「実装姉妹の逃避行.2」 親指実装はうなされていた、怖いものが追いかけてくる、追いつかれそうになって、 何かにゆすられて起きた、起きるとママが横にいて微笑んでいた。 「怖い夢でも、見ていたデスか」 「妹が、妹達がママに食べられたレチ」 「寝ぼけるのも、いい加減にするデス」 「それはみんな夢デス、ほら妹が心配してるデス」 「レフーレフー、いつまで寝てるレフ、お姉ちゃんは、おね坊さんレフ」 自分に一番懐いていた、蛆実装が擦り寄ってくる。 「レフレフ、ママー、ママー、お腹すいたレフ、プニプニしてフー」 母実装にまとわり付く他の妹達、いつもの朝の風景だ。 チュン、チュン・・・ 朝露が草の葉っぱから下に落ちて、寝ている親指実装に当たった。 目をこすりながら、親指実装は目を覚ます。 「寒いレチ、ブルルッ」 「ママ、ママー、寒いレチ」 「抱っこしてチ」 きょろきょろと辺りを見回すが、返事は返って来なかった・・・。 葉っぱの間から、眩しい光が親指実装に、差し込んでくる。 「ママ・・・そうか・・もういないんだっけ」 親指実装は肩を落として、「レチィ・・」っとため息をついた。 「朝レチ、起きるレチ」 ゆすってみても耳元で喚いても、蛆実装は中々起きない。 朝から苛ついていた親指実装は、蛆実装のお腹を蹴り飛ばす。 ゴスゥッ!! 「ゲボッ!!」 「ケヒィ!レヒィー!!」 「レヒ!!レッレッレ!!??」 「おは、おはようレフ、お姉ちゃん、お腹が痛い・・レフ??」 「夢でも見たレチか?何も無かったレチ」 親指実装は、無表情に言った。 「レフゥ??」 「お腹すいたレチか?」 「レフレフ、すいたレフ、すいたレフ」 「これから、お姉ちゃんが言う事を聞くレチ」 「ここの茂み以外は、出てはダメレチ」 「水は朝露が草に付いてるから、今の内になめて取るレチ」 「お腹が減ったら、生えてる草を食べるレチ、蛆ちゃんは、草も食べれるレチね」 「これが一番大事レチ」 「絶対にこの板の向こうには、出てはだめレチ」 「蛆ちゃんは足が遅いから、他の実装に捕まればすぐに、食べられるテチ」 「分かったレチね」 「はいレフ、お姉ちゃん早くゴハン持ってきてフー」 「それじゃ行ってくるレチ」 後ろでは早速、蛆実装が朝露を舐めていた。 実装にとっての板、塀の隙間から、身をかがめて外に出た。 外は道路を挟んで、公園が見える。 公園にはママがいる、行けばもしかして今までの事は、夢かもしれないと思った。 「行ったら、きっと食べられちゃうテチ」 「わたちが食べられたら、蛆ちゃんが・・・」 そのまま塀伝いに身を屈めて、隠れながら進んで行った。 ------------------------------------------------------------ 夜が明けるのを待たずに、母実装は子供達を捜し始めた。 昨夜探し回っていなかった所も、何度も捜して歩いた。 「子供達は、どこに行ったデス」 「デス!もしかしたら、他の実装に捕まったんじゃ」 母実装は自分の考えに、首を振って否定する。 「あの子は賢い子デス、どこかに隠れているはずデス」 必死でゴミ箱の中や、トイレの中を探し歩いた。 すると歩いてきた親子実装の子供の方が、母実装の後姿を指差して自分の母実装に聞く。 「チププ、あいつは餌も捜さず、何してるテチ」 「デププゥ、あいつは子供を、全部食べたデス」 「お前もあいつに近づくと、食べられるデスゥ」 「チプププ、バカテチ、餌と子供の違いも分からないテチ」 噂は小さな落ち度すら見逃さない、実装社会に瞬く間に広がって行った。 「食べた子供を捜すバカが来るデス、デププププ」 「子供を食べたら、また生めばいいデス」 「仔食いが来るデス、みんなで糞を投げつけるデス」 いつしか母実装が歩くと、何処からか糞が投げつけられ、嘲笑の笑いがおきていた。 母実装はそんな事より、我が仔の事の方が心配だった。 糞まみれになりながら、ダンボールハウスに戻ってみた。 もしかして帰っているかも、期待してみるが、 我が子がいない事を確認して、ガックリとため息をついた。 「デスゥ、あの子は生きているデスか」 「何処かで私を待って、泣いているかも知れないデス」 母実装の頭の中では、蛆実装を抱えて座り込み、レチレチ泣いている姿が写った。 そう思うと母実装は休む間もなく、外に出て行った。 ---------------------------------------------------------------------- 塀伝いに進む親指実装は、塀を抜けると、商店街がある事を確認する。 そこには沢山の人間が行きかい、今まで見たことも無い、 おいしそうな食べ物が、所狭しと並べられている。 親指実装は、こんなにあるのだから、当然自分にも貰える物と思った、 そして無用心にも、何も考えず商店街に入ろうとした時。 「邪魔デス、あの食べ物は全部、私の物デス」 とつぜん野良実装が脇から親指実装を押しのけて、商店街へ走っていく、 はじき飛ばされた、親指実装は脇に転がっていった。 「レチー!!レチ!!」 頭から血が流れている。 「痛いレチ!血が出てるレチ」 そのまま、うつ伏せ状態で端っこに、うずくまっていた。 野良実装は八百屋の目を盗み、素早くキャベツを握ると、駆けていこうとする。 八百屋の親父は慣れた手つきで、腕に持っていたすりこぎ棒を、 野良実装の顔面に叩き込んだ、 「デジャアア!!」 顔面がすりこぎの形に、へこんだ。 倒れこんだ野良実装の後頭部を、さらにすりこぎ棒で滅多打ちにする 「デギャ!デジャ!デッ!デッ!デギュアーーーー」 最後の一撃を、野良実装に叩き込むと、野良実装は断末魔を上げ、 道路に緑色と赤色の染みを作った。 「まったく、これで今週何匹目だ!あーあーキャベツは、もう売り物にならんな」 道に落ちたキャベツを、店の前のダンボールに投げ入れ、チッと舌を叩いた。 「ヤスさんの所は商店街の入り口だからなー、仕方ないよ」 隣の魚屋の親父が、声をかけた。 「しょうがないじゃねー!まったく俺は虐待派でもないのに、何でこんなブツブツ」 下に目をやると、小さな親指実装がうずくまって、震えている。 実装石に怒りをもっている、親父は大きな声で。 「何だ〜このチビ!!」 瞬間、親指実装は親に叩き潰された蛆実装を思い出した。 道路には潰れている野良実装・・自分もそうなるんだ・・・ 「殺されるレチィ!」 「ママは人間が、ゴハンくれるって言ってたレチ」 ダンボールハウスで、その後に言ったママの小言を思いだした。 ママが言ってた、人間には愛護派と虐待派がいる。 「愛護派と言う人間は、優しい人間が多いデス、ゴハンもくれるデス」 「だけど虐待派と言われる人間に、近づいては絶対に駄目デス」 「虐待派は、実装石を苛めたり、酷い者になると殺してしまうデス」 あんな棒で叩かれたら、自分は一撃で潰れてしまう、もう駄目だ。 「蛆ちゃん、ごめんレチ、お姉ちゃんは帰れそうにないレチ」 頭を抱えて震える親指実装に、人間が近づいてくる。 「人間さん、ごめんなさいレチ」 「蛆ちゃんの為に、見逃して欲しいレチ」 レチレチと喚く、親指実装の首の皮を摘んで、八百屋と魚屋の親父は顔を会わせた。 『なんだか随分、小さい実装だな』 『やすさん、コイツは親指実装って言う奴だよ』 『実装に種類なんか、あんのか』 『種類って訳じゃないが、未熟児で生まれた実装の事だよ』 『ふーん、出来損ないって事か』 親指実装を見て、キレイな実装服に気が付き、魚屋が話す。 『やすさん、コイツ飼い実装なんじゃないか?服がやけに、きれいだぜ』 『うん俺もそう思ったよ、普通なら暴れて大変なんだがな』 魚屋は親指が気になるらしく、しげしげと眺めた。 『糞も漏らしていないし、やけに大人しいぜ』 『ああ子実装でも暴れて面倒だから、地面に叩きつけるんだが、コイツはじっとしているな』 大人しい実装が珍しいのか、二人はこの親指実装を、そのまま帰す事にした。 ウエットティッシュで、血を拭いて顔をキレイにしてあげると、 親指は少し安心したのか、何かテチテチと話している。 服がキレイなのは、母実装が定期的に、噴水まで洗濯にしてくれたからだ。 大人しいのは母実装が隠れて住んでいて、母と蛆以外見た事が無く、 見たことも無い人間に恐怖して、動けなくなってしまっていたからだ。 チョコンと、ダンボールの上に乗せると、八百屋が聞いた。 『オマエ、親はどーした、飼い主はいるのか』 「レチレチ、レチレチ、レチー」 『何言ってんだ、レチーじゃ分からないだろが』 魚屋が家から。実装リンガルを持ってきた。 『何でオマエが、そんなの持ってんだ』 「いや娘が実装を飼ってた事があってな、その時のもんだよ、今じゃ嫁いでいっちまった、 実装の方は随分前に死んじまったよ、けっこう賢い実装だったな」 『昔話はいいよ、でっ何て言ってるんだ』 『今聞くからさ、何々』 親指実装は、これまでの事を話し始めた、母実装に可愛がられた事や、 突然母実装が、妹達を食べてしまった事、蛆実装と一緒に逃げてきた事、 今も妹の蛆実装が隠れて、自分を待っている事。 親指実装の、話を聞いた二人は話し合った、 『コイツは間引きとか、知らないみたいだな』 『人間じゃ考えられないけど、実装じゃ普通にある事だしな』 『とりあえず説明するか?』 二人は、親指実装に間引きの事や、母実装が多分、仔を捜している事、 間引きは実装には、必ずある事を話した。 話を聞いた親指は複雑だった、間引きとはいえ母実装の手で、 妹達は意味も無く食べられたのだ。 連れて来た妹やもしかし自分も、いずれは間引きされるのではと。 そうだ、二人に聞いて見る事にしよう 「ママは帰ったら、蛆ちゃんも間引きするレチか?」 魚屋が答える。 『そりゃ間引きするだろうな、だいたい長生きな蛆実装なんて、見たことが無い』 『間引きしなくても、寿命なんて無いに等しいしな』 正直な二人は嘘もつけずに、本当の事を話した。 『あのな蛆実装は元々寿命が短いし、春から秋まで生きてきたから、 長生きしてる方だよ、ママもぎりぎりまで、間引きをしなかったんじゃないかな』 『ママの元に帰った方が、オマエの為だと思うぜ』 親指実装は二人の考えを聞いて考え込んだが、顔を上げた。 「蛆ちゃんを、ここに連れてくるレチ」 二人は実装リンガルを見て困惑する。 『はあ?連れてきて、どうする気だ』 「ママには会いたいけど・・・蛆ちゃんと一緒でなきゃだめレチ」 そー言うと親指実装は、もと来た道を戻って行った。 後姿を見ながら、ヤスは魚屋に聞いた。 「変った実装だな、蛆を妹って・・・」 「ヤスさん、あいつは特別かもな、家にいた実装も躾けた事は、 それなりにこなすけど、進んで何かが出来るほど、賢くはなかったよ」 二人はそー言うと、自分の仕事に帰って行った。
