Journey Through The Jissouseki Act-3 【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】 謎の緑色の怪人“初期実装”に因縁をつけられ、別世界に飛ばされてしまったという子供を捜すことを強要された 弐羽としあきは、アパートの自室ごと世界を移動する旅をするハメになった。 彼が巡る世界には、「実装石」と呼ばれる人型の不思議生物が存在する。 実装石と関わることで、としあきはだんだんと、異世界の常識に染まっていく。 としあきは、五日間しかその世界に留まれない。 それを過ぎてしまうと、永遠に元の世界に戻れなくなってしまうのだ。 最初に「公園実装の世界」、次に「虐待正義の世界」を巡ったとしあきは、次にどこへ行くのか—— ※ ※ ※ 2005年8月7日・日曜日、午後1時。 としあきとミドリは、部屋の中で死んでいた。 否、一応生きてはいるのだが、あまりの暑さに完全にだれているのだ。 ようやく、としあきのいた時代に近い世界にやって来たというのに、季節は真夏。 室温は34度、湿度は80%に達している。 今回のアパートは、比較的片付いていて住みやすそうな反面、空調機器関係がまったくない。 冷風機はおろか、扇風機すらない始末だ。 暑さを凌ぐ方法といえば、冷凍庫に顔を突っ込むか、流しで水を浴びるしかない。 だが、そうする気力すら奪ってしまうほど、夏の熱気と窓から飛び込んでくる蝉の鳴き声は、凄まじい。 「おい〜ミロリ〜、生きてっかぁ〜?」 “ク、クソドレイ……この状況をどうにかしろデス……” 「出来ることならとっくにしてるよ……ああ、喉渇いた」 “グエエエ…いちいち声に出して言うなデス。益々そんな気になっちまうデス” この世界に辿り着いて、既に三時間。 何度同じような問答を繰り返したかわからない。 畳が汗を吸い、ジメジメし始めた頃、さすがにまずいと思ったとしあきは立ち上がった。 じっとりと湿り気を帯び、服の緑色が一段と濃くなっているミドリの襟首を掴み上げると、としあきはアパートを飛び出した。 “どうするデスー? クソドレイ” 「しゃあない、アイス食おうぜ、アイス」 “デ? ワタシにもくれるデス?” 「いらないならやらない」 “いる! 要るデス! 愛してるデスこのクソドレイ!!” 「あいあい」 頬をべろんちょと舐められ、としあきは怖気が走り、ミドリはしょっぱさに辟易する。 近くの商店街に行って、100円程度のアイスでも買って川辺で涼めば、いくらかマシになるだろう。 そう考えたとしあきは、通い慣れた道を進もうとして……立ち止まった。 「なあミドリ、さっきの話、無理かも」 “デエ? 今更何を言い出すデス? ぬか喜びさせてお預けする嫌がらせデス?” 「いーや、そうじゃない」 としあきが指差す方向を見つめ、ミドリはキョトンとした。 そこは数々の店舗、雑居ビルが並び、大勢の人々が行き交う大きな街。 今までとしあきが住んでいたような、片田舎の静かな場所とは全く違う。 というか、としあきには明確な見覚えがあった—— 「秋葉原」 “デ?” 「ここ、秋葉原じゃん。俺、昔行ったことある!」 “デェェ? アキハバラって、無線オタクや家電を買い叩くビンボー人ばっか集まる怪しい街デスー? そんなつまんねー所に来ても……” 「なんでそんな事知ってるんだよ。この時代のは違うぜ」 “デ?” としあきにブラ下げられたまま、ミドリは中央通りまでやってきた。 そこは歩行者天国になっているようで、見渡す限りの人、人、人だ。 片側三車線もある広い道路が丸々閉鎖されているせいか、ものすごく広い。 すごく聞き覚えのあるショップのBGMが耳に届き、としあきの気分は高揚する。 あまりの雑踏のせいか、としあきが実装石を連れていても、特に目立つことはないようだ。 吸い寄せられるように歩行者天国に入り込んだとしあきは、暑さも忘れて歩道脇の柵に腰掛けた。 道行く人々は、実に様々な格好をしている。 男連中は皆、所謂オタクファッションなのだが、女性はそれに対してかなりきらびやかだ。 何かのコスプレだったり、派手なカジュアルウェアだったり、何かの制服だったり、セーラー服だったり。 まるでコミックマーケットの西ブロック屋上のようで、見ているだけでも楽しい。 中には、ものすごい露出の高い服を着ていたり、下着が見えそうなギリギリのマイクロミニを履いて、惜しげもなく歩き回る 女性までいる。 しかも、いずれも負けず劣らずの美人揃いで、ほとんどモデル並だ。 一般レベルの見た目の人はほとんどおらず、美人女性以外ではちっちゃな子供くらいのものだ。 しかも、その子供にしても滅茶苦茶可愛らしく、炉の気がないとしあきですら思わず頬が緩むほどだ。 だが、何か、すごく大きな違和感がある。 それはなんだろうと眉を潜めた瞬間、ミドリが呼びかけた。 “クソドレイ、アレは食べ物屋デス?” 「おー、吉野屋じゃないか! おおっ、あれは俺の口座のある銀行じゃん! やったー、金下ろせるかも!」 “デエ! ホントデス?! もうあのビンボー生活ともおさらばデス?” 「そうだ! 確か俺の口座には貯金で40万くらいはあった筈だから、大丈夫だろ!」 “デデ、このブルジョワさんめ、デス!” 学生時代からこつこつ貯金していたとしあきは、この時代にも自分の口座がある事をしっかり覚えていた。 早速銀行に入り、恐る恐るATMカードを差込み暗証番号を入力すると、何の問題もなく残高照会画面に到達した。 金額は、思っていた額より若干少なかったが、念のため全額引き出しておく。 としあきは、いきなり所持金32万円オーバーのリッチ者になってしまった! 「いやったぁ、財政復活! これで当面大丈夫だろう!!」 “でも、まーた旧札がどうのでもめるんじゃないデス?” 「ぬかりない、今度はちゃんと旧札も用意しておくさ。 よしミドリ、まずはお祝いに牛丼食おうぜ」 “デ! ご、ご馳走してくれるデス?!” 「まかせろ!! 特盛り卵お新香付きで腹が割れるまで食わせてやるぜ!」 “デギャー! さすがはワタシの見込んだクソドレイデス! いつかはやる奴だと見込んでいたデス!” 「…卵ナシな、やっぱ」 その後、持ち帰り弁当ですっかり腹を満たしたとしあきとミドリは、当初の目的「涼む」を完全に忘れており、食後の体温上昇 にあてられて先ほど以上にぐったりしてしまった。 歩行者天国の中、適当な日陰に腰を下ろしたとしあきとミドリは、自販機で買ったジュースをグイ飲みしながら、道行く人々を 観察した。 それにしても、本当に「美女と野獣」の大群である。 とてもじゃないが、あんな美女をエスコートできそうには思えない連中が、さも当然といわんがばかりに行き来している。 しかも、女の方も決して嫌がってはおらず、それどころか男に頬ずりしたり、中には白昼堂々と路チューをかましている者達も 居る。 すべて超絶美形美女。 その全員が例外なく、肌色のネコ耳風の飾りを装着している。 ついでに言うと、同伴男性の中に、彼女達と釣り合っている者、一人もなし! しばらくすると、何人かの男性がとしあきとミドリに気付き、迫ってきた。 まるで珍しいものを見るように、しかも随分と失礼な態度で近づいてくる。 人数も、なぜかどんどん増えていく。 「おい、実装石だぜ」 「なんでこんな所にノーマルいるんだよ?」 「誰かの飼いじゃね?」 「ダッセ! まだ実装で連れ回してんのかよ! どこのバカだ?!」 デデデ? 「悪かったな、俺のツレだよ」 不穏な雰囲気を感じたとしあきは、ひったくるようにミドリを掴み上げると、男達を睨みつけた。 だが男達は、そんなとしあきを指差して一斉に嘲り笑う。 ギャーハハハハハハ!! 実装だぜ実装!! こいつ、失敗したんだよ! ダッセー、超ダッセー!! 失敗した奴がこんな所に来てんじゃねーよ!! としあきは、男達の執拗な罵倒と嘲笑に、異常なものを感じ始めた。 なんか、こいつら、おかしい! この世界の常識はわからないが、それにしても、何故連れ合いがいるその場でここまで口汚く他人を罵れるのか? しかも、一人や二人なら場所の関係もあってヘンな人と納得も出来ようが、としあきを笑っている男達はざっと見ただけで 十人以上はいる。 としあきは、バカにされている事に対する怒りよりも、この男達の異様な態度に恐怖を覚え、脱兎のごとくその場から逃げ 去った。 ぎゃーはははは、いたたまれなくなって逃げてやがるぜ! まぁ仕方ねーよ、失敗するようなクズがいられるような場所じゃねーんだし。 身の程わきまえたんだろ! もう来るんじゃねーぞ臭せぇからな!! プギャー!! 背後から、なおも追い討ちの罵倒が叩き付けられる。 “な、な、なんなんだあいつら?! まるでキチガイデス!” どうやら、ミドリもとしあきと同じような心境だったようだ。 裏道に入り込み、周囲に人がいないのを確認すると、としあきはようやく一息ついた。 「なんか、この前とはまた違うヤバい世界っぽくね?」 “同感デス。あいつら、なんだか異質なものを感じるデス。 まるで何かにとり憑かれてるみたいな” 「だよ、なぁ」 “それにクソドレイ、気付いたデス?” 「何が?」 “男達はああなのに、女達は一言も言葉を話さなかったデス。 ずっと、男の方が一方的に話してるだけデス” 「あれ? そういえば」 思い返してみると、あれだけ大勢いた女性達の声を聞いた記憶が、まるでない。 微かな笑い声くらいは聞いたかもしれなかったが、確かにミドリの言う通りだった。 “あと、あの耳。クソドレイ、見たデス?” 「ああ、アレなんだろうな。おかしなアクセサリーだこと」 “飾りじゃないデス。アレは本物のミミだったデス” 「え?!」 鼻をピスピス鳴らしながら、ミドリは自信たっぷりといった態度で話す。 “間違いないデス。だって、何人か耳をピクピク動かしてるのを見たデス。 あの女達、本当にニンゲンデス?” 「うぐ……」 なまじ信じられない話だが、なにせここはとしあきの知る世界とは違うところ。 どのような非常識があってもおかしくはないのだ。 とりあえずその問題は避けておくことにして、としあきは、これからどうやって「初期実装の仔」を捜すかを相談することにした。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− じゃに☆じそ! 第3話 ACT-1 【 はやる快感・人化ワールド 】 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 部屋は相変わらず暑かったが、としあきは扇風機を買ってきたので、状況はかなり改善された。 真正面から風を受け止め、涼しげな顔で鼻歌を歌っているミドリをよそに、としあきはまずこの時代の情報を得るためにテレビ をつけてみた。 テレビはまだブラウン管のアナログテレビだったが、21インチと比較的大きな画面サイズのため、結構しっかり見ることが 出来る。 帰り際に見つけた個人経営のプチコンビニみたいな店舗で大量に買い込んだ食糧をついばみながら、としあきは適当に ザッピングをしてみた。 夕方のニュース番組を眺めていると、年の割にはなかなかイケてる女性アナウンサーが、新しいニュースを読み始めた。 画面に映し出されたのは、先ほどまでとしあき達がうろついていた秋葉原だった。 やはり、あの時のように大勢の男女ペアが行き来している様子が映されている。 歩行者天国の参加者が、ここ数ヶ月で倍以上に増えた、といった他愛ない報道だ。 「おーいミドリ、さっきの場所が映ってるぞ。見ない?」 “ワタシは現在冷却処理中デス。 中断すると熱暴走を起こしてお前をギタギタにするかもしれんデス” 「ゆっくり涼んでてくれ」 好きな銘柄のジンジャーエールを開け、グビグビ飲み干す。 参加者へのインタビューをしているようで、テレビ画面には、思わず見とれるほどの超絶美人と、まるで豚とカエルを足して 二で割らずに無精ひげを生やした、もう本当にアレとしか言いようのない男性が映されていた。 男は頬を真っ赤に染め、満面の笑顔を浮かべているが、正直テレビに映して欲しくないなあと思わされる。 だが、その数秒後。 としあきは、飲んでいたジンジャーエールをテレビにぶっかけるハメになる。 「ぐぇっ、げほっ、げほっ、げほぉっ!!」 “きったねーデス、いったい何事デス?” 「げほげほげほ……うええ、おもっくそむせた!」 “いいからテレビ拭けデス。それより、どうしたデス?” 「み、見ろよテレビ…」 “デェ?” としあきがしきりに指差すので、ミドリは渋々特等席から移動し、テレビに見入る。 インタビューは、まだ続いていた。 “デ? これがどうしたデス?” そう言いながら、ミドリはとしあきからジンジャエールの瓶を奪い取り、豪快にラッパ飲みする。 そして数秒後。 “ぶげほぉっ?! デェェ、げほっげほっ!!” 「きったねぇなあ。テレビ拭けよ」 “な、な、な、何デスとぉ?!” テレビには、先ほどのとは違う美女が映されており、その相方の男へのインタビューに移っていた。 今度は牛と豚を3対7で程よく混ぜ合わせたような男が、ブヒヒと不気味に笑いながら答えていた。 女性の胸元の辺りに、赤い書き文字が加えられていく。 『 実装石ルミちゃん 2歳5ヶ月 』 としあきとミドリの口が、あんぐりと大きく開かれた。 『 実装石サクラちゃん 2歳 』 『 実装石ガトーショコラちゃん 3歳10ヶ月 』 『 実装石 神羅超大帝Gちゃん 2歳6ヶ月 』 としあきは、激しく混乱し始めた。 これではまるで、あの美女達が実装石だ、とでも言いたげではないか? しばらくして、ミドリが奇声を上げた。 “目が緑と赤デス! ワタシ達と同じデス!” 「えっ?」 言われてみると、確かに美女達の目は実装石と同じオッドアイになっている。 赤い右目に緑の左目。 いずれも宝石のような深く上品な色彩で、ミドリや他の野良実装とは比較にならないほど綺麗だが、明らかに人間には ありえない色合いだと解る。 またとしあきは、画面に映っている女性の「大きな耳のアクセサリー」が、時折ピクピク動いていることにも気付いた。 「まさかこの世界の実装石って……みんな、こんななのか?」 “デ?! な、なんでそんな目でワタシを見るデス?!” 疑問が膨らみ過ぎたとしあきは、部屋の隅に置かれたパソコンを起動し、ネット検索を試みることにした。 幸いにもサインインパスワードの設定はなく、複雑なセキュリティもないため、閲覧は自在に行えるようだ。 としあきは、見ず知らずの所有者に心から感謝しつつ、ブラウザを立ち上げる。 だが、検索エンジンを探そうとして、手が止まった。 “クソドレイ、何してるデス? これは何デス?” 「あ、いや…ちょっと待った」 “デ? 何を見つけやがったデス?” 「あ、ああ、これな……」 としあきは、ブラウザのお気に入りリストの中身を見てしまった。 そこには、信じられないブックマークタイトルが羅列している。 ・実装石を貴方好みに育てる方法 ・実装石の人間化とは? ・実装人化育成まとめwiki ・実装ちゃんを可愛い女の子にしちゃおう! ・人化実装を愛でる掲示板 ・How To 実装人化 としあきは、片っ端からブックマークをクリックし、閲覧を開始した。 それから、延々四時間——腹が減ったとミドリがわめき立てるまで、としあきはWEBに没頭し続けた。 “全く、どうしたっていうデス? いい加減に説明しやがれデス” 「ミドリ、この世界は信じられないことが起きてやがる」 “もったいぶるなデス! とっとと話して牛丼食べるデス!” 「この世界の実装石はだな——」 “デギャー! イライラするデス! 早く話せデス!” 「飼い主の理想通りの姿に、変身させることが出来るんだ」 ※ ※ ※ この世界も、1990年頃までは他の実装世界と大差なく、公園の野良問題や虐待活動問題などが頻発する普通の「実装の いる世界」だった。 だが二十世紀末、実装石に秘められた「他の生物にはありえない特殊性能」のいくつかが解明され、新たな注目を集めるよう になった。 その特殊性能の中には、「変態」というものがある。 この場合の「変態」とは、蝶の幼虫がさなぎを経て成虫になる際、全く原型を留めないほど姿を変貌させる事を指すのだが、 なんと実装石もこれが可能なのだという。 ある特殊な条件化で育成された実装石は、哺乳類でありながら繭を作り出し、その中で身体構造を作り変え、身長・体重・ 体組織・生態に至るまで完全な別物になってしまう。 そして2005年現在、この育成方法が解りやすいマニュアル化されたため、一般人でも充分な環境さえあれば簡単に変態化 を促すことが可能となった。 「つまり、秋葉原にいたあの女達は、みーんな人間の女性みたいに育てられた実装石なんだな」 ため息を吐きながら、としあきはミドリにそう説明した。 紅しょうがを齧り、渋い顔をしていたミドリも、その説明には大いにビビった。 ぶり “なんてこったい、思わずチビっちまったデス!” 「拭いて来い!!」 “ケチケチすんなデス、ここまで来たらもう全部一気に” 「牛丼、肉抜きでもいいのか?」 “デ、デデェッ?!” 条件は色々あるようだが、要は洗脳教育のようなもので、上等な仔実装を愛情込めて育成し、理想の姿を刷り込ませた上で 繭化を促すというのが、ポピュラーな「美女作成」方法のようだ。 ネット上では、自慢のペット写真掲示板だけでなく、美女化を促す資料や画像データ、中にはアニメ声優の声をサンプリング したmp3データなども用意されており、これらを用いれば大した出費もなく思い通りの女の子を生み出せるようだ。 また、失敗した場合の対処法や、再チャレンジの際の注意点なども実にわかりやすくまとめられており、まるでとしあきでも 今すぐに実践させられそうな錯覚を覚えてしまう。 パンツを脱いで股間をフキフキしているミドリの背を眺め、としあきは「無理だよなあ」と呟く。 だが、それが聞こえてしまった。 “おいクソドレイ、お前まさか、ワタシを人化させようなんて考えたんじゃないデス?!” 「んな?! そ、それは……その、なんだ」 “なんという不届きな奴デス! ワタシのような、世界がひれ伏すほど完璧に美しい存在に対して、そんな邪な考えを持つなんて! 自然への冒涜デス! 美への中傷デス! 女の敵デス!” 「いやー、どうせならもっとおとなしくて良い子の方が……って、何言わせるんだよ」 “デデ……やっぱり、一瞬は考えやがったデス?” 「いやー、俺もなんつーか、彼女どころか女縁がまったくないからさ。 やっぱり少しは羨ましいと思ったわけよ。 ああ、安心しろよ、ミドリでまかなおうなんてこれっぽっちも思ってねーから」 “デ……” 「それはそうと、こんな世界だと益々仔実装捜しは大変そうだなあ。 どうすればいいと思う、ミドリ?」 “……” 液晶モニターを見ながら、としあきはなんとなく尋ねる。 だが、ミドリは無言のまま、股間の洗浄を続けた。 “なるほど、クソドレイの考えもまんざらではないかもデス。 この世界であんなに美しくなれば、きっとニンゲン共はワタシを放っておかない筈デス。 デププププ♪” 突然、ミドリがニタリと笑ってこちらを振り返る。 としあきは、背中に冷たいものが迸る感覚にとらわれた。 ※ ※ ※ その後、としあきは一人で近郊の公園や裏道を巡り、実装石がいそうな場所をしらみつぶしに探ったが、何の発見もなかった。 正確には、野良の成体実装を一度だけ見かけはしたが、それらはとしあきの姿を見るなり素早く姿を隠してしまい、話すら させてもらえない。 弱り果てたとしあきだったが、ミドリが外に出るのを拒絶したため、これ以上の追求が行えない。 明日、金平糖でも買って少し離れた所に行ってみようか、と考え、一旦アパートに戻ることにした。 深夜2時、アパートに戻ると、ミドリが静かに部屋の中央に座り込んでいた。 としあきの姿を見かけるなり、静かに立ち上がると、ポテポテと玄関へ歩いていく。 「おい、どうしたんだ?」 としあきの呼びかけに振り返ると、ミドリは吐き捨てるように呟いた。 “出て行くデス” 「は?」 “お前がいない間に考えたデス。 ここにいれば、ニンゲンになってもっと自由気ままな生活が出来るデス! でも、クソドレイの傍にいたらそれすら叶わないデス。 この世界こそ、ワタシが求めていた楽園だったデス!” 「な、な、何言い出すんだ? オイ」 “お前には世話になったデス、礼を受け取れデス。 デ、デェェェェェェ……!!” と言いながら、ミドリは素早くパンツを下ろし、力み始めた。 ぶりぶりぶり、と聞き慣れた異音が響き、室内に汚臭が充満する。 「て、てめぇっ?! なんてことしやがる!!」 “デプププ♪ まさにクソドレイに相応しい臭い部屋デスー☆ ワタシの置き土産に感謝して眠るがいいデスー!” 「ま、待てオイ!!」 逃げるミドリを追いかけようとするが、すかさずウンチ弾が飛んできた。 としあきが怯む隙に、ミドリは素早く階段へ飛び出し、そのまま—— デギャアァァァァ!!! どすん、ごろん、ビタン、ドシン! 落下した。 「何やってんだあいつ……って、うえぇぇぇぇ?!」 深夜にも関わらず、としあきは思わず大声を上げた。 ミドリの移動経路はすべて糞で汚染されており、とてもじゃないがまともに歩けるものではなくなっていた。 このままでは、他の部屋の住人に多大な迷惑がかかる。 部屋の玄関から共同の廊下、階段に至るまで洗浄するハメに陥ったとしあきは、ミドリを追いかけることが出来ないまま、 夜を明かすハメになった。 ※ ※ ※ 8月8日。 二日目、正午。 窓を全開にし、異臭に耐えつつ軽い仮眠を取ったとしあきは、扇風機のありがたみに感謝しながら仔実装捜しに出かけること にした。 今までの経験から、より広範囲に捜索範囲を広げるべきだと考えたのだ。 秋葉原を中心に、まずは大きな公園の様子を確認する。 まず上野公園に的を絞ったとしあきは、携帯と金平糖の買い置きを持って部屋を飛び出した。 ミドリのことも心配だったが、腹が減れば戻ってくるだろうと高をくくっておくことにする。 駅に向かう途中、また何組かの実装カップルを見かけたが、休日明けのようで歩行者天国もなく、昨日より圧倒的に数は 少ない。 秋葉原駅から山手線に乗って上野駅に辿り着く途中、としあきはすれ違う女性の頭に注目したが、結局人化実装と思われる 者には全くお目にかからなかった。 どうやら、秋葉原の歩行者天国だけが特殊だったようだ、と仮定し、としあきは上野公園へ急いだ。 平日でも、上野公園には多くの人々が行き来する。 としあきは、園内の路をわざと外れて茂みや草原、街路樹の根元などを重点的に探るが、不思議なことに実装石の姿が まったく見られない。 一時間ほどの捜索を経て一息ついたが、今回は仔実装はおろか成体の姿すら確認出来ない。 上野公園は一時間程度では到底巡り切れないと理解はしていたが、それにしても全く見かけないというのは奇妙に思えた。 「実装石って、大きすぎる公園には集まらない性質でもあるのかなあ?」 これまでの経験で覚えてきた実装石の生態、ミドリやWEBから得た各種情報を考慮しても、上野公園ほどの広くて過ごし やすそうな環境に実装がまったくいないというのは考え辛い。 色々考えた結果、としあきは、最近大規模駆除活動がなかったかを確認してみることにした。 ——数十分後、公園案内所を訪れ「そのような事はまったくなかった」と知らされたとしあきは、首を傾げながら園内を巡って いた。 「どうなってんだ、これ?」 公園案内書にいた係によると、どうやら今は園内の実装石は“駆除するまでもなく”いなくなっていると補足してくれた。 ついでに“理由は不明だが”と付け加えて。 これだけ広大な公園だし、案内所の言葉を鵜呑みにはし切れないとわかってはいたが、としあきはなんとなく説得力を感じて いた。 「そういや、ここに来てからほとんど野良実装見てないんだよな」 やむなく、としあきは別な大公園を巡ってみることにした。 駒沢オリンピック公園、芝公園、日比谷公園と巡り、すぐに案内書や管理事務所を訪ねる。 だが、どこへ行っても反応は上野公園と同じだった。 駆除する必要がないほど、実装石の数は減っているという。 事実、さらりと園内を巡った限りでは、実装らしき姿はまったくなかった。 ここまで来ると、さすがのとしあきも奇妙さを覚えてくる。 午後八時を回り、さすがに疲れを感じ始めたとしあきは、手近の松家で適当に食事を摂ると、最後に代々木公園を巡って 締めることにした。 ふと、牛丼を食べながらミドリのことを思い返す。 「あいつ、ちゃんと飯食ってるのかな…?」 味噌汁をひとすすりして一息入れると、としあきは、帰り際にどこかで牛丼弁当でも買って、ミドリの帰りを待つことに決めた。 ※ ※ ※ 一方、その頃ミドリは—— 「デェェ、腹減ったデス。せめてクソドレイから餞別でももらってくるべきだったデス……」 アパートを飛び出してから半日以上経ち、ミドリの空腹感は限界に達しようとしていた。 なんだかんだで、としあきは自分が食べるものと同じのをミドリに与えていたため、彼女の口はすっかり肥えてしまい、以前の ように生ゴミをあさることなど出来なくなっていた。 途中、腐りかけた生肉と実のたっぷり付いたリンゴの皮を発見したが、手に取ろうという気すら起きない。 思い返せば、口の中に広がるのは牛丼の甘辛いタレの味と、かみ締めるほどにじゅわっと来る牛バラ肉の旨み。 或いは、脳のすべてを麻痺させてしまうかの如く感動的な、金平糖の甘味。 勢いで飛び出して来たとはいえ、ミドリは今更になってとしあきのありがたみを実感していた。 だが同時に、益々許せなかった。 「ふざけんなデス、クソドレイの分際で……ブツブツ。 ワタシがいない事でありがたみをかみ締めろデス!」 どれだけ歩いただろうか、ミドリは、いつのまにか見た事もないような住宅街にやって来ていた。 その途中、不自然なほど同族に会わなかったが、空腹感に苛まれる彼女はそんな事全く意識していなかった。 日付が変わろうとする頃、ミドリは、もうこうなったら生ゴミでもいいやと思い立ち、侵入出来る限りの住宅敷地内に潜り込んだが、 まったく収穫は得られなかった。 それどころか、飼い犬に吼えられたり、ネコに追われたりと散々な目に遭った。 意識が朦朧としてくるほどの空腹と疲労、喉の乾きに苛まれたミドリは、住宅街の外れにある一軒家の前を通り過ぎようと していた。 「デ? ——アレは?」 その家は、結構広い庭を持つ二階建ての上品な造り。 夜でも映える白い壁が印象的だる 門戸は開かれており、見た限り犬も居そうにない。 しかも、玄関が少しだけ開かれたままになっている。 人間ではわからないだろうが、暗闇でも目が利く実装石なら、余裕で気付ける状況だ。 立派な家で、しかも玄関がオープン……この状況に、空腹の極みにあるミドリが反応しない筈がない。 「やったぁぁぁ♪ 幸せゲットデスウゥゥゥ!! 精一杯、がんばった甲斐があったデスうぅぅっ!! アタシ、カンペキ!! 信じてたデス〜♪」 先ほどまでの疲労感もどこへやら、ミドリは全速力で玄関へと突っ走った。 玄関に辿り着いたミドリは、それでも油断はせず、用心深く中の様子を窺った。 恐らく、今は住人も寝静まった頃だろうが、ヘタに物音を立てるとややこしいことになる。 糞蟲だがそれなりの賢さと経験を持っているミドリは、入念な確認を怠らない。 手近の石を拾ってわざと物音を立て、住人がやって来ないことを確認してから、侵入を試みる。 だがドアの隙間は、あともうちょっとという所で幅が足りず、ミドリの腹が通らない。 しかも、ドアはかなり重い造りらしく、ミドリだけでは手前に引けそうにない。 「チッ、だからってここで引き下がるものかデスっ!」 何度も腹を押し込もうとしたが、やはり通れそうにない。 家の周囲を巡ってみたが、戸締りはしっかりしている上、たとえ窓を割っても入るのが難しいほど土台が高くなっている。 その上、窓ガラスをぶち割れるほどの石など見当たらない。 この世界では、対野良実装侵入対策が施された住宅が一般的なのだが、ミドリがそんな事を知る由もない。 散々考えた末、ミドリは最終手段に出ることにした。 玄関前に戻り、パンツを下ろす。 ドアの蝶番に向かって、高々と尻を上げる。 「ふんぬっ!」 じゅぽん! べちゃっ! 続けて、尻をドアの下側に向ける。 「とりゃっ!」 じゅぽん! べちゃっ! 続けて、自分の身体をドアの隙間に挟み込み、思い切り息を吸い、今度は総排泄孔を全力で引き締める。 すると、ドアが僅かにギギッときしんだ。 「デププ、百発百中を誇るワタシのパンコン砲は万能デッス!」 糞を潤滑剤にして、自身の身体をつっかい棒として隙間を広げる作業。 僅か五分ほどの行動で、ドアはミドリが横向きに通れるくらいに開いた。 「デプププ♪ 家宅侵入については自信があるデッスン♪ よーし、このまま冷蔵庫を……デ?」 玄関に入り込んだミドリは、なぜかそれ以上中に進めなくなった。 何かが、ドアの隙間のすぐ傍に立ち塞がり、彼女の侵入を拒んでいるのだ。 手で触ると、それは微妙な弾力を持ちつつも、かなりの強度を誇っているのがわかる。 ミドリは、焦って玄関の中を見渡した。 何か未知のトラップでも仕掛けられているのかと警戒したが…… 「デ、デェェ? なんだこりゃデス?」 ミドリは、自分の頭上にぶら下がる異形の物体に、目を奪われた。 そこには、全長3メートルほどに達する大きな物体が浮いており、無数の支柱で支えられていた。 否、支柱ではない。 物体から伸びている太い「糸」のようなものが結集し、天井、壁、ドア、床にくまなく広がり、支えているのだ。 ミドリは、その「糸の結集体」の隙間に入り込んでいたのだ。 幸い身動きは取れる状態だったが、余りにも多数に渡り伸びているため、これ以上糸の隙間をくぐるのは不可能だ。 ドクン… と突然、頭上の物体が大きく脈動した。 その音に、ミドリは思わず身を縮める。 「な、な、何が起きてるデス?!」 ドクン…ドクン、ドクン… ドクン、ドクン、ドクン… 頭上の物体は、脈動と連動して膨張と収縮を繰り返している。 その変化はかなり大きく、暗闇の中、ほぼ真下にいるミドリでも容易に把握出来るほどだ。 呆然と眺めているうちに、ミドリは少しずつ、膨張した物体に押し潰されそうな錯覚に陥り、軽いパニックを起こした。 「デデ、早くなんとかしないとデス! クソ、このへんなのが邪魔過ぎるデス! こいつさえなければ……デギィィィッ!!」 癇癪を起こしたミドリは、手前にある「糸」の束に噛み付いた。 思った以上に弾力があるそれは、ミドリの咀嚼を簡単に弾き返すほどの強度があったが、それでもミドリは執拗にかじりつく。 歯で繊維を一本一本噛み千切り、プツプツと途切れさせていく。 ある程度噛み千切ると、柱状に固まっていた「糸」は、ひとりでに大きく裂け始めた。 ブツ、ブツ、ブツ、ブツ……ン!! 思ったよりも、簡単に切ることが出来た。 気を良くしたミドリは、手当たり次第に「糸」の束に噛み付き、次々に繊維を断ち切っていく。 ブツ、ブツ、ブツ、ブツ……ン!! ブツ、ブツ、ブツ、ブツ……ン!! 慣れて来ると、意外とピッチを早められる。 ようやく玄関から脱出できる程度に束を断ち切ったミドリは、疲れた顎を摩りながら、用心深く床に足をかけた。 ズ・ズ・ズ……ズズッ 「デヒ?!」 突然、背後で不気味な音が響いた。 振り返ると、あの巨大な物体がさっきより斜めに傾いている。 ミドリが断ち切った束による支えを失ったため、玄関に近い端の方が下を向いたようだ。 だが、それ以外特に大きな変化が起きる様子もないため、ミドリは安堵の息を漏らした。 「ったく、焦らせるなデス。 っと、それよりも飯デス食い物デスー!」 天性の勘なのか、それとも実装石が持つ特有の生態能力なのか、ミドリは迷うことなくキッチンへと進んでいく。 だが、彼女は気付かなかった。 巨大な物体を支えている、天井からの「糸」の束が、少しずつ千切れ始めていることに。 ミドリの行動により、絶妙な保持バランスを保っていた物体は、少しずつ傾きつつあった。 そして、もう一つ。 元々油分の多い実装糞だが、ミドリの糞は先日食べた牛丼のせいで、更に脂が多く含まれていた。 そのため、本人が考える以上に潤滑力が高まっていた。 玄関のドアは、内側からの圧迫で徐々に開き始め、それにつられて巨大な物体を支えている「糸」のいくつかも外側に 引っ張られ始めていた。 ※ ※ ※ 「ちっ、シケてやがるデス!」 冷蔵庫の中から、かびかけたバターと古い卵、食い残しのサラミとヨーグルトをかっぱらい、かろうじて喉の渇きと餓えを 満たしたミドリは、何かお土産はないものかと室内を物色していた。 だが、ここの住人は生活に無頓着なのか、保存食らしきものはまったく見つからない。 それどころか、キッチン内はかなり汚れており、シンクの中には洗い物が溜まり異臭を放っている。 その割に、リビングの床だけは綺麗に清掃されており、そのアンバランスさが理解出来ない。 「デエエ、クソドレイもいい加減な生活態度だと思ったデスけど、上には上がいるデス」 なんとなくリビングを観察していたミドリは、部屋の隅に追いやられた「ある物」に気付いた。 それは、飼い実装用のダンボール製実装ハウスだった。 サイズからすると仔実装向けのもののようで、ミドリの身長とだいたい同じくらいの高さがある。 しかし、今はもう使われていないようで、周囲には仔実装向けの玩具や簡易トイレなども散らばっている。 その中に混じって、なぜか電子モップまで置かれているが、ミドリはそれが何なのかよくわからなかった。 「ここには、子供チャンがいたデス? えっ、子供ちゃん?」 ミドリはふと、としあきの事を思い出した。 彼は、不思議な仔実装を捜していると言っていた。 もしかしたら——? ミドリの頭の上に、電球が現れパリンと割れた。 「デプププ、いいことを思いついたデス! ここの仔実装をかっぱらって、クソドレイに高く売りつけるデス! ここでたんまり恩を売りつけておくデス〜♪」 早速、ミドリは仔実装捜しを始めようとして………止めた。 否、やろうにもそれどころではなくなったのだ。 メキ、メキメキメキメキ!! ド・ズ……ン!! 玄関で、何か大きな物音がしたのだ。 「デ、デェェッ?! な、何事デス?!」 さてはニンゲンに気付かれた?! と思ったが、どうやらそうではないらしい。 しばらくすると、頭上で何かがドタバタし始める。 それが住人の動きだと感覚的に悟ったミドリは、慌てて玄関からの脱出を試みた。 「ヤバイデス! 捕まったらきっと禿裸にされて公園にリリースデス!! いやそれよりも、ミリョク的なワタシの身体を好き勝手に弄ばれてしまうかもデッス〜ン♪ って、ゆとりぶっこいてる場合じゃねーデス!」 以前、家宅侵入に失敗して半死半生の目に遭ったことのあるミドリは、必死で逃亡を試みた。 幸い、二階にいる住人より早く玄関に辿り着いたが—— 「デ! デエェェェェェェェエエエエエ?!?!?」 ミドリは、自分の置かれた状況を忘れ、つい大声で叫んでしまった。 先ほどの巨大な物体は、バランスを崩して床に落下しており、それに引かれて壁や天井の一部までめくれ上がっている。 早い話が、玄関はほとんど崩壊状態なのだ。 その中央では、真ん中からパックリと割れた巨大な物体があり、周囲に大量の粘液が飛び散っている。 よく見ると、割れ目の中になにやら白い物体が置かれている。 否、置かれているのではない——「居る」のだ! それは、全裸の成人女性。 巨大な物体と、その中に満たされた粘液に包まれた状態で、一糸まとわぬ人間の女性が倒れている。 どうやら生きているようで、しきりに身体を震わせている。 呆然と状況を見守るミドリの眼前でその女性は静かに身を起こした。 ぶるんっ! 「デェッ?!」 女性の胸には、とてつもなく巨大な乳房がぶら下がっている。 その大きさだけで、ミドリの身体全体の質量と同じくらいはありそうだ。 余りにも大きいのに形はしっかり整っており、しかもだらしなく垂れ下がることはなく、重力に反するが如く綺麗な円形を保って いる。 その先端は、粘液にまみれ妖艶な艶を持つピンク色に輝いている。 胸だけではない。 しっかりとした骨格・体格、それでいてバランスの整った細身な体格に、明確なくびれを持つ腰、そして見事に張ったヒップ、 すらりと長く適度な弾力を感じさせる脚…… そして何より、大きな目と愛らしい唇、柔らかそうな頬、ラインの整った輪郭、肩から背中にかけてを大きく覆い包む豊富な 栗色の髪が目を引く。 そこにいるのは、秋葉原で見かけたどの女性よりも美しく可愛らしい、まさに絶品級の美少女であることは、ミドリにもすぐに 理解出来た。 それどころか、次の行動を忘れさせ見惚れさせるほど、その女性の美しさ・艶っぽさは常軌を逸している。 どれほどの時間が経っただろう。 巨大な物体から出てきた女性は、ミドリに向かってにっこりと微笑み、鈴を転がすような可愛らしい声で「テチィ♪」と呟いた。 ミドリは、この時ようやく、すぐ脇に家の住人が降りてきていることに気付いた。 彼女が幸運だったのは、住人がミドリを意識するより先に、玄関の女性に注目した事、そして自分の方が住人よりも早く我に 返った事だった。 ミドリは、咄嗟にリビングの方へ戻り、住人……としあきと同じくらいの年と思われるデブ男との距離を取った。 「お、お前……まさか“ぷち”か?!」 男が、女性に声をかけると、彼女は嬉しそうに笑顔を向ける。 ミドリはまだ事態を把握しておらず、しかも唯一の出口を塞がれている為、二人のやりとりを眺めているしかない。 だが不思議と、自身に降りかかっている筈の災厄よりも、その女性の方に意識が向いてしまう。 「テチィ♪ テチテチィ♪」 「えっと、あの、その……すげ、胸…でっけぇ」 「テッチィ♪」 ぶるんっ 「うぉ」 男は顔を赤らめ、全裸の女性を眺めながら硬直している。 何かしようとしているようだが、手が全く動こうとしない。 女性は、ようやく身体にまとわりつく粘液のうっとおしさに気付いたらしく、困った顔で拭おうとするが、男はそれを手助けしよう ともしない。 それどころか、ジャージの前を手で押さえ、なにやらいかがわしい動きをさせている。 “デェェ、何なんデスあのキモイ男は! 早くあの子を助けてやれデス、あーじれったい!” 半泣きになってジタバタしている女性と、それを見て直立したまま息を荒げている男。 その光景にだんだんイライラが溜まってきたミドリは、女性の「テチィィ〜!」という泣き声に反応して、つい身体を乗り出して しまった。 “だぁあぁぁぁっ!! まったくイライラするデス! おいニンゲン! その子が困ってるのがわからんデス!? とっとと洗い落として助けてやれデス!! このノロマ野郎!” デスデスデス! デスーッ!! デスデス!? デーデ、デスデス!! デスデスーッ! 「お前、ナニ?」 妙に覚めた男の声で、ミドリはハッと立ち止まった。 男と女の両方の視線が、集中する。 デ? デ、デデ……デヘヘヘヘ♪ ミドリは、頭をボリボリ掻きながら、女性の脇を通り抜け、玄関の外へ出た。 二人とも、それをただ呆然と見つめているだけだ。 ミドリが玄関から出て数十秒後、ようやく男の叫び声が聞こえてきたが、既にミドリは身を隠した後だった。 ※ ※ ※ 一方、としあきは代々木公園に辿り着き、そこでも実装石捜しを行っていた。 既に事務所や案内所は閉まっているため、今度ばかりは自力で園内を巡るしかない。 夜の帳が完全に降りてすっかり暗くなったため、としあきは途中で懐中電灯を手に入れ、いつもの翻訳携帯を片手に様々な 場所を歩き回った。 しかし、やはりというか、どこにも実装石らしい姿はない。 仔実装を踏み潰さないよう、足元に気をつけながら歩き回るせいか、どうしてもすすみが遅くなり、効率も上がらず、時間 ばかりがどんどん過ぎていく。 「う〜くそぉ、どうなってんだよまったく、この世界は……。 まさかここには、野良実装がいないのか?」 何時間か歩き回り、くたびれたとしあきは、周りに何もない開けた場所にポツンと置かれているベンチを見つけ、腰を下ろす。 背もたれに身体を預けて見上げると、澄んだ夜空に綺麗な星がいくつも見える。 都内なのに、なぜかその夜空はとても澄み切っているような気がした。 ふと気づくと、街灯の脇に白い影が佇んでいる。 ボンヤリと照らし出されるその姿は、どことなく幽霊を連想させる。 「え、お、女?」 少しだけ近づいてみたとしあきは、その影が女性である事に気付く。 女性は、としあきに微笑みかけ、ゆっくりと手招きをし始めた。 よく見ると、彼女はワイシャツのようなものを一枚羽織っているだけで、後は安っぽいサンダルしか履いていない。 しかもその雰囲気から、ワイシャツの下にはほとんど何も身に着けていなさそうな気さえする。 長く肉感的な脚が、妙にいやらしく暗闇に映える。 なんとなく不気味さを感じはしたが、としあきは、女性のあまりにも無防備な姿に疑問を抱き、ひとまず話しかけてみることに した。 「あの、こんなところで何をしているんですか?」 「ん? うふふ♪」 幸いにも、女性は幽霊でも物の怪でもなかった。 それどころか、目を見張るほどの美人で、しかもスタイルもかなりのものだとわかるほど、存在感が際立っている。 羽織った薄青色のワイシャツは、どうやら全裸の上に直接纏っているようで、部分的に下の肌の存在が感じられる。 シャツの丈もかなりギリギリで、形の整った美脚は、ほとんど付け根近くまで露出している。 しかも、その目……吸い込まれるような美しい瞳が、としあきを捕らえて離さない。 頭に被った緑色のフードがやけにアンバランスだったが、そんな事はすぐに気にならなくなるほど、その女性は魅力的……否、 あまりにも性的だった。 女性は、更に手招きして近くに寄るよう合図した。 既に言葉すら失ったとしあきは、無意識に言いなりになってしまう。 女性のすぐ手前までやってきたとしあきは、突然、下半身に鈍い快感を覚える。 ——女性が、ズボン越しに、としあきの股間をまさぐっていた。 「え? え? え?」 「んふふふっ♪」 戸惑い硬直するとしあきをよそに、女性は手馴れた動きでズボンの前を開くと、器用に指を操り、あっという間にとしあき自身を 露出させる。 半勃ち状態のそれをさらけ出すと、少し意地悪そうに微笑み、としあきを見上げる。 「え? あ、あの、ま、まさか?」 「んふ——っ」 ちゅぷっ いやらしい水音が聞こえ、生暖かい感触が、としあき自身を包み込む。 妖艶な含み笑い、強く吸われる感覚、そして、強烈な快感…… 誰も居ない公園のど真ん中、としあきは、生まれて初めての体験にしばし酔いしれた。 →NEXT −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− このスクは、 sc1862 sc1863 sc1865「じゃに☆じそ!」第一話(公園実装の世界編) sc1891 sc1892 sc1893「じゃに☆じそ!」第二話(虐待正義の世界編) の続きです。 ただし、前のエピソードを特に読まなくてもだいたいわかります。 全3回で1エピソード完結という構成です。 尚、作中のエロシーンについては掲載時の問題を考慮して、短縮版ではカットしてあります。
