タイトル:【観?虐】 ニセモノの詩・ホンモノの唄 9
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初投稿日時:2008/12/23-13:12:09修正日時:2008/12/23-13:12:09
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ニセモノの詩(うた)、ホンモノの唄(うた)

第九幕 〜ニセモノの詩〜 糞蟲交響曲(シンフォニー)

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「カミサマァァァァァァァァァァ」


サザエは絶叫し、全てが真っ白になった。

目の前が真っ白に染まっていき、全ての音が閉ざされ、意識が遠のいていく感じがした。


 これは…


サザエは、慌てて飛びかけた意識を踏ん張らせると、
サァー… っと霧が晴れるように目の前の白い光が後ろに拡散して去っていく。

気がついたときには、見た事もない景色が見え、サザエはデスクーターのブレーキを掛ける。


ブォォォォォォォ!!


そのサザエの目の前を巨大な物体が通り過ぎていく。

サザエは、それによって自分がニンゲンの道路、それも車という物が走っている道路に来ている事を知った。


見た事もない… そう思ったが、辺りを見回すと、微かに見覚えのある景色だと理解できた。

サザエは、自力での移動範囲の限界点に来ていると知った。


昼間、公園が飼い実装に占有された野良達は、公園外周のゴミ集積所までが活動範囲となってしまっていたが、
その前には、この大通りまで来て食べ物屋の出すゴミを漁っていた事を思い出した。

実装石の足の遅さだと、とても時間のかかる距離なので、公園が平穏である時ですら、
この通りに来るのにどれだけの時間が掛かって、その分、危険を背にしていたことだろうか…。

それが今、ほんの一瞬でたどり着けたように感じたのだから、見た事もないと感じても仕方の無いことである。


後ろを見れば、3つの蛆クーターがレレレレレ… と音を立てフラフラとコッチに向かってきていて、
その後ろには、さらに遠くに公園の入り口が、確かに街灯に照らされ浮かんでいた。


彼女には、ほんの一瞬… 実際には2、3分ほど意識が飛んでいる間に、
デスクーターの全力で、公園から数十メートル離れた大通りまで走っていたのだ。

あと少し意識が戻るのが遅ければ、そのまま車道にまで飛び出しているところだ。


「テ… テチッ… ママ…」
「テェェェェェェン テェェェェェェン 怖かったテチィ 痛かったテチ」
「テー… ウンチまみれテチ…」

3匹の仔は、無事… とは、とても呼べない姿ながら生きていた。

全身が糞の雨を浴び、
イクラは、せっかく奪い取った飼い実装の服が破り取られ、袈裟を纏った様な姿となっていた。
タラコも、顔面が晴れ上がり、噛んで抵抗したときにか、歯が数本折れていた。

2匹の蛆クーターは、ハンドルも曲がり、ハンドルについていたライトや前籠がなくなっていたり、
あってもひしゃげて、中に入れていた蛆実装は面影のない肉になっていた。

無事なのは、間に挟まれたタイコとその籠の中の蛆実装ぐらいである。


サザエ自身も、同様に服は破れ、露出しているところは腫れや痣に染まっていた。

デスクーターは成体実装を撥ね、強引に轢いた為にメチャクチャな姿となり、
意識が飛んで運転したのに、公園から真っ直ぐ来れたのが不思議なほどだ。

か弱く、テスッ…テススッテスッデッデッテスッ… っとエンジン音が咳き込んで限界を知らせていた。


だが、しかし、サザエは3匹の仔を眺め、目線を遠く公園の入り口に向けるとニマリと口の端を歪めた。

「やったデスゥ!! ザマァミルデス!! 抜け出せたデスゥ!! ワタシは選ばれたデス!
 これでワタシは飼い実装様になったのデスゥ〜〜〜〜〜〜〜〜 デピャピャピャピャ」

今や、何が元で成り代わりを目指したのか、何故仔の数にこだわる必要があったのか等は、
まったくサザエの頭からは消えうせていた。

それどころか、成り代わったのだという事すら頭から消えうせている。

まさに、実装石は生きてさえ居れば、それを大勝利と喜べるシアワセな存在なのだ。

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「おかしいデス… こ、こんなハズではないデス…」

サザエはそう呟き、ボロボロのデスクーターを止めると、思わずへたり込んだ。


サザエ達は…
公園を抜け出た喜びを感じてから、はや3日という時間が過ぎていた。


サザエ達はひたすら街中を彷徨っていた。


サザエは、公園を抜け出る事は考えていたが、飼い主の家に戻る事は考えて居なかった。

正しくは、戻る術を考えて居なかった。


元々、偶然、覗いた景色に居たコロ一家の姿に、嫉妬と我慢が限界を超え衝動に突き動かされただけ。

コロ一家の事を深く… どころか、初めて顔を合わせたに等しいのだ。
コロ達の持ち物を奪い、公園を出て… そこから先の事、コロの家や飼い主の顔など知りはしない。


サザエ達… いや、サザエが飼い実装として帰るべき”楽園”は、
あくまでサザエの飼い主と、その家しか頭の中に入っていない。

だが、覚えていると思った家への道は無い。

遠いのではなく、”無い”なのだ。


野良に落ちて1年近く…。
その間に、サザエ自身、生きるために公園を何度か場所替えしており、
そもそも、長い野良生活で、飼い実装の時に通いなれていた公園の場所自体がわからなくなって居る上に、
あの公園近辺の地形に慣れ、その場所替えをした事実すら記憶に曖昧なのである。

サザエは、必死に違う公園から、おぼろげな記憶だけ組み立てて家に帰ろうとしたのだ。

しかも実装石の視点や感覚から見て、あまりにも大きい人間の町並みは何処も似たような構造に見えてしまう。


油の違いも判らないのに、とにかく肉屋の前で、
「この匂いは間違い無いデス! ここのコロッケという食べ物を買って貰っていたデスゥ♪
 ここのコロッケという食べ物は、他のお店のコロッケとは一味も二味も格が違うデス!
 匂いの格ががゼンゼン違うのが、このワタシには判るんデスゥー♪」と講釈をたれ。

チェーン店のコンビニ前で、
「この色と印は間違い無いデスゥ! ここを曲がればワタシのお家はもうすぐデッスゥ〜♪
 そう言えば、確かにこの景色には見覚えがあるんデス…この白い塀はしっかり覚えているデス。
 このお店も確かに何一つ変わって居ないんデスゥ〜♪」と喜び。

期待に胸を膨らませ、物を食べる間も寝る間も惜しんで走り続けた1日目が過ぎ、
疲労と空腹に、ゴミをあさってでも、まだ気持ちが途切れる事無く走り続ける2日目が過ぎ、
一向にたどり着けない焦りと不安に混乱し、寒さとひもじさに苦しむ3日目が過ぎていた。


焦り、「自分は飼い実装だ助けろデス!」等と、町行く人間や飼い実装達に頼んでみても、
全身に乾いた糞が残りボロボロの風体では、助けの手を差し伸べるものなど居ない。

野良と間違われて襲われなかっただけ、まだ運が味方をしていると言える程だ。


サザエは、それでも、飼い主の家にたどり着くのだと、デスクーターを押して4日目を迎えていたが、
初めて日が出ている時間、無防備な道端で、足を止めて尻を地面に付けたのだ。

3匹の仔達も、一向にたどり着かない楽園に苛立ちを通り越してサザエと同じく憔悴しきっていた。


サザエは、今日、何度呟いたか判らない言葉を再び呟いた。

「おかしいデス… 何故デスゥ?」

自分は何も間違えては居ない… 何故、飼い主の家… あの楽園に帰ることが出来ないのか?


サザエは塀に背中を預けて考えた。


何の為にあの公園から抜け出したのか… 
アレだけの苦労と努力を重ね、飼い実装の自分を取り戻したというのに、何が間違っているのか?  と。

そして、すっかり堕落した思考は、瞬時に答えを導いた。

”このワタシを探しに来ない飼い主が悪いのだ”  と。

何故に今更に、ゴミを漁り、寒さに身を震わせて野ざらしで外敵に怯え眠る必要があるのか? と。


それが言葉として出る。

「なんというマヌケデス! クソゴシュジン様がデスゥ!  このワタシが疲れたデスゥ!
 このワタシが食い物探ししてるデスゥ! 寝るのに毛布もタオルもないんデスゥ!
 このワタシの窮状に、一体ドコを探してほっつき歩いているんデスゥ!!」

ガシャン!

サザエはデスクーターを蹴りつけて倒し、なおもブンブンと足をバタつかせる。

その物音に、一瞬、通行人たちが足を止めるが、すぐに何事もなかったように通り過ぎる。

薄汚く、突然、何事かを激しく喚く実装石の態度に、棄てられた飼い実装の末期を感じて、
下手に係わり合いにならないよう距離をとって足早に通り過ぎるようになる。


そこには、救い難い物を見る哀れみの目線も、汚物を見る憎しみの目線もない…
まるで道端の石…いや、物体があるという認識すらされて居ない目が通り過ぎていく。


サザエは、ストレスが溜まると、ポケットに入っていた香水を取り出しては鼻っ面で噴いて臭いをかいだ。
最初は、ただの臭い臭いとしか感じられなかったが、強烈に鼻から脳に突き上げる刺激が、
ストレスで重い気分を、より強い刺激で忘れさせてくれるため、鼻に噴いてはトリップすることにしていた。

コロから奪い取って、残っている飼い実装の持ち物など、服とデスクーターと香水瓶ぐらいしかない。

しかし、その頼みのコロの香水も、スカスカと霧が飛び出さなくなっていた。

香水瓶も投げ捨て、「デスァ!! デギャァァァ!!」と一層激しく喚くサザエは、
まさに玩具屋の前で欲しいものが買ってもらえない駄々っ子その物である。


そして、その駄々っ子ぶりにキレたのは、人間ではなく、サザエの仔達である。


タイコが、足を投げ出すサザエに冷ややかな視線を送って呟く。

「何がゴシュジンさまテチュ…。 ドコをほっつき歩いているも何も、そんなもの端っから居なかったテチ…」

すぐに、サザエの表情が固まり、グググッとゆっくりタイコの方に向く。

「今、何と言ったデス…  どの口が、そんな言葉を吐いたデス!!」

だが… タイコ… いや、サザエの3匹の仔は、動じるどころか冷ややかに、
蛆クーターに足を乗せ直立で、座るサザエを見据えている。

タイコが恐れではなく余裕の態度で蛆クーターを降りて、ずいっと前に出る。

「オマエの言う事は嘘ばっかりテチ! 何一つ役に立たないテチィ! ゴシュジンサマを飼っていたなんて大嘘テチィ!
 最初っからキタナイ野良のオマエにご主人様なんか居なかったテチィ!
 その腐った耳に聞こえなかったみたいだから、もう一度、クワシく、大声で言ってやったテチュ!」

イクラも蛆クーターを置いて、眉を歪めて続く。

「オマエの言う事を聞いた結果がコレテチュ! あんなにイタイ、怖い目に遭わされ、キズキズテチュ!
 せっかくのワタシのキレイなお洋服がボロボロでウンコテチッ!
 ワタシのレフレフちゃん(蛆クーター)もボロボロになったテチー」

タラコも同様に続く。

「偉そうにふんぞり返っても飼い実装になんかゼンゼンなれてないテチィ!
 ただ歩くだけで、お家も無い所で寝るのが飼い実装テチィ? ゴミを漁るのが飼い実装テチィ?
 お笑いテチ… 前の方が数段マシテチ」


3匹の言葉を聞く内に、サザエの疲れ切った顔色は、コロコロと変化した。
肌色が薄くなった疲れを示す顔色から、一瞬青くなり、次の瞬間には全体が紅潮し額に太い管が浮かび上がる。
野良実装は表情の変化が決まっていて少ない分、顔色が本当によく変化して感情を表に出す。

「オマエ達はそれでもワタシの仔デスゥ!? この飼い実装たるワタシの仔デスゥ!?
 ワタシの仔がワタシのご主人様を疑うデスゥ!  知らないなんて言うデス!?」

両者、疲労と焦りで、もはや感情が動き出したら留まるところを知らない。
相手の都合はお構いナシで自分の理論を通しだす。

しかも、お互いがお互い、余計な詮索や駆け引きをしない言葉の殴り合いだけに性質が悪い。


仔達は元から野良として… 野良の環境で産まれ、野良として生き残る術を学んできた。
サザエの言う事は、何も無い時には夢物語として、成功している時は手放しで信用され、
計算違いが露呈すれば、仔達にはただの嘘でしかない。

「飼い実装、飼い実装、口を開けば飼い実装テチ! もう下らない妄言はアキアキテッチュ!!」
「ノジュクして、物を貰うんじゃなく拾って食べて、口で飼い実装なら誰でも言えるテチィー!」
「オマエの所為で、お家で平和に暮らしていた生活がムチャクチャテッチィ!
 ワタシ達は、アソコで産まれたテチュ! このレフレフちゃんに乗って楽しい毎日だったテチー」

同時に、仔達は比較して前の環境が良かったと思うと、良かったほうを徹底的に美化して考えている。
その上で、あの公園でサザエの調子に乗った尊大な態度で生じた親子関係の溝が、
今は埋めがたいまで広がってしまった。

もう、言葉はお互いが一方通行だ。

ゴゴゴゴゴ… そうJoJo風の効果音が背中に浮かぶかのように、ゆっくり、ゆらりと立ち上がるサザエ。
顔は真っ赤で額の隅に浮かんだ血管は、既に倍の太さとなりビキビキと脈打っている。

飼い実装の誇りは飼い主… 飼い主を馬鹿にされるという事は、飼われている自身を否定されるのと同意義。
いや、実装石から見れば、飼ってやっいる・飼わせてやっているという事象を否定された事になる。

「このワタシが産んでやって生きていられる身分でエライ態度デスゥ… オシオキが必要デス…」

「な・何がオシオキテチィ! オマエみたいなクソ親に産み落とされてコッチが迷惑テチュー!!」
「そもそも、オマエみたいなヤツが親で、このワタシが産まれるはずがないテチィ!! それもお得意のウソテッチュ」
「テプププ…  コイツは自分の立場も判らないバカクズテチ♪ ワタシ達がオシオキしてハゲドレイにするテチュ」

仔達は強気に答える。

タラコとイクラがボロボロのポーチからバンバンを取り出す。

これが、これだけが3匹が強気でいられる支えである。

「「テププププ… 醜くのたうち回るテチュ〜♪       テッ!?」」

しかし、そのバンバンには、もうガスすら入っていない事は頭に入っていなかった。

引き金を何度も引いては顔が青くなり、やがて1歩、2歩と足が後退をはじめる。

流石に、今の地に足をつけて相手を仕留めるまで行かないといけない状況で、
バンバンを鈍器に使っても、やっとリーチが親と互角に成る程度では、
とてもではないが、殴り合いなど出来ようはずもない事ぐらいは、この3匹でも理解が出来た。

調子に乗ったツケを払わされる現実に気が付いた仔達は、カクカクと動きが固まりつつも後退する。

一旦強気に出た以上、今更、よい子顔をしてすり寄っても、とても許される状況ではない事も理解できている。
自分達自身で親を切り捨てようとしたのだ。

タラコは、この3匹の中では姉なのだという自負と優位を確立する為に吼える。

「こ・この位でカンベンしてやるテチ… 哀れ過ぎてホンキを出すにも値しないテチ」

すると、一番この中では容姿がまともに保たれているタイコが続く。

「ワタシ達は、お家のお家(家のある公園)に戻るテチ。
 オマエ見たいなノラブタなんか居なくても、ワタシのこのカワイイ服があれば、
 あのお家のお家で待ってれば、ニンゲンが飼ってくれと言ってくれるテチ!!」

イクラは完全に状況に飲み込まれて徐々に言葉すら強気を保てなくなっていく。

「そ・そ・そ・そうテチ… ワタシ達はお家のお家にだ、ダ、黙って帰ってやるテチ。
 オオ、オマ… オマ…ェ… ママは好きにゴシュジンサマ探すテ、す…探してもイイでございますテチ」


サザエは全身から煙が吹き出さんばかりの怒りで一歩を踏み出す。
ただの1歩も、体格が倍違うサザエの1歩により、
仔達は迫る恐怖の対象が、ズンと一気に膨れあがったように感じられる。

あの混乱の状況、流された勢いで、乗り物の速度を借りて通り過ぎ様に、
がむしゃらに寄ってくる者達に手を出した時とは違う。

あの時は、同じ成体相手とはいえ、とにかく振り切る為に一瞬でも怯ませさえすれば済んだのだ。

今は完全なる体格の違いを見せつけられるうえ、後ろに逃げ道が用意されていれば、
実装石の習性から戦う意欲など湧くはずもない。


カタリ…    カシャ…

イクラの震える手から、あまりの恐怖と重圧に、思わずバンバンが滑り落ちると、
タラコが、一瞬、そのイクラを見て驚きに目を剥いた。
”自分だけイイ仔ぶる気か!”と浅ましい解釈で、慌ててタラコも無抵抗の証にとバンバンを前に投げ捨てる。

使わない為にあまり柔軟ではない表情の野良実装である3匹の顔は、
今は、慣れているハズの作り笑いすらピクピクと頬が痙攣している。

おのおの、震えながら後退りし、手探りで蛆クーターを掴み、震える足を乗せる。

ガタン   ガシャン…

身体が震える余り、タラコもイクラも蛆クーターの曲がったハンドルを握れずに手で押すように倒してしまう。

「もう… 必要ないデス… オマエ達も… ニセモノの記憶デス… だからたどり着けなかったんデスゥ」

サザエの目が狂気を取り戻す。

タラコは慌てて蛆クーターを引き起こそうとするが、その目を見て動きが止まり、モリモリモリとパンコンし、
足下にパンツから押し出された軟便が垂れ落ちると共に、その糞の上に腰を抜かす。

イクラも「テェッ」と言葉を詰まらせて、引き起こし掛けた蛆クーターを手放し、
サザエから全力で逃げようとするが、袈裟懸けの服の一部がハンドルに引っ掛かり、
逃げる勢いでビリビリ裂けると共に、イクラを引っ張り転ばせてしまう。

腰蓑一丁の姿になったイクラは、それでも、緊張で強張った筋肉を懸命に動かしてハイハイを続ける…
蛆クーターという重りを曳いて動けないまま、怖さで後ろを振り返れずに…。

タラコに至っては、蛆クーターの前籠に蛆実装を乗せようとしていた姿勢のまま、
その蛆をサザエの方に掲げ直して、引きつった笑顔を全開にして小首を傾げる。

「ワ・ワタ〜チはお姉ちゃんにダマされただけテチ♪  ワタ〜チ、いつでもママの味方テチュン♪
 この飼い実装のお洋服はお姉ちゃん達と違うテチュン♪ レフレフちゃんも新品テチュー…   テ… テェ…テテテッ
 怒りっぽいのはお腹がすいたからテチッ♪  とりあえず、このまるまる蛆ちゃん食べて機嫌を直すテチュ〜♪」

「レフー レフゥー♪」


だが、サザエがそんな事で止まるはずもない。

「だからたどり着けなかったんデス… ニセモノなオマエ達がワザと邪魔したからデスゥー!!」

タラコは、糞の座布団の上で口を半開きのまま頭をイヤイヤと小刻みに左右に振り、
イクラは、ビクッと両手を屈し、尻を上げた姿勢でパンコンして止まり、
タイコは、血涙を流しながら混乱して、掲げた蛆を引き戻し、その尻尾を囓って現実逃避をする。

「レッ、レ、レッレレレレレー」


サザエはグイッと腕を振り上げる。
その単純な構造の掌が、クニっと丸まって拳を握った事を示していた。


十分な溜めを作り、今まさに振り下ろそうとした時…。


『あっ!あれですか!? ええ!コロ、コロが居ました! 確かにコロのスクーターです』

真後ろにニンゲンの声が響く。


サザエは、その中のコロという単語に反応して、まさに振り下ろそうとした拳を止めた。
そして、くるりと顔を横に回してそちらを見る。

『確かに反応はしてます…。 先生にお借りした探知機は… ええ、酷い姿です。
 でも、コロが見つかりました…ええ、判っています驚きません… 今、そちらに連れて行きます』

ニンゲンが片手に妙な機械、片手に携帯電話という姿で真っ直ぐに自分達を目指して歩み寄ってくる。
そして、デスゥクーターに、サザエにとその妙な機械を向けている。


その間も、サザエは、なぜ”コロ”とニンゲンの言った言葉に反応したのだろうかと頭をフルに回転させ、
拳を振り上げた姿勢で居る自分は、これからどう取り繕えば良いだろうかと考える事になった。


そして、次の瞬間、挙げた手を一気に振り下ろした。
拳を握っていた掌を開いて…。


直下のタイコを振り下ろした手で、ギュッと抱き締める。

殴り潰されると感じてタイコは泡を吹いて失神するが、サザエは構わずに抱きしめてそのニンゲンの方に向く。


「ゴシュジンサマァァァァァァァ!」


それは、サザエにとっては、理解できる僅かなキーワードから導き出した大きな賭けであった。


そのニンゲンは、サザエの前に来て屈むと、さらに片手の機械を近づける。
その時には、サザエは勝利を確信していた。

「ゴシュジンサマァー、怖かったデスゥ〜、苦しかったデスゥ〜、ひもじかったデスゥ〜」


ニンゲンは… 目の回りに水が付いていた。
サザエは、元飼い実装の経験から知っていた。

それは”ナミダ”と言って、自分達と同じく哀しい時、嬉しい時、怒った時…
自分達のパンコンと同じく感情の表れなのだと。

そして、コロと言っていた。


これは、あのコロのご主人様なのだと確信したのだ。


そして、繋がった… 自分達はそのコロ一家に成り代わっていたのだと。

あとは流石の知能低い実装石でも単純な逆計算。
襲われた哀れな飼い実装を演じれば、それで全てが完了する。

今度こそ、確かに飼い実装に戻れるのだ…。  その為のこの数だったのだ。


今度は飼い実装サザエに戻る事など頭の隅にも掛からなくなっていた。


『可哀想に…こんな姿になって… 今、病院の先生に診て貰いますからね』

女性は、ポンポンとサザエの頭に2度、優しく手を置いて、スリスリと撫でる。

サザエは、後ろの残り2匹を見て、ニマリと醜悪な笑顔となる。

”どうだ、ワタシの言った事は本当だろう?” そう目が物語る。


ソレを見た2匹は、現金にも素早く態度を変えて、
「「テチュ〜 テチュ〜ン」」と女性の元に駆け寄って、「「テチュン♪」」と媚びをする。

サザエ一家は… ついに”楽園”まで辿り着いてしまったのだ。

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眼鏡を掛けた白衣の青年が、レントゲンの写真と書類を交互に見ながら話す。

『傷の方は実装石ですので処置さえすれば問題はありません。
 ただ、説明したとおり、チコちゃんの折れた歯は本来再生しない部位で時間も経ってますので、
 治るかどうかの保証は出来ません。 一応、カルシュウムの多い流動食を3日分出しておきます。
 不衛生な野良の手や糞から傷口に破傷風菌などの病原菌が入っていないかを、
 検査も兼ねて血液検査はいたしますが、結果は時間が掛かります。
 それから… こんな目に遭った上に、飢えから拾い食いをしてしまったので、
 多少の性格変動や悪夢にうなされる等があるかも知れません。 酷い様ならすぐに診せに来て下さい』

お湯で洗われて垢を落とされ、慣れない為に湯当たりしている裸のサザエを膝に抱えた女性が、
済まなそうに青年に頭を下げる。

『はい、すいません先生… 首輪の事も良く知らない為に、こんなに長い時間、この仔達に怖い目を…』

『まぁ、コロちゃんは運が良かったですよ。 野良に襲われれば普通はその場で命を奪われます。
 もし命が助かっても、4日も町中を彷徨っては生きてはいけません。
 この発信器と受信機では、それだけパニックで遠くに行ってしまっていては発見も困難ですし。
 まるで野良実装の様に逞しい精神力です…』

「デッ!」

眼鏡の奥の目が、サザエを射竦めたように感じて、心地よい感じに緩んだサザエを一瞬緊張させる。

『おっと、失言でした…
 でも、事情があって随伴の散歩が出来ないのは仕方がないとしても、護身具は気休めでしか有りません。
 だからこそ、こうした決められた登録発信器が有る事や使い方を学ぶのは大切な事なのです。
 出力が弱いので位置探知は確かにあいまいで難しいですが、
 何かあった場合に、接触点からの体温、脈拍、発汗の異常変動を知る目安にはなるのですから…。
 出来れば体内埋め込み型のマイクロカプセルをお勧めしていますが、
 義務ではありませんし、高いとみなさん倦厭されますが、大切なペットのためを考えますと…』

コロの首輪には、ペット実装としての登録の際の義務として、小型の発信器が付いており、
その発信器には、先のように体調の変動が異常になると信号を発信して、
ペットに何か有った時に警報を受信機に表示する事も出来る。

ただし、登録のオマケ的に渡されるようになった保健所首輪だが、
受信機の無料配布は保健所の予算では賄えないので任意の個人購入となる。

無論、その使い方はおろか、受信機がある事、渡される首輪に発信器が付いている事すら知らない飼い主が多い。
また、発信器自体小型で高額に出来ない為に、電波が弱く、故障も多いので当てにされていない側面もあった。


『はい、考えてみます… それでは、ご迷惑をおかけいたしました』

『あっ、確かに首輪で表示されたのはコロちゃん達の登録コードなんですね?
 それは一応、こちらでも調べましたので間違いないと思いますが、
 置いてきたデスクーターや蛆クーターの車両登録も全台、間違いなかったんですね?』

『は・はい… 何か?』

『いえ、何でもありません… 
 壊れているとは言え、デスクータは放置すると罰金ですから早めに回収して処分されると良いですよ』

青年の一言の後、女性に抱えられたサザエは診療室の外に出た。


すぐにサザエは「デェー」とため息をつく。

飼い実装になり、手厚い保護を実感したサザエだったが、あの目に射竦められたと一瞬感じた時から、
あの青年だけは、何故か落ち着かない、髪の毛の地肌がザワザワする感じがしていた。


だが、それも終わった…。

病室を出て、看護婦から飼い主が受け取った移動ケージには、
やはり小綺麗になった3匹の仔がカリカリと気持ちよさそうな歯軋りをして寝ていた。


今は恥ずかしいハダカにされてしまったが、ニンゲンにこれだけの扱いをされたのだ。
家に戻れば、きっと服も食べ物も、想像を絶する物が手に入るに違いない。

サザエは、仔達を満足そうに眺めてから、素っ裸という恥ずかしさも吹き飛び、
足取りも軽く、飼い主の女性の足に甘え、膝に抱えて貰った。

いくら思い入れがあるペットとは言え、只でさえ外観的個体差の少ない実装石は、
人間から見ればさらに特徴が存在しない。  一旦、こんな事があると見分ける事など不可能に近い。


サザエは、既に自らが野良実装の生活に浸りきり、
描いている夢の生活が、野良実装の描く夢物語の世界の方でしかないとは思っていない。


ただ、ただ、自分は元飼い実装なのだから自分のする事は間違っては居ないと…。


ニセモノは激しく命を燃やして書き綴る、儚い夢の詩(うた)を、
その夢の全てがすぐに唄として、ホンモノの唄として、高らかに唄える様になるのだと信じて。


糞蟲交響曲は、今まさに、大音響で奏でられはじめた。

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次回、終章

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