マーブル実蟲記 第一回 私の名前を二場寿明という。 大学の教授として、研究と学生の教育に明け暮れている。 学生からは、マーブル先生と呼ばれている。 研究上、白衣が赤と緑のマーブルに染まるためであろう。 理学部 生物学科 実装石研究室 通称、実装研。 名前の通り、実装石を専門としている。 生物学科でも動物全般や昆虫全般を扱うのが普通だが、実装石のように、 それだけで独立した研究をされている生物は他にいないだろう。 実装石という生物は、それだけ学問的な魅力と価値を持ち合わせているのだ。 今回は、実装石の生態について詳しく述べさせていただこうと思う。 講義 第一回 『実装石の外見について』 まずは、この実装石を見ていただきたい。 「デスー」 実装石の成体である。 外見的に特徴的になのは、緑の衣服、二足歩行、髪、赤と緑のオッドアイ、兎口、体毛の少なさ。 緑の衣服は、ワンピースのように見え、フードもついている。 それに白い前掛け、赤いリボンのようなものがつき、 さらにはその緑のワンピースの下に、パンツのようなものを穿いている。 その特異な外見と二足歩行から、ヨーロッパ圏では緑の妖精と呼ばれている。 緑の衣服は、皮膚が変化したものだと考えられていたが、粘膜からできていることがわかった。 母親の胎内で、粘液が分泌され、それが服のようなものとなっている。 着脱可能であり、寒暖差に適応できるようになっている。 脱がしてみよう。 「デスッ! デスデスデス!」 威嚇をしている。 このように、実装石は服を奪われることに、非常に危機感を持っている。 ここは彼女にがまんしてもらおう。 ここで取り出すのはコンペイトウである。 実装石は雑食性で、なんでもよく食べるが、甘いものを特に好む。 とりわけ、コンペイトウには、身の危険を顧みないほどだ。 これを与える。 「デッスーン」 警戒心を解き、すべての注意がコンペイトウにいく。 その間に、衣服を脱がす。 簡単に着脱可能である。 粘膜で作られているため、編み目もなければ、糸のようなものすらない。 感触は手触りがなめらかで、綿のような印象をうける。 細かい穴があるので、通気性もある。 実装石本体の成長に合わせて、サイズも変わる。 実装石の本体から粘膜が出され、再構成されていくからだ。骨の成長のメカニズムと似ている。 糸ではないため、ほぐして、他の衣服に利用するということができなかったが、 赤ん坊に着せたり、つなぎ合わせて布団にしていたという記述が残っている。 「デス! デェーーッス!」 実装石がコンペイトウを食べ終えたようだ。 服を返せと言っているのだろう。 涙を流し、汗を流し、ヨダレもたらし、先ほどとは違った必死の威嚇だろう。 ここで衣服を燃やしてみる。 ボッ 乾いた粘膜、油脂のため、火の回りがいい。 一時期、火による駆除が行なわれたが、火災を誘発するため、今ではほとんど用いられていない。 「デェェエエエエエエエエ!」 おや、実装石が、燃え盛る服の中につっこんでいるね。 実装石は、いや生物は火を非常に恐れるものだが、今の彼女はそれを頓着していない。 それはなぜか。 失った衣服は、もう2度と戻ることはない。 そして、実装石の衣服は、体温を守るという機能以上の意味を持っているからだ。 「デスゥ、デスデス…」 この実装石の状態を、裸実装といい、さらに髪を失った状態を禿裸という。 では、この裸実装を、他の実装石に引き合わせてみよう。 「デー…」 実装石をつまみ上げるが、反応が薄い。 服を失うことは、生きる気力すら失わせることもある。 実装石が数匹いる水槽に入れる。 「デプー! デプーップププ」 一斉に、人間の嘲笑に似た行為をする。 「デププ デス! デス!」 「デェエエ… デスゥ!」 実装石が裸実装を蹴り始めた。 顔面、内蔵、背中、執拗に打撃を加えていく。 中には、自分の糞を裸実装に食べさせようとしている実装石もいるね。 このように、衣服を失った実装石は、他の実装石から迫害を受ける。 これは他の生物にもいえることである。 衣服を失った実装石は、生存する可能性がとても低い。 それだけでなく、衣服を脱ぎ、肌を露出することで、 天敵(鳥類、爬虫類、両生類、昆虫、とにかく全部)に狙われやすくなり、 コミュニティー全体の危機を招く。 裸実装は、その場で仲間に捕食されるか、実装石の家の中で奴隷として生活するしか生きる方法はない。 まれに、捕食者の目をうまくかいくぐり、寒さに耐え、同属から離れて生活しているものもいる。 おや、そんなことを話しているうちに、裸実装が食べられてしまった。 いけないね。 実装石は共食いを厭わない生物なんだ。 しかも、共食いは癖になる。 普段食べてる餌なんか目もくれず、同属を襲いだすだろう。 他の実験体に危害を加えるから、処分しなければ。 まあ、あとでやっておこう。 講義を続ける。 次は髪についてだ。 「デスゥ?」 実装石の髪は、人間より生えている面積が少ない。 何のために生えているのか、頭部を守るためだと考えられるが、前髪と、後ろ髪しかない。 俗説だが、衣服ができ、頭部を守るフードができたため、髪が退化したのではないかと考えられる。 それを裏付ける証拠として、フードタイプのほかに、服と分かれるズキンタイプがあり、 以前は、頭を防御する衣服はなく、代わりに人間と同じように髪の毛があったといわれている。 ほとんど存在の意味をなくしている髪だが、 ブチッ 「デスゥゥウウウウウウ!!??????」 髪を抜くと、大声で鳴き、衣服を失ったときと同じ反応をする。 髪を失った実装石を、禿(ハゲ)、または禿実装と言う。 髪が抜けても、また生えてくるじゃないか、と思う人もいるだろう。 しかし、衣服同様、髪がまた生えてくることはない。 見た目から、髪、形容しているが、実装石の髪の毛は、へその緒である。 母親の胎内にいるとき、水分、栄養分を運ぶ管であり、 それが生まれるとき切り離されて、残ったものが髪の毛(のようなもの)だ。 だから、実装石によって、髪の毛の生える面積も、ボリュームも、長さも異なっているのは、このためである。 そして、先ほどと同じように他の実装石がいる水槽に入れる。 「デ、デズゥゥゥアアアアア!」 衣服をなくした裸実装と同じ末路を辿る(迫害され、仲間に捕食されるor奴隷になる)。 先ほど述べたとおり、実装石の髪は、生後の頭部を守るという意味を失っているため、 本体の生存には関係なく、またコミュニティになんら迷惑をかけるものではない。 しかし、衣服を失ったときと同様に迫害される。 その説明として、髪は母親との絆を象徴しており、髪を失うことは、 同属とみなされないことを意味するため、と言われているが、諸説に留まっている。 また、リンガル(実装石語翻訳機)という玩具が世間に出回ってから、 「衣服や髪を失うと、みすぼらしいため、社会的地位が落ちるため」 という実に人間的な説が台頭してきたが、リンガルの信憑性が低いため、学会ではまだ認められていない。 リンガルについては、またの機会に述べよう。 おや、もうこんな時間だ。 生殖をコントロールするパンツ(のようなもの)の話も触れたかったが、 次回の講義で、実装石の生殖方法とともに触れることとしよう。 (了) _______________________ ○過去スク 実装石のお食事シリーズ 実装石を殺そう 山月実装せ記 台湾に行ってきました。 いつも感想ありがとうございます!
