昨今は「独居老人」なんてぇ嫌な言葉もございますが、そういうような方の中に も話し相手に実装石を飼うような向きも出て参ります。 さすがにこういう場合、そこらの野良を適当に見繕って連れてくるわけにも参り ませんで、ペットショップでしつけの行きとどいたものを買って参ります。 ただ、しつけが行きとどいていても、賢いかどうかは、また別のところのようで ございまして…… 「おーい、ハチや、ハチ」 <ハーイ、ゴシュジンサマ> リンガル越しの返事も立派なものでございます。 「ハチ、背中にお灸を据えてくれんかね?」 <ハイです、ゴシュジンサマ> 「この背骨のな、両側にいくつか貼ってくれ」 最近はモグサが和紙の台座にセットされているものも売られていて、なかなか便 利になっております。 「もう少し右、おぅ、そこそこ」 などとやっているうちに、なんとかツボの上にモグサを置くことができたようで ございます。さっそく、点火。 「おう、気持ちいいのう……」 というわけで、見ている実装石のほうが気になって参りました。 <気持ちいいなら、ワタシもやってみたいデス> 試しに実装服を諸肌脱ぎに、背中に貼って貰いますが、もともとが人間用のお灸 です。身体の大きさでは比べものにならない実装石には、とんでもない大きさ。 だんだん熱さと煙が大変なことになって参りました。 「かちかち山みたいなことになってきたな」 <そんなことないデス、気持ちいいデス> 「お灸ぐらいで頑張るんじゃないぞ」 <オネチャのゴォはしつけで油で揚げられたデス。これくらい我慢のウチにはい らないデス> そういいながらも、正座の形がやや崩れて、全身に力が入っているのが目に見え て判ります。 「しつけじゃねぇんだから、無理はするなって」 <オネチャのヒチは親指のころに火あぶりで……> ニンゲンだったら目を白黒させて、と言いたいところですが、こちらは実装石。 赤と緑の目をぎょろぎょろさせて、全身から汗を噴きだし始めました。 そうこうするうち、モグサが燃え尽きます。台座の和紙を除けてみましたが、実 装石が動きません。 つついてみると、首から下が踏ん張った形のまま……煮えておりました。 ご隠居も慣れたもので、ハチの身体を台所に運ぶと、首のところにトンと包丁を 入れて、まだ生きている首を栄養剤に漬けました。 「お前ももう少し気をつけないとねぇ。実装石はお灸なんかなくても、こうして いれば元気になれるんだ。少しは懲りたら、大人しくしてるんだよ?」 お後がよろしいようで……。
