タイトル:【愛】 ある実装石の憂鬱
ファイル:ある実装石の憂鬱.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2978 レス数:1
初投稿日時:2009/07/18-00:30:01修正日時:2009/07/18-00:30:01
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「ニンゲン。お腹が空いたデス」

リンガルにはそう表示されていただろうが、飼い主である男はリンガルを持ち合わせていなかった。

「ニンゲン。聞いてるデス」

男はパソコンに向かい、黙々とキーボードに何かを打ち込んでいる。

「また無視デス。おまえは私を可愛がると約束したデス」

デスデスと居間で鳴く実装石を余所に、男は眼鏡越しにパソコンを見つめるだけであった。

「ニンゲン」

男のブラインドタッチのスピードが更に加速する。

「こっちを向くデス」

実装石の鳴き声も聞こえないのか、男はただキーボードに文字を打ち込み続けていた。


◇

「ご飯デス?待っていたデス」

男が一息ついたのか、パソコンの前から立ち上がり台所へ向かう。

「私はあれがいいデス。あれデス」

伸びをしながら、珈琲を入れる。男がお気に入りのサイフォンだ。

「あれは甘いデス。とろけるように甘いデス」

男の足下で実装石が走り回る。珈琲のいい香りが男の鼻孔に届いた。

「それは臭いデス。それじゃないデス」

男は沸き立ての珈琲をコップに注ぎ、軽く一息をつく。

「臭いのじゃないデス。甘い奴デス」

デスデスと足下で鳴く実装石を余所に、男は珈琲を飲み干した。

「デ……」

そして、男は再び居間へと戻った。台所に残された実装石の耳に、再びキーボードの音が響くだけだった。


◇

「もう出て行くデス」

ケロヨンのポーチに入るだけの積み木は入れた。
名残惜しいが絵本は何冊か残さざるを得なかった。
そんな決意を知るか知らざるか、男は黙々とキーボードを打つのみだった。

「もっと幸せな飼い主に拾われるデス」

玄関で外行きの実装靴を履きながら言う。

「ここにはいい思い出がないデス」

吐き捨てるように言う。

「公園は週に1度しか連れて貰えなかったデス」

(でも、スポンジボールで遊んでくれたデス)

「玩具の日は、3日に1日なんて酷いデス」

(でも、新しい絵本を買ってくれたデス」

「昔はお風呂に一緒に入ったデス。でも今は一人デス」

(また一緒に入りたいデス)

靴を掃き終えた実装石は、届かない玄関の扉のノブに何度も飛びつく。

「……届かないデス」

玄関先から、振り向きながら、居間の方を見つめる。

「……………」

そして再び玄関の扉のノブを見上げた。

「届かないデス」

◇

「あ〜… 終わった」

男の仕事はフリーのプログラマーだ。
週に1度、客先から仕様書が送られくる。
詳細設計まで落とされた要件をただコーディングするだけの仕事だ。
はっきり言って、フリーで身を立てれる程の仕事ではない。
ただフリーである以上、仕事を選別できる立場でもない。
与えられた仕事を納期通りこなしていく。今は信頼を積み重ねるしかないのだ。

「デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪」

居間のソファーの裏で、男の実装石が人形を使って遊んでいた。

「どうした、アリサ。よそ行きのポーチなんかつけて」

「デデッ!? デスァ!! デスァ!!」

「ああ、わかった。わかった。飯にするか」

「デギャース!! デスデスッ!! デスァァァッ!!」

「はいはい。甘い奴な。飯、食い終わったらな」

男は足にまとわりつく実装石を避けながら、遅い昼食の準備に取りかかった。


(終わり)

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1 Re: Name:匿名石 2023/07/02-23:40:29 No:00007421[申告]
その糞虫は早く始末しろ
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