タイトル:見張り実装2
ファイル:見張り実装2.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3980 レス数:0
初投稿日時:2006/08/01-04:13:38修正日時:2006/08/01-04:13:38
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前の植え込みから、野良実装の親子が近づいてきた。
野良実装とはいえ、身なりもキレイな方で、賢い個体のようだ。

ベンチ前まで来た野良実装の親の方が、ウメにぺこりとお辞儀をする。

『あら、随分と行儀の良い実装石ね』
『身なりもキレイだし・・・』
『何か御用?』

「こんにちはデス」
「人間さんが来たら、この公園の実装石は挨拶する決まりデス」
「ほら、お前達も挨拶するデス」

母実装の足元で、こちらを見ていた仔実装が、やはり頭をぺこりと下げ挨拶をした。

「こ・・こんにちはテチ」
「ほら、すみれ・・お前も挨拶するテチ」

仔実装のスカートに隠れていた親指実装が、仔実装に即されて出てきた。

「レ・・レチィ・・」

その様子を見ていた親実装が、親指実装に注意をする。

「お前は・・まだ挨拶も出来ないデスか」
「ママは悲しいデス」

自分が言われている・・キョロキョロと親指実装は母と姉を交互に見て、
何をすれば良いのか、分からずにいる。

「まったく・・この程度の事も出来ないデスか」
「前にも言ったデス、さー人間さんに挨拶をするデス!」

母実装は親指実装に強く言った。

「レ・・レチィー!レチィー!」

親指実装は、泣き出してしまった。
母実装は溜息をついて、親指実装の方を向く。

「はー・・・まったくデス」
「出来ないなら、また躾をしなければ、いけないデス」

躾・・・その言葉を聞いた親指実装の泣き声は、さらに大きくなった。

「レチャー!!・・躾はやめてレチ!!」
「痛いのは怖いレチィー!!」

親指実装は姉の仔実装の、スカートの裾を持って、後ろに隠れた。
姉は親指実装に話しかける。

「泣いてちゃ駄目テチ・・ほら、お姉ちゃんのやった通りにやるテチ」
「昨日ハウスで、お姉ちゃんと一緒にやった事を、思い出すテチ」

すると姉実装はもう一度、挨拶をした。

「人間さん、こんにちはテチ」
「ほら、すみれ・・・ハウスでは、すみれも出来たテチ」

姉を見ながら親指実装も、挨拶をした。

「こ・・こん・・こんにちはレチ」

親指実装も頭をぺこりと下げた。

「良く出来たテチ!」
「すみれも、やれば出来るテチ」
「お姉ちゃん、嬉しいテチ」

姉はしゃがんで妹の頭を、優しく撫でる、泣いていた妹の顔がぱあっと明るくなった。

「褒められたレチ、嬉しいレチ」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

妹は姉に抱きついて、体中で愛情表現をした。

ベンチの上でウメと、一部始終を見ていた仔実装は、
自分の妹だった、蛆実装の事を思い出した。

「蛆ちゃんも良く躾で、蹴り上げていたな・・・」

そして仔実装はこの親子に、かつての自分の家族を思い出し、
好感を持つ反面、羨ましくも感じていた。

『ふーん、出来の悪い子供もいるのね』

母実装がウメに話しかけた。

「人間さんは商店街の人デスか」

『えーそうよ、あそこで揚げ物屋をしてるけど』
『・・それがなんだい』

「商店街の人達には、お礼が言いたかったデス」

『お礼って・・・・何かやった憶えは無いよ』

「公園が平和になったのは、商店街のお陰デス」
「昔の公園は実装石があふれ返り、実装石だらけデス」
「餌も少なく、殺し合いも起きるほどデス」

『えー知ってるわ、あの頃は公園に行く人もいなかったわ』

「次第に力の強い実装石達が、餌を独り占めするようになったデス」
「反抗した者は、みんな食われたデス」
「私のママや姉妹も、私一人残し食われたデス」
「弱い実装は、同属食いの対象デス」
「ほんとうに地獄だったデス」

「いつしか商店街に行った実装達が、帰らなくなって来たデス」
「力の弱い実装達は、公園の雑草しか、食べさせて貰えなかったデス」
「だから商店街で盗みをするなんて、考えた事も無かったデス」

「そして力の強い実装達は、段々と数を減らしたデス」
「残った糞蟲達はもう雑草なんて、食べれなかったデス」
「糞蟲達は、この公園を去っていったデス」

「今でも去った糞蟲が、たまに帰って来るデス」
「でも糞蟲デス、また商店街に行って死んだデス」

『なるほどね、最近になって現れるのは、そいつらなんだ』

「今では公園に、人間さんの子供も帰って来たデス」
「私の仔も人間さんの子供と、たまに遊んでいるデス」

姉が思い出したように、話し始める。

「この前は小さな人間さんと、オママゴトして遊んだテチ」
「人間さんに飴玉を貰ったテチ」
「すみれと一緒に食べたテチ・・おいしかったテチィ・・」

姉はうつむいて、恥ずかしそうに話す。

「人間さん・・大好きテチ」

「この仔は人間さんが、気になって仕方が無いみたいデス」

「平和になった公園には、愛護派の人間さんが、良く来るようになったデス」
「愛護派の人間さんが言ってたデス」
「商店街には飼い仔実装が見張りをして、野良実装から商店街を、守ってるって話デス」

母実装はベンチの仔実装に目をやった。

「あなたが商店街の、仔実装デスね」
「ありがとうデス、あなたのお陰デス」

そう言うと母実装は仔実装を抱え、頬ずりをした。
仔実装はいきなり抱え上げられ驚いたが、頬ずりをされ動けなくなってしまう。

ママと同じだ・・・この実装石はあの時のママと、同じ匂いがする。

いつしか仔実装は声を上げてしまう。

「テッチュ〜ン・・」

「この仔は甘えんぼデス」

そう言うと母実装は、仔実装を優しくベンチに下ろした。

「・・・・テチ」

「教えて欲しいテチ」
「・・・あそこの・・ダンボール」

仔実装はかつて自分が住んでいた、ダンボールのほうを指差した。

「あそこのダンボールに住んでいた、実装石がいたはずテチ」
「おばちゃん・・知らないテチか」

その話を聞いた親実装は、全ての話が分かったのか、黙ってしまう。

「おばちゃん!知っているテチ!!」
「どんな事でも良いから教えテチ!!」

「何で黙ってるテチィ!!」

仔実装の剣幕に、親実装は重い口を開いた。

「良ーく聞くデス・・あそこの実装石は、あなたのママだったデスか」

「私のハウスは、あのダンボールのすぐ近くだったデス」
「子供がいなくなった事は、すぐに公園中の実装は知ったデス」
「子供がいなくなる事は、あの頃のここでは珍しくないデス」

「だから・・いつもの話程度に、聞いていたデス」
「子供は、また生めば代わりがいる、その程度の存在デス」
「でも・・あなたのママは違ったデス」


「子供がいなくなった日から、捜し続けたデス、いつまでも、いつまでもデス」
「いつしか公園のみんなにバカにされて、石や糞を投げられたデス」
「それでも公園を捜したデス。まるで幽霊みたいな姿になってもデス」
「わたしもその時は、あなたのママが怖かったデス」

「そのうち他実装の子供が、自分の子供に見えるようになったデス」
「ある日あなたのママは、仔実装をさらってしまったデス」
「さらわれた親実装はすぐに分かったデス、さらったのはあの実装だと」
「あなたのママはその親実装にボコボコにされたデス、子供は連れて行かれ、
 ダンボールもめちゃくちゃにされて、その前でいつまでも泣いていたデス」

「そして次の日ふぃっとこの公園から、姿を消したデス」
「あなたのママは、あなたが公園の外に行ったと思ったデス」
「何処に行ったかは、だれも分からないデス」

話が終わると、親実装はまた黙ってしまう。

仔実装は話を聞き終わると、全ての意味を理解した。
自分がママから逃げたのは間違いだった、ママは自分の事を愛していた。

それなのに自分は人間の所で、何不住無く暮らしていた、
その間にママは、公園で酷い目に合っていた、全てはあの日の自分のせいだ。
仔実装は泣きながら、自分の愚かさを思い知る。

「わ・・わたしのせいテチ・・」
「何で分からなかったテチ」
「あの時、すぐに公園に帰れば良かったテチ」
「ママ・・・わたしはバカだったテチ」

「ママはもう、ここにはいないテチ」
「幾ら待っても無駄テチ・・」
「わたしは今まで・・・何をやっていたテチ」

仔実装は今までやってきた事は、全てが意味のない事で、
自分勝手に作り上げた浅はかな考えが、引き起こした元凶だと知ってしまう。
幾ら泣いても、何も変らないが、泣く以外に何も出来なかった。

黙っていた親実装が口を開く。

「あなたのママは・・死んだ訳じゃないデス」
「生きていたら、いつか・・・いつかは会えるデス」

仔実装がポツリと本音を漏らす。

「ここにいないんじゃ・・・・死んだも同然テチ」

「何を言うデス・・・そんなこと言うもんじゃ無いデス」

「・・フンッ・・ママなんてどうせ今頃・・どっかでのたれ死んでるテチ」

仔実装はふて腐れて、横を向いてしまう。

いきなり親実装が、ベンチで座って泣いている仔実装の横っ面を張り倒した。

パッシィィン!!

「テジャッ!!」

仔実装は吹き飛ばされ、鼻を押さえ目を開き驚いている、
ウメや他の姉妹もいきなりの事に、驚きを隠せず声を上げる。

『ちょ・・ちょっといきなり、なんだい!』
「テチィ!」
「レチィーー!」

親実装の顔が怒りに変り、ベンチの仔実装を睨みつける。

「とんだ甘ったれデス!」
「これじゃお前のママも、何の為にがんばったか分からないデス」
「ママは死んでないデス!!子供に死んだなんて言われて、ママも可哀相デス」
「いつかママはここに帰って来るデス」
「あきらめちゃ駄目デス!・・あきらめたら誰がママを待つデス」
「絶対に・・・帰って来るデス」
「私には分かるデス・・・・あなたのママと同じデス・・」

『驚いたわ・・・実装石でもやっぱりママね』
『ふふ・・ママの気持ちはママが、一番分かってるのね』

『あんたのママも、他にいないことが分かれば、ここに帰って捜すしか無いんじゃないの』

ウメは仔実装を膝の上に載せて、顔をハンカチで拭いた。

「チンッ・・ごめんテチ」
「おばちゃんの言うとおりテチ」
「なんてバカな事を言ったテチ」

「ママは生きてるテチ、ここに帰って来るテチ」

仔実装は親実装に両手を広げ謝り、最後に笑顔を見せた。

「分かってくれれば良いんデス」
「この仔は賢い仔デス」

『それにしても、あなた相当賢い実装石ね』
『私の記憶の実装石は、商店街に盗みに来る糞蟲しかいないから』
『命乞いの媚を売るか、飼い実装になってやるとか・・』
『他はこの仔実装ちゃんだけ・・』
『あなたを見ていると、実装を見る目も変りそうね』

「賢いだなんて、恥ずかしいデス」
「ここの実装は、みんなこんな感じデス」


『あなたの子供なんだけど・・・』
『お姉ちゃんは賢いみたいだけど、妹の方はちょっと・・・』

何を言いたいのか理解した、親実装は答える。

「下の仔デスね・・・この仔は私の仔では無いんデス」

『えっ・・・どういう意味?』

「さつきが・・さつきは姉の方の名前デス」
「さつきが公園の噴水で、一人洗濯をしていたデス」
「親指実装がお腹をすかせて泣いていたデス、
 さつきがゴハンを分けてあげたら、付いて来たデス」
「ハウスの中まで入ってきたから、私が追い出したデス」
「でも・・何度追い出しても来てしまうデス」
「心を鬼にして遠くに連れて行って「今度来たら殺す」って殴って捨てたデス」

「次の日、この仔はさつきを見つけて、またくっついて来たデス」
「さつきが可哀相だって泣いて頼むから、仕方なく親が見つかるまで、面倒を見てるデス」
「さつきは、この仔にすみれって名前を付けて、可愛がってるデス」
「片時も、さつきから離れようとしないデス」
「また捨てられるのを、さつきが守ってくれると思ってるデス」

『この仔は親に、捨てられちゃったの』

「分からないデス・・・ただ親指実装だと、
 成体実装にならないって理由で、捨てられる事はあるデス」
「でも賢い親指なら捨てる親は、まずいないデス」
「多分この仔が一緒だと家族が危険だって感じたから、捨てられたと思うデス」
「賢くない仔は親指、仔実装に限らず間引きされるデス」
「間引きされずに捨てられたのは、母親が優しかったからデス」

『捨てて優しいってのも、何だかね』

「しょうがないデス・・公園の実装社会は厳しいデス」
「私もこの仔が不憫に思うデス」
「だから淋しくない様に、姉と一緒にママって呼ばせているデス」
「将来の事を考えて、躾もちゃんとしてるデス」
「厳しく躾けているせいで、この仔は姉にしか懐かないデス」

「ただ・・このままじゃすみれの将来が不安デス」
「それに・・さつきの方も不安デス」

『さつきちゃんは大丈夫でしょ、素直で賢い様に見えるけど・・』

「はいデス・・でもさつきは優しすぎるデス」
「優しい実装は公園では、長生き出来ないデス」
「賢く素直で優しいのは、人間さんの飼い実装向きデス」
「ここでは賢くて、ある程度素直な実装が長生きできるデス」

『フーン・・なるほどね・・あなたが、それに当てはまるようね』

ウメは親実装の体を見回し、破れ等はあるが、清潔に保たれた服を確認する。

『ほら・・あなたもご挨拶しなきゃね』

そう言うと膝に抱えた仔実装を、さつきの近くに置いた。
仔実装はさつきの前で、もじもじとうつむき何も話せないでいる。
最初に切り出したのは、さつきの方だ。

「始めまして・・さつき・・さつきテチ」
「生まれたのは、そっちが先だから、そっちがお姉ちゃんテチ」
「お姉ちゃんの名前は何て言うテチ」

「は・・はじ・・始めましテチ」
「名前は無いテチ・・」

仔実装はウメの方を見た。

『名前ねー・・そう言えば名前・・無かったわねーあなた』

暫く考えた後ウメは名前を決める。

『マリ・・マリモでどう』

「なんでマリモ・・テチ」

『うちで飼ってたマルチーズの名前よ』

「可愛くないテチ・・センスゼロテチ」

『あらマリモが家にいた時は、素直な良い子だったわよ』

「・・・・テチ」

仔実装は、さつきの方を振り返り答える。

「私の名前はマリモって言うテチ」

「マリモお姉ちゃんテチね」
「よろしく・・マリモお姉ちゃん」

「ありがとテチ・・さつきちゃん」
「名前で呼ばれるなんて、恥ずかしいテチ」

「あっ・・私の事はさつきで、いいテチ」

「何だか悪いテチ」

マりモとさつきは、すっかり打ち解けたようである。
元から優しく疑う事を知らない、さつきにとって、
自分に姉のような存在が出来る事に、何の抵抗も無かった。

マリモにとっても自分の妹である、蛆実装以来の実装石の存在、
しかも自分を姉と慕ってくれる事に、心の中に置いてきた、素直な心を思い出させた。


そして・・さつきのスカートの裾を握り締め、怒りで震えている者がいた。

「お・・お・・お前なんか・・お前なんか・・・レチィ」
「お姉ちゃんから・・離れろレチィィ!!」

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