第4話「デさんとボラギノール」 デさんとボラギノールは奇妙な生活を送るようになった。 「テチュー!! テチュー!!」 ボラギノールが懸命にデさんの後を追いかける。 「デスァ!! デスデスッ!!」 ついてくるなと言わんばかりに、デさんがボラギノールに吠える。 しかし、ボラギノールはテスンテスンと涙を拭きながら、必死にデさんの後を追いかける。 「デブデブ…」 ブツブツと言いながら廊下を歩くデさんの歩みは、仔実装にも追いつけるような、 ゆっくりな足並みであることに、俺は苦笑を隠しきれないのだった。 案外、2匹はうまくやっていける。 そう思った矢先の事だった。 ◇ 「デギャァース!! デスデェースッ!!」 「テェェェーーーーンッ!! テェェェェーンッ!!」 鼻から鼻血を流したボラギノールが、大声で泣きながら、俺の足下へと駆け寄る。 デさんが、ボラギノールに暴力を振るったのだ。 「デスァ!! デェデェースッ!!」 「こら!デさん!」 俺が叱ると、デさんの黒縁眼鏡がずれ落ちた。 「おまえは年上だろ!ボラギノールに暴力を振るうとは何事だ!」 「テチュ〜〜ン♪ テチュ〜〜ン♪」 鼻血を出したボラギノールは、俺の足に頬を擦りつけて甘い声で泣いている。 「デ…」 「馬鹿野郎!」 「デェェーーンッ!!」 俺に叱られたショックか、デさんは大声で大粒の涙を流しながら、その場でパンコンする。 2匹がうまくやっていけそうと思ったのは、甘い考えだったのか。 俺は、足下で泣くボラギノールの喉を撫でながら、深いため息をついた。 ◇ デさんは、反省していなかった。 「デギャァ!! デギャース!!」 「チベッ!! ヂッ!!」 「こら!デさん!」 デさんが、ボラギノールに馬乗りになり、力任せに殴りかかっていた。 俺はデさん蹴り飛ばして、ボラギノールを保護する。 蹴り上げられたデさんは、宙を舞い壁に顔からぶつかり、鼻から大量の血を吐き出した。 「テェェェーーーーンッ!! テェェェーーーーンッ!!」 「よしよし」 「デェェェーーンッ!! デェェェーーンッ!!」 デさんも白い歯を朱に染めながら、大粒の涙を流して泣いている。 そんな事件が、それから何日も続いた。 その度に、俺はデさんを叱りつけ、泣くボラギノールをあやし続けた。 …………おかしい。 デさんは、ペットショップで購った、曲がりなりにも血統書付きの飼い実装。 幼少の頃より、一通りの躾を受けた飼い実装が、理不尽な粗相を繰り返すだろうか。 テリトリーを犯した、たった1匹の仔実装の出現で、こうも理性を狂わせるのか。 2度だけでなく、3度、4度、デさんがこのような事件を起こす事に、俺は少なからず疑問を持った。 ◇ 『お腹一杯テチ』 『ウンコするテチ。トイレ ウンコ?』 俺は引っかかる疑問を払拭すべく、居間にリンガルを仕掛けることにした。 リンガルを使ったコミュニケーションはいらぬ感情が入るため、あまり使わない方針なのだが。 『ウンコ 出たテチ。 ウンコ一杯テチ』 数秒震えたボラギノールは、その場で小さくパンコンしながら、居間の宙の1点を見つめている。 そして、ボラギノールが甘い声で、テチュゥ〜ン♪と鳴いた。 『………ニンゲンッーー!!』 リンガルには、そう流れていた。 『ニンゲンッ!! パンツゥゥゥーーーッ!! ニンゲェェーーーンッ!!』 その時だ。 (どんどんどん)(ドガッ!!) 鬼の形相のデさんが、どこからともなく現れ、ボラギノールの胸ぐらを掴んで、頭突きを鼻頭にかましていた。 『テェェッ!! テェェッ!!』 『ニンゲンじゃないデスッ!!』(ガスッ) 2発目。デさんが叫んでいた。 『ご主人様デスッ!!』(ガスッ) 3発目。ねっとりとした血が、デさんの黒縁眼鏡へと飛び散る。 『テェェェーーーーンッ!! テェェェーーーーンッ!!』 『今度、ニンゲンと呼んでみるデス……』 『テェックッ… テェックッ…』 『殺すデス』 俺はリンガルのスイッチを切り、ため息をついた。 まったく飼い主として、失格である。 「テェ? テチュゥ〜〜ン♪ テチュゥ〜〜ン♪」 俺の姿に気がついたか、ボラギノールが甘い声を出して、こちらを方を向き助けを求め叫んでいた。 俺は冷たい目でボラギノールを一瞥し、視線をデさんと合わせた。 俺が軽く頷くと、デさんも無表情で軽く頷いた。 すまんな。デさん。 ◇ 何度かその後、同じようなデさんの躾が続いた。 そのたび、ボラギノールが助けを求める声を発していたが、俺は敢えて無視を決め込んだ。 2度、3度続いた後だろうか。 ある日、デさんの躾はピタリと止んだ。それからだろうか。 ボラギノールが俺を見つめる眼には、今までのような飼い実装として一線を越えるような 絶対的な甘えの色はなくなっていた。 「……デプン」 居間で、実装新聞を読んでいるデさん。 まったく、デさんには恐れ入る。まいった。 (つづく)
