タイトル:【愛】 サンタの忘れ物
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2293 レス数:0
初投稿日時:2009/01/02-03:58:35修正日時:2009/01/02-03:58:35
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※実装は死にません、代わりにとしあきが…いや、なんでもない。



サンタの忘れ物


「うー、今年もクリスマスは中止か…」

部屋の中で独りごちる男。

不景気の煽りを受けて、早々に職場は休みになった。
2週間という長期連休だが、日割りで給料が削られるので暇は有っても金が無い。

冷えてきたのでストーブでもつけよう。
高沸した石油製品の値が下がったのが、数少ない今年の嬉しいニュースだ。
そう思い、立ち上がったときだった。

 ドン!ドン!

こんな夜中に誰だろう?
ノックと言うには激し過ぎる音に、男は立ち上がる。

 ドン!ドン!『デス!デス!』

餓えと寒さに震えた野良実装石でも来ているのだろうか?
男は机の引き出しから実装リンガルを取り出し、玄関へ向う。

これを使うのも久しぶりだが、電池はまだ生きてるようだ。

 ドン!ドン!ドン!ドン!

「止めろ!夜中に何の用だ?」

『…あいかわらず冷たいやつデス、せっかく帰って来たというのにデスゥ』

「は? 帰って来た?? お、おまえ、まさか…」

『そうデス、オマエに捨てられたミドリデス』

捨てたんじゃない、ちょうど1年前、ミドリは行方不明になった。


「話は後だ、取り合えず中へ入れ。外は寒いだろ?」

ミドリを招き入れようと鍵を外し、ドアを開けようとする…が、開かない。
何かを挟み込んでいるのか、びくともしない。

『このままで話をさせろデス。
オマエを見たら、ワタシはワタシを押さえ切れないデス』

「いや、しかし…」

『ナゼ捨てたデス!!』

「違う!あの日、俺達は買い物に出かけたよな?
そこからお前はいなくなったんだ」

『知らない場所に放り出して逃げてしまう…
捨てるときに使うよくある手口と聞いたデス。
卑怯なやり方デス、エメラルドが教えてくれたデスゥ』

「違う!お前は勝手にいなくなっ… エメラルド? 誰?」

『公園の友達デス』

「公園にいたのか!? あそこは何度も何度も探したんだぜ!?」

『ブランコで遊んだ公園とは違うデス。もっと遠いところにある公園デス』

『あの日、オマエを探して、歩いて歩いて歩き疲れたデス。
そのとき四角い大きな車が待ってるのを見つけたデス。
ちょうど後ろが開いてて登れる足場もあったデス。
これでやっとお家に帰れる、そう思ったデス。でも違ったデス』

「おいおい、それはバスじゃないだろ」

『ドアが開いたのは次の日だったデス。
知らないニンゲンがワタシを見つけて、大声で怒鳴ったデス。
何度も叩かれたデス、蹴られたデス。
あんよがポキンしたデス。
水がゴウゴウと流れてる川に投げ込まれたデス。
おくちから水がガブガブ入ってきたデス。
おててでおくちを必死に押さえたデス。
ワタシはどこまでも流されていったデス』

「よく助かったな…」

『ハゲさんのおかげデス』

「ハゲさん?ああ、禿裸か?」

『ハゲさんは川岸に独りで住んでたデス。
流れてくるワタシを見付けて、木の棒で助けてくれたデス。
ハゲさんはとっても親切だったデスゥ。
怪我が治るまで、食べ物を分けてくれたデス。
ワタシが元気になったら、ここで暮らせと公園のそばまで案内してくれたデス。

エメラルドとはその公園で知り合ったデス。
口が悪くて嫌なヤツだったけど、いろんなことを教えてくれたデス。
食べ物の貰い方や取り方もお家の作り方も、全部エメラルドに習ったデス。

エメラルドの主人は、公園にエメラルドを置き去りにしたんだそうデス。
オマエと同じ卑怯者デス!』

「…だから、違うって」

『言い訳は聞きたくないデス、トシコが聞いたらがっかりするデス』

「今度は誰だ?」

『ワタシの娘デス』

「お前、仔を産んだのか!?」

『望んだ妊娠ではなかったデス。
暑い暑い日が終ったころ、公園の乱暴者にイタイイタイされたデス。
沢山産まれたけど、ちゃんと育ったのはあの仔だけだったデス。

とっても優しい仔だったデスゥ、ワタシもあの仔を愛したデス。
オマエの名前を半分もらって、トシコと名付けたデス』

「苦労したんだな… その仔はそこにいるのか?もういいから中に入れ」

『トシコは死んだデス』

「!……」

『あの仔を連れて食べ物を取りに行った帰りだったデス。
公園に白い服を着たニンゲンが沢山いるのが見えたデス。
仲間が増え過ぎると白いニンゲンが殺しにやってくる… 噂は本当だったデス。

ワタシは娘を連れて逃げたデス。
坂道に木がいっぱい生えてる所に迷い込んだデス。
水は所々にあったけど、食べる物がなくなったデス。

おいしそうな実がなってる木をやっと見つけたデス。
でも、棒も石も、赤い実にはとどかなかったデス。

あの仔はそこで死んだデス。
食べる物は目の前にいっぱいあったのに…

全部オマエのせいだ!ワタシを捨てたオマエが悪い!』

ギギギ… 軋みながら開くドア。


身を屈め、窮屈そうに入ってきたソレ。

天井にまで届く巨躯。

殺気に満ち満ちた、その目、その表情、修羅の目だ。

振り上げた丸太のような腕、盛り上がる鋼の筋肉。

嗚呼、この姿には見覚えがある。
どこぞの寺で見た、仁王像そのものじゃないか。

風を切って振り下ろされる、鬼神の腕。

 バキャッ!!

全身を貫く衝撃、男の意識はそこで途絶えた。



ドアを閉める
邪魔をされたくないから
鍵をかける方法は知っている
この臆病な卑怯者が毎晩やるのを見てたから

歯応えがない
手加減したつもりなのに
泣いて詫びる姿を見たかった
私を捨てたことを裏切ったことを

山で殺した毛だらけのブーブーやノソノソはもっと楽しめた
だらしの無いやつだ、ニンゲンのくせに

もの足りない
手足を引き千切ってやる
首を引っこ抜いて八つ裂きにしてやる

ここは狭い
奥に広い場所があるから、そこでやろう
私は知っている
ここに住んでたんだから

動かなくなったコイツをぶら下げて中の部屋に入る



オマルに跨って得意満面の仔実装… これは私だ

そうだ、この写真はここに貼ってあった

部屋の隅にはタオルを敷いたダンボール箱…

暖かい私の寝床…

お気に入りだったオモチャも… 全部ここにある…


ゆらりと視界が歪む。

ここは… あの日のままだ
今日だけ食べるおいしいものを買いにいくと、コイツと出かけたあの日のまま…


あの日、あの場所、沢山のニンゲン、町並みの木々が光り輝いていた

キラキラと輝く光の洪水に心を奪われた
まるで夜空の星がそこまで降りてきたようだった

主人のことを忘れた
私は独りで光の中に駆け出したんだった


涙が溢れる
止まらない

悪いのは私だ

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい


カクカクと揺れる男の鼻から耳から血が流れ落ちる。


私は捨てられたんじゃない

(あなたは迷子になったのだと思うデス。
 御主人様もミドリさんのことを探していると思うデス)

どうして忘れてたんだろう
ハゲさんのいったとおりだった
私は自分で迷子になったんだ


(デププ、オマエはまだ前のドレイのことが忘れないのデス?
 どうせ新しい仔に仕えているに決まっているデス、すっぱり諦めるデスゥ♪)

違う違う
待っていてくれたんだ
私の場所をそのままにして、ずっと、ずーと…


(ワタチは… もう… バイバイテチ…
 ママといっしょに… ご主人さまに合いたかったテチ…)

冷たくなったおまえを抱きしめて、私は世界の全てを呪ったです
なぜこの仔は死なねばならなかったのか
どうして私はこんな悲しい目にあうのだと

そのときポトリと赤い実が落ちたです
甘かった、おいしかった

ママは知っているのですよ
あれは、おまえが落としてくれたのでしょう?
 
あの仔の声が聞こえた気がした
死んじゃダメ、生きてご主人さまに合いに行くんだ…と
私も願った、生きたい、生きのびて御主人様に合いたいと


そうして、気が付いたときには、この力を授かっていた

どんなに走っても疲れない強い足、強い腕、強い強い力

この力は猛々しすぎる
心もギスギスする

大好きな御主人様を傷つけてしまった

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

せっかく合えたのに…
願いが叶ったのに…

こんなのはいやだ

『御主人様!目を開けてデス!返事をしてデス!』


力なんていらない

私は弱い実装石でいい

強くて優しい御主人様に守ってもらわなければ、何も出来ない弱い弱い実装石でいい


ミドリは男を抱きよせて泣いた。

死んだ我が仔を抱き、天を怨んだあの日のように。

『オ〜…〜ン、、オオ〜…〜ン…』


低く押し殺した嗚咽がミドリの口から漏れる。

悲しい涙が後から後から溢れ出る、止まらない。

『オ〜……〜ン、 オ〜〜…ロ…ロ…ン……』


夜の冷気が、男とミドリを包んでいった。


















そして、再び奇跡は起きる。





「ん?んん?よく寝たー、今何時?」

『デス!?デスデスゥ♪』

横にちょこんと座っていたらしきミドリが俺に飛びついてくる。

「おーミドリ!よく帰ってきてくれたなぁ、合いたかったぞ!」

『デスゥ♪ デ!デガッ!デガッー!!』

「ごめんごめん強く抱き締めすぎたな、加減したつもりだったのだが…』

『デ、デスデスゥ♪』

大丈夫のジェスチャーだ。
大まかなことはこれで判るし、以前の俺達はそれで通してきた。

まぁ、リンガルがあったほうが便利なのはたしかだが。

リンガル、どこへやったんだ… って、何これ?


部屋の中央には、巨大な白い物体、布団?繭?袋?
大きく裂けて中身はからっぽだが、俺はそれに両足つっこんで寝てたようだ。

あのデカブツが持ちこんだのか?

あれが噂に聞く実装さんだったのだろうか。
張り手を一発もらったようだったが、あれは俺に対する罰だったのだろう。
飼い主としての義務を怠り、ミドリを辛い目に合わせてしまった、俺への罰。

実装さんか… 本当に居たんだな。
遠く離れた所から、俺の元へミドリを届けてくれた実装石の守護神。
噂で聞いていたのとはだいぶ違う印象だ。


リンガルは廊下に落ちてた。
正確には、ひしゃげて床にめり込んでいるのだが。

しょうがないので携帯のリンガル機能を使うか。
一々、メニューから呼び出すのが面倒なのだが。

充電器に刺さったままの携帯に手を伸ばす。

あれ?メール来てら。
携帯を開いて愕然とする。

1月1日!?
おいおい、年が明けてるじゃねーか!
メールは知り合いからの年賀メールだし…
いったい何日寝てたんだ、この馬鹿野郎様は…

体調は凄くいい、パワーがみなぎる感じだ。
実装さんが闘魂ビンタで、気合を注入してくれたのだろうか?
1・2・3・ダー!! なんちて。

コロリン… 口の中で何かが落ちる違和感。
もごもごと出してみると、悪い予感が的中していた。
奥歯の金属が外れてしまったよ、とほほ。
正月からやってる歯医者はないだろうなぁ。


洗面所で大口開けて確かめてみる。
不思議だ…奥歯はちゃんとある。
それに、何本かあったはずの虫歯が… 全部治ってる!?

鏡の中の俺、見飽きたはずの自分の顔だが… こいつ誰だ?
自分の顔なんて、しげしげと眺めることはあんまりないのだが…
どこがどうとはっきり言えないが、微妙にかっこよくなってね?

それにこの腕、胸、腹。
飲まず食わずで寝てたので、体脂肪が減ったのか?
ちょっと筋肉質… むしろマッチョ?

一番不思議なのは、眼鏡してないのにこうしてはっきりと物が見えることなんだが。


「なぁ、ミドリ」

『デスゥ?』

「俺、昔とどこか変わってないか?」

『御主人様は変わってないデス。
強くて、優しくて、素敵な素敵な、ミドリの御主人様デスゥ♪』

お前がそう言うのなら、そうなのだろう。全部気のせいだな。


さて、いきなり正月になってしまった。
買い出しには俺だけで行くかな、またミドリが迷子になったら困る。

出かける前に、ちょっと部屋の中をかたづけなきゃなぁ。

部屋に鎮座してる、タコ糸みたいな太い繊維で出来た不思議な袋。

床にくっついてしまってるのをベリベリと剥がす。

それは、空になったプレゼントの袋をサンタが忘れていったように見えた。





お・わ・り

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