タイトル:【馬】 最初はいい話と思わせて
ファイル:馬鹿愛護.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4401 レス数:0
初投稿日時:2006/07/28-01:13:06修正日時:2006/07/28-01:13:06
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飼っていた実装石が死んでしまったのが、もう・・・1週間前。

虐待死させたわけではない。車に轢かれて死んでしまったのだ。
愛護派というわけではないが、常識で「ペットを可愛がる」範囲で、可愛がっていた。

死んだ時は、それは悲しかった。
号泣、とまではいかないがもうすぐ30を迎える大の男(俺)が、涙するほどに。




それから、実装石は飼うまいと、なんとなくではあるが、心に決めた。

実装石は賢すぎる。
だから、俺に、要りもしない花飾りを作ろうとした。

賢すぎるから、俺に内緒で花飾りを作ろうとした。
賢すぎるから、俺にわからぬように家を抜け出すようになった。

だから、車に轢かれて死んでしまった。


喰って、寝て、喰って、寝て。犬や猫と同じようにしていれば。
小賢しい真似をしなければ、死なずに済んだのに。


(ご主人サマー)
(おかえりなさいデスゥ)
(似合うデスか?)
(ご主人サマー)
(おはようございますデス)
(最近楽しそうデス? 私がデス? ・・・内緒デスゥ)
(ご主人サマは、お花は好きデスゥ?)
(ご主人サマ)
(ご主人サマー・・・)

———————————————————————————————————————


・・・今日も、誰も居ない家に帰ってきた。
立ち仕事で棒のようになった足の、鈍い痛みに顔をしかめつつ

 「ただいま」

と言葉を発した。

(おかえりなさいデスゥ)

・・・もう、そう言ってくれる実装石はいない。
あの一言二言の会話がなくなるだけで、こんなに寂しいなんて・・・。

俺はテレビをつけた。何が見たいわけではない。
テレビから聞こえるどうでもいい人の声が、聞きたかった。
なんでもいいから、誰でもいいから・・・声が、聞きたかった。


———————————————————————————————————————


そんなとき、道端に実装石が座り込んでいるのを見つけた。
いや、実装石らしき、というべきか・・・?

なんだ、こいつは。

5メートルほど離れているのに匂ってくる異臭、
うちにいた実装石とは似ても似つかない、知性を欠いた馬鹿っぽい顔、
あいた口からだらしなく流れるよだれ、
バリバリに固まった髪、もう緑とは言いがたい程黒く変色した服・・・。

実装石。野良の、実装石。

・・・これが実装石? 本当に?



俺は実装石をペットショップでしか見たことが無い。
ほんのり石鹸の香りがする真緑の服を着、サラサラとした髪を持ち、リンガルを
通してではあるが、俺たち人間と意思疎通のできる高等な動物。

それが、俺の中の「実装石」のビジョンだったのだ。それが・・・。

・・・・・・・・・・・。
・・・街のスミで人間のホームレスを見たことがあるが、それ以上だ・・・。

人間のそれとは違う。
ただ汚いだけの体ではない、なにか狂気じみた印象を受ける。
眼はギョロリとしていて、焦点が定まっていない。
全身、鼻を突く異臭のもとである糞にまみれている。
挙動も、生理的に嫌悪する・・・なにか異質な生物であるように感じられる。


「デスゥ」

声もしゃがれていて、ひとつも愛らしさなど無い。


「デ」

そんな実装石は、ふと、こちらを見やり、ウチの実装石もたびたび行っていた「媚び」をして見せた。
可愛いとはひとつも思えない。同じ仕草でも、飼い実装と野良実装では、ここまで違うものなのか。

そして飼い実装として拾ってもらうためか、醜く出た腹をぶるぶるふるわせながら、俺に
(たぶん)踊りを披露した。そしてその場でくるくると回転しだした。


・・・見ていられない・・・。
眼をそらそうとした瞬間、その実装石は回転を失敗し「デェ」と声をあげて転倒した。


「デェ・・・」
すぐさま起き上がろうとして、地面に手をつく。

「デァッ?」
手をついた地面に、偶然鋭利な形をした小石があり、手を傷つけてしまった。

「デッ、デェェ」
手のひらから流れる体液を見て、情けない声をあげる野良。

「デ!? デボッ」
傷の体液を舐めとっていた実装石が、自分の手についてた糞まで舐めとってしまったようだ。

「デェ・・・デェェ」
そしてばつの悪そうな表情でこちらを見つめる・・・。


・・・本当に馬鹿なんだなぁ・・・。
しみじみと、本当に、心の底から、そう思った。

普通の人なら、愛想をつかすだろう。
あんな馬鹿な醜態を見たら、誰だってそう思うだろう。

でも、俺の心は違っていた。


「なぁ、おまえ」
「デッ、デェ?」
俺は中腰になり、その野良実装に話し掛けた。


「おまえ、馬鹿だなぁ」
「・・・デ?」
「お前くらい馬鹿だったら、あいつも死なずに済んだのになぁ」
「デ〜?」
実装リンガルが無いので、実装の言うことは勿論、こちらの言うことは伝わっていない。
?な顔をしていた野良実装だが、親身に話し掛けてくる人間を「飼ってくれる」と
徐々に思い始めたようだ。

「なんだ、飼って欲しいのか」
「デスゥ〜」

野良実装は媚びのポーズをとり、しきりにこちらの表情を伺っている。

(あいつ以来、実装石は飼わないと思ってたのにな・・・)
(これだけ馬鹿なら・・・もう、あんな思いはしなくてすむに違いない・・・)


1週間ぶりに、男は実装リンガルのスイッチを入れた。


『ニンゲンさんは、虐待派デス? それとも愛護派デス?』
『ワタシの変な踊りを見ても暴力を振るわなかったところをみると、虐待派ではないとお見受けするデス』
『ママに言われたデス。賢いと、虐待派に眼をつけられるデス』
『馬鹿のフリをして過ごすデス、と教わったデス』
『でもニンゲンさんは、馬鹿な実装を好まないとも聞いたデス』
『万が一飼われる事になった場合は、馬鹿のフリはしなくていいデス、と教わったデス』
『ニンゲンさん、もしかして飼ってくれるデス?』
『一生懸命仕えるデス、トイレも守るデス、ご主人様に感謝を忘れないデス』

「・・・・・・・・」
『どうぞ、よろしくお願いしまデギャアアアア』


・・・俺の拳が、野良実装の頭を180°曲げた。
死んだかどうかはわからなかった。
涙で前が見えなかったまま走り去ったからだ。

俺は泣いた。割と激しく泣いた。
もう絶対飼わない。もう絶対に実装石なんて飼わないもん・・・

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