タイトル:【愛・哀】 サビとの生活
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3602 レス数:0
初投稿日時:2009/04/26-21:51:53修正日時:2009/04/26-21:51:53
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サビとの生活

男がコンビニから出てきた。その男の袋を狙う怪しい影。
言うまでもなく実装石の親子である。託児を狙っているのだ。
「ママァ。あのニンゲンさんレチ?」
「そうデスー。デスが…。」
親指と成体実装の親子。どちらも綺麗な身なりをしている。あくまで野良レベルではあるが。
今まさに託児をしようとしていたが、どうも親実装は乗り気でないようだ。
二匹が狙っている男は、公園で実装石を可愛がっていた愛護派だ。
上手くいけば託児は成功するだろう。しかし、親は躊躇した。
そして行動に移った。
親実装は娘を抱えると男に向かって走り出した。
「ニンゲンさーん!待って欲しいデスゥ!待ってデスゥ!」
親実装はコンビニ袋託児を諦めたのだろうか。
その声に男も気が付いて振り返る。
「おや、どうしたのですか?」
リンガルは標準装備。男は愛護派であるが、リンガルを使用している。
「ニンゲンさん。お、お願いがあるデスゥ。」
「私に出来ることであれば。」
親実装は親指を男に差し出した。
「ワタシの娘を飼って欲しいデスゥ。」
「ママ?袋の中じゃないレチ?」
「ママに任せるデス!ニンゲンさんは愛護派とお見受けするデス。
この仔は私の娘の中でも一番賢い仔デス。ニンゲンさんに飼ってもらっても大丈夫なように教育してあるデス。
お願いデス。うちの娘をもらって欲しいデスゥ。」
どうやら親実装は突然のコンビニ袋託児より、交渉に切り替えたらしい。
やり方としてはフェアだろう。相手にもよるだろうが。男はしばらく考えてから結論を出した。
「そうですね。構わないですよ。ただ、条件があります。」
「ほ、ホントデスか!?」「レチか!?」
「貴女は確かあの公園に居た方ですよね。
今の私の家は散らかっていて貴女のお仔さんを招き入れられる状態ではないのです。
今から帰って片づけますので、明日の昼過ぎに公園に私がお迎えに上がりますよ。
そうですね…大時計の下にしましょうか。」
「デスゥー。」
少々納得していないような親実装。
「考えてもみてください。もし、私が虐待派ならば、ここで貴女の仔を奪い取り地面に叩き付けるか、
即家に持って帰って虐待を開始するでしょう。または、貴女ごと此処で。ということもありえます。
もし私が明日公園に現れなくても、貴女と貴女の大事な仔は五体満足で居られるのですよ。
この条件はお互いに悪いことはないと思っているのですが。どうでしょうか?」
色々言われたが、所詮は実装石だ。「お互いに悪いことはない」という言葉で丸め込まれたようだ。
「分かったデスー。明日のお昼に、あの公園で待ってるデス。」
「ええ。お願いします。すいませんね。」
「お願いしますレチ!」
「ええ。可愛い親指ちゃん。また明日。」
「レリュー♪可愛いって言われちゃったレチ!アチタは綺麗にして待ってるレチ♪」
男は二匹に笑いかけると去っていった。

双葉城北公園。
虹浦利昭が建造したと言われる双葉城(特定史跡)の北に位置する巨大な公園である。
虹浦利昭は戦国時代に活躍した武将で、実装石を兵士、非常食に使用し、
現在で言うブリーダーとしての腕前は天下一だと言われる。
虹浦利昭は、実装石を兵士として鍛え上げ、「元服」として前髪と後ろ髪をそり落とし、
禿裸にした後、糞爆促進剤(ドドンパの強力版かと思われる)を
実装石に喰わせ、相手の戦場を強襲させたと言われる。
実装石が禿裸を嫌うのは、その時の「元服」と「糞爆促進剤」での
仲間達の死亡を実装石が偽石レベルで認識しているのではないかという解釈もあるそうである。
双葉城北公園はその虹浦利昭をたたえ、実装石の保護に勤めている公園である。
そして、愛護派と虐待派が仲良くしている貴重なスポットである。
その理由は城北公園に訪れる愛護派は、糞蟲を嫌っており、
虐待派は公園内で糞蟲のみ排除することが可能とされているためである。

その城北公園に、親仔は住んでいた。
そして時計の下には親仔が既に男を待ちこがれていた。
「ニンゲンさんおそいレチー。アタチがんばって身体綺麗綺麗したレチ♪
ニンゲンさんも気に入ってくれるレチィ♪」
「そうデスー。もう少し待つデスー。あのニンゲンさんはきっと来るデスー。」
それから五分もしただろうか。
「どうもすみませんね。道が混んでいたモノですから。」
「ニンゲンさんレチィ♪」
「どうもデスゥ♪」
男は手に実装石用のキャリーバックを持って現れた。
「では、その仔を私に預ける。と言うことでよろしいのですね?」
「はいデス。」
「…ママァ。」
「オマエはニンゲンさんのところに行くデス。オマエはワタシが飼い実装になっても恥ずかしくないように育てたデス。」
「でも、アタチやっぱりママと一緒に居たいレチ。」
親指は泣きそうな顔で親を見つめる。
「お二人ともお迎えできれば良いのですが、私の都合もありますし…、他のお仔さんもいらっしゃいますしね。貴女は。」
「ママァ〜」
「…そうですねぇ。こういうのはどうでしょう。私の仕事が休みの日にはお仔さんを此処に連れてきますよ。
土日…と言っても暦がありませんから分からないでしょうが、土日のどちらかで一時に、
この大時計の下にお仔さんを連れてきましょう。それでどうですか?」
条件としては珍しいだろう。
もし、この男が虐待派であれば、そんな申し出は普通しないはずだ。
男は紛れもない愛護派であったのだ。
「土日は六つ目と七つ目だったデス。分かったデス。」
「ほお、土日の概念が分かりますか。どうでしょうか?悪い話ではないですよ。」
「ニンゲンさんもこう言ってくれてるデス。ワガママ言わないデス。オマエは私の自慢の娘デッスン♪」
「分かったレチ。これからもここでママに会えるレチ?」
「そうですよ。約束しましょう。」
「約束レチ!」
「お願いしますデス、ニンゲンさん。」
「おねがしますレチ!」
「ええ。では早速私の家に行きましょうか。今日から生活が変わるのですから早い方が良いかとも思いますしね。」
「はいレチィ♪」
親指は男が差し出したキャリーボックスの中に入っていった。
「では、お母さん。お預かりします。」
「こちらこそデス。おねがいしますデスー。」
「ママ!またくるレチ!」
こうして、この親指は男の飼い実装となった。

男は早くに両親を亡くし、一戸建ての家を引き継いだ。
それほど広い家ではないが、庭もあり、日当たりも良い条件の良い家であった。
親指は男の家に着くと、ケージのある部屋に通された。
「今日からはこのケージが貴女の家となります。
最初に言っておきますが、私は時々公園に来るピンクの高い服を着せた実装石のような生活を貴女にさせることは出来ません。
高く美味しいご飯を出すことも出来ません。
しかし、私の言うことを聞けば毎日の食事は出せます。
このケージの中だけでなく、この家の中を歩き回ることも許可します。よろしいでしょうか?」
「あ、アタチがんばるレチ!ニンゲンさんのお手伝いもするレチ!」
「ええ、お願いします。これから貴女は飼い実装です。
飼い実装になるにあたって、良ければ貴女にお名前を差し上げたいがよろしいですか?」
「お、お願いしますレチ!名前つけて欲しいレチ!」
親指はとても嬉しそうだ。それもそうだろう。念願の飼い実装になって、名前ももらえるのだ。
「緑…山葵…わさび。サビにしましょう。貴女は今からサビです。」
「サビ…サビレチ?アタチはサビレチ?」
「ええ。サビです。今日からよろしくお願いします。サビ。」
男は指を差し出す。親指は男の人差し指を握った。
「お願いしますレチ!」
プリプリプリ。あまりのうれしさに総排泄孔が我慢を出来なくなったらしい。
「レチャァー!!!!!」
しかしパンコンは止まらない。辺りに実装石特有の糞の臭いが立ちこめる。
「レチャァ!レチャァ!止まってレチャァ!!」
「良いのですよ。漏らしてしまう程うれしかったのでしょう?」
「レチィ…」
「そのままではいけませんから。お風呂にいきましょう。」
「ごめんなさいレチィ…」
「あまりお気になさらず。」
男はサビを優しく抱き上げた。プリプリプリ。またパンコンである。
「レチャァ!!」
「はっはっは。そんなに嬉しいですか。」
「ニンゲンさんにだっこされてるレチ…優しいだっこレチ…」
「ま、最初の方は仕方ないですよ。だんだんと慣れていきましょう。初めてな事が多いですからねぇ。」
男は風呂場へサビを連れて行った。
「水浴びくらいはしていたと思いますが。ま、お風呂は初めてでしょうから一緒にしましょうか。」
「お、おねがいしますレチィ…」
男はサビの服とパンツを優しく脱がすと風呂桶にお湯をためた。
「これくらいなら丁度いいですかね…。」
男はシャワーでサビの身体を洗い始める。
「レチュ〜ン♪気持ちいいレチィ〜」
プリプリプリ。また糞が総排泄孔から流れ出る。
「レチャ!またレチ!またウンチ出たレチ!?」
「良いですよ。初めてお風呂に入ると漏らしちゃう仔も多いですから。まずは慣れですよ。
漏れちゃうのは仕方ないですから。」
男は全く気にせずにサビの身体を実装石用のボディソープで洗う。
「アワアワレチ!アワアワレチュ〜ン♪」
プリプリ。先ほどよりは少なく流れ出る。
「あっはっは。よく出ますねぇ。」
「レチュゥレェェェェェン…」
サビはプリプリ総排泄孔から絶え間なく流れ出す糞に悲しくなって泣き出してしまった。
「気にしなくていいって言ってるじゃないですか。気持ちいいのは良いんです。
これから気を付けていくのですから。ほら、泣きやんでください。」
男はサビの頭を優しくなでてやる。
「怒ってないレチ?」
「そんな事で怒りませんよ。」
男は笑って答える。そして泡と糞をゆすぎ落としてやり、風呂桶につけた。
「温かいレチュ♪」
プリプリ。またである。
「レチャァ!!」
男はサビを抱き上げ、桶の中のお湯を捨て、再び湯を張った。
「どうぞ。」
また湯浴へ戻す。流石に出尽くしたのか、もう総排泄孔は緩まなかった。
男はそれから、タオルでサビを拭くと、代わりの服とパンツを渡した。
「今のサビの服は洗って干してありますから、代わりにこれをきてください。」
ペットショップで売っている低クラスの実装服だ。
見た目も質感も耐久性も普通の実装服とほとんど代わりはない。
「お洋服レチ…ありがとうございますレチ」
「いいんですよ。サビは私の飼い実装ですからね。」
男はサビを抱き上げ先ほどのケージのある部屋へと戻った。
「さて、これからこのケージ中がサビの部屋となります。」
「あ、あのニンゲンさん…。」
「なんでしょうか?」
「ママがニンゲンさんに飼ってもらったらニンゲンさんのことは「ご主人様」って呼ぶように言ったレチ。
ご主人様ってよんでいいレチ?」
「ええ。構いませんよ。」
どうやらこのやりとりから見るに、サビの親は元飼い実装なのであろう。
そして自分の持てるものをサビに教育したようだ。
また、サビも野良実装としては賢い部類に入るようだ。
「そ、それと、サビはご主人様の飼い実装レチ。普通に喋って欲しいレチィ…。」
「ああ、私としたことが。仕事のくせのようなものでね。分かった。サビ。これからよろしく。」
「よろしくおねがいしますレチ!ご主人様!」

こうして、親指実装サビは晴れて男の飼い実装になった。

サビはお菓子の箱に入れられ、男の家をぐるっと一回りした。
庭、魚の居る池、二階、ベランダ。初めて見る人間の住む家にサビは感激した。
感激しすぎて、再びパンコンし、もう一度風呂にも入ったがそこでも漏らした。
サビは男に泣いて謝ったが相変わらず男は笑って許した。
そうこうしているうちに、六時が過ぎた。
「サビ。お腹はすいてないかい?」
「お腹ぺこぺこレチ。ご飯の時間レチ?」
「そうだね。今日は休みだからご飯にしても良いだろうね。」
そう言って男は実装フードを皿に盛ってきた。既にお湯でふやかされている。
「はい、どうぞ。」
サビの前に皿が差し出される。
「食べて良いレチ?」
「いいよ。サビのご飯だからね。」
「いただきますレチィ♪」
サビは母親の教育もあって「待て」もある程度できるし、「いただきます。」「ごちそうさま。」も言えた。
ただ、初めて食べる実装フードに感激し、ポロポロこぼして食べていたので男から注意をされた。
トイレの躾もちゃんと出来ているらしく、トイレの使い方を教えたらすぐ使えた。
しかし、男から褒められると総排泄孔が緩んでしまうらしく、よく漏らした。
「うーん。そこまで漏らさなければ部屋の中を自由に使えるんだけどなぁ。」
「ご、ごめんなさいレチィ…。」
「いいよ。怒ってる訳じゃない。サビと遊ぶときは新聞紙の上で遊べば良いし、
そのうち飼い実装として慣れてくれば自然と減ると思うよ。」
数日後、男の休日である土曜日。一人と一匹はペットショップへと向かった。
男の家には実装石向けの玩具や服は一通り足りていたが、いかんせんパンツが少なかった。
少なかったというには語弊がある。
サビの漏らす数に対して少なかったのである。
男の家にもらわれていってから数日で総排泄孔の緩みが治るわけはなく、最初より少しましになった程度だった。
男は親指実装用のパンツを10枚ほどと、実装フードを購入し、公園へと向かった。
「ご主人様ごめんなさいレチィ…サビがウンチいっぱいするからパンツ買わないといけなかったレチ。」
「いいんだよ。そこは気にしなくて良いさ。」
男とサビは大時計の下のベンチで親実装を待っていた。
一時になるかなるかならないかのタイミングで、茂みから親実装が現れた。
「やあ、どうもしばらく。お母さん。」
「ママレチィ♪ママレチィ♪」
「ど、どうもデス。ニンゲンさん。」
男は親実装をベンチに勧めた。
「あの、ニンゲンさん。娘はご迷惑をおかけしてないデス?」
「いえ、全然。私もサビと居られて楽しいですよ。」
「サビ?」
「そうレチ!サビ、ご主人様からサビって名前をもらったんレチィ!」
「名前を…娘が?」
「ええ。そうですよ。」
「デェェェェエエェェェエェン!!ワタシの娘がぁぁぁ。ニンゲンさんにいいぃぃ。名前をおおおおお!!」
親実装は感極まって泣き出した。
「ママ!?なんで泣くレチィ!?」
「嬉しいデスゥゥゥ!こんなに嬉しいのはご主人様に名前をもらった時以来デスゥゥゥ!!
やっぱりコンビニ託児じゃなくニンゲンさんに交渉して良かったデスゥゥゥ!!」
「名前を…?」
男が尋ねると、やはりこの親実装は元飼い実装らしい。名前はドリー。
昔、愛護派に飼われていたが、公園で遊んでいる最中に虐待派に一瞬の隙をつかれ、
引っ越し便に詰め込まれてここまでたどり着いたらしい。
その時のドライバーが城北公園へ捨てていったようだ。
また、ドリーの家族は仔実装二匹(サビの姉)と蛆ちゃんの現在は四匹で暮らしている。
仔実装二匹は飼い実装よりも公園で暮らしていくことを望んだようである。
(ドリーが早くから公園で生活していく術をたたき込んだため、飼い実装になるには少々遅いためもあるが)
男は帰る間際ドリーに四匹分の実装フードと金平糖を渡した。
「デ!?ニンゲンさん。こんなにもらってしまっていいデス?」
「こんなにとは言っても安いフードだし、食べ盛りの仔がいるのでしょう?
二日分はないと思いますが、あまり気にせず受け取ってください。」
「デェェ…。すみませんデス。すみませんデス。」
「いえいえ。また来週サビを連れてきますよ。」
「はいデス。」
「ママ。バイバイレチー。」
男とサビは公園を後にした。男は車の中でぼそっとつぶやいた。
「サビが公園にいたときもそんなに漏らしたか聞けば良かったね?」
「レチャァ!!ご主人様酷いレチィ!」
「あっはっはっは。」

サビはそれから、色々なことを覚え、粗相も少なくなった。
男の教育はあくまでサビが中心であり、叩いたり怒鳴りつけることもなかった。
ただただ、サビが「飼い実装」になるため努力した。
サビが元々賢かったせいもあり、特に力での教育を必要としなかったせいもある。
そのうち、男は仕事で家を空けている時間、家の中を自由に歩き回らせることを許可した。
入って良い場所と行けない場所は分けられていたが、サビにとってはそれも嬉しいことだった。
そのころにはサビも親指ではなく仔実装まで成長し、語尾も「テチ」になっていた。

男が居間でテレビを見ている。その足下をサビがテチテチ言いながらボールを追っかけている。
突然男がテーブルをすさまじい音で叩き、テレビの電源を切った。
その「ドン!」という音を聞き、足下でサビが腰を抜かしている。
パンコンしなかったのは日頃の努力の賜物であろう。
「ご、ご主人様…サビなんか悪いことしたテチ?」
「ああ、サビ、ごめん。別にサビに怒ってるんじゃないよ。」
男はサビの頭をなでてやる。
「今、テレビで虐待派の話をしていてね…」
「虐待派テチ?怖いニンゲンさんの事テチ?」
「そうだね。実装石からしたら怖い人間って事だね。
彼らは自分の楽しみの為に実装石から偽石を取り出し、延々と虐待する。」
「テヒィィィィ!!大事な石取られちゃうテチィ!?」
「そこまでして実装石をいたぶって何が楽しいのか私には分からない。」
「ご主人様…」
サビは男の足にしがみついた。
「大丈夫だよ。サビ。私はサビにそんなことしないし、誰にもさせないからね。」
「ご主人様大好きテチィ♪」

男が帰宅したある日のこと。
「サビ。ただいま。」
いつもならサビが「ご主人様おかえりなさいテチー!」とテチテチ走ってくるのだが、
その日に限ってお迎えがなかった。
男が不思議に思って家の中にはいると、居間の方から音が聞こえる。
テレビの音とサビの声だ。
「レッフン!」「テッチュン!」
「レフレフ!」「テチテチ!」
「蛆ちゃんダンスでレッフーン♪」「テッチューン♪」
JHKの実装石向け番組だ。リモコンで適当に遊んでいるうちにテレビがついたのだろう。
「サビ。ただいま。」
「ご主人様テチィ!おかえりなさいテチィ!」
「随分ご機嫌だね。」
「蛆ちゃんダンスでテッチューン♪テチ!」
「楽しかったかい?」
「テチ!」
「汗かいてるよ。お水を飲んできなさい。」
「はいテチ!」
テレビからは引き続き虐待派がみたら脳みそが腐りそうな実装石向け番組を垂れ流している。
「…たまには良いか。」
男はその後、決まった時間だけテレビを見ることを許可した。
と言うか、タイマーを設定し、決まった時間しかテレビはつかないようにした。
サビはこれにたまらず喜び、蛆ちゃんダンスを踊った。
とはいえうろ覚えなのでかなり内容は適当であったが。
それから男が帰る時間によってはサビはテレビに釘付けだった。
「蛆ちゃんダンスの時間レフ!」
テレビに蛆ちゃん着ぐるみが並ぶ。
「コロコロレフ〜」「コロコロテチ〜」
「プニプニレッフン♪」「プニプニテッチュン♪」
「あっちにレッフン」「あっちにテッチュン」
「こっちにレッフン」「こっちにテッチュン」
「レッフン!」「テッチュン!」
「レフレフ!」「テチテチ!」
「蛆ちゃんダンスでレッフーン♪」「テッチューン♪」
サビは何度見たのか、蛆ちゃんダンスを完全にマスターした。
だから何だという話だが、サビが完全に踊れるようになると、男はサビを褒めた。
こうして順調にサビは飼い実装として成長していった。

休日。
男がサビを連れて公園に行く日である。
公園の大時計の下で待っていると、茂みからドリーが現れた。
「どうもデス。ニンゲンさん。サビ。」
「やあ、どうも。」
「ママテチィ♪」
「おや、ドリー。少し疲れていませんか?」
「分かるデス?」
「ちょっとやせたテチ?」
「実はこの前長女と次女が独り立ちをしたデス。」
「長女オネチャと次女オネチャが?凄いテチィ♪」
「後、蛆ちゃんが四女になったデス。」
「繭から孵ったわけですか。」
「はいデス…。」
「どうしました?」
「…いえ、それで四女が困らないように餌を探していたデス。」
長女と次女が居るときはその二匹と一緒にドリーは餌を探していたが、最近は久しぶりに一匹で餌探しということだ。
「それならば、明日ここに四女さんを連れてきたらいいじゃないですか。今日は差し入れできるものがありませんし。」
「そうテチ!サビも四女ちゃんに会いたいテチ!」
ドリーは、しばし考えていた。
「いいのデス?」
「私は構いませんよ。」
「サビは勿論テチ!」
「分かったデス。明日四女を連れてくるデス。」

次の日、男は弁当を作った。
とは言っても、味の濃い物では実装石達の味覚が偏ってしまうのでレタスやらハムやらを挟んだサンドイッチだが。
大時計の下で待つ。いつものように茂みからドリー現れた。足下には親指が一緒だ。
「妹チャンテチ!」
サビが駆け寄る。だが、親指はドリーの後ろにさっと隠れた。
「テチ?」
「恥ずかしがっているだけデスー。」
ドリーが親指を前へ差し出す。
「は、初めましてレチィ。」
うつむき気味に挨拶をする親指。どうも恥ずかしがり屋のようだ。
「初めまして。」
「初めてじゃないテチ!オネエチャテチー♪」
「いつもプニプニしてくれたオネチャレチ?」
「そうテチ!」
「オネエチャレチー!」
親指は頭からサビへと駆け寄った。サビの腹に親指の頭が食い込む。
「テボォッ!」
男の家では洩らしたことのない実装石らしいうめき声をあげるサビ。
「お、オネエチャごめんなさいレチィ!」
「だ、大丈夫テチ。ちょっとびっくりしちゃったテチ。」
「ま、ま。みんなでご飯を食べましょうか。そのために作ってきたのですから。」
「おマンマレチ!?食べるレチィ♪」
ご飯という単語を聞いて親指はさっとサビの元から離れた。姉妹愛より食い気なのだろうか。
「ニンゲンさんだっこして欲しいレチ♪だっこしてアタチをベンチの上に上げるレチ!」
「はいはい。おやすいごようですよ。」
男は親指をベンチの上に上げる。続いてサビを。ドリーは自力で登った。
「さて、大した物じゃありませんがどうぞ。」
男はサンドイッチを広げる。
「レチャァァアァ〜♪」
サンドイッチへ駆け寄る親指。だが、それをドリーが持ち上げ制止した。
「頂きますを言えない仔は駄目デス。」
「早くウマウマ食べるレチャァ!早く食べるのがウマウマのためレチャァ!」
「駄目デス。」
「頂ますを言えないと駄目テチ。四女ちゃん。」
一瞬親指は醜く顔をゆがめサビを睨みつけた。だが、それに誰も気が付いていない。
「ごめんなさいレチ。頂きます言うレチー♪」
「そうデス。そうして立派な仔になるデスー。」
親指はドリーから半分にちぎったサンドイッチをもらって食べた。
サビは男と半分にしながら食べた。サンドイッチなので割と早く食べきってしまった。
「ウマウマレチ!ウマウマレチ!ママの持ってくるおマンマなんて比べ物にならいレチ!」
「デッ!?」
「四女ちゃん。ママもがんばってるテチ。そんな事言っちゃだめテチ。」
そして一瞬先ほどの醜い表情。しかしやはり誰も気が付かない。
「だって、これ美味しいレチ!毎日食べるレチ!毎日もってきてレチィ♪」
「うーん。私も仕事がありますからねぇ。毎日は無理でしょうね。」
「レチャァァァ!食べたいレチ!食べたいレチ!!」
「四女!!」
ぺしりこ。声は凄かったが大夫軽く叩いているだろう。
「レチャァァァァアアアアアアアアアアアア!!ママがぶったレチャァアァァア!!!!」
そんなに泣き叫ぶほどの威力ではないが声の迫力で親指は泣き出してしまった。
男がとりあえず金平糖を上げると現金なことにさっと泣きやんだ。
「四女チャン、あっちで遊ぶテチ。」
「オネエチャ。分かったレチ♪」
「蛆ちゃんダンスを教えてあげるテチ!」
「わーいレチィ♪」
二匹は少し離れた所で遊び始めた。
「すいませんデス。ニンゲンさん。」
「いいですよ。ドリーの仔供にしては少々驚きですが。」
「ワタシもデス。蛆ちゃんの時はプニプニだけでよかったデス。もう少し厳しく躾る必要がありそうデス。」
「そうですね。何かありましたら言ってください。力になれるかも知れませんから。」
「そのときはお願いするデス。」

その後のドリーの家では。
日曜日。
男とサビとの昼ご飯で食事は特に問題なし。
月曜日。
先日、男とサビが差し入れてくれたパンとハムで食事は問題なし。
火曜日。
男が差し入れてくれた実装フードで食事は問題なし。
水曜日。
男が差し入れてくれた実装フードと金平糖で食事は問題なし。
木曜日。
ドリーがゴミを漁って食事とする。
「レチャァァァ!!!」
親指実装が叫んでご飯を投げつけた。
「なんて事をするデスー!」
「こんなのおマンマじゃないレチャァ!パンレチ!ハムレチ!ウマウマのフードレチ!アマアマの金平糖レチャァ!!!!」
飼い実装となった姉を見せれば潜んでいた糞蟲化が無くなると思ったがどうも逆効果だったようだ。
食事がまともだった水曜までは特に文句を言わなかったが、ゴミが食事となった途端だった。
それでも、肉の残ったフライドチキンやカビがはえかけたパンだ。
他の公園の野良実装からしたら恵まれたものだ。
城北公園は愛護派のフードの差し入れやゴミもある程度盗りやすくなっている。
なのに、一度味をしめたら糞蟲化だ。
「そんなこといっても出てこないデスー。これでも立派なゴハンデスー。」
「ウマウマでアマアマじゃないとイヤレチャアアアア!!!」
「だったら食べなくて良いデスー。ママがもらうデッスン。」
そういうと途端に態度が変わる。
「今日はこれで我慢してやるレチ!明日はウマウマでアマアマじゃないと食べないレチ!」
そう言ってフライドチキンをしゃぶりだす。
(間引きも考えないといけないデス…。)
金曜日。
ご飯はやはりゴミと少しのフードだった。
「またゴミレチャァ!なんでアタチだけ、こんなおマンマレチ!セレブなアタチが!」
「周りだってこんなもんデスー。」
「違うレチ!オネチャは毎日良い物食べてるレチ!ウマウマのアマアマを食べてるレチィ!!」
「あの仔は飼い実装デスー。」
「あの馬鹿オネチャで飼い実装なら、もっと賢くて可愛いアタチは即飼い実装レチ!!
アタチをさっさとあの男の所に連れて行くレチ!」
「あのニンゲンさんは一石以上飼えないって言ってたデス。まずはオマエは飼い実装になるためのお勉強をしないと駄目デスー。」
「そんなの必要ないレチ!アタチの魅力でバカニンゲンはメロメロのトリコレチュ!チププププ!」
「そんな事を言う仔は糞蟲として嫌われるデス。」
「チププププ!こんなに可愛くて特別でセレブなアタチを嫌うバカニンゲンなんか居ないレチ!」
ドリーはこれまで以上の大きなため息をつくと、四女にフードと金平糖を半欠片食べさた。
四女は「分かれば良いレチ」と勘違いした台詞を吐くと落ち着いた。
これ以上酷くなったら間引きだ。
土曜日。
男とサビとの待ち合わせの日である。
ドリーは親指を昼寝させると大時計の下へ向かうため、段ボールハウスをそろり、そろり、と抜け出した。

大時計の下。
男とサビがドリーを待っている。サビはどうやら楽しげだ。
「サビ。楽しそうだね。」
「四女ちゃんも来るテチ。また一緒に遊べるの楽しみテチー♪」
(生きていればね…。)
男は心の中でそうつぶやいた。
男は愛護派だが、糞蟲まで快くかわいがれない。いや、男だけではない。
城北公園に来る愛護派のほとんどがそんな人間だ。
「少し遅いな…。ドリーにしては珍しい。」
「ママ来ないテチィ?」
「…ドリーのプライベートもあるから此処で待ち合わせにしていたが…。サビ。ドリーの家はまだ覚えているか?」
「勿論テチ!」
「行こう。何かあったかも知れない。」
男はサビを抱き上げるとドリーの家へ向かった。

「ママ何処へ行くレチ!」
家を抜け出したドリーに親指が声を掛けた。悪事がばれたかのようにドリーは飛び上がる。
「よ、四女。お昼寝してたはずデス?」
「ママがゆっくり出てくから起きたレチ。何処に行くレチィ?」
「と、トイレデス。トイレ。」
「じゃあアタチも行くレチィ♪」
ニヤニヤ笑う四女。
「そ、それはデス…。」
「こんな時間に出て行くのは変レチ!おマンマも、もう持ってきてあるレチ!あの男の所に行くつもりレチ!」
「デデェッ!?」
ドリーは元々飼い実装だ。基本的に飼い主に忠実であるため他の実装石のように嘘は上手くない。
そう。この親指のようには。
「チププ!当たりレチ!アタチがあの男をメロメロにしてトリコにしてやるレチィ♪」
そう言うと親指は茂みの中に飛び込む。
賢いドリーは茂みの奥に家を作った。だが今はそれが仇となった。
茂みの中は成体のドリーでは動き辛い。だが、親指にはそれが有利である。
親指は茂みを移動しながらドリーに語りかける。
「チププププ。あの馬鹿オネチャはこの前アタチの頭突きを食らって怯んだレチ!」
「デェッ!?四女、あれはわざとデス!?」
「そうレチ!そして今度はスーパー頭突きでトドメを刺すレチ!そしてそのままアタチが飼い実装になってやるレチ!」
「四女、オマエエエエエエ!!!」
「チププププ!何が「蛆ちゃんダンスでレッチュン!」レチ!馬鹿丸出しレチ!反吐がでるレチ!」
「四女オオオオオオオオ!!!!」
「アタチはあのドレイニンゲンに金平糖とステーキとオスシを毎日貢がせてやるレチ!チープププププッ!!!」
親指の笑い声が遠くなる。ドリーの頭の中ではその計画が全く上手くいくとは思っていなかった。
しかし、親指と仔実装との体格差があるとはいえ、サビはまだ仔実装に成り立てで、体格も親指より一回り大きい程度だ。
もし、四女の頭突き(実装石の中で一番堅牢なのは頭であろう)でサビの偽石が壊れでもしたら最悪の結果だ。
折角娘が掴んだ幸せを糞蟲の四女に潰されては元も子もない。
それに、あの男に嫌な思いをさせるのも失礼だ。
こんな事であればさっさと間引いておくべきだった。
相手は茂みを移動しているとはいえ親指実装だ。先回りすることは出来るはずだ。
だが、ドリーのそんなもくろみも無駄であった。四女は男の前に立ちはだかっていた。
四女は今まで男以外の人間と会ったことがない。
そのためどの人間を見てもあの男だと思ってしまっていた。
そう、今、四女の前にいるのは全くの別人であった。
「チププププ!今日からオマエをアタチのドレイニンゲンにしてやるレチ!
まずは馬鹿オネチャをぶっ殺すレチ!安心するレチ!
非力なオマエに変わってトドメはアタチのスーパー頭突きで決めてやるレチ!分かったらさっさとやるレチ!」
虐待派が聞いたらよだれが出そうな台詞だ。しかもこの公園に来る虐待派は糞蟲専門である。
そう、この親指の前に居る男も例に漏れない。
「はは…。この城北公園にお前みたいな奴がまだ居るとはなぁ。」
「あったりまえレチ!アタチくらいの特別で可愛くてセレブな実装石は居ないレチ!
オマエが見逃すのも仕方ないレチ!
レッチュ〜ン♪見たレチ!?この完璧なお愛想!メロメロになることを許可してやるレチィ♪」
「こりゃぁたまらねぇなぁ…。」
「チププ!ケモノの様な目つきでアタチを見てるレチ!もうアタチにメロメロレチィ♪
ちょっとだけならアタチとジックスすることを許可してやるレチィ♪なんてアタチは寛大レチィ♪」
「くくくっ…」
男は笑うと背中からゴルフドライバーを抜き出した。そして、構える。
「デエエエッ!!」
その時やっとドリーが追いついた。そして気が付いた。四女の前にいるのは虐待派だ。
しかも見たことがある!一撃で糞蟲を撃破する。
確かニンゲンさんの間で「クリティカルよしゆき」とか言う恥ずかしい名前で呼ばれていた。
ドリーは考えた。これは間引きの良い機会だ。よしゆきさんに四女を間引いてもらえれば----。

間義之。ネットではクリティカルよしゆきや、C.よしゆきなどと恥ずかしい名前で呼ばれている。
だが、その腕前はすばらしく、糞蟲を嫌う愛護派からも一目置かれている存在だ。
親指や蛆ちゃんという偽石を抜き取るのが困難な小型種から秒単位での偽石の抜き出し。
スーパースローカメラで初めてとらえることが出来る高速禿裸剥き。
また25名で一時間かかる駆除を一人で三十分で終わらせるなど、
おおよそ普通の人間には必要のない特殊技能を持っている。
そして彼の必殺はゴルフグラブ。バールのようなものを持ってうろつけば確実に変人である。
なので、彼はバールを使用しない。そして、そのグラブは一撃で偽石を100%の確立で砕く。

「シッ!!!」
よしゆきのグラブが振り下ろされる。
「デボォッ!!!」
「チュベッ!!!」
「何!?」
通常亀よりも遅い、ナマケモノの移動速度にも劣る。と言われる実装石だが、慈愛深い個体が時折見せる「庇い」。
よしゆきのグラブは一撃必殺。必殺必中。それ故の事故もある。
それが「庇い」だ。いくら娘が糞蟲だと言えど、どうしても娘を庇ってしまう親が存在する。
既に高速で振り下ろされたグラブを止める手段はない。そして今回も。
ドリーは糞蟲の四女を庇い。命を落とした。
「ママァァァァアァァァ!!!!」
そこに駆けつける男とサビ。
「ドリー!!」
慌てて男が抱き起こすが、よしゆきのグラブから実装石が逃れれる術は無いのだ。
言わずもがな偽石を砕かれ、死亡している。四女はドリーの身体に潰され、死亡していた。
「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…」
よしゆきが懐から実装ネムリスプレーをサビへ噴霧する。
「この実装石はあんたの飼い実装かい?」
「いえ…、この公園の野良実装です。ただ、私の飼い実装の母親なのですよ。」
「そうか、すまないこをとした。」
「いえ、あの親指実装は糞蟲でした。貴方のグラブに潰されるか、間引かれるかは時間の問題だったでしょう。」
飼い実装を殺したのならば、よしゆきに罪があるが、相手は野良だ。よしゆきに非はない。
「それに見てました。ドリーが親指を庇っていた。今回のは事故です。」
「そう言ってくれると助かる。俺も罪悪感がない訳じゃない。」
「ええ、しかし、サビにネムリスプレーをしてくれてありがとうございます。あのままだと、偽石が砕けていたかも知れない。」
「紳士のたしなみだ。もし、その仔実装が眠りから覚めても偽石が砕けるようなら、連絡をしてくれ。
俺は毎週この公園にいる。謝罪をさせてもらう。」
「分かりました。その場合はそうせて頂きます。私はこれで帰ります。」
「ああ、この親仔の処分は俺がしておく。」
男はサビを抱えてその場を立ち去った。
ドリーが死んでしまった。全くない可能性ではなかった。
しかし、あの糞蟲である四女を庇って死んでしまうとは。サビに説明をして分かってもらえるだろうか。

ベッドの上でサビが目を覚ました。
「…ママ。ママ?テチャアアアアアアアア!!」
「サビ!」
男がサビに声を掛ける。サビが起きるまでずっと付き添っていたようだった。
「ご主人様ぁ!ママが!ママが!ゆ、夢テチ!?」
「…現実だ。ドリーと四女は死んだよ。」
「何でテチ!何でママと四女チャンが死ぬテチ!」
「サビ。サビは糞蟲って分かるかい?」
「分かるテチ。ママが糞蟲になっちゃいけないってずっと言ってたテチ。
糞蟲はニンゲンさんに迷惑を掛ける悪い実装石って言ってたテチ。」
流石ドリー。教育はしっかりされている。
「サビの妹の四女は糞蟲だったんだ。」
「テッ!?そんな事ないテチ!何でご主人様はそんな事言うテチ!」
「私が思うにドリーは、サビと四女を会わせることで教育の一環としたかったんだと思う。
しっかりした仔じゃないと飼い実装になれない。と覚えさせるために。
でも、四女は「飼い実装になれば、こんな生活が出来る」という方が強かったんだろう。
おそらく、ドリーは今日まで間引きを悩んでいたんだと思うよ。」
「で、でも四女チャンは、良い仔テチ!」
「糞蟲でも賢い奴は本性をなかなかださないんだよ。でも思い出してごらん。
みんなでご飯を食べてるとき。凄いわがままだっただろう?
それに、サビは気が付いていないかも知れないが、最初の頭突きもわざとだと思う。」
「テェェェ…」
「四女を殺した人間は糞蟲専門の虐待派だ。私は彼のやり方には全面的に賛成している。
今回ドリーが死んだのは事故だと思う。だが、四女のような糞蟲をそのまま生かしておく訳にはいかないんだ。」
「…ママが言ってたテチ。糞蟲になっちゃ駄目だって言ってたテチ。
糞蟲はニンゲンさんに悲しいことをされるって言ってたテチ。四女チャンも悲しいことをされたテチ?」
「そういうことだよ。サビ。今は上手く理解できないかも知れない。
今は分からなくても良い。でも、理解できる日が来る。」
「テェェェェェン…」
「サビ。私もドリーが死んで悲しいんだ…。」
男はサビを抱きしめた。そして一人と一匹で泣いた。
その日、男は普段サビをケージ内で寝させているが、男の部屋で一緒に寝た。
同じ布団ではないが、ベッドの隣にサビのベッドを置いて寝た。
「ご主人様…、サビ、糞蟲にはならないテチ。だから悲しいことをしないで欲しいテチ。」
「分かってるよ。サビは良い仔だ。サビが良い仔でいるなら私は悲しいことをしないよ。」
「約束テチィ…。」
「ああ、約束だ。おやすみ。サビ。」
「おやすみなさいテチ。ご主人様。」

その日からサビは少しずつ変わった。男のためになることを少しずつし始めた。男が居ないときに床の掃除をした。
男は無理しなくて良いと言ったが、サビが自発的にやり始めたので男は強く止めなかった。
その分、男は帰ってきてからサビと一緒に今までより遊んだ。
風呂にはいるときもサビと一緒だった。
今まで習慣にしてきた土日の公園へのお出かけは、城北公園だけでなく他の公園にも足を伸ばした。
城北公園にはあのシステムのおかげで糞蟲個体は絶対的に少ない。
城北公園で糞蟲を数えるなら野良より飼い実装の方が多いと言われるほどだ。
サビは糞蟲をよく知るために城北公園以外へ行きたいと言い出したのだ。
男はサビをよく遊ばせ、よく勉強させ、よく働かせた。
そのうちサビは語尾が「テチ」から「テス」そして成体実装の「デス」へと変化した。
成体となったサビは男が仕事で家を留守にしている間は掃除をし、
出来る範囲での洗い物をし、洗濯物をたたんだ。
サビは何処に出しても恥ずかしくないくらいの飼い実装となった。

「サビは幸せデスー。とってもいいご主人様に出会えたデス。良いオベベが無くても高級フードじゃなくても幸せデス。」
サビは毎日そう思った。
テレビを見ていると毎日糞蟲の個体が処理されているニュースがJHKで流れる。
それは自業自得とはいえ、同じ実装石であるサビには胸の痛いニュースだった。
虐待派が実装石を虐め抜くニュースを聞くと、このご主人様で本当に良かったと思う。
今の自分は実装石としては幸せな石生を過ごせていると痛感する。

サビは仔供を作らなかった。
それはドリーから「飼い実装になったら、ご主人様の許可無しでは仔を作っては駄目デス。」という言葉による物だった。
おそらくご主人様ならば許してくれるだろう。でも、それでご主人様の暮らしを圧迫することは自分がして良いことではない。
なので、サビは男から言われるまでは仔は作らないようにしていた。

ある日、男とサビが晩ご飯を食べているときだった。
「サビ。幸せかい?」
突然男が何の前触れもなく尋ねた。
「サビは幸せデス。良いご主人様に出会えたデス。これ以上ないくらい幸せデス。」
本音だった。毎日思っていることだ。即答えれた。
「そうか。良かった。」
男は笑っている。ご主人様もサビがいることで喜んでくれている。
飼い実装としてこんなに幸せなことはない。
ドン。と音がした。一瞬何が起こったか分からなかった。
サビが床に落ちている。さっきまで実装用のイスに座って食事をしていたはずだ。
何故か床に居る。何故か鼻が痛む。何故ご主人様の手はグーで前に突き出ている?
「デデッ!?」
鼻を自分の手でこする。血が出ている。何故?鼻血?私が?理解が出来ない。
実装石の無い頭で必死に考える。だが答えが出ない。
そんなサビに男が近づいてきた。男はサビの胸ぐらを掴み---
「デボッ!デベッ!デヒィッ!!」
三発の往復ビンタ。
「ご、ご主人様ぁ!サビ何もしてないデズゥ!!!」
そう、自分は何もしていない。男に殴られることはない。
それに、今まで男に暴力による躾はされていない。初めて殴られている。
「ああ、サビは何もしてないよ。」
「デバッ!」
もう一発ビンタ。
「さ、サビなにか粗相したデス!?謝るデス!ごめんなさいデス!」
「何もしてないって言ってるよ。」
「デヴォッ!」
さらにもう一発。
「何もしてないのにサビどうしてご主人様から叩かれてるデス!?」
「分からない?分からないよね。良いんだ。それで。」
男はサビを床に降ろした。
「さ、風呂にしようか。」
その後はいつものご主人様だった。さっき起こったのは何だ?
ご主人様は自分は悪いことをしていないと言った。自分でも何も粗相はしていない。
今まで殴られたことはないのに何故、殴られるのだ?そんな疑問しかない。
頭の中でそんなことを考えながらサビは眠りについた。

朝になった。サビは無い頭で考え事をしていたためにあまりよく寝れていなかった。
「サビ。おはよう。よく寝れたかな?」
「おはようございますデス。ご主人様。」
「さ、朝ご飯にしよう。顔を洗っておいで。」
いつものご主人様だ。昨日のことは夢だったに違いない。そう思いたい。
その日は休みだった。なので掃除を一緒にした。
サビは埃の溜まっていたサッシを拭き掃除した。
「フゥ。綺麗になったデス。ぴかぴかデスー。」
満足の結果だ。男もそれを見てにこにこしている。
「サビ。綺麗になったね。ピカピカだ。」
言うが早いが、男の足が振るわれる。
「デバシャッ!」
サビの身体が中に舞う。壁に叩き付けられる。
「ご、ご主人様…?」
男が近づいてくる。再び蹴られる。
「デヒッ!痛いデズゥ!痛いデズゥ!ご主人様ぁ!!痛いデズゥ!!」
「そうだね。痛いだろうね。」
訴えても男は無情だった。蹴りは続く。
「ど、どうしてデス!?サビ何もしてないデス!いつもの優しいご主人様に戻って欲しいデスゥ!!」
「私は何時もと変わらないよ。サビのご主人様だよ。」
男の腕が振るわれ、サビを吹き飛ばす。
「デヒ…デヒ…。サビ…悪い仔デズゥ?」
「いや、サビは良い仔だよ。今まで飼ってきた仔のなかで一番いい仔だよ。」
にこにこしている男。何時もと同じ顔。何時と同じ目。サビを可愛がってくれるときと同じ顔。

それから男の暴力は日に日に酷くなった。
前触れがないのだ。前触れがあれば対処が効く。しかし、それは男の気持ち次第だった。
突然殴られ、蹴られる。しかも何時もと同じ優しい顔で。
サビは逃げ出したかった。でも逃げても行く場所がない。
城北公園に行っても成体実装になった自分が野良で生活などできるものか。
何時か元の優しいご主人様に戻ってくれる。そう信じていた。
「デギャアアアッ!!」
今日は酷かった。男に右腕をむしり取られたのだ。
「いだいデズゥ!酷いデズゥ!!!!!!」
血がどくどく流れる。さらに左腕。
「デギャアアアッ!!!」
この家に来て何ヶ月ぶりかのパンコン。成体になって初めてのパンコンだ。
「おや、久々に漏らしちゃったね。」
「いだいデズゥ!!サビ何もしてないデズゥ!!許して欲しいデズゥ!!」
「何を許すんだい?」
「痛いのいやデズゥ!前みたいに良い仔良い仔して欲しいデズゥ!」
「…はは。分かってないんだなぁ。サビ。」
「デデッ?」
血はもう止まっている。実装石の再生力と日々のバランスの取れた食事のおかげだ。
「サビ。私は可愛がっているんだよ。今までとやり方が違うだけ。今のは良い仔、良い仔だよ。」
「デェ?」
訳が分からない。一瞬サビは惚けた。
「ああああ!!!サビ!可愛いなあ!!何でサビはそんなに可愛いんだよぅ!!!」
良いながら平手打ちを繰り返す。
「いだいデズゥ!いだいデズゥ!!」
両手を引きちぎられているので庇うことも出来ず、一方的に打たれるサビ。
「サビが可愛いから!可愛いからこうなっちゃうのさあ!!!」
最後に思い切り蹴りが入って、口からゲロを吐きながら吹き飛ばされる。
「はぁ…、サビ、汚しちゃったね。掃除は私がしておくから…って両手がなかったね。
後でお風呂に入れてあげるよ。」
男が語った事は真実だった。可愛い。壊したいほどに可愛いのだ。
男は普通に社会的に高い位置を築いていた。
収入にも問題はない。友人関係もしっかりしている。ただ、どこか狂人なのだ。
自分の飼っている実装石がたまらなく可愛い。
そして我慢が出来ず、最終的に破壊してしまうのだ。
決して虐待ではない。しかし、受ける側からすれば或る意味虐待より酷い。

来る日も来る日も暴力は続く。
「デギャァ!デギャァ!!!!」
「どうしたんだい!サビ!もっと可愛く鳴いておくれよ!」
「デヒィ!デヒィ!!!」
顔を何度も打たれ、皮膚がちぎれる。その血が目に入った。
「デェ!?デデェ!?」
強制出産。サビの腹が突然ふくらむ。
「サビ!赤ちゃんだね!赤ちゃんだね!」
男の殴打は続いた。
「テッテレー」「テッテレー」「テッテレー」「テッテレー」「テッテレー」
「テッテレー」「テッテレー」「テッテレー」「テッテレー」「テッテレー」
蛆ちゃんが産み落とされていく。
男がサビの目をぬぐった。
「デシャァ!!!」
無理矢理目をぬぐわれ鋭い痛みが目に走った。
「サビ!喜べよ!仔を産めたよ!一気に十一匹家族だよ!」
さらに叩かれる。
「だ、駄目デズゥ…赤ちゃん産んじゃ駄目なんデズゥ…。」
「ママー」「ママレフ?」「プニプニしてレフ」「蛆ちゃんお腹減ったレフ。」「ウンチ美味しいレフー」
「おっきいニンゲンさんレフ。」「ママおっぱい欲しいレフ。」「レッフン!」「プニフー」「アマアマ欲しいレフー。」
「産んじゃ駄目デズゥ…赤ちゃんは駄目デズゥ…」
「蛆ちゃん駄目レフ?」「駄目レフ?」「蛆ちゃんいらない仔レフ?」「パキンレフー」
半数以上が偽石が壊れてしまった。
「あっはっは!サビ!いきなり蛆ちゃんが死んじゃったねぇ!」
「だって…赤ちゃんは産んじゃ駄目デスゥ」
「でも産みたかったんだよね!幸せだね!あははははははは!」
「なにがおかしいデスご主人様…。」
「いい顔だよ!そんな顔のサビも…可愛いよ!!!!」
思い切りの蹴り。壁に叩き付けられパンコンするサビ。
「デボォ…どうしてデス。どうしてこんなことするデス。」
「前も言ったよね!可愛いから!可愛いからしちゃうんだよ!私は!!!」
「サビ、幸せだったデス。どうしてこんなことになったデスゥ!」
「そうだねぇ。私が分かるのはね!一つの間違いなんだよ。」
「間違いデスゥ?」
男が近づき、サビの身体を掴んだ。男の顔がサビの顔の間近に迫った。
「そう。間違い。サビが私にもらわれた。それだけが間違いなのさ!」
真顔。真面目。そして言い渡される事実。
楽しかった。男の元に来て。毎日の食事。暖かい寝床。お風呂。優しいご主人様。
それが全て間違い。
「デギャァアアアアアア!!!!」
パキン。と乾いた音が響いた。偽石の破断音。
「サビ!サビ!?サビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
男がサビを揺する。だがサビの両目は色を失っていった。
「サビ!!サビ!!!ああああ、あああああああうううああうあああうああああああ」
男がサビを抱きかかえ、泣き始めた。激しい慟哭。だがそれも-----
「ああああああ、あああうあうああぁ、ああ、あは、あはは、あははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
激しく笑い始める男。狂人である。まさに。
「サビ!楽しかったよ!サビと一緒にいれて!!!サビの死に顔も最高に素敵だよ!!!あははははははは!!!」

それから一ヶ月くらいしたときだった。
城北公園、ペット用墓場。
そこに男は来ていた。ペット用の墓石。そこには十匹以上の実装石の名が刻まれている。
男は今までに何匹も実装石を育て、愛し、破壊してきた。
「サビ。お前の産んだ蛆ちゃんは大事にしているよ。もう残り一匹になってしまったけど。
毎日ちゃんと世話をしているけど、どうしても死んでしまう。もうじき全て、天国のお前の所に行けるかな。」
男は墓に金平糖を十粒置き、その場を去った。
墓場の出口に一匹の仔実装が居た。
「テェエエン!テェェェエン!」
泣いている。
「どうしました?」
「ここ、どこか分からないテチィ。」
「どこから来たのですか?」
「分からないテチィ。テェェエエン!」
「どうして此処に居るのですか?」
「ニンゲンさんに此処に居れば新しいニンゲンさんがお家に連れてってくれるって言ってたテチィ。」
捨て飼い実装のようだ。
「そうですか。では、私の家へ来ますか?」
「良いテチ?ニンゲンさんの所へ行っていいテチ?」
「ええ、でも私は高級な服を着せることも、高く美味しいご飯を出すことも出来ません。
しかし、私の言うことを聞けば毎日の食事は出せます。幸せな生活はできると思いますよ。」
「お願いしますテチ!何でも言うこと聞きますテチ!」
「分かりました。貴女は今日から私の飼い実装ですよ。」
男はそう言ってにっこりと笑った。

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