バールの(ry 「うなれ!バールのようなものォオオオッ!!」 『デギャアアアアッ!!』 今夜も元気だ!バールがうなる! さて、次の獲物はどいつにしましょうかねえ〜 なにしろ、この公園、大きさの割りに実装石が多くて目移りしてしまう。 『デェエエーン!デェエエーン!』 『テェエエーン!テェエエーン!』 お、仔蟲を盾にしてやがる。こいつに決まり♪ 「さあ〜、親仔仲良くお星さまになろうねえ〜」 『デシャアアアアッ!』 『デチャアアアアッ!』 「あの、すみません」 さっ、と駆け寄り親仔の退路を完全に塞……ん? なんか聞こえたような気がする。ま、いいや。 「うなれ!」 手にしたバールを目一杯に振りかぶる。 「すみません!」 「バールのようなものっ!」 「すみませんってば!!」 「ヒャッハ…………あ?」 声のした方へ振り向くと、外灯の下に1人の青年が立っていた。 「お取り込み中のところすみません。 少々お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」 そう言うと、青年は返事も待たずにこちらへと歩を進めてくる。 ん? 彼の後ろをちょこちょことついて来る影がある。 どうやら実装石だ。 ……って、マズイなあ。 実装石を連れてるってことは、愛護派。 下手すりゃ、愛誤派だ。 難癖つけられそうだなあ、こりゃ。 「えっと、何か御用でしょうか」 警戒しつつも、できるだけ愛想よく答える。 いや、だって、ほら、最初からケンカ腰になるのもどうかと思うし……普通はこうするだろ? 「つかぬことをお伺いしますが……」 「はい」 相槌を打ちながら、さりげなく彼の表情を窺ってみる。 うーん、ちょっと目つきが怪しい気もするけど、とりあえず敵意はないように見える。 「そのバールのようなものって、どちらでお求めになったんでしょうか?」 なんで愛護派がそんなこと聞くんだ? ……もしかして虐待派? まあ、別に隠さなきゃならんことでもないけどさ。 「これでしたら、S町のM工具店で……」 「そんな筈はありません。S町のM工具店でしたら、私ももう行きました」 「……?」 「あの店ではバールしか扱っていませんでした」 何が言いたいんだろう、この人は? 「……」 「私が欲しいのは、バールじゃなくて、”バールのようなもの”なんです」 えーっと……もしかして、変な人? 「すみません、意味がよくわからないのですが……」 刺激するとヤバそうな気がするので、慎重に言葉を選んで会話を続ける。 「先ほどあなたは、”バールのようなもの”と仰っていましたよね?」 「ええ」 確かにその通りだ。”バールのようなもの”と叫んでいた。 「それが本当なら、今あなたが手にしているものは、バールではなくて、 ”バールのようなもの”ということになりますよね?」 間違いない。 間違いなく変な人だ。 やだなあ、逃げときゃよかった。 「ええと……」 「で、実際のところ、どうなんです?」 「いや、それはですね……」 「それは本当に、”バールのようなもの”なんですか?」 「えっと、そもそも”バールのようなもの”ってのは、 ニュースとかで使われる言葉で……」 「それぐらいはわかっています!!」 痺れを切らしたのか、急に青年は言葉を荒げた。 「ヒ!?」 ……ビビって悪かったな。 でもさ、目の前で大声出されりゃ、誰だって驚くだろ? ましてや、こんな人気のない夜の公園で、こんな変な人が相手だぜ? 「……すみません、いきなり大声を出してしまって。」 俺の様子を見て取ったらしく、青年は抑えた口調で詫びてきた。 「あ、いいえ」 「私も”バールのようなもの”の意味はわかっているつもりです。 もともとは報道で使われている言葉でしたよね? 例えば、何かの事件でドアをこじ開けるのに使われた道具とかが、 はっきりと断定できるまでは、バールではなく”バールのようなもの”と報じられる。 他にも、ナイフのようなものとか、ロープのようなものとか」 「え、ええ、まあ、確かそんなだったと思います」 何もそんな一気にまくし立てんでも…… 「で、それを面白がって、”バールのようなもの”と呼ぶようになった」 「そこまでわかってるんだったら、どうして……」 「私が知りたいのは、そんなことじゃないんです!」 だから、こんな近くで大声出すなってば。 「……じゃあ、何が知りたいんですか」 「さっきから言ってるじゃないですか! あなたが持っているのが”バールのようなもの”なのかどうか、って! 本物なら、どこで手に入れたのか教えてくれ、って言ってるじゃないですか!!」 あー……こりゃ、もう駄目だわ。 完全に目がマジだもん。 洒落どころか理屈が通じるかどうかもあやしいよ、こりゃ。 言っちゃうしかないな。 「これは……ただのバールです。”バールのようなもの”ではありません」 うわ、なんかすげえ屈辱感。 新手の虐待派虐待かよ。 「…………そうですか。残念です」 青年はがっくりと肩を落とした。 その落胆振りは、とても演技とは思えない。 やはり大真面目に”バールのようなもの”を探しているらしい。 何と言うか、まあ、気の毒な人と言うか、かわいそうな人と言うか…… 「お時間をとらせてしまって、すみませんでした。 私はこれで失礼します」 「あ、どうも」 あー……やっと解放される。すんげー疲れた…… 青年はくるりと背を向け、公園の出口へと歩き出した。 その彼の後ろを、先ほどの実装石らしき影が追いかけてゆく。 青年は振り向かない。 しかし、彼を追いかける影は、一度だけ足を止めて振り向いた。 そして、無表情なままで、しかし間違いなく、口の端を吊り上げてニイッと笑って見せると、 ゆっくりと向き直り、再び青年の後を追って走り出した。 ………………何となく理解できた。 彼は、俺をからかっていた訳じゃない。 気の毒で、かわいそうな人だが、決して、変な人ではない。 彼の後ろについていた、いや、”憑いて”いたあの実装石。 6とも@ともつかぬ頭巾の模様。 七分袖。 妙に凄みのある目。 怪しげな身のこなし。 あれは、噂に聞く初期型実装石だったように思える。 そして、彼はこう考えたんじゃないだろうか。 ただのバールでは初期型実装石を倒すことはできない。 しかし、言葉遊びではない、本物の”バールのようなもの”が存在するならば、 もしかして………… (終) ————————————————————————————————————————————— (初めてのあとがき) いつも駄文に付き合って下さっている皆様、本当にありがとうございます。 これからも宜しくお付き合い頂ければ幸いです。 (過去作) 白 0317 仔実蒼 0327 ジャンク品 0411 なりきり 0454 実装石の大好物 0474 予約席 0574 飼い実装をやっつけろ、 0601 便槽のヌシ 0636 やさしいニンゲンさん 0747 打倒!虐待派 0800 赤トンボ 0843 実蒼石を懲らしめろ 0901 万事塞翁が馬 0927 初期型なんか怖くない 1078 禿裸の群れ 1079 頑張れ!中期型 1334 実蒼石の初夢 1780 廊下にいた仔実装 なんでも。 0080 僕のだいじな実蒼石 0203 実装翠を撃ち落とせ 塩保管分 0455 交換 0462 ランチボックス 0468 幸運の白蛆ちゃん 0520 仔持ち実装
