どうしてここにいるデス?」 初対面の野良実装に明るく答える飼い実装。 「ご主人様にここで待っているように言われたデス」 「この公園に来たことはあるかデス?」 「初めてデス」 にやりと笑みがこぼれてしまう野良実装であった。 ダンボールの中にはエサやタオルがたっぷり入れられていた。 「お前は捨てられたデス」 「…………そんなわけないデス」 内心、思っていたのか飼い実装の顔が真っ青に変わる。 「じゃあなんで公園へ置き去りにしていくデス? お前は捨てられたデス」 「……私はかわいがってもらってるデス、ありえないデス」 「最近は冷たくされていたんじゃないかデス」 「……ご主人様は忙しいデス、でもそんなことは関係ないデス」 「もういらなくなったから捨てられたデス」 「もう口をきかないデス………」 「そんな奴だから捨てられたデス」 「デヒャアアアアアアアアアアア! お前はうるさいデス!」 「もう怒りやがったデス! こんな奴を可愛がるはずが無いデス!」 野良実装は捨て実装の心をえぐり続ける。 暴力で屈服させるより確実で簡単だから。 「もうお前はいらなくなったデス! 待ってるよう言ったのは追いかけられると面倒だからデス! ゴハンを置いていったのは、いちいちゴハンを捨てるのが面倒だったからデス! お前は必要じゃないデス! 生きてる価値も無いデス! 捨てられたゴミデス! ゴミは早く死ねばいいデス!」 ビシビシと捨て実装の偽石に亀裂が走る。 「ご主人様もお前の顔には飽き飽きデス! デスデスうるさいだけのナマモノなんか誰もいらないデス! 公園においていくのが当然デスゥゥゥ!」 「デヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! うるさいデス! 公園の野良実装がうるさいデス!」 切れた捨て実装が叫ぶ。 だが野良実装もここが勝負と叫び返す。 「お前も野良実装デス! もう捨てられたから飼い実装じゃあないデス!!!!!!!!!!」 石の砕ける音が響く。 大きく体を引きつりさせて、捨て実装は血を吐きながらダンボールの中に倒れた。 邪魔者を仕留めた野良実装、タオルを広げて戦利品をありったけ乗せて縛って運んでいく。 「……今日もうまくいったデス」 野良実装、貴重な戦利品ともどもダンボールハウスの中を整理する。 彼女は賢い、古いエサから食べているので整理は必要だった。 タオル・新聞紙・エサ・容器、そして千切れていても大事な首輪。 「少しこの公園で待っててくれ、ミドリ」 優しいご主人様の言いつけを半年以上守っているミドリであった。 END

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/16-20:52:16 No:00002810[申告] |
| 約束って単語でそうだろなあと思ったら
育ちのわりには逞しすぎるやつだ そうじゃなきゃ愛誤派の来ない地獄公園で長生きできないが |