妖精実装 2009年○月1日 12時13分 曇り: 最近は、色々な実装関連商品が売られている。 今、私の目の前にあるのは、先日新発売された商品だ。 「フェアリー☆実装ちゃんセット」。 紙ケースの中には、高さ30センチ、幅30センチ、奥行20センチほどの透明のアクリルケースが一つあり、その中に細かな備品が 組み込まれている。 茶色い粉末が沢山詰まっている小袋、白い粒の入った袋、薄茶色の細かい粉末が入った袋、砂利のようなものが詰まった袋、 木製の長い箸、小さな透明のトレイが複数。 かなり多くの備品があり、きちんと理解しないと使いこなすのは難しそうだ。 頂き物なので詳しくはわからないが、まだ発売したばかりの新商品で、結構なお値段らしい。 本当ならそんな物は大切にしまっておきたいところだが、私はこれを使って「ある事」をしなくてはならない。 「フェアリー☆実装ちゃんセット」は、こう見えても、実装石を育成するキットなのだ。 詳しい話は知らないが、どうも数年前にアメリカで新種の実装石が発見されたらしい。 砂漠のような高低温の落差が激しく、かつ極端に水分が少ない土地に対応した種族のようで、従来では考えられないほど乾燥に強く、 また生命力が高い。 親は雨が降った時にまとめて仔を生み、水分が残っているうちに育成し、枯渇すると乾燥状態になって次のスコールを待つという。 実装石にとって大事な水分を無駄にしないように、体格は極端に小さくなっているそうで、成体でも従来の子実装くらいのサイズ しかないんだとか。 蛆ちゃんと並んだら面白い対比になりそうだが、そこまで育てるのはなかなか大変らしい。 しかし、私はチャレンジするのである。 早速、パッケージを開封し内容物を確認すると、まずはアクリルケースを取る。 いわば、これがフェアリー実装達の「水槽」だ。 まず最初に、一昼夜太陽に晒してカルキを抜いた水を300ml用意する。 ここに添付された白い粒を混ぜ、よぉく溶かし込む。 これは天然ミネラル配合の「粗塩」で、フェアリー実装の幼生は、これから仕込むこの塩水から塩分と共にミネラルを吸収して 身体の基礎強化を図る。 そのため、混じりっけなしの塩化ナトリウムである食卓塩では代用できない。 昨日の昼から用意してあるトレイを取り、きちんと分量を量って塩水を作ったら、付属のスポンジを浸す。 これは我々には唯のクリーム色のスポンジに思えるが、実は乾燥寒天から加工された物で、塩水を含むことでフェアリー実装達の 栄養床となる。 この上で、これからフェアリー実装が育っていくわけだ。 スポンジを浸し、約15分。 だいたい2倍程度に膨らんだら取り上げ、アクリルケースの底に置く。 この時、スポンジの表面が水びだしにならないよう、ティッシュで丁寧に拭かなければならない。 そうしないと、スポンジの上の水溜りで幼生が溺れ死んでしまうのだ。 スポンジが乾燥した時の補給用に、カルキを抜いた水を別途保存しておく必要がある。 そのために、わざわざ専用の容器が付属しているところが、実に気が利いている。 だが私は、残った水を容器に詰めようとして、つい手を滑らせてしまった。 慌ててティッシュで拭き取ったが、おかげで予備の水はほとんどなくなってしまった。 のっけから大失敗だ…… 次に用意するのは、付属の黄色いプラ製スプーンと、茶色い粉末。 この粉末を、スプーンの1/3ほど取り、スポンジの上にまんべんなく散らす。 とても信じられないことだが、この茶色い粉末の粒一つ一つが、乾燥状態の蛆実装なのだ。 フェアリー蛆とでも呼ぶべきだろうか? 目を凝らしてみても、ただの粒の集まりにしか思えず、あの特徴的な形状などまったく確認できない。 これが、スポンジから水分、ミネラル、塩分、養分を吸収して、仮死状態から目覚めるという。 なまじ信じられないことだが、まずは試してみるしかない。 うまくすれば、だいたい24時間から48時間で息を吹き返す。 早速、私はスプーンに粉末を取り、丁寧にばら撒く。 一箇所に山にしてしまうと、蘇生が遅れるだけでなく下敷きになった者が圧死してしまうため、満遍なく散らす必要がある。 しかし3杯もバラ撒くと、スポンジの表面が薄茶色になってしまって、何がなんだかわからない気がする…… 今日はここまで。 後は、温かく保護してやらなければならない。 2009年○月2日 15時26分 曇りときどき雨: はやる心を抑えながら、水槽を覗き込む。 スポンジの上に散らばった茶色い粉末は、ほとんど変化がないように見える。 付属のルーペを持ってケースの底を見てみると、ようやく変化がわかった。 いくつかの粒が、ピクピクと僅かに蠢いている。 全体を眺めると、所々で同じような様子が見て取れる。 どうやら、無事に蘇生したようだ。 だが、ルーペを通してもまだ蛆実装の形は認識出来ず、心持ち横長になった粒が微妙に揺れているだけ。 それでも、私は感激していた。 ただの粉粒に過ぎなかったものが、ちゃんと生きて動いているのだ! 長い間見つめているとだんだんキショイ気分になってくるが、それは仕方ない。 歓び勇んで同居人に見せてみるが、なぜか彼はあまり良い顔をしていない。 私は、マクロにちっちゃい蛆ちゃん達が早く大きくなる事を祈り、明日以降の展開を楽しみにすることにした。 2009年○月3日 8時6分 晴れときどき曇り: 夕べの頭痛がまだ癒えず、時折ズキズキするが、こらえてケースを覗き込む。 だが、蠢いているフェアリー蛆実装は昨日より数が減っており、それどころか明らかに成長後に死んでしまった者が確認できる。 どういう事なのか慌てるが、自分に確認できる範囲ではまったく問題がない。 栄養床も、塩水も、温度も置き場所もすべて完璧だし、第一昨日はちゃんと沢山蘇生したのだ。 落ち度がある筈がない。 痛む頭を抱えながら、私はもう一度ケース内をルーペで入念に観察する。 すると、乾燥蛆の中にまだ蘇生しきっていない者が多く、それが水分を得て動き始めた者を押し潰していることに気付いた。 乾燥している間は丈夫なのに、蘇った途端やわになるのが今ひとつ解せなかったが、これで乾燥蛆の入れすぎが原因なのだと ようやく理解する。 いきなりの大失敗だ。 同居人の手を借り、一旦栄養床を取り出し、表面を掃って乾燥蛆を減らすことにした。 当然、こうすると蘇生した者も零れ落ちてしまうが、やむを得ない。 水分で栄養床に付着し続けている者のみを、今後育成していくと割り切って諦める。 後に同居人が調べたところによると、どうやら育成セットで指示されている分量よりも、少なめの投入で問題ないらしい。 むしろ数が多すぎると、後々様々な悪影響が出るようだ。 まったく、だったら最初から判りやすくそう記して欲しいものだ。 栄養床に付着しているのは、ほとんどが未蘇生状態の蛆だけのようだ。 また振り出しに戻ってしまったが、諦めず明日を待つことにする。 何故かニヤニヤ笑う、同居人の態度が気にかかる…… 2009年○月4日 20時55分 晴れ: 夜、ケースの中で再び蛆実装達の蘇生ラッシュが始まったのを確認する。 スポンジの表面に付着した者のみなので、折り重なることもなく皆順調に身体をピクピク動かしている。 こころなしか、昨日見た者達より元気のように思えた。 スポンジの栄養床で蘇生した蛆実装達は、少しずつ栄養を吸収して育っていく。 話によると、この栄養床に含まれている成分は、蛆実装の身体構造を強化するためのもので、「餌」とはまた違うのだという。 「餌」は、これとはまた別に与える必要があるのだが、蘇生後三日間は、お腹の中に持っている栄養袋で補えるそうだ。 これは、通常の蛆実装にはない、特殊な性質なのだという。 蛆実装達が無事成長することを祈り、自分も食事を摂る。 だがその前に、水槽を窓際に置き直さなければならない。 床に置きっ放しでは、同居人が蹴躓いてしまうかもしれないし、ある程度は空気の流れを作ってやる必要があるからだ。 2009年○月6日 14時13分 曇り: 二日経過し、蛆実装達はほぼ全て問題なく成長した。 ルーペを用いなくても、それぞれとても元気に蠢いているのが確認出来る。 順調に行けば、明日には微かに鳴き声を上げられるくらいになるらしい。 栄養床の水分が乾き始めているので、スポイトを使って入念に補給を行なう。 勿論、蛆実装に直接水滴をかけてはいけないので、慎重さが求められる。 さもないと、スポイトから零れた水滴で窒息してしまう。 小さな生き物にとって水の張力は強い粘度と同じことなので、一度捕らわれると絶対に逃れられないのだ。 私は、スポンジの側面からスポイトで水分を注ぎ込み、表面がしっとりし始めるまで繰り返す。 なんとなく、蛆実装達も喜んでいるようだ。 同居人が、明日は快晴らしいとテレビを見ながら呟いている。 2009年○月7日 13時37分 快晴: 窓からの日光で水槽の温度が上がり過ぎてしまい、蛆実装はみんな死んでしまった。 同居人は、やっぱりという態度で呆れながら、うろたえる私を見ている。 今後同じ失敗を繰り返さないため、対策を考えなければならない。 部屋の中で比較的風通しが良く、適度に涼しい場所を探し、同居人に占有許可を取る。 でも、今日はそれで精一杯だ。 自分のふがいなさに打ちひしがれ、今日はもうこれ以上、何かをする気力が起きない…… 2009年○月11日 9時1分 快晴: 気を取り直して、最初からもう一度行なう。 栄養床で蛆実装を育て、適度にスポンジの水分を補給しながら、なんとか初の「餌やり」の時期まで育てることに成功した。 今度は直射日光に晒されないよう、適度に光の当たる程度の静かで涼しい場所を選んだ。 この頃には、蛆実装達は目測1ミリ強程度に大きくなり、耳や首のくびれ、尻尾が区別出来るようになる。 覗き込むと、それに反応して頭を上げ、尻尾を少しだけ振る。 こんなに小さく儚いのに、環境の変化に敏感というのは、ちょっとだけ感激させられる思いだ。 私は、明日与える予定の餌袋と、初回に必要な分量をじっくり確認し、油断なく行なって行こうと誓う。 2009年○月12日 7時45分 晴れ: 夕べのトラブルのせいで、右手がうまく動かせない。 そのせいか、餌の分量を図るプラ製軽量スプーンが上手く扱えない。 昨日あれほど充分な準備を行なったというのに、私はうっかり、スポンジの上に餌袋の中身を半分ほど零してしまった。 山になった餌の下には、かなりの数の蛆実装が埋まっている。 同居人はスポイトで餌を吸い上げてくれたが、スポンジの表面にこびり付いた餌と蛆実装の区別が付かない。 気のせいか、餌の直撃を受けなかった蛆実装達の動きも、止まっているような。 12009年○月137日 683時998分: まタ全滅 あ まイ 鯛 パキンかよ 痛い! イタイ!! 許し 2009年○月18日 15時00分 曇り: 最近は、色々な実装関連商品が売られている。 今、私の目の前にあるのは、先日新発売された商品だ。 「フェアリー☆実装ちゃんセット」。 紙ケースの中には、高さ30センチ、幅30センチ、奥行20センチほどの透明のアクリルケースが一つあり、その中に細かな備品が 組み込まれている。 茶色い粉末が沢山詰まっている小袋、白い粒の入った袋、薄茶色の細かい粉末が入った袋、砂利のようなものが詰まった袋、木製の 長い箸、小さな透明のトレイが複数… 頂き物なので詳しくはわからないが、まだ発売したばかりの新商品で、結構なお値段のする物らしい。 本当ならそんな物は大切にしまっておきたいところだが、私はこれを使って「ある事」をしなくてはならない。 「フェアリー☆実装ちゃんセット」は、こう見えても、実装石を育成するキットなのだ。 中古品なのか、既に何度か使った形跡がある。 備品の一部も使用されているようで、特に「餌」とされる薄茶色の細かい粉末が入った袋、の中身が半分ほどしかない。 同居人に尋ねると、どうやらなくなってもきな粉や小麦粉で代用できるらしいので、安心する。 私は、早速水のカルキ抜きを開始した。 明日から本格的な準備開始だ。 2009年○月23日 10時5分 雨: 育成開始から、五日が経過した。 蛆実装達はルーペを使わなくても形がはっきりわかるようになった。 さすがに、途中何割かは死んでしまったが、それでも現状12匹程度は生きている。 フェアリー実装の蛆ちゃんは、蘇生後三日間はお腹の中に持っている栄養袋で補えるそうだ。 これは、通常の蛆実装にはない、特殊な性質なのだという。 同居人の話によると、どうやら最初に与える餌の分量はマニュアルよりも遥かに少なくて良いらしい。 というのも、体長1ミリを超えるかどうかという程度の大きさしかない蛆実装にとっては、粉末餌であってもかなり大きい粒になる。 一粒食べればそれだけで丸一日生きていけるとのことなので、マニュアルにある軽量スプーン一杯もあげる必要はない。 最初は、同居人が餌をあげる。 なかなか上手いもので、蛆実装に被らないように絶妙な位置にふりかけていく。 普段はあんなにずぼらなのに、こういう所だけ妙に器用で、なんかムカつく。 けど、そんなアンバランスな所が気に入ってたりもする。 2009年○月28日 21時23分 晴れ時々雨: 育成十日目。 フェアリー実装の育成はかなり早く、既に大きさは5ミリ前後に達し、レフレフという鳴き声も聞き取れるようになってきた。 この時点で、生き残っているものは8体。 残りは、水を飲もうとしてスポンジの穴で窒息したり、餌を喉に詰まらせたり、スポンジから落下して死んでしまった。 しかし、育成にはこれくらいの匹数がベストなのだという。 あまり数が多くなりすぎると、すぐに環境が悪化して死んでしまったり、共食いが発生してしまうらしい。 育成セットにあるマニュアルによれば、この時期の蛆実装はまだ本能による行動しか行なえず、従来の蛆実装より遥かに知能が劣る のだとか。 まあ、所詮5ミリしかない身体に収まった脳みそだから、当然といえば当然だ。 そんな事を考えながら水槽を眺めていると、同居人がいきなり私の頭を撫でてきた。 そこはいつも頭痛で痛むところなんだから、触らないで欲しい。 2009年■月1日 17時15分 曇りのち雨: 二週間経ち、ようやく普通の蛆実装と変わらない大きさになった。 全長は約1センチで、仲間同士できちんと会話が成立する(らしい)レフレフ語を話し始める。 この頃から、脳や神経網の発達が加速的に始まり、成長が著しくなるのだという。 もうスポンジも不要になり、これからは「砂利のようなものが詰まった袋」を使用する。 これは一見ただの砂利だが、実は乾燥した木材の破片で、バルサ材のように柔らかく湿気や余計な水分を吸収するだけでなく、 消臭効果もあるらしい。 これからは、蛆実装達の糞量も飛躍的に増えるので、こういった設備が重要になってくる。 このままあと一週間経つと、いよいよ仔実装への成長が始まるそうだ。 同居人によると、次の段階への成長に入る際、かなり奇異な展開が起こるらしい。 何かは教えてくれなかったが、相当エグいらしいので覚悟しておけと言われた。 2009年■月7日 22時10分 曇りときどき晴れ: 三週間目に差し掛かる。 蛆実装は更に太り、中には2センチ級の大きさに達する個体もいる。 この頃になると、全身の色は茶色から緑へと変わり、だんだん実装石らしい特徴になってくる。 驚くことに、フェアリー実装の蛆ちゃんは、体格の割に移動能力がかなり高い。 ジソペディアによると、元々水の少ない土地の生き物のため、数少ない水場を確保するために身に付いている能力なのだという。 身体を伸縮させながら、滑るように床の上を移動する蛆実装は、なんかかっこいい。 その日の晩、彼女達が水槽内の特定の場所に糞を集めている事に気付く。 躾などは何もしていない(出来ない)のに、ちゃんとトイレを決めているようで感心させられる。 ちょっと臭いがきついので、そろそろ処分してやらなければならない。 ビニール袋を重ねて水槽の糞を片付けていると、同居人が驚いて声を上げた。 何かあったのだろうか? 2009年■月7日 22時15分 曇りときどき晴れ: すごく痛い なんで、いきなり殴るの……? 本気で殴るなんて、酷すぎる!! 2009年■月8日 11時19分 曇り: 生き残った蛆実装は、たった三匹になってしまった。 後の五匹は、糞を溜めていた場所で折り重なるようにして悶死していた。 後から知ったのだが、フェアリー実装が自主的にトイレを定めていたのには理由があった。 糞を大量に溜め、コロニーのようなものを作ると、彼女達はそこに潜り中で変態を行なうそうだ。 水分を多く含み、また未消化物の栄養分に満たされている糞コロニーは、蛆実装が仔実装に成長するのに必要不可欠なのだ。 また、砂漠地帯ではこれが乾燥から身を守る役割をも果たす。 これが、同居人の言っていたエグいことなのだと理解する。 道理で、最近妙に糞量が増えたと思った。 私は、せっかくの成長のチャンスを台無しにしてしまったのだ! しかし、それならそれで、どうして先に教えてくれなかったのだろうか…… 2009年■月12日 10時9分 快晴: 遅れること五日、ようやく三匹の蛆実装が糞コロニーの中に潜り込んだ。 うまく行けば、これから約48時間ほどで仔実装化して出てくるそうだ。 ただし、出てくる時には洗浄用の水皿を準備しておく必要がある。 セットに付属していた透明のトレイは、そのためのものだった。 これは餌皿かと思ったが、実はお風呂だったのだ! 同居人によると、糞から出てきた仔実装はとても体温が低いので、水温が低すぎると心臓麻痺を起こしてしまうそうだ。 適温は20度。 水温計を準備し、私は翌々日に備えることにした。 とりあえず、ここから二日間は何もすることがない。 天気も良いし、久々に同居人を誘って、近所の公園に散歩にでも行こうと思う。 2009年■月12456日 15579時36459分 快便: 襲われ 犬 なんで助け 紅 また頭 アタマからなんか出た 2009年■月13日 6時02分 快晴: 部屋の隅に、見慣れない水槽が置かれている。 あれはなんだろう? 同居人、また蛆ちゃんでも飼い始めたのだろうか? 薄汚れた水槽の中には、水の入った透明な容器が数個と、大きな固まりが入っていて、凄まじい異臭を放っている。 どうやら、実装石の糞のようだが、肝心の実装石がどこにもいない! さては、どこかから野良が忍び込んでオイタをしたに違いない。 まったくとんでもない奴らだ、少しは飼い実装の品格を見習って欲しい。 私は、同居人が気付く前にビニール袋を用意し、臭みに半ベソをかきながら糞の固まりを片付けることにした。 頭の包帯が汚れないように、注意しなくては。 回収した固まりは、とてもトイレに流せそうにはない。 今日が可燃ゴミの日で、本当に助かった。 2009年■月13日 8時53分 快晴: 同居人が、血相をかえてあの糞袋を回収してきた。 何か必死で怒鳴っているが、何がなんだかわからない。 そもそも、なんで私が怒られる必要があるのか? 感謝こそされ、怒られるいわれはない。 私は事情を説明するが、それを聞いた同居人は呆れて例の水槽へと向かう。 なんと、せっかく片付けたあの糞の固まりを取り出そうとしているではないか! 同居人、そんなシュミまであったのかと!! しばらくすると、どこからか仔実装っぽい泣き声が聞こえてきた。 また野良か? 2009年■月15日 13時02分 晴れ: 昨日、同居人がどこからか連れてきた小さな実装石は、今はあの水槽内で生きている。 大きさはせいぜい3センチ程度で、親指にすら満たない。 だが、同居人は「これは仔実装だ」と強調する。 そう思うならそれでもいいが、どう見てもそりゃ違うだろうと突っ込まざるを得ない。 ふと見ると、水槽の傍に何か箱が置かれている。 「フェアリー☆実装ちゃんセット」? なんだこれ? 2009年■月15日 21時10分 晴れ: 色々説明されたが、どうやら私はこのミニマムな仔実装達の育成を頼まれたらしい。 同居人が仕事に行っている間、この子達の世話は私がすることになった。 まったく、私には子供を生ませてくれないのに、どうしてこんな……理不尽だ。 そう考えると、仔実装?達に対して憎悪が湧いてくる。 彼女達はしきりにチィチィと鳴いているが、聞く耳を持つ気はない。 私は彼女達とのコミュニケーションを拒絶し、ぞんざいに餌をやり、適当に水を与えることにした。 それにしても、餌がきな粉というのは実に笑わせる。 まあ、こんなひ弱な連中には相応しいとも思うが。 2009年■月18日 18時42分 大雨: 三日後、一匹の仔実装がきな粉のトレイの中で粉まみれになって窒息していた。 他の個体は、最初に手を水で濡らしきな粉をダンゴ状にまとめてから食べるように工夫していたのだが、この個体だけはそんな 知恵が働かなかったようで、直接口をつけようとしてトレイにダイブしたようだ。 知恵のない、頭の悪い仔から淘汰されていく、それが実装石の掟である。 私は形ばかりのナマンダブをかます。 さて、同居人にはどう説明すればいいのか……前の怒り様からすると、これを知ったらかなりキレまくるだろう。 なんとかうまく誤魔化す方法はないだろうか。 ——そうだ、こいつらが勝手に殺したことにすればいい! それなら事故だから、私の責任ではなくなる。 私は、死んだ仔実装の粉を洗い落とすと、怯える二匹の前にそれを落とし、こう言ってやった。 「今すぐ、そいつを食うデス。食わなかったらワタシがお前らを食い殺すデス!」 2009年■月18日 20時54分 大雨: 同居人が、物凄い形相で私を捜している。 どうしてだろう? なぜなんだろう? 完璧な筈の偽装が、なぜか一瞬でバレてしまった。 あの二匹は、私の命令通り死んだ奴の死体を食った。 泣きながら、嗚咽を漏らしながら、必死で食い尽くした。 本当は完食などしなくてもいい、共食いした跡だけ残れば良かったのだが、泣きじゃくりながら姉妹を貪る光景が笑えて、ついつい 全部食わせてしまった。 仕舞いには二匹とも、腹を膨らませて立ち上がれなくなっていたが、数時間もすれば全部糞になって出てしまう筈だ。 そう楽観視していたのだが…… 実装リンガルで彼女達を追求している暇などなかった筈なのに、同居人は瞬時にこの完璧な偽装を見破った。 何故だろう? 普段はそこまで勘は鋭くないのに! 同居人の足音が、私の隠れているクローゼットに近づいて来る。 あ、光が—— 2009年■月18日 21時06分 大雨: デギャァァァァァアア!!! ジャギャアァァァァアアアア!!! 駄目、腕は駄目! 脚千切ったら走れない!! 痛いイタイイタイイタイイタイ!!! ワタシハワルクナイデシャアァァァァ!!! 2009年■◆□月38695日 21時-95分 マラ実装: 頭ガツ 痛 また脳ミ あんた誰 2009年■月25日 12時13分 晴れ: 最近は、色々な実装関連商品が売られているらしい。 今、私の目の前に先日発売された新商品がある。 「フェアリー☆実装ちゃんセット」。 頂き物なので詳しくはわからないが、まだ発売したばかりの新商品で、結構なお値段のする物らしい。 私はこれを使って「ある事」をしなくてはならない、らしい。 同居人が、そう云うのだ。 「フェアリー☆実装ちゃんセット」は、こう見えても、実装石を育成するキットだ。 中古品なのか、既に何度か使った形跡がある。 備品の一部も使用されているようで、特に「餌」とされる薄茶色の細かい粉末が入った袋、の中身がほとんど残っていない。 それに、他の備品も凄く汚れている。 まずは、これを全部丁寧に洗うところから始めなければ。 同居人にも手伝って欲しいと願い出るが、今回は自分一人だけの力でやり遂げろと強く言われてしまう。 今回は、なんて言われても私は初めてなのだ。 そんな事を言われても、困ってしまう。 早速、水のカルキ抜きを開始する。 明日から本格的な準備開始だ。 2009年△月23日 19時25分 晴れ時々曇り: 育成開始から、一ヶ月が経とうとする頃。 色々な経過を経て、フェアリー実装は最後の変態に入るべく、再びあの糞コロニーに潜り込んだ。 何度見ても、その光景はおぞましいが、彼女達は至って真面目で良い子ばかりだから、思わず温かく見守ってしまう。 ほんの一ヶ月しか経ってない筈なのに、もう何ヶ月も世話をし続けてきたような錯覚を覚える。 髪も頭巾も失って久しいのに、この仔達は私に本当の母親同然に接してくれる。 今まで、心の底から愛情を注ぎ、育てた甲斐があったというものだ。 現在、コロニーの中に潜っている個体は全部で十体。 これだけの数が最終変態に挑むというのは、かなり珍しい事なのだという。 同居人は、私より嬉しそうに色々な豆知識を披露する。 水分補給に気を遣い、水槽内が汚れないようにひんぱんに掃除を行い、共食いをしないように餌の配分に気をつけて(共食いをする と体内に入った肉片が水分を奪ってしまい、脱水症状を起こしてしまうのだ)、成長後は常に清潔でいられるよう、丁寧に身体を洗浄 した。 お国が違うせいか、それとも種族が異なるせいか、言葉こそ通じなかったが、彼女達が私を好いてくれている事は充分理解出来る。 だからこそ、私はここまで頑張って来れたのだ。 明後日の朝には、彼女達は新しい姿「成体フェアリー実装」として生まれ変わる。 同居人は、私以上に喜んでいるみたいだ。 明後日の夜は、豪勢なお祝いをしてくれるという。 まったく、無邪気なものだ。 そんなところが好きなのだが。 2009年△月25日 17時20分: 最終変態は無事成功して、十体の子供達は全員糞コロニーから出てくることが出来た。 皆、10センチ強程度の身長に育ち、体重も体格もそれなりにしっかりしている。 とても病弱だったミドリや、いつも弱々しくすぐに体調を崩しがちだったぷちも、今ではすっかり大人のフェアリー実装だ。 私達は再会を喜び合い、全員揃ってお風呂を楽しむことにした。 ここに至り、彼女達はやっと私と同じ言葉を喋れるようになった。 しきりに「ママ」「ワタチノママ」「大好キママ」と呼んでくれる。 とても嬉しい、思わず涙がこぼれる。 成体の割にはまだまだ甘えん坊な子達だが、とにかく皆健康に育ってくれて良かった。 洗面器の湯船の中、私達はいつもより長く湯に浸かり、楽しい会話に花を咲かせた。 別室では、同居人がお祝いの準備を整えている。 何やら良い匂いが漂ってきた。 「コレハ羅臼昆布ノオダシノニオイテチ!」 一足先に上がり身体を拭いていたアントワネットが、私にそう報告する。 どこでそんなの覚えたんだ。 2009年△月25日 17時42分: お風呂上りでさっぱりした私達は、同居人に運ばれリビングに移動した。 見慣れたテーブルの上には、小さなガスコンロと土鍋、そして沢山の具材が乗せられた皿が置かれている。 初めて見るが、これが噂に聞く「鍋料理」というものらしい! おお同居人よ! 奮発したな!! 月給手取り15万、その半分が積みエロゲに消える君にしては、実によくやった! 私は、子供達に鍋料理のことを説明し、共に手を上げて喜びの声を上げると、全員で同居人に向かって頭を下げた。 やっぱり、なんだかんだで彼はいい人だ。 私が好きになっただけのことは、ある。 2009年△月25日 17時43分: 私が顔を上げたのは、ミドリの悲鳴を耳にしたからだ。 突然、私の真横にいたミドリが姿を消し、遥か向こうからその声がしたのだ。 事態が呑み込めず慌てている私達の耳に、続けてアントワネットの悲鳴が届いた。 更に、ぷち、レイミィ、マル、ゴルゴム、厳次郎、マダガスカル、ハリガネムシ、スペランカーの悲鳴が…… なんと、同居人が彼女達を捕らえ、ぐつぐつ沸き立つ鍋の中に放り込んでいるではないか! 呆然とする私に向かって、同居人は舌なめずりをしながらこう言って来た。 フェアリー実装は、元々食用として培養される生物だ。 普通は加工食品か、養殖物が売られてたりしてるが、最近はこうして自分で育てて食べるのが流行っている。 フェアリー実装はミネラルやカルシウム、グルタミン酸が豊富で、噛めば噛むほどじゅわっと良い味が広がっていく。 こんなに大きなフェアリー実装が十匹なんて、もし店で買ったら軽く二万円は超えるだろう。 本当によくやった! 同居人は、嬉しそうにそう説明しながら、私の頭を撫でてくれた。 子供達を失った悲しみと、褒められた喜びがごちゃ混ぜになって、私の両目から沢山の涙が溢れ出た。 2009年△月25日 18時11分: 鍋物は思わず脱糞しそうになるほど美味しく、フワフワに温まった娘達の肉は、適度な歯ごたえと深い旨味が心地良い。 しかも、野菜のダシを豊富に含み、独特の甘みと風味が増加し、至福の味わいに昇華している。 ここに来て初めて見る、同居人の幸福そうな笑顔を眺めながら、私は苦悶の表情を浮かべたままで煮上がっている、ぷちの腹に かぶりついた。 口の中に、じゅわっと素晴らしい旨味が拡がっていく。 思わず浮かぶ微笑みに、同居人もウンウンと頷きを返してくる。 私は、明日からまた新しいフェアリー実装を育ててみようと思った。 2009年△月25日 18時12分: あいて。 小骨ささった。 (完) ———————————————————————————————————————————————————————————————————————————— 描き損じくらい、大目に見てよね〜♪
