■釣り堀 友人の「」から「日曜日に釣り堀に行こう」と電話がかかってきたのは、仕事もひと段落した木曜の夜のことだった。 どちらかといえば出不精な私には、アウトドアの経験はほとんどない。 当然のように釣りの経験もなかった。 その旨を告げると「バーベキューもやるし、誰でも釣れるから」と嫌に食い下がってくる。 気になる女の子を誘ったのはいいが、二人きりというのはどうにも気まずいということで私を引きずり出したいらしい。 今の仕事のペースであれば、日曜日は休みを取れるだろう。 私は「」に了解した旨を告げると電話を切った。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 気持ちの良い青空と緑が広がっている。 「」と彼の女友達とともにやってきた釣り堀は、都内とは思えない山奥にあった。 駅からは少しばかり離れており、運動不足の私は少々息切れ気味である。 「どうだ、としあき。たまには外出も気持ちいいものだろう?」 アウトドア派の「」にとっては、この程度の山道は何ともないらしい。 彼の女友達も同じである。 私は苦笑いを浮かべるのがやっとだった。 少し立ち止まって息を整える。 釣り堀の看板には「実装釣り堀」と書かれていた。 「おい、実装ってなんだ」 私は「」に訪ねた。 いや、実装が何を意味するかは分かっているが、確かめずには居られなかったのだ。 「あれ? いってなかったっけ」 「」はニヤニヤ笑いを浮かべている。 これはバーベキューも期待できそうもない。 私は空を仰いだ。 「ほら、こうやって釣り針に餌をつけるんだ」 「」は慣れた手つきで蛆実装の服を剥ぐと、総排泄口に釣り針を突っ込んだ。 蛆実装が「レフゥン」短い鳴き声をあげる。 「」の話ではここは実装石好きのための釣り堀とのこと。 何もかもが実装石なのだそうだ。 当然、バーベキューの鉄板の上で湯気を上げている肉も実装肉である。 とても女の子を連れてくるような場所じゃない……。 と思っていたが、それは私の偏見らしく「」の女友達はキャーキャー言いながらも早速釣りを始めている。 楽しんでいないのは私だけだった。 餌として手渡された蛆実装を眺める。 腹を向けてレフレフ言っているところを見ると、可愛がってもらえるとでも思っているらしい。 釣り堀に来て何もしないというのも無礼な話か。 私は蛆実装をつまみあげると、服に釣り針を引っ掛けて川面に放った。 適当に泳がせておいて時間をつぶそう……。 そう思った矢先、竿にガツンと強い手ごたえが走った。 思わず竿を立ててしまう。 見てみると何かが釣り糸の先でビチビチと暴れている。 それは巨大な蛆実装だった。 いや、蛆実装とは少し違う、実装石と蛆実装と魚を足して3で割ったような生き物。 それが先ほどの蛆実装ごと釣り針を呑み込んだのだ。 「デー、デヴォー!!」 気味の悪い声をそれはあげた。 「としあきさん凄ーい! 一発じゃないですか!!」 「」の女友達が歓声を上げる。 だが私はそれどころじゃない。 そもそも何か釣るつもりもなければ、こんな気味の悪い生き物を釣るつもりもなかったのだ。 竿を取られないように必死に抵抗し、無理やり生き物を釣り上げる。 釣り上げられた生き物は(魚実装とでもいうのか?)、ビチビチと地べたを跳ねまわって血涙を流した。 「おー、凄いな。さすが、としあき」 「」が気楽なことを言う。 私は釣り針を外すこともできずに尻もちを突いたまま呆然としていた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「ホイル焼きにすると上手いんだよ」 「」は先ほどの生き物を器用にさばくと、野菜やバターとともにホイルにくるんだ。 そのままバーベキューの残り火に投げ込む。 しばらくブチュブチュと言っていたが、そのうち良い匂いが漂いだした。 ここいら辺は魚と変わらない。 結局、釣果は私が1、「」が4、「」の女友達が3といった感じで私が一番低かった。 奴の姿が強烈過ぎて釣りをする気を失ってしまったのである。 ため息をつきながら火を眺める。 全く情けない実装石ごときにここまで翻弄されるとは。 しかしいい経験にもなった。 実装石の品種改良が進んでいるとは聞いたが、ここまでの変種がいるとは思っていなかった。 まだまだ勉強不足である。 焼きあがった熱い実装石を口に運ぶ。 うまい。 これだけでも釣り堀に来た価値はあるか。 夕暮れも近くなり、私たちは後片付けを始めた。 と、足もとで蛆実装の鳴き声がする。 あぁ、私の分の餌が残っていたのか。 足もとの蛆実装はレフレフとこちらを見上げている。 期待に満ちたまなざしだが、私は実装石を飼うつもりはない。 さよなら、蛆実装。 私は蛆実装たちを箱に収め、一捩じりした後にゴミ箱に放り込んだ。
