俺が塊魂をプレイしていると、実装石が後ろから肩越しに画面を覗きにきた。 こいつはテレビが大好きで、女優の服装に嫉妬したり、亀田に激怒したりする。 ゲームにも興味があり、画面の中の美男美女や超人が意のままに動くことを面白がる。 今日は、どうやら塊を転がしてモノをくっ付けて大きくしていく王子に一言あるご様子。 「デー、あれにくっついた物は全部王子の物になるデス? あんなに物を沢山持って贅沢なやつデスウ。沢山のニンゲンと動物は奴隷にするデスウ? 王子が憎いデスウ。私には惨めな住まいしかないデス…」 「馬鹿言うんじゃない。ショップにいたまま処分されるより数段マシだろうが」 バシッ 「デスウッ!デーデスー…」 尻を雑誌ではたくと、実装石はブツブツ言いながら部屋の隅のダンボールの中に戻っていった。 この実装石は、仕事を始めてからの一人暮らしに寂しさを感じた俺が、実装ショップで購入したやつだ。 既に成体だったので格安で手に入った。身の程知らずだが、寂しさを紛らわすにはそれもいい。 まあ確かに、実装石には最低限のものしか与えてこなかった。ハウスには寝床とトイレと皿だけ。 散歩中に外で遊ぶにしても、石ころやごみを使ってだ。なにか買ってやるかな。 次の日、俺は実装ショップに足を運んだ。 あいつは塊魂に興味を示したからな。それを考えて、緑色のゴムボールを手に取った。 家に帰ると、実装石は窓際で昼寝をしていたので、俺はこっそりとハウスにボールを入れておいた。 目覚めた実装石は、ボールを見つけて飛び上がって喜んだ。 「デス!授かりものデス!これはきっと塊デスウ。 神がやっと下界で身をやつしている美しいワタシを発見したようデスウ!」 そのはしゃぐ姿を見て満足した俺は風呂に入ることにした。 体を洗い、湯船に浸かって一息ついていると… ガシャン! …ん?気のせいか?この家じゃないよな? パリン! ドタドタ… ドサッ! 気のせいじゃねええええええ! 大慌てで戻ると、部屋中に物が散乱していて、実装石がボールを投げつけて暴れていた。 「デシャア!この塊は糞デスウ!物が全然くっつかないデスウ!! ゲームの通りに小さいものからくっ付けようとしたデスウ!なのに一円玉もくっつかないデスウ!」 棚の上の貯金豚を割りやがったのか…。実装石は俺に全く気付かずに、怒りの言葉を吐く。 「アイツが風呂から出てくる前に塊を大きくしなきゃならんデスウ! 十分大きくなったらアイツをくっつけてワタシのものにするデスウ!! この家も全部ワタシのものになるデス!!糞塊とっとと働くデス!」 そういいながら実装石は壁にボールを投げつけた。それはバウンドして俺の足元に。 「…おい!」 「デシャッ!!早すぎデスウ!…デデッ、これは塊のせいなんデスウ。私は無実デス!」 「俺がせっかく買ってやった玩具でこんなことしやがって… あーあー、ジュースがこぼれちゃってるよ。全部掃除させるぞ。三日間飯抜きな。 まったくもー、しょーがねーやつだなあお前は…」 テーブルから新聞紙を手に取とって、 実装石が足を切ると危ないので、そばにある貯金豚の破片を拾おうとした。 それを腕を振り回す実装石の怒号が妨げる。 「デシャアッッ!!ご主人が買ってきたデスウ!?道理で不良品なはずデス! デー…全部お前の策略だったデスウ!!!? 私を喜ばせてからがっかりさせて、しかも掃除までさせるつもりデスウ?鬼ニンゲンデシャアッ!!」 「ちょ…」 「こんなに美しくも儚くて、か弱い私を虐めて楽しいデスウ?これで全て合点がいったデスウ…。 惨めなハウスも、味気ないフードも、玩具のない暮らしも、全部意地悪だったデス!」 実装石はパンコンまでして尚も声を上げる。 「…」 「お前が私を買いに来たとき、私は心底嬉しかったんデスウ。 私は正直言ってよくできた実装石じゃないデス…。だから、買手のないまま熟してしまったデス。 そこにお前が来てくれたデスウ。私にも、奉仕してくれる奴隷がいたんデス。 店に来たときのお前の服は、薄汚くて汗臭かったデス。家も貧乏臭かったです。 決して出来のよくない、どこにでもいる一ドレイだったデス。 でも、私はすべて胸にしまっていたデスウ」 「暮らしの全てが貧乏臭かったデスウ。でも、ショップと違ってワタシを虐める糞蟲はいなかったデス。 お前に叩かれることもあったデス。貧相な暮らしにストレスが溜まってたのだと気の毒だったデスウ。 だから、だから、ワタシは立派に我慢していたデス。 それなのにお前は…全部意地悪だったデス…僅かな満足を与えてずっと…これは虐待デスウ…」 実装石は腕を広げて胸を張り、雄たけびを上げた。 「デジャアアッ!!もう我慢ならんデシャアッ!!!!」 「こっちのセリフじゃあッッッ!!!!!!!!!!!」 …と頭の中で叫んだ後、俺は実装石に表面的なお詫びを言った。 「ごめんな実装石。そんなつもりはなかったんだよ。コンペイトウやるから、 機嫌直してくれよな。ほら」 「デハーデハー。償いにはまだまだ足りないデスウ」 実装石はコンペイトウを舐めるととりあえず落ち着いたようで、 俺はハウスにいつもより多くの新聞紙を敷き、沢山のフードを皿に盛ると、 丁重になだめすかしてハウスにお帰りいただいた。 部屋を片付ける俺を、実装石は忌々しげに眺めていたが、怒って疲れたのか、じきに眠ってしまった…。 仏の百倍おひとよしな俺も、この暴言は許すことが出来なかった。 お前を買いに行ったときの服…。それは、俺が働き始めた会社のユニフォーム。 お袋は、真面目に働き始めた俺を見て泣いて喜んでくれた。苦しい生活の中でお前を養ってきたのに。 現実と空想の区別の付かないお前には、空想を本物にしてプレゼントしてやろう。 次の日、俺は近所にあるホームセンターに向かった。 そこのペットコーナーで、実装香と実装石用の座布団を買う。千円ながら並みの実装石なら大満足の代物。 そして、DIYコーナーに行き、接着剤に、安い釘やネジを大量に買い込む。 木材コーナーに行き、無料の木屑を、これまた店員に白い目で見られるほどに布のバッグに詰め込む。 最後に、特大のダンボールを一つ買って帰宅した。 「デ!糞ドレイがさっそく反省を始めたようデスウ!」 実装石は俺の荷物を見るなり大騒ぎを始めた。そこには今まででも微かにはあった遠慮はない。 怒りと不快感だけを呼び起こす騒音。愚物。 とりあえず、買ってきた座布団をハウスに入れてやる。実装石はそれにつられてハウスに収まった。 座布団の上に寝転がる実装石に、実装香を振り掛けたタオルを掛けてやる。 「デフーン。よい心地デスウ。糞ドレイが罪をひとつ償えて良かったデスー…」 実装石はそう言って、寝息を立て始めた。タオルにしがみついて至福の表情。 これでしばらくは起きないだろう。もう二度とない安らかな眠り。精精楽しむんだな。 残りの荷物を袋から出して並べる。まずは、ダンボールだ。 これを広げて、下だけを畳む。すると、四角い子供用プールのようなエリアが出来る。 そこに、釘やネジ、木屑をまんべんなく広げる。 洗面所から水を入れたバケツを持ってきて、そのなかに接着剤を全部空けて入れて溶く。 これで準備は完了だ。 実装石を優しく抱きかかえて、エリアの中に何もない空間を作り、そこに静かに置く。 おたまで薄めた接着剤をすくって、体から顔にかける。 「デプゥン…。デスウ? デ!お前何をしたデスウ!こ、怖いデスウ!!周りがチクチクだらけデスウ! とっととオウチに返すデスウ!!」 勢いとは裏腹に体が震えているな。 「お前に本当の塊魂をさせてやろう。ただし、使うのはお前の体そのものだ。存分に塊を作ってくれたまえ」 「デシャアアッッ!!デッギャアッ!」 怒りで思わず実装石が一歩踏み出すと、その足にいくつもの木屑が突き刺さった。 「デシャッ!痛いデズー!デアアアッ!!」 刺さらなかった木屑も接着剤で足にくっつき、次の一歩で新たに突き刺さる。 もちろんその時、更に多くの木屑が突き刺さり、また足にくっつく。 「デギャアアッッ!た、助けるデスウ!!」 ジタバタしながら足をトゲだらけにしていく実装石は、ついに釘やネジが多くある場所へ。 釘は少しの力で皮膚を破ってプツンッと一気に突き刺さり、ネジは実装石の足をグリグリと広くえぐる。 「デギャアアッ!!デシャアアッッ!!許さないデスウ!!死ねデスウ!死デ!」 俺への暴言がどんどんと短くなっていく。切羽詰ってきたな。 本当の地獄はそろそろだ。 「デェェア…」 ガクガクッ 「デジャアアアッ!!」 ゴロンっ 「デッギャアアアアッッ!!」 実装石は痛みに耐え切れなくなり、ついに膝を突く。そこに容赦なく木屑や釘が突き刺さる。 思わず転がると、背中一面に無数のトゲが張り付く。ここで、実装石は誤った行動をしてしまう。 服を脱いでしまったのである。服を脱ぐことによって殆どのトゲは取れたが、完全に無防備になってしまった。 俺は脱ぎ捨てられた服をすかさずトングで摘み取る。 「デ…!デ…!」 裸になって膝を突き、痛みをこらえている実装石。目からは色の付いた涙を流して、糞を漏らしている。 俺は、頭の上、髪を狙って次々に接着剤をかけていく。実装石が痛みに耐えかねて体をゆすると、 木屑の付いた後ろ髪がびたんびたんと実装石の顔を叩く。木屑のひとつが目玉に入った。 「デ!デギャアッ!目が痛いデズウッ!!」 実装石はたまらず目を擦る。接着剤の付いた木屑は取れず、擦ることによって傷を広げる。 髪に触れた手には木屑が張り付き、それがまた目の中に入り、顔中に突き刺さる。 「デギャアアッ!見えないデスウッ!!怖いデスウッッ!!」 視界を失った恐怖と、更なる痛みに実装石は再び体を崩して釘やネジの上を転がり始める。 もう、自力で立ち上がることは出来ないだろう。真っ暗な視界の中、体のあちこちに激痛が増えていくのだ。 実装石の声は、ついに哀願の色を帯び始めた。 「デジャアア…!もう許してデスウ!デシャアアッ!! もうドレイだなんて言わないデスウ!!痛いデスウッ!!今の暮らしで我慢するから助けてくださいデスウ!」 弱弱しくなったように見えても、結局我慢の域は出ないんだなあ。 養ってやってることへの感謝の感情はこれっぽっちも見られない。 「もうお前を許すことは絶対にないよ。でも、お前の言うことは聞いてやるから、 好きなだけ喚くといいよ。お前の声を聞けるのもこれで最後なんだしな。」 「デギャアアッ!!助けてデスウウッ!!」 実装石は段々とトゲだらけになってきた。遠めに見るとまるで毛が生えているかのようだ。 どんなに悲惨な姿になっても、所詮は深さ数センチの裂傷に刺し傷だ。死ぬことは出来ない。 実装石は悲痛な声を上げ、転がり続ける。俺は、ひたすらに接着剤を掛け続ける。 「デズズゥ。デズズゥン…」 30分が過ぎた頃、実装石の動きが鈍くなってきた。 さすがに疲労も限界か。接着剤が固まってきたことも原因だろう。 俺は最後の接着剤を実装石に浴びせかけた。 「デズ…プゴープゴー!!」 その時、実装石が突然珍妙な声を上げた。 鼻からは、接着剤の作る泡が膨らんだりしぼんだりしている。 口と鼻がふさがってきたようだ。目玉にはすでにトゲがびっしりと生えた上に薄膜が張っている。 手足もところどころに木屑が固まって、バリバリになっている。 「デシャッ デシャッ プゴー プゴッ!」 「プゴー… ゴプゴプ! ゴプー プー プー… …」 バタバタバタバタ! 実装石の口と鼻は完全に固まり、隙間から漏れる音もなくなった。 苦しみに手足をばたつかせ顔にこすり付けるが、もう無駄だ。 動きは段々と鈍くなり、くぐもったパキンという音が聞こえた。絶命したか。 そこにあるのは赤緑色に染まった木が全身に鱗のように張り付き、 釘とネジのトゲがウニのごとく生える、異形の姿だった。 さしずめ地獄の実装惑星30センチメートル、と言ったところだろうか。 かすかに窺えるバリバリに固まった茶色の髪が、実装石の最後の名残だった。 俺はそれを記念に携帯で撮影して、周りのダンボールごと無理やり畳んでガムテープでぐるぐる巻きにして、 袋を三重にしていれて処分した。地区のごみの分別がそれほどきつくなかったので助かった。 ハウスを片付けて実装石の存在した残り香を完全になくしてしばらく経った。 悔しいけど、あの憎たらしい声が懐かしくなるときがあるなあ。 あんなんでも、やっぱりいい心の刺激になっていたのかもしれないな。 「ねえ、これなーに?」 一月前に、俺には新しい彼女が出来た。 俺がゲームに熱中している隙に、携帯を勝手に盗み見ていたようだ。コラ! 彼女が見せてきたのはあのウニ実装の写真。背筋が冷たくなったが、 解像度が低かったので、塊魂がバグってでてきたんだよ、とごまかした。 「じゃあまた出してみてよー!」 「もうやり方覚えてねーっつーの!」 今、後ろから覗き込んでくるのは、可愛い彼女。実装石とは比べるべくもない。 実装石。やっぱお前、いい時に処分できてよかったわ。これを頃合って言うのかもな。
