第6話「デさんとボラギノール3」 あの事件以来、ボラギノールはこの家の中で、デさんの後ばかり追い続けた。 デさんも、とうとう観念したのか、ボラギノールにこの家で暮らす上での処世を教え始めた。 「デスッ!! デスデスッ!!」 玄関に降り立ったデさんが、何か高邁な演説をしている。 ボラギノールは、デさんの話に食い入るように、耳をそばだてている。 「デスァ!! デスデェースッ!!」 そう言いながら、デさんは玄関に脱ぎ捨てられている俺の靴の匂いを嗅ぎ始めた。 デさんに習ってか、ボラギノールも爪先立ちで、興味津々に靴の中に顔を突っ込む。 何をやってるんだ、あいつら。 俺は、眉間に皺を寄せながら、2匹の様を見つめるのだった。 ◇ 「デスッ!! デスデェース!!」 次いで、物置部屋の箪笥の裏に、手を入れるデさん。 俺は2匹の後を追い、隠れながら、様子をうかがっている。 「テェェェェッ!!」 ボラギノールの嬌声と共に取り出されたのは、ゴキブリの死骸だった。 1匹。2匹。3匹。おいおい。何匹出てくるんだ。 その1匹を、花飾りのように頭につけて、デさんはデププと笑う。 ボラギノールの頭にも、1匹死骸を乗せてやるデさん。 丁度、近くにある鏡台に映る姿を見ては、頬を赤らめる2匹。 次いで、デさんは廊下の梁の染みを指差し、デスァデスァと叫んだりする。 そして、顔を近づけて、クンカクンカと匂いを嗅いだ。 ボラギノールもそれに習い、クンカクンカと匂いを嗅ぐ。 続いて、便所マットを捲っては、何か思考がロックされたかのように、デーと便所マットの裏の生地を、 ボラギノールと小一時間、見つめたりした。 何やってるんだか、あいつらは。 そして、デさんは浴室へと入り、排水溝の中に手を入れて何かを必死に集め出した。 「テェ!! テェ!!」 集まるそれを見る度に、ボラギノールは大興奮だ。 よく見ると、浴槽の排水溝に溜まった、俺の抜けた髪の毛を集めているようだった。 あ、デさんが浴室から出て来る。やばい。見つかる。 実装服のスカートの裾を濡らしたデさんとボラギノールが浴室から出てくる。 俺はさっと身を隠し、再び彼女らの後を追った。 頬を赤らめながらデさんがやって来たのは、東の和室だった。 そして、押し入れの前に立つと、デさんはデスデスと何かボラギノールに語った後、 指のない手で器用に押し入れを開けたかと思うと、スカートから見える下着を露わにしながら、 ごそごそと押し入れの中へと入っていった。 ふむ。俺は子供の頃を思い出す。 よく俺も、家の中に「秘密基地」と称して、お菓子や玩具などを持ち込んで、 自分だけの聖域というべき空間を作ったものだ。 もしや、これはデさんの秘密基地か。 そう思うと、俺は微笑ましくも吹き出しそうになった。 「テェェェッッ!! テェェェッッ!!」 続いて、押し入れに入ったボラギノールが驚愕の声を上げていた。 何が起こっているのか、東の部屋を外から覗く俺には、押し入れの中は伺い知ることはできない。 俺は、忍び足でそぉ〜と、押し入れの前まで近づき、押し入れの襖の間から、中をそろりと見てみた。 「デッ! デッ! デッ!」 見れば、デさんは近眼用の眼鏡を、器用に鼻下へとずらして、指をベロベロ舐めながら、 先ほど浴室で集めた俺の毛を1本1本数えていた。 その足下には、コンビニ袋が置かれてある。 その中には、黒々とした大量の物体があった。 言うまでもなく、デさんが長年集めて来た、俺の髪の毛だろう。 ふむ。俺は子供の頃を思い出す。 よく俺も、切手やキン肉マンの消しゴムや、色々なものを集めたりしたっけな。 そういや、キン消しって何処やったけな。 「テチュ〜〜ン♪ テチュ〜〜ン♪」 ボラギノールがコンビニ袋に顔を突っ込み、大量の黒々とした毛に囲まれながら、甘い声を出していた。 …………。 まぁ実装石に取って「毛」というは、それが別の種の物であっても、よほど大切な物なのだろう。 しかし、デさん。 俺に隠れて、こんな基地や、こんな趣味など持っていたとは。 飼い主に秘密を作るなど、飼い実装らしかぬことである。これは、お仕置きが必要だ。 そう思った俺は、押し入れの襖の間から、ポケットに入っていたある物を転がした。 「デ? デッス〜〜ン♪」 「テチュゥ〜〜ン♪」 金平糖のお仕置きだ。 まぁ2匹で仲良く、食べるがいいさ。 俺は、仲良くやってる2匹の邪魔をしないよう、その場を立ち去った。 (つづく)
