駆除初日 そこには歌があった。そのダンボールも含めて、一帯には濃厚な臭気が漂っていた。 ただ、そこには嬌声を上げて媚びつく成体も、じゃれあう仔達もいなかった。 その実装石は半裸で座り込み、半分眼を閉じて歌っていた。たぶん元は飼われていたのだろう。 ピンクの頭巾のふちは金糸で縫い取りがなされ、薄汚れた前髪には小さな花飾りがついていた。 「こいつ、何で歌っているんだろう?」とバイトのトシアキが言った。 我々は辺りのダンボールを調べてみたが、死んだ実装石の他に大したものは見つからなかった。 皐月主任は無線で公園管理事務所に連絡を取って、軽トラックを寄こすようにと言った。 その実装石は、いわゆる「胎教の歌」といわれるものを歌っていた。 時にはゆっくりと抑揚をつけ、時には一匹で微笑んだ。 「こいつ、何で歌っているんだろう?」とトシアキが言うと、何でだっていいじゃないかと水無月班長が言った。 ただ歌いたいから歌っているんだろう。あとになって我々は奴の家族を見つけた。 奴らは死んで、ピンクの親の服に包まれ、ダンボールの中に置かれていた。 それは大した量ではなかった。 小さな蛆と親指が一匹づつと、仔が二匹。 我々が奴らの死体を片付けている間、その実装石は歌い続けていた。 奴は両手を両耳に押し付けていた。それは何かを意味していたに違いない。 そしてしばらく奴は横向きに体を揺すりながら歌い、それから立ち上がって歌った。 奴の眼から腹にまで、赤と緑の涙の跡が伝っているのが見えた。 「でも、俺にはわかんねえな」とトシアキが言った。 地面に散らばっているコロリから、甘い香料の匂いがした。 匂いは大きな塊となって、一帯を漂い続けていた。 我々は作業を始めた。死んだ成体に鳶口を打ち込み、軽トラックの荷台に放り込む。 仔は角スコップで掬いあげて、巣であったダンボールにまとめて入れた。 そして、死骸でいっぱいになったところで荷台に投げ込んだ。 その間も奴は、ゆっくり歌い続けていた。 奴の顔は夢を見ているようだった。そして、冷静だった。 奴のたるんだ首根っこを、皐月主任が手袋をした指先で掴んだ時、わずかに体を震わせた。 しかし、それでも奴は歌い続けた。 「そいつも潰しちゃっていいんすか?」とトシアキが言った。 皐月主任は振り返ってこう言った。個体識別用のICチップが埋まったままだ。 逃げ出したか、捨てられたのかはわからないが、まず保護して飼い主に連絡しないといけない。 少ししてケージに入れられたあとも、奴は一匹で歌っていた。 その夜、公園に設けられた駆除本部に戻ったあとで、トシアキは実装石の歌の真似をした。 「でっでろげぇー、でっでろげぇー、でっでろげっげっ、でっでろでぇー♪」 彼は妙な節をつけて、甲高い裏声で歌った。 両手を耳につけ、しばらく横向きに体を揺すり、それから立ち上がって、猥雑に腰を振りながら歌った。 大男にしては身の軽い水無月班長がトシアキを後ろから掴み、高く持ち上げた。 そして、水を止められ澱んだ公園の噴水まで連れていって、お前、ここに放り込まれたいか、と訊いた。 嫌だ、トシアキは言った。 「わかったらな」と水無月班長は言った。「ちゃんと歌え」 ------------ 習作改 原典_
