タイトル:【獣】 怪人【ヒーロー】【愛護派虐待】
ファイル:怪人.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1868 レス数:0
初投稿日時:2009/03/15-10:26:18修正日時:2009/03/15-10:26:18
←戻る↓レスへ飛ぶ

「怪人」
(実装はけっこう後に出ます)




今日は晴天、良い一日。
親子で出かけるにはもってこいの日曜日。
手とて繋いだ仲良し家族が町に溢れる。
子連れの親子の行く先は、自然公園、はたまた空き地?

「ママー、あのねー、プリキュラのケータイがほしいのー」
「シンケンオー、DXシンケンオー買ってー」

いいえ、デパートです。
子供の欲しがるオモチャを買いに、ママパパ一緒に行くのです。

"泣く子と地頭には勝てぬ"

今の時代、ネットを通せばオモチャを安く買えます。
ですが子供達に値段は関係ありません。
欲しいんです。
"今欲しいもの"が欲しいんです。
宅配屋さんが来るまで待つよりも、今日確実に買いに行きたいのです。
---


ヒーロー、ヒロイン、可愛い動物。
人形、ロボット、ポスター、ブロック。
幼心をくすぐりまくる、魔性の物らが集いしところ。
この日、おもちゃ売り場の活気は頂点に達していた。

「このクマかわいいー」
「ウルトラマンだぁーー」

あれが欲しい。
これが欲しい。
みんなそれぞれ何かが欲しくてここに来た。
だけれどここには多すぎる。
"今欲しいもの"が多すぎる。

「人形ハウス欲しい」
「変身ベルトも買ってー、買って買って買ってー」

子供は全てを欲しがります。
我慢は中々できません。
我慢をする理由を知りませんから。

実装石と同じ?

全然違います。
子供が何かを欲しがるのは、
興味を持った何かが消えてなくならないように、
どこかに去ってしまう前に、
それがどうゆうものなのかを知るために、
自分の手の届くところにそれを置きたいからです。
ですが、そのことをわかっていない人達が沢山いるのは事実…
---


「デププププ…」
「ふほほほほ…」

家族の笑顔で賑わう広場。
おもちゃ売り場は平和の象徴。
無邪気な笑いが親達を癒す。
そんな優しい空間に、
悪の魔の手が忍び寄ろうとしていた。

それは奇妙な親子だった。
全身を金ピカのスーツで覆った、太り気味の老婆と、
これまた全身金ピカのローブで覆った、小柄すぎる子供。
二人は身の毛がよだつような不気味な笑い声を漏らしながら、
おもちゃ売り場の方へと静かに、ゆくっりと、
そして着実に歩んでいった。

「デププ…デスデス…」
「ふふ…わかったわ、ジューソーちゃん」

小柄な子供は、ひょいと老婆の肩に飛び乗ると、
デスデスと小声で耳打ちをした。
すると老婆は、カウンターに向って行き、
店員の目の前に鋭い爪の生えた人差し指を差し出した。

「いいかしら、よく聞きなさい」

老婆は店員に一言言うと、
差し向けた爪を一旦、おもちゃ売り場の左端に向け、
その後すぐさまおもちゃ売り場の右端に振り向かせた。

「ここから、あそこまで…全部買い取らせて貰うわ!」
---


不穏な空気はすぐに伝わる。
伝染病のように広がった不安は、その世界を支配する!

「あそこの子供が持ってるおもちゃも全て私が買い取るわ」

店員に向かって大声で話す老婆の声は、
おもちゃ売り場にいる全ての人間に聞こえるものだった。
老婆は一人子供を指差すと、その子の持っているおもちゃを自分が買うと言う。
そして言い終えるとまた一人、また一人…
次々と指を差し、子供達の持っているおもちゃを奪ってこいと店員に命令した。

「ママー、プリキュアのケータイ買えないの?」
「シンケンオーとディケイドー」

子供達はすぐに不安を口に出す。
自分の欲しい物は買えないのかと。
口には出さないが大人達も不安である。
可愛い我が子におもちゃを買ってやりたい気持ちはある。
しかし、老婆の大声は全て耳に届いている。

"ここから、あそこまで…全部買い取らせて貰うわ!"
"あそこの子供が持ってるおもちゃも全て私が買い取るわ"

この言葉が大人達を不安にさせた。
いってみれば、老婆はおもちゃ売り場にとってこの上ないお客様。
店にある全ての商品を一人で買い尽くしてくれる神様のような存在。
自分達の日常とは逸脱した老婆の圧倒的な存在感、
そして何より財力が、大人達に根拠のない不安を与えたのだ。

また、そうした大人達の不安が子供達に伝わったその瞬間こそがまさに、
金持ちが幅を利かす、大人社会に渦巻く"所得格差"という概念が、
子供達の世界に侵入した瞬間であった。
---


テューン、テューン、テューン!
闇を漂う銀色の物体。
蒼い星を背にそれはけたたましい音を上げていた。

「む、地球からのメッセージだ!」

銀色の物体には一枚のスクリーンがあった。
そして、そのスクリーンを見る者が一人いた。
真っ暗な宇宙に浮かぶ小惑星、
白い岩肌の見える大地に佇む、黄色い肌をした男だった。

「非常に、ピーーーーーーーーーンチ!!」

男の叫びは純粋だった。
強い思いの篭ったその叫びは、
子供達の幸せを願う祈りであり、邪悪との戦いが始まるゴングの響きであった。

「ストレッチ!!」
---


老婆が店員にあらかた注文をつけると、
小柄な子供はおもちゃを持った子供達の方へと走っていった。

「デップップップップ…」
《おもちゃは全て、この私のものなんデス!》

小柄な子供はその体躯に見合わぬ豪速で駆けると、
おもちゃ売り場のあちこちに散らばる、普通の子供達に襲い掛かった。
速度の乗った体当たりで、自分よりも大きな子供を突き飛ばし、
腕から離れたおもちゃを奪い去った。
そうして体当たりで宙に浮いた小柄な子供はおもちゃの置かれた棚を蹴飛ばしながら、
凄まじい勢いで速度を増しながらおもちゃ売り場駆け回った。

《ここにある物は全て、特別な私のためにあるんデス。
お前達、下賤貧乏凡人庶民の糞ガキの手に渡ってはいけないものなんデス》

子供達からすべてのおもちゃを奪った小柄な子供は、
奪い取ったおもちゃを、おもちゃ売り場の中央に塔のように積み上げると、
その頂上にひゅんと飛び乗った。
おもちゃ売り場にいる親子、店員、そして老婆さえも見下す小柄な子供は、
金ピカのローブを放り捨てると、恐ろしい野獣の雄たけびを上げた。

「デッズオォォォォォォォォ!!」

小柄な子供はその禍々しい姿を露わにした。
全長90cm程の雄の獣装石であった。
---


獣装石の首には巨大なダイヤを基調としたネックレスをつけていた。
そして、そのネックレスに仕込まれた高性能リンガルから野太い女性の声が発せられた。

《全ての物は、この美しく、力強い特別な体を持った私のためにあるんデス!
この世の命も幸せも全ては私だけのものなんデス!
つまり、楽しみを、快楽をもたらすおもちゃはすべからく全て私のものなんデス!
お前達、下賤貧乏凡人庶民は…
何の楽しみも無い地獄の苦しみを味わうべき下等な存在なのデス!》

声高に自論を語る獣装石の目は濁っていた。
自分の目の前にあるもの全てを支配下に置きたい、
誰よりも優れた存在でありたい、
そんな欲望にまみれた俗物の目、
忌み嫌われ、迫害されるべき者の目だった。

「ふほほほほ、わかったらあんた達庶民は帰りなさい。ほら、早く」

獣装石の醜悪な様態は唾棄すべきものであり、
獣装石自身も即刻抹殺されるべきものだった。
しかし、その邪悪の塊に、絶対的な存在の安定を与えるものがあった。
老婆の財力である。

「ママー、プリキュアのケータイとられたー」
「パパ、おもちゃー、ぼくのおもちゃー」

突然訪れた理不尽な不幸を受け入れられない子供達。
泣き、叫びながら親達に懇願するも、
大人達は決して子供達の願いを聞き入れてはくれない。

大人達は考えるのである。
老婆の財力を、そしてそれを裏で支えるもののことを。
一般人が決して触れることのないであろう世界の力を、
無意識の内に老婆の財力に重ね合わせてしまうのである。

「ごめんな…としあき。今日はもう帰ろう。シンケンオーならパパが今度買ってやるから」
「ふたば、プリキュアのケータイはまた今度。ね」

老婆が本当に恐れるべき存在なのか確認する術は親達にはない。
彼女は普通の人なのかもしれないし、ただのおかしい人なのかもしれない。
もしかしたら危険な組織のメンバーなのかもしれない。
だが、親達の一番気になることはそんなことではない。
可愛い我が子に危険が及ばないかどうか、それが一番気になることなのである。

「ママー、なんでー、ケータイ買ってよー!」
「なんでなんで! さっき買うっていったのにー! バカー!」

子を思う父と母は、子供になんと罵られようとも、
彼らをこの危険な空間から引き離さねばならないのだった。
---


「ふっふっふっふっふっふっふ。ぬわっはっはっはっはっはっはっは!!」

獣装石と老婆の悪意によって支配された空間に響き渡る、熱い男の声。
不安と嘆きで満たされた魔の領域に、不死鳥の焔が耀いた。

《な、何者デス!?》

完全な自分の支配下だと思っていたおもちゃ売り場に突如現れた謎の存在に獣装石は肝を冷やした。
おもちゃの塔の天辺に聳え立つ獣装石は下方を見渡すが、そのような者は見当たらない。

「こっちだ!けだもの!」
《デデッ!?》

獣装石が見上げた先に、黄色い肌の男がいた。
一際大きなおもちゃの棚と天井との間にできた、わずかな隙間に熱き男は寝そべっていた。

「とぅっ!」

胸の真ん中に桜色の星が耀く男は、するり棚から降りると、
力強く着地し、両足を強く踏みしめた。
そして全身に気を張り巡らせると右手を左前方にかざし、
その手で大きなSの字を書いた。

「ストレッチマン…参上!」(以下Sマン)
(子供達を守るヒーローです)
---


《デグルルル! 何者かは知らんですが、私を否定するものは許さんデス!》

眉間に皺を寄せ、より醜い顔となった獣装石はSマンに牙を向けた。
反り返る三口から除く牙は、実装シリーズの丸顔には不釣合いな程巨大なものだった。

「私はお前を否定してはいない。子供達を救いに来ただけだ」

Sマンは獣装石の威嚇に動じず、冷静に答えた。

《それが私を否定しているのデス!
私はこの世界の支配者デス!
この世界にある全てのものは私の思い通りにならなきゃいけないんデス!
そして… お前の存在は私の権利を否定しているんデズァァァ!!》

Sマンの反応に、より怒りを募らせた獣装石は、
口と鼻、そして爪の先から青白い糸状のものを噴出すと、
自分の体に巻きつけていった。
獣装石はみるみる内に毛糸玉のようになり、中からボコボコと不気味な音を立てた。

「これは…」

数秒の後、毛糸玉はぶくぶくと膨れ出し、
この世のものとは思えぬおぞましい姿となった。
そして一際大きく膨れた胞の内側から、何か鋭いものが飛び出すと、
それを皮切り、毛糸玉は異臭を伴うガスを噴出しながら破裂した。

「やはり怪人だったか!」

奇怪な繭から、一瞬の内に誕生した者は、
実装人でも獣装石でもなく、実装さんでもなかった。
邪悪を固めて造った人形。
獣の姿をした人型だった。

《ぶっ殺してやるデズゥゥーー!》
---


【欲望怪人・ジューソー】
(甘やかされた獣装石が邪悪な力で繭化し、孵化したもの)

《私はこの世の王者デズーー!》

孵化した獣装石、もといジューソーは3m近い怪人であった。
元々巨大だった爪と牙はさらに巨大化し、
神話の魔獣のように肥大化した筋肉からは緑色の血管が浮き出ていた。

「ぬぉ、はっ、やっ!」

右上、左上、左下…
竜巻のように吹き荒れる大爪の嵐、
丸太のように太い足が時折繰り出す強烈な蹴り、
それら全てをSマンは華麗なフットワークで避け続けた。

怒りの化身となったジューソーに戦略など無い。
ただひたすら、己の強大な力を相手に向けて放つのみ。
我武者羅に攻める大振りな技はその分大きな隙を生む。
しかし、ジューソーの桁違いのスピードはその弱点さえもカバーしていた。

それに対して、Sマンの体格はジューソーに比べてあまりにもひ弱だった。
Sマンの体は、並の人間からすれば超人的ではあるものの、
人目には一般の成人男性ほどである。
まともな肉弾戦ではSマンの勝機はまず無いと言えた。

「戦いは、己の見栄や欲望のためにするものではない。
人間としての尊厳を守るためにするものなのだ」

能力的にはSマンに勝るジューソーだが、
彼にはSマンに決定的に劣るものが一つだけあった。
それは信念である。
己を信じ、己を貫く。
その偉大なる精神力こそがSマンの力の源でもあり、
Sマンがこれまで数多くの怪人を倒すことができた理由でもあった。

実装石は己が絶対と信じて疑わないと言われている。
しかし、それは間違いだ。
実装石は自分が絶対的な存在だと思っているのではない。
自分は他人より絶対優れている、相対的な頂点にあると信じているのだ。
故に、彼らの信念は不安定なものである。
ある者は、比較相手を失う孤独に自壊し、
またある者は、妄想の世界に魂を閉じ込めた。

ジューソーも所詮は実装石。
悪魔のような肉体も、巨大過ぎる力を振るい続けることはできずに、
やがて疲れ果てる。
だが、Sマンは信念がある限り倒れない。
たとえ肉体に限界がこようとも、
彼の強大な精神パワーが彼を立たせ続けるのだ!

《デェェ… デェェ… デズァァァ!! デェェ…》
「はっ… やっ… ふっ… やっ…」
《デェェェ… な、なんて奴デズ… ムカつくデズゥ…》

猪突猛進のジューソーの戦法は、ジューソーの体力を大きく削っていった。
数分間、全身の筋肉を100%以上の出力で稼動させ続けたために、
暴力をそのまま表したような体は悲鳴を上げていた。
ジューソーの体を突き動かすのは怒りと憎しみだけ、
しかも、それは全て実装石特有の、根拠の無い歪んだ感情。
肉体が受ける苦しみを耐えうるには、決して十分なものではなかった。

《デハッ! デギュゥゥゥゥ…》

赤い獣が倒れた。
赤黒く光りながら湯気を上げるジューソーの肉体は、
人気(ひとけ)の無くなったおもちゃ売り場の中央に崩れ落ちた。

「やったか…」
「キエァアアァァァァァァ!!」
「ぬあぁぁっ!」

迂闊だった。
その時Sマンは、ジューソーが倒れたことで、集中力が僅かに途絶えてしまった。
その瞬間をを狙って、ジューソーの飼い主である老婆がうしろから、
Sマンにスタンガンを押し当てたのである。

「ぐぬぅぅぅぅあああぁぁぁ!!」

老婆の使うスタンガンはデスゥタンガンのような玩具ではない。
改造を施し、通常とは比べ物にならないほど大きな電流が流せるようにされた違法兵器、
常人なら確実に死に至らしめることのできる代物だった。
---


「「「ストレッチマーーン!」」」

違法スタンガンの前に、意識を失いかけていたSマンの脳裏に、
彼の名を呼ぶ子供達の声が聞こえた。

(みんなの声が…)

「「「ストレッチマーーン!」」」

Sマンに送られる激励の声は、彼に幻聴のように思えた。
しかし、そうではなかった。
Sマンと老婆の周りをグルグルと回る、銀色の浮遊物がそこにあった。
そして、そのスクリーンには、彼を応援する子供達と彼の友達・まいどんの姿があった。

「ストレッチマーン、応援に来たよー!」

スクリーンに映る子供達の姿がSマンの精神力を支えた。
Sマン、彼が遙々ストレッチ第七星雲から地球にやって来たのは、
ジューソーや老婆などと戦うためではない。
それは通過点に過ぎない。
Sマンの戦いの先にはいつも、戦い以上にもっと大切なものが、
子供達や大人達に伝えるべき、愛の祈りがあるのだ。

「我輩は…」

体の痺れを精神力で克服したSマンは、老婆の手からスタンガンを奪い取ると、
足を一歩後ろに引いて後ろに下がり、老婆から離れた。
そしてスタンガンを持った左腕を大きく上に伸ばし、指に力を込めた。

「負けるわけにはいかんのだ!」

伸びきった左腕は、肩の方から赤く光り、指先の方へと上がっていった。
指先から放たれる強い光は、老婆の目をくらまし、スタンガンを昇華させた。

顔を手で覆い、ジューソーの上に重なり合うように倒れ込む老婆。
その様子を確認したSマンは一度うなずくと、
スクリーンに映る子供達の方を向いた。

「さあ、今の内にみんなでストレッチだ!」
---


Sマンと子供達との距離は離れている。
親達が子供達と安全なところに避難していたからだ。
しかし、ストレッチに距離は関係ない。
Sマンはスクリーンを介して、
子供達と一緒にストレッチをしていた!

「まず、両手を体の前で組んで、手のひらを前に向けるよー。
そのまま腕を挙げてー、上へー上へと伸びていこう。
その時、かかとが浮かないように注意しようね。
しっかりと前を向いて、行くよー。
伸び〜る、伸び〜る、ストップ!
一緒に大きな声でー、数を数えてみよう」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「い〜ち!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「にぃ〜!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「さん〜!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「しぃ〜!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ごぉ〜!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 5→S 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

Sマンが子供達とストレッチを終えた時、Sマンのパワーは最大限に上がる。
ストレッチをすることによって子供達から発せられた、
生命の耀きが、希望の光が、Sマン、そして子供達の力となるのだ。

「ぬわぁーっはっはっはっは!
ストレッチパワーがー、全身に溜まってきただろうー。
さあ、みんなで怪人ジューソーに」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ストレッチパワー!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

Sマンは登場したときと同じ様に、
右手で大きくSの字を書いた。
さらに子供達もまたSマンと同じポーズをとった。
すると、子供達の手からは、僅かだが黄金色に耀く霧が発せられた。
数十人の子供達の発する淡い光は、スクリーンを通してSマンのところに行くと、
彼の手を中心に凝縮してゆき、段々と赤みを帯びていった。
そしてその光が、原始の炎の赤色になると、
凄まじい精神パワーを辺り一面に放射しながら、
より一層強いエネルギーをジューソーと老婆へと照射した。

「デ、デズォ! デギャアアアアアアアアアア!!!」

子供達とSマンの純粋なエネルギーを全身に浴びた怪人・ジューソーは、
黒い煙を立ち上げながら蒸発した。
ジューソーの悲鳴は怒りも憎しみも、悲しみさえも無い、
無意味な叫び声であった。
---


悪は去った。
実装石という欲望の固まりに宿った邪悪は、
Sマンと子供達によって滅ぼされた。
だが、これで終わりではない。
Sマンにはまだやらねばならないことがある。

「子供達の親御さんの諸君、聞いてくれ。
子供は親の背中を見て育つ。
子供は親の行いを通して社会を知る。
実装石でさもだ。
だがしかし、勘違いしないでくれ。
善悪を区別するだけの経験はまだ無い。
興味本位で行動し、親のマネをし、経験を積む。
それが子供なのだ。
親が正しき道を示してやらねば、子供は迷子になってしまう。
子供の健やかな成長を願うなら、
まずは自分自身が善と思う行動をとらねばならん。
そして、適度なストレッチもな。
ぬわは、ぬわ、ぬわーっはっはっはっは!」

Sマンの役目、
それは子供達を見守ること。
そして、親達の善なる心を呼び覚まし、
親としての自覚を促すことであった。

金と権力の渦巻く現実社会に浸かった大人の心は歪んでいる。
けれど、それは大人達が悪いわけではない。
歪んだ社会に適合するためには、歪んだ心を持つしかないからだ。
子供を養うためには社会に属さねばならない。
しかし、そのために子供の教育が疎かになっては本末転倒である。

全ての人間は等しく平等に在るべきだが、
現実はそれを許さない。
富める者はさらに富み、窮する者はさらに窮する。
金は力を呼び、力は弱者を組み伏せる。
力ある者は敵を恐れ、より金を集める。
こうして、社会の溝はどんどん深みを増していくのだ。

子供達を社会の闇から守れるのは親だけだ。
社会を知り、子供を愛する者、
彼らが盾として、
社会と子供の間に立ちはだからなければ、
子供の心は知らない間に闇に冒されてしまう。
---


「以上だ。
では、ストレッチパワーが足りなくなったら、また我輩を呼べ。
さらばだ!」 

不死鳥の焔の耀きを持つ男、Sマンは母星へと帰っていった。
彼の祈りは言葉としてはさほどの意味は持たない。
だがしかし、彼の魂とストレッチに込められた真の意味は、
その場に居合わせた者達には伝わったようだ。

親達は自分達の心根の弱さに気付いた。
老婆の財力がちらつかせる、"愛護派団体"に対する恐怖と、
老婆の財力自体に対する己の劣等感が、
自分達を逃げ腰の弱者にしていたこと。
そして、それをいいわけに子供達に"善"、
人間の尊厳の平等を教えることを放棄していたとうことを。

その後、親達は自分達の行い悔い、
政府や企業に圧力を掛ける愛護派団体への抗議活動を開始した。

愛護派団体とは、実装石を無条件に溺愛するキチガイの集まりである。
彼らの多くは、金と権力を思うがままにする、所謂勝ち組である。
愛護派というだけあって、実装石に対する愛情の深さに誇りを持っているのだが、
実際のところは、実装石の世話に掛けた金額を基準に、
自分が如何に裕福であるかを互いに張り合っているだけなのだ。

けれども、愛護派の"自分が誰よりも裕福でありたい"という願いは、
互いに競い合っているだけでは叶わない。
そのため、彼らは社会に影響を与える。
自分の力で、俗世社会の成り行きを左右する。
この唯一神的支配感こそが愛護派の求める快感である。
が、しかし、いくら富豪といっても、社会、
つまりは日本の大衆を、一人でどうこうするのは不可能に近い。

そこで現れるのが"愛護派団体"である。
彼らは同じ目的を持つ者同士で徒党を組み、
巨大な財力によって、国の命運を、
政治家やメディアを通して動かすのである。

具体的な例を挙げると、
ふたば市のSS区における実装石の異常繁殖は、
愛護派団体によって、役人や警察、さらには駆除業者までもが抑圧されたためである。
この時、"愛護派団体"の加護を受けた、SS区の小金持ちの愛護派グループは、
撒き餌や花粉の散布によって実装石を繁殖させ続けた。
そして愛護派達は、
実装石の糞害や託児、その他の実装災害に喘ぐ市民を見て優越感に浸っていた。

しかし、こうした事実は時が経つにつれて明るみとなり、
大衆の知るところとなった。
世間は彼ら愛護派を非難した。
だが、非難しただけだった。
世論の声として、愛護派への不満を漏らすものの、
多くの者は行動を起こさなかった。
"愛護派団体"を恐れたからだ。
---


時の流れは早くて遅いもの。
今までの話から、もうかれこれ15年の月日が経っていた。

怪人はあの日以来、日本各地で現れるようになった。
タコ怪人、傘怪人、野菜怪人…
中でもとりわけ数が多かったのが実装怪人である。
不気味な繭から現れる異形の怪人は、
人間を遥かに超える体力と実装石の並外れた再生力を持っていた。
怪人が現れた際には、武装した駆除部隊が殲滅に向かうものの、
一体の怪人との戦いで一つの部隊が亡くなることもあったそうだ。

だが恐れることはない。
なぜなら…

Sマンはその後も日本各地に現れたからだ。
そして、怪人を倒しながら"愛護派団体"に屈する者達に勇気を与えて回った。
Sマンに救われた人々は続々と"愛護派団体"に対する小規模な抗議団体を立ち上げた。
小さな組織は寄り合い、助け合い、より大きな組織へと発展していった。
そうした進化を続けた抗議団体の規模は、やがて"愛護派団体"を凌ぐようになった。

唯一の長所である"財力"で敗れた"愛護派団体"は自然に崩壊した。
元々が、他人を見下す感情しか共有できないキチガイの集まりだっただけに、
少し追い詰められただけで、団員は次々と逃げ出した。
愛護派達は各々が引き起こした事件の責任を全て、団体代表に押し付けると、
自分達が"愛護派団体"に所属していたということを示す証拠を消し去った。

こうして見事、"愛護派団体"の解体に成功した抗議団体も、
本来の目的を果たしたため、自然と団員の数は減っていった。
そしてSマンも現れなくなった。
---


「あの時の私は狂っていた。
実装石に無駄金を使うことが、金持ちとしてのステータスだと思っていた。
他人に対して、自分がどれだけ裕福であるかを見せ付けたくてしかたなかった。
…実装石はその願いを叶えてくれた。
社会的な屑、生きる価値、存在することさえもおこがましい、
汚らわしい肉塊に、金を貢げば貢ほど、
周りのみんなは私から離れていった。
私は特別な存在になれたと思った。
だけどそれは違った。
あの時、あのデパートのおもちゃ売り場で、
ストレッチパワーを浴びた時、私は理解した。
大切なのは他人と自分とを比較した評価じゃない。
私が自分らしく、みんながみんならしく生きていくことなんだと。
だから私はあの恐ろしい"愛護派団体"から抜けた。
そして抗議団体、現在の"愛護派を許さない会"を、
団体の代表として立ち上げた」

あの日の老婆は現在、"愛護派を許さない会"の代表として演説活動している。
"愛護派団体"が壊滅した後も、地域ぐるみで徒党を組んで悪事を働く、
小さな愛護派グループは消えなかった。
グループによっては、元"愛護派団体"団員を多数含んだ中規模のものもあった。

今でも、政治家を裏で操るような大物愛護派は数えるほどだが存在する。
しかし、状況はかつてのような悪いものではない。
大物達は愛護派の中だけでなく、
虐待派、虐殺派、観察派、他実装派と、偏ることなく存在するからだ。
もはや、以前のような愛護派による大規模な国家的コントロールは行われないだろう。
だが、大物実装嗜好者の増加は良い面ばかりではない。
逆に言えば、それだけ実装文化というものが世間に根付いてしまったことを表すからだ。

名高い御家が愛護派や虐待派と世間に知られて、
何のダメージのないような世の中は果たしてよいものなのだろうか。

何故、Sマンはやって来たのか。
それは、彼が一途に子供達の健やかな成長を願っていたからである。
彼は"愛護派団体"を滅ぼすために地球に来たのではないのだから。

Sマンが地球になかなか来なくなったことを、
"愛護派団体"がなくなったためだと思っている人間は多い。
事実、今では彼の姿はJHKの子供番組の再放送くらいでしかお目にかかれない。

いや、それでいいんです。
我々人類は我々の力で、我々の社会の歪みを正していかなければならないから。
彼が次に地球に来たときは、子供も大人も、愛護派も虐待派も、
みんなが笑顔でストレッチをできるような世界にしなければならないのである。

--- おわり ---




どうも、赤いサクブスでした。



■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため9317を入力してください
戻る