タイトル:【愛】 実装かぞく8
ファイル:実装家族008.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1672 レス数:0
初投稿日時:2009/10/21-23:07:10修正日時:2009/10/21-23:07:10
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第8話 「モニカ」


「デブデブ…」

デさんが、ずれた眼鏡をなおしながら、ブツブツと文句を言っている。
ボラギノールがこの家にやってきて1週間。ようやく新しい「家族」を受け入れた矢先だったのだが、
新たな闖入者(ちんにゅうしゃ)に、ご立腹の様子である。

「テェ!? テェェ!?」

一方、ボラギノールは、煌びやかな実装服を身にまとうモニカに興味津々だった。

あれからモニカは、よほど疲れていたのか、泥のように眠り、むくりと起き出したかと思うと、
椀に盛ってあった水道水を、犬のように四足で、ぐびりぐびりと飲み、ようやく落ち着きを取り戻した感じだった。
薄いイエローの前掛けをびっしょりと水で濡らした、ぽかんと呆けたような状態のモニカに、俺はリンガルで話しかけた。

『ここ何処テス? ご主人様は何処テス?』

「あー、え〜と」

俺は、虹裏さんの家の様子を思い出し、言葉を選んで「夜逃げ」を説明するのに頭を悩ませた。

『モニカは公園でご主人様とお出掛けをしていたテス』

『ご主人様は、アイチュを買って来るから「ここで待ってろ」とモニカに言ったテス』

モニカの話はこうだった。
1時間、2時間待っても、虹裏さんはモニカの前には現れなかった。
不安になったモニカは、公園で泣きつくし、半日かけて見覚えのある道と匂いを辿って、家に戻ったという。
玄関で必死に虹裏さんの名前を呼び、泣き続けた。
夜を迎え、雨露を避け、水溜りで喉を潤し、また虹裏さんの名を玄関の前で声が枯れるまで呼び続けた。
そして、あまりの空腹と寂寥感のため、夢遊病者のように彷徨った末、近所の俺の家に偶然辿りついた。
というわけである。

『ご主人サマ、きっと家で待ってるテス』

「あー、え〜と」

『世話になったテス』

モニカはペコリと俺に頭を下げ、玄関に向かってトテトテと歩いた。

「ちょっと待……」
「デスァッ!!」

モニカを引きとめようとする俺を制したのはデさんだった。
黒縁の実装眼鏡の奥から睨み付ける眼力に圧倒されて、俺はおもわず玄関の扉を開けてしまった。

モニカは玄関から外に出て、庭においてあるデスクーターにちょこんと乗り、俺に頭を再び下げた。

 ブルルゥゥゥゥ〜〜

最新世代のデスクーターは、電動スクーターの脱炭素の環境仕様だった。

「デスァ!! デスァ!!」

モニカを見送る俺の背中で、デさんが叫んでいる。
ああ、わかってるよ。これはモニカが選んだ選択だ。他人である俺がとやかく言うことじゃない。

「デブデブ……」
「テェ〜?」

ブツブツ呟くデさんと、?な顔をしているボラギノールが、玄関から戻ってきた俺を迎えてくれた。
俺には俺の家族がいる。生活がある。
モニカにはモニカの家族がいる。生活がある。ただそれだけなのだ。

◇

30分後。

「テェェェーーン!! テェェェーーン!!」

俺の庭先の茂みから、黄色い実装服を着た実装石が、梅干顔で現れ、
俺の家の玄関の扉に、緑の糞がついた両手で、手形を一杯つけるのだった。

「テェック!! テェック!! テヂヂーーッ!!」

嗚呼…。
デさん、そんな顔で睨まないでくれ。嗚呼……。

(つづく)

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