タイトル:【獣】 Gの旋律
ファイル:実装獣 前編.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1865 レス数:0
初投稿日時:2008/06/09-00:30:37修正日時:2008/06/09-00:30:37
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 − Gの旋律 実装獣 前編 −


 デェ〜プププププ!

どこからか、下卑た成体実装の馬鹿笑いが響いてくる。

「実装石は糞蟲だ・・・」

アキラの呟きが闇夜に吸い込まれていく。
今夜はいつもとは違い、自宅のアパートより離れた「みのり市第3公園」を訪れていた。 
アキラは夜の闇の中、なお黒々と生い茂る植栽に囲まれた一画に、外灯の明かりを受ける事も無く佇
んでいる。

 テチャァーー! テチュワーー!

今度は仔実装の騒ぐ声が聞こえてくる。

「仔実装は糞蟲だ・・・」

面白くも無いといった感じで、ボソリと呟く。

 レチィーー! レチィーーー!!     レヂュエ゛ッ!!…

「蛆も、親指も、糞蟲だ・・・」

この騒ぎは・・・・同属食いに襲われた一家のものか・・・・、とアキラが考えをめぐらせていると
突如騒ぎが大きくなる。
バタバタとダンボールハウスの中で暴れる音と共に、先程の下卑た成体実装の悲鳴が聞こえてくる。
その悲鳴が近づいてきたかと思うと、アキラの右手の植え込みから実装石が飛び出してきた。
マラ実装だ。
ピクリと、アキラの眉間にシワが寄る。
しかし、全身ズタボロに切り裂かれたマラ実装は、闇と同化した全身黒ずくめのアキラには気づかず
に、泣きながら走り過ぎて行く。

バールも特殊警棒も打ち下ろす事無く、アキラの両手はズボンのポケットに突っ込まれたままだった。
虐殺派のアキラが、マラ実装に手を出さず見送ったのには訳があった。
実装石捕獲依頼などの、実装石関連のアルバイトの顧客の中に「博士」と名乗る人物が居る。
アキラは「博士」の依頼で、実装石虐待の趣味を持ち始めたという、とある少年を探して第3公園を
訪れていたのだ。

 ガサガサーッ!

逃げたマラ実装と入れ替わりに、何かが頭上の木々を揺らしてアキラの数歩手前に落ちてきた。
いや、降りてきた   ・・・が正解のようだ。
木々から地面に降り立った「それ」は、その手足に実装石にはありえない長い爪を生やしている。
実装獣、それも先程の飛翔を見れば解るように、己の実装石離れした身体能力を使いこなす「覚醒」
した個体なのだろう。

 デッ!・・・

実装獣の眼は闇夜のわずかな光も逃さず網膜に送り込む。
その目が捉えたものは、闇と同化し佇む人間。
黒いキャップ、黒いTシャツに黒い作業着、黒いダブルピンベルトに黒い作業ズボン、黒いコンバッ
トブーツ、背には黒いザック。
そして・・・右手には赤と緑のL字型の鉄塊。
闇と同化した「黒」が放つ違和感に、実装獣は思わず身構える。

「・・・やるか?」

「黒」の口と思わしき部分が、グッパリ・・・と開いたように、実装獣にはそのように見えた。
笑っているのか? そう実装獣が思った時に、遠くの方〜 公園の入り口辺りに人間達の声が聞こえ
てきた。
「黒」は実装獣に一瞥をくれると、踵を返し声の方に歩き出す。

「実装獣は・・・糞毛蟲だ・・・・」

そういい残す声の主の右手には、もうすでに鉄塊は握られていない。
実装獣は、「黒」が公園の植栽の壁に消え去るまで、まるで固まったように見送った。
優しい人間、怖い人間、普通の人間、そのどれでも無い異様な者・・・・
はっと我に返った実装獣は、襲われた実装一家のダンボールハウスへ帰らねばと、再び木々の中へと
帰っていくのだった。



アキラが公園の入り口に近づくと、数人の人影が集まっているのが見えた。
人影は中学生のようで、自転車を脇に止め、何かを話し合っている。
と、その中の一人を取り囲み小突き始めたではないか。

「たった3匹で勝てる訳ないだろ、ビック・マラーが勝つんだよ」
「そうだそうだ! そしてお前はビック・マラーにも、あの3匹にも勝てないチキンなんだよ!」
「ぼ・・・僕は・・・チキンなんかじゃな・・・ぃ・・・・」

口答えするなと突き飛ばされ、よってたかって踏みつけられる少年。
多勢に無勢、些細な事から始まる子供特有の残忍なお祭り・・・・
さながら糞蟲だぜと、アキラは苦笑いで少年たちに近づく。

「わぁ!? あ、あああんた、誰だよあんた!?」
「うわあ! ビックリしたあ!!」

苛めていた少年達は合計5名、気配無く現れたアキラに口々に驚きの声を上げる。
蹲っていた少年も顔を上げるが、そこに居るのはお世辞にも正義の味方参上とは言えない、不気味な
人影が一つ。

「何だよあんた? オレ達に文句言いに来たのかよ?」
「お前達が何をしようと知った事じゃない。俺が何をしようと周りの住民が無関心なようにな」
「う・・・・」

そっけない、そして不気味な意味合いを含んだ返答に少年達は二の句が継げない。
誰とも無く後ずさり、自分の自転車にまたがるとあたふたと逃げ出す。
一人取り残された少年は蹲ったままアキラを見上げる。

「お、お兄さん誰なの?・・・ 何してるの?・・・・」
「俺の名はアキラ、仕事中だ」

仕事中という言葉を聞いて、少年はほっとする。
体にフィットした作業着姿は、その配色は別として警備員か清掃員か、とにかくその様な類の作業員
なのだと都合よく少年に解釈させてしまう。

「こちらからも聞きたい事がある。君の名は? 今は夜の10時前だ、何をしてたんだい?」
「ぼ・・・僕の名はミノリ・・・友達と・・・その・・・・・」
「よってたかって足蹴にするような奴は友達とは言わない。何をしてたんだい?」
「その・・・・実装石を・・・見に・・・・・」

そうか、君が依頼主である「博士」の息子か、アキラは心の中で呟く。
これだけ口が重いという事は、やはり実装石虐待をしに来たのか。

「見るだけ・・・か? 虐待でもしに来たんじゃないのかい?」
「ちっ、違うよっ!! ぼ・・・僕は違う・・・」
「ふむ・・・・。じゃあ、先程の子供達が言っていた『ビック・マラー』ってのは誰だい? まさか
 夜の公園で決闘でもする予定だったのかな?」
「え?・・・。ビック・マラーは・・・・」

 デギャア! デヒィ! デヒィ! デヒィ!

外灯の明かりに照らされて、一匹のマラ実装が逃げてくる。
その姿は先程より酷い有様になっていたが、確かにあのマラ実装だ。
そしてヨタヨタと必死で逃げるその後ろから、かなり大柄な実装石集団が、手に手に棒を振り回し追
いかけてくる。

「デェ!・・・ ニンゲン! ワタシを助けるデスゥ!・・・」

逃亡者はアキラの前にバタリと倒れこむと、開口一番にふざけた事をぬかす。

「いいだろう・・・今すぐ楽にしてやる」
「デエ!?」

「待つデス! 糞ニンゲン!」

アキラが高々とバールを振りかぶったその時に、一際大柄な実装石が待ったをかける。

「その糞蟲はワタシが直々にあの世に送ってやるデス」

傲岸不遜な抑揚で死刑宣告を告げる一際大柄な実装石の股間には、これまた大きなマラが天を突く。
その後ろの取り巻き連中も、実装服を盛り上げる膨らみからしてマラ実装なのだろう。
それも通常のマラ実装よりも一回りでかい体格だ。

「そいつがビック・マラーだよ・・・・ ここのマラ実装を従えるボスなんだ」

ミノリ少年が指差す・・・マラ実装達の中でも更に大柄なボス、ビック・マラーは、不器用な土下座
で命乞いをする傷ついたマラ実装に歩み寄ると、その巨大なマラでひたひたと頭を打つ。

「このウスノロがデス! ご飯を集められないどころか、この公園の支配者の証である『マラ棒』を
 無くすとは、とんだ失態デスッ!」

ビック・マラーはその手に持つマラ棒〜 どうやら人間が捨てた60cmはありそうな特大の「すり
こぎ棒」を、夜空に突き上げ惚れ惚れと見上げる。
そのマラ棒に染み付いた赤や緑の染みが、普段のマラ棒の活躍ぶりを不気味に物語っている。
取巻きのマラ実装達も、大きさは違えど「すりこ木棒」は必携のようだ。
どうやらこのマラ棒が、マラ実装集団の、ひいてはこの公園の支配者層のステータスなのだろう。

「しかもデスッ! あの新参者の実装獣に奪われるとはデッスッッ!!!」

 ドベシャーッ!!

打ち下ろされるマラ棒は、命乞いをするマラ実装の頭を易々と打ち砕き、口元まで両断するではない
か。
どうやら、でかい棒を持っただけの、ただのマラ実装ではないらしい。
ビック・マラーはマラ棒に付いた血肉を骸の実装服で拭いながら部下に命じる。

「お前達、このクズを始末するデス」
「デスー!」

総勢14匹のマラ実装が、一斉に死肉に群がり平らげてしまう。

「お前は食わないのか?」
「デ? ワタシはこんな物食べないデス。 テチテチと逃げ回る仔実装肉が最高デッスンw」
「チッ・・・」

「お前達! 今夜は引き上げるデス!」
「デスー!」

ビック・マラーは部下が全て平らげた事を確認すると、その巨大なマラとマラ棒を誇示しながら悠然
と帰途に着く。



「ふむ・・・。数ヶ月ご無沙汰している間に、すっかり様変わりしてしまったな・・・」
「お兄さん知らないの? ビック・マラーは僕たちの間では有名だよ」
「ん〜、あのさ、ミノリ君はこの公園の事詳しそうだから、色々と教えてくれないか? さっきの質
 問にもまだ答えてもらってないし」

そう言って、アキラは手近なベンチに腰掛けた。
この時間帯ならば、人間に媚びる糞蟲共も群がる事は無い。

     ・
     ・
     ・

最初は核心をはぐらかしていたミノリ少年だったが、実装石に詳しそうなアキラに親近感を持ったの
か、堰を切ったように話し始めた。

数ヶ月前に現れた巨体のマラ実装、つまりビック・マラーはその巨体だけでなく多少悪知恵も回り、
めきめきと頭角を現してこの公園の支配者にのし上がった事。
元々マラ実装自体が個体数として少数派なのだが、ビック・マラーが標準より一回り大きな体格のマ
ラ実装を集めて支配者層を形成し、マラ棒をその支配者層のシンボルにしている事。
現在は、どこからともなく現れた3匹の成体実装獣親子が、この公園の悲惨な現状に同情して、少数
の優良な実装石の護衛を務めている事、等々だ。

そして一番の要点は、ミノリ少年は苛められっ子だったという事。
なんのかんのと話をこじつけて絡んでくる為に、最近趣味にしている実装石の観察を人気の無い夜半
を選んでコッソリ来ていたそうだ。
しかしとうとうバレてしまい、先程の場面となった訳だ。

アキラはミノリ少年には明かしてないが、アキラの依頼主である「博士」の依頼は「夜に出歩いて繰
り返している、息子の実装石虐待を止めさせて欲しい」なのだ。
ところが問題の真実は更に深刻だったのだ。
夜半の公園で集団暴行を受けているようでは、もはや警察沙汰ではないか。
だがアキラは知っている、警察では解決出来ない事を。



「先生やお父さんには相談しないのか?」
「だっ・・・ ぼ、僕一人でなんとか・・・」
「出来るのか? その服の下は痣だらけだろ、それも今夜の傷だけじゃないんだろ?」
「!!・・・ぅ・・・・だって・・・」

「一撃くれてやれ」
「え!?」
「警察沙汰になってもいい、死なない程度に石でも棒でも持って一撃喰らわせてやれ」
「そっ! そんなの! ・・・無理だよ・・・・あいつら喧嘩強いし・・・5人もいるし・・・」

「まるで糞蟲だ・・・・!! 何もせずに嵐が過ぎ去る事を祈るだけしか出来ない実装石の様にっ!
 弱いと見ればよってたかっていたぶる実装石の様にっ!!」

怒りの炎を宿したかのような眼でミノリ少年を睨みつけるアキラ。
その怒りが向けられているのは、忌み嫌う実装石か、問題の5人の少年か、不甲斐無いミノリ少年か、
それとも・・・

「そんな・・・お兄さん無茶だよ! 人事だと思って僕の怖さも知らないで・・・」
「知っている!!」
「え?・・・・」

とうとう泣きそうになったミノリ少年だが、思わず動きが止まってしまう。

「よく、知っている。君よりも、よく知っている」
「ど、どういう事?」
「俺も、元々は酷い苛められっ子だったからだ」

ミノリ少年を見つめる眼は、物悲しい眼に変わっている・・・

「でも無理だよ! 怖いんだよ! 無理なんだよぉ!」
「でもじゃない、やってみなければ判らないだろ。それともこのまま生き地獄に埋もれる気か?」
「・・・・・・・」

図星を突かれてぐうの音も出ない。
お母さんは勉強しろしか言わない、お父さんは仕事ばっかりだ、先生なんて見て見ぬふりだ、じゃあ
警察って助けてくれるのか? 虐めを止めるように言ってくれるのか? 本当に?

・・・・・・・・そんな事・・・5人組に言ったら・・・・僕はどんな仕返しされるの?・・・・

ミノリ少年の心に、どこにもぶつけ様の無いドス黒い影がのたくる。
結局みんな口だけだ!!
何もしてくれない!!
何も変わらない!!

「だったら! お兄さんは僕に何をしてくれるのっ!? えっ・・・偉そうな事!・・・」
「何かをするのは・・・君の役目だ」
「うっ・・・うううぅっ・・・・」

至極、正論だ。
今夜会ったばかりの赤の他人に何の義理があるというのか?
少年自身も解り切っている事だ、が・・・

「結局っ・・・お兄さんだって自分で何かをするのが怖いんじゃないか!! そうでしょ!?」
「・・・今更・・・・怖い物なんて無い・・・・ 後悔は山ほどあるが・・・」

「じゃあ!・・・じゃあ、あの実装獣3匹と戦える!? 勝てる!? 実装獣って強いんだよ、野犬
 の様に危険だってお父さんが言ってた・・・ 無理でしょ? 怖いでしょ? 3匹だよ!?」

ダメだ! あの3匹の実装獣は無関係だ!
ミノリ少年のちっぽけな良心がストップをかける。
あの実装獣は善良な親子だ、マラ実装から他の親子を助ける場面を見た事がある。
僕が好奇心で餌をやった時も、丁寧に頭を下げて、お腹を空かせている他の仔実装にあげていた。
第一このお兄さんが危険だ、お父さんの言う事が本当なら、このお兄さんは大怪我じゃ済まないかも
しれない。

「俺が、戦って勝ったら、どうだと言うんだ?」
「お、おおお兄さんがそんなすごい勇気を見せてくれたら、ぼっぼぼぼ僕だってっててて!・・・」
「僕だって戦うさ、か?」
「うっ・・・うん!・・・・」

ちっぽけな、ちっぽけな良心がドス黒い影と興奮に飲み込まれてしまう。

「じゃあ! やって見せてよ! あの3匹の実装獣親子をやっつけてみせてよ!!」
「ふ・・・いいだろう」

なんと無謀な事か、アキラも実装獣の事を知らぬ訳ではない。
実装獣は滅多に居ない種類であり、故に実装石が大多数を占める実装社会の中では迫害の対象なのだ
が、一旦己の身体能力と爪の威力に目覚めた個体の戦闘能力は野犬のそれだ。
いかに得物を手にした人間とはいえ、野犬3匹を相手にするなど物好きどころの話ではない。

「実装と名の付く相手に、一歩も退く訳にはいかない。俺は・・・糞蟲じゃない・・・・!」

双眸に暗い炎を湛え、ゆらりと立ち上がるアキラ。
ミノリ少年は、ふと、悪魔と契約を交わしたかのような錯覚を覚えてしまう・・・

     ・
     ・
     ・

アキラとミノリ少年が話し込み始めた頃、あの実装獣は襲われたダンボールハウスに帰り着いていた。

「ママ・・・ みんなは?・・・」

中に居たママと呼ばれた実装獣は、たった1匹残った仔実装を抱え、力無く首を振った。

「この仔の親に会わせる顔が無いデス・・・」
「妹ちゃんは悪くないデス。ワタシはお水を汲みに、お姉ちゃんはご飯を探しに行った親実装の護衛
 に付いて行ったデス。ワタシが離れなければ・・・・・」
「ママこそ悪くないデス!」

2匹の実装獣親子は力無く黙り込んでしまう。

公園のこの一画に住んでいる実装石達は、比較的に糞蟲性が薄い、程度の良い少数派の実装石だ。
ビック・マラーが過酷な階級制度を押し付け、14匹の部下が残りの実装石を使役し公園や餌場を独
占している為、少数派の実装石は夜半にしか活動できない。
今夜はその裏をかかれ、餌探しで手薄になったところを襲われたのだ。

「いずれは、あのデカマラ実装と決着を付けなければならないデス・・・・」
「ママ・・・親子3匹なら勝てるはずデス・・・・。でも、できるだけ傷つけ合いたくないデス」
「お前は優しいいい仔デス」

親実装獣が目を細めて妹実装獣をなでる。

確かに妹実装獣の言う通りだ。
ビック・マラーは体も大きく力の強いマラ実装の中でも超規格外の存在であり、その14匹の部下も
一回り大きな体格を持ち武器を使う事を知っている。
しかし、例え他の奴隷階級の実装石をも駆り出した総力戦になったとしても、それでも覚醒した実装
獣親子3匹の優位は動かないであろう。

悪知恵の回るビック・マラーも、リスクを恐れて直接対決を躊躇っている。
そして隙あらば計略を持って実装獣親子を屠ろうと、見張りを付けて耽々と時機を伺っているのだ。
親実装獣は夜空を見上げ、溜息をつく。

実装も人間も、それぞれの思惑も知らずに夜を明かす。
アキラに勝算はあるのか。
ビック・マラーの支配は続くのか。
そして、実装獣親子の運命は。



 − 後編に続く −



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