実装石の日常 間引き 公園は飢えていた。 連日エサをばら撒きに来た愛護派で賑わう光景はもう随分前からない。 過剰なエサで増加した野良実装たちは公園の雑草を食い、虫を食い、飢餓に苦しんでいる。 近場のゴミ捨て場はどこも修羅場だ、わずかな残飯を奪い合い、毎日死ぬものがいる。 乱闘でゴミ捨て場を荒らされた人間が実装石を追い回す。 いわゆる「飢えた公園」の典型であった。 公園の中でため息をつきながら歩く野良実装が一匹いた。 野良実装の白骨死体を跨いで、家路を急ぐ。 茂みの中にくたびれたダンボールが一つあり、そっと蓋をあける。 横倒しにされたダンボールの中には6匹もの仔実装がいて、親の姿にテチテチ弱い声で騒いだ。 「ママ、お腹減ったテチ」 「食べたいテチ……」 「お腹減ったテチ」 口々に飢えを訴える仔。 ……満腹にさせたことがあったかデス 自身も飢えた親実装は思い出そうとして、そのようなことは一度もないことだけを思い出す。 「さ、ゴハンデス」 ダンボールハウスに入って、コンビニ袋を開ける。 四分の1枚ほどの大きさしかない食パンを取り出すと、6匹は目を輝かせて群がってくる。 「ゴ、ゴハン! ゴハンン!!!」 「頂戴テチ! 頂戴テチ!!」 飢えた仔を落ち着かせるのは一苦労だ、親実装は仔を落ち着かせようと言い募る。 仔実装たちは静かになった。いや、1匹だけ、飛び跳ねたりして騒いでる。 「4女、静かにするデス。 静かにしないとゴハンにならないデス」 「テチャアアアアアアアアアアアアア!!! うるさいテチ! さっさと私にだけ寄越せテチィィィ!」 「4女ちゃん、そんなことをママに言ったら駄目テチ」 次女が言うと、4女は姉をにらみつけた。 「やかましいテチ!! 美しくて賢い私が一番食べないといけないテチ!」 「みんなお腹を空かせてしんどいテチ……。早くゴハンにしてほしいテチ、4女ちゃんが騒いでるとゴハンにならないテチ」 説得しようとした次女が4女に突き飛ばされ、床に転がる。 「テ……テェェェェェ————————ン!」 しょせん仔実装、泣き出してしまう。 「うるさいテチ! 弱い奴は死ねばいいレチ!」 言い切ると、親実装に手を差し出した。 「弱い次女の分は私が食べてやるテチ♪」 ぺチン、と4女が親実装に殴られてふらつく。 「いい加減にするデス……。次女も落ち着くデス、さっさとゴハンにするデス」 きつく言いながら親実装は困惑している。 姉妹の中でも賢いと思われた4女であったがエサ不足が始まると、いつしか乱暴な言動を始めたのだ。 ……こんなはずじゃないデス 以前親実装は仔実装たちに説明している。 いかに公園の中が飢えているのか、だから辛抱するしかない、と。 4女も最初はそれを聞いて大人しく従っていたのだ。 気を取り直し、親実装はパンを千切って仔実装に分け与える。 最後に残ったカケラを口に入れ、味わってゆっくりと咀嚼していると、仔実装の中から悲鳴が起こった。 一番小さい6女が張り倒されて、パンが奪われていた。 奪ったのは言うまでもなく4女。 戦利品をかかげて笑みを浮かべ自分の分はゆっくりと食べている。 他の姉妹は慌てて自分の分を食べ始めた。盗られないうちにと言う事だ。 「4女!」 親実装は自分の分を急いで飲み込んで、叱る。 「家族から食べ物を盗んだら駄目デス!!!」 テチテチ、と自分の分を食べ終え、奪ったパンを持って踊っている4女は聞こえないのか、無視なのか反応しない。 業を煮やした親実装、4女からパンを取り上げると、泣いている6女に与えてやった。 「さ、お前ももう泣いちゃ駄目デスー」 「テチャアアア————————————! 昨日はなんにも食べてないテチ! これくらい当然テチ!」 「食べてないのはみんな一緒デス!」 「ママが悪いテチ! ママが悪いテチ! 仔を産んだ親は仔を食べさせる義務があるテチ!」 「公園にゴハンがないからしょうがないデス!」 「やかましいテチ! ニンゲン奴隷からステーキとってこいテチ! コンペイトウをとってこいテチ! テチィィ!!!」 ************************************* ひと騒動あった食事を終えると、つかれきった親実装は横になる。 仔実装も遊ぶ気力はなく、横になる。 いつしかダンボールの蓋の隙間から夕日が差し込む。 夕日で目を覚ました親実装の腹が鳴る。 ……どうしたら良いデス、ママ 思えばこの親実装が成体になったころはまだ公園は飢えていなかった。 だから親から飢餓の際の対処方法を教えられておらず、体験もない。 親の庇護の元、不自由しない生活が懐かしく、そしてあまりに遠い。 飢えはともかく、問題児の4女は手がつけられないほどになってきた。 先ほどもあれほど仲のよかった次女にさえ歯向かう始末だ。 ただでさえ疲れ果てて帰ってもこの有様だし、姉妹へ危害を加えるもの時間の問題だろう。 間引き、の言葉が頭をよぎる。 考えてぞっとした。 飢えているとは言え、我が仔を手にかけるなど恐ろしすぎる行為だった。 暴れているのもまだどうにかなる範囲だし、なんとかなるのではないか。 親実装は結論付けると、もう一度眠った。 その姿を、後ろから、 じ っと4女が見つめていることも知らずに。 ************************************* もはや絶望的なまでにエサ不足は深刻化している。 公園の食べられる草は食べつくされ、近場のゴミ捨て場は荒された住民が番人を立てているので採集は絶望的だ。 番人の木製バットに染みこんだ赤と緑の液体と、ゴミ箱に投げ込まれた野良実装の死骸が全てを物語っている。 親実装は痛む足を引きずって当てもなく公園の中をうろついた。 特にゴミ箱は何度も何度ものぞいたが、口にできるものはガムの包み紙さえ残されてはいなかった。 テチャアアアアアアアアアアと悲鳴がこだまする。どこかで仔実装が飢えた強者にむさぼり食われているのだろう。 だがそれに反応さえせず、親実装は歩いた。 歩いた。 公園の中を歩いた。 辛抱強く歩き続けた。 中身の無いコンビニ袋をたずさえて、歩いた。 げっそりと公園で一番やせ細った体で、それでも我が仔のために歩いた。 それでも食べられるものは何一つ見当たらない。 客観的に見れば、仔が多すぎるのだ。 6匹を養うため親実装は自分のエサを削って分け与えているのだが、自分の体力が衰えエサの収集が悪くなっている。 その悪循環に気づきながら、親実装はあがいていた。あがいてきたが、一家は全滅寸前だ。 もし明日も収穫がなければ、もう自分の体は動かなくなるだろう。 ……もし仔があと1匹でも減れば、一家は助かるかも知れないデス。 そうと分かりながらも6匹を今日まで育ててきた。 諦めだけをたずさえて、親実装はダンボールの中に帰った。 仔実装の歓迎はない、彼女らももう分かり始めているのか、親が何かを持ち帰ることなど無いと。 唯一、4女が立ち上がると親実装に近づく。 「昨日もおとといも食べてないテチ、さっさと食べ物を寄越せテチ」 「……何にもなかったデス」 ふう、と4女がため息をつく。 「その前も何も食べてないテチ、私を飢え死にさせる気テチ?」 「ママもがんばってるデス、でも、もう」 「しょうがない無能で愚かな役立たずテチー。 しょうがないから、いい事を教えてやるテチ」 4女は寝そべって動かない姉妹を指差した。 「あいつら全部間引きしてしまえばいいテチ」 「……4女」 「そうすればお前が養うのは私だけテチ、ずっと簡単になるテチ。 お前も楽できるテチ。 労力が6分の1テチ」 「……4女」 「ついでにあいつらの肉を食えばいいテチ、とりあえず痩せたクズ肉で我慢してやるテチ」 「わかったデス」 吹っ切るように言う親実装。 「4女、ちょっとママと一緒に来るデス」 この言葉を待ち構えていたように、餓死寸前の4女はわめく。 「そうか、ママはどこかに食べ物を隠してたテチ!! やっと高貴で美しい私に食べさせる気になったテチ? 本来なら死罪だけど特別に許してやるテチ。 ……私は、そんなママが大好きテチィ」 「はやく、こっちに来るデス」 親実装はもう外に出て、4女を呼んでいる。 「みんなは少しだけ待ってるデス。 今から肉を持ってくるデス、少ないけど待ってるデス」 「テヒャヒャヒャヒャヒャ! お前たちにもおこぼれがあるテチ、私に感謝しろテチ!」 真っ赤な顔をして、興奮しているのか体を震わせる4女。 「……そんなママだから、私は大好きテチィ」 珍しく親を慕う言葉を口にする4女を、力なく姉妹たちは見ていた。 いや、次女だけは起き上がって親実装に近づこうとすると。 「ママ……駄目テチ」 「テヒャアア! 次女! お前は黙ってろテチ!」 4女は次女を問答無用で蹴飛ばすと、急いで外に飛び出して親のあとを追う。 か細く弱まった声で、次女は叫んだ。 「4女ちゃ————ん」 かなり以前、このダンボールで交わされた会話を次女は忘れられない。 手ぶらで親実装が帰った日の夜、次女は4女に起こされて小声で話しかけられた。 「次女姉ちゃんにだけは言っておきたいテチ、私が悪い仔になって間引きされるテチ」 「何を言ってるテチ!」 「声が大きいテチ、もうこのままじゃみんなお腹が減って死んでしまうテチ でもただ間引きするだけじゃママが辛いテチ。 だからわざと私が」 茂みに隠れて、もう親実装と4女はダンボールからは見えない。 しばらくすると声が上がった。 「テヂィィィィ!」 END

| 1 Re: Name:匿名石 2014/09/28-14:13:40 No:00001393[申告] |
| これは親の見る目が無かったって事かな? |
| 2 Re: Name:匿名石 2014/09/28-23:16:02 No:00001396[申告] |
| 4女の自己犠牲は不憫だけど
この家族は結局助からなかった予感がする |
| 3 Re: Name:匿名石 2014/09/29-00:38:22 No:00001397[申告] |
| この公園の状況だと
四女の言うとおり本当に一匹に絞り込むまで間引かないとダメだろうな |
| 4 Re: Name:匿名石 2014/09/29-02:07:48 No:00001398[申告] |
| >>過剰なエサで増加した野良実装たちは公園の雑草を食い、虫を食い、飢餓に苦しんでいる。
やっぱり同属食いが一番や |
| 5 Re: Name:匿名石 2014/09/29-23:56:13 No:00001402[申告] |
| 一応「実装石の日常 渡りⅡ」で、どんな結末を迎えたかわかる |
| 6 Re: Name:匿名石 2014/09/30-21:44:58 No:00001404[申告] |
| この話普通に面白いから結構印象に残る |
| 7 Re: Name:匿名石 2016/11/17-02:27:48 No:00002826[申告] |
| ※1
実装の知能と環境でそれを見抜くのは厳しい 明かした次女以外にはバレなかった?4女の演技力を誉めるべき でも、※5なんだよな… |
| 8 Re: Name:匿名石 2016/11/19-02:18:08 No:00002887[申告] |
| 渡りⅡの公園は妙なやつが多いな
どいつも死ぬと思うと寂しい |