蟲生門 「デェ〜 日に日にゴハンが少なくなってくるデス・・・」 ある一匹の実装石が夕暮れの公園をぽてぽてと歩いていた。 公園といえば実装石と言われるくらいの間柄であるが、ほどほどの広さのあるこの公園で今姿が見えるのはこの実装石くらいである。 「どうしたらよいデス?前より安全に出歩けるようにはなったデスが・・・」 ゴハンの思索にふけって宛ても無く歩いていた実装石であったが、ふと鼻を突いた異臭にはっとして、周りを見回した。 「デデェ!ここは蟲生門デスゥ!!」 公園の南側の入り口。ここは虐待派がヒャッハーした残滓や、駆除によって処分された実装石の死体が無造作に積まれている。 何のことはない実装ゴミ集積場なのだが、ある程度賢い実装石達は、誰が言い出したかここを「蟲生門」と呼んで忌避していた。 先日入った駆除の死体が山積みとなっており、饐えた臭いを発している。 この公園にいた同属食いを厭わない輩・積極的に媚を売るような輩はここに無言で転がっているはずである。 「デププ、お肉発見デス〜 高貴なワタシにふさわしい貢物デス〜」 「ニンゲン!そんなやつらにかまってないで、ワタシを飼う栄誉を受け取るがよいデス!」 人間の前に姿を現しやすいこれらの実装石は駆除もされやすい。 この公園に残っているのは茂みの奥深くに息を潜めて嵐が過ぎるのを待つことができる、比較的賢い個体ばかりであった。 冒頭この実装石しか姿が見受けられなかったのは、ニンゲンの目につきやすい範囲に居住する実装石がこうして駆除されていたからである。 「こんな場所に長くいるとニンゲンに何をされるかわからないデス。さっさと立ち去るのが賢明というものデス〜」 ・・・と、立ち去ろうとした実装石だが、死体の山の向こうでわずかにうごめくものが目に入った。 「デェ?何デスゥ??早く帰らないとニンゲンに見つかるデスが・・・ そうデス、ちょっと見るだけデス。確認は大事デス」 実装石は六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、周りにニンゲンがいないことを確認すると死体の山に近づき、 息を殺して山影からそうっと向こうを覗き見た。 そこには一匹の実装石がいた。背の低い、痩せた、禿裸らしき実装石である。 「らしい」というのはその実装石がビニール袋を体に纏い服代わりとしているため、頭部がビニールに隠れていたためである。 痩実装は丹念に死体を一つずつ眺めていたが、ある実装石の骸の髪の毛を手に取った。 そして丁度、猿の親が猿の子の虱をとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。そうそう力を入れずとも抜けるらしい。 その髪の毛が一本ずつ抜けるのに従って、覗いていた実装石の心からは恐怖が少しずつ消えて行った。 そうしてそれと同時に、この痩実装に対するはげしい憎悪が少しずつ動いて来た。 実装石には、勿論、何故痩実装が死体の髪の毛を抜くかわからなかった。 しかし実装石にとっては、この夕暮れに、この蟲生門で、死体からとはいえ実装の威厳の現れである髪の毛を抜くと云う事が、 それだけで既に許すべからざる悪であった。 そこで、実装石は両足に力を入れていきなり山影から飛び出た。痩実装が驚いたのは云うまでもない。 痩実装は一目実装石を見ると、まるでドドンパを食べた実装石のように飛び上った。 「待つデス! どこへ行くデス!!」 実装石は痩実装が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞いで、こう罵った。 痩実装は、それでも実装石をつきのけて行こうとする。実装石はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。 二匹は死骸の中でしばらくデスデスとつかみ合った。 しかし方や痩せ細った実装、一方減っているとはいえそれなりに食事を得ている実装石である。勝負ははじめからわかっている。 実装石はとうとう痩実装の腕をつかんで押さえつけた。丁度割り箸にぼろ布をまとわりつけたような、骨と皮ばかりの腕である。 「オマエ、何してるデス!」 問いかけに対し痩実装は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、赤緑のガラス球が横顔からでも見えるほど目を見開き、黙っている。 この様子を見て実装石は、始めて明白にこの痩実装の生死が自分の意志に支配されていると云う事を意識した。 そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心をいつのまにか消火していた。 後に残ったのは、安らかな得意と満足である。そこで実装石は、痩実装を見下しながら少し声を柔らげてこう云った。 「ワタシは飼い実装などではないデス。今し方この門の下を通りかかっただけデス。だからお前をどうしようと云うような事はないデス。 ただ、今時分蟲生門で何をして居たのか疑問に思っただけなのデス」 「この髪を」 親指の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、実装石の耳へ伝わって来た。 「この髪をつかってカツラにしようと思ったデス。そして服をいただき、お肉を食べようと思ったデス」 実装石は痩実装の答えが存外平凡なのに失望した。そうして失望すると同時にまた前の憎悪が冷やかな侮蔑と一緒に心に生まれてきた。 するとその様子が痩実装にも通じたのであろう。痩実装はまだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったまま、仔実装のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。 「確かに髪の毛を抜いたり同族食いをするという事は悪い事かも知れないデス。でもここにいる死人どもは皆そのくらいな事をされてもいいやつらばかりデス。 今ワタシが髪を抜いたやつは、自分の仔を愛情深く育てるフリをして、ほどほどに育ったところをアマアマと交換していたデス。 こいつが売る仔は虐待しがいがあるといってギャクタイハたちが買って行ってたデス。駆除で死ななかったら今でも自分の仔を売っていたに違いないデス。 でもワタシは仔を売ることは悪いとは思ってないデス。自分の利益が最優先デス。 なのでワタシが今こいつにしていた事も悪い事とは思わないデス。 世の中自分の利益が一番デス。それが分かっているこいつもワタシに文句を言える義理は無いデス」 痩実装は、大体こんな意味の事を云った。 これを聞いている中に、実装石の心にはある勇気が生まれて来た。それは、さっき公園を歩いていたときには欠けていた勇気である。 そして、この痩実装を捕えた時の勇気とは、全然、正反対の勇気である。 「そうデスか」 痩実装の話が終わると実装石は嘲るような声で念を押した。 そうして、一足前へ出ると、痩実装のビニールでできた服をつかみながら、噛みつくよう言った。 「では、ワタシがオマエを食べてもうらまないデスね。ワタシもそうしなければ冬を越せないのデス」 この痩実装と賢かった実装石のこの後の行方は誰も知らない。 急いで書き上げたので結末がイマイチですが・・・ ID:wrmwMOWQ
