タイトル:【馬】 すどうふ
ファイル:酢豆腐.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2289 レス数:0
初投稿日時:2009/08/02-14:12:04修正日時:2009/08/02-14:12:04
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どうにもこの、こう暑くなって参りますと、いろいろと困ることが出てくるもの
でございますが、まず、家を出るのに閉めきりにしたままと言うのが、帰ってき
たときにたまらない。つい部屋の窓を開け放ったまま稼ぎに出かけて、帰って参
りますと、困ったことになっておりました。

野良の実装石でございます。

行儀良く網戸を開けて入ってきたのは良いものの、宵越しのカネも物もないトシ
の部屋のこと、どこを開けても何もございません。もとより冷蔵庫なんぞ、電気
が止めてあります。開けたところで、よどんだ空気が「むあっ」と……これはこ
れで困ったことになっておりました。

といって、無理に追い出すのも、殴る蹴るに悲鳴を上げられては近所迷惑。

……そういえば。1週間ほど前、冷や奴にして喰おうと、醤油をかけたところに、
ケータイで呼び出されて三日三晩会社に泊まり込んだ、あれがございました。
帰ってきてから皿ごとラップして、ジップロックでくるみ込んで、クーラーボッ
クスに押し込んだ。それで生ゴミの日までしのごうと思って、すっかり忘れてた!

<ここには何にもないデシャアア! 早くスシとステーキとコンペイトウをもっ
てくるデス!>

ケータイのリンガルモードにはおきまりのセリフが表示されます。

「毎日スシとステーキとコンペイトウをお上がりになって、そうとう舌も肥えて
いらっしゃると見えますが、いかがですか?」

<も、モチロンデス>

「ここには何もございませんが、長崎の名物『酢豆腐』を秘蔵してございます。
それを献上いたしますので、ご勘弁ねがえませんか?」

<すぐに持ってくるデス>

「かしこまりました」

クーラーボックスを開けてみますと、ジップロックが心なしか膨らんで見えまし
たが、意を決して開けます。とたんに部屋中に酸っぱい臭いが立ちこめます。

<すごい臭いデシャアア! そんなもん食べられないデシャアア!>

「何をおっしゃいます、フランスのブルーチーズ、中国の腐乳にならぶ世界の
珍味、『酢豆腐』をご存知ないのですか」

<も、もちろん知ってるデス。まさにこの匂いデス>

「どうぞ、たんとお上がりください」

皿を実装石の前に突きつけます。

<なんで離れるんでシャアア!>

「いえ、お食事のお邪魔でしょうから。お冷やなどいかがでしょう?」

コップに水道水をくんで、実装石の前に置くと、サッと引き下がります。

さて。

箸もスプーンも使わない野良の実装石でございます。完全に腐った豆腐に顔を近
づけますと、目にも鼻にもツーンと参ります。

「でぇ……」

とはいえ、スシやステーキに勝るという珍味を食べたとなれば、公園の野良の中
ではさぞ鼻の高いことになろうかというもの。

しばらく恐る恐る顔を近づけては、サッと離しておりましたが、目をつぶって息
を止めて、ついに一口。

<う、うまいデス>

<これは、いけるデス>

皿に顔を突っ込んで、一気に食べてしまいました。最後にお冷や。これも一気に
クイクイと飲み干しまして、

<デプー、もう無いデスか?>

一陣の風がざぁっと吹き込んで、部屋の臭いも晴れました。

「あ、あいにく、あれしかございません」

トシもすっかり毒気を抜かれて応えます。

<またご馳走になりにくるデス>

実装石は、ゆらりと立ち上がると、そそくさと窓を通って出て行きました。

そして、アパートの生け垣をゴソゴソと抜け出したあたりで……

「ごぶゎあああ!おげええええぇぇぇぇぇ……」

近所迷惑には変わりなかったようでございます。

……お後がよろしいようで……?




毎度ごひいきにあずかり、ありがとうございます。もっとメジャーなもの、とい
うことで季節柄、「酢豆腐」の一席に挑戦してみました。

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