仔産みの実装石 仔を産みたい、ミドリがそう願ったのは一度や二度ではない。 しかしそれを、ミドリが飼い主に願い出たことはなかった。 ミドリは実装石だから、仔供なんて産んじゃいけない、産みたいとも思っちゃいけない。 調教師の先生に、何度も何度もそう言い聞かされて、ミドリはようやく今の飼い主に拾ってもらった。 ミドリがこうして生きていること自体、わがままを聞いてもらっているのだ、という意識を忘れてはダメ。 偽石の奥にまでそれは刻み込まれていたけれども、それでもやっぱり、ミドリは仔が欲しくてたまらなかった。 「仔供が産みたいデス」ある日、ミドリはついに飼い主にそう願い出てしまった。 飼い主の女性はちょっと驚いたような顔をして、それから深い溜息をつく。 ミドリは飼い主の顔を見上げて少し後悔する。けれど今さら諦める気もさらさらなかった。 「どうしても欲しいの?」飼い主の言葉に、ミドリは「デスー」と頷いた。 飼い主はもう一度溜息をつくと、仕方ない、というふうに軽く微笑んで「いいわよ」と言った。 ミドリは我が耳を疑った。ぜったいに反対されると思っていたのに、簡単に認めてもらったのだ。 これから飼い主に反抗する、その覚悟に震わせていた体が、歓喜で打ち震える。 飼い主に仔供を産むことを認めてもらったのだ。ミドリはわんわんと泣きながら飼い主の足に縋りついた。 仔供。カワイイ仔供。仔供に囲まれてシアワセなワタシ。それを許してくれたとってもやさしいご主人サマ。 ミドリは早くも幸せ回路全開でバラ色の未来を妄想し、まだ身篭ってもいない腹をさすって「デスー」と鳴いた。 翌日ミドリはさっそく飼い主に花屋に連れていって貰った。かわいい仔供たちの種を、お花さんに分けてもらうために。 真っ赤なハイビスカスを飼い主に買ってもらい、家に帰るとさっそくそれを股間にあてがい、仔を宿す行為をはじめる。 何度も出し入れしたハイビスカスの花がすっかり草臥れてしまう頃、ミドリの両目は緑色に染まっていた。 「おめでとう、ミドリ。妊娠したみたいね」 声をかけてきたのは飼い主の女性。その言葉にミドリは緑色の両目から本気涙を流す。 「デェェエン……ご主人サマ、ありがとうデスゥ……ミドリはシアワセものデスゥ」 感動のあまり、ミドリの弛んだ総排泄孔から漏れたクソの臭いが広がる中、飼い主は釘を刺すように言った。 「ホントに大変なのは産んでからよ、ミドリ? ちゃんと自分で育てられるの?」 シアワセ気分に浸っていたミドリは、その言葉に我に返り、ちょっとムッとする。 けれど、それが表情に現れる前に、股間から立ち上る臭気が鼻を刺激し、ミドリは顔を顰めた。 ご主人サマはいつだって優しいけれど、たまに一言多いのが困るデス……。 でもガマン我慢。なにしろ、ご主人サマは仔を産むことを許してくれた、とっても優しいご主人サマデスから。 ミドリは不満を示す前に頭を冷やし、パンツの裾から漏れかけたクソを、そっとスカートの上からパンツに戻す。 「ミドリは初めての子育てだものね。もう一度「先生」にちゃんと見てもらわないとダメよ?」 ミドリの気持ちなど素知らぬ風に、飼い主はテキパキと支度を続けていく。 「デェ……やっぱり、行かないとだめデスゥ?」 「私も子供は産んだことないからねー(笑)。こういうのはやっぱりプロに見てもらうのが一番よ、ミドリ」 飼い主は、使われなくなって久しいキャリーバックを引っ張り出しながら言った。 ミドリは薄汚れたパンツとクソを上から抑えたせいで汚れてしまった実装服を着替えながら、諦め切れずに呟く。 「ご主人サマ……ミドリはもう大人デスゥ……ちゃんと仔供たちの世話ができるデスゥ……」 ミドリの抗議は飼い主に届くこともなく、やがて、全ての準備が整った。 1時間後。ミドリは飼い主とともに、調教師の先生の仕事場にいた。 玄関前で「やっぱりいやデスゥ」とミドリは抵抗してみたものの、容れられるはずもなかった。 「観念しなさい、ミドリ。わがまま言ってると子供に笑われるわよ。じゃ、頑張ってね」 飼い主はミドリを調教師の先生に預けると、さっさと帰ってしまう。 残されたのはミドリと調教師の二人だけ。ミドリは緊張で体が固まってしまうのを感じていた。 調教師の先生がミドリに声をかける。 「久しぶりだね、ミドリ。仔供を産みたくなったとは、ちょっと残念だね」 ミドリはその言葉にびくりと震える。あれほど釘を刺されたのに、妊娠してしまった自分の浅はかさを今さら後悔する。 調教師の言葉は、ミドリの偽石に響く。それでもミドリは勇気を振り絞って声を出した。 「せんせい、ごめんなさいデス……でも、どうしても欲しかったデス……」 先ほど受胎したばかりだと言うのに、早くも出っ張り始めたお腹をさすりながらミドリは言う。 「わがままはわかってるデス……でも、どうしても仔供がほしいんデスゥゥゥ」 「そうか……」 ミドリは言葉の途中で床に崩れ落ち、土下座して号泣し始める。調教師の怖さは、ミドリ自身が一番よく知っている。 それでも仔を産みたかった。どうしても産みたかった。調教師の教えに逆らってでも。 そんなミドリに、調教師の男は冷ややかな視線を向け、一言応えただけだ。 「そんなに産みたいのか?」 続いて出た、予想を裏切る言葉にミドリはハッと顔を上げた。教えに逆らった以上、罰を受けるものだとばかり思っていた。 しかし、調教師から返ってきたのは実装叩きによる折檻ではなく問いかけだったのだから、ミドリが当惑するのも当然だった。 「産みたいデス。ぜったい産みたいデスゥ!」 ミドリは額を地面にこすりつけるようにして懇願する。 「わかった。ホントなら仔を産みたいといった時点で処分だが、飼い主も許可しているし、お前には特別に許す」 ガバ! とミドリは顔を上げた。調教師の言葉が、にわかには信じられなかった。 しかし、すでに調教師はミドリに背を向けて、作り付けの水槽の掃除をはじめている。ミドリは我が目を疑った。 それでも抱きかかえられ、調度の調った水槽に下ろされて確信する。ワタシは仔を産むことを許されたのだ、と。 水槽内に足がついた瞬間、ミドリは感激のあまり脱糞した。調教師がそれを見て釘を刺す。 お前は親になる。子育ての世話はしない。まずは自分で子育てできるかどうか確かめてから、調教する、と 「がんばるデスゥゥ!! やってみせるデスゥゥウ!」 ミドリは実装石らしからぬ気合を示すと、クソの溜まったパンツを脱ぎ、水槽の隅のトイレにクソを捨てた。 これから親となるのだ、もっと締まっていかねば、とミドリは総排泄孔をキュッと絞めながら決意する。 ミドリは一度脱いだパンツを思い切り引き上げる。大事な仔の詰まったお腹、少しでも冷やさぬように。 1週間後。ミドリは仔を産んだ。栄養状態もよかったせいか、産まれた5匹全てが健常な仔だった。 「デッスゥゥンン♪ かわいいデスゥ。やっぱりかわいいデスゥウ! いとしいデスゥ、いとしいデスゥ!!!」 仔実装たちの粘膜を舐めとり、初乳を与えながら、ミドリは呟きつづける。疲れのあまり、同じことを繰り返すだけだった。 「「「「「テッチューン♪♪♪♪♪♪」」」」」 そんなミドリに、仔実装たちがめいめいに縋りついて来る。 初乳を飲んだばかりだと言うのに、まだ足りないとばかりに胸に腹に、背に吸い付いてくる仔実装たち。 くすぐったいような、むず痒いような、そんな感覚を全身に浴びながら、ミドリは法悦の溜息を漏らす。 「デスゥゥン♪ そうデスゥ、そうデスゥ♪ ワタシがママデッスゥゥゥンンン♪」 ミドリは今、シアワセの絶頂にいた。 「デェェ……トイレはそこじゃないデッス!」 3日後。調教師の仕事場の水槽には、仔育てに苦闘するミドリがいた。 「待つデスゥ! ゴハンはちゃんとならんで待つデスゥ!! ゴハンは逃げないデスゥ!!」 「デェェ……なんでデス……なんで言うこときいてくれないデスゥゥゥゥウ!」 ミドリの育児は失敗の連続だった。朝は起きれない、どこにでもクソは漏らす、食事のたびにケンカする……。 ミドリが思い描いていたシアワセ家族などそこにはなかった。衣食住、全て満たされているのにも関わらず、だ。 ミドリの頭からはすっかり抜け落ちていたのだ。ミドリが今のミドリ足りえているのは、調教師の躾ゆえである、ということが。 「おかしいデス……こんなはずじゃないデス」 別におかしいことなど何もない。実装石とは本来、こういう生き物なのだ。 「ワタシの仔はカシコクていい仔のはずデス……これはウソなんデスゥゥウ!!」 すぐ眼の前で、仔の一匹がパンツも脱がずに脱糞してむずがりはじめたのを見て、ミドリは頭を抱えてしまった。 「なんでデスゥ!! なんで言うこと聞けないんデスゥウゥウ!!!」 ミドリはついにぶちキれ、むずがる仔を思い切り殴りつけた。仔は水槽のガラス面まで吹っ飛ぶと、動かなくなる。 「そうだったデス……」 「忘れてたデス……ワタシもこんな風に育てられたんデス……」 仔を殴りつけた腕がジンジンと痛み、ミドリの奥で、蓋をしていた辛い記憶がよみがえる。 「実装石はできそこないなんデス……こうしないと、だめなんデス……」 ミドリはフラフラと立ち上がると、吹っ飛んだ仔を介抱するために近寄った。仔はすでに再生し始めている。 他の仔が水槽の隅でガタガタと震えていた。ママゴトの時間は終わりだった。これから、本当の「仔育て」が始まるのだ。 それから一週間、過酷なミドリの「仔育て」が続いた。 だが一匹の仔実装が折檻のあまりに絶命した日から、その「仔育て」はぴたりと止んだ。 今では水槽は汚れ放題、仔実装たちは暴れ放題。優しい母親から暴君へと豹変し、今また無気力なナマモノへと落ちたミドリ。 仔実装たちにとって、それはもはや単なる置き物でしかなかった。 「ごめんなさいデスご主人サマごめんなさいデスご主人サマごめんなさいデスご主人サマごめんなさいデスご主人サマ……」 壁を向いたまま、うつろな目で呟きつづけるミドリ。 仔実装たちが戯れに背を殴りつけてくるのにも、クソを塗りたくってくるのにも無反応だった。 「ワタシがまちがってたデスワタシがまちがってたデスワタシがまちがってたデスワタシがまちがってたデス……」 ミドリは一月後、飼い主の元へ戻ることが出来た。仔実装たちは、一匹も居ない。 飼い主が迎えに来たとき、ミドリは満面の笑みを浮かべてその胸に飛び込んだ。 ミドリが育児放棄して1週間で、仔実装たちは死んだ。 フードは食い放題だったが、成長に不可欠な母乳を与えられなかったからだ。 飼い実装石はニンゲンを真似たがる。仔を産みたいという願望もその現れだ。仔を産み、ニンゲンのような家庭を築く。 だが、その願望が満たされることはない。親も仔も、ニンゲンと重ねるには余りにもできそこないすぎるから。 やがて理想と現実のギャップに苛まれた飼い実装石は、上を見るのをやめる。 愛玩されるだけの存在である自分を、甘んじて受け入れる。その方がキモチイイから。楽だから。 「出戻り調教」された飼い実装石は、身のほど知らずの自尊心・自立心が消えて飼いやすいと好評だ。 身の丈に合わぬ願望と理想を抱きつづける飼い実装石がいるかぎり、この商売が廃れることはないだろう。 END 後書き はいどーも。俺です。 ギロっちに「文章の区切り方おかしくねオメ?」 って言われたんで まずは行間とセリフの間隔だけ、ギロっちのスクを模倣してみたですよ? こういう縛りがあると、なかなか刺激があっていいね。内容の割に苦労しました。 ギロっち、㌧クス(笑) あと今回のスクはズキン氏によろしく、のスクを参考にさせてもらいました。作者さんに感謝します。 飼い実装石の考えてる仔育て、ってどうも奇麗な上っ面しか見てないような気がするんですよね そこんところを突いたパキンとその仔供たちの顛末がすげぇ面白かった。 あれを自分なりに解釈したら、このスクみたいになるかな、と思いながら書きました。 ではまた、次は愛護っぽい奴で(笑) レリューン。
