タイトル:【風物】 最後に人が一人逝きます
ファイル:松茸実装.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2889 レス数:0
初投稿日時:2009/09/13-12:16:26修正日時:2009/09/13-12:16:26
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                        松茸実装 






都会の喧騒とは全く無縁の小さな山あいの村、

俺の名前は「」、4年前にこの村に住んでいた唯一の肉親だった祖父が亡くなり、それを期に都会生活をドロップアウトした。


当初は深夜コンビニ以外開いてる店のないこんな所でうまくやっていけるのかと不安だったが

祖父の酒飲み仲間だったあきとしさんや近所のおばちゃん達のおかげで農協で事務整理の仕事にありつけた。

村の人達もみんないい人達でうまくやっていけそうだ。


この村がどの位田舎かと言うと野良実装がいないことだ。だから買い物帰りに託児とか家宅侵入なんかの被害なんて

この村ではTVの向こうの話だ。都会にいる友人にそう教えたら、「嘘つくな」と怒られたけど・・・・・・

じゃあここに住んでいる人は実装石と無縁かと言うとそうでもない。



それは9月の中頃、稲刈りや野菜の収穫とは別に少し騒がしくなる

遠くの町からわざわざ布切れをたくさん買ってきたり、家の裏庭のドングリや虫食いの栗(いい栗は自分家の食卓に)

を集めたり、古い倉庫や使わなくなった芋の貯蔵庫を掃除したりとみんな忙しくなる。

そして一通りそんな作業が終わる頃、使い古した竹篭にあふれんばかりに松茸を詰め込み

山から実装石の一家がやって来る。

「ニンゲンサ〜ン!!またお宿を借りに来たデス〜」



この辺りの実装石はみんな赤松が大量に生い茂る山の中腹に住んでいる

2〜300年位前はゴツゴツした岩壁だったらしいが

いつの頃からか赤松が根付きだし、さらに最初の赤松の種が岩の隙間やヒビ割れの中で芽を出し

100年程で今の松林になり、さらに経緯は不明だが松茸も生えるようになった。

赤松が成長する事によって岩壁にだんだんと大きなヒビが増え、

そのヒビ割れによってできた小さな洞穴に山実装が移り住み、今に至っている。

この山の松茸の自生地には人間は入る事はできない

それは決して山実装達の為じゃない,さっきも言ったけど

元は岩壁だった所に赤松が岩壁を割りながら生えているから極めて足場が脆くて狭いのだ。

せいぜい重くても10kg程度の実装石には普通の岩場の道でも人間では訳が違う

運が悪ければしがみ付いた赤松ごと谷底に落っこちるなんてことも・・・・・・

天敵の少ない岩場にももちろん欠点がある、

一年を通して風通しのよい谷間だから冬場なんて冷凍庫以上の寒さになる。

最初は冬の間、山に戻って過ごしていたらしいが岩場から出てきた所をこれ幸いと冬眠前の熊や狐にほとんどが喰われた。

その中の何匹かが覚悟を決めて人里に家の近くに生えていた松茸を集めて冬の間の間借りを頼み込んだ。

これが今の松茸実装の始まりらしい。


そして我が家にもたくさんの松茸を持参して実装一家がやって来た。

「「ニンゲンサン、今年もよろしくお願いしますデス」」

「「「お願いしますテチー」」」

「レフー」

家に来たのは成体と中型が各一匹、仔が三匹、蛆が一匹の大所帯だ、

なにぶん余所の山実装や野良実装よりも快適な越冬ができるので秋仔や蛆も家族として育てられる。

でもここで快適な越冬ができても山に戻れば鴉やスズメ蜂、果てや野良犬や野良猫の餌食になりどれだけ生き残るのやら・・・

「よく来たね、じゃあ付いておいで」

俺はさっそく松茸を受け取ってから実装一家を家の横の畑にある芋の貯蔵庫に案内した。

「広いテチー」

「フカフカがいっぱいテチー」

「木の実のオヤマテチー」

「プニフープニフー」

「ありがとうございますニンゲンサン」

「お前タチもニンゲンサンにお礼を言うデス」

仔実装ははしゃぎ回り、親はお礼を言い、蛆はプニプニをせがむ、毎年変わらない光景だ。

適当にあしらい貯蔵庫を後にして、この後は実装達には近寄らないようにする。春になれば勝手に山に帰るし

不必要に構い過ぎると山に帰らなくなり糞蟲化するからだ。

当然の事だが虐待したり食べるなんて持っての他だ。


今から20年位前にたまたま通りすがりに松茸実装を見かけた余所の男が

松茸を横取りしてさらにその実装一家を近くの河原で捌いて山実装バーベキューを始めた。

生きながら捌かれる同族の悲鳴が聞こえるや否や村にいた実装達は我先に山へと逃げていった。

「ハヤク逃げるデスー!!殺されるデスー!!」

「やっぱりニンゲンなんて信用するモノじゃないデスー!!」

「ニンゲンは悪魔デスー!!お山に帰るデスー!!」

「デエエエーーーーーーン、食べられるデスー!!死にたくないデスー」

最初はなんで実装達が逃げ出したのか判らなかったが河原のバーベキューに気付いて

村中の人間が河原に集まった

「うは、うめえうめえ、やっぱ山実装は捌いてすぐに焼いて食うのが一番うめえ・・・・・ん?」

夢中で焼いた実装に齧り付いていた男は自分を取り囲んでいる村人にやっと気付いた。

「なんだテメエ等?やらんぞ、これは全部俺のもんだ、欲しけりゃ自分で・・・・・」

言い終わる前に村人全員にボコボコにされて村から叩き出された。

しかもそれから10年近くもの間、実装達は一度も山から下りて来ず、当然松茸も手に入らなくなった。


大抵事情を知らなければイカれた愛誤派の村と誤認するかもしれないが

村人が怒ったのは松茸が手に入らなくなることだ。

たかが松茸ごときと言うかもしれないがその利益は馬鹿にならない。

実装の一家族が持ってくる松茸は市場で一本1万円以上(大きく、形が良いから)もして

平均6〜70万円位の利益になる、

よほどの実装嫌いや骨の髄まで虐待精神の染み込んだ奴ならいざ知らず

ごく普通の人なら、毎年この利益が手に入るなら、それを台無しにされたなら、

村人の怒りも理解できるだろう。



死んだ祖父が渡しておいた古い竹篭から松茸を取り出し傷の少ない松茸はオガクズを入れた大箱に、

傷の酷い松茸は自分で頂く、今夜は松茸ご飯にするか。

明日農協に持って行けば明後日現金になる。楽しみだな〜






その一部始終を村外れの国道から双眼鏡で覗いている男がいた。

「な〜るほど・・・あの噂は本当だったか・・・・」

村のあちこちを舐めるように覗き、男はなにかを確信したようだ。

「ククク・・・・・来年が楽しみだ・・・・・」

彼の名は食あき、タチの悪い山実装ハンターだ

私有地だろうと立ち入り禁止区域だろうと勝手に入り込み、

最新式の偽石サーチャーを使ってその山の山実装を根こそぎ狩り、売りさばく。


本来なら最低でも成体を2〜3匹残して1年位開けて元の生息数に戻す、

そうしないとその山から山実装がいなくなればもう二度と採れなくなるからだ。

だが食あきはそんな事など気にもせず1匹残らず狩っていく、

いなくなれば他の山に行けばいい程度でしか考えてないからだ。

自分さえ良ければいい、自分以外なんて知った事ではない、完全な自己中心人間だ。

現に食あきによって山実装を狩りつくされ、山実装料理が出せなくなり

地方の山実装料亭の中には廃業に追い込まれた所も少なくなかった。


食あきが今回この村に目を付けた理由はある都市伝説サイトの書き込みだった

「ある有名市場に出される松茸は山実装に収穫させている」

ただのデタラメなスレだとみんなスルーしていたが、

食あきだけは「山実装」の言葉に引かれて調べた結果この村に辿り着いた。

噂の真相と松茸実装の住処や習性を確認した食あきは今回は大人しく帰った、

山実装だけでなく松茸も欲しくなった食あきは今年の狩りをやめて来年狩ることにしたのだ。


そして1年後の深夜、偽石サーチャーと捕獲道具を携えて例の岩場に食あきはやって来た。

「ククク・・・・実装と松茸で500万は固いな・・・さて、邪魔の入らないうちに・・・」

偽石サーチャーで住処を確認した後に手近の巣に近付いたその時、

ガララッ

突然足元が崩れだした。食あきはこの辺り一帯が脆くなっている事を全く知ら無かった、

そしてその事が命取りになった。

両手が偽石サーチャーと捕獲道具で塞がっていたが故に成す術なく谷底に滑り落ちた

「うわあああああああああああああああああ・・・・・・・・・・」

ドガァッ

谷底の岩に叩きつけられた食あきは即死だった

しかもそこは誰も立ち入らない場所、おそらくよほどの奇跡でもない限り発見される事はないだろう。

そのうえ食あきはいつも山実装を独り占めする為に

誰にもどこに行くかを教えなかったのも災いし、食あきの友人や家族ですら

「どうせいつもの事だからそのうち帰ってくるだろう」

と考え、誰も失踪届けすら出さなかった。



そんな事が自分達の巣の近くであったなど夢にも思わない実装石は

前の日に集めた松茸を人間にもらった籠に詰め、山を降りる

「また冬が来る前に、ニンゲンサンの所にお宿を借りに行くデス」

小さな山あいの村が今年も実装達の松茸を心待ちにする季節がやって来た。

















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