その蛆実装は公園のトイレの個室、和式便器の中で、親実装から体の下半分を突き出した姿に なっていたところを人間に発見された。 蛆実装ながら体は仔実装の二倍ほどあり、親実装の総排泄口に胴がひっかかった状態だった。 二色の血の泡を吹いて悶死していた親は、蛆実装を産みきれないまま力尽きたようだ。 発見した人間は彼女たちの処置に困ったが、少々変わり者だったようで、催していた便意も忘 れて意を決し、便器の中で横たわった親実装石の服を掴んで彼女の体を持ち上げた。 そうして便器の脇に寝かせると、親の尻に引っかかったまま蛆実装が荒々しく振り回していた 尻尾を片手で掴み、もう片方の手で親の身体を押さえながら引っ張ってみた。 蛆実装の体は抜けず、代わりに下の足の付け根から尻尾までの服が剥けるようにして取れた。 産まれたばかりの瑞々しい、綺麗な蛆実装の肌が露わになった途端、悲鳴が聞こえてきた。 人間には仔実装石の声のように聞こえたが、周囲を見回しても姿は見えず気配も感じなかった。 蛆実装の声にしては、頭が親の腹の中で詰まっているとは思えないほどハッキリと聞こえた。 空耳かと思いながら、再び人間が蛆実装の尻尾を掴んで引っ張ると、また幼い悲鳴がした。 しかも今度は悲鳴が途中から嘔吐するような気味の悪いものに変わり、異臭までも漂ってきた。 気のせいでないとわかったが、人間には段々と動きが鈍ってきた蛆実装の方が気がかりだった。 人間は今度こそ親の死体から引っこ抜いてやろうと、蛆実装の震えている下の足を人差し指と 中指で挟むようにして、尻尾よりも上を掴んで持ち上げた。 すると、生暖かく粘り気がある、気持ちの悪いものの感触が指先へ伝わり人間が顔をしかめた。 蛆実装の総排泄口は下の足から僅かに下がった辺りにあり、軟便をしょっちゅう漏らすものだ。 蛆実装の胴に触れるなら、一緒に軟便まで触れるくらいのことはあって然るべきものだった。 気を取り直して引こうとする人間の耳に三度、掠れた悲鳴と嘔吐く音が聞こえた。 しかも今度は、何か液体らしきものが床へ零れる音までしてきた。 そこで人間が驚いたのは、それらが自分のすぐ間近、なんと蛆実装の方から聞こえることに気 付いたからだった。 相変わらず上半身を親の屍骸に埋めて僅かに身悶えするばかりの蛆実装を、人間が見つめた。 人間には、声の出所を確かめたい思いと、それを恐れて避けたい思いの、両方があった。 ここで蛆実装から手を離せば、改めて触れるだけの度胸は無いことだけが、はっきりしていた。 だから歯をくいしばって蛆実装を親の死骸から引き抜いた。 親の総排泄口の肉をめくっているような湿った不快音をさせながら、ゆっくりと蛆実装の太い 胴の続きが現れて、それを過ぎるとあっけないほど軽く蛆実装の全身が抜け出てきた。 が、親の胎内から出た直後に必ず発するはずの、実装石独特な産声が無かった。 蛆実装の顔を慌てて見ると、赤と緑の鮮血に塗れた中で、その目と口は閉じられていた。 産まれた体に緑の糞が付いているのは普通なのだが、血が付いているのは見たことがなかった。 それに、ほぼ蛆実装の顔だけが血で汚れていた。 胎内で何があったのか、怪訝な顔をした人間は、思わず親実装石の総排泄口を覗こうとした。 既に縮んで小さな穴になっていた親の総排泄口は、何かに塞がれていた。 それが仔実装石であり、蛆実装の姉妹の体だと咄嗟に判断したのは状況によるところもあった。 仔実装石のものらしき頭部が、蛆実装と代わって総排泄口に挟まっていたのだ。 しかし、その仔の片耳が不自然に短く、それが恐らくは千切れ、断面からは血が流れ出た跡が あったことの理由までには、その人間の考えは及ばなかった。 蛆実装は口から何か小さな塊を床に吐きだしたかと思うと、初めて、腹の底から出すような重 く長い鳴き声をトイレの中に響かせた。 いつの間にか、目を泳がせながら茫然自失としていた人間は、暫くしてはたと我に返った。 焦点が合った人間の眼の先では、その手から抜け出そうとするように、騒がしく鳴き続ける蛆 実装が体を左右へ揺すりながら前へ進みたがっていた。 手を離してやろうかと思ったが、その前に確かめておきたいことがあった。 痛がらせないように、ゆっくりとやさしく、大きな蛆実装の体を仰向けにひっくり返した。 産まれ出たばかりの蛆実装は、外の明かりが眩し過ぎるのだろうか、まだ目を固く閉じていた。 丸みを帯びた腹の上で四本の足が、親に埋まっていた時よりも元気に跳ねるように動いていた。 その様子を見て人間は僅かばかり安心しながら、蛆実装を掴んでいた片手を静かに離した。 指が触れていたのは、もともと緑の軟便と、より濃い色の赤と緑の血が混ざった粘液だった。 それに塗れていた蛆実装の総排泄口の辺りを凝視して、人間はおかしなものに気付いた。 総排泄口の上で、左右一つずつ、赤と、緑の、小さな丸いものが肌に付いていたのだ。 他の蛆実装にそのようなものが付いていたのを見たことはなく、話にも聞いたことはなかった。 その時、蛆実装が鳴いた。 いや、蛆実装はずっと休むことなく鳴き続けており、その声が音量を増したわけでもなかった。 鳴いたのは、蛆実装の総排泄口だった。 まるで口のように三角形に開いたかと思うと、奥から弱弱しく鳴き声を発したのだ。 その声はすぐに嘔吐するようなものに代わり、実際に、総排泄口からは血便が溢れ出てきた。 蛆実装の尻尾が小刻みに震えていた。 人間は血の気が引くのを感じながら、よろめきつつ立ち上がり、背後の壁へもたれかかった。 もたれかかったまま、蛆実装の、下にある小さな目と、視線が合った。 総排泄口が本当に口でもあるなら、あの二つの丸いものは、目だったことになるのだ。 外へ走って逃げ出した後、その人間は二度と公園のトイレへ足を踏み入れようとはしなかった。 後日、話を聞かせた友人が同じトイレへ確認しに行ったらしいが、何の痕跡もなかったという。 仔実装の二倍ほどもあった蛆実装、しかも下腹部にもう一つの顔があった蛆実装。 そんな話を聞かせても誰にも信用されず、実物を見せることも出来なかったため、その人間は 諦めて、誰かに話すことをやめてしまった。 END
