第5話「デさんとボラギノール2」 デさんとボラギノールの奇妙な生活は、まだまだ続いた。 「テチュ〜ン♪ テチュ〜ン♪」 ボラギノールが居間で、デさんの玩具箱を覗きながら、嬌声を上げている。 「………デプン」 本名デスアことデさんは、殊更、ボラギノールとは接点を持とうとはしなかった。 ボラギノールがデさんに甘えようと近づいても、デさんはわざとらしく席を立ち、距離を開けた。 ボラギノールが廊下で転けて、大声で泣き出しても、デさんは完全に無視して横を通り抜ける。 しかし、幼くして母実装とはぐれたボラギノールは、本能のためか、庇護者に値する者へ 必死に自らをアピールし続けるのだった。 家の中の事とは言え、実装石同士の関係である。 俺は敢えて、この2匹の関係に口を出すことはできなかった。 ◇ 困った出来事がある。 それは、ボラギノールの事だ。 『ウンコォ!! ウンコォ!!』 リンガルにはそう表示されている。 台所で、ボラギノールが、自ら排した排泄物の周囲を小躍りで踊っていた。 『見るテチ ご主人様 見るテチ』 ああ、見てるさ。 見事なとぐろを巻いた緑色の一品をな。 離乳食から実装フードに変わり、食欲旺盛なその結果を、十二分に堪能しているさ。 困ったこと。それはボラギノールの躾である。 ボラギノールは野良実装出身である。実装ショップで購ったデさんとは違い、飼い実装としての 躾を何も学んでいないのは仕方のないことであった。 『ウンコォ!! ウンコッコォ!!』 たまにツイスト気味のステップが入る所が、子憎たらしい。 「こら。駄目だろ」 「テェ!?」 軽くデコピン。 ここはトイレじゃない。トイレはあそこだ。 「……テェ……テェックッ!! テェックッ!! テェェェーーーーンッ!!」 地道に躾けるしかないか。 居間のソファーで横になっているデさんが、冷たい目で俺たちの様を見つめていた。 ◇ それから何回か躾を行ったが、ボラギノールの野良さ加減は改善できなかった。 こうなったら、食事抜きも辞さない。そう思い、朝食を抜いたその日の事だった。 それは、デさんが用を足すトイレ。 デさんは用を足した後、実装スコップで便をよそい、コンビニ袋へと分けて口を縛る。 口を縛ったコンビニ袋は、蓋付きのゴミ箱へと捨てる。デさんは排便の後、そこまで行う賢い飼い実装である。 そのトイレ。 脇に置いているその実装スコップに、わずかについているデさんの糞を、ボラギノールは、 舌でこぞるようにして、食糞していたのだ。 「テチュ〜〜ン♪ テチュ〜〜ン♪」 「……………」 これは駄目だろ。 食糞は実装石の本能だ。 食べ物を得る事が難しい季節は、親の糞を食べて子供達は育つ。 今、ボラギノールは本能に従って、その行動を行っているだけのことは理解できる。 だが、ボラギノールはこれから飼い実装として暮らしていかねばならない。 俺の家の中で、慣例的に食糞をされてはたまったものではない。 俺はボラギノールに近づき、彼女の右腕を摘んだ。 「テェ?」 そして、軽く、右腕を時計回りに半回転させた。 乾いたパキともポキとも聞き取れる音が、ボラギノールの右腕から聞こえた。 「テェェェェェェーーーーーッ!!!!」 だらんと右腕が不自然に垂れている。 「チャァァァァァーーーッ!! アッアァァァァァァッーーーーッ!!」 あまりの痛みに床に緑の染みを広げながら転げ回るボラギノール。 その回転により、だらんと垂れた右手が床と自らの体重に圧迫されて、さらに苦痛をボラギノールへ与えていた。 「テチャァァァァーーーッ!! デヂィィィィィィィーーーッ!!」 その時だ。 「デデッ!!」 ボラギノールのこの世の物とは言えぬ悲鳴を聞きつけ、デさんが居間から飛び出してきた。 「ヂィィィィーーーッ!! ヂッヂィィィィーーーーッ!!」 「デッ!! デデッ!!」 転げ回るボラギノールを、オロオロとした表情で見つめるデさん。 叫ぶボラギノールをどうすることも出来ず、最後にはデさんもデェェェーーンと泣き始める始末。 「テェェェーーーーンッ テェェェーーーーンッ」 「デェェェーーンッ デェェェーーンッ」 お、おい。 狼狽えたのは、俺の方だった。 「デスンッ!! デスンッ!!」 終いには、デさんが俺に向かい、何回も土下座を始める始末だった。 何度も。何度も。眼鏡にひびが入り、額に赤い血が鬱血するまで。 「デェック!! デェック!!」 「テスン!! テスン!!」 俺は頭を掻きながら、ボラギノールの躾を中断をせざるを得なかった。 ◇ その夜、泣き疲れたデさんとボラギノールは、居間で同じ毛布の中で丸くなって寝入っていた。 ははは。写真。写真。 (つづく)
