「いや。マジですまん」 「デー…」 デさんは、眉間に皺を寄せて、2度3度、左右に首を傾げていた。 俺の手の中には、薄汚れた実装服を着た仔実装が1匹。 テスーテスーと、小さく寝息を立てていた。 「デギャァ!! デギャァ!!」 「いや。だから、仕方がないだろ」 「デスァッ!! デギャァースッ!! デスデェェスッ!!」 近眼であるデさんは、部屋の壁に向かって叫んでいる。いや、俺ここだから。 会社の帰りしな、仔実装を拾った。 道ばたで小さく埋まっている震えている仔実装を見つけてしまったのだ。 初秋の気温が下がり始めた季節。親実装からはぐれた仔実装が生きていくには辛い季節だ。 「というわけで…」 「デスァ!! デギャァースッ!!」 「はい。実装眼鏡」 近眼であるデさんに実装眼鏡を渡す。 「デッ!? デスァ!! デスデェースッ!!」 眼鏡をかけたデさんは、改めて、俺に向かって抗議の声を荒げる。 リンガルを使わなくても、デさんの主張はわかっていた。 『私がこの家の飼い実装デス!!』 『私以外に、この家に飼い実装はいらないデス!!』 『その小汚いのを早く捨ててくるデス!!』 デさんは、俺がペットショップで数年前に買ってきた飼い実装である。 正しい名前は、『デスア』。 一緒に暮らしているうちに、いつの間にか「デさん」と呼ぶようになったので、彼女は「デさん」である。 実装眼鏡をかけたデさんは、眉間に皺を寄せながら、顔を引きつけながら、俺の手の中の仔実装をもう1度見た。 「デデ……、デギャーーースッ!!」 やれやれ。 とりあえず、仔実装が回復するまで、仔実装とデさんは、隔離することにした。 ◇ 「おー、よしよし」 「テチュ〜ン♪ テチュ〜ン♪」 仔実装は、哺乳瓶を両手で加えて、鼻をピスピスさせながら、ミルクを嚥下している。 呼吸以外は、ミルクを飲むことに全精力を費やしているようだ。 「テチュ〜ン♪」とくぐもった甘い声が、自然と喉の奥から、響いている。 あっという間に、2本目のミルクも腹の中へ。 「チュー!! チュー!!」 「そんな吸い付いても、もうないぞ」 「チュー!! チュー!!」 ふふふ。聞いちゃいない。 デさんが、この家に来たときに使った離乳食セットが残っていたため、仔実装の給仕には事欠かなかった。 「さ。次は風呂に入ろうな」 「テチュ〜!! テチュ〜!!」 洗面器のお湯の中で、紅潮する顔で、不思議そうに俺の顔を見上げている仔実装。 「な。おまえのママは何処にいるんだろうな」 「テチュ〜♪ チュッ〜チュッ〜♪」 「公園でおまえの事を探しているかもな」 「チュフ〜ン♪ ムフ〜ン♪」 「ちょっと落ち着いたら、また一緒に公園でも行くか」 「チュム〜ン♪ チュマ〜ン♪」 仔実装には、難しい話だったかな。 生まれて初めての満腹感と、暖かい不思議なお湯と柔らかい石鹸の泡の感覚に酔いしれ、 今は俺の質問どころでもないようだ。 (ぞく) 後ろから視線を感じた。 (そ〜)←ゆっくりと振り返る音。 「………………」 げ。デさんが、部屋の扉の影から、まるで市原悦子よろしく、眼鏡越しに俺たちの逢瀬を見つめていた。 「…………デ」 一言、「デ」と吐き捨てると、デさんはドタドタと、デさんの部屋へと駆け込んでしまった。 「う〜ん。どうしたものか」 「テチュ〜ン♪」 手の中で、俺を見上げて鳴く仔実装。 俺は仔実装の体をタオルで拭きながら、どうしたものかと途方に暮れるだけだった。 (つづく)
