実装KF その2
老夫婦がとしあきにペットのグリン達を殺されて1週間程過ぎた・・・
夫のほうは両手の甲の骨にヒビが入っていたがなんとか社会復帰できた
問題は婦人の方だった
としあきに鉄パイプで殴り飛ばされた時アバラ骨4本と右鎖骨が折れ、しかも2本が
肺に突き刺さり、そのうえ目の前でペットが殺されたショックで精神的に参ってしまい
退院のメドすら立っていない状態だ
もちろん老人はすぐにとしあきを器物損壊(グリン達の事)と傷害罪で訴え裁判を起した
だが裁判の担当を受けた弁護士が打ち合わせの時に意外な事を言い出した
「実装石絡みで加害者が虐待派でしょ?多分負けますよこの裁判」
「なんだと?どうして負けるんだ?こっちは被害者なんだぞ」
なぜこの弁護士はやる前から負けるなんて言い出すのだろうか?
「ですから実装石の愛護派と言うだけで嫌悪感を持つ人達が多いからですよ
あなただって世間で野良実装が引き起こす事件の数々位知ってるでしょ」
「そんな事位知っている、だがそれは野良実装だ!!私達のは・・・・」
「同じなんですよ、野良だろうと飼いだろうと世間の人達から見れば実装石である事には変わりないんですから
絶対に虐待派に同情が集まって虐待派よりの判決になりますよ」
悲しい現実が老人に突き付けられた
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
老人はしばらく考えたのち、弁護士に質問した
「結審はどれ位掛かる?」
「はあ?」
「最高裁まで争って何ヶ月位掛かるんだ?」
意外な質問に弁護士は少々面食らったが
「ええっと・・・そうですねぇ・・・・早くて大体一年半位・・・」
「引き伸ばせば?」
「う〜ん・・・・3年位でしょうか?」
「金に糸目はつけん・・・できる限り引き伸ばせ」
それだけ言うと老人は弁護士事務所を出たのち事務所の玄関に待たせてあった車に乗り込んだ
「本社に」
運転手に一言だけ言い、胸ポケットから携帯を取り出した
「私だ・・・ああ・・今すぐに例の選定をクリアーした技術者を集めろ・・・着き次第説明する」
それから30分後、老人は、「火立電機開発センター工場」にいた
そう、この老人の正体は世界で1,2位の電化製品のシェアを誇る”火立電気グループ”の会長、「火立電応」氏なのだ
「全員に集まって貰ったのは他でもない、今からある新製品の開発プロジェクトに関わって貰う
もちろん一切の情報を外部に漏らしてはならない、君達が当社の優秀な技術者と信じて期待する」
電応氏は集めた技術者に激励を送った後、開発する新製品の説明が始まった
それから10ヶ月たった8月、数々のテストをクリアーし、
火立電気から実装石対策商品「実装Y(避け)F(フィールド)」と「実装A(アンチ)B(バリア)」が全国発売された
前者はほとんどが業務用で街灯内組み込みタイプ、実装石が不快に感じる超音波を発し、範囲内から実装石を追い出すもので
後者の商品は家庭用が多く、これは前者の超音波から実装石を守るものである
そして前者は一個で大体半径1km以上は効果があるが、後者は業務用でも半径50mしかない
これには理由がある、それは実装ABが実装YFの効果を阻害しないようにする為だ
火立電気は採算ギリギリの安価で販売し、実装YFは全国99%以上の街灯に取り付けられる事となり
実装ABは全国のホームセンターやペットショップに卸された
今まで実装関係と言えばローゼン社かメイデン社が主流だったので
火立電気の実装産業への参入は一時期話題になった、だがしかし
実装YFが取り付けが全国で完了した10月半ば頃、表面上あまりたいした効果はなかった
目に見えた効果がない事にマスコミはこぞって火立電気を叩いた
「馴れない実装産業参入は大失敗か?」
「火立電気、今世紀稀に見る駄作品」
さんざんな悪評価であるにもかかわらず火立電気は一切のコメントを発表しなかった
そして年末には実装YFは人々の記憶からあっさりと消えた
だがしかし火立電気がまだ発表していない本来の効果がジワリジワリと野良実装石に少しずつ迫っていた
これは実装YFの効果範囲内にある公園に住む実装石一家のお話
「さあお前達ゴハンデス、明日はもっと枯葉を集めなきゃ冬を越せないデス」
愛情深い個体らしく3匹の子実装とささやかな夕食を始めようとしていた
「ママ、アタチ最近なんだかお腹がチクチクするテチ・・・」
「アタチも頭が・・・・」
「オネエチャ達もテチ?・・アタチもお胸が・・・」
親実装にとって可愛い愛娘達の訴えは不安を感じさせるものだった
「デエェェ・・・一体どうした事デス?そういえばこの前蛆ちゃんもお胸が痛いって言って死んだデス」
かく言う親も実は最近お腹に違和感のような痛みを感じていた
しかし実装一家にはこの痛みの原因や理由が分かる訳がなかった
そして冬が過ぎ、春になった
「暖かくなった事だし公園でバリバリ虐待するか!!」
虐待派の青年が使い慣れた虐待道具を持って近くの公園にやって来た
もちろん今年初の野外虐待を楽しむ為だ
杉やヒノキの花粉が飛び、暖かくなった事で野良実装石が毎年のように大増殖し・・・・・・てなかった。
「あれ?いつもならウジャウジャいるはずなのに?」
いつもと様子が違う、公園の広場にも公衆トイレにもいない・・・駆除があった訳でもないのに・・・
「おかしいなあ?まだ冬眠してんのか?」
青年はダンボールハウスを調べる事にした、ところが・・・
「なんだよ・・・・ここも全滅かよ・・・」
これで18個目、ここの家族も目が白濁していて完全死していた
だがその死に方はあまりにも不自然すぎた、食料は十分に残っているし防寒対策もキチンとやっている
そのうえ全てが眠るように死んでいる所から見てコロリを食べた感じには見えない
ましてや今年は特に異常気象でもなく平均的な冬だった
青年は公園の全てのダンボールハウスを調べ、あらためて全滅を確認した
「なんなんだよこれ・・・・しかたねえ、余所の公園に行くか」
あきらめて公園を出ようとした時顔なじみの虐待派に出会った
「あ、どうも」
向こうから軽く挨拶してきた
「あの、ここの公園の糞蟲全滅してるっすよ」
「は?マジで?ここの公園も」
「え?ここの公園もって?」
「他の6つの公園も橋の下も全滅してんだ・・・」
「ウソ!!でもおかしいっしょ!!実装石が全滅だなんて・・・」
青年には彼の言葉が信じられなかった、しかし
「そうなんだよ・・・でもここもいないんだろ」
「うう・・・・・・・」
なんだかやり切れない気分になったが野良実装石がいないのではしょうがない
仕方なく青年は家に帰りいつも見る虐待師サイト「虐待LOVE」を開いた、ところが
「な・・なんじゃこりゃぁ!!」
青年は思わず叫んだ
それは全ての話題が実装石の全滅の話題一色になっていたからだ
「O府のバール男爵なんだけど俺の近所、春になってから糞蟲が一匹もいなくなっちまった」
「S県の紳士同盟です、野良実装の繁殖してる場所があれば誰か教えてください、私の周囲はもう駄目です」
「H県の実装狩人だ、野良実装が急にいなくなってから店の実装石の値段が4倍に跳ね上がった」
どれもこれもこんな内容ばかりのスレに青年は驚愕した
「嘘だろ・・・・・俺の町だけじゃないのか・・・」
にわかには信じられなかったが嘘の書き込みじゃないのは確かのようだ
この異常現象はたちまち日本中(もとから実装石のいない大分県を除く)で大ニュースとなり
「原因不明の全滅現象」
「天変地異の前触れか」
「実装対策省、原因調査の開始」
新聞、TV、ネット、ほとんどのマスコミが連日のようにこの怪現象を報道した
そんな中、火立電気がある重大発表を行った
「今現在、日本全国で起こっている野良実装石の激減化は
当社が以前発売設置した実装YFの効果です、そして今まで秘密裏にしていましたが
実装YFの本当の名前は実装K(キラー)F(フィールド)、つまり
実装石を時間をかけて殺すフィールドを発生させる装置なのです」
この重大発表に世間は度肝を抜かれた、つまりこう言う事だ
実装YFこと実装KFの原理は実装音叉と全く同じ超音波を発生させる装置なのだ
しかも一気に強い超音波を発生させるのではなく
24時間絶えず微弱な超音波を発生し続けるので4〜5日浴びた程度ではなんともないが
1ヶ月以上浴びれば体内の偽石は僅かなストレスで簡単に砕ける程脆くなる
しかも設置が完了したのが秋だったのも計算の上での事だ
冬眠はもっとも実装石が動き回らず、ストレスを受けやすいし、
死んでもほとんどがダンボールハウスの中に入ったままなので後始末も結構楽に済む
なにより実装KFを実装YFと偽って発表したのは虐待派対策の為だ
もし最初からKFの名前で販売していたのなら間違いなく虐待派が黙っていなかっただろう
電応氏は過去、根絶に効果的な機械や薬品が世に出る前に狂信的な虐待派によって秘密裏に駆逐されているのを知っていた
狂信的な虐待派にとって野良実装石は自分達の私物であり、常日頃は「野良実装石は根絶すべき」と言っているが
その実は野良実装石の根絶を行おうとする者を社会的権力や暴力で徹底的に排除する危険な連中だからだ
だからこそ効果が現れるのに時間がかかるように調整し、
いかにも効果が低そうな名前で販売かつ設置した
その結果、販売当時は「世紀の失敗作」と誰もが罵り、あっという間に
人々の記憶から消え去り、虐待派達のマークを完全に外した。
虐待派たちが気が付いた時には既に遅く、確実な効果を世に知らしめ、世間から絶大な好評価を獲得した後だった
こうなってしまっては秘密裏に駆逐など不可能、
ましてや世界有数の超巨大企業相手に営業妨害や社会的制裁なんて絶対無理、やれば返り討ちは必至だ
全ては計算、裁判を起す事を決めた日から何もかも電応氏の計算した通りだった
しかしこれはまだ電応氏にとってまだ計画上の通過点の一部にしか過ぎない
計画の終着点はまだ先に存在する・・・・・・・
続く
