◆蒼託児◆ 初めに、 『タイトルバレにも程があるデスゥ』 「多くの作品から設定をお借りしています。また、投稿が遅くなった事をお詫びします。忘れてました」 「内容には実装石、実蒼石、俺設定、そして少量の嘘と虐待成分が含まれています。一度に摂取すると頭がゆるくなる事があります」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1-1. ある日の午後──、 会社帰りにコンビニへ寄ると、建物の角で緑色の物体が動いている。 「……」 夕食を買い求め、店員に○ッチンプリンだけ別の袋に入れて貰う。 その袋だけを吊り下げ、コンビニの角を通り過ぎる。カサ、と音をたてて袋が僅かに重くなった。 視界の端に走り去る緑の背中が見えた。 ──五分ほどで自宅に到着する。 「ただいまー」 靴を脱いでいると緑の物体が廊下を走ってきた。 『御主人様、お帰りなさいデース』 短い両手を振り上げて私を迎えるのは、私の飼っている実装石。テツコ(略称テツ)だ。 テツは目敏く私のコンビニ袋の中で動いている物に気付く。 『託児デスか?』 「ああ。運が良ければお前に妹が出来るかもな」 袋を持ち上げして示した。袋の中の仔実装は息を潜めたのか動かない。糞はしていないように見える。 これでプリンに手を付けていなければ大当たりだ。 『……そ、そうだといいデス!』 実装石や託児について今更解説する事もないが、私は託児された実装石を躾ける事を趣味の一つとしている。 所詮素人なので上手くいかない事も多いが、最初の託児より十数匹の犠牲の上に実装石と良好な「主従関係」を 構築できるようになった。 ……たんに当たり外れの問題かもしれないが。まあ外れは外れで躾の役に立ってもらっている。エコでエゴな使い道というやつだ。 このテツも嘗て託児されたものの一匹だった。店で売れるほど賢くは無いが実装石としては根性があり、 それなりの行儀を身につけている。 「ポクー」 『デッ!?』 「……ん?」 私とテツは固まる。間抜け顔を見合わせる。 台所へ行きコンビニ袋をテーブルの上に置く。テツも椅子によじ登り私の横から恐る恐る顔を出した。 「出てこい」 取り出さないのはパニックを起こしたそれに切りつけられる危険性を考えたからだ。 「…ポクー」 カサカサと袋をかき分け現れたのは、青黒い帽子、実装石とは逆のオッドアイ、胸に抱えた大きな鋏。 実蒼石の子供、仔実蒼だった。 『デデデッ!?』 テツがうろたえ椅子から転げ落ちそうになる。仔とはいえ実装石の天敵なのだ無理もない。 「……仔実蒼の、託児?」 仔実蒼は所在なさげに私達を見上げている。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1-2. 「……さて、どうしたものか?」 仔実蒼の託児。それを行ったのが多分、実装石。そんな話はどちらも聞いたことが無い。 「……直接聞いてみた方が早い、か」 私は携帯のリンガルアプリにネットからダウンロードした実蒼石の辞書を組み込み機能をONにする。 テツが付けている多機能首輪の予備がもう一組あるが、それの翻訳機能はあくまで人対実装石を想定されていて 他実装の「訛り」とでもいうか微妙な言語の違いまでは保障していない。と取説に書いてあった 「こんにちは。君は人間の言葉は判るかい?」 「ポ、ポク!ポク!」訳(こ、こんにちはポク!わかるポク!) 緊張した動作でお辞儀する仔実蒼。ある程度の躾はされているようだ。 「君は、託児されたのかい?」 「…ポク」(…そうポク) 肩を落とす仔実蒼。本人にとっては不本意なようだ。 「どうして託児されたの?」 「クポー、ポクポク」(ママが、ボクは人間に飼われて幸せになれって言ったポク) 『ウチは間に合ってるデスゥ!』 テツが吠える。威勢はいいが腰はずいぶん引けている。両手でテーブルの縁を掴み、まるでバイクにでも乗っているかのような、 実装石には難易度の高そうなポーズだ 「君のママは、実装石?」 「ポク」(そうポク) 「……どうしてママは実蒼石じゃなくて実装石なんだい?」 「? クポークポーポク」(? ママはママポク) 疑問にさえ思っていないか。どうやらそのママに聞くしかなさそうだ。 親実装が早晩託児先に現れる確率は非常に高い。但し、移動の途中で「事故」に遭っていなければの話だ。 興味を抑えきれない私は親実装を迎えに行くことにした。 仔実蒼にその旨を伝えテーブルから下りないように指示し、心細いと騒ぐテツを飼育用水槽に隔離する。 自分のほうが隔離された事に不満を述べていたテツだが先程のプリンを渡すと一転、上機嫌でプリンの器を掲げ クルクルと回転し始める。たまに私に披露する実装ダンスより余程上手い。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1-3. 念のために捕獲用の装備を用意し、とりあえず先程のコンビニに向かったのだが、 位置的にはコンビニと自宅のほぼ中間で、親実装はちょうど「事故に遭っている」ところだった。 十代後半くらいの青年が実装石をバールのようなもので吊りあげている。 その顔には年相応の笑みを浮かべているが獲物を見降ろす目は冷ややかな──所謂虐待派と呼ばれる嗜好の人間だ。 面倒なことになりそうだが、まずは確認するべきだろう。 「ああ君、ちょっといいかな?」 「なんですか?」 青年は特に慌てる様子もなく振り向く。 「その実装石に聞きたい事があるんだが、いいかな?」 「いいですよ」 青年はあっさり頷くと実装石の口に捻じ込んでいたバールのようなものを引き抜いた。 「ゲベェ!」 アスファルトに叩きつけられ汚物と悲鳴を吐き出す親実装。いや、まだ先程託児した親実装とは断定できないか。 私はリンガルを手に話しかける。虐待派の手前、ややこしい部分は伏せていたほうがいいだろう。 「実装石、君に質問があるが、さっきコンビニで私に託児したのは君か?」 そう尋ねつつ私は指先を実装石の鼻先に近付けた。外出する前に仔実蒼に軽く触れてきたのだ。 実装石は有るか無いか判らない鼻をヒクヒクさせると、無言で頷いた。 「仔の匂いを追ってきたのか?」 やや躊躇いつつも、これも肯定。よく見れば服や髪は痛んではいるが賢い野良程度には清潔にしているようだ。 私は青年に向き直ると交渉を開始した。 「この実装石は私に託児した親実装のようだ」 「それで、なんですか?」 虐待派は愚直か逆にプライドの高い者が多いが、見たところどうやら彼は後者のようだ。 流石に実装石の虐待に信条を課している硬派なのか、それとも無駄にプライドが高いだけなのかまでは判らない。 まあ、率直にいってみよう。 「譲ってもらえないかな?」 青年は考える──振りをする。やはり面倒なことになったか。 「僕が譲ったとして、こいつをどうするんです?」 「それは、こいつ次第だね」 「はは、そうですね。あなたは、愛護派ですか?」 「うーん、愛護寄りのつもりだけれど、実装石から見たら虐待派かもね」 「あははっ、上手いですね。なんだか惜しくなってきましたよ」 手強いな。搦め手から攻めるとしよう。 「──ところで、随分と大きなバールのようなものだね?」 「え?」 彼の持つバールのようなものは工事現場にでもありそうな長大なものだった。実装石に使うにしては明らかにオーバキルだろう。 「知っているかい? 長さ24cm以上のバール及びバールのようなものは個人が所持しているだけで法律違反になるんだ。 特にこんな住宅街で所持しているのを見つかると大変まずい事になる」 『特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律』というやつだ。詳しくはググればいい。 青年は目に見えて不機嫌になった。 「……それが何なんですか?」 私は懐から捕獲用に持ってきたバールのようなものを取りだした。柄のスイッチを押すと澄んだ音をたてて全長が1mほどにもなる。 「──虐待派?」 「さっきの法律をクリアするメイデン社製バールのようなものだ。これと交換でどうだろう? 無理なら諦めるよ」 カーボンとチタンで造られた、少々値の張る逸品だ。勿論開錠には適さず「使用感」としてはゴルフクラブに近い。 青年は少し考え、微笑した。 「いえ、無償でお譲りします」 ほう──、 「そのかわり、今度会ったら色々と教えてくれますか。あっちの公園を縄張りにしようと思ってますんで」 自分のバールのようなもので双葉西公園の方角を示した。 「そうか、無理を言って済まない。有難う」 礼を言い頭を下げると青年は少し戸惑っていた。 「別に──あ、ところでそいつ」 逸らした視線の先でナメクジのように緑色のすじを残して懸命に這いずっていた実装石を指し示す。 「多分、長生きしないと思いますよ」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1-4. やはりタダより高いものは無いな、と思いつつ私は帰宅した。そういえば名前さえ聞いていないが、縁があればまた逢う こともあるだろう。親実装をぶら下げ浴室に直行する。 洗面器に湯をかけ流しスポンジを放り込む。 「自分で洗えるか?」 「デスゥ」 頷く実装石。やはり賢い部類のようだ。元飼いかもしれない。 「仔を連れてくるから一緒に洗え。服はこっちで洗うからこのカゴに入れろ」 「デ、デスゥ!」 台所へ戻ると仔実蒼は鋏を抱いたまま寝ていた。突いて起こし浴室に運ぶ。 「ポクーーーー!!」 「デッスゥーーーーーーーーー!!」 ひしと抱き合う親と仔。別に感動しないが、どうやら本当に親子のようだ。 だがしかし、それよりも私が今一番気になるのは、親実装は既に服を脱いでいたが、その、チャック…付いてる…? 親実装の股から胸元まで一直線、白く輝く大きなジッパーがあり、胸元のプーラーがまるでネクタイのように揺れていた。 ……まあ、焦る必要はない。私は二匹をとっとと浴室へ追いやり、服を洗濯機に放り込む。実装服の素地はフェルトに近いため 意外と洗濯機で洗うのが難しい。実装服専用洗剤とそのパッケージに書いてある洗い方を読むまでに何枚も服を駄目にしたものだ。 洗濯の合間に居間へ戻り、テツの水槽を覗きこむ。 テツはプリンの容器の前に正座して、前掛けに涎を垂らしまくっていた。 「あ…」 『ご主人様、ヒドイデスゥ…』 マジ泣きしている。そういえば勝手に食べていいとは言ってなかった。 「済まん済まん。食べていいぞ」 『デッス〜♪』 テツはプリンに飛びつき──直前で手を止める。私を見上げ、見上げたままゆっくりと元の態勢まで戻る。なかなか面白い動きだ。 『いただきますデス』 短い両手を胸元で合わせ、一礼した。 「うむ、偉いぞ。良く思い出したな」 『これのおかげデス』 振り上げたテツの両手には焼き抉られた溝がある。 私がネットでよく利用する実装石関連のサイトの掲示板に書き込まれた、躾の際に癒えない傷を残すことで実装石の自重を促す、 というアイデアを実践したものだ。 『デッス〜ン♪ デッス〜ン♪』 折角なので頻繁に視界に入る両手の内側に焼きを入れたところ、テツの素行は一変した。諸事情で何度か焼きを入れ直したが、 テツは最後には位置に注文まで付け、その溝を利用してよりしっかりと物を持てる工夫まで行っている。 『プリンはキューキョクのスイーツデスゥ』 きっと一流の実装石ブリーダーならそんなもの必要無いだろう。もっとも当時のテツ程度の賢さの仔実装は調教の対象には ならないかもしれないが。 『ごちそうさまデース』 容器を片付け、テツ自身に前掛けを交換させる。それほど汚れていないので濯ぎ中の洗濯機の中に放り込む。 浴室からははしゃぐような二匹の声が聞こえてくる。念のため脱衣所に置いておいた携帯のリンガルのログをチェックするが、 間違いなく親子である事が判るだけの他愛もない会話しか記録されていない。 脱水が終了したので服を乾燥機に放り込む。ものが小さいだけに直ぐに乾くのだが縮まないように気をつけなければならない。 同時に洗濯機にもう一度注水し、実装用万能クリーナーを適量入れ空洗いする。面倒だが洗濯機を共用する以上必須な作業だ。 因みにこの万能クリーナー、原液を実装石にかけると、溶けるらしい。 「ああ、それにしても、腹が減ったな…」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2-1. すっかり冷えたコンビニ弁当で腹を満たした頃には、時刻は20時をまわっていた。 居間の炬燵の上では件の親仔実装が大人しく実装フードを食べている。親実装のほうは明らかに躾の痕跡が窺える。 仔用のフードは用意してなかったので、仔実蒼には水に浸してレンジで柔らかくしたものを出したが問題なさそうだ。 ……実蒼石は肉食動物と草食動物の関係のように実装石の肉や偽石も好むという話を聞いたが、どうなんだろうか? 親実装がいるせいかテツは警戒を緩め、自分の着替えを畳みながら二匹を観察している。 テツは手洗いに拘りがあるらしく、入浴時に自分で服を洗う。自分が汚したものは自分で掃除するようにもなったが、 先程の万能クリーナーで自分の手足を溶かす事もしばしばだ。 ……そろそろ謎解きをやってみるか。 予備の多機能首輪を親実装に取付け、話しかける。 「言葉は伝わっているか? 何か喋ってみろ」 『リンガルは知っているデス。親子とも助けて頂いて感謝していますデス』 親実装は両手をついて深々と土下座をしてのけた。つられるように仔実蒼も前に傾く。 変に対抗意識を燃やしたのか横のほうでテツが土下座を真似をしようと悪戦苦闘している。 「お前、元飼い実装か?」 『少し違うと思うデス。私は、生産石だったと思うデス』 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2-2. 親実装の知識と言葉だけでは判りにくいので、私の想像で補足するとこういう事らしい。 彼女は、ある実蒼石ブリーダーに飼われていた。 昨今、実蒼石の数は人の手によって増加の傾向にある。といっても実装石に比べれば 人口に対する警官の数(1000人に対し1〜3人)と似たようなものらしい。 一般に余り出回らない愛玩用の躾済み高級実蒼石、戦闘用の訓練済み実蒼石は高く売れるため優先され、 実装ショップ等からの需要に対し、供給が追い付いてないそうだ。 この辺りの真偽は不明だが、実蒼石が増やしにくい事ははっきりしている。 実蒼石の生態についてはある程度解明され、ネットにも開示されていた。 曰く、妊娠方法は実装石と同じであるが、蒼マラとの交尾という例外を除けば発情期でなければ妊娠しない。 実装石ほどの再生力は無いため目の色を変える強制的な妊娠、出産では効果が薄く成長も期待できない。 数ヶ月の妊娠期間があり、一度の出産数は平均1〜2匹。生涯で産めるのは人の手によっても十数匹が限度らしい。 どれほど正確な情報かは判らないが、親実装の言葉を信じるなら大きな違いは無いようだ。 話は戻るが、そのブリーダーは、ひょんな事から実装石に仔実蒼を産ませる方法を発見したらしい。 実装石は極々稀に仔実蒼を産む事があると言われている。そして親実装の間引きから逃れた、又は捨てられた仔実蒼達が 生き延び、野良実蒼石の始まりとなったという噂もある。 確かに実装石と実蒼石を一緒に飼っていたら実装石が仔実蒼も産んだ、という話は聞いた事があった。 そのブリーダーは試行錯誤のうえ賢い実装石に教育と何らかの処置を施し、高級実蒼石と番いの様に生活させることで 実装石に仔実蒼をコンスタントに生産させる手法を確立させた。 仔実蒼が産まれる確率は出産数の1〜2割ほどであったが、実装石の妊娠しやすさ、妊娠—出産—再妊娠までのサイクルの短さ、 出産数を考えれば生産量は従来の数倍となり、かつ貴重な高級実蒼石を痛めない。 また、同時に生まれた仔実装と親子で生活する期間を調整する事によって、実蒼石の躾で最も難しいとされる 実装石への攻撃本能を抑制し易くなるというメリットもあった。 更に文字どおり副産物である仔実装達も、親や姉妹である実蒼石への本能的恐怖が殆ど失われ、選別した賢い個体は 仔実蒼を産んでもストレスにならない理想的な次の母体候補となった。 私の前にいる彼女も、何代目かは知らないがその母体の一匹であったらしい。 「とんでもない話だな」 『本当の事デス』 今のところ話の筋は通っているように思えた。少なくとも実装石の頭で出来る作り話ではない。 『私も沢山の子供達を産んだデスゥ。どの仔も大切な私の子デスゥ』 「ポクー」 彼女は生産石というカテゴリーではあったが、以前ブリーダーが用意した乳母実装では仔の情操教育に失敗したため 髪を再生し服も返され、短い期間だけ番い役の実蒼石と共に仔に接し、それから数日の教育と自由の後で再度の禿裸、 妊娠、出産というサイクルを幾度となく繰り返していた。(毎回禿裸にするのはブリーダーの嗜好もあるようだ) 200匹近い仔実蒼と1000匹以上の仔実装を産んだだろうか。実装石の出産にも限界があり、彼女の生産能力も衰えてきた。 未熟児が増え、仔実蒼を産む割合も減っていった。 次の母体は十分にあったが、ブリーダーは優秀な生産石であった彼女を最後まで使いきろうと、剪定を始めた。 腹を裂いて不要な仔実装の胎児を潰すようになったのだ。他の胎児にまわる栄養が増え、仔実蒼の品質も回復した。 開腹の手間を省くため腹部には樹脂製のジッパーが癒着された。命の源である偽石は一度抜かれ、コーティングして戻された。 そしてブリーダーは彼女にあと10回の出産に耐えれば生産石から解放し、最後に産んだ仔との不自由の無い生活を約束した。 「……実装石に嘘は付かない。そういうスタンスを持つ虐待派が増えているそうだ。理由は、実装石という下等生物に 嘘まで使う事は人間としてプライドが許さない、だったか?」 『おフランスのキゾクのようデスー』 「まあ結局はより高度に騙す事には変わりないんだけどな。実際は逆に、ゲームを楽しむために自分にルールを課した、 実装石へのハンディのようなものだと思うんだが」 『知ってるデス。コーソクレイプというマニアッコーデス』 「……縛りプレイか?」 『あの、ええと…』 「ああ、済まない続けてくれ」 『ごめんなさいデス』 『私はブリーダーさんとの約束を信じて、ついに10回目の妊娠をしたデス』 ──その夜、彼女は突然の金属音に飛び起きた。 髪と服を戻された直後で安心感があったが、それ以上にこれで最後という、気持ちが昂って眠りが浅かったようだ。 パチン、またパチンと、実際にはそれほど大きな音は立てず、彼女のケージが切断されてゆく。 「ボクー」 彼女に騒がないよう忠告するのは、パートナーの実蒼石だった。 「デスゥ?」 実蒼石はその鋏でケージに穴を開け終わると、彼女を窓から外に連れ出した。 そして逃げろと促す。 実蒼石が言うには、10回目の出産後に彼女は処分されるという。前回の、つまり彼女の母親も、そしてその母親もそうだったと。 ショックで彼女の偽石が自壊しなかったのは、皮肉にもブリーダーの施したコーティングのおかげだった。 彼女は実蒼石へ一緒に逃げようと願ったが、拒絶される。 実蒼石の偽石はブリーダーが保管していた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2-3. 彼女は賢い実装石だった。 実蒼石の助言に従って出来る限り遠くへ逃げた。 昼間は飼い実装の振りをして堂々と進む。人通りの多い場所のほうがかえって安全だと実蒼石は言っていた。 夜になると首輪を外して野良実装に紛れゴミを漁った。夜なら元飼いだと気付かれないと実蒼石は言っていた。 10日程も歩いただろうか。腹の膨らみはそろそろ行動に支障をきたし始めていた。──いや逆だ。これ以上の移動は腹の仔に障る。 十分な距離が稼げたか不安があったが、彼女はこの地に根を下ろすことにした。 首輪を近くの公園の裕福な野良実装へ譲り、対価として当面の食料を入手した彼女は、橋の下に巣を作った。 飼いであった痕跡はとっくに消えていたが、野良の同族に交じる気は無かった。恐らく自分の最後の仔になるであろう この子は、間違いなく実蒼石なのだから。 彼女は賢く経験に富んだ実装石だった。 ブリーダーの元にいた頃は外出する事自体は少なかったが、長く生きればそれなりに経験は積まれる。胎教と育児のために 実装石としては高い教育を受けていたし、他の仲間達も多くの事を知っていた。なにより出産後の僅かな自由時間は 増長さえしなければ大抵の願いは叶えてもらえた。 人間に連れられ何度も公園に散歩へ出かけ、興味深く同族を観察し、僅かな幸福と喜びと、 それらを容易く蹂躙する非情な現実を知っていた。 だからもう公園には近付かない。 他実装にも、特に実蒼石には決して遭ってはならないのだが、天敵であるという知識は有るが恐怖が全く無い為、 ふと見かけた実蒼石についつい近寄ってしまい、一度死にかけた。飼い主が近くにいたおかげで助かったが、 人間にも出来る事なら関わるべきではない。 出産は非常に容易かった。産まれたのは一匹だったし、彼女ほどの経験者はそうはいない。 身軽になると更に人目を避けるため、目を付けていた廃屋に移り住み仔を育てた。 廃屋は何度か愚かな野良実装の襲撃に遭ったが、我が子を見ると勘違いして一目散に逃げ出し、やがて何も近づかなくなった。 彼女は賢く経験に富んだ上に運も良い実装石だった。 だが自然の摂理だけはどうにかなるものではない。野良の逞しさを身につけるより早く訪れた冬の厳しさは、彼女の知識で補える 範囲を超えていた。温室育ちにその寒さの経験は無かった。餌さえ見つからない日々が続き、貯蓄はあっという間に無くなった。 これでもまだ、冬の始まりにすぎないはずだ。 そして彼女は、自分の命の衰えを感じ始めていた。恐らくこの冬は越えられない。自分が死ねばまだ幼い、実装石に育てられた この仔も生きてはゆけないだろう。 そして彼女は、決断した──。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2-4. 『これで全部デス』 話し終えた親実装には無駄に貫禄があった。 『オロローン! オロローン!』 テツがまたマジ泣きしている。どうやら感動してるようだ。その鳴き声はよく判らんがなんだか懐かしいな。 「ん、面白い話だった。で、これからどうする?」 親実装は再び土下座する。 『出来ればこの仔を飼って欲しいデス。仔実蒼なら欲しがる人間サンは多いはずデス』 「ポクッ!ポク!」 「いいだろう。で、お前はどうするんだ?」 親実装はひたすら土下座する。 『……お庭の隅でいいデスから、置いて欲しいデス。私はもうそんなに長くないデス。決してご迷惑はかけないデス。 最後はこの仔の傍で迎えたいデス』 『御いゅじん様ー、私からもお゛お願い、するデスー』 テツが横に並んで土下座──は無理だったようで畳に体を投げ出して土下座寝をした。 「……まあ、いいだろう」 実蒼石も飼ってみようかと最近色々調べていたところだ。丁度いい。 『有難う御座いますデス!』 「但し、私の躾は厳しいぞ」 と釘は刺したものの、賢い元飼い実装と、実装石を敵視しない仔実蒼だ。躾の楽しみは余りないだろう。 『よかったデスー!』 親仔の手を取ってはしゃぐテツ。すっかり打ち解けてしまったようだ。 この辺りでは実装石の所持には飼育許可と保健所での定期的な防疫が必須だが、個体登録は任意となっている。 逆に実蒼石は危険生物に準されているため早急な登録が必要だ。確か入手後7日以内だったか。 (まあお役所仕事というやつで多少遅くなっても問題は無い)来週にでも手続きをするとして、 ──時刻は既に22時近い。親実装と半分寝ている仔実蒼を飼育用水槽に入れて我が家のルールを少しだけ説明する。 残りは明日にするとしよう。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 3-1. 伸びをする。昨晩はネットで色々と調べ物をして少々夜更かししてしまった。 まあ今日は休日だ、のんびり過ごそう。 遅い朝食を摂り、庭で実装達の訓練を始める。復習としてテツも参加させる。 「君達が私に飼われ、生活を保障される為には、私の手伝いを行い、自分の事は自分で出来るようにならなくてはならない。 生活のルールは生活の中で少しずつ教えるとして、今日は手始めに簡単な作業を行う。準備はいいか?」 『デッスー!』 『はいデス』 「ポクー」 行うのは庭の手入れ。小さな庭の草は枯れ、乾燥しきった枯葉が散乱している。 予想通りというべきか、親実装は体力が余り無い事を除けば指示をそつ無くこなし、一度教えれば間違えない。 今回は難易度の高い要求はしていないが、まあ合格だろう。 仔実蒼の躾については、ネットで仕入れた知識はあるが今回が初めてだ。手探りで進むしかない。 「仔実蒼は鋏で植木を切りなさい。届く範囲の細い枝を切るように」 「ポク!」 テツは親仔と仲良くなったものの、高い教育を受けたであろう知的な親実装に対抗心があるようで、妙に張り切っている。 先輩風を吹かせるところもあるが率先して親仔の見本となっている。──あ、失敗した。 軽くデコピンする。 『アゥ! ……ごめんなさいデスゥ』 「──今回は訓練という事で、失敗には軽いペナルティ、罰があるが、普段生活する中でのちょっとした失敗に罪は問わない」 『デス?』 「例えば、今テツが植木鉢をひっくり返したが、元通りに戻せば問題ない。枝を折ったり鉢を割ったりしても、すぐに謝罪すれば 軽い罰で済む。だがわざと汚したり物を壊したり、失敗を隠す、放置する、──そんな事をすれば重い罰が待っている。 よく覚えておくように」 『ご主人様のオシオキはサデズムだから気を付けるデスゥ』 ……まあ否定はしない。 『サデステックアニモー、デスゥ』 もう一発、強めにデコピンした。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 3-2. 昼食後、テツに指導を任せ、私は双葉西公園に来ていた。 昨日の虐待派の青年がいるかとも思ったが、偶然はそうそうあるものではない。 仔実蒼の登録を済ませた後に、実装石を狩る訓練をさせようと思い、なんとなく下見に来たのだ。 普通飼い実蒼は実装石への殺戮本能を抑える訓練が必要なのだが、親実装と長く居過ぎたのか、あの仔実蒼に実装石という 種への本能は薄そうだった。 敵意を持って襲ってくる者への自衛くらいは出来るだろうが、私は仔実蒼を愛玩するだけのものにするつもりはない。 公園は閑散としていたが、実装石の姿が絶える事は無い。冬本番を迎え、公園の野良実装のうち賢い実装は既に準備を整え、 冬を知らない若い実装は今頃になって必死に餌を集め、愚かな実装は普段と変わりない。 ベンチに腰を下ろし休んでいると、すぐに数組の実装家族が近寄ってくる。 「デッスゥ〜ン♪」 「テチー」「テッチューーン!」 「デス! デス! デスーン」「テチュー」 媚びるもの、仔実装を掲げるもの、何やら要求してるようなもの、変わりない。 ところで、虫を潰した事は有るだろうか? 私は幼少の頃よくやった。毛虫などを一方的に悪者にして積極的に退治して いたりした。枝で刺したり自転車で潰したり、そのうち公園のコンクリート部分は干からびた死骸で一杯になったものだ。 (実装石の多い公園では、低い位置に虫の姿を見る事はあまり無い) もちろん今はそんな事はしない。大人になったから、命の大切さを学んだから、というのもあかもしれないが、 ──何より汚くて、臭い。靴も汚れる。率先して潰そうとは思わない。 「悪いが食べ物は持ってない」 すぐに半分ほどの実装石が姿を消す。残ったのは他の要求があるか愚かものだ。 「テッチ、テッチ」 近付いてくる仔実装をつま先で軽く押し返す。 「テッチ、テッチ、テヂッ!?」 元々バランスの悪い体形だ。仔実装は簡単に転がり、パンツを緑色に膨らませる。 これを見て更に一組の親子が去った。残ったのは転んだ仔実装の家族と不気味なダンスを始めた一匹のみ。 「デース! デスデスデース!」 親らしき実装石が仔を支え、泡を吹いて吠えたてる。謝罪と賠償でも求めているのだろう。 「与えるものは無い。消えなさい」 「デス! デスデスデス! デデース! デス〜ン♪」 何故最後に媚びが入るのだろうか? まあどうでもいい。五月蠅いのでそろそろお引き取り願おう。 コートからバールのようなものを取り出し柄のスイッチを押す。澄んだ音をたてて全長が1mほどに伸びる。 流石にこれを見て粘るような成体はいなかったようだ。ダンス実装は既に逃走し、親実装は仔をかき集めると逃げ出した。 「テチー!」 両手に持ち切れなかった二匹が鳴きながら後を追い、足元に無知な一匹が残った。 一閃──、 「デ@クェrチュオpヂェ!!?」 実装親仔が纏めて吹っ飛んだ。視線を上げると、そこには昨日の青年がいた。 「こんにちは」 「やあ」 「また会いましたね」 青年は親実装の上半分に止めを刺す。抱えていた仔は最初の一振りで消し飛んでいた。──おや? 「もう買ったのかい?」 彼の持つバールのようなものは、昨日の無骨な鉄塊では無く、私のと同タイプの物に変わっていた。 「ええ今朝。コレいいですね。扱いやすい重さで、何より手応えがいい──」 パンコンして立ち尽くす仔実装めがけ軽くスイングする。 「ビョ!」 「チブッ!」 打たれた仔の頭部が半壊しながらゴルフボールのようにもう一匹に直撃し、二つとも弾け飛ぶ。 残った胴体は直立したまま首から赤と緑の体液を溢れさせた。 「ははっ、すげえ」 どうやら彼は虐殺寄りの虐待派のようだ。 「まあ、普通のバールのようなものはシンプルだし威力もあるけれど、ステルス性は過信しない方がいい。実際、鉄の棒だしね」 「でもその分高かったですよ。あなたの持っているワンタッチで伸びるようなやつが欲しかったけれど諦めました」 「次買えばいいさ」 私は自分の獲物を折り畳み、若者は一振りして汚物を飛ばす。 「そいつはどうするんです?」 私の足元の、ただ一匹生き残った無知な仔実装を指し示す。 「別に要らないな」 「では僕がテイクアウトします」 若者はバールのようなものの先に仔実装の頭巾を上手く引っかけた。 「テチューン♪」 「……こいつ馬鹿みたいですね」 「馬鹿だね」 「ああ、そういえばお互いまだ名前も知りませんね。僕は──」 結果として虐待派の友人が出来た事を報告しておく。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 3-3. 虐待派の彼、トシアキは進学のため近所のアパートに引っ越してきた学生だった。実装歴は2ヶ月、そのうち虐待歴は1ヶ月ほど。 愛護派については今のところ含むところは無いそうで、苦学生に3時の飲茶でも振舞おうと自宅へ招く道すがら、 思いきって仔実蒼の託児についても仔細は省き打ち明けてみた。 「──というわけだ」 「へえ、いいですね。僕も財布に余裕があったら実蒼石を飼いたいんですけどね」 実蒼石はショップで販売する場合、必ず危険性のテストをクリアした躾済みでなければならないため、 普通の仔実蒼でも高級仔実装に並ぶ価格になる事が多い。 因みに実装ショップで買える最も高価な、血統書付き特級仔実装の価格は、仔犬の数倍にもなる。 「君のアパート、ペット可かい?」 「あー、まあ水槽の中でなら」 「テチュー♪」 無知で不幸な仔実装は、相変わらず家族の体液の染み付いたバールのようなものの先で揺れている。 高い視点に怯える事も無く、ご機嫌だった。 自宅へ到着──したが、何やら庭が騒がしい。 庭にまわってみると男が二人。スーツ姿の中年と、作業服姿の若者。若者はケージと、一昔前の携帯電話のような大型の機器を 肩から下げていた。 「家に何か御用ですか?」 「あっ──」 動揺する作業服姿のケージに仔実蒼が捕らわれていることを確認する。 対照的にスーツの男は冷静そのもので、深々とお辞儀をする。 「これは大変失礼しました。私達はこういうものです」 渡された名刺には『実装○×商会 代表 青井 龍人』と記載されていた。アオイ リュウジン。 「……タツヒト、さんですか?」 「リュート、です」 DQNネームが昔からあった生き証人だった。トシアキが私の陰に移動して微かに吹き出している。酷い奴だ。 それほど悪い名前ではない。テツは私のネーミングセンスを酷評しているが。 そのテツを探すと、縁側の窓ガラスの向こうで外に飛び出そうとしている親実装を懸命に抑えている。 どうやらテツが機転を働かせたようだ。多機能首輪に搭載されたICチップにより、テツと親実装だけは そこのペット用扉から出入りが出来る。仔実蒼はどちらかが抱いて通ればいいと思っていたが、間に合わなかったのだろう。 「で、どういった御用でしょうか?」 「じつは、逃げた我が社の実装石を探しておりまして。そこに──」 手刀で親実装を示す。成程、件のブリーダーだったか。 「ほう、それは確かなのですか?」 「はい。君、こちらの方に説明を」 作業員が私に、肩から下げた機器に繋がったPDAのようなものを見せる。 「これは偽石ソナーといいまして、実装石の偽石の位置を探る偽石スキャナーの広域版のようなものです」 画面には中心に青い点が一つ。その傍に緑の点が一つ。少し離れて緑の点が二つ。うち一つは点滅している。 「ふうん、こんなのもあるんだ」 トシアキが興味深そうに横から画面を覗き込む。 「個体記録と共に保存しておいた偽石の波長データを入力すれば、該当するものが点滅します」 作業員が緑の点滅を指で突くと、画面に親実装の写真とデータが表示された。 成程。生産の為か親実装の偽石が抜かれていなかったのは僥倖だと思っていたが、こういう落とし穴があったか。 「この装置は検索範囲が狭く、苦労しました」 「そうですか。ところでその仔実蒼はうちの子ですが」 「えっ、いやしかしうちの実装石が産──」 「君っ!」 口を滑らせかけた作業員を青井氏が叱責する。成程──。 「失礼致しました。すぐにお返しします」 「ポクーー!」 解放された仔実蒼が親実装の元に走る。抱き合う二匹を見て、青井氏は少し顔を顰めた。 私達の気を逸らすように素早く切り出す。 「我が社の実装石を保護して頂き誠に有難うございました。後ほど些少ですが御礼をさせて頂きますので──」 ……どうしたものか。 トシアキを見たが肩を竦めるだけだった。 「テチ?」 さて困った。別に親仔がどうしても欲しいわけではないが……交渉してみても損は無いだろう。 「そのセンサー、どのくらい正確なんですか?」 「的中率は95%です」 「そうですか。でも変ですね、あの実装石は確かに最近拾ったものですが、先日役所に登録したんですよ」 青井氏の顔色が変わる。企業と個人の場合でも同一個体の二重登録などもちろん出来ない。つまり親実装は未登録だったのだ! いやまあ、まだ登録してませんが。 推測は出来た。消耗品である生産石をいちいち登録したりはしない。トレーサビリティ、品質保証用に登録する場合はあるが、 その場合は公共のデータとなる。同じ実装石から産まれた仔実蒼が大量にいるというヒントから儲けのタネが明かされる 恐れがあり、偏見から売り上げも落ちるかもしれない。やりたくても出来ないのだろう。 「つまり、真偽は別として所有権は私にあります」 「これは困りました。なんとか買い戻させては頂けませんか?」 青井氏は苦笑いを浮かべているが、目は刺すように鋭い。 「そうですね……では、あの実装石自身に決めて貰いましょう」 私は青井氏と共に縁側に向かい、仔を背に庇う親実装の前に立つ。 「君は、この人の所に戻りたいかい?」 『嫌デス! 実装石との約束も守れないような人間サンは早く何処かに行って欲しいデス!』 『そうデス! 糞人間はインド人にウリアッ植え殺されて死んじゃえばいいデス! 確かみてみろデス!』 ガラス越しのせいか二匹とも強気だ。青井氏は腰を曲げ窓に顔を近付けた。 「お前──」 ビクッ、と二匹が後ずさる。どんな表情をしているのだろうか? 「お前を逃がした実蒼石、今、あいつが、どんな目に遭ってるか、知りたいか?」 ……そういうカードを切ってくるか。賢く愛情深いせいで親実装は目に見えて動揺している。 「可哀想に、まだ、生きてるぞ?」 声色だけは優しい。猫撫で声というやつだ。少し引く。 「お前が戻ってくれば、怒らないし、実蒼石も助けてやろう」 『わ…ワタシ、は……』 私を見上げる親実装。 仕方無い。私も切り札を切るとしよう。 「──その実蒼石も私に頂けませんか?」 青井氏が振り向く。なんというか、テツがよくやる姿勢と似ている。 「はい? どうしてあなたに──」 「逃亡のけじめという事もあるでしょうが、あなたが恐れているのは、その非常に賢い実装石から、とある秘密が漏れる事では ありませんか?」 「っ……!?」 私はやや芝居気味に肩を竦め諸手を広げる。 「もうバレてます」 ……成程、そんな顔をしていたか。 「大変素晴らしい手法ですね。ネットに開示すれば神認定されるでしょう」 「あなた! ……失礼、私を脅迫しているんですか?」 「取引ですよ。今のところ秘密を吹聴する気は有りません。今のところ」 『大事なことだから二回言ったデスゥ! ご主人様カッコイイデスゥ!』 テツうるさい。 「今日の住居侵入にも目を瞑りますし、心配なら引き換えに契約書なり念書なり書きましょう」 青井氏は深呼吸し、元の表情を取り戻した。 「…………判りました」 夕刻に出直しますと、青井氏は作業員と共に一度帰った。 「ふう…」 私は胸を撫で下ろす。 「いやあ、お見事でした」 トシアキが軽い拍手で称賛する。 「少々遊びが過ぎたよ。君がいて心強かった」 私は家に入るとケージを引っ張り出し、親仔を押し込む。 「トシアキ君、悪いが少しの間留守番を頼めるかい?」 「いいですけど、どうしたんですか?」 「テツ、お客様を御持て成ししろ──いや、ここの役所は一部開庁日に環境課の窓口も開けているからね、登録してくる」 ケージを持ち上げて示す。トシアキは目を丸くして、それから吹き出した。 「あはっ! カッコイイ! あははははははは──」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 3-4. 夕刻、時間どおりに青井氏達が訪れた。 実蒼石のものであろう、試験管の中で液体に浸された青い偽石と鋏、所有権放棄の書類、小さな紙袋を受け取る。 私は紙袋を除いて眉を顰めた。 「惨い事をする」 「全て再生できる傷のはずだ」 実装達の所有、秘密の厳守、以後この件で互いに干渉しない事を念書で取り交わす。 先程の作業員とトシアキが立会人になった。 「それでは。もう会う事も無いでしょう」 「そうですね。──そうそう、早く特許を取った方がいいですよ?」 去り際の背中に呼び掛ける。 「もう申請している」 青井氏は憮然と答えた。 傷ついた実蒼石に処置を施し、静かな二階に安置する。親実装は傍にいたがったようだが、見せられるような状態ではなかった。 「さて。トシアキ君、今日は色々と迷惑をかけた、申し訳ない」 「いいですよ、面白かったし」 「もしこの後用が無ければ、お詫びに夕食に招待したいのだが?」 休日だけは自炊する事にしている。腕をふるう事にしよう。 「御馳走になります。コンビニ弁当ばかりで飽き飽きしていたんです」 「テッチューーン♪」 「あ、まだ居たんだお前。それっ!」 「テヂューーーーーーーーーーーー……(キラーン) 食材が仕上がるまで居間で歓談する。摘みにとっておきのキャビアと黒ビールを出した。 トシアキは飲み慣れているようだ。堅い事は言わない。 「そういえば、テツコ以外には名前はあるんですか?」 「そういえば、忘れていたな……よし、正式にうちのものになった訳だし、決めるか」 『有難う御座いますデス!』 「ポクー!」 『……』 何だテツ、私にしか判らないようなその微妙な表情は? 「親実装、お前名前は有るか?」 『18号と呼ばれていたデス』 「ふむ……じゃあそれでいいか。あの親実蒼はクリリン。仔実蒼はマーロンだな」 「いやそれマズイです」 「うーん……じゃあ親実蒼はリュート」 『『「絶対ダメ!」デスゥ!』』「ポク!」 全員から突っ込まれた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 終わりに、 ──あれから半年後、家族と幸せを手に入れた親実装は老衰し、皆に看取られ静かに息を引き取った。庭に埋めた。 親実蒼の傷はほぼ再生し、仔に教えと技と授けた後、気が緩んだのかぽっくり死んだ。親実装の隣に埋めた。 仔実蒼は成長し、親実蒼の指導が効いたのか、分別をもって実装石を狩れる実蒼石になった。少しつまらない。 青井氏の会社は株式上場して直ぐにローゼン社に買収されたそうだ。だいぶ儲けた。 テツは何故か仔実装と仔実蒼を一匹ずつ産んだ。驚いた。 トシアキは虐待派を続けているが、足繁く我が家に通うようになった。どうやらテツの仔を狙っているようだ。庭に埋めた(お仕置) 私は変わらない。 END.
