「実装姉妹の逃避行4」 『それじゃ、今日もしっかり頼んだぜ』 「任せるテチ、糞蟲は一歩も入れないテチ」 あれから半年が経ったが、仔実装の成長は進む事も無く、未だ仔実装のままだ。 どうやら、これ以上の成長は、望めないようだ。 野生の実装石でも、親指実装から成体実装にまでなる固体は、極めて少ない。 暫く来なくなっていた野良実装だったが、最近は隣町から公園に住み着き、 商店街のへ進入を試みるようになった。 件数も段々と増えていき、今では1週間に一匹くらいの割合で、進入している。 それに比重して、仔実装への責任も増していた。 隣の魚屋が、ヤスに話しかける。 『今日も来るかな、野良実装ども』 『どうだろうな、昨日2匹始末したから、今日は来ないんじゃないか』 『それより知ってるかいヤスさん、近所のスーパーマーケットの話』 『あーなんでも、野良実装の標的に、されてるって話だろ』 『それがさ、店の中に数匹まとめて進入して、当り構わず食い散らかして、 そりゃ酷い有様だってよ』 『店のもんは、黙って見てるのか?』 『殆どが女のアルバイトだから、汚いもんには触らないだろうね』 『暫くして店長と男のアルバイトが、結局みんな叩き殺したんだが、 店中を糞まみれにされて、未だ営業再開も、ままならんようだね』 『そーいや店に来る、客の買い物袋に、託児までするそうな』 『野良実装どもめ、やりたい放題だな』 『ライバル店とはいえ、あそこまでいくと可哀相になるよ』 『本気では、思ってないんだろ、魚屋w』 『まーな、本当は嬉しかったりしてなw』 『最近は市でも、野良実装の問題を議題に上げてるし、 そっちで何とかするんじゃないか』 『しかし昨日の野良実装は、けっさくだったな』 『あーみんなで囲んで、叩き殺そうと思ったら、いきなりパンツ脱いで、 股開いてデフンデフン汚い性器見せやがった、気持ち悪いったらないぜ』 『あんまり汚いんで、触るのも嫌だったけど、最近になって設置した、 デスミキサーに、生きたまんま放り込んでやったよ』 デスミキサーとは、野良実装の死体処理に困った市が、野良実装の多数出現する場所に、 最近になって設置した、実装石専門の廃棄用マシンだ。 トラックに、スイッチ一つで積み下ろしが、出来るようになっている。 商店街のゴミ置き場にも、一つ設置された。 仕掛けは中に回転する刃が付いており、ボタンを押すと高速回転する仕組みだ。 動き出した刃は、実装石を粉々に粉砕する、粉砕された塊は下のタンクに落ちる、 落ちたタンクが生ゴミ処理機なっており、そこに掛けられゆっくり肥料へと変る。 衛生的で、なおかつエコロジーの面でも、市民から好評を得ている。 その肥料は「デス骨粉」の商品名で販売された。 デス骨粉は、実装石のデタラメな生命力が反映されて、 植物や家畜に脅威の成長力と、強靭な生命力を作り、 農家や畜産業で引っ張りだこのヒット商品となり、市の財源を大いに潤した。 本来は道端などで死んでいる実装石用の物だが、自分の手で殺すのが嫌な者や、 虐待派が生きたまま放り込んで、楽しんだりするのにも使われている。 『こいつの悪い所は、死んでいく姿が見れない所だな』 『虐待派には、物足りないだろうね』 『まー虐待派は、わざと足から少しずつ入れて、表情を楽しんでるみたいだよ』 『俺は面倒くさいから、放り込んで終わりだけどな』 『この商店街は、あいつが見張ってるから、野良実装も中々手が出せんだろう』 『俺も仔実装に、ただ飯を食われずに、すんでるって訳だな』 『何言ってんだいヤスさん、仔実装がいなきゃ俺達も、あのスーパーみたいに・・・』 『嫌だ嫌だ、あんまり考えたくないよ』 ヤスは仔実装に、毎日見張りの仕事をさせて、けっして甘えさせたりはしなかった。 部屋に帰っても水槽で生活をさせ、風呂に入れて餌を与える以外は、 特別に愛情を掛ける事もしない、それが仔実装への、ヤスのルールだ。 仔実装もそんなヤスの態度を、別段気にする事も無く、気を使わずにすむ事が、 返って気が楽で仔実装なりに、ヤスに感謝を心の中では感じていた。 ヤスは生意気な口を利く仔実装に、その行為は人間と仔実装の境界線を、 仔実装が作っている事に気が付いていた、本来実装石は欲の塊でその欲望は際限が無い。 実装石の癖に何かを要求した事も無い、そんな仔実装にヤスも一目を置いている。 いつしかヤスと仔実装の間には、奇妙な信頼関係が生まれていた。 『おっもう昼だ、俺は飯にするよ』 そう言って魚屋は、店へ帰っていった。 『それじゃ俺も昼飯にするか、おい!後は頼んだぞ』 「任せるテチ、ヤスさんは安心してゴハンに行くテチ」 お昼になって、なぜか仔実装が落ち着かなくなる。 あたりをきょろきょろと、しきりに見回している、ヤスが声を掛ける。 『ん〜・・おまえ何そわそわしてんだ?』 『あー婆さんか、来るのは後5分後くらいだぜ』 「べ・・別に待ってる訳じゃ無いテチ」 「いいからヤスさんは、早くゴハンに行くがいいテチ」 『やれやれ見張りの方は、ちゃんとやってくれよ』 そう言うと、ヤスも店の中に入っていた。 仔実装は見張りそっちのけで、商店街の奥をじっと見つめる。 程なくすると奥の店から、こちらに向かってくる人影があった。 仔実装はますます落ち着かなくなり、拍子に椅子から転げ落ちてしまう。 うつ伏せになったまま見上げると、人の影がダンボールを覆った。 『 あらあら大丈夫?慌てん坊ね、うふふ』 そう言うと女性は仔実装を両手で抱えて、椅子に座らせた。 この女性は揚げ物屋の店主で名前はウメ、揚げ物屋を一人で切り盛りをしている。 初老を迎える年齢だが、姿勢も凛としており、何処と無く気品を感じる。 元々は肉屋の主人と一緒になったのだが、男の子二人を作った後、 子供二人を残し、主人は早くに亡くなっている。 女一人では難しいと肉屋をたたみ、子供二人は揚げ物屋をしながら、女手一つで育て上げた。 今では子供達も家を出て、一人暮らしをしている。 生活は年金と揚げ物屋の収入で、特に不住も無く暮らしている。 少し前は野良実装の被害に、頭を悩ましていたが、 最近は仔実装の活躍で、平穏な商売を取り戻している。 仔実装はうつむいて、恥ずかしそうに答える。 「あ・・ありがとテチ、ウメおばちゃん」 『あら!あなたの髪の毛ゴワゴワね』 「テチ・・」 『ちゃんとお風呂に入ってるの?』 「お風呂はヤスさんが、毎日入れてくれるテチ』 「不潔な奴は嫌いだって、言ってたテチ」 『シャンプーとかリンスとかしてる』 「シャンプーとかリンスって何テチ?」 『まったくヤスときたら・・しょうがないわね』 『ヤスのバカには私の方から、言って置いてあげる』 『それより、ほら・・お昼のお弁当、売り物のコロッケだけどね』 「コロッケ大好きテチ、揚げたてのほっくほくテチィ」 そう言うと仔実装は貰ったコロッケを、大事そうに下に置いた。 『あら・・食べないの?』 「コロッケは、後でゆっくり食べるテチ」 「また・・・お話、聞かせてテチ」 仔実装はウメの話を聞くのが、ここ最近の日課となっている。 子供の話しや商店街の話をするウメに、自分の家族を重ねていた。 最近の公園の様子や、自分の子供の話が済むと、ヤスの話になった。 話だとヤスは、ウメの子供の兄貴分で、 同級生の魚屋と3人でウメを困らせていたらしい。 『あなたも、ヤスなんかの家じゃ大変よ』 『昔から悪ガキでね、そのまま大人になった様なものよ』 『小学校の時なんかもね・・・・』 ヤスの悪口が続くと、仔実装はうつむいてしまう。 「テチィ・・」 『あら!あなたのご主人様だものね、気を悪くしたかしら?』 「ご主人様じゃ無いテチ」 『ふーん・・ご主人様じゃ無いの?』 「ヤスさんは、居候って言ってたテチ」 「すぐに居なくなるんだから、飼う気は無いって言ってるテチ」 『まー見張りまでさせておいて、ヤスの奴は薄情ね』 「全然、気にしてないテチ」 「その方が気が楽テチよ」 仔実装はお昼になると来てくれるウメが大好きだった、 女性特有の優しい感じが、ママに似ている。 目を見て話す事も、何か恥ずかしく感じた。 いつもの生意気な口調もなりを潜め、よそ行きの言葉で話し、 仔実装なりに好かれようと、一生懸命である。 ウメも野良実装の被害から、助けてくれた仔実装に、好意を覚え、 子供も居なくなって少し淋しくなった自分の、話し相手にしている。 「・・ウメおばちゃん」 「・・・あの・・テッチィ」 『うん・・話して御覧なさい』 仔実装は恥ずかしそうにうつむき、下を見ながら話した。 「お願いがあるテチ」 『お願い?』 「今度、公園に連れて行って欲しいテチ」 「仔実装が一人で行くと、危険がいっぱいテチ」 「どうしても行きたいテチ」 「お願いテチ」 仔実装はウメを見上げて、顔色を伺う。 『そうね、明日は商店街が休みだから、一緒に散歩でもしましょうか』 『最近はバカな野良実装も減って、公園も安全になったしね』 「ありがとテチ」 「とっても嬉しいテチ」 『それじゃね、仔実装ちゃん』 「約束テチィー」 ウメは仔実装に手を振り去っていった。 仔実装はウメの後姿を、いつまでも見送っていた。 ----------------------------------------------------------------------------- 翌日、仔実装は朝早くから起きて、ヤスを叩き起こした。 「朝テチ!朝テチィー!!」 「ヤスさん!!ヤスさん!!」 「早く起きるテチ!!」 「いつまで寝てるテチ!!」 仔実装は水槽のガラスを、ペシペシ叩きヤスを起こした。 『なんだ・・・今日は休みだろが』 『何、朝から興奮してんだオマエ』 「今日はウメおばさんが、公園に連れて行ってくれるテチ」 「早く待ってないと来ちゃうテチ」 『幾らなんでも、こんな朝早く来ねーよバカ!!』 『まったく・・あの婆さん、ここに来るのかよ』 『昔から苦手なんだよな』 『お前も婆さんには、気を付けろよ』 『すぐ手を出すんだよな、あのババア・・』 「な・・なに言ってるテチ!」 「ウメおばちゃんの悪口は、絶対許さないテチ!!」 「今度ババアなんて言ったら、酷い目に合わせるテチ!!」 『この!』 ヤスは仔実装に、デコピンを食らわせた。 ピシ! 「テッ!!」 仔実装はオデコを押さえて、ヤス睨みつける。 「テ・・テチィ・・」 「ひ・・ひどいテチ」 ヤスは仔実装を無視して台所に行き、昨日の残りのオカズを暖めた。 『婆さんから電話があったぜ』 『来るのは昼だってよ』 『朝飯でも食って待ってなw』 「お昼・・テチィ・・」 仔実装はお昼からと聞いて、がっくりと肩を落とす。 仔実装は朝ごはんを食べると、まだ早いがダンボールに入って、ウメを待った。 お昼前にウメはやって来て、仔実装と一緒に公園に向かう。 仔実装の歩幅にウメは合わせて歩き、途中休みながら公園に着いた。 ウメは仔実装を抱えて歩き回り、公園の中を色々と見て回る、 公園内を一周して、ベンチに子実装を降ろし、自分も座った。 『ふ〜・・少し疲れたわね』 『仔実装ちゃん・・探してる人は見つかった?』 「べ・・別に探してる人はいないテチ」 『ママでしょ?あなたの探してる人は』 「テ・・テチィ」 「分かってたテチ?・・ウメおばちゃん」 『ヤスから聞いてたわよ』 『別に隠さなくてもいいでしょ』 「・・恥ずかしいテチ」 『ふふ・・・ママはいなかったのね』 「・・はい・・テチ」 『ママは何処に行ったのかしらね』 「分からないテチ」 『それにしても・・・』 『ここの公園の実装石も、大分少なくなってきたわね』 『以前は公園にあふれんばかりで、公園に来ようとも思わなかったわ』 『ベンチに座ろうもんなら、沢山の野良実装が、物乞いに来たもんよ』、 そう言うとウメは、公園の中央にある噴水を見た。 ガサリ! 実装石だ・・・しかも親子、仔実装のスカートに隠れて、もう一匹は親指サイズ。 実装親子がウメと仔実装に近づいて来た。 「人間さん・・・こんにちはデス」 「お前達も挨拶するデス」
