タイトル:【観?虐】 ニセモノの詩・ホンモノの唄 8
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初投稿日時:2008/12/23-13:10:10修正日時:2008/12/23-13:10:10
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ニセモノの詩(うた)、ホンモノの唄(うた)

第八幕 〜ホンモノの唄〜 夢見月夜の小夜曲(セレナード)

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「カミサマァァァァァァァァァァ」


阿鼻歓喜の怒声が遠くで鳴り響く中、芝生の上でゆっくりと身体を起こしたコロは、
その叫び声だけが他の声より近くで、鮮明に耳に入った気がした。

コロは生気のない目で呟いた。

「カミサマに祈りたいのはワタシの方デス…」

立ち上がった自らの身体を見れば、何も身につけていない地肌。
それも、毎日欠かさず風呂に入り、常に香水を浴び、過保護で汚れを知らない肌だったのが、
見る影もなく泥と糞にまみれ、青や紫の痣や腫れが一面に浮かんでいる。

不思議とそれほどボロボロになって居ながら痛みを感じていない。
まるで、この肉体の傷が… いや、起こった事全てが他人事の様にも思える。


コロの側には、ゼンマイが切れたように横たわる仔実装が3匹。

死んではいない。

だが、コロには、どうでも良い事であった。

これは… これでは死んでいるのも同じ事なのだ。

そう諦めたように胡坐をかいた姿勢のまま辺りを見回す。


飼われる為に… それだけの為に、生まれた時から我慢をする事を叩き込まれてきた生き方をした。
ニンゲンから見てどうあれ、彼女は、彼女の理解力と生態の範疇においては、偽りなくそんな生き方だった。


それが、全て無駄になったのだ。


苦労したシャコウジレイ語… ウンコの我慢… 自分達の空間の掃除… 
こんな理不尽な世界で、我慢をする為の我慢を繰り返すニンゲンの決めたルールが何の役に立つというのか?

こんな所で、何をどうすれば生きて行けるというのか?
そもそも、こんな場所に生きる事に何の意味があるのか?

そう思えば頭が白く飛んでしまうのは仕方のない事だ。


コロ達を囲んで笑いものにしていた野良実装達は、芝生に野グソ跡を残してすっかり居なくなっていた。

聞こえてくる喧騒から、そんなに遠くないところにまだ大勢の野良達が居るのだろう。


そう考えたところで、コロは「デベッ…デベベ…」と不器用に笑って見せた。


何を気にする必要があるのだろうか? と思うと腹の底から可笑しさがこみ上げてきた。

自分は何を怯えているのか? 何を慌てているのか? と。


今の自分が、さらに生きる為になどと考え反応する事自体が、とんでもなく可笑しくてたまらなかった。

痛くはないのだから”オワリ”を見る事は怖くもない。
怖いのは、その”オワリ”に先がある事だ。
もう、何もワタシには無いのだから、そんなオワリの先はイラナイ。


見上げれば月1つ…。


せめても、何故に自分はここに居る事になったのかを懸命に思い返そうとした。

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『今日は中秋の名月なのよ』

「チュウショウノゼンメツデスゥ?」

『コロちゃんにはまだ、難しい意味の言葉の音は理解できないのね?
 お空の満月が一番美しく見えるのを楽しむ日よ』

「テチー、テチー、チジョウニゲンメツはオイチーテチュ」
「テチュ〜♪ シャチョウガメンセツを食べる日テチー♪」
「テチテチ、これがチョウチョウガゼンメツなら毎日祝うテチ♪」

「デスゥー! それはオツキミダンゴと言うデス、チンショウデゲンメツではナイデッスゥ。
 それにご主人様のお許し無く食べるなんて何事デッスゥー!」

『まぁまぁ、この仔達は、まだ3日目なんだから仕方が無いわ…』

「テッチー…ゴメンナサイテッ(ゴクン)…ンーーーー! ンーーーーー!」
「デ!? チコちゃん! どうしたデスゥ!!」

『あらあら、慌てて喉に詰まらせたのね(ポンポン)』

「テェェェッ… チ、チ、チ、ちぬかと思ったテチュー…」
「「テチャチャ チコお姉ちゃん欲張ったからテチュー。 テチャチャ」」

「心配させるなデスゥ… もう一度、ご主人様にお礼とゴメンナサイをするデス」

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月を見上げていると、いつしか、そんな仔達が出来て間もない時の出来事が思い出されていた。


自然と涙が溢れていた。


失って… それこそが自分達が自分自身に誇りたい物だったのだと。

飼われていることの証とだけ思っていた飼い主の存在が… 自分の全てだったのだと…

そう、自分が自分に誇れるものも… 何一つ無くなった。


涙が溢れる感覚が分かると、ふと全身に痛みが走りだした。

ジクジクと身体を拡がる痛み、ズキンと頭のてっぺんに響く痛みが交互に襲う。
サザエに、ベスにめった打ちにされた身体の傷が感覚として戻ってきた。

むしろ、何故に、今までこの痛みを感じなかったのだろうか不思議にすら思えた。


ドクンドクンと身体を巡る体液の流れが敏感に感じられる。
この痛みと言うものは何なんだと…。

ドクンドクン、リズムを保っているが、肌の感覚としては血が流れる圧力が普段より高く感じられる。
この怯えと言う物は何なのだと…。


カラダが生きようとしている。


ひょっとして”死ぬ”とは自分が考えているよりも… シアワセを失うよりも…
こうして生きる事を諦めた今よりも、もっと恐ろしいものなのではないかと。

だから、こんなに痛いのだと。
でなければ、この期に及んで何故にこんなに痛いのか…。

もしかして死ぬ瞬間とは、この痛みよりももっと酷い事になるのではないか?

だから、今、自分は痛がって怯えているのだと。



コロは、気が付いたら服に… 野良の汚れと臭いが染み付いた服の袖に手を通していた。


立ち上がると、せわしく首を振って辺りを窺う。

野良達の群れは少し距離がある。 

逃げられる… 姿を隠すに相応しい場所はないか?
その場所に、まだ誰かが隠れているのではないか?

そして、そうやって何度か植え込みを選定していると、
その1つの植え込みに、それなりに目に付かないように隠れるようにダンボールの箱が見えた。


コロは、それが野良達が”家”と呼ぶ物であることは、散歩に来てよく知っている。


コロは、静かに眠るベスを抱くと駆け出した。

その家に辿りついたコロは、その中の腐臭に気圧されながらも、
素早く中にベスを置き、再び芝生に戻ってはリンを、チコを順に家に運び入れる。


コロは生き残るために考えた。

生きるためには家が無くてはならない。

植え込みに隠れるぐらいでは駄目なのだ。
当然、公園から出るには、この仔達を抱えては動けないに等しいので、とにかく姿を隠せる家がいる。

たとえ、それが野良の家でも…。

コレは… こんな物でも、相手から殺してでも奪い取らなければならない代物なのだと本能が教えた。


死なない為には、一切の甘えは許されないと頭で理解して中に篭もっては見るが、
その室内の異臭は服に染み付いた臭いよりもさらに酷い。

「デオップ…」と嘔吐感がこみ上げるのを留める事が出来ない。

腐った食べ物と、辺りを散歩する蝿の蛆と、飛び回る蝿。
意識が無い程の眠りに落ちているベスでさえ、ピクピクと無意識に痙攣するほどの臭いだ。


それでも、コロはここに居る事を選んだ。


野良達は、こんな環境”ですら”生きているのだ。
それは、それほどに”死”と言うものが何物にも増して恐ろしい、苦痛なものである証なのだと。

この仔達のような事になってすら、まだ生きているのだ。
もはや、生きている事が不思議な程に物理的に壊されてすら、まだ生きようと足掻いているのだ。


そう考えると先程にも増して恐ろしい… 自分の選択は正しかったのだ… 本当に死ぬ事は恐ろしい。

生きる事に意味は無かったのだ… ただ、ただ、死にたくないから生きるのだ。


そんなコロに、せめてもの幸いだったのが、ここが主を失ったサザエの家であったと言う事ぐらいであろうか。

この家に隠れれば、コロ自身、この世界に身体の方が慣れるだけの時間的余裕も与えてくれる。

もっとも、本日は主を失った家が数多く生まれたので、コロには分の良い賭ではあった。

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あれから、コロは、何日、何十日もゴミ溜めの家で生きてきた。

最初、コロが外に出る事は、普通の野良より更に困難と危険に満ちていた。


サザエ達の一家がどうなったのかは誰も知らない。

あの夜に、起きた混乱は混乱を呼び、その犠牲者の中にサザエ達が居たのかも知れないが、
コロには、その混乱の詳細を知る由も無ければ、知った所で「ざまぁみろ」等と笑う余裕は無い。

ここに住むコロは、野良にも飼いにも”クソダンゴなドレイちゃん”という蔑称だけは広く定着し、
暇さえあれば誰かが近寄っては、家に向かって侮蔑の言葉を叫んだり、糞を投げつけたりされているからだ。


この公園の名所の1つと化しており、その糞臭さのために飼い実装も近寄らない一角となっていた。

お陰で、この箱を出ない限りは飼い実装からどうこうされる危機だけは無い。


しかし、そんなコロが外に出て野良達に”クソダンゴ”と知られようものなら、
その野良服どころか命すら奪われるリンチに遭う危険はあるのだ。

いつ、何処から、誰が暴挙に出るのか怯え、警戒し、侮辱に耐え、
そんな危険が少なくなる夜中の短い時間に食べられそうな物を探しに出る寝る間もない生活。

それでは大抵は既に漁られロクな食べ物が手に入らない。


それでも、コロはここの野良ですら手を付けないものでも食べて生きていた。

それこそビニール袋すら食べた。 中身が入っているならまだしも、残り汁ぐらいしか付いてない物をだ。

消化して栄養には出来ないし、排泄も大変になるが、取り敢えず胃に溜まって長時間空腹だけは紛れるからだ。


そこまでしてコロは生き続けた。


厳しい冬が過ぎ、その冬眠期間のお陰でコロは生き残る時間的余裕を得て、
自然とクソダンゴの称号を覚えている者達も少なくなっていき、元飼いである事も忘れ去られ、
今は元気で丈夫な3匹の仔実装が大きく成りだして、増える餌の消費量ぐらいしか悩みが無くなっていた。


コロは、サザエと同じく諦めが出来たのだ。

ただ、今日を生きる為に…。

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では、そこに至るまでの出来事を振り返ろう…。


あれからのコロは食べ物に慣れる苦労と共に、ベスに暴力を受け続ける日々が続いた。


とにかく、ベスの向かう場のない怒りは、その容姿である限りは解消されること無く、全てコロに向けられ、
コロは自分が致命傷を負わないと判っている間はそれを受け入れるしかない。

「こんな臭い、汚い場所で寝られるものかテチィ!  高貴なワタシの住む場所も用意できないクソテチュ!」
ガスッ!ゲシッ!

「こんな物が食い物などと信じられないテチィ!! コンペイトウ! ホットケーキ!
 すぐに台所に行ってゴシュジンサマから貰ってくるテチィ!!」
ボコ!ボコボコボコ!!

ベスは、その我が儘がこの小さな箱の世界でだけ、コロに対してだけ通用する事だけは理解していた。

そこまで憎むコロ元から離れなかったのがその証だ。

昔のままと何も変わらない… 甘えと暴力が入れ替わっただけの飼い実装ベス。


一方、チコは寝る事も無く、見えない存在に罵られる事に怯えるように丸まって震え続けた。

チコの損傷は時間さえ掛ければ治らない物ではない。

だが、その肉体を動かす心…。 飼い実装としてしか生きられない心は、
あのサザエが言ったとおり再起不能にされていた。


臭い、物音に敏感に反応し、殆どは頭を抱えてうずくまっており、
音と共に、その反対方向へとズルズルその姿勢のまま、壊れた足を掻いて逃げ回ろうとする。

自らの糞に何度も転ばされた… ウンコマンと連呼され嘲られた… あの時から時間が止まったままなのだ。


コロは、そんなチコに餌を食べさせる為に、それを抱いて仰向けにさせて正座した膝に頭を寝かせ、
必死に丸まろうとする手を拡げさせ、手が塞がるので自分が噛み砕いた物を口から垂らして飲ませる。

臭いや音には敏感だが、それ以外は壊れているので、開いた口の中に物が落ちれば喉を通す。

非常に手間の掛かる行為だ。


逆に、非常にコロに負担の掛からないのがリンである。

バンバンで撃たれて心を折られ、幼児退行し、両目を失ったリンは、
もはや、究極のマゾヒストにしてドレイの鏡とも言える域に到達していた。

腹が空くと勝手に手探りで歩き回り、部屋に溜まっている糞を… 糞だけを執拗に探しては食す。

「ヘホァー… ワターチ、チコさまの最低な醜いウンコ喰いドレイレチュ〜。
 チコサマ、チコサマ、今日もチコサマおウンコ頂きますレチュ〜〜〜」

リンは、特に出したての糞を求め、その尻を舐める事を食事の喜びとしている。

少しでも排泄の音や臭いがすると、目が見えない為にすっかり慣れたハイハイで駆け寄り、
チコがコロに抱えられて食事をする時は、特にチャンスとばかりにチコの排泄口に顔を埋めて糞を啜る。

「ジュルルルル… ウンコうまいレチュ♪ チコさまのユルユルおウンコ美味いレチ〜」


ベスの排便にも近寄っては、同様に食べようとしてベスの怒りを買って殴られる。

「チコさま〜 この腐ったおウンコドレイにお恵み下さいレチュ〜♪」

「デチャァァァァ!! 汚い野良クズがワタシに近寄るなテチ!!(ガシッ! ゲシッゲシッ!)」

「レッフゥゥゥゥゥン♪ モットレチ! モット痛くレチィィィィ!! チコサマァァァ チコサマァァァ! イクイクイッチャウレピィィィィィ!!」

その殴られるのもリンには快感であり、もっと怒りを買おうとしがみついてまで尻を舐めようとする程だ。

ベスが糞を進んで喰う為に、現状、最悪を極める環境を更に悪化させる糞が室内には無い。
コロが室内から、その糞を捨てる為に外に姿をさらす危険を少なくしてくれた。


確かに手間は掛からないが、その姿は、今のコロから見てすら気分の良い物ではなかった。


コロがしゃがんで排便に入ろうとすると、不意にケツを掴まれ、レロレロと舌が這った時には、
ベス同様に感情のままに殴りつけそうになる。


そんな状態で何日かが過ぎていく内に、コロの肉体は野良の生活に慣れはじめていく。

しかし、仔達がそれに慣れる事はない。

特にプライドだけは異常に高い末娘のベスは、一番活発に活動するのに食事は取らない。


何も食べない飲まないで衰弱したベスに、コロは食べ物を与えようとする。

「ベスちゃん… 食べるデス。 さすがにコレを食べないともう死んでしまうデス」

ベスは栄養不足で痩せ衰え、肉体に過ぎたる暴行の繰り返しで逆に自らの肉体を痛めつけ、
手足はすっかり変形し、歯が飢えでかなり抜け落ちていた。

骨と皮で、腹だけが膨らむ、まさに地獄絵図に描かれる餓鬼の姿そのままになり、
それでも、どこにそんな力があるのかコロの食べ物を差し出す手を叩き払う。

「ヘフォ… ホマヘノ フサッタ ヘカラ ハメラレルカテチ…(お前の腐った手から食べられるかテチ…)
 ワタヒハ エラハレラ ハイリッソウハマテチ… オメンキョヒャンテチ…(ワタシは選ばれた飼い実装様テチ… お免許ちゃんテチ…)」

しかし、もはや我慢の限界に達しているのか、叩き落とした物を恨めしそうに眺めている。
それは、ソレを食べ物と認識している証でもある。


コロが残酷なのは、ベスを自分には出来なかった、
酷い目に遭ってもそれを受け入れない飼い実装の矜持を持つ仔としてのみ存在を認めた事だ。

そして、無意識の内に、信仰に等しい”幻想”を押しつけた。

生きている限り、保っている飼い実装の矜持を崩させてはならないと…。
ワタシはそれほどの気高き者の親でいられると。

それは、コロの甘えだ。

自身が飼い実装に戻れないとは流石にコロは理解している。

理解していると同時に、確率が0パーセントではないのだという願望があるのだ…。
飼い実装として生まれたコロの心の支えは、ここまできても、哀れにもソレなのだ…。

コロより酷い有様でも、仔なら助けてもらえるかもしれない…
それが夢だとしても、ならばこそ、その夢を見られる間、寄りかかる。
自力で無理だと感じれば、さっさと他人に頼るのが実装石だ。

故にコロは、甘んじて暴力を受け、暴力を受けるのを知りつつ世話する振りを続けた。

コロの手から渡される施しをベスが受けないのを理解していても自らが世話を続けた。

親らしい事をしているという姿に酔い、自分が悪いのではないと逃れる為の…。


野良に堕ちた夜… 自分一人なら誤魔化し誤魔化し公園を逃げられたのに、
この仔達を助ける事に何の意味も無いのに助けたのも同じ思考だった。


だが、そんな物が長く続くはずもない。
コロの歪んだ幻想は、それからすぐに終演が訪れた。


その夜も、月が見えていた。


バシャッ、バシャッ…。

家が隠れている植え込みに向かって、糞が投げつけられている。

コロは慣れたのか、反対側の箱の取っ手だった穴から月を見上げていた。


ベスが突然、元気に甘い声を上げると、餓鬼の姿のままフラフラと歩き出した。

「テチュ〜〜〜♪ ゴシュジンさまテチュ♪ ワタシを呼んでくれているテチュン♪  ベス様が今行ってやるテッチー」

完全に… 飢えによる物かストレスに耐えられないのか… 幻覚と幻聴に囚われていた。

「テテー♪ テッテー♪ こっちテチュー 呼んでるテチィ〜 ワタシのお免許待ってるテチュン♪」


「ベスちゃん!!」

「五月蠅いクソババア! 糞臭い野良にワタシの高貴なナマエを気安く呼ばれたくはないテチィィィィィィ!!!
 チャチュウノモゲチが呼んでるテチ〜♪ あんなところに浮いてるテチュ〜♪ アレは美味いテチュ。
 ゴシュジンサマが飾ってくれたテチュン♪ テ、テ、テ、届かないテチ… 待ってテチ、今行くから待ってテチィ…」

ベスは、フラフラと糞投げが続く方の出入り口から出ると空を見上げ、
雲のない寒空に天高く輝く月を見つけて、
それを掴もうと左右の手を交互に宙に舞わせて歩き出した。

まるで阿波踊りだ。

「テッチュ…テッチュ… テペペ… もうちょっとテチ。 テッチュ… チンチンノモーゲチ〜 オイシイの待ってテチ〜」


突然出てきた幽鬼のような仔実装に一瞬怯んだ野良達だったが、その姿に腹を抱えて笑い出す。


ベスは構わず「ゴシュジンサマ〜。 今行くテッチュ〜ン♪」とフラフラ、月のよく見える方に歩き続けた。

その姿があまりにもおかしく、あまりにも哀れで、野良ですら手出しをしようという気にさせなかった。


コロは、その姿を家の奥から無言で見守るしかなかった。
それどころか涙も流さず、慌てて開いている家の戸を閉めると、
再び、取っ手穴から、届かない月に手を伸ばし小さくなっていく我が仔を見送った。

すっかり小さく、月の逆光で影のように見える我が仔は、その月に手を伸ばし背伸びをし…。
次の瞬間には、より大きな影が、その小さな影を覆い尽くすように踊った。

ベスの一部だったものが、コロの視界で月に向かって舞い上がった。
小さな手だけが、月を掴もうとするように宙を舞ったのだ。


その次の日にはチコが限界を迎えた。


コロがいつもの通り膝に抱えて食べ物を喉に通していると、チコは食べ物を飲み込みながらも喉を掻く。

「ウンコ、ウンコ コレモ ウンコ ウンコマンテチ… ウンコマンイヤァァァァァァァァァァ!! クチカラモ ウンコマン ウンコ、ウンコォォォォォォ」

今までは、そうして与えている限りは取り敢えず喉を通っていた。

だが、傷が癒える程にチコはより壊れていった。
自らが、食べさせられている物が野良の食べ物である事をだんだんと理解出来るようになり… 

結局は、それに耐えられなかった。

一際大きい絶叫が響く。
「ワタシ、ウンコマンンンンンンンン!!」

そう叫んだ瞬間に、白く濁った両目のガラス玉がポン!っと飛び出した。

ケボッと口から、飲んだはずの腐汁のゲロが溢れ、抱えるコロの手の中で首がカクンと折れた。


偽石が壊れた事で、チコは内部から破裂した。


ベスが飼い実装としてのコロの姿だったなら、
チコは、あの服や装飾品を差し出し野良に堕ちる事を選択した時の葛藤を表している。

どちらも、コロ自身が諦めてしまった飼い実装の幻想をコロに見せる存在だった。


コロは動かなくなったチコを部屋の隅の腐ったゴミ溜め… 食料の山に移動させた。

そこには感傷も何も無い…。
とりあえず、自分はやるべき事はやったのだという、ある種の満足感が淡々とした動作に現れていた。


その時からだろうか、コロの顔は飼い実装の頃の変化に溢れた表情筋が働かなくなった為か、
歪な媚びの笑顔、嘘のある泣き顔を得意とするが、
それ以外に変化する機会が少ない野良独特の無機質さを持ち始めた。

野良実装は感情と肉体が直結しているために、血の流れの変動…顔色が豊富で良く変化するが、
飼い実装は逆に、そういう直情を殺し感情で脈を乱さない様に仕込まれる。
その分、飼い主を和ませる目的の笑顔を仕込まれる事で野良とは比較にならない表情を得る。

コロは、その飼いの表情を失い、野良の顔色も出来ないままだ。
それこそが、無機質と呼ぶに値する実装石らしい実装石のマヌケ顔になったのだ。


そして、最後に残った仔リンは、まさに、その飼いとしてのプライドを失っても死ねなかった、
半端で哀れな野良実装、クソダンゴコロを醜く写す鏡となっていた。


そのリンも、ベスとチコが居なくなった後はコロの与える物を拒んだ。

壊れたリンには、糞以外の食べ物はどんな食い物も高級品だからだ。
クソドレイとして、チコと思い込んだ者のケツを綺麗にする事だけが存在意義となっていたからだ。

少し前まで居た、舐めるべきケツとしてのチコの存在を探した。
舐めやすいホンモノのチコがある事に慣れ切っていた。

「チコサマァ… ワタシのチコサマはドコレッチュ? こんな高級な物は食べられないレチ…
 ワタシはチコ様のウンコドレイレッチュ〜♪ ウンコでるお尻、ウンコ…チコサマのおウンコ食べさせてレチィ♪」


コロは、それを捕まえ口に無理矢理、食べられる物を押し込む。

「リン! コレデス。 コレが食べ物なのデスゥ!」

「ムゲムゲ… こんな高級な物はちっちゃいチコ様に怒られるレチュ! チコ様、ワタシを責めてレチュ〜〜〜♪
 ハヤク、ハヤクレフゥ! 激しく責めてレチ、イタクイタクするレフゥー♪ もっと無理矢理レフ〜。
 レピピピ… これは新しいプレイレチュン♪ ペッペッ! チコ様の食べ物を粗末にするレチ♪
 おっきいチコ様はワタシを虐めてくれないからダイキライレチュ! このブタ!クソ!ヤクタタズ! 
 レレ〜♪ 言ってやったレフゥ、怒ったレフ? おっきいチコ様もワタシをシツケるレチィ!!
 こんなシツケの出来ていないウンコドレイを、ハヤク、チコ様のパンチとウンコで無茶苦茶にするレフゥゥゥゥゥ♪」

「デデッ、吐くなデス… どうして食べてくれないデッス…」

ただ生きる為にクソダンゴの称号をも受け入れられるようになり、外に出る機会の増えたコロは、
なんとか、このリンに糞食いは止めさせようと考え、危険を冒してでも糞を離れた外でするようになった。

まともではないが、少なくとも野良としては最低限の食生活が出来るように食べ物を与えようとした。


リンがコロに残った最後の仔だからではない。
リンがコロに残った、最後の飼い実装の頃の仔だから…。

そして、そうした心遣いはリンの為ではない。

糞食いドレイに目覚めたリンの行動に、コロが見るに耐えられないから止めさせようとした。


それも、自分の現状を滑稽に、無様に表す鏡を見せられる事にコロが耐えられないからだ。


だが、心が破壊されきったリンは、確かに生き足掻くコロを馬鹿にするように、
コロと同じように死ねないまま醜態をさらしていた。

むしろ、そんな無様な野良としても劣悪な生活を、
コロは自分の意思で生きると決意しただけに、その姿は許せなくなっていた。


そうして、ついにコロは自分自身の姿に耐えきれなくなった。


リンはすぐさまコロの後ろに回り込もうとする。

「チコさまぁ〜〜〜。 クサクサのおケツをキレイにさ… ブギャッ!」

コロは、その頭を掴んで持ち上げると瞬時に地面に叩き付ける。

「レ…レレ… イイレフ… モット…」

顔面から叩き付けられ、顔が歪んで血を吹きながらもリンは這ってコロの足下にすがりつく。
頭骸骨が割れ、裂けた頭部の肉から体液を噴出し、首の骨も折れている。


実装石は弱い生き物だ。  精神も物理的にも弱い生き物だ。

特に仔実装など、再生能力があって生命力は強くても肉体的な頑丈さは皆無に等しい。
そして、何より、その激しい痛みや傷を認識する事で精神が耐えられずに簡単に死に至る。

例外が存在するなら、まさに今のリンがそうなのだろう。


感じる物がなければ、ましてや、それが快感を生むようになっては、
肉体がそれだけの損傷を受けた事を認識できなくなり、壊れた身体をなおも動かす。

それでも肉体的には確かに再生が追いつかない損傷で死に向かっている。


だが、コロは無表情のまま、そのリンを顔の高さに掴み上げると数秒ジッと見据える。

目が抜け落ち、歪んだ顔は体液に染まっていない部分のほうが少ない。
だが、口元は…笑っている様に見える。
あの夜に折られて、運良く再生しはじめている2本程の歯しかない口が動く。

「チコサマ… ウンコドレイハ トッテモ シアワセレチュ♪」


コロの反対の手がリンの喉を掴む。

「グプッ… ギュゥゥゥゥゥゥ… イクレフ リンチャンイッチャウレフゥゥゥゥゥ…」

ビタビタビタとリンの股間から緑の水が音を立てて落ちだした。

糞と小便と愛液の入り交じった、”潮”を吹いて絶頂に至った。
同時に、リンの小さな命の蝋燭も激しく燃えて消えた。

リンにとって、まさに死こそが究極の快楽になったのだ。


コロが首を掴む手を離すと、壊れた人形はベチョリと自らの撒き散らした物に覆い被さる。


コロは最後まで表情を変えなかった。 その両目が緑になった表情を…。


コロは自らの過去を、自らの手で始末した。 するしかなかった。


コロは理解したのだ。
今の自分が過去に縋る無意味さと、これからの自分が生きる道を天秤に掛けて。


外に出るようになったコロは、”生まれてはじめて”妊娠を経験した。
腹に仔を授かって、初めて仔だと思っていた物が、あの蛆実装達と同じく”与えられた物”だと知ったのだ。


本当の家族ではないから異常に仲がよい家族でいられる…。

それは、ペットの蛆実装だけではなかった。 自分の家族が全て偽りの物と気が付いてしまったのだ。


飼われている証… 無くなったと思いつつも、捨てきれないソレを我が仔に求めていたのに、
それが… それすらも全て虚像にされてしまったと感じたのだ。

そのショックはいかほどの物であろうか… それをリンは刺激してしまったのだ。


そして、その無意味さに過去を全て捨てたのだ。


コロはリンの死体を前に腰を降ろし、新しく授かった命の詰まった腹を優しく抱えて歌を聴かせた。

「ボェ〜 早く丈夫に生まれるデス〜 カワイイ、カワイイ、ワタシの仔デスゥ〜♪」

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出産を知らないコロは、トイレなどの水場に行けないのも相まって、
結局、その時の仔は一匹も取り上げて生かす事は出来なかった。

しかし、足枷が無くなり、餌探しに外に出る機会が増え、徐々にどうすれば妊娠するのか、
何度も仔を死なせては、どうすれば出した仔を生かして取り上げられるのかを感覚で学びだしていた。

冬の寒さを知らないコロは、箱の中で凍死による仮死冬眠で運良く冬を乗り越えた。

春になり、今度はちゃんと仔を産み、今は3匹が生き残って平穏に暮らせている。

「チコ、リン、ベス。 今日もお歌を歌って寝るデス…」
「「ハイテチュ〜♪」」

腐った箱に開いた穴から、夜空を見上げ歌う野良の一家。

「「あーまいお菓子と毎日散歩♪ ドコでも楽チンデスクーター♪ ペットの蛆ちゃんレーフレフッ♪
  夜は、お空にまんまるお月♪お皿にオツキミダンゴ♪どちらも白くて真ん丸…」」


ホンモノは歌う… ホンモノだった頃のシアワセの唄を…

捨て去ったはずのホンモノの記憶を、何処か悲しげに空に向かって歌い続けた。


夢を見る様に、月夜に向かって紡ぐ唄は、陽気でシアワセで、決して手に届かぬ哀しい小夜曲…。

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つづく

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1 Re: Name:匿名石 2023/12/13-10:51:21 No:00008524[申告]
ダメだ
ウンコマン宣言して死ぬとこでどうしても笑うわ
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