玄関に新聞を取りに行くと、ドアポストのボックスで見慣れぬ紙袋がイゴイゴと動いていた。 中身は……まあ、あれだろう。 コンビニなどで買い物袋に仔を入れる託児はよく知られているが、たまに早朝こっそり郵便受けやドアポストに投入する小賢し い実装石もいる。コンビニ託児は投入時に気づかれたりうろついてる時点で見つかったりして親仔共々処分される場合が多 いが、ポスト託児は投入だけは成功するからな。 こいつらにやられると郵便物や新聞を糞まみれにされ、本石達はただでさえ低い託児成功率と生存率をさらに下げる事になる のだが、紙袋に入れてくれるとは多少は気が利いているのかもしれない。 だが、投入する家は吟味していなかったらしい。 俺は実装ブリーダー。職業柄そこらの一般人では入手困難な実装用アイテムをたくさん持っているし、ヒトガタに対する躊躇は 虐待派並に無い。虐待派と違って俺は糞蟲以外は潰さないが…… 朝も早くから嫌なものを見た気分としてはそのまま叩き潰したくもあるのだが、あいにく託児は「倒すことまかりまらぬ、伊達にして 帰すべし」。 仔実装に紙袋を破る力があるとは思えないが、とりあえず袋ごと空いてる水槽に放り込んでおき、急いで朝食を摂る事にする。 惣菜パンを牛乳で流し込んだら、下ごしらえ開始。 とりあえず簡易リンガルMSL-100Jのスイッチを入れ、袋の口を開いて中身を水槽の中に落とす。 「テッ」 底を何度かバウンドした後、起き上がりこちらに対し威嚇をしだす。 「何てことするテチ!もっと丁重に扱うテチ!オワビにコンペートーを要求するテチ!その後ステーキを持ってくるテチ!」 ……糞蟲だな。 無言で棚に並んでる缶の中から金平糖"みたいなもの"を数個取り出し、水槽の床に落とす。 「感心なドレイニンゲンテチ♪ほめてやるテチ♪」 糞蟲は意地汚く頬張ったが、もちろん金平糖であろうはずが無い。これは即効性シビレに低圧ドドンパマイクロカプセルを調合 したもの。シビレで動きが止まってから10分ほどでマイクロカプセルが溶けてドドンパが効いてくる。この時間差を利用して剥くって 趣向だ。 糞抜きと内外部の洗浄が終わったら、まだシビレが効いているうちに偽石を摘出して偽石保存液の中に放り込み、総排泄口を 瞬着で塞いでおく。 さて、あとはシビレが抜けてからだ。先に俺の商品達の世話をしておこう。 立場を理解しようとしない不良品候補に針と電撃を撃ち込み、出荷時期の来た商品を選別し梱包を終えた頃にはすでに 3時間が経過していた。 親は残念ながら来ていない。来てたら手間が省けたんだが……やむをえない、親は現地対応だ。屋外じゃ使えないアイテムも あるし、人目もあるから処置に時間がかけられないが、来ないものは仕方ない。 となれば、まずは親の居場所を聞き出さないとな。 保存液から偽石を取り出し業務用リンガルSealingual-Jの偽石槽に投入する。このSealingual-JはMSL-100Jのように一般 に販売されている拾音タイプではなく偽石直結型リンガルで、ノイズが入らない分翻訳が正確なのだ。しかもパキン防止機能付き だから、躾の度が過ぎても死に至らしめる事はない。しゃべる事が出来ない状態でも翻訳してくれるからミツクチも心置きなく 責められるところもポイントだ。 俺を見るなり無駄な威嚇を始めた仔蟲ちゃんにニードルガンをつきつけ、問う。 「さあ、はじめようか。率直に聞く。お前の親はどこだ?」 「そんなことはどうでもいいテチ!ステーキがまだテチ!!あと最高級ドレスもくれる約束テチ!!!」 はぁ?ステーキはともかく最高級ドレスって何だよ。シビレている途中で何か夢でもみたのかね? ……まあいいや。 引き金を引く。 パス 針が仔蟲ちゃんのおつむに刺さった。 「テ?」 一瞬何が起こったのかわからない顔をしたが、すぐに水槽の底をのた打ち回った。 「痛いテチャァ!何するテチャァ!」 「質問に答えないからだ」 「何でそんなことする必要g」パス 「いまならyパス 「ぶttパス 「dパス 「パス 42本打ち込んだところでようやく挑戦的な表情が消えたのでもう一度問う。 「さあ、答えろ」 「まっすぐたくさん行ったところテチィ……」 ……わっかんねぇよ。 まあ案内させれば良いか。 「じゃあとりあえず針は抜いてやる」 「テチィ♪じゃあ早速ステーキを要求するテチ」 もう一本撃ち込んでやりたいのを我慢し、針を抜いてやる。ハリネズミじゃ後の作業がやりにくくなるからな。 針が全て抜けると何か勘違いして踊りだしたが、それをデコピンで吹っ飛ばす。 「次の質問だ」 「テ?約束が違うテチ」 「針は抜いてやると言ったがそれ以外何も約束してないぞ」 俺がそう言うと仔蟲ちゃんは一瞬挑戦的な顔を見せたが、すぐにさっきの針地獄を思い出したのか……ビクッと震えて固まった。 「な、何テチ?」 俺はおもむろに言った。 「お前の血液型は?」 「テ?」 仔蟲ちゃんは何を言われたのかわからない顔をして……媚びた。 そりゃそうだろう。俺も答えられるとは思っていない。 だが前髪を引き抜く。 「ワタチの美しい髪に何をするテチ!!」 「お前には俺の質問に答える以外の行動は許されていない」 「横暴テチ!!」 横暴上等。これはきっちり禿裸達磨にする為の質問だ。 さっきは必ず聞きださなければならない質問だったから万一のことを考えてとりかえしのつかないな責めはできなかった、そこでやめて 返したら託児抑制効果が無いじゃないか。 だが、次の発言に俺の手は一瞬止まった。 「騙されたテチ!!最高どころか最低の託児テチィ!!これならクソママのギャクタイの方がまだマシテチャァァ!!!!」 虐待していた仔を託児? 虐待された仔は色々欠けていたり、妙な形に成長したりするものだ。だか、コイツはそんな様子は無かった。それどころか実装服に 血痕一つ無かったぞ。 ……まあいいや。親蟲本石を問い詰めればわかるだろう。 その後も意味のない質問を続け、答えられない罰として前後の髪を奪い、片目と手足を焼き潰し、生皮を剥いだところで親蟲の ところに案内させる事にした。 「お前に聞いてもわからないから親に聞くことにしよう。案内しろ」と言ったら、ようやく開放されると思ったのかアッサリ応じてくれた。 さーて、親蟲ちゃん、待ってろよ♪ 「……ここテチ」 おお、そうかそうか。って?ここは…… 仔蟲ちゃんの声に立ち止まると、そこは予想していたダンボールハウスではなく。 いや、それどころか実装石の巣ですらなく。 どう見ても人間の家だった。 ってことは、コイツ飼い? あわてて持ってきた実装服の端布を取り出す。確かに妙に実装臭が薄い。 そういえばさっき抜いた髪も野良にしては汚れていなかったんじゃなかったか? ……これはやばいかも。 逃げようとして、初老の男性が訝しげな顔をして家の中から出てくるのに気がついた。 どうする、俺?やっぱり逃げる?誤魔化す? とりあえず血達磨仔蟲は見られたらやばいだろう。とっさにコンビニ袋に隠し、親蟲用に用意してきた声潰しスプレーを噴射して 黙らせる。 「君は何かね?」 すんでのところで間に合った……かな?間に合ったことに賭けるしかない。 「え、ああ、あの、お宅、実装石飼ってますか?」 ああ、何聞いてるんだ、俺。 だが、それで誤魔化せたらしい。 「グリに用事かい?」 「え?ええ、まあ」 「おーい、グリ。お客さんだぞ」 呼ばれて家の奥から出てきた実装は、俺の姿を認めると少し驚いたような顔をしたが、ちゃんと挨拶をした。 「お久しぶりデス、ブリーダーさん」 見覚えはない、と言うより実装石の顔などいちいち覚えちゃいないが、お久しぶりってことは俺が躾けた石ってことか。 「わざわざ訪ねてくるなんてどうしたんデス?」 「ああ、えーと、仔のことで、な」 下手な事は言えないから少し遠まわしな言い方を選ぶ。 「デ……何でばれたデス」 実装石ごときが人間様を出し抜くなんて不可能なんだよ!と叩き潰したいところなんだがなぁ。とにかく飼い主が隣にいるのは 色々やりにくい。 「すみません、グリちゃんと二人で話をしたいんですが」 すると意外にも親蟲もわざわざ俺の都合に合わせるように飼い主に頭を下げた。 「ご主人様、ちょっと席をはずして欲しいデス」 何のつもりだ、親蟲。 問い詰めるつもりで色々用意してきたが、少し躊躇する。(もっとも飼いに使えるアイテムはほとんどないが) とにかく事の真相を聞きださないと。 どう切り出そうか考えていると、親蟲が口を開いた。 「ワタシはあの仔を飼いにしてやりたかったんデス」 「は?」 「ワタシの託児のことで来たんじゃないんデス?」 「ああ、まあそうだが。それより飼いの仔は飼いだろう?」 「……違うデス。飼いの仔は飼われていてもセンベツされてないデス」 選別? ああ、そういうことか。 実装石は七つの大罪を抱えるナマモノ。そもそも人間と共存できるような存在ではない。それが俺たちブリーダーに死ぬほど 躾けられることによって、ようやく飼われるに値するペットに生まれ変わる。実装石は自分がその過程を経てやっと飼いの立場を 手に入れたことを忘れ、自分の仔なのだから躾けられなくても大丈夫と思ってしまうものだが、この親石は珍しく飼いと躾を理解 しているんだ。 「選別にもれたらお前の仔はどうなるかは知っているだろう?」 「知ってるデス。でもそれは本石しだいデス。ワタシにはどうしようもないことデス」 うーむ。最近は人間の親でもつい自分の子を過保護にしがちなのにな。実装石にしておくのが実にもったいないヤツだ。 「だが、一つお前は見落としている。俺に躾を頼むには金が要るんだよ」 「デ」 わはは。所詮は実装石だな。 「すみませんデス。代金は一生かけて償うデス」 「いらん。その代わり条件がある。仔が欲しければ飼い主の許可を取れ」 「デ……何でばれたデス」 やっぱりな。 「そして躾は生まれてすぐ俺に頼むよう飼い主に言え。下手に自分で躾けようとするな」 「デデ……それもばれてるデス」 お前の浅はかな考えなどお見通しなのだよ、グリちゃん♪ 帰り道。 俺はふと仔蟲の叫びを思い出していた。 「最高どころか最低の託児テチィ!!」 いや、最高の託児だよ。 親実装は親仔で飼いになれるかもしれない。 俺は訓練の客を得ることが出来た。(訓練は繁殖躾卸よりはるかに儲かるのだ) こんな託児をしてくれた親をクソママ呼ばわりするとは、なんて悪い糞仔蟲ちゃんなんだ。 「絶対に許さないぞ〜。帰ったら最高のおもてなしをしてやるからな♪」 俺はコンビニ袋に話しかけた。 Fin ////////////////////////////////////////////////////////////////// ふとどうしても書きたくなったので勢いで書いてみたです。 これが最初で最後の作品なのでどうかお目こぼししやがれです。
