[ かくれんぼ ] 家の仔実装のやつ、かくれんぼに凝っているらしい。 前は仕事から帰ると大喜びで玄関まで出迎えにきたのだが、今日もすっかりその気になっているのか姿も見せない。 「ただいまー。帰ったぞ、仔実装」 家の中は静まり返ったままだ。 冷蔵庫のたてる低い響きだけが、台所から聞こえてくる。 「お土産、買ってきたんだけどなー。いないなら、一人で食べちゃおうっかなー」 手にしたコンビニ袋の中身は弁当と実装用の金平糖だ。 前はうっかり駆除用品を買ってきてしまったが、今度は間違いない。 「実装ちゃんまっしぐら!」のコピーも痛々しい、混じりっけなしの合成甘味料の塊だ。 ちなみに俺が仔実装に土産など買って帰ることなど、めったにない。 物で釣るのは躾の上でもどうかと思ったが、今晩ばかりは、やつの遊びに付き合ってやることはできないのだ。 ※ ゴシュジンサマが帰ってきた。 おみやげがあるっていうけれど、かくれんぼの方がおもしろい。 あと、もうちょっとしてから、出ていこう。 ワタチはゴシュジンサマが大好き。 おうちにいるときは、いつも一緒に遊んでくれる。 最初に、かくれんぼ。それから、ごはんを食べて、ボール遊びをして、テレビを見てから一緒にオフロ。 そして、ねんねの時にはお話をしてくれる。きょうはどんなお話をしてくれるんだろう。 ゴシュジンサマがワタチのことを探している。 いつもはゴシュジンサマが心配して「こうさーん」っていうと、かくれんぼはお終いだ。 そうするとワタチは、かくれている所からそーっと出ていく。 そして『ゴシュジンさまっ!ここテチィー♪』っていうと、とっても喜んでくれる。 かくれるのが上手だってほめてくれる。 そうだ!きょうはおみやげをくれるから、ゴシュジンサマをもっと喜ばせてあげよう。 ずーっとかくれて、もっと喜んでもらって、もっともっとほめてもらおう! ※ うっかり褒めたのがいけなかったのか、仔実装のやつ、この頃いっちょまえに隠れるのが上手くなりやがった。 一度、無視して飯の仕度に取り掛かったら、食器棚のかげから急に飛び出してきて踏み潰しそうになったことがある。 以来、「降参」といったら遊びは終わりだと仕込んだのだが、今日はどうしたことかさっぱり出てこない。 探す振りをするのも飽きたし、何より時間がない。 急に海外転勤が決まった同僚の仕事の引継ぎ資料を、今晩中に作らなければならないのだ。 「…チププ……、チプププ……」 廊下にあるクローゼットの中から、かすかに仔実装の鳴き声が聞こえた。 こちらの気配をうかがって、ほくそ笑んでいるようだ。 いつもはそんなことはないのに、さすがに今日は妙にいらついた。 俺は玄関先に置いてある古雑誌の束をクローゼットの前に投げ出すと、生暖かいコンビニ弁当を腹にかき込んだ。 ※ おかしいテチ。ゴシュジンサマ、ぜんぜん探してくれないテチ。 ちょっぴり、さみしいテチ。ちょっと、おなかもへったテチ。 でも、へっちゃらテチ。 ゴシュジンサマは、また探しにきてくれるテチ。 そうしたら、ワタチはゴシュジンサマに「ここテチッ」ていうんテチ。 きっとゴシュジンサマは、いっぱいよろこんでくれるテチ。 ワタチもとっても嬉しいテチ。 さみしいけど、ここは暗いけど、おなかへったけど待つテチ。 だからゴシュジンさま、はやく探しにきてテチィ……。 ※ 作業は意外にあっけなく終わった。 仔実装にかまう必要がないこともあって、集中して一気に仕上げることができたのだ。 そのとたん我ながら現金なもので、閉じ込められている仔実装の様子が気になり出した。 俺は足音を忍ばせて廊下に向かった。 いつまでも探しに来ない俺にしびれを切らし、自分から出てこようとしているのだろう。、 クローゼットからは、扉を叩く音がポフポフと続いている。 だが、前に積み上げた古雑誌の束に押さえられて、扉は微動だにしない。 俺は仔実装の奮闘を、やさしく見守ることにした。 ※ 『おかしいテチ。なんで、あかないテチ』 手を突っ張って、全身で扉を押しても動かない。 ボール遊びで鍛えた体力には自信があっただけに、この事態は意外だった。 『だめテチ、だめなんテチ。開かなくちゃいけないんテチ!』 扉を左右交互に殴りつけたが、手が痛くなるばかりでやはり変化がない。 もうゴシュジンサマがおみやげを持って帰ってきてから、大分時間がたったはずだ。 『ゴシュジンさまを、はやくあんしんさせるテチ。出なくちゃいけないテチィ!』 仔実装は細明かりが漏れ入る扉の継ぎ目を睨みつけながら、クローゼットの奥へ、一歩また一歩と後退していった。 ※ 仔実装のやつ、諦めずに今度は体当たりを始めたらしい。 少し気合の入った掛け声とともに、ちょっぴり扉が揺れた。 「テェッチュッ!テェッチュッ!テェッッ?!」 3度目の体当たりとともに、軟い骨が砕けるポキンという音が聞こえてきた。 そして、悲鳴と脱糞音。 どうやら仔実装は脱出どころか、パンコンしてめそめそとベソをかき始めようだ。 泣きたいのはこちらだって同じだ。 掃除と手当てと洗濯と、余計な手間が増えてしまったじゃないか、この根性無し仔め。 「…テェェン……、テェェン……、テェェェェン……」 しかし、何だな。 やはり愛護に徹していると、気疲れするからな。 たまには昔を思い出して仔実装の泣き声を堪能するのも、うん、実にいいものだ。 俺はあぐらをかいて座り込み、悲哀をそそる泣き声を暫し味わった。 ※ イチャイ、イチャイ、イチャァァイッ! ゴシュジンさま、痛いテチィッ! はやく来てテチ。 くらいテチ、せまいテチ、こわいテチィィ。 もう、いやテチ、いやテチ。 かくれんぼ、こうさんテチィ、こうさんテチィィッ! ※ 仔実装に十分な教訓を与えるため、泣きじゃくるやつを放って床についた。 だが、作業の余韻が残っているせいもあるのか、妙に目がさえて眠れない。 時計を見ると、もう3時近かった。 静かになったクローゼットを開けると、血涙で顔を汚し、仔実装はぐっすり寝こけていた。 起こさぬようにパンツを脱がして糞を拭き取り、窓際のラックに置かれた寝台へ運んでやる。 新陳代謝の早い仔実装にとって、あの程度の骨折は何ともなかったようだ。 買ってきた金平糖を枕元においてやろうかとも思ったが、せっかくの教訓が強烈な甘味で頭から飛んでしまうのは困る。 明日の朝、いつものフードを多めにやることに決めた。 ところが結果、大寝坊。 あわてるこちらをよそに、仔実装は寝台でスヤスヤと眠っている。 昨夜のいらだちが思い出された。 半開きの口から涎をたらした顔が、やけに醜悪に見えた。 赤緑の斑模様に汚れたやつの寝姿を見るうちに、もう一発、何かが必要だと俺のゴーストがささやいた。 寝ている仔実装を起こさぬよう、静かに身支度を整えると玄関へ向かう。 そして外へ出ると勢いよくドアを閉め、二、三歩わざと大きな足音を立てた。 「チャア?テチャァア?!」 ドアに耳を寄せずとも、仔実装が泣き声をあげて玄関へ走ってくるのがはっきりと聞こえる。 「テェェン!テェェェン!」 フローリングの床を走るポテポテという足音とともに、泣き声が近づいてきた。 涙まぶれで引きつった仔実装の顔が目に浮かぶ。 上がりかまちに敷いてある新聞紙を踏みしめるカサカサという音が聞こえたあと、 ドア下の隙間から仔実装の哀れっぽい泣き声が漏れ出してきた。 「テチィィィ!テッチィィィ!」 こちらを呼び戻そうと必死な泣き声を聞くと、自然と顔がほころんでくるのが自分でもわかった。 今晩は同僚の送別会だ。 明日は休みだし、朝まで存分に飲み明かしてやろう。 帰ってきた俺を仔実装のやつ、どんな具合に出迎えてくれるのだろうか。 「テェェェン!テェェェェン!」 寒さも峠を越し、幾分か青みが増した空からは春の気配が感じられる。 俺は路肩でゴミ捨て場を窺う、痩せこけた野良実装を車道に追い立てながら急ぎ足で駅へと向かった。 (満員電車に乗ってから、餌をやるのを忘れていたことに気づいた)

| 1 Re: Name:匿名石 2015/12/31-11:37:14 No:00001883[申告] |
| 自分が可愛がられていると思うと、飼主の苦労も気にかけず、調子にのる糞虫には、飯抜きの制裁が、一番、この日を切っ掛けに、飼い主が、観察型の虐待派になり、子実装石に、何故可愛がってくれないの。と思うような直接手を出さすに、ジワリジワリと、責め殺すような、虐待を期待する、 |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/01/03-17:46:53 No:00001884[申告] |
| じわじわと殺してやろう仔実装 |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/07/20-07:21:53 No:00007580[申告] |
| 子供らしい悪戯心だったのに… |