タイトル:【巡】 じゃに☆じそ!第2話01
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初投稿日時:2009/10/15-22:52:15修正日時:2009/10/15-22:52:15
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                      Journey Through The Jissouseki Act-2







【 これまでの“ただの一般人としあき”は 】

 飲み会の帰り道、何か不思議なものを踏みつけてしまった弐羽としあきは、夢の中で赤色と緑色の目を持つ不思議な人型
生物と出会う。
 「ワタシの子供を返すデスゥ」と、意味不明の言いがかりをつけられたとしあきは、1989年の過去の世界へ飛ばされていた!
 しかもそこには、としあきの知らない謎の生物「実装石」というものが、人間の生活圏に溶け込んで生活するという、奇異な
事態が発生していた。
 人々は、公園を中心に生息する野良実装を害獣と考え、大規模な駆除を行おうとしていた。
 としあきは、実装石がもっとも沢山集まるふたば公園に潜入するのだが——

 としあきが一つの世界に滞在できるのは、たったの五日間。
 その間に、緑色の怪人の子供を見つけ出さなければ、元の世界に戻れない。
 しかも、きっかり五日間以内に自分の部屋に戻れない場合、永遠にその世界から出られなくなってしまうのだ!
 「公園実装の世界」で、野良実装ミドリと出会い共に旅をすることになったとしあきは、次にどんな世界へ向かうのか?
 



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  じゃに☆じそ! 第2話 ACT-1 【 遂に愕然? 飢餓の極地 】

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 1971年3月9日水曜日、午後4時。
 それが、今としあきが滞在している世界の日付と時刻である。
 ついさっきまで時計は午前5時過ぎだったのに、あっという間に変化してしまった。
 早朝から夕方に瞬時に変化しただけでも驚きだが、としあきは、もっと別な事にも驚いていた。

 まず、としあきの身体がまったく疲労していない。
 ふたば公園で色々と動き回り、相当体力を消耗した上に睡眠を摂ることも出来なかったが、まるで10時間くらいばっちり熟睡
したくらい体調も気力もばっちりだった。
 もう一つ、髪の毛を失った筈のミドリも、初めて出会った時とまったく変わらない完全な姿に戻っている。
 髪の毛が伸び揃うにしては、あまりにも時間が短すぎる。
 それに、よく見るとまだ回復し切れていない筈の細かな傷も、すべて治っているようで、またとしあき同様、体力の方も問題
ない。
 まるで、世界移動をした途端、身体が最良の状態にリセットされたかのようだ。
 これなら、今すぐ部屋を飛び出しても問題なく活動可能だろう。

「待て、よ。今は1971年だったな?!」

“デ?”

 としあきは、あらためて財布を出して所持金を確認した。
 夏目漱石の千円札が四枚、百円玉が4枚、十円玉が5枚、一円玉が5枚。
 このうち、1971年(昭和46年)より古いものは——

「これだけ、だな」

“まじデッ?!”

 としあきがテーブルの上から摘み上げた、現在でも有効と思われる硬貨は、百円玉が一枚だけ。
 彼の所持金は、実質的に約45分の1まで減少してしまった!

「うそだろおおぉぉぉぉ?!」

“た、食べ物を捜すデス!
 この部屋の中を探しまくるデス!”

 たった100円では、五日間どころか一日たりとも生きてはいけない!
 としあきとミドリは、手分けして室内を探り、食べ物を求めた。
 しかし、見つかったのはテーブル近くにあった封の開いたクッキーの箱と、紅茶の茶葉、砂糖、醤油、そしてなぜか一個だけ
冷蔵庫に入っていたキャベツのみ。
 それ以外には、ミドリの実装フードが一日半分。
 備蓄と思われる物も含め、これ以外には一切の食料品がない。

「なんでだぁぁぁ、カップ麺くらい置いてあるだろー普通はぁ?!」

“まいったもんデス、なんと漁り甲斐のないつまんない家デス!”

 としあきは憤慨していたが、1970年代初頭という時期を考えれば、これは当然のことだった。
 この頃、まだインスタント食品は現在ほど普及してはおらず、有名なカッ○ヌードルにしても、まだ名前を広く知られるように
なって1年前後しか経っていない。
 当然類似品もなく、またそれ自体かなりの需要と人気があり、とてもじゃないが現在のようにいつでも買えて常備しておける、
というものではなかった。
 何せ、クイズ番組の優勝商品がカッ○ラーメン三個という、今ではとても信じられないことがごく普通に行われていた頃より
更に昔なのである。

 としあきは、百円玉を一枚握り締め、その範囲で入手出来る食べ物を探すため町に出ることにした。


      ※      ※       ※


 アパートの近くにはとても賑やかな商店街が伸びており、もうすぐ夕食時だということもあってか更に活気付いているようだ。
 しかし、その様子は2009年に生きるとしあきにとって、かなりカルチャーショックを与えるものばかりだ。
 衣料店、雑貨屋、肉屋、スーパー、文具店、靴屋、玩具店などの個人商店が、どこもかしこも派手なディスプレイで飾り立て、
道行く人々を誘っている。
 しかし、そのディスプレイのセンスがかなり古臭く、正直としあきの感覚では違和感しか覚えない。
 また、人々の服装、髪型、化粧なども、当然のごとくレトロチックであり、どことな倒錯的な感覚に陥る。
 加えて、俗に言うヒッピー風の若者達も沢山闊歩している。
 としあきは、本来ならば絶対知ることのない過去の世界の商店街とその賑わいに強い関心を抱き始め、いつしか何度も商店
街を往復していた。
 しかし、たった100円の所持金で満足できる食料を調達するのは、さすがに難しかった。

 そんな時、閉店準備を進めている小さなパン屋を見つけたとしあきは、その軒先でパンの耳を配布していることに気付いた。
 というか、とてつもない量である。
 大人の上半身くらいはあるだろう大きな袋にぎっしり詰まったパンの耳が、無料でもらえるようだ。
 としあきは、シャッターを閉めようとしている白衣の男性に話しかけ、うまく譲ってもらうことに成功した。

「やった、これでなんとかなるかもしれない!」

 その後、スーパーを物色してみたが、さすがに100円で買えそうなものはない。
 正しくは、あるにはあるが小さなお菓子や飲み物、または売れ残り物で量の少ない惣菜や賞味期限切れ間際の品物が
せいぜいで、しかも消費税を計算するとお金が微妙に足りなくなる。
 勿論、インスタント食品などほとんどない。
 せいぜい袋麺が少々あるだけで、としあきはここでも、大きな時代のギャップを味わわされた。

「うっへぇ、昔だから安く沢山買えると思ったけど、こりゃ全然ダメだなぁ……」

 としあきは、この時代が昭和30年代から続いた高度成長期の末期であり、物価上昇率が最も高まっている事を、全く
知らなかった。
 その上、まだ消費税が導入されていないことも失念している。
 確かに物価は現代よりは安いが、それは市場に広まっている製品の平均価格が二分の一になっているわけではない。
 あてが外れたとしあきは、パンの耳が詰まった大きな袋を抱えたまま、トボトボとスーパーを出て行く。
 その姿を見たお客達やレジ打ち達が、クスクスと笑っていた事には気付かなかった。
 

 帰り際、としあきはアパートの近くで実装石の親子を見つけた。
 10センチ程度の大きさの仔が一匹、5センチくらいの仔が一匹。
 ふと、彼女達と目が合ったとしあきは、袋からパンの耳を一掴み取り出すと、それを親子の前に差し出した。

「ほら、持って行っていいぞ」

 警戒させないよう、しゃがみながら笑顔で話しかける。
 だが、パンの耳に向かって駆け寄ろうとする子供達を引き戻し、親実装はとしあきを激しく睨みつけてくる。

「ん? どうした? いらないのかな?」

 としあきは、パンの耳を軽く放って、実装石達の前に飛ばす。
 親実装が、不思議そうな顔をして、恐る恐るパンの耳に手を伸ばす。
 としあきが頷くのを確認すると、それをゆっくり口に含み、咀嚼し始めた。

 デス…デスゥ♪

 親実装の顔に、ようやく笑顔が浮かぶ。
 それを見て、仔実装達も他のパンの耳に手を伸ばした。

 テチテチ、テチィ♪

 レチュウ♪

 子供達が、おいしそうにパンの耳をはみながらとしあきに手を振る。
 としあきも、つい笑顔でそれに応えてしまう。
 親実装は何度も頭を下げ、子供達は満面の笑顔で手を振り、見送ってくれた。

 そんな彼女達に背を向け、としあきが十数メートルほど歩いた頃……


 ブオォン!! ———グシャアッ!!


 デギャ……?!
 
 ベシャッ!!

 ヂッ!!
 レヂッ?!


 突然頭上から襲い掛かってきた黒い塊によって、三匹の親子は脳天を割られ、或いはぺしゃんこに叩き潰された。
 内臓の破片と血が、周囲に飛び散る。
 赤と緑の入り混じった血糊は民家の壁にべっとりと付着し、親実装の脳漿は角に立っている木製の電信柱に降りかかった。
 黒い塊……小型のバールを持っているのは、中学生くらいの少年だ。
 口元にニヤリと不気味な笑みを浮かべ、叩き潰した者達の残骸を見下ろしている。
 その股間は激しく怒張しており、膝や肘も僅かにぶるぶる震えている。
 恐怖ではない……快感にその身を打ち震わせているのだ。
 彼の凶行は、たまたまとしあきの視界には入らなかった。
 だが、すぐ脇の民家の住人が、何事かと顔を覗かせてきた。

 家の夫人と思われる女性は、真っ青な顔をしながら、少年にゆっくり歩み寄った。

「あらぁやだ、まだ実装石がうろついてたのね」

「ええ、だから潰しましたよ」

「ありがとう、助かるわ。これ、少ないけどお礼ね」

「あ、ありがとうございます!」

 夫人は、実装石の残骸を一瞥すると、財布を取り出し千円札を一枚少年に手渡した。
 少年は、礼儀正しく礼を述べて受け取ると、実装石の死体を片付けもせず、そのまま走り去ってしまった。

「あら、誰か餌をやったのかしら? やぁだわぁ」

 夫人は、親実装が握り締めていたパンの耳を見て、嫌そうに眉をしかめる。
 そして、やはり死体を片付けようともせず、そのまま屋内に戻ってしまった。


      ※      ※       ※


“パンの耳だぁぁぁあ?!
 こんの役立たずのクソドレイがぁっ!
 もっとちゃんとした食い物持ってこいデス役立たずめぇ!”

「うるせぇ!
 第一てめーはエサがあるだろ!
 これは俺んだ、誰がくれてやるか!」

“ふざけんなデズァ!
 こんな質の悪い実装フードだけで満足出来ると思ってんじゃねーデギャア!
 もっときっちり栄養のつく物探してこいデジャアァァッ!!”


「それはそれとして、まず飯を食おうぜ」

“デス!”

 部屋に戻ったとしあきは、パンの耳を油で炒め、砂糖をまぶしたものを作り、それを水で腹の中に流し込む。
 実装フードをハミハミしていたミドリも、やがて香ばしい匂いに惹かれ始め、鼻をヒクヒクさせる。
 としあきは、いつしかヨダレをだらだら垂らしているミドリに、一切れ投げつけてやった。

“ところでクソドレイ、これは何デス? さっき見つけたデス”

「ああ、テレビな」

 前の部屋にも一応あったが、ここにもテレビが一台置かれている。
 ただし、随分と時代がかったデザインで、リモコンもなければ主電源のランプもない。
 大きなダイヤルが二つ付いているのを見て、としあきは、これが噂に聞くダイヤル式テレビだと理解する。
 数分ほど操作に悩んだ末、スイッチを「引っ張る」ことで電源を入れることに、ようやく気付く。

「ぐえ、モノクロじゃん!」

“デエエ”

 適当にダイヤルをガチャガチャ回し、もう一つのダイヤルで映像を調整すると、ようやくなんとか観られるレベルの映像が
映し出される。
 この時代のテレビは既にカラーが普及してはいたが、現代のように気軽に買えるほど安価ではなかったため、一人暮らしで
テレビを持っていない人も大勢存在した。
 仮に持っていたとしても、一般家庭にあるようなものと同じテレビを備えている人は少なく、せいぜい白黒テレビが関の山
だった。
 美麗な画像、くっきりとした音声の追求が始まって久しい時代のとしあきには、白黒映像のみ、しかもDVDレコーダーはおろか
ビデオすらなく、おまけにモノラルのみという視聴環境はかなり劣悪に感じられたが、我慢するしかない。
 とにかく、これによりこの時代の情報を掴まなければならないのだ。
 ここは、としあきが生まれるより17年も昔の世界なのだ——


 それから一時間ほど、としあきとミドリはモノクロ画面に食い入るように見入っていた。
 古い時代の番組はとしあきにとって新鮮で、これはこれでなかなか楽しめる。
 時計が8時を指し、何かクイズ番組のようなものが始まった。
 タイトルは「クイズ!キングにまかせろ」というタイトルだ。
 現在のようなタレントが回答者になるものではなく、視聴者参加型のようで、見るからに素人っぽい人達がチームを組んで
参加している。
 優勝賞金は1000万円ということだが、それはとしあきが知るテレビ番組としても破格すぎる金額に思えた。

“デエ、クソドレイこれを観るデス?
 ワタシにはなんだかよくわからんデス”

「まあいいじゃない、たまにはエンタメ系も観ようぜ」

“デェェェ、8時だよ!全員集合が観たいデス”

「なんだよそれ?」

 画面に、頭に王冠を載せたモジャモジャ頭の司会者が現れ、クイズを出題した。
 クイズ内容は、特にこれといった特徴のない普通のもので、無駄な捻りや特殊な薀蓄知識を必要としないレベルのものの
ようだ。
 むしろ、ボタン早押し系の性質らしく、回答者は出題が終わっていないのにボタンを押している。
 王冠の司会者が、正解した解答者をボックスから呼び寄せ、別な場所へ誘導する。
 そこは、現代のデパートのゲームセンター等によくあるような、子供向けの遊戯スペースのような空間だ。
 様々な色の配された(らしい)背の低い壁で周囲を覆い、床にはビニールシートと思われるものが貼られている。
 その中には、なぜか無数の実装石が入れられていた。
 成体実装、仔実装、親指実装の三種類が入り混じり、皆仲良く楽しそうに遊んだり、玩具のボールを転がしたりママゴトの
ようなことをしている。
 司会者は、解答者を広場の中に立ち入らせると、不気味に微笑みながら画面に向き直った。
 画面がパンされ、実装の収められた遊戯広場と、その向こうに掲げられた電光掲示板が映る。
 掲示板には、「30」という大きな数字が表示されている。

『制限時間30秒です!
 解答者さん、がんばって得点を稼いでくださいねっ!!
 それでは、行ってみましょう、ぷちぷち、ターイム!!』
(プチプチ、ターイム!!)

 司会者の掛け声と復唱のエフェクトが響いた瞬間、電光掲示板の数字が減り始めた。
 と同時に、広場に入り込んだ解答者が、突然狂ったように実装石を踏み潰し、蹴り飛ばす!

「あが?!」

“デェェ?!”

 予想外の展開に、としあきとミドリは唖然とさせられる。
 特撮でも、アニメーション合成でもない。
 画面の中では、逃げ惑う実装石達が、何の理由もなく傷つけられ、殺されていく。
 しかも、よりによってそれがゴールデンタイムの放送で、修正されることもなく堂々と映されているのだ。

『テギャー、テジャアァァ、デシャァァァ!!』
『テェェェン、テェェェン、テベッ!!』
『デ、デヒャァァァァ!!』

『死ね死ねぇぇぇっ! オラオラオラ——っ!!』

 解答者は、ノリノリで実装石を攻め立て続ける。
 しかし、やがて電光掲示板の表示がゼロになり、ホイッスルの音が鳴り響く。
 と同時に、解答者は実装石への攻撃を止め、駆け寄ってきた司会者に話しかけられた。

『いやあ凄かったですねぇ、それでは得点を見てみましょう。
 成体5体負傷、仔実装32体死亡、12体負傷、親指20体死亡——いきなり好成績です!
 得点は……203点! これはすごい、すごいです!! おめでとうございます!!』

 司会者の大絶賛と同時に、会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
 一方の解答者は、嬉しそうに解答席へ戻っていく。
 血まみれの靴もズボンもそのままに、だ。

“こ、こ、これは、いったい何の冗談デス?!
 何もしてないのに、何も悪いことしてないのに、子供ちゃん達が殺されたデス!”

「いや…ちょっと待ってくれ。
 俺も訳がわからん、ぶっちゃけ困惑しとる」

“これ、本当に地上波デス?
 民放でこんなの流していいんデス?!”

「お前、なんでそんな難しい言葉知ってるんだよ?」


 としあき達の動揺をよそに、まるで何事もなかったかのように第二問が始まる。
 次に解答した若い女性も、正解してあの実装広場へ誘導される。
 広場は、なんとさっきの惨劇のまま一切整えられておらず、死体すら置き去りのままだ。
 そして再び、30秒間の殺戮タイムが始まった!

『それでは、行ってみましょう、ぷちぷち、ターイム!!』
(プチプチ、ターイム!!)
 
『デヒ、デヒ、デヒ……デゲエェェェッ!!』
『レチャレチャ、レチャァァァッ!!』
『デギャャャャアアアア!』

 おぞましい断末魔の叫びと、それに連動する会場の愉快そうな笑い声。
 解答者の女性は、先ほどの解答者ほど効率よく実装石を攻撃出来ていないようで、逃げ惑う成体実装に気を取られて血糊
ですっ転び、その巻き添えで仔実装のグループを丸ごとぺしゃんこにしている。
 広場の中の実装石の数はどんどん減っていき、代わりに死体と血糊、噴出した内臓、糞などがどんどん面積を広げていく。
 そのせいか、後から解答する者は先に答えた者より不利な条件になるらしい。
 結局、その女性は成体を一体も傷つけられず、仔実装18匹、親指5匹という結果に終わった。
 得点は59点。
 番組はどんどん続き、第一幕が終了した時点で、結果5回の大殺戮が行われた。

 あまりにも凄まじい内容に、クイズの内容や司会者のトークなど、完全に頭から飛んでしまった。
 だが、とりあえずこの番組のルールはよくわかった。
 クイズごとに定められた制限時間内に、どれだけの実装石を虐待または虐殺できるかを競い、その結果に応じた点数を競い
合うという趣旨らしい。
 成体実装は殺害で30点、負傷で15点、仔実装は死亡3点負傷1点、親指実装は死亡のみ1点という計算のようだ。
 二回正解しダントツトップの成績を叩き出した最初の解答者を見ると、最初のうちは潰しやすい小型の実装石で点を稼ぎ、
後から成体に集中攻撃をかけて大得点を獲得するのが最良の攻略法っぽい。
 これを逆にすると、成体の吹き出す血糊や内臓、糞で動きづらくなってしまうのだ。

 番組が進むにつれ、解答者は素手→バール→鎌か斧が使用可能になり、最後は野外に設置された特設ステージ上で小型
爆弾をぶっ放すという豪快なものへとステップアップしていく。
 これにより、この放送では総数4821体もの実装石が屠られた。
 これは、としあきが数えたわけではなく、番組の終わりにいちいち字幕で表示されるのだ。

 実装石を甚振るという現実を無視すれば、なかなかよく考えられているシステムだな……と一瞬感心し、はたと現実に返る。
 ふと気付くと、脇ではミドリがブクブクと泡を吹きながら卒倒していた。

「おいミドリ! 大丈夫か?」

“キュウ”

 豪快な性格でかなりのクソ度胸の持ち主であるミドリも、さすがに同属の殺戮劇視聴には耐えられなかったようだ。
 自壊こそしていなかったものの、結局朝まで目覚めることはなかった。
 言うまでもなく、カーペットの一部は濃緑色に汚染され、凄まじい異臭を放っていた。

「この世界、いったい、何なんだ?」

 その後も、としあきはテレビを観続けた。
 23時を過ぎると格段に番組数が少なくなり、派手な内容のものも減ったが、としあきにショックを与えたのはあのクイズ番組
だけではなかった。
 ごく普通の家庭ドラマ……と思わせておいて、登場人物がストーリーとは全く無関係に、実装石を叩き潰していったり。
 全身返り血と糞にまみれながら抱き合う男女のラブシーンは、眩暈を通り越して吐き気を催す。
 チャンネルを変えると、「実装石をいかにして甚振れば快感か」をテーマに出演者が語り合うトークショー番組が放送されて
おり、しかも実際に話題に上った方法で成体実装を処刑していく。
 或いは、一見キュー○ー三分クッキング風なのだが、内容は料理ではなく、「三分間で実装石から偽石を取り出す方法」を
紹介している。
 としあきは、これで初めて偽石の実物を目の当たりにした。
 番組だけではなく、コマーシャルでも実装石を傷つけるアイテムや薬品、実装コロリという毒薬などがごく自然に扱われ、
しかもいずれも実際に実装石に使用している場面がある。
 楽しそうに家族団らんの時を過ごす家族が、暖炉の中に仔実装を放り込んでいくという悪夢のような内容もある。

 だが、としあきにとって最もショックだったのは、夜のニュースだった。

『次のニュースです。
 以前から民間で伝承されていた“実装石の強制妊娠”ですが、先日アメリカ・フロリダにある「実装石特殊研究所」により、
事実である事が科学的に証明されました。
 これは、一定以上の粘性のある赤色の液体を実装石の左目に点眼すると、その個体の身体状況に関係なく妊娠・出産が
開始されるという、実に画期的な発見です。
 この実験に協力したローゼン社及びメイデン社では、早速この特性を活かした新しい虐待アイテムの開発に着手すると——』

『次のニュースです。
 本日、○○県○○市の☆☆小学校の児童が、□□山付近の山林を訪れ、楽しい実装石虐待遠足を経験しました。
 これは、実装石を痛めつけるために必要なバールに早く慣れて欲しいとするPTA及び○○県教育委員会の意向により企画
された催しで、初めてバールを使う男の子、女の子達は、皆楽しそうに実装石を——』

『次のニュースです。
 昨年は実装石を利用した放火事件が多発しましたが、これの防止及び抑制を目的として、消防庁は実装石の燃焼実験を
開始しました。
 ○○消防訓練場に集められた800匹もの実装石達は、半分はガソリンを浴びせられ、残り半分はそのままの状態で引火
され、完全に燃え尽きるまでの時間と移動距離、行動を測定・観察されました。
 この実験により、消防庁はあらたなデータ発見の可能性もあるとして——』

 日付が変わったとほぼ同時に、としあきはテレビのスイッチを切った。
 さすがに、これ以上視聴するのは精神的に辛すぎた。

「な、な、な、なんなんだ、この世界は?!
 狂ってるのか? みんなおかしくなっちまったのか?!」

 脂汗をボタボタと落としながら、としあきは先ほどまで恐ろしい映像を流し続けたテレビのブラウン管を睨む。
 この世界の人間は、実装石を、まるで娯楽品を扱うように虐待し、或いは死に至らしめている。
 そして、その凶行に何の疑問も抱いておらず、それどころか絶賛しているのだ!


「ここは……まさか、虐待の世界? いや、虐殺か——?」 


      ※      ※       ※


 翌日。
 猛烈な空腹感にさいなまれて目覚めたとしあきは、パンの耳をほおばり朝食を済ますと、ミドリを残して外出することにした。
 いくら一時的な滞在でも、たった100円ぽっちの所持金では仔実装を捜すどころか自身の健康すら危うい。
 なんとしても、当面の生活を維持できるだけの収入が必要だった。
 まずやることは、落ちている新聞などから日当制のアルバイトを探すことだ。
 履歴書を書くことも出来ないから、かなりアレな仕事を踏んでしまうかもしれないが仕方ない。
 としあきは、まるでホームレスにでもなったような気分で、新聞や募集広告を探して町中を彷徨う。
 幸い、電信柱や塀に張られた広告は、携帯にメモすることでいくつか集められた。
 また、十円玉を二枚ほど拾うことが出来たので、公衆電話代もまかなえそうだ。

 集めてみると、意外に候補は集まるものだ。
 としあきは、四つほど集まった募集案件から二件を選択すると、早速公衆電話から問い合わせてみる。
 携帯を持っているのに公衆電話を使うのはいささか抵抗があったが、通話出来ないのだから仕方ない。
 残念ながら、一件目は既に募集を締め切ってしまったが、二件目は電話口でいきなり採用が確定した。

「えっ、本当ですか? 履歴書とか必要ですか?」

『あーそんなのいらないよ。
 じゃあ、一時間以内に○○の○○という所に集まって』

「わかりました、よろしくお願いします!」

 やってみるものだなあと、としあきは感激を覚える。
 仕事内容は、郊外にある無人施設の清掃業務で、日当は4000円。
 ちょっと少なすぎかなとは思ったが、仕事内容は簡単で誰でも出来るレベルのものらしいとのことなので、文句は言わない
ことにした。
 後に、この金額は71年当時の日当としてはかなり高い物であると思い知ることになるが、この時のとしあきはまだそれを
知らなかった。
 
 
 待ち合わせの空き地に向かうと、そこには平台のトラックが三台停車しており、その周囲に大勢の人達が集まっていた。
 いかにも肉体労働者風の男性や、学生風の青年、中にはどう見ても中学生くらいの少年もいる。
 年齢層は本当にバラバラで、統一感がまるでない。
 しばらくすると、どこぞの土建屋風のおっさんが出て来て、皆に説明を始める。
 ここからトラックの荷台に乗り込み、目的の場所に行ってから作業開始、夕方になったら撤収するという、ただそれだけの
内容だ。
 何を使ってどんなことをすればいいのか、そういった説明は全くない。
 ぼーっと立ち尽くして説明を聞いていたとしあきに気づいた土建屋風おっさんは、しかめっ面で話しかけてきた。

「あんた、道具は?」

「え? 道具? 聞いてなかったんですけど」

「清掃業務だよ清掃、セ・イ・ソ・ウ! エモノがなきゃ何も出来ないでしょ」

「え…そ、そうなんですか、すみません。
 どうしよう…」

 慌てふためくとしあきに、おっさんは荷台からエモノを取り出し、手渡した。
 ドッシリとした、金属の重量感が手の中に収まる。

「特別だよ、なくしたり壊したりせんといてな」

「すみません、ありがとうござ……?!」

 礼を言いかけたとしあきの言葉は、そのエモノなるものを見て停止する。
 それは、どう見ても、ただの、バールだった。
 清掃業務にバール。
 どう贔屓目に見ても、これでゴミをかき出したり運び出したりは出来そうにない。
 しかし、見れば他の皆もほとんどがバールを携えており、持っていないものも釘の打ち込まれたバットや巨大なレンチ、
または手製の鈍器を装備している。
 いずれも、とても清掃目的には思えない——どちらかというと、殴り込みに向かうようだ。

「久々で腕が鳴ってますよ、今日は何匹ヤれますかねぇ?」
「数なんかどーでもいいよ、とにかくぶっ叩いてスッキリして金もらえりゃあいいんだ」

 どこからか、酷く物騒な話し声が聞こえてくる。
 なんだか色々不安ではあったが、とにかく一日我慢して生活費を稼ぐ必要があると、としあきは必死で自分に言い聞かせる。
 やがて土建屋のおっさんが声をかけ、トラックへの搭乗が始まった。
 シートベルト着用にうるさい現代世界の住人であるとしあきにはいささか信じがたい光景だったが、平台トラックは大勢の人を
荷台一杯に乗せたまま、少し飛ばし気味に走り出した。


      ※      ※       ※


 トラックは十数分ほど走り、郊外の空き地に停車する。
 そこは大きな林に隣接しており、太陽の光が遮られるのか日中でも薄暗い。
 少し林の中に入った辺りに、その物件は存在した。
 白い壁の、三階建てのコンクリート製建造物。
 ビルなのか、何かの特殊施設なのかはわからないが、外壁の周囲に窓がなかったり、半開きになった入り口や玄関周辺に
何も置かれていないところから、建造途中で放棄された廃墟のようにも見える。
 トラックからから降りた連中は、まるで示し合わせたかのように全員息を殺し、じわりじわりと建物に近づいていく。
 驚いたことに、ここへ連れてきた土建屋風のおっさんは、彼らに何の説明もしていない。
 それなのに、すでに業務伝達は行き渡っているかのような流れだ。
 としあきは、やむなく皆の流れに乗ることにした。
 隣にいた高校生くらいの少年が、べろりと舌なめずりをして独り言を呟く。

「へへ、今日もいっぱい殺してあげるからねぇ♪」

 その言葉に反応しようとした刹那、建物のドアが荒々しく開けられ、皆一斉に中へ駆け込んだ。
 そう、「駆け込んだ」のだ。
 まるで、競争でもするように。
 カビくさい空気と、どこかでかいだ覚えのある独特の臭いを感じながら、としあきは人の波に乗せられどんどん奥へと入り
込んでいく。
 先頭の連中は、大声を張り上げながらずんずん中へ突き進んでいった。


 オラアァァァァァァ!! 死ねやあぁぁぁぁ!!

 ぐるあぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ガスッ、ドガッ、ドガッ!


 怒鳴り声、鈍い打撃音、足音が、狭い通路の中に響き渡る。
 皆は建物の中に入ると、一部は二階への階段を上り、一部は廊下からつながる部屋に片っ端から飛び込み、またはどんどん
先へと走っていく。
 一人の例外もなく、彼らの目は血走り、荒々しい呼吸を繰り返している。
 やがて、そんな喧噪に混じって「悲鳴」が聞こえてくるようになった。

 デジャアァァァァ!?

 人間の悲鳴ではない、これは——実装石?
 この廃墟には、どこからともなく入り込んだ実装石が大量に住み着いているようだ。
 そしてここに来た人達は、それをなぶり殺している。
 実装石は手足が短く身体が重いせいなのか走る速度も遅く、そのためあっさりと捕獲されてしまう。
 或いは、どんなに懸命に逃走しても、振り下ろすバールのリーチ外に出る事すら難しいのだ。

 デェェェ、デェェェ……デベッ!

 デギィィィ!! デギャアァァァ!!

 頭をかち割られて倒れる成体実装、でたらめに踏みつけられ床のシミと化して行く仔実装……。
 恐らく、携帯の画面には阿鼻叫喚の翻訳状況が羅列されているのだろうが、としあきはとてもそれを観る気になれない。
 ふと気付くと、後から入り込んできたツナギ姿の男性達が、大型のカゴをいくつも入り口付近に並べていく。
 それを合図に、今まで虐待の限りを尽くしていた者達が、ボロボロになった実装石を拾い集め、カゴに放り込み始めた。

 デ……ギ……

 デ……

 微かな呻き声が聞こえる……まだ生きている者もいるようだ。
 としあきは、ここに至ってようやく「清掃」の意味を理解した。
 これは、清掃という名を借りた野良実装の自主的駆除活動なのだ。
 しばらくすると、頭の上で無数の足音が響いてきた。
 としあきは、誰も居なくなったエリアを一人とぼとぼ歩き、バールに実装石の死体から流れる血をなすりつけた。
 その行為自体とても抵抗があったが、彼も日銭を稼がなければならない以上、仕事をした偽装はしなければならない。
 だがその直後、目の前に小さな仔実装が躍り出てきた。
 思わず、動きが止まる。

“ニンゲンチャはどーチて、みんなをイジメるテチュ?”

 携帯から、仔実装の可愛らしい声が翻訳されて届く。
 手足をいっぱいに伸ばし、まるでこれ以上進ませないぞといわんがばかりに立ちはだかる仔実装……それは、勇敢にも人間
であるとしあきに抗議しているのだ。
 それは、あまりにも無謀であり、危険過ぎる行為だった。
 だが、相手はとしあき——実装石について、まだほとんど知識を持たない男だ。
 それが、仔実装にとってのささやかな幸運だった。

“みんなイタイイタイしてるテチュ!!
 マーマもあんよがイタイタイテチュ!!
 オネーチャもイモウトチャも死んじゃったテチュ!!
 お願いだから、もう許してテチュ!!”

「う……」

“誰もニンゲンチャにメーワクかけてないテチュ!!
 ワタチタチはニンゲンチャと仲良くしたいテチュ!!
 だから、こんなのイヤイヤテチュ!!”

「ご、ごめん……」

 仔実装の必死の訴えに、としあきはなぜか反射的に詫びてしまった。
 彼のせいではない、この世界そのものが狂っているため、なのに。
 彼が人間を代表して、実装石に詫びる必要性も意味もない。
 それは解っていたが、としあきは詫びずにはいられなかった。
 彼の言葉に、仔実装の動きが止まる。

“テェ……ニンゲンチャ、いい人テチュ?”

「俺は——」

 返事をしようとした次の瞬間、すぐ近くで絶叫が上がる。

 デギャアア——!!

 実装石の断末魔だ。
 誰かが、まだこの辺に潜んでいたらしい。
 としあきは、反射的に仔実装を掴み上げると、胸ポケットの中にしまいこんだ。

「隠れて、静かにしてるんだ!!」

“テェッ?!”

「良い仔だから、言う事を聞きなさい」

“テ…テチュ!!”

 仔実装がおとなしくなったとほぼ同時に、奥の方から太った中年男性がのそりと姿を現す。
 としあきは、その姿が前の世界で出会った“ドモりの虐待派”にそっくりなせいか、思わず息を呑んだ。

「お? お、おお、お前、ここにはもう奴らいないぞ」

「え? あ、そ、そう」

「あ、ああ、後はに、二階とさささ、三階な、なんだな」

「うん、了解」

 額に冷や汗を浮かべながら、としあきは作り笑いで応える。
 としあきは踵を返して階段の方へ向かうが、後ろから中年男性がのそのそ付いてくる。
 隙を見て仔実装を外に逃がそうと思ったのだが、これではうまく行かない。
 としあきは、ポケットの隙間から不安そうに見上げている仔実装にウインクをすると、服の上から優しく撫でてやり、そのまま
二階へと向かった。


 ヒャッハーッ!!


 二階ホールに辿り着いた瞬間、甲高い声が耳に飛び込んでくる。
 ポケットの中から小さな悲鳴が上がったが、幸い他には聞こえなかったらしい。
 としあきは、ホールの奥で固まり「作業」している連中の邪魔にならないよう、ゆっくりと外周を回り、出来るだけ人のいなさそう
な通路へと出ようとした。
 だが、またしてもあの中年男性が付いてくる。
 振り返るとわざとらしく目線を逸らすが、明らかに自分の後をつけている。
 やがて、通路の行き止まりに辿り着き、突き当たりの部屋に入らざるを得なくなった。
 としあきがゆっくりとドアを開くと、中からけたたましい悲鳴が聞こえた。

 デスゥッ?!
 テチャァァ!!
 テェェェェン、テェェェン!!

 ドアから差し込む光にぼんやりと照らされ、室内の隅でうずくまる実装石の親子を発見する。
 としあきは、短く呻いて一歩中に入り込むと、中年男が入り込む前に素早くドアを閉めた。
 向こうから、何か怒鳴っているような声が聞こえる。
 手近にあった木箱をドアの前に持ってきてバリケードにすると、としあきは携帯を取り出し、怯える実装親子に話しかけた。

「大丈夫だ、俺は君達を殺しはしない」

“デ、デェ?”

「教えてくれ、どうしてこの世界の連中は、君達を殺したがってるんだ?
 君達は何かしたのか?」

“デェェ、ほ、本当に味方デス?”

 なおも疑う親実装に、としあきは、胸ポケットに収まっている仔実装の顔を覗かせる。
 生き残った仲間を見て喜ぶ仔実装と、それを見て安堵の表情を浮かべる家族。
 バールを離れたところに置き殺意がない事を示すと、としあきは、もう一度同じ質問を繰り返す。
 親実装は、ため息を一つつくと、ボソボソと重い口調で話しだした。

“ワタシ達は何もしてないデス……ただ、ニンゲンさんの住む所から離れて、静かに暮らしたいだけデス。
 でも、ニンゲンさんはワタシ達を見ると殺したり虐めたりするデス。
 わからないデス、何もわからないデス……”

「どういうことだ? 例えば公園を汚したとか、空き地を勝手に住処にしてたとか、そういうのはないのか?」

 としあきの言葉に、親実装ははっきりと首を横に振る。

“中にはそんな奴らもいるデス。
 けど、そうでない奴らの方が多いデス。
 ワタシ達の同属は、ニンゲンさんの住処に近づくと危険だって事を、みんな知ってるデス”

「それじゃあ、いったいなんで」

“優しいニンゲンさん、お願いデス。
 ワタシはもうすぐ赤ちゃんが生まれる身重な身デス。
 どうかこのまま、見逃してくださいデス。
 ワタシ達はニンゲンさんに迷惑をかけたくないデス……”

 部屋の北側にある小さな明り取り、そこから差し込む弱い光に照らされ、親実装は懇願する。
 その瞬間、背後からドスン! という激しい音が響いた。

“デ、デェェェェェェッ?!?!”

 ドス、ドスン! ドガアッ!!
 ドシャアァッ!!

 扉が破られた!!
 床に尻餅をつくとしあきと、それを見て呆然としている実装親子達。
 部屋の中に押し入って来た「同業者達」は、その光景を見て一斉に舌打ちを放つ。

「ああいいよ、俺が殺る!」

 誰かがそう宣言し、滑り込むように室内に入ると、迷うことなく大きな「銛」を打ち込んだ。
 悲鳴を上げる間もなく、親実装の胴体が床に釘付けにされる。

 テチャァァァァァッッ!! ヂッ!!
 テジャァァァァァァ!! ヂッ!!

 目の前で親を殺された仔実装達は、悲鳴を上げて死体にすがろうとするが、すべて銛を打ち込んだ男に踏み殺される。
 男は、続けて厚手のビニールのようなものを取り出し、それを蛆達の上に振りかけると、ガシガシ踏み潰し始めた。
 微かな悲鳴を連呼しながら、ただの液体へと変貌していく。
 ものの数分も経たないうちに、室内の実装石は一掃された。

 部屋の中に入り込んだ、十人くらいの男達が、冷たい目でとしあきを見下ろしている。
 後ろの方から、さっきの中年男が鼻息を荒げて割り込んで来た。

「こ、こ、こいつあ、愛護派だよ!」

「んだあ? 愛護派だあ?」

 男達の中で最も屈強そうな者が、としあきの襟首を掴み上げ無理やり立たせる。
 事態が呑み込めず、目を白黒させるとしあきを睨みつけると、男は荒っぽい舌巻き口調で話しかけた。

「てめぇ、全然仕事してねぇじゃねぇか。
 “やったふり”か? それとも愛護派か?
 ハッキリしろやオラ」

 そう言いながら、もう一方の腕で腹を殴る。
 ぐっ、と息を吐き出し身もだえするとしあきを指して、中年男が申告する。

「こ、こ、こいつのポ、ポケット、なんか隠してる!」

「んあ?」

「さ、さっ、さっき、ポ、ポ、ポケットが動いたんだ!
 な、な、何か隠してるよこいつ!!」

 中年男が指差し絶叫する。
 としあきを掴み上げている男は、屈強な腕で彼を吊るし上げたまま、その胸ポケットを思い切り殴打した。

「げふっ!!」

 ヂッ!!

 パチャッ

 としあきの胸ポケットから悲鳴が聞こえ、じわぁっと、緑色の染みが滲んでくる。
 男はとしあきを突き飛ばすと、間髪入れずにわき腹を蹴飛ばした。
 重い塊を叩き込まれたような、鈍い痛みが身体に広がっていく。

「ぐは!!」

「おい、やっちまいな」

 としあきを掴んでいた男は、室内の他の男達に命令すると、とっとと部屋を出て行ってしまう。
 それと入れ替わるように、男達がとしあきを取り囲み、四方八方から蹴りを加え始めた。

「ヒャッハハハハ!! 愛護派だとよぉ!!」

「俺達に紛れ込むなんて何考えてんだよぉ!!」

「いっそ殺しちゃうか? このガキ」

「そうだなあ、どうせ大した罪にはならねぇんだし、殺るかぁ」

「一撃で頭ぶち割ってやるぜえぇぇ!!」

 自分の父親よりも遥かに年上の老人が、顔を火照らせ狂喜する。
 と、その時、どこからともなくホイッスルの音が聞こえてきた。
 男達の動きが止まる。

「おい……どうする?」

「しゃあねぇ、放っていこうぜ」

「こんだけやっときゃ、のたれ死ぬだろ」

「まあまた生きてたら、今度こそ俺が殺してやっからよ!」

 そういうと、男達はとしあきのバールを腹の上に放り捨て、とっとと部屋を出て行ってしまった。
 二階突き当たりの奥まった部屋、ドアを閉じられ間然に外界から隔離された空間。
 そこに閉じ込められた形となったとしあきは、誰にも助けられることなく、実装石の死体と共に本当に放置されてしまった。

「な……う、嘘だ……ろ?」

 壁の明り取りから差し込む光が、どんどん弱くなっていく。
 まるで、時間の感覚だけが異常加速しているようだ。
 時が、過ぎていく。
 全身の痛みのせいか、細かな気絶を繰り返しながら、としあきは何時間も立ち上がれずにいた。
 少しずつ、身体が寒くなってくる。
 身体のあちこちにこびりついた血が、やけに冷たく感じられる。

「やべ……俺、死ぬのか……?」

 男達が行っていた事は、本当だった。
 理由はわからないが、実装石を助けようとした者を殴り、蹴り、殺そうとした挙句、廃墟に置き去りにする。
 それは未必の故意……否、明確な殺意だ。

 何故、実装石を助けようとすると殺されるのか?
 否、それ以前に、どうしてこの世界の人間達は、ここまで執拗に実装石を殺そうとするのか?
 しかも、どうしてそれがさも当然のように認識されているのか?

 としあきは、だんだん混乱してきた。
 ここは、当初感じていたよりも遥かに恐ろしい世界だった。
 それを自覚したが、もう何もかも遅い。
 唯一事情を知るミドリはここに辿り着けないし、仮に辿り着けても危険なだけだ。
 緑色の怪人の仔実装を捜すどころではない……これは、これは……



 どれくらいの時間が経っただろう。
 室内がすっかり暗闇に支配された頃、どこからともなく、蠢く者共が集まってきた。
 それはまるで、闇の中から湧き出してきたかのようだ。
 としあきの掠れた視界の中には、不気味に輝く赤と緑の光が、無数に映っている。
 それは幻覚ではない……
 足音、鳴き声、そして荒い呼吸音——明確な存在感が、すぐ傍に感じられたのだ。

 デス、デス、デスデスデス
 デス、デス、デスデスデス
 デス、デス、デスデスデス
 デス、デス、デスデスデス
 デス、デス、デスデスデス
 デス、デス、デスデスデス
 デス、デス、デスデスデス

 それは、すっかり駆逐された筈の実装石だった。
 いったい今までどこに隠れていたのか、その数は、部屋を満たすほどに及んでいる。
 先に殺された実装石親子の死体を貪る者も居れば、床に広がった血を舐めている者もいる。
 そして、倒れたままのとしあきの身体に興味を覚える者達も居た。
 彼女達の視線が、としあきの顔に集中する。
 携帯が、彼女達の声を翻訳する——

“ニンゲンデス”
“ケガシテルデス。デプププ、ミジメデス♪”
“ワタシタチヲイジメタ報イデス。ココデ死ヌデス”
“イヤイヤ、ワタシタチデ殺シテヤルデス”
“ニンゲン憎イ、憎ラシイデス!”

“ミンナデ晩御飯ニシテヤルデス♪”

 としあきの全身に、冷たい汗がだらだらとまとわりつく。
 暗闇の中から、青白い“指のない”手が、無数に伸びてくる。
 傷口に容赦なく触れ、肉を掴み、引き裂こうとする。
 でも、としあきの身体は激痛に見舞われており、ろくに動くことが出来ない。
 必死で身をよじるが、無数の実装石にかかれば、あっという間に制御されてしまう。
 としあきは、彼女達の目の奥に、形容し難い“憎しみの光”を感じた気がした。

「た、助け……やめ……ろぉぉ……」

“泣ケ、喚ケ、デス”
“オ前達ニンゲンガ、ワタシタチニシテキタ事ヲ、思イ知ルデス”
“デ、デデ、デヘヘヘヘヘヘ♪”

「ひぁ……あ、ああああああ!!!」

 としあきは、ありったけの声を絞って叫んだ。
 もう、それしか出来ることがない。
 助けなど来るはずもないのに、それがわかっているのに、としあきは最後の最後まで抗う。
 特に広くなかった筈の室内は、暗闇に包まれているせいなのか、果てしなく広がっているように感じられ、なかなか出口まで
辿り着けない。
 否、実際にはとしあきはまったく動けていなかったのだが、彼はもう何百メートルもはいずったつもりになっていた。

“観念スルデス!”

 実装石の大きな口が、としあきの眼前に翳された!

「ぅ、ぅわあぁぁぁぁぁあ!!」









 ——実装石達の動きが一斉に停止したのは、次の瞬間だった。


 どこからか、口笛が聞こえてくる。
 透き通るような、爽やかな、耳に心地よい旋律。
 ドアは閉ざされ、窓らしい窓も何もない閉ざされた部屋なのに、その口笛はまるで、空間を乗り越えて響いてくるようだ。
 実装石達は、その口笛で明らかに動揺し始めている。
 口笛は徐々に近づき、部屋の外までやって来たようだ。
 よく聞くと、踵で床を蹴る音も聞こえた。

 一瞬、口笛が途切れる。
 と思った刹那、部屋の扉が、まるで爆弾で吹き飛ばしたかのような豪快な音を立てて、砕け散った。


 ド・ガ・アァァァァァァン!!


 デシャアァァッ?!
 デギャアァァァッ?!

 爆音に驚いたのか、それとも突然の来訪者に恐怖したのか、実装石達は一斉にとしあきから離れ、部屋の反対側まで逃げた。
 濛々と立ち込める埃の中、誰かが、月明かりを背に立っている。
 両手をズボンのポケットに入れたまま、少し俯き、静かに闇を見つめている。

 口笛が、少しだけ鳴り、そして止んだ。
 その者は、しばらくの間を置くと、「ふっ」と鼻で笑った。


「フッ、闇に紛れる糞蟲共…か。
 相変わらず無様なものだぜぇ」


 “男”は、しずかに室内に立ち入ると、まるで実装石を威嚇するような気配を漂わせ、としあきに近づいた。
 呆然と見つめる彼の背に腕を回すと、軽々とその身を持ち上げ、肩に背負った。
 としあきは、その瞬間、頬に「詰襟」が当たるのを感じた。

“学生服……?”

 せっかくの晩御飯を強奪されたせいか、実装石達が一斉に抗議を始める。
 しかし、男がギロリと睨みつけただけで、瞬時に喧騒が収まる。

「フッ、いきがるんじゃねぇ、ドサンピン!
 糞蟲の分際で、俺様に歯向かおうなんざ、百万光年早ぇぇんだよぉっ!」

 威勢よくそういい放つと、男は空いた方の手を、実装石達の方にまっすぐ伸ばす。
 と同時に、なぜか凄まじい突風が巻き起こり、嵐が発生した!
 ありえないことだが、それは、間違いなく現実に起こっている!
 狭い室内で竜巻に巻き込まれた実装石達は、壁に叩きつけられ、床に落下し、或いは仲間同士で激しく空中衝突する。
 やがて、日中に扉を押さえていた木箱すらも粉々に粉砕され、その破片が実装石の身体に突き刺さっていく。

 デギャアァァァァッ?!
 デ、デジィィィィッ?!
 
 それは、まるで魔法のようだった。 
 あれだけ大勢居た筈の実装石達は、突風が消え去る頃には全く気配を感じなくなっていた。
 ——ほんの一瞬で、全て、殺されたのだ。

「フッ、さぁ行くぜ」

「……」

 男は、全く疲労する様子を見せず、そのままとしあきを担いで廃墟を後にした。
 夜道を知り尽くしているのか、ほぼ完全な闇に包まれている林の中を、スイスイと迷うことなく進んでいく。
 ようやく意識がハッキリしてきたとしあきは、男に問いかけた。

「あ、あんたは、一体……?」

「フッ、名乗るほどのもんじゃねぇぜぇ……」

「で、でも——」

「フッ、そうだな。
 人は俺を“虐待番長”と呼ぶぜぇ」


 としあきは、見た。
 木々の隙間を縫って差し込んだ月明かりに照らされた、男の背を。
 彼が着ているのは、学生服ではない。
 所謂「長ラン」と呼ばれる、大昔の不良が好んで着ていたといわれるものだ。

 その背中には、金色に刻まれた「 虐 待 」の文字が、煌々と浮かび上がっていた。



 再び闇に包まれた時、としあきは、「そういえば光年って、時間じゃなくて距離の単位だったような——」と、余計なことを
思い返していた。




→NEXT


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このスクは、
sc1862
sc1863
sc1865「じゃに☆じそ!」第一話(公園実装の世界編)  の続きです。
ただし、前のエピソードを特に読まなくてもだいたいわかります。

全3回で1エピソード完結という構成になります。


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