タイトル:【哀虐】 とっても長いプロローグデス
ファイル:小さな〇〇のクラッシャー.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4013 レス数:0
初投稿日時:2009/09/10-23:37:54修正日時:2009/09/10-23:37:54
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 「じゃ、「」さん行ってくるねー!」
 毎度おなじみの商店街の悪ガキ軍団の元気な声がビルのロビーに反響する。傍らにはハーネスからのびた数本の
リードを気にするでもなく呑気にシッポで玄関の掃き掃除をするパルタとその首輪につけられたリードを襷がけに
固定したロッソの姿。

 「ああ、よろしくね。」
 と脂汗を流しながら応えるも正直今の僕にはコイツ等の声さえもダメージになる。
 キッカケは些細なことだった。当然気はつけていたつもりだった。自分が爆弾を抱えていることなど学生時代から
分かっている。己の力を過信したつもりも無い。ただ、掃除のついでに後ろのホコリを取ろうと冷蔵庫を持ち上げた
だけだった。しかしどこかに慢心があったのだろう。「しまった!」そう感じた時はすでに遅し。かろうじて冷蔵庫を
壊さないように置くだけが限界だった。何年かぶりに二足歩行生物の宿命と言える病を再発させてしまった。
 そう、ギックリ腰を。

 学生時代に重量上げなんて相撲部並みにモテない部活をやってしまった後遺症で僕は腰にバクダンを抱えている。
普段は気をつけて生活しているのだが時々油断した結果このような状態になって1週間は苦しむ羽目になるのだ。
伸びなくなった腰を山歩きの時に使うストックで支えながら這いずるようになんとか午前中の診察に滑り込み、医者
からは最低でも今日1日は絶対に安静にするようにと釘を刺されたのだが生憎こっちにも事情というものがある。
犬を飼っている以上雨が降ろうが槍が降ろうが散歩は絶対欠かせないのだ。
 
 「さて、どうしたモンかねぇー」
 エアコンの下で仰向けにひっくり返って昼寝をする黒毛玉を眺めながら途方にくれた。ロッソは自分が連れて行くから
大丈夫と言ったが正直それは無理だ。確かに普段のパルタはおとなしく、また僕よりもロッソの言うことをよく聞くが、
それでも絶対に暴走しないという保証はどこにもない。もしそうなればロッソの力で(というか普通の人間でも)この
バカ犬をコントロールするのは不可能だ。この赤黒コンビだけで被害が済めばいいがもし余所様に被害が出れば申し訳が
たたない。少々痛い出費になるが隣町の大きなドッグランにでも連れて行くことにして出費ついでに今日は僕の自炊も
免除してやろうとロッソに角の弁当屋にお使いを頼んだのだが・・・


 『ダワーッ!ダワダワ♪(「」−!ミンナがお散歩手伝ってくれるのダワ!)』
 30分ほどして帰ってきたロッソは頼んだ唐揚弁当にアレコレとおまけをつけて帰って来てくれた。どうも声を掛けられ
る度に挨拶ついでに僕がギックリ腰でひっくり返っていることを言い触らしたようで買い物カゴからは“お見舞”と袋に
直接マジックで書かれたパンやら“睡眠薬”とこれまたラベルに書き足された一升瓶やらが出てきたのだ。こういう時に
気を使ってくれるのがこの商店街のイイところなのだが、最後のおまけはチョット遠慮したくなるものだった。

 事情を聞いた弁当屋の大将が“どうせ遊んでいるのだから”と息子のトシに散歩を手伝うように言ったらしく、それなら
皆で行ったほうが安全だと主張するトシの一声で手の空いている悪ガキ軍団がボランティアを申し出てくれたらしい。
玄関先でワイワイとはしゃぐ声が聞こえる。性善説派に立つらしいロッソは嬉しそうだが、正直僕は一抹どころじゃない
不安を拭いきれない。しかし、こうなった以上事情はどうあれご厚意を断るわけにはいかないだろう。以前友人がお土産に
くれた橇犬用の頑丈なハーネスに家中のリードを括りつけ、更に予備のハーネスとリードを用意し鞄に入れ、最後に首輪に
つけられたリードをロッソに託した上で心の中で水杯を掲げながら玄関先に見送りに出たのだった。

 『ダワ、ダワダワ(じゃ、「」オトナシク寝てるのダワ)』

 「ああ、わかってる。そっちも分かってるよね。頼むから…」

 「大丈夫よ、「」さん。私たちも行くから。」
 リンガルから聞こえたロッソの能天気な声にもう一度忠告しておこうとしたが魚実の看板娘のトモエちゃんに発言を
遮られた。騒ぎを聞いた彼女が悪ガキ軍団の暴走を監視すべく妹の双葉ちゃんを連れてこれまたボランティアを申し出て
くれたらしい。これこそまさに“地獄に仏”だ。トシたちも「ちぇっ!女子も来るのか」と言って目を合わせないが正直
あまり嫌そうな顔はしていない。なにせこの姉妹あの電球頭が父親とは思えない可愛い娘たちで、特にお姉ちゃんのトモエ
ちゃんは黒目がちな大きな目が印象的ななかなかの美少女だ。さすがの悪ガキどももこの娘の前でパルタと一緒に糞まみれ
になる気にはなれないだろう。それでも一応念の為に“絶対にパルタに実装石を見せないこと”“最低でも3本はリードを
持っていること”“公園は素通りして向かいの白保川の河川敷に行くこと”“河川敷からは絶対に出ないこと”“万が一
パルタが川の深みに行ったら絶対に追いかけず僕に連絡すること”などを再確認してから見送ったのだがあれこれと“遊ぶ”
道具を持っている悪ガキ軍団の後姿は僕を安心させるものではなかった。
 
 「まっ大丈夫だよな。」
 自分に言い聞かせるようにつぶやくと通過した列車の振動に呻きながら寝床へと向かった。



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 「ロッソちゃんバスケットもってあげる」
 『ダワダワ(アリガトウナノダワ)』
 「うわっ!パルタ、もっとゆっくり歩け!!」
 ロッソの周りに女子が、パルタに引きずられながら男子がゾロゾロと跨線橋を行進して駅前公園にさしかかる。公園の中
の大きな道にはさすがに実装石の姿は無いがそれでも間抜けな気配はあちこちからしている。

 「トモエ、このリード持ってろよ。」
 つっけんどんにリードを押し付けたトシが“バールのようなもの(商品名)”を構えて少し前に出る。

 「ちょっと!もう飽きたの!?それにそんな物持ち出して何するつもり…」
 「ウッサイ!そこ動くなよ!」
 トモエの抗議をトシが強引に遮った直後

 『デェェスゥゥッッ! デ?ムギャアァァァー!』
 植込みから実装石が飛び出したが何をする間もなく“バールのようなもの”を口に捻じ込まれ遠くの藪に放り投げられて
しまった。周りでも同様に気配を察した悪ガキ軍団が銘々飛び出して来た糞蟲を蹴り飛ばしたり放り投げたりしている。


 「実装石ってのは子供が犬の散歩なんかしてると簡単に食い物盗めると思って飛び出して来るんだ。もしパルタが実装石
に気づいてみろ。それこそ糞まみれになって「」さんに迷惑かかるだろうが。俺たちは一応そのための用心でこれ持ってるんだ。
ったくこれだから女子は能天気な平和ボケだって言われんだよ。」

 一気にまくしたてられムッとした顔のトモエに気付かれないようにクスクスと笑いながらロッソがツインテールをほどく
と声帯を潰された禿裸が血涙を流しながら逃げて行った。ああ言いながらもトシたちが実装石を潰さないのはトモエたちに
不快な思いをさせない為に気を使っているのが分かっていたからこそロッソもトモエの背後から近付いてきた糞蟲を殺さず
服と髪と声だけで勘弁してやった(?)のだった。

 「と、とにかく早く白保川に行きましょ。」 
 少し強引にパルタを引っぱりながら歩くトモエの後を皆が追う。先程の惨劇を見せ付けられたせいかその後は悪ガキ軍団
の前に実装石が飛び出して来ることはなかった。

 『ダワ。ダワダワ(トモエチャン。後でトシにお礼言うのダワ。)』
 公園を出たところで他の皆に聞かれないようにこっそりとロッソが耳打ちした。



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 『デェェェェ…あづいデスゥゥ…』
 草むらの中で半ば崩れかけた発泡スチロールの箱から実装石が顔を出した。その後ろでは仔実装が数匹うだるような暑さ
とヤブ蚊に悩ませられながら何とか眠る努力をしている。通常ならエサ場から離れたこの河原に実装石が住み着くことは
まず無いのだが公園を恐怖の場所と考えているこの固体にはここ以外に安住の場所は無かったのだった。

 昨年の秋に生まれ越冬中に成長した彼女は凍てつく寒さと飢えの中多くの同属が凍死し他の固体に喰われていく様を凍える
ダンボールハウスの中から寒さとは異なる震えに体を強ばらせながら見つめていた。たくさんいた姉妹もそのほとんどが
朝起きると冷たくなっていて母親が無言のまま外へ連れて行ったっきり帰って来なかった(これはほとんどが間引きだった
ことを母親に教えられたのはずっと後のコト)。気がつけば春を迎えられたのは自分と母親、それにすぐ上の姉の3匹だけ
だった。更に花見前の一斉駆除に遭遇したことで彼女の中では公園は飢えと寒さと恐怖の場所として刷り込まれているのだった。

 『逃げるデス!オ前達だけでも生き延びるデス!!』
 一斉駆除の中、母親が我が身を挺して逃がしてくれたおかげで彼女と姉蟲はこの河原に逃げ延びることができた。春先の
河原はまだ寒く、エサ場に行くにも堤防という断崖絶壁を越え、交通量の多い道路を渡る危険を冒さねばならなかったが、
それでも姉妹で助け合うことでなんとかエサの確保もでき、仔を産む余裕もできた。しかしその姉も先月エサ場からの帰り
に車に踏み潰され仔供たちのゴチソウの一部になった。以来、自分と姉の仔を養っているこの実装石は危険を冒してでも
朝晩2回のエサ漁りをする必要があるのだった。

 『…オ水もほとんど無いデスゥ』
 ボウフラの湧いた水溜りから顔を上げ、目の前を流れる川を恨めしそうに見つめながらつぶやく実装石。この河原を棲家
とする彼女だが、50センチに満たない暗渠さえも登ることのできない実装石故に川そのものには近づけなかった。春の終わり
に増水した川から水を汲もうとした姉の仔が流されていくのを姉と二人血涙を流しながらただ見つめることしかできなかった。
しばらくして不注意な我が仔がニンゲンの前に顔を出し、川の中に蹴り飛ばされる様も草むらの中で震えながら見ることしか
できなかった。先日も暑さと渇きに気の触れた仔が川の砂州に飛び降り、たらふく水を飲んでご満悦のところを生きたまま
アオダイショウに飲み込まれた。
 “公園はアブナイ、川もアブナイ”
 なまじ賢い上に生まれてからずっと恐怖に苛まれることが多かったため実装石とは思えないほど慎重な性格になった彼女
にとってこの環境の下でたくさんの仔を養うのは尋常ならざる苦労があったが、それでもその愛情深い性格故今もこうして
疲れの取れない体に鞭打って夕方のエサ獲りに向かおうとしているのである。

 『テェ…ママ、オ仕事テチ?』
 気配に気付いた仔が起きてきた。

 『サァサァ、まだ暑いデスからオトナシク寝てるデス。涼しくなる頃にはたくさんゴハン持って帰ってきてあげるデスよ。』
 優しく声をかけて再度仔を寝かしつける。気配で他の仔も起き出してテチテチ騒がれると危険だからだ。この暑い中こんな
草薮の中までニンゲンがやって来ることはまず無いが、カラスや蛇にとっては仔実装はお手軽な蛋白源だ。それが分かって
いるからこそ極力仔は寝かしつけて安全と体力を確保するようにしている。

 『・・・!』
 と、出掛ける前にハウスを一瞥した実装石の眉間に皴がよる。仔が2匹足りない。尤も、いない理由は分かっているが。



 テチュテチと大きな声が草薮の向こうから近付いてきた。親実装が小走りでそちらに向かうと我が仔が1匹と姉の仔が
1匹こちらの姿を見ると駆け寄ってきた。

 『ママー、やっと起きたテチか?イッパイ遊んだからお腹ペコペコテチ。早くバンゴハ・・チュギョッッ!!』
 全く空気を呼んでいないアホ発言をして親に近付いた仔蟲が顔面に一撃をくらってもう1匹のところまでふっとんだ。

 『オマエ達!勝手にオウチの外に出てはイケナイとあれほど言ったハズデス!オ外はアブナイと何度言ったらわかるんデスか!?』

 『だってオウチの中は暑いテチ!臭いテチ!面白いことが何も無いテチ!あんな所で寝てるなんてゴーモンテチ!』

 『そうテチ!それにワタチタチは強いからヘッチャラテチ。もし何かあっても……』
 以前カエルになりかけで干乾びていたオタマジャクシを仕留めたことで図に乗っている仔蟲が反論しようとして親に殴り
倒された。ついでにもう1匹も張り倒してから親蟲が吠え立てる。

 『デジャァァ!ワタシひとりに勝てないオマエ達が強いわけないデスッ!もしニョロニョロやクロバサに見つかったら
一飲みでオワリデス!!それにもしもニンゲンに見つかったら・・・』

 『チププ、もしニンゲンを見つけたらボコボコにしてカシヅカセてやるテチ。その後でニンゲンに命じてジドーギャクタイ
が趣味のママなんてやっつけさせてやる・・・』

 『デジャァァ!オマエ達みたいなバカはもう知らんデス!そんなにオ外が好きなら二度と帰って来るなデス!今度ワタシ
の前にそのブサイクな顔を出したら喰い殺してヤルデスッッ!』
 自分の発言の矛盾に気付いていない糞蟲を蹴りつけ、親実装が吐き捨てるように言った。さすがに身の危険を感じたのか
仔蟲達が捨て台詞を吐きながら逃げ出した。

 『チププ、仔供にしかボーリョクできないママなんてニンゲンにギャクタイされちゃえテチ!』
 『ワタチのママが生きてたらもっとゴーカな生活できたテチ!オバチャン、ムノーテチ!』

 『デスゥ・・・』
 その気になれば追いつけるほどのトロさで逃げて行く仔蟲を見つめながら春先に自分の親から聞かされた“間引き”という
言葉を思い出す。

 『いいデス?糞蟲はわかった時点ですぐに間引くデス。絶対にカワイソウなんて思っちゃダメデス。糞蟲がいればそれだけ
で家族皆のキケンになるデス。その次はバカな仔と体の弱い仔を間引くデス。オヤユビと蛆チャンは非常食デス。ワタシタチ
が生き残るためには“間引き”は避けて通れないコトなんデス。オ前タチのように強くて賢い実装石だけが生き残るケンリ
があるんです。オ前タチもママになったらそのことを肝に銘じて生き残るべき仔を絶対に守るデス』
 初めて聞かされたときは恐ろしさのあまり思わずパンコンしてしまった“間引き”の事実。頭ではわかっていても仔の寝顔
を見ていると自分の手で殺すことなどできるはずもなく、姉と顔を見合わせながら“この仔たちは大丈夫”と言い聞かせあって
きた。しかし、今になってママの言っていたことが正しいんだとやっとわかった。これが野生の掟、種を残すには糞蟲は間引く
しかないと。それでもこの実装石には我が仔と姉の仔に自ら手を下す勇気がまだ湧いてこなかった。

 『このままどこへでも行っちまえデス。もし、帰ってきたら今度こそ喰い殺すデス。』
 そう呟くと堤防の坂道をゆっくりと上って行った。



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 「おーパルタ、ナイスキャッチ!」
 「つぎー、パラシュート行くぞーっ!」
 「ウワッ、パルタこっち来るな。バッタが逃げるー!!」
 河川敷を事実上占領したパルタと悪ガキ軍団が文字通り縦横無尽に走りまわる。いつも以上に遊び相手の多いパルタも
おおはしゃぎであっちに飛んだボールを咥え、こっちに飛んだディスクに噛り付き、河に落ちたパラシュート花火を回収
し、ついでに夏休みの宿題をと昆虫採集をしているのを邪魔してと必要以上に体力を消耗してくれている。今時の子供は
外で遊ばないと言う人がいるが、アレは物事を一面からしか見ていない発言であって、場所とキッカケさえあれば子供と
いうのは無限に遊びまわるモノなのである。

 「しっかし元気ねー、あのバカ軍団。」

 『ダワダワ(オトコノコはそういうモノナノダワ)。』
 精神的な成長は女の子の方が早いという説を証明するかのように堤防に腰を下ろしたまま悪ガキ軍団を見下ろすトモエに
ロッソが答えを返す。妹の双葉ちゃんはと言うとついてきたはいいがそろそろ退屈し始めたらしくロッソに差しかけて
もらった日傘の下で暑いのと眠いのが混じったトロンとした顔でボンヤリと舟を漕ぎかけている。

 「よっしゃー!これで8点目!そろそろ逆転キビシーんじゃねぇの?」

 「なんのなんの、これからだよ。」
 パラシュート花火の争奪戦で盛り上がっているトシとアキが“バールのようなもの”に紙パラシュートを引っ掛けながら
ロッソたちの近くまでやって来た。トモエは相変わらず“バッカじゃないの?”という顔をしているが、当のバカ軍団
(withパルタ)は心底楽しそうだ。そんな双方を見比べながらしばらくニコニコしていたロッソだったが、

 『ダワー、ダワダワ(アキ、「」がおやつ持たせてくれたの。ミンナを呼んできてチョウダイナノダワ。トシ、あなたは
手伝ってチョウダイナノダワ。)』
 と男子2名に声をかけた。

 「おっ、スゲー♪」
 重い目をして運ばされたバッグの中身を見て2人が歓声をあげる。“おーいみんなー、チョイ休憩ーっ!”と叫びながら
アキが堤防を駆け降りて行く。残されたトシは何をすればいいのか分からないといった顔をしてポカンと突っ立ってしまった。


 「そっちのバスケットに紙コップがあるから持って来て。それくらいできるでしょ?」

 「えっ?あ・あぁ…」

 「その前にウェットテッシュで手を拭く!そんなコトくらい言わなくても分かるでしょうに。」

 「なんだよ、ったく偉そうに・・・」
 トモエに文字通り子供扱いされているトシがブツクサと不満を吐いている。

 「だいたい、バー(rなんて持ち出して振り回すなんてバカなことやってるから偉そうに言われるの。少しは…」
 「あのな、これはバー(rじゃなくて“バールのようなもの”。お前こそバカじゃねぇの?」
 そう言って昨年度のローゼン社のヒット商品“バールのようなもの”についてトシが説明を始めた。曰く“カーボン製で
老人でも扱える軽量設計”“実装石を駆除するには充分な強度と破壊力”“ST基準も満たす安全設計”“何よりも実装石
が恐れるそのデザイン”etc.とローゼン社の社員かというほどの知識で懇々と解説をし、今度は逆にトモエをやりこめる。
自分の興味がある世界の話になれば男の子の知識はそれこそ尽きることは無い。

 「あー、もう分かったわよ。それがいかに素晴らしい物であるかは分かりました。分かったから今は皆でお茶にしましょ。」
 いいかげんもうウンザリ、という顔をしてトモエが話を終わらせた。トシとしてはまだ不満そうだったが口では勝てない
のは分かっているので渋々彼女に従った。

 「でも、まっ、さっき公園ではそれに助けられたんだ。一応お礼言っとくわね。アリガト。」

 「なっ…何だよ急に。・・・日射病か?」

 「あのね、人からお礼言われたら素直に受けなさいよ。そういう態度がガキだっての。」

 「人にガキって言える立場かよ。ジェットコースターすら乗れないヤツが。」

 「何よ、今関係ないでしょ?それ。それに何年前の話よ。今はヘーキですよ!何なら試してみる?」

 「おー、言ったな。じゃ、今度証明してみろよ。」

 「いいわよ。来週時間あるわよね?一緒にJSJ(ジスバーサル・スタジオ・ジャパン)行きましょ。ちゃんと証明して
あげるから。」 

  ……
  ……
 「・・・・・・?」
 「・・・・・・!!」

 ケンカなのかデートの約束なのか分からない2人の漫才が延々と続く。少し離れたところで双葉ちゃんと一緒におやつを
つまみ食いしていたロッソがやりとりを聞きながらクスクスと笑いだした。精神的には最年長(一応)の彼女にしてみれば
どこかムズ痒いとさえ感じられる会話である。当の2人もワイワイとどこか楽しそうに支度を終わらせようとしている。
ロッソが笑っている理由がわからない双葉がその顔を不思議そうに覗き込む。そんな双葉から目線を逸らそうとふと河原
に視線を落とすとヒンヤリと冷たい川の砂州が気に入り平面化したパルタを引っ剥がそうとアキたちが悪戦苦闘している
のが目に入った。

 『ダワー、ダーワ(フタバチャン、パルタを迎えに行くのダワ。特別にパルタに乗せてあげるからナノダワ)』
 トシとトモエにもう少し漫才を続けさせようと気を利かせたロッソが双葉の手を引いて立ち上がった瞬間、

 『テチャアアアアァァーッ!(×2)』
 招かれざる客が総ての雰囲気をブチ壊した。



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 数分前

 『テェ…フワフワ素敵テチ。』
 先刻親蟲に張り倒された糞仔2匹は反省などするはずもなく、いつものように日が暮れるまで遊ぼうと河原にやって来た
のだが、そこで見たことも無い不思議な光景に出くわしたのだった。たくさんのニンゲン、大きなケモノ、長い棒の先に
ぶら下るオサカナ、パンパンと音のする筒…。中でも2匹の視線を釘付けにしたのは色とりどりのパラシュート花火だった。

 『フワフワ綺麗テチ、フワフワ素敵テチ。』
 もう1匹も視線を上に向けたまま呟く。風をはらんでゆっくりと降りてくるパラシュートは2匹とって文字通りこの世の
物ではないようにさえ思える風景だった。

 『…アレ欲しいテチ』
 『そうテチ、アレに乗ってお空を飛ぶテチ。』
 そう言って2匹が草薮の中から飛び出そうとした瞬間、

 「おっしゃー、3点目!」
 という声とともに2匹の視界からフワフワは消えていた。

 『テエェェェーッ!?』
 何が起こったのか分からない2匹が見たものは大事なフワフワをポケットに捻じ込むニンゲンの姿だった。

 『あのニンゲン何しやがるテチ!許さんテチ!』
 『そうテチ!今度はワタチたちが目の前でかっさらってギャフンと言わせてやるテチ!』
 そう言ってニンゲン(アキたち)からパラシュートを奪おうと草薮の中で機会をうかがってみても当然そんなチャンスは
あるはずは無い。体力、体格いずれの面においても仔実装が人間(小学校高学年)に勝つ方法などあるハズがないのだ。

 『テチイィッッ!何で取れないテチ?絶対おかしいテチ!!』
 『テチャアァッ!あのニンゲン、イカサマしてるに違いないテチ!指ツメテ、ウンチ喰わせてヤルテチ!!』
 と、喚きちらしながら一応パラシュートを追いかけているつもりらしいが

 『クソニンゲン!それはカワイイワタチにこそフサワシイ物テチ!オ前なんかが触るんじゃナイテチ!』
 『今すぐ土下座して謝ればイカサマは不問にしてコンペ(以下略)』
 愛護派が贔屓目に見てもカワイイとは形容できない形相でパンツをブリブリと膨らませながらトシたちに悪態をつく2匹。
遊ぶのに夢中のトシたちが後ろの草薮から聞こえるテチテチと甲高い声に気付かなかったのは幸運なのか不幸なのか。
ゼイゼイと喘ぎながらトシたちの後を追っていた2匹はいつの間にか堤防の上まで登っていた。


 そこで2匹は新たな光景に目を奪われたのだった。さっきのニンゲンの1人が別のニンゲンと一緒にたくさんのアマアマや
飲み物を持っている。その傍らでは本能的に敵だと分かる赤いヤツとその赤いヤツと“同じくらい”の大きさのチビニンゲン
がそのアマアマを食べている。その光景は糞仔2匹の少ない脳ミソには赤いヤツとチビニンゲンがニンゲンを隷属させアマアマ
を献上させているとしか見えなかった。

 『あの赤いヤツ、許さんテチ。アマママは高貴なワタチのためだけにあるんテチ』
 1匹がブサイクな顔を更に歪めて声にする。

 『生意気テチ、無礼テチ。キョーイクテキシドーが必要テチ。』
 片割れもテンプレ通りの相槌を打つ。

 『あの赤いのとチビニンゲンにウンチつけてドレイにするテチ。そうすれば向こうのニンゲンもワタチ達の偉大さに
気付いてアマアマを献上するテチ。』

 『チププ…アマアマとドレイが一度に手に入ったテチ。赤いヤツは一生家畜にして飼ってやるテチ。』
 先程その赤いヤツの足元にも及ばない戦闘能力の親蟲に張り倒されたことなど完全に頭の中から消えてしまった糞蟲2匹
がアホ丸出しの結論にたどり着く。一部の生物学者によれば実装石がすべての事を自分に都合よく解釈する“幸せ回路”は
厳しい環境の中で自我を保つために必要な機能だそうだが、こういう時に発動することを考えれば厳しい環境から我が身を
消すための自殺機能としか考えられない。

 それは兎も角

 目の前のアマママしか視界に入っていない仔蟲は早速その強奪準備に取り掛かった。先程からパンツの中に溜まっている
糞を手に取ると目標を赤いヤツとチビニンゲンに定める。赤いヤツの大きさは最大でも自分の親蟲くらい。チビニンゲンも
それと“同じくらい”の大きさだから奇襲をかければ自分達が負けるわけが無い。どれほど幸運が重なっても成功するはず
の無い奇襲作戦なのだが幸せ回路全開でニンゲンを隷属させる自分達の姿しか見えていない糞仔には逆に失敗するかもと
考えることができなかった。普段なら臭いや気配で本能的に実装石に気付くはずのロッソがトモエたちの漫才に気を取られて
糞仔の接近に気付かなかったのも仔蟲達にとっては幸運(不運?)だったといえよう。


 『テチャアアアアァァーッ!(×2)』
 『ダワッッ?!』
 アマアマ&ドレイゲットテチ。セレブな飼いジッソーテチ。と都合の良いことだけに頭を占領された仔蟲達が藪の中から
飛び出した。咄嗟にロッソがツインテールの先をササラのように細かくして1匹を串刺しにしたがもう1匹は仕留め損ねた。

 『チププ…テチュテチャ!テ・・・!?(チププ…ウンチつけてやったテチ。これでオマエはワタチの奴隷テチ!今すぐその
アマアマを献上してひれ伏すがイイテ・・テ・・・!?)』
 糞付けが成功した方の仔蟲がテンプレどうりの科白を吐きながら顔を上げた瞬間驚きと恐怖に固まった。
 …デカイ。“チビニンゲン”だと思って糞付けをした相手は自分の親の倍以上の大きさがある。固まった表情のまま顔を
横に向けると“チビニンゲン”と“同じくらい”の大きさの赤いヤツが相方を串刺しにしたままこっちを睨みつけている。

 『テ・テ・テ・・・・・』
 流石にマズいものを感じた仔蟲が糞付けした相手の顔を見上げるが逆光で大きな影にしか見えない。しかしその黒い顔に
言い知れぬ恐怖を感じた糞仔がとりあえず媚びておこうと右手を持ち上げようとした刹那、

 「うわあぁぁぁぁんん!!」
 河原中に響く大音量の泣き声が文字通り仔蟲をひっくり返した。

 「双葉!どうしたの?!」
 『ダワダワ!(実装石にイタズラされちゃったのダワ!)』
 「お、コイツだな犯人は!」
 『チュギョッ!!』
 相方を見捨てて逃げようと踵を返した糞仔だったが双葉の泣き声を聞いてやって来たトモエと(ついて来た)トシに見つかり
あっさりとバールのようなもので首根っこを抑え付けられた。

 『・・・テ・テテ・・・』
 『テチャアァァ!テチェェェン!』
 ロッソに串刺しにされたままの糞仔は痛みに声を出すこともままならず、トシに抑え付けられた糞仔は更に大きなニンゲン
に囲まれた恐怖にパンツを膨らませている。

 「えーん、おねえちゃぁぁん…」
 「ほら、もう泣かないの。靴が少し汚れただけじゃないの。」
 幸い被害は双葉のお気に入りのスニーカーが少し糞害を被っただけだったが、完全にパニックになった双葉は一向に泣き止まない。

 「もう、しょうがないな。ごめんロッソちゃん。悪いけど私たち先に帰るね。」

 『ダワ、ダワダワ。(ええ、気をつけてナノダワ。フタバチャン、スグに洗えば靴も大丈夫だから泣いちゃダメナノダワ。)』

 「あ、トシ何か話あったみたいだけど今度ね。」
 今の一件で先程の漫才のことなど完全に消し飛んでしまったトモエがトシにさらりと言う。

 「えっ・・あっ・・・うん。じゃぁな。」
 この状況下では引き止めることなどできないトシは必死に“さり気ない”風を装いながら返事を返す。その顔に狼狽と怒り
の色があるのに気づいたのはロッソだけだっただろう。念の為にとトシがトモエにバールのようなものを渡してから見送った
後仔蟲に向けられた怒りの色はアホ蟲にも分かるほど激しいモノだったが。


 「あれ、女子チームお帰り?」
 「おっ、実装石じゃんw」
 「はいはい、パルタくんは見ちゃダメ。」
 トモエたちの姿が見えなくなったのと入れ違いに男子チームが堤防の上に登ってきた。ウ〇コネタで盛り上がる面子が
いることを考慮してロッソが双葉が仔蟲にイタズラされた旨だけを説明すると、

 「そりゃいけませんなー。教育的指導が必要ですぞロッソさんw」
 とアキが最高のオモチャが手に入った喜びを表現すると周りからもワイノワイノと歓声があがった。

 『テ・テテ・・テチューーンン・・・』
 尤も串刺しにされたままたくさんのニンゲンに囲まれた仔蟲にとってその声は地獄への葬送歌にしか聞こえなかったが。

 「あ、待てよ!こんな所に仔実装だけがいるワケないよな。」
 先程から昆虫採集に徹していた“モノシリトシアキ”こと本屋の利昭が声をあげた。

 「そうだよな。人間が捨てたんならイザ知らず。」
 誰かがその説に賛同するとあっと言う間に作戦が練り上げられた。やはり自分達の興味がある世界の話になれば男の子の
知識と集中力はそれこそ尽きることが無い。

 「…なぁ、みんな。悪いんだけどその仔蟲2匹は俺とロッソで“貰って”いいかな?」
 誰にも反対できないオーラを漂わせたトシの発言で会議が締めくくられると実装一家の悲劇への幕は切って落とされた。



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 『デッスン、デッスン♪』
 親実装はいつになく御機嫌で家路についていた。堤防を歩いて少し行ったところで炎天下の車内に放置された結果危険物
に変化し捨てられた手付かずのコンビニ弁当を拾うことができたのだ。それも2つも。今までの実生で最高のゴチソウを
得ることができた親実装はこれも糞仔を“間引いた”おかげだとルンルン気分で我が家に帰ったのだった。

 『ママー、オカエリナサイテチ』
 『ママ今日は早く帰って来てくれて嬉しいテチューン♪』
 『オバチャ、オツカレサマテチ。暑カッタテチョ。』
 
 『サアサァ、今日はスゴイゴチソウデスよ。それに今日はオシゴトが早く終わったからゴチソウを食べたらミンナで遊びに
行くデス♪』
 手付かずのコンビニ弁当と久しぶりに家の外に遊びに行けるという二つの僥倖に仔蟲達が揃って歓声をあげる。

 『デスゥ♪』
 その様子を見て目を細める親実装。本当にイイ仔達だ。“間引いた”糞仔のことは適当にごまかせばイイ。この仔達なら
間引く必要はないだろう。いずれミンナ素敵なママになってこの河原いっぱいに家族が・・・
 テチュテチュと喜び踊る仔達を眺めながら親実装は今までにない幸せな気分に浸っていたが、

 『テチェェェェェェン!!!!』
 存在すら忘れていた声に幸せ一杯の雰囲気をブチ壊された。




 『オバチャニンゲンテチ。ワタチをヒドイ目にあわせやがったテチ!さっさとブッ殺せテチ!』
 “間引いた”はずの姉の糞仔が禿裸になって帰ってきた。それを見た親実装の顔に梅干のように皴がよる。

 『アノバカはどこまでワタシの幸せを邪魔すれば気が済むデシャァァ!』
 何事かと顔を出した仔達を家の中に押し込みながら親実装は先程食い殺さなかったことを今更ながら後悔した。が、ふと
禿裸で血涙を流す仔蟲を見てこれは他の仔を躾けるいいチャンスになると考えた。

 『他の仔の前でブッ殺して(勿体ないけど)川に捨てるデス。そして“ママの言うことを聞かない糞蟲はミジメなハゲハダカ
になってしまうデス。ハゲハダカは家の仔じゃないデス。だから死んでもらうデス。”と言えばミンナ納得してもっとイイ仔
になるはずデス。やっぱりワタシは頭イイデッスーーン♪』
 先刻の幸せな気分を引っぱってしまい今までにない実装石らしい結論に達した親蟲が仔を張り倒すべく一歩前に出た瞬間、

 『チュギョッッ!』
 『デッ??』
 いきなり糞仔が宙に跳ね上がり同時に“おー、やっぱり居た居たw”とたくさんのニンゲンの声がした。



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 『・・・デッ?四女チャンその首輪どうしたデス?そんなにタクサンつけてもらって。ヨカッタデス、タクサンの
ニンゲンサンに飼ってもらえるんデスね。コラコラ、嬉しいからってそんなに踊っちゃオ服が汚れてニンゲンサンに
叱られちゃうデスよ。・・・アレ?四女チャンドコ行ったデス?』

 『・・・姪っ仔チャン、オ空が飛べたデス?スゴイデス、もう見えなくなったデスゥ。』

 『・・・六女チャンはニンゲンサンにモテモテデス♪デモニンゲンサン、六女チャンはピュアガールデッスン、初めては
優しくしてあげて欲しいデッスン♪』

 『・・・蛆チャン凄いデス。泳げたんデスね。まるで水の上を跳んでるみたいデス。スーパー蛆チャンデス♪・・・
アレ?・・・蛆チャンが大きなオ魚サンになっちゃったデス?』 

 『・・・長女チャンその周りのキレイな雲は何デス?どうして泣いてるデス?アレ・・・ママ、オネーチャン!という
コトはここは天国デス?・・・デ?ママもどうして泣いてるデス?…血の池?針の山?カラフルマッチョ!?・・・デ、デッ?
デギャアァァァァーーーッッ!!』


 半ば夢の世界にいた親実装だったが、ロッソが抜き取った偽石を石に擦りつけた瞬間激痛と共に現実世界へと引き戻された。
そこで親実装が見たモノは・・・

 全身につけられたネズミ花火に火をつけられ熱さと恐怖に悶えながら爆発四散した仔。
 定番どうりボール代わりにかっ飛ばされ小汚いシミへと成り果てた仔。
 昆虫採集キットで昆虫相手には絶対に使わないメスやハサミを使うために生きたまま膾斬りにされて行く仔。
 神経節のド真ん中を釣り針で刺され激痛の悶えながらそのまま生餌にされ鯉の糞になった蛆。
 口と総排泄孔に無理矢理押し込まれた煙玉に点火され生きたまま燻製にされた仔etc.・・・

 “人間の子供”というある意味この世で最も残酷な生き物に弄られ死んで逝く大事な我が仔だった。
 更に自分もこれらの惨劇の場を地獄を巡る火焔車よろしくパルタの後ろに括り付けられ引き摺られ生きたままモミジオロシ
にされながら見学させられていることに気付きこの世のモノとは思えぬ絶望に満ちた悲鳴をあげたのだった。

 『テチャァァァーーーッッ!』
 悲鳴が聞こえた方に顔を向けると2匹の仔がお互いの髪を相手の首に巻きつけられ二人のニンゲンにそれぞれの足をつかまれ
たまま泣きじゃくっている。

 『テチャァァァッ!テチェェェェン!!(ニンゲンサン、ワタチタチは何も悪いコトしてないテチ!許してテチ!ママァッ!!
ドコテチ!?助けてテジィッッ!!)』
 己の生命の危険に必死に命乞いをする仔蟲たちだったがリンガルを持たない(まぁ仮に持っていたとしても)ニンゲンが
話を聞いてくれるはずもなく、“いっせいのーせっ!”の掛け声とともに互いの足を引っ張られ始めた。

 『テギュォァァァーー…(…ヤメル…テチ、イ、イギが・・・グルヂィ…)』
 『テ・・・・・・・・・・・・』
 子供というのは本当に遊びを見つける天才であり、またこの上なく残酷な生き物である。松葉相撲の松葉の代わりにされた
2匹の仔蟲は片方は首を引きちぎられ、もう一方は首を倍以上に伸ばして息絶えた。

 『デシャアアアッ!デスデシャァァツッ!!!!(ニンゲン!ワタシタチが何をシタデスッ!?ここで静かに暮らしていただけデス!
オマエたちには何も迷惑かけてないハズデスッッ!!どうして大事な仔を殺すデス?ミンナイイ仔デス、素敵なママになって
カワイイ仔をたくさん産むはずだったんデスッッ!!!!)』
 魂の慟哭とはかくありきといった大声で親実装が吼えたてた。しかし楽しい“遊び”に夢中のバカ軍団(withパルタ)にとって
はその絶叫も雑音にすら聞こえない。それでも諦めることなく叫び続ける親蟲の耳に

 『テヂィィィィィ……(×2)』
 聞きたくもない忌々しい声がそれでも助けを求めるがごとく聞こえてきた。その声の方向に顔を向けると・・・



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 『ダワダワ。(罪状はアナタの仔がニンゲンのオンナノコに粗相を働いたコト。そして何よりアナタが実装石であることナノダワ)』
 見たこともないくらい大きな赤いヤツとソイツより少し大きい人間が“間引いた”はずの仔をぶら下げたまま自分を睨み
つけていることに気付いた。

 『テチィィ…テ?テチャァァァァ!!(テ?ママァ!ワタチはココテチ!早く助けてニンゲンブッ殺せテチィ!)』
 『テヤァァ、テチテチェェェェンン!!(オバチャ、何寝てるテチ?カワイイワタチのピンチテチ!サッサと助けろテチィ!!)』
 親実装の視線が向けられた糞仔たちは全く空気を読むことなく血涙を流し助けを求める。親蟲からは“何故生きている?”
“間引いたハズ?”“どこまでメイワクかければ気が済む?”などと怨み節ばかりが投げかけられているが糞仔たちは
それに気付くコトすらできずただひたすらに被害者としての立場のみを主張している。
 と、しばらく双方のやりとりを聞いていたトシがテグスでガンジガラメにした仔蟲をぶら下げたままリンガルを手に
親実装に近付いて来た。

 「おい、これのどこが“間引いた”だ?俺達が“教育的指導”してもまだピンピンしてるぞ。」

 『デェェェェスゥゥゥゥ(追っ払ったデス、間引いたデス。ソイツラのしたことなんか知らんデス)。』
 親実装の主張に小さく溜息をついたトシだったがすぐにロッソに目配せをする。すると、

 『デギャアアアアアアッ!!!(翻訳不能)。』
 数秒後
 『チププ… テ!?テヂャアアアアアアッ!!!×2(翻訳不能)。』
 ロッソが親蟲の偽石を脇のコンクリートブロックに擦りつけ、その親がのたうつ様を見て笑おうとした糞仔2匹はロッソに
捕まっている禿裸は極細ツインテールで全身の神経節を刺し貫かれ、トシがぶら下げている方は蚊取り線香の先を鼻の穴に
捻じ込まれた。

 「お前が何と言おうがコイツ等はお前の仔だろ?ソイツがバカやってくれたせいで俺はな…俺はなぁ!」
 どうせ何を言ってもお互いの主張は平行線に終わると判断したトシが発言途中で手にしたボールを放り投げる。それに
気付いたパルタが走ると親蟲は赤緑のラインを引きながら絶叫とともに彼方へと消えていった。

 『ダワ、ダーワ(トシ、若い頃はチャンスは何度でもあるのダワ)。』
 「そんなんじゃねえよ!!」
 肩で息をしながら照れ隠しなのか、怒りなのか自分でも分からないまま叫んだトシが腕を振るとぶら下げたままの仔蟲が
すっぽ抜けて草藪の中に飛んで行ったが今のトシにはどうでもイイらしい。ボールを咥えたパルタが帰って来ると“実装石を
見せない”ように鼻の上におやつを乗せて“待て”をしてから親蟲に近づく。

 「お前が何と言おうがお前が実装石であるかぎり害なのは事実なんだよ。でもまぁ俺達も鬼じゃないんだ、ここでひっそり
人間様に迷惑にならないように生きてる分には別にかまわんさ。だから悪さしたガキは俺達で間引いてやったから、これに懲りて
これからはどっかで隠れ棲め。」
 そう言うと河原に散っていた全員が集まった。それぞれが手にしているのはほんの数十分前まで“仔実装”だったモノ。
それを見て親蟲が最後の力を振り絞って絶叫する。

 『デギュオォォォォォァァァァァッ!(ソノ仔達はイイ仔だったデス!間引く必要無かった仔ばかりデスッ!!何故殺した
デス?!オ前等絶対許さん、食い殺してヤルデズゥゥッ!!)』

 「あのな、何か勘違いしてないか?“お前の仔蟲”って時点で全員連帯責任なんだよ。俺達は区別つかないんだから。」
 親蟲とは対照的に冷静極まりない口調のまま利昭が言った。頭をグリグリと踏みつけたまま説明を続ける。

 『デズゥ…デズゥォ…(コロス…ブッコロス…)』 
 「頭冷やせよ、まぁ確かにお前にちゃんと間引き方見せてやらなかったのは悪かったよwでもホレ、まだ1匹残ってる
からアイツでチャンと間引き方レクチャーしてやるよ。それも人間様のやり方じゃ難しいだろうから特別講師にお願いしてね。」
 親蟲の最後の抗議も聞き流し、利昭がその頭をつかんで持ち上げると最後に残った姉の糞仔が目に入った。



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 ・・・親実装は自分でも分からない不思議な気分だった。要らない仔だったハズ、まして自分の仔でもない。それでも
最後の仔だと思うといとおしくてたまらないと思えた。その仔がザリガニの群れの上にぶら下げられ足の先から順に少しずつ
切り刻まれ喰われていく様を最後に残った血の一滴までを涙に変えて見守り続けた。
 こんな感情を持てることから考えればこの固体は稀に見る愛情深い実装石だったと言えよう。しかし、そんな感情さえも
生きる上で障害となるのが実装石の業である。ロッソの言うとおり“実装石であること”が罪だったのか。否、それとも
実装石でありながらなまじ知恵と愛情を持っていたことが罪だったのか?もし中途半端な愛情を持たずキチンと糞仔を間引いて
いれば一族の全滅は避けることができただろう。その意味では彼女も愚かな実装石でしかなかったのだ。

 やはりこの親蟲にとって最大に悲劇は実装石であったことにつきるのだろう。

 『デヘェェェ・・・、デゲヘェェェ・・・(ママ、オネーチャン、ゴメンデスゥ・・・。ヤッパリママの言うとうりだった
デスゥ・・・糞蟲はいるだけで家族皆のキケンになるデス。大事な仔たちがミンナ死んじゃったデスゥ・・・もうコリゴリ
デス、ママのところへ逝きたいデスゥ・・・)』
 生きることを何よりも重視する実装石とは思えないことだがこの時親実装は心の底から死を願った。尤もそれは周りにいた
ガキ軍団には、

 「おっ、コイツ壊れたフリ始めたゾ」
 としかとってもらえなかったが。



 結論から言うと親実装は極刑を免れるという大赦をうけ、更に“隠れ棲む”場所さえも提供してもらうことができた。
但し“ズイブンお疲れみたいだし栄養つけてゆっくり休んでもらおーぜーw”と誰かが発言したオカゲで辺りに飛び散った
仔蟲の肉をタップリゴチソウされ、さらに吐き戻さないようにテグスと釣り針で口をしっかり縫い付けられた後、両手足の
骨を満遍なく砕かれ引き伸ばされ腹の上で固結びにされ、住み慣れた我が家に入れられた後その家ごと生き埋めにされた
のだが・・・。

 何も見えない、何も聞こえない、更には誰からも相手にされないという実装石にとっては最悪の環境の中親実装は何度も
自分の偽石が壊れることを願った。だがそんな願いを嘲笑うように彼女の偽石はその傍らに納められたペットボトルの中で
激甘の紅茶と昆虫標本用の防腐剤のカクテルに浸りながら8月が終わるまで輝き続けた。

 『デェェェェェ…(オネガイデス…モウソノコタチヲ イジメナイデホシイデス… )』
 夢とも現実とも区別のつかない世界で親実装は仔たちの魂がちょうどお盆で帰ってきた人間の霊の団体に虐待され続け、
さらにあの世に帰る際に地獄に突き落とされていくのを見ていたような気がした。
  


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 「さてと、帰ろーぜ。」
 穴を掘る際に使った空き缶を草薮に放り投げながらアキが言った。それに従い銘銘が撤収準備を始める。

 「・・・」
 そんな中でトシだけはやはり不機嫌そうだった。仮にその理由を尋ねられても決して答えることはなかっただろうが。

 「うひゃぁぁぁ、危ねェー!」
 突然パルタを土手の上に連れて行こうとしていたメンバーが慌てて戻って来た。聞けば途中に蜂の巣があったらしい。
別にどうでもイイとしか思わなかったトシだったがふと足元に絡まったテグスの先がそちらにのびていることに気付いて
慎重に手繰り寄せてみた。

 『テエエェェェェ…』
 運が良いのか悪いのか。先程の糞仔がまだ生きていた。但し、巣の半分をボディプレスで潰したことで蜂サンからは
かなり強烈な“教育的指導”を受けたらしく全身青黒く腫上りボコボコに変形していたが。

 「お、まだ生き残りがいたか?それトシの分だろ?どーすんだ?」
 その問いには答えずトシは無言のままビニール袋に仔蟲を放り込んだ。しかし、その双眸がハッキリとこう言っているのは
その場に居合わせた全員が理解した。
 
 「絶対に許さないよ」と。



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 「まっ想定の範囲内だよな。」
 散歩から帰ってきたパルタを見て僕が呟く。一応ガキ軍団は約束は守ってくれたようで腹から下は泥だらけだがそれ以外
には損害はない、リードが1本緑赤の血に染まっていたのでこれだけは処分だが。これなら少し僕の調子が良くなれば明日
にでも洗濯できる。今晩だけは事務所のクーラーを入れっぱなしにしてそこで眠らせねばならないが。

 「じゃみんなごくろーサン。おかげで助かったよ。」
 お駄賃代わりに何故か予想よりも余っていたお菓子を配って解散してもらう。と、最後に残ったトシが夏休みの宿題に必要
だからしばらく屋上を貸してくれと言い始めた。まぁ物干しに使っているだけだしと許可してやったら礼もそこそこに駆け上がり
家と屋上を何度かピストン移動していた。アイツがあそこまで熱心なときは絶対何か企んでいるのは分かっていたが、今は
腰を治すのが僕にとっては最優先事項だし、ロッソもやたらとトシの肩を持つのでしばらくは放っておくことにした。


 『ダワー、ダワダワダワ?』

 えっ?遊園地のチケットって幾ら位するかって?どうしてそんなこと聞くんだ、ロッソ?
 エッ?関係ないだろって。何怒ってんだ?そもそも僕が腰を痛めたのが元凶??あんな所に居るなんて???
 疲れたからもう寝る?イヤ…そりゃかまわんけどね・・・


 ???一体なにがあったんだ?ねぇパルタ。僕に分かるように説明してくれない?ってもうお前ももう寝とるんかい!?
  
 


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 久しぶりのスク投稿になります。随分間が開いたので皆さんお忘れと思いますが。
 本当は8月の終わりにこの続編(トシによるシンプルな仔蟲虐待)とセットで投稿するつもりだったのですが、その続編が
グダグダになってしまい手直しが追いつかなくなってしまい止む無く先にコレだけ投稿させていただきます。
 一応夏休みの宿題ということで9月中には完成させる予定ですが果たしていつになるのでしょうか?自分でも分かりかねて
おります。まぁ(生)温かい目で見守ってやってください。

 最後に、いつも読んで下さるみなさん、感想を下さるみなさん、拙いスクにお付き合いくださり本当に感謝しております。




過去スク

sc1612. 二種混合 
sc1630. カラーマジック
sc1635. ドレスコード(前編)
sc1636. ドレスコード(後編)
sc1734. 合体!ゴジッソウ 
 

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