双葉県民新聞〔第二版〕(平成20年1月28日記事) 命と食の大切さを学ぶ 畑に放した実装石が害虫や雑草を食べ、ふんは肥やしになるなど無農薬で野菜を作る「実装農法」。 この体験学習を取り入れた双葉市立双葉山小学校(前山壬午校長)で、 役目を終えた実装石を子供たちが保護者や近隣の農家とさばいて食べる活動が続いている。 命と食の大切さを実感する全国でも珍しい取り組み。子供だけでなく親にも貴重な体験となり、 学校と地域をつなぐ役割も果たしている。 【井戸川三十朗】 放血に悲鳴 〈今一番実装ちゃんに言いたい言葉は「ありがとう」です。本当にありがとう〉 小学生の横で、ひもで逆さにつるされた裸の実装石が「デエーン、デエーン」と鳴く。 学校で世話をしてきた13匹と最後のお別れ。 五年生の皐月敏明君が代表で作文を読んだ。 1月25日。青空が広がった日曜の朝。 田園風景が残る双葉市北部の双葉山小学校は、今年も「実装ちゃんの命をいただく会」を開いた。 学校近くの農家の庭に約200人が集まった。 5年生3クラスの児童と保護者、実装石の解体を手伝うボランティアの農家の人だ。 並んだ実装石の首に、ボランティアたちが包丁を入れていく。赤い血がボタポタと落ちる。 「うわあー」。放血にあちこちから悲鳴があがる。 「デズゥー」。実装石が最期の声をあげる。 女子の多くは遠巻きになり、友達同士で身を寄せ合った。みんな涙で目が真っ赤だ。 息絶えた実装石は髪をむしりやすくするため、バケツの90度の熱湯に浸された。むせるようなにおいが漂う。 再びつるしてボランティアが毛をむしり始めると、男子が笑顔で寄って来た。 “禿げ裸”の実装石にバーナーを向けると、すぐに皮の焼ける香ばしいかおりが周りに広がった。 この実装石は、学校近くの10アールの畑でせっせと働いてきた。昨年5月に畑へ放した際は、生まれて間もない仔実装だった。 双葉山小では平成7年から5年生が実装農法の野菜作りを体験。現在は「総合的な学習の時間」で続ける。 この体験学習で実装石を食べようと提案したのは6年前。 当時5年生を受け持っていた蛍ヶ池光(ほたるがいけ ひかる)教諭=現・同市立双葉第二小=だった。 それ以前は実装石を農家に譲っていた。 「残虐な事件が多いのに学校で生き物を殺すなんて」「子供に与えるショックが大きすぎる」 当初、猛烈な反発が出た。PTAとの話し合いは何回にも上った。 蛍ヶ池教諭にも迷いがあったが、実装農法は無農薬野菜と実装肉を同時に得るのが利点なのに、 実装石の最後を見届けずにいた心残りが決断させた。 子供たちは今年も「命をいただく会」までに何回も話し合いを重ねた。 名前をつけて可愛がった実装石。 家畜といっても、命を奪うことに葛藤があった。 昨年12月14日。3組の31人は初めて実装石を食べるか食べないかを話し合った。 「実装ちゃんに感謝して食べたい」 「かわいそう」 「生かしたいけど自然に放すと生態系が崩れる」 「食べたい」と「食べたくない」が9人ずつ。「迷っている」が13人。 予定の3時間を超え、「食べたくない」は7人残った。 会の2日前の放課後、小屋の実装石を校庭に放した。 「グリーン!」「エメちゃーん」。 名前を呼ぶのもこれが最後。抱きあげたり追いかけっこをしたりして思いきり遊んだ。 命をいただく会には各クラス3、4人が参加しなかった。参加を強制せず、子供の意見を尊重している。 それでも作業が進むにつれ、にぎやかになった。実装石の解体になると、女子も積極的に加わった。 ボランティアが偽石を取り出すと、みんな生のまま口に運んだ。 仮死状態だった実装石がピクリと動くと「まだ死んでなかったんだあ」と納得顔だ。 お昼どきになり、炭火で焼いた実装肉のにおいが食欲をそそる 全員で手を合わせ、そばやカレーに入った肉をおいしそうにほおばった。 「娘は偏食がちだったのに、何でも残さず食べるようになった」 「嫌いだった実装肉が、逆に大好物になったみたい」 会が終わった後に開かれた父母会では、保護者からこのような話がよせられた。 今年の会を担当した蔵屋敷金之助(くらやしき きんのすけ)教諭=同市立双葉山小学校=は、 「生きてゆくということは、他の生命をいただいてゆくということ。 普段学校では教えられない大事なことを教えてゆくため、これからも会を続けてゆきたい」。 そう笑顔で語った。 ※双葉市立実装試験場では、実装農法向けに特別飼育された仔実装を提供している。 来期出荷は3月20日から開始。お問い合わせは(双葉市役所 農政課 実装係)まで。
