ニセモノの詩(うた)、ホンモノの唄(うた) 第六幕 〜実装石の唄〜 破滅への奇想曲(カプリス) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「デェェェェェェェェェェェェェェェェン」 「デププププ…」 「「テチャチャチャチャ」」 まさに勝ち誇った一家が仁王立ちになり、屈辱にまみれた実装石を見下ろす。 すっかり汚れれこそしているものの、確かに普通の実装石の物より豪華な服を身に纏った一家。 対比するように、裸のまま横たわり、もはや使い古しの雑巾以下な服を握り、ひたすらに泣き続ける実装石。 幾つかの小さな輪を描いていた実装石の垣根は、 それぞれの催し物を、それぞれに楽しみ終えて、今は大きな1つの輪に集約しようとしていた。 そして… ポトリ… と何かが、泣き叫ぶコロの前に投げ捨てられる。 それは3つの蛆実装の死体。 糞が詰められて喰いさしの蛆実装。 賢い長女チコが可愛がって一番大きかった蛆実装の変わり果てた姿。 虫食いにされ、ソレと判るのは頭しか無い、世話好きの次女リンが可愛がっていた蛆実装の変わり果てた姿。 くの字に身体が折れて、もはや土気色になっている御転婆な三女ベスが玩具にしていた蛆実装の変わり果てた姿。 コロは… それが仔達に与えたペットである事にすら最初は気が付かなかったが、 服こそ無い物の、くの字に折れ曲がって舌を出している蛆実装の死に方には心当たりがあり、 それによって3匹が自分達が、飼い主から与えられたタイセツな持ち物のなれの果てである事を知った。 「デ… こ、これは… ゴ・ゴシュジンさ…ま…」 それらを喰わずに残される事は、野良の世界では「オマエの産んだ蛆にはオヤツの価値も無い」という侮蔑がある。 蛆達が自分達の直接の仔でもなく、野良のそうしたルールも知らないコロが、 それを理解できないのは、コロにとっての僅かな救いであった。 ドサ… 間髪入れずに、輪の中に数匹の実装石が引きずってきたボロボロの仔実装が投げ入れられる。 「テェー… テェー… ミ ル ナ… ワ タ シ ヲ ミ ル ナ ウ ン チ マ ン ナ ワ タ シ ヲ ワ ラ ウ ナ」 撃たれた直後の酷いショック状態からは立ち直ったが、精神が壊れてしまったままのチコが、 既に、サザエ一家により散々フィストファックされ糞を詰め込まれ、 さらには盛大に堕胎した下半身が思うように動かないのか、ノッソリとした動き…。 まるで陽の明かりを嫌う冬眠中の蛙を掘り起こしたように、ゆっくりと身体を丸めて顔を伏せ耳を塞ぐ。 「デ、デ、デ ヒドイデス… ワタシの仔、これではダレだか判らないデスゥ…」 唖然と、丸まってひたすらに震える仔実装は、もはや誰であったかを識別できる物が何一つ無い。 ドサ… そこに、さらにもう一匹の仔実装が投げ込まれる。 「フェッホォ〜〜〜♪ モットレチュ チコサマ モット ランボウシテレッチュ〜〜」 その仔実装は、両目を壊されたまま、投げ出された時に退化した甘い親指実装のような鳴き方で身を転がさせ、 数度、ビクンビクンと身体を痙攣させると、 それ以降は「テェ〜〜 テェ〜〜」と定期的な呻きに戻り、身じろぎ一つしなくなった。 流石に自らが撃ったのだ。 その壊れ方からコロは投げ出された我が仔の名前を叫べた。 「デェッ!! それはリンちゃんデスゥ!?」 だが、さっきまではちゃんとリンという仔実装を示していた物が何一つ残っていない姿。 罠に嵌められたとは言え、それらが有ってすら確証を持てずに、結果的に自ら撃ってしまったのだ。 コロは、やはり呼びかけはするがどうすればよいかが判らずに身体を動かす事はなかった。 ドサ… 続いて、無言の仔実装が輪の外から蹴られて押し出される。 仔実装は、そのままヘナヘナと崩れるように無言で崩れる。 「 … 」 その容姿は、前髪も後ろ髪も申し訳程度に1本、2本と残っている程度。 所々、皮膚から剥かれ、体液が滲んで固まって、禿よりもみすぼらしい姿で、 手には、コロと同じく、薄汚れた黴びた雑巾のような布切れを握りしめて震えていた。 その姿を、集団に罵倒され嘲笑され、縁が赤く腫れた目は、眼球が薄く濁り、 飼いから、いきなり野良以下に落とされた、その精神的苦痛がいかほどのものであるかを物語っていた。 その姿にされるのを見せつけられていた為に、間違いない我が仔ベスの姿に、 流石にコロは名前を呼び駆けつけようとした。 「ベ・ベスちゃん!!」 それは、コロが飼い実装である為の悲しい愛情である。 普通ならば飼い実装ですら、自らの失態を無かったことにするために、他者からの嘲笑を避ける為に、 我が仔と判ればこそ、我が仔であるという事を否定するどころか進んで切り捨てる事だって有るのだ。 ハゲハダカ… そして、それに準じる姿というのは、それだけ特別な状態であり、 それを家族として存在させる、匿う、助けるのは、自身もその扱いを受けるという事であり、 野良の世界では、実装石が最も嫌う、自身の命に対しての直接の脅威すらも背負う事になるのだ。 それを… もはや実装石の価値として生きるに堪えない姿となったモノを我が仔と認め駆け寄ったのは、 コロが飼い実装であればこその無知さもあるが、同時に、一応はそれだけ愛情が深い証である。 だが、そのそれだけの実装石的危険を背負っての人真似の愛情だからこそ、 実装石というのは救われない存在である。 ワナワナと駆け寄ったコロに、ずっと座って一点を見つめていたベスがコロの方に顔を向ける。 コロが身をかがめてその肩を抱こうとした…。 まさにその瞬間、ベスは顔を歪めて無防備なコロの鳩尾に渾身のパンチを見舞ったのだ。 「ベスちゃぁぁぁぁぁん… デブベラゥァ!!」 「デジャァ!!」と言う気合いと共に、仔実装の力とはいえ手が肉体にめり込む程のパンチ。 コロの肉体は後ろに倒され、コロは、一瞬身を丸めようとするが、 次の瞬間には、顔を真っ青にして「グゲェェェェ…」と胃の中のモノを吐きながら転がり回った。 ベスはパンチで折れ、ブラブラする右手を庇いながら、生気を失った目でコロを見下す。 コロの醜態に、溜飲を少しだけ下げたように口の端を歪めて笑う。 「オ マ エ ノ セ イ デ ヂ !」 コロの優しさが… 人間の価値観を元に真似られたモノであるために、 結果として、我が仔の怨嗟を向けられ、コロを幾たびも苦しめる棘付きの足枷となってしまっていた。 「オマエはジブンさえ良ければ良かったのデチ! ワタシを見捨てたデチュ! オマエだけ髪が残って、キズも残ってないデヂュ! クツジョクテチ? コンナモノ、ワタシがされたコトに比べれば何がクツジョクデッジュ!!!」 ベスは怒り狂い、怨嗟の言葉を口に、なおも母親たるコロを足の裏で小突いたり踏みつける。 その喉は、激しい絶叫の果てに枯れていた。 コロは飼い実装として耐えがたき屈辱を受けた。 だが、髪は残った…。 それを残したのが、サザエの恐ろしいまでの恨みの計算力。 コロは髪が残っているという一点において、我が仔から怨嗟を全て受ける事になる。 「ワタシの方がよりセレブちゃんらしいゼイタクを思いつけるのが憎かったデチ! ジブンだけ身を守ったのが証デヂュ! 憎かったテチ! 羨んだデヂ! お望み通り、セレブちゃんの試練を受けてたワタシはしっかりオマエよりボロボロテヂィ 今度はワタシがオマエを憎むデッジュ! 恨むデヂュ!! 呪うデッヂューー!!!」 勢い… それも向けるべき方向に向けられないジレンマを抱えた怒りと嘆きの勢いは、 ベスにとっては、実装石的思考を除いても、 この場で反撃力が一番なさそうなコロに向けるしか残されていないからだ。 コロの方も、不意打ちで鳩尾を打ち抜かれて倒されたとは言え、 まだ、自分の半分の大きさにも満たない仔実装の攻撃だけに、 最初の一撃以外は肉体に危機を感じる程の物ではない。 それだけに、自らの罪科と黙って受け入れるしかなかった。 絶望と、半端に人間を真似た我が仔への愛情が、もはや全てに抵抗する気力を失わせていた。 ハゲハダカの仔実装になぶり者にされる実装石…。 それは観衆達をさらにヒートアップさせる見世物となっていた。 サザエ達も、それを見下して笑いながら、 自分達が手に入れた獲物のチェックに余念がなかった。 他の観衆達がコロ達に夢中になっているのを良い事に…。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 赤いテープの捲かれた水筒からでるオレンジジュースを飲んだタラコが驚愕する。 「テテ! これはナニテチュ!! お水が黄色くてスゴイ味テチ! こんなものがでるなんてコレはマホウの筒テチュ!!」 黄色いテープの水筒を仰ぎ飲み尽くし、最後にしたたる水滴を舐めたタイコが目を細める。 「ホントウテチュ♪ こんなお水がこのセカイに存在するんテッチュ〜♪ これが飼いジッソウテチュン♪」 しかし、青テープ、リンの水筒をもつイクラは、仰ぎ振っても水滴すら落ちてこず、 癇癪気味に水筒を地面に叩き付けると、長女タラコと三女タイコを交互に睨む。 「テ! テテテ… テ!? デジュゥ!!! 何テチッ! 何もないテチュゥ!」 2匹はイクラの視線を理解して、むしろタラコはチビチビと飲んでは喜んで見せ、 タイコも水筒を振ってはこぼれる滴を舐めて見せた。 だが、まだ姉妹の関係に傷が入る程ではない。 なぜなら、野良として生まれ育った仔実装達には未知のモノが、 母親サザエが確認しているリュックから次々と溢れだしてくるからだ。 半透明のプラスチックの容器には、まだ中にランチ用のビスケットがかなり残っていた。 セレブはがっついて食べる物ではないという教えは、行き過ぎて解釈され、 欲がない事を示す為、小食であるというアピール、同時にセレブとしての贅沢感から、 ”与えられた量に対して、必ず残してみせる”という事がコロ達には染みついていたからだ。 クリームを挟み、さらにチョコレートに浸されコーティングされた贅沢なビスケット…。 口に含んだイクラは、その瞬間、まさにほっぺが落ちるのを体現するかのように頬を膨らませ肌を紅潮させた。 「テッピュ〜〜〜〜〜〜ン♪ コレが食べ物テチュ! コレこそ食べ物テチュ!! コレが食べ物の匂いテチ、味テッチュ♪」 すぐに、嫌みに空の水筒を中身があるように舐めて見せていたタイコが駆けてくる。 「テチ? クサくないけど、嗅いだ事がないヘンな臭いなだけテチュ… テッ テリョ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン♪ コレは…コレは… 何て言えばいいテチュ!?」 タイコも一口食べて、天を仰ぎ、手をパタパタさせて喜びを表現する。 2匹をニマリと見つめるサザエが、冷ややかな口調で注意をしようとするが、 サザエ自身、もう腐っていない食い物自体一ヶ月程は喰っていないのだ。 「コレがホントウの”甘い”デス。 セレブならこんなもの当たり前デス。 これで驚くのは、ワタシはダサイイナカモノデスゥと、 自分で宣伝するようなモノだから注意するデッ…(サクッ…モグモグ) デスゥ〜〜〜〜〜ン♪」 甘い声に変わるのも仕方が無い。 贅沢なチョコとクリームの味などすっかり忘れ去っていたのだ。 ジュースを飲んで見せ付けていたタラコが、今度は出遅れた事で、一応バランスは取れた。 「テ!? テテェ!? ワタシの分は…テチー。 ナイテチ ナイテチ… ママどうして残してくれなかったテチュゥ!!」 一家は手に入れた成果を満喫し、さらに望むモノを見つけた。 リュックのポケットの1つから、じゃらじゃらと金属の金具を見つけたサザエは、 「デベベベベベ」と涎混じりにいやらしい笑い声を出した。 「テチュ? ナニテチュ? ソレはナニテチュ? ママ?」 そう言った末娘のタイコに、瞬間、容赦のない平手が襲う。 バチン! 「ナニとはナニデスゥ! コレが何かも判らないで、このセレブなワタシの仔を名乗るデスゥ! こんなモノも判らないクズのクセにワタ… デェ! 済まないデス… ワタシとした事が、こ、こ… そう、興奮していたデス」 確かにサザエは異常なまでに興奮していた。 攻撃性が高まった実装石は、どれだけ知能が高くても攻撃意欲を抑えられない。 自分より弱者をいたぶる興奮が、蹂躙する達成感がさらに自分を高みに上げ、欲を高め、精神を貶める。 コロを責めている時には、それを抑えることが出来たのだが…。 だが、まだ計画と呼べるモノが順調な間は、サザエもまだ正気(?)に戻る余裕があった。 サザエは、叩いてしまった我が仔の注意を逸らすように、 金属の板が付いた輪を掲げてジャラジャラと鳴らして見せた。 「このジャラジャラはニンゲンの道具で、あいつらが持っているセレブなお乗り物を使う為の道具なのデスゥ♪ ワタシはセレブだから当然知っているデッスゥ♪」 デスクーターには別に難しい操作はないし、実装石が扱う為に、なくしやすい鍵などは本来はない。 それだけに、野良実装に奪われたり、停車して場を離れれば盗まれる事もよくある。 それだけに、次女のイクラがそう怪訝そうに呟く。 「テチャァー… デスクーターテチュ?あんなもの誰でも乗れるテチュ…」 するとサザエはそれをキッと睨む。 自分は判っているから、オマエ達も知っていて当然という態度だ。 正気に戻るとはいえ、立て続けに策が的中し、困難と思ってきた事を可能にしてきた増長がそこにはあった。 だが、すぐにニマリとした顔で仔達を一瞥し、一方を指差してみせた。 「よく見るデスゥ♪ 誰でも乗れるというのはバカな野良の低俗な考え方デッスゥ♪」 指差したのは公園の舗装された道、コロ達がデスクーターを止めた場所。 そこには、既に持ち主無きデスクーターを我が物にせんとしている、 騒ぎに加わらなかったり、騒ぎの隙に目を付けていた野良達が集っていた。 誰が動かしたか、すでにデスデスデス…とエンジンが掛かっている。 だが、野良達は乗ったは良いが、前に進めずにバランスを崩して倒れては怪我をし、 別の野良が起こしては乗ろうとして、やはり進めずに倒れている。 デスクーターは、トロい実装石でも乗れるようにタイヤの太さが計算され倒れにくくなっている。 数秒程度なら足を付かずに制止すら出来る程だ。 それでも進めずに転けてしまう秘密があるのだ。 しかし、それを知らないイクラが慌ててバンバンを構える。 「テチャァ!! ママ! あれは私達の物になったテチュ! 盗られるテチュゥゥゥゥ!!」 サザエは、ゆったりと物を仕舞ったリュックを背負い、やはり、ゆったりとデスクーターに向かって歩き出す。 「落ち着くデッスゥ。 まったく、これだからお前達はワタシがこの優れた知性で導かないとイケナイデスゥ。 誰にでも乗れるなら、ヤツらはどうして動かしていないデスゥ? 答えはカンタンデスゥ♪ 仕掛けがあるからヤツらはバカツラ下げて頭数が揃っても動かせないデス。 お前達も、このワタシが止めなかったらヤツらと同じバカツラして大怪我デスゥ♪ 大体、あんな離れた場所に止めてほっつき歩いていたら盗られるなんてバカでも判るデス。 あのマヌケ一家どもが手元でなくあそこに乗り物を置いて自由が出来るのもコレがあるからデス♪ ワタシが真のセレブだから… チガウデス… ワタシがカミサマだからヤツラの仕掛けが判っているデッスゥン! デヘデヘッデヘヘヘッ」 サザエは、我が仔に対しても、もはや自分が親を超えた絶対者である印象を植え付けようとし始めていた。 そして、懸命にデスクーターに乗ろうとしている野良達を恫喝しだした。 「オマエ達、ソレはこの高貴なワタシのモノデス! 野良如きの薄汚れた手で触るなデス!!」 飼い実装服に身を包んだサザエ達を見て、野良達は当然反発する。 「ナニをデスゥ!!」 「オマエは何者テチュ! これはワタシ達の見つけたモノテッチュン!」 「オマエもあそこで嬲られているヤツのお仲間デスゥ?」 「エラそうな飼いジッソウサマデスゥ〜♪ オマエのお仲間をハゲハダカにしたのはワタシのゲボクデス。 ワタシに手を出したらミンナ黙っていないデスゥ♪ あそこの飼いみたいにギタギタデッス!」 飼い実装を袋叩きにしたと解釈したそれらは、今ならば自分達は飼い実装に負けないと思い込んだ。 騒ぎを見ていたとして記憶力の弱い実装石だけに、騒ぎの場を離れれば、 サザエ達が、その飼い実装を倒した当人達である事など知る由もなく、自らの手柄と興奮しているのだ。 「こんなクズ共には触れるのも汚らわしいデス… タラコ…殺るデスゥ」 バン! 至近距離でタラコのバンバンが、調子に乗ってスゴんできた1匹の野良を捉えた。 「デギャァァァァァァァァァァ!!」 撃たれた野良は倒れると、その場にいた仔実装を潰し、他の実装石にぶつかりながら、 哀れに糞を撒きながら額を抑えて転がり回った。 その轟音に、他の関係ない実装石も泡を吹いて失神したり、腰を抜かして漏らしたり、 漏らしたままアテもなく走って逃げ出した。 サザエは、悠然と、そしてわざわざ、その腰を抜かした者を蹴倒し、失神した者を踏みつけて、 デスクーターの前に進み出て屈む。 「まぁ、野良クズやお前達がコレに気が付かなくても仕方のない事なのデスゥ〜」 デスクーターの前輪には、人間のバイクに使われる物と同じ形の車止めが掛けられていた。 デスクーター自体には鍵が無い為に簡単に奪われる。 盗られない方法は目の届くところに置く事。 それでは自由に遊べない為に、一部の飼い実装は、飼い主からこうした防犯対策を施して貰うのが最近の流行だ。 これが、野良達がデスクーターを動かせずに転け続けた理由である。 バンバンもそうだが、このU字ロックもごく最近流行りだした物で、サザエが飼いだった頃には無い物だ。 サザエはそういう道具の存在を、大体の使い方を、効果を…。 元飼い実装だからではなく、日々、心の何処かで羨んで、憎んで、深く観察していた事で記憶していたのだ。 そして、狂気に支配された事で、そうした記憶が瞬時に、的確に、高精度で脳に閃く。 カチャ… サザエが金属の鍵を差し込んで回すと、簡単にU字ロックが外れる。 「これが付いていて走れるはずが無い事に気が付かないのがバカの証デスゥ♪」 サザエは自信満々にデスクーターに乗ると、それを走らせてみせる。 野良達は、今まで動かせなかった物が普通に動いた事で2重の驚きを感じ、 まさに魔法使いの、天変地異を起こす魔法を目の当たりにしたような畏怖に包まれ、 ガタガタと我が仔や見知らぬ者達と抱き合って震えた。 しかし、サザエの仔達は、一応、感嘆の言葉を述べたが、その言葉すら感情がこもっていなかった。 「流石ママテチュ…」 母親のあまりの上から目線的態度に、自ら増長したプライドが折れる事を嫌ったのだ。 タラコがその怒りのやり場を怯えきった野良達に向ける。 「退くテチュ!! このウンコブタ!! ワタシは飼い実装になったテチュン!」 今日の騒ぎで忘れていた、普段の飼い実装の迫害を脳内に蘇らせた野良達は、 小さな仔実装の蹴り1つにも過敏な反応を示して、醜態をさらし、そのタラコの感情を和らげる。 ゲシッ! 「デェッ!! デスゥゥゥゥゥ…」 イクラは、唖然とする野良1匹の額にバンバンの銃身を押しつけて発射する。 「このクズ共、ワタシの持ち物にウンコ臭い手で触っていた上に、倒してキズ物にしたテチ… 当然、死刑がお似合いテチュン♪」 バン! 撃たれた野良は、哀れにも痛みを与えるだけの鼓弾が皮膚を貫通し、半端な威力で脳内に弾が留まり、 デタラメに身体をのたうつと言うより跳ねさせながら苦しみだした。 「ボビェェェェ!! ギョベェェェェェ!!」 撃たれるまでソレと抱き合っていた野良は、もはや助かるにはソレしかないと、 イクラに向けて何度か土下座し、ケツを向けて好きに蹴って良いですから殺さないでという姿勢を取りだした。 「デッデデェェェェェェェェ…」 さらに、そのケツを晒した野良の排泄口に、タイコがバンバンの銃身を突き刺す。 「テププププ… クソダンゴは死刑テチュン♪ 死刑テチ、死刑テチ、死刑テチュン!」 突き刺された野良実装は、最初、思わず反射的に甘い声で吐息を吐いて、ヒクッと求めるように腰を浮かせたが、 流石に事態を飲み込めたのか、すぐにパニックに陥る。 「デスゥ♪ デッ! デデェェェェェ…」 タイコの方に顔を回した野良の顔は、怯えきり救いを懇願する表情だったが、 タイコが容赦なく、死刑と口にする度に連続で引き金を引く。 バン、バン、バン、バン… タイコのバンバンは既に弾がない。 だが、威嚇音を出す圧縮空気が結構な圧力で内容物を上へ上へと押し上げ、 マンガの様に派手ではないが、下腹部が少しずつ膨らみだしていた。 バンバン と肉に埋もれた発射音が響くたびに、野良実装は圧力で押し上げられる内容物に苦しみ、 バンバン と響くたびに同時に、口から鼻から「ヴォエ!バゥオ!」と空気を液体を逆流させた。 そして、そう出来ていない喉は空気と共に上がってくる内容物の逆流を必死に防ごうとして締まっていく。 やがて、その圧縮空気すら尽きた時、野良実装の肉体は内容物が胃に上がって、見た目に腹がポッコリしだした。 「デベェェェェェェェェェェ…」笛風船の様に声を出し続ける野良実装は、 入ってくる空気が止まると、そうやって空気だけを徐々に排出して、苦しみながらも元に戻るハズだった。 「セレブは、どんなゼイタクも許されるテッチュ♪ 使えなくなった玩具は捨ててイイテッチュン♪」 「使い捨てテチュ♪ 使い捨てテチュ♪ どっちの玩具も使い捨てテッチューン♪」 「イラナイからコレはクレてやるテチュ♪ これがセレブの優しさテチュ♪ さぁ、苦しめテチ。 というか、むしろ汚物は速やかにシネって感じテチュン♪」 何が起こるのか… 流石に馬鹿でも気が付いた野良実装は、「デベェェェェェェ…」と止まらない鳴き声のまま、 「やめてくれ」という焦りの顔で、何とか自由の効かない首を後ろに向ける。 その目に映ったのは、タイコが助走を付けて跳び蹴りしてくる姿。 タイコは、銃身を排泄口に突っ込んだ玩具の銃床側を蹴りにきたのだ。 パン!! 排泄口を裂き、めり込んでいった玩具の銃は、その圧力で中身を喉へ一気に押し上げ体内に収まり、 「ベブゥ!!」という”音”を発した野良実装は、一瞬だけ顔をプクリと膨らませ、 我慢していた内容物を口と鼻から噴き出し、勢いで瞬間的に拡がった眼底から眼球がポンと飛び抜けた。 ゴップ…ゴップ… と消化しかけの内容物を口から零しながら横たわる目の抜けた野良実装は、 ビクビクビクと大きな痙攣を起こした後、プスーっと最後の余剰空気を吐き出して、 鳴く力もなく、細かく打ち震え、落ちた目を手探りで探す姿に成り果てた。 「テチャチャチャチャチャ… クソダンゴは本当にクズで救いようも、使い道も無いテッチュー」 タラコ達もまた、普段怯えて箱の中から観察していた飼い実装達の姿を再現する事で、 自身のプライドを満足させる結論に至った。 仔実装の自分達が、野良実装、それも大人の実装石達をも平伏させる…。 全てが道具の力ではあるが、サザエ達の感覚ではそうは感じられない。 全て自分の力だ。 機嫌が良くなったタラコ達は、サザエがU字ロックを外した仔実装用のウジクーターに、 朝のコロ達の姿を見よう見まねで蛆実装を乗せて、初めての乗り物に感激する。 「テチュ… 確か、アイツラここにウジちゃんを乗せていたテチ」 「テー! ふかふかのタオルが敷いてあるテチ。 まさか、ウジちゃんごときの為に敷いてあるテチュ?」 「テチャチャ でも、ウジちゃんを乗せると、スゴイ贅沢な気分テチ…。 食べる気がしなくなるから不思議テチ」 「「レフー レフー」」 だが、無駄にプライドを増長させるという事は、実装石全ての普遍的な転落フラグである。 やがて、操作にイッパイイッパイだったものが、顔を上げる余裕が生まれた時だった。 「テチャチャ〜 これは楽チンチンテッチュ〜… テッ!」 前に向けた目で見たのは… 自分達を取り囲む大量の目線である。 サザエ達は、自分達の策で一番してはいけない事を次々と破ってしまった。 策に溺れる事、プライドを無意味に高める事、目立つ事… そして、ナカマを無意味に殺す事。 大きな音がするバンバンを無為に撃って、コロ達を見ていた野良集団の気を引いた。 そして、その注目の先で飼い実装として野良達に横暴を振るった。 自分達が、ショーとして貶めた飼い実装の憎まれるべき姿を自分達がやったのだ。 無意味に自分達を高みに置かなければ…。 コロ達を残して何事もなく公園を去れたハズなのだが…。 「テ・テテテ・テッ… 見てるテチ… ミンナ見ているテチ… へ、へんな空気テチュ…」 「マ、ママ… ミンナの見ている目が…おかしいテチュ…」 「な、何でコイツらワタシ達の所に集まるテチュ!!」 「な・何デスゥ!? オマエ達、ワタシがサザエサマと知っての狼藉デスゥ? ワタシがあの仔ゴロシのバカ飼い実装共をギッタギタのボッコボコにしてやったデス! とてもオマエ達では及びもつかないテンサイ的なサクセンで、フルボッコデスゥ! ワタシはカミサマに選ばれたジッソウセキなのデスゥ!! デ、ニ、ニンゲンのお道具も持っているデスゥ!ワタシはニンゲンのお道具を持って飼い実装なのデスゥ! カイジッソウに手を出すとニンゲンがオマエタチを許さないデスゥー!!」 だが、サザエは自分が言っている事が、まるで抑止力を持っていない事を忘れていた。 威圧の言葉を並べ、押される空気に、ついにはニンゲンの存在に頼るようになり、 すっかり自分を飼い実装と宣伝してしまった。 自分達が、その飼い実装の持つ威光を、全て地に落としていた。 「デスゥ? コイツはナニを言っているデスゥ?」 「さっきのエラそうなヤツデッス。 ナニが飼い実装デス? アタマおかしいデスゥ」 サザエを知るもの、さっきの事を覚えている者達が囁き合う。 「こんなところにヤツのナカマが残っていたデスゥ!」 「クソ偉そうな、クソ飼い実装サマデスゥ! もう、キサマタチに好きな顔はさせないデスゥ」 「殺っちゃうテチュン! ドレイテチュ、ママのドレイにして毎日ワライモノテッチュ〜」 飼い実装の没落を目にして意気上がる者達、自らが強くなった感覚にとらわれた者達が気勢を上げる。 しかし、サザエ達に幸いしていたのは、まだニンゲンの道具を持っていて、 それが… それだけが威嚇の効果を持っていたという事だ。 その武器の威力を前に、進んで既に死んだナカマの為に仇までを取ってやろうという集団ではない。 彼らには、ナカマ達がどんな理由でどのように酷い目にあったのかが判らない。 それでも、集団で囲めば、誰かがさっきのように面白いショーを演出してくれるのではと期待している。 デスクーターに乗り、玩具を持って威嚇するサザエ達。 取り囲む野良達は意思統一が足りず、目的意識も薄く、かなりの距離を置いて見ているだけ。 その睨み合いがしばらく続けば、もともと大して目的意識のなく我慢がない野良達は、 変化がない事に、やや興醒めとなって包囲が緩くなる。 サザエ達に助かるチャンスが生まれはじめていた。 しかし、囲まれたプレッシャーにパニック状態のサザエ達は、 先程までの(実装石の中では)天才的なひらめきや洞察力を失って、 口八丁手八丁で上手く場を納めて切り抜ける術を無くしていた。 それらは、飼い実装に対する執念のもたらした物で、自分達がそれを守る立場になってしまったからだ。 「テー… テー… マ、ママ… どうするテチ」 「い、今のウチに全力で何処かに逃げるテチ!! 乗り物もあるテチ、あんなヤツらひ、轢き殺してやるテチュ」 「まだ、タクサン居るテチ… 怖いテチ、捕まったら最後テチ… 無理テチ」 「黙りやがれデスゥ! 賢いワタシの考えが鈍るデス!」 包囲が手薄になったのは理解しながらも、逃げる決心が付かないまま睨み合いが続く。 サザエが声を荒げ、仔達がビクつくとともに、 ウジクーターの前籠に入れられたアタマの弱い蛆実装たちが、大きな音に反応して、 そのサザエの罵倒を真似するように「レフゥ〜 レフゥ〜」と意味もなく合唱をはじめる。 「テチィ〜〜〜〜〜〜 その声はワタシの蛆ちゃんテチュ〜〜〜〜♪」 突然、包囲する集団の中から、掻き分けるようにして泥まみれの仔実装が2匹飛び出してきた。 それは、まさに突然の事で、運命の様に当事者達には気まぐれなる旋律、奇想曲の始まりである。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− つづく
