タイトル:【愛】 実装かぞく3
ファイル:実装家族003.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1966 レス数:0
初投稿日時:2009/10/12-14:57:41修正日時:2009/10/12-14:57:41
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第3話「仔実装の名前」


「シャァァァッ!! デシャァァァァッ!!」
「テェェェェーーンッ!! テェェェェーーンッ!!」

デさんが仔実装に向かって威嚇をしている。
仔実装が近づくたびに、デさんは自らの縄張りを主張するかの如く、仔実装を遠ざけた。

実装石は群れで生きる生物じゃない。
段ボールなどを駆使して、自らの生活範囲であるテリトリーを主張する。
飼い実装の場合、この家自体が段ボールと等しい。
段ボール内に進入した赤の他人である実装石を排除しようとするのは、当然の行為であると言えた。

「なぁ。デさん。頼むよ」
「デブデブ……」

デさんは、前掛けで、黒縁の実装眼鏡を拭きながら、ブツブツと文句を言う。
仔実装は、俺の背中の後ろに回り込んで、小刻みに震えている。

「そうだ。あいつの名前は、デさんがつけていいよ」
「………デプン」

あ〜ぁ。臍を曲げちまった。
取り付く島もないとは、このことか。
時間が解決してくれればな…。甘い期待だとは自覚しながらも、天に祈らざるを得なかった。


◇

「デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪」

居間から声が聞こえた。デさんの声だ。
日頃、黒縁の実装眼鏡をかけて、日経新聞を読むデさんから聞くことの出来ない甘い声だった。
そういや居間には、あの仔実装もいるはず。まさか…。

ダッと俺が居間を覗くと、デさんは難しい顔をして絵本を逆さに読んでいた。
見れば、仔実装はクッションの上で丸く、寝息を立てていた。

「デさん?」

俺が声をかけると、デデッと「今いい所だから声をかけるな」と、逆さの絵本を手にしながら、
顔を赤らめていた。

「…………」

俺は敢えて何も言わず、台所に向かって、水仕事を始めた。

ジャー……

水仕事をしながら、ちらりと居間の方を伺う。
俺は、水が流れる水道の蛇口をそのままに、洗い場を離れて、そぉと居間の中を覗いてみた。

「………デー」

テスーテスーと寝息を立てる仔実装を上から伺うデさん。
ずれ落ちる黒縁眼鏡を、ない指の手で戻しながらも、頬を赤らめながら、仔実装の寝顔を見つめていた。

そして、デさんは無意識のうちに小声で口ずさむのだった。

「ボェ〜♪ デッデロゲ〜ボォ〜♪アッアッ〜♪」

ぷっ。
俺は思わず吹き出しそうになるを堪えるのに懸命だった。
時間が解決する?何てことはない。仔実装を連れて来て、翌日の出来事である。
実装石は母性の強い生き物である。ましてはデさんは、ペットショップで躾けられた飼い実装である。
飼い主の許しがなくば、仔を宿すことも許されない身の上は、充分に理解できている賢い実装石である。

「そうか。デさん……」

デさんが、この家に来て2年。
そう我が儘を言う実装石ではない。
もしかすれば、仔を望んでいたのかもしれない。
俺は飼い主として、デさんの望みも察してやれてなかったのかと思い、頭を掻いたりした。


◇

その日の夜。
俺はデさんに昼間の居間の事を語った。

「デデッ!! デデスワッ!! デッスンッ!! ダッダッ〜〜!!」
(な、なによ!べべべつに、寝顔を見てただけなんだからね!)

「デスデスッ!! デスァ!! デェースデスデェース!!」
(こ、この仔のことを認めたわけじゃないんだから!勘違いしないでよね!!)

と、リンガルで表示されていたかどうかは確かではないが、多分似たようなことを言っているに違いない。

「デさん。とりあえず名前をつけてやってくれよ」

約束したのだ。仔実装の名前は、デさんに付けて貰う。
その方が、デさんもこの仔を受け入れてくれるはず。そう思ったのだ。

「ダァ!! デェスデェースッ!!」

昼間の子守歌の件を認めたがらないのか。
デさんは、抗議の声を上げながら、最後には近くの物を俺に投げ始めた。
新聞や積み木。果ては、近くにあった薬箱の中を漁っては、それを投げつける。

「痛てて。いい加減にしろ、デさん」

「デスァ!! デスァ!!」

「おまえだって、仔が欲しいんだろ。だったらいいじゃないか」

「ダァ!! デェスデェースッ!!」

そんな押し問答が続き、デさんがとうとう降参した。

「デッ!!」

「なんだよ」

「デデッ!!」

デさんが俺に近づき、ない指で、先ほど投げつけた物を指さしている。

「何だよ」

「デッ!!」

「……まさか。名前か」

「デスッ!!」

デさんが指さしたのは、先ほどデさんが投げつけた物だった。

「……………」

「……………」

「まじですかぃ」

「デス」

居間で寝ている仔実装よ。
おまえの名前が、決まったぞ…。

デさんがそう決めたのだから仕方がなかった。
俺は、先ほどデさんが投げつけた「ボラギノール」を手に、ゆっくりと居間へと向かった。

「………きっと、お通じがいい仔になるに違いない」

そう思いながら、居間で眠る仔実装「ボラギノール」を見つめながら、
俺は持病の痔を押さえながら、ボラギノールを手に、便所へと向かった。


(つづく)


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