『ヤンデジ☆ママのグルメレシピ♪』(ヤンデジ☆PART2 ) ------------------------------------------------------------------------------------------------ きょぬー神は、クマー! と対峙していた。 シャケやハチミツが大好きな、ある日の森の中で女性を追いかけ回したりする、あのクマー! である。 最寄りのインターチェンジから、さらに二時間レンタカーぶっ飛ばして辿り着いた、とある寒村。 そこから山中へ分け入って徒歩一時間ばかり。 オフの過ごし方といえば地元の公園で糞蟲観察するばかりだった似非アウトドア派の俺が音を上げかけた頃。 哺乳綱ネコ目クマ科クマ属に分類される特定動物(※)たる、そやつが姿を現したのである。 きょぬー神の手にはトレッキング・ポールすなわちトレッキング用の杖。 それを上下逆つまり石突側を握ってT字型のグリップを天に向けて振りかざしている。 ……あー、そうやって逆さに持つと例のアレ「のようなもの」っぽく見えるやねー。 きょぬー神とクマとの距離は、およそ十五メートル。 そして、きょぬー神から三メートルほどクマに近づいたところには。 傍迷惑なことに俺と同じトシアキと何代目かわからないけど名づけられた親指サイズの糞蟲ちゃんが。 無様に尻餅ついてクマを見上げ、がたがた震えながらパンコンやらかしている。 クマの眼には入ってなさそうだけど。特定動物の視線が向いている先は、きょぬー神様オンリー。 「……としあき、下がりなさい」 きょぬー神が仰せられた。 いや、そう言われてもな。 神でも何でもない俺だけど武器もないけど、きょぬーさんを盾にしてクマから逃れようとは思わない。 かといって、きょぬーさんをかばって自分が前に出ることもできないのだよ。 足がすくんじゃって。情けないけど。 だから、いまは神様と横並び。 「戻ってらっしゃい、としあき」 きょぬー神がもう一度、宣(のたま)って、それが糞蟲ちゃんに向けられた言葉だと理解した。 クソッ、まぎらわしい名前だぜ糞蟲のクセに。 名付け親はきょぬー神様なので口に出して文句はつけられないけど。 「…レッ…レェェェッ……ブリブリブリ!」 親指蟲ちゃんが小さな悲鳴とともに、また派手なパンコンやらかしてくれた。 臭い。そのちっぽけなゴミカスみたいな身体から、どうしてそこまで大量の糞がひり出されるのか。 「……クマァッ!?」 クマの視線が、ぎろりと親指糞袋に向けられた。糞のニオイがお気に障ったらしい。 「…レチャァァァッ…!? ブリブバブボッベッ…!」 親指糞蟲は、ぶるぶるぶりりっと震え上がりつつパンコンすると。 何を思ったか、子供の落書きを立体化したみたいにチンケな丸い手を口元に当てて小首をかしげ、 「…レッチューン♪」 クマに向かって媚びてみせた。 「……クマァァァッ!!」 クマ大激怒。ネコ目クマ科クマ族でも糞蟲風情に媚びられるのは嫌いですかそうですか。 ……とか、余裕ぶっこいてる場合じゃねぇし! 「クマァァァァァッ!!」 クマが咆哮とともに糞蟲へ突進し始めるのと、 「レヂャァァァァァッ!!」 そのままパキンしてもいいほどの、むしろパキンしやがれな悲鳴を諸厄の根源たる親指ウンコが上げるのと、 「……トシアキッ!!」 アレ「のようなもの」を振りかざし、きょぬー神が前へ駆け出したのが同時だった。 一瞬、遅れて俺は叫ぶ。 「……双葉ちゃんッ!!」 足がついていかない自分が情けなかった。 きょぬー神こと俺の可愛い双葉ちゃんは糞蟲をかばうかのようにクマへ向かって走り。 そして———— ※特定動物: 動物愛護管理法に基づき、人の生命・身体・財産に害を加える恐れがあるとして政令で定められた動物種。 飼育・保管する場合には都道府県知事の許可を必要とする。 実装石を対象に加えるべきかは長らく議論となっている(愛護派及び調教系虐待派による強硬な反対有り)。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ ——話をどこまで遡るべきだろうか。 きょぬーさんこと双葉ちゃんと、俺こと敏明の出会いの顛末は前作『ヤンデジ☆ママの反省ノート』を参照。 ついでに俺の友人がサツマイモ大の糞蛆をいたぶる『蛆専』なんてスクもロダにあるので暇なら読んでね♪ それはともかく。 双葉ちゃんから愛の告白を受けた俺は、なし崩し的に彼女とつき合い始めたのだった。 だって逆らえないし。神には。 教えてもいないのに住所を突き止められて、大学もバイト先もバレたんだぜ? いや、下宿のアパートなんて引っ越せばいいしバイト先も変えればいいけど、大学はね。 卒業まで、まだ二年あるし。できれば無事に(無傷で)四年で卒業したいし。 そして、きょぬー神こと双葉ちゃんは、神の神たる所以を発揮し始めたのである。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ ある日、双葉ちゃんが電話で言いました。 「こんど敏明さんの家に、お料理を作りに行っていいですか?」 「ごめん……気持ちは嬉しいけど、俺って重度の偏食で食べられないものが結構あるんだよね」 「でもカレーとかカツ丼とか天ぷらそば、それに青椒肉絲定食は好きですよね、いつも学食で食べてますし?」 「え……、えっと……?」 「ニンジンもピーマンもパセリすら残さなくて、男らしくてカッコイイ食べっぷりだと感心してたんですよ?」 「ハハハ……見てたんだ、双葉ちゃん……いつの間に……」 「で、何か好き嫌いがあるっておっしゃいましたっけ?」 「……すいません、クサヤの干物だけ勘弁して下さい」 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 翌日、双葉ちゃんが訪ねて来ました。スーパーの買い物袋に加えて大きなボストンバッグを二つ提げて。 「使い慣れた道具でお料理したいですから、家にあるのと同じものを買って来たんです」 と、台所の調理台に並べ始めたのは、包丁、包丁、また包丁。 サイズも形も、よりどりみどり♪ もう一つのボストンバッグからは水槽が出てきました。エサ皿や給水器、仔実装用のベッドと一緒に。 ちゃぶ台の上に水槽をセッティングしながら(食事のとき邪魔と思うけど)双葉ちゃんが説明する。 「敏明さんの家にお邪魔している間、トシアキもくつろげるように家の水槽と全く同じにしてあげるんです」 「レチィッ♪」 キャリーケージから新しい水槽に移された親指蟲は糞ナマイキに得意げだ。 俺は苦笑いで、 「そっかー、じゃあ、お泊まりもできちゃうなー、ハハハ……」 「敏明パパのおうちにお泊まりさせてもらう、トシアキ? ママは帰るけど一人でお泊まりできる?」 「レッチューン♪」 「媚びるな。……って、えっ、双葉ちゃんは帰っちゃうの?」 「私も泊まらせて頂いていいんですか?」 「いや……その、もしよければ……ハハハ……」 ここまできたら乗りかかった船。Nice boat. 逃れられない運命ならせめて一度くらい、いい思いさせてくれ。そのきょぬーで。 ところが双葉ちゃん、困ったような顔をして、 「でも私、寝言ひどいみたいで。一度泊まりに来た友達、もちろん女の子ですけど翌朝、顔がひきつっていて」 「……え?」 「一緒に学校、行く筈だったのに具合が悪いって帰っちゃって、それきり一度も会えないまま転校して」 「…………」 「だから、どんな寝言だったのか自分ではわからないんです。敏明さん聞いてみたいですか?」 「……ハハハ、世の中きっと聞かないほうが幸せなこともあると思うから……遠慮します……」 朝まで寝かせないよとか言える根性、俺には無かったです。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ そしてエプロンを着けた双葉ちゃん、新品の包丁にもかかわらず、わざわざ一本ずつ研ぎ始めました。 「……あの、敏明さん?」 「わあっ!? ちょっと双葉ちゃん、包丁を握ったまま振り向いたりしたら危ないよ!」 「大丈夫です、刃物の扱い慣れてますから。こう見えても居合いの有段者ですよ、私?」 「こう見えてもというか、それは例のアレ『のようなもの』の扱いで薄々気づいてたけど……で、何?」 「敏明さんの部屋の合い鍵、預らせて頂いていいですか?」 「……え?」 「そうすれば敏明さんが留守でも、お料理を作ったり、お掃除しに来られますし」 「いや……そこまでしてもらったら悪いから……」 「悪くないですよ全然」 「いや、でも……」 「悪くないですよ全然」 「だけど……」 「悪くないですよ全然、というか全然悪くないです」 「……とりあえず包丁を置いてから話さない?」 「包丁の話はいいです、それより合い鍵を預らせてください」 「……わかりました、すいません」 俺はヘタレです。 我が身かわいさのあまり余計ドツボにハマってます。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ それから双葉ちゃん、いよいよ料理に取りかかる、筈が—— 「…テッチューン♪」 調理台の上でスーパーの買い物袋を広げてみたところ、見事に託児されてました。 パックを喰い破られた肉や、あちこち齧られた野菜の上に糞にまみれて直立する醜悪矮小な不快ナマモノ。 ……でも、すいません。俺そのとき、これはチャンスと思っちゃいました。 何せ、根っからの観察派。 果たして糞蟲贔屓の愛護派が託児被害の当事者になったとき、どんなリアクション示すか興味あったんです。 仮にも双葉ちゃん、客観的にはともかく本人主観では立派な愛護派です。 その辺りの詳細は前作『ヤンデジ☆ママの反省ノート』をお読み頂くとして。 ついでに俺の友人がサツマイモ大の糞蛆をいたぶる『蛆専』(ry 「……敏明さんと私の愛の食卓を敏明さんと私の愛の食卓を敏明さんと私の愛の食卓を敏明さんと私の……」 ……あれ? おーい、双葉ちゃーん? はい、神モード入りましたー♪ 「……糞蟲風情が糞蟲風情が糞蟲風情が糞蟲風情が糞蟲風情が糞蟲風情が糞蟲風情が糞蟲風情が……」 「…テェッ? テ…テ…テッチュ…ン♪」 がたがた震えてパンコンやらかしながら懲りずに媚びる仔糞蟲。でもムダムダムダ。 双葉ちゃん、こないだマラ蟲を屠殺したときに言ってたものな。 ——好きなもの愛するもの以外は、人間でも実装石でも私にとってはゴミです—— 「…テ…テ…テ…テヂャァァァッ!? ……ブヂッ!!」 双葉ちゃんにつかみ上げられた糞蟲、まるで雑巾を絞るみたいに首ひねられちゃいました二七〇度ばかり。 どうやら託児に対する愛護派のリアクションを観察するには、神は適切ではないサンプルだったようで。 「…テ……テェェ………………パキン!」 双葉ちゃんの手の中でしばらく、ぴくぴく痙攣していた仔糞蟲、やがてぐったりして白目を剥きました。 というか眼球が白濁して、くたばりました。 「…テプププ♪」 水槽の中の親指糞蟲が嘲笑ってます。 死んだのは同属だろうに性格悪いなモマエも。トシアキって名前は返上しやがれ。 そして、そのタイミングで玄関のドアが乱暴にノックされました。 ——ドンドンドン! 「…デズデズデズゥ!!」 キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!! 間の悪さと運の悪さで地上最強のナマモノすなわち糞実装蟲。 わめき立てるダミ声からして成体つまり、たったいま縊り殺された仔糞蟲の親でしょう。 ちなみに俺のアパートの部屋は二階ですが、託児のためなら階段などものともせず上がって来るのでしょう。 この辺り、設定いい加減なところが糞蟲のデタラメ具合。 さて、双葉ちゃん。 ぽいっと仔糞蟲の死骸を買い物袋へ放り込み、調理台の上の包丁をつかんで玄関へ向かいました。 あら、包丁いっちゃいますか? いっちゃいますか? 俺はリンガル用意してスイッチ入れました。親糞蟲の遺言くらい聞いてやろうと思って。 ——がちゃり。 無言で玄関のドアを開けた双葉ちゃん。後ろから様子をうかがう俺。 外には、いかにも野良然とした薄汚れた成体糞蟲が、仔糞蟲を二匹と親指、蛆を各一匹従えて立ってました。 「デズデズデズデズデズデ……」 (こちらにワタシの仔がお邪魔してる筈デズきっと気に入ってもらえた筈デズよければワタシたち家族も……) テンプレ通りの戯言を、親糞蟲は最後までは口にできませんでした。 研ぎ上げられたばかりの神の包丁が、まるで豆腐でも切るように滑らかに動き、 「…デ……デ…………デデェェェッ!?」 (◎◆×▽■○▲□ ※翻訳不能) 親糞蟲は頭から股間まで、ぱっくり魚の開きのように斬り裂かれてしまいました。 うわっ、断面グロッ! 「デッ…ヒッ…………ヒデブデズゥッ!!」 まるで世紀末救世主に成敗された雑魚A(CV:千葉繁)のような断末魔の声を上げて親糞蟲、死亡ンヌ。 あー、そういや糞蟲って頭巾を剥ぐと、前髪と後ろ髪の生え方が世紀末雑魚のモヒカンみたいやねー。 すっぱり斬り裂く屠り方は北斗よりむしろ南斗風だけど。 そして、仔糞蟲ども。 「「「…テヂャァァァァァァァァッ…!!」」」「…レフー?」 (((ママァァァァァァァァッ!!)))(……オネチャたち、どうしたレフ?) 眼の前で母親を惨殺されて、大恐慌あーんど大パンコン大会。 硬直したり震えたり尻餅ついたりしながら脱糞かましてくれます。臭えよ。 蛆だけ何も理解できずに、ぽかんとした様子なのはお約束。 そして、そこから先の行動は四匹とも様々でありました。 まず先天的に空気の読めない蛆が、ころりと仰向けに転がって間の抜けた鳴き声を上げます。 「プニフー♪ プニフー♪」 (蛆チャは今日からこの家の飼い蛆チャレフ、ママがそう言ってたレフ、さっそくプニプニしてほしいレフ) その蛆を慌てたように抱き上げて、媚びてみせやがる親指蟲。 「…レッチューン♪」 (ニンゲンさんはじめましてレチ♪ ワタチは妹思いの良い仔レチ♪ 糞蟲じゃないレチいぢめないでレチ♪) 親を惨殺した相手に媚びて自分は生き残ろうとする辺り、立派な糞蟲行動と思いますがどうよ? 一方、仔糞蟲の一匹は何を思ったか土下座を始めやがりました。 「テチテチテチテチ! テチテチテチテチ!」 (ママが託児なんかしてゴメンなさいテチ! ワタチは反対したテチ! どうかこのまま見逃しテチ!) 謝っているようでいて全ての責任を親に転嫁。 託児がイヤならオマエだけ公園に残っていればよかったじゃん? しっかり親について来て、運良く家族ごと飼われることになればラッキーと思ってたんだろ、どうせ? そして仔糞蟲のもう一匹は至極わかりやすい糞蟲的態度に出やがります。 「テヂャァァァッ!! テッテッ!! テチャァァァッ!!」 (よくもママを殺してくれテチ糞蟲ママでもワタチの親テチ責任とってワタチを飼うのが謝罪と賠償テチ!!) 双葉ちゃん、死んだ親糞蟲の半分になった頭に包丁ぶっ刺すと、わかりやすすぎる仔糞蟲をつかみ上げ、 ——ぶぢっ! 「…テヂャァァァァァ……………………パキン!」 また首をひねって始末しちゃいました。でも今度は一八〇度、先ほどより怒りが薄らいでます? もしかすると残りの仔糞蟲と親指、蛆には生き残るチャンスあるかも。コンマ1パーセントくらい。 「託児は親の責任ね。そうね、そうかもしれない」 仔糞蟲の死体を放り捨て、残りの糞蟲どもを見下ろして言う双葉ちゃん。 その冷たい視線は依然、神モードです。 「いいわ、オマエたちは殺さない。でも喰い散らかした食材は責任もって始末してね」 双葉ちゃん、仔糞蟲と親指、蛆を両手で抱え上げると台所へ戻ります。 俺は親糞蟲の死体から包丁を抜き、双葉ちゃんの後を追います。 玄関先に転がる糞蟲の死体に包丁を突き立てたまま放置なんてマズいでしょ? 死体そのものは……まあ仕方ない。後で片付けるさ。野良糞蟲のはびこる町では、よくあることです。 「さあ、袋の中のモノを残さず食べなさい。肉片一つでも残したらお仕置きよ」 双葉ちゃん、調理台の上の買い物袋の中に生き残りの仔糞蟲どもを入れました。 神の手料理として俺の胃袋に収まる筈だった肉や野菜が、何の因果か糞蟲どもの糞袋に呑み込まれるとはね。 ……いや待て? 「…テェェェェェ…」 (袋の中でオネチャが死んでるテチ……ニンゲンさん、せめてどこかに埋めてあげてほしいテチ……) 仔糞蟲が懇願した。そう、袋の中には託児された姉妹の死体が入っていたのだ。 だが、神は冷徹に突き放す。 「ダメよ。私は袋の中のモノを全て食べなさいと言ったのよ」 「テヂャァッ!? テチテチテチテチィッ!」 (そんなっ!? ワタチは糞蟲じゃないテチ! 同属は喰わないテチ、ましてオネチャは食べないテチ!) 「レ…レッチューン♪」 (ニンゲンさん、ワタチはおあいその得意な良い仔レチ♪ おなかいっぱいだから許してレチ♪) 「レフゥ…?」 (オネチャがウンチ漏らしたまま動かないレフ。パキンしたレフ? とりあえずウンチ食べるレフ……) 「食べないと言うのね? なら、そのまま生ゴミになりなさい」 双葉ちゃんは仔糞蟲どもを入れたまま買い物袋の口をきつく縛った。 そして、袋の中のヤツらがテチテチレチレチ騒ぐのに構わず、袋を提げて玄関の外に出る。 「テヂャァァァァァッ!!」「レヂィィィィィッ!!」「レフー?」 (ワタチは何も悪くないテチィッ!!)(可愛いワタチは助けてレチッ!!)(オネチャたち何を騒いでるレフ?) 双葉ちゃん、外の廊下に出ると、階下にあるゴミ捨て場に向かって買い物袋を振り上げ、放り投げました。 ——ひゅるるる……ベチャッ!! 見事、ゴミ捨て場に落下した買い物袋。湿った音とともに中で赤と緑の何かが弾けた。 仔糞蟲一家、全滅のようです。 硬い表情のまま(まだ神モード解除されませんか?)室内に戻る双葉ちゃん。 迎えてくれたのは愛する親指飼い糞蟲の心温まらない嘲笑でした。 「…レププププ…」 「……何がおかしいのトシアキ?」 俺でさえ、ぞくりとしたほど冷たい眼で水槽の中の親指を見やる双葉ちゃん。 親指糞蟲はさすがに慌てたように、まくし立てる。 「…レッ? レチレチレチレチ…!」 (……託児に失敗した野良糞蟲が成敗されたからレチ! 正義は必ず実現されるレチ!) リンガルを使っている俺には親指糞蟲の言いたいことは通じていたが—— 「ママが敏明さんのためにお料理できなくなったのが、そんなに面白いのねそうなのね?」 双葉ちゃんは親指の嘲笑を全く違う意味に理解して、水槽の中の相手をつまみ上げた。 「…レレッ? …レェェェ………………プチッ!」 (ママどうしたのレチ、怖いレチ! いつもの優しいママに戻ってレチ………………ギャァッ!?) 哀れ親指糞蟲。 自分が嘲笑った野良仔糞蟲と同じように首をひねられて、あぼーんです。 ……って、ちょっと待って? トシアキ死亡? 『ヤンデジ☆ブログ』の新マスコット、速攻退場? いやいや……そうならないことを俺は知ってるんだけど♪ 人気ブログ『ヤンデジ☆ママの反省ノート』の関係者だから知り得た舞台裏♪ 「……トシアキ、また動かなくなっちゃった……」 眼球白濁させて完全死状態の親指糞蟲を抱えて、魂の抜けたようにつぶやく双葉ちゃん。 「……またお店に連れて行かなきゃ……元気なトシアキに戻してもらわなきゃ……」 野良の糞蟲と同じように首をひねったのに親指だけは元気な仔に戻れるとお思いのようです、神は。 そんな双葉ちゃん、親指糞蟲を胸(きょぬー! 糞蟲には贅沢だ!)に抱えて、再度玄関を出て行きます。 そして俺には何も言い残さず階段を降り、アパートの敷地の外へ立ち去りました。 この放心モード、何度か見ているので俺は驚きません。 双葉ちゃんの行き先もわかっているので追いかけません。 俺は脳天から真っ二つになったグロい成体糞蟲の後始末にとりかかりました。 さっさと片付けないと死肉喰らいの野良が寄って来るからな。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 俺の観察派仲間に岩倉さんという人がいる。 観察派といっても四十過ぎの立派な妻帯者で職業はペットショップ経営。 そう、愛想はいいけど人の悪い岩倉さん。 店に客としてやって来る糞蟲愛護派どもと、その飼い糞蟲を観察して愉しんでいるのだ。 ちなみに岩倉さん当人はネコもオッケーだけど、どちらかといえばイヌ派だそうで。それはともかく。 岩倉さんと俺は観察派の集まるネットのコミュニティで偶然、家が近所と判明して親しくなった。 そして双葉ちゃんが親指糞蟲のトシアキ(初代)を購入したのも、偶然にも岩倉さんの店だった。 以前はミドリとキミドリという親仔の糞蟲を飼っていた双葉ちゃん。 天然な事故の繰り返しで何度も糞蟲どもに痛い目を見せたのは前作『ヤンデジ☆ママの反省ノート』参照。 ついでに俺の友人がサツマイモ大の糞蛆を(ry そのミドリとキミドリが前作で描かれたところの不幸な最期を遂げ、双葉ちゃんは新たに親指を飼い始めた。 ところが——である。 親指は成体や仔糞蟲よりもチリぃ。 身体が小さい分、成体なら軽傷で済む筈のところが生命に関わる大怪我になってしまうことが珍しくない。 まして飼い主は双葉ちゃん。飼われてる糞蟲にとっては悪意なき、きょぬーの疫病神。 前作『ヤンデジ☆ママの反省ノート』のエピローグで俺に抱きついてきた、あのあと。 さっそく、かましてくれちゃったんですよ。 ぽろりと親指入れたキャリーケージを手から落として、床に叩きつけられた衝撃で親指糞蟲、爆裂♪ 「……ああっ!?」 当の双葉ちゃんより俺のほうが驚いたね。 飼い始めたばかりの糞蟲をあっけなく死なせて、いったいどんな神モード発動かと。 ところが彼女、冷静だった。怖いくらい。 それもまた神の横顔の一つだと、すぐに思い知るのだけど。 「あら、トシアキ。おなかが弾けるほどパンコンして、仕方のない仔ね……」 ケージの中で肉片化している糞蟲を覗き込み、くすくす笑う双葉ちゃん。その眼は逝っちゃってます。 親指糞蟲に俺と同じ名前がつけられているとは、そのとき初めて知ったのですが。 「実装服も汚れちゃったわ、お店で新しいのを買いましょうね……」 双葉ちゃん、俺に背を向けて立ち去ろうとします。手にキャリーケージ提げながら。 そのときは慌てて追いかけた俺。 「ちょっと……双葉ちゃん!」 「どんな実装服がいいかしら? ピンク? ブルー? それとも色は緑のまま素材はシルクがいいかな……?」 しきりに声をかける俺に双葉ちゃん、全く反応しないまま歩き続けます。 そのときの俺は動揺しきってたんだね。双葉ちゃんの横を歩きながら何度も何度も呼びかけたりして。 相手が神だと知ってるんだから必死になることなかったのに。 双葉ちゃん、それから二十分ばかり歩き続けて一軒のペットショップへ辿り着いた。 それが俺も以前から知っていた岩倉さんの店。 店には何人かスタッフがいるけど、そのとき応対してくれたのが岩倉さん本人なのはラッキーだった。 「はい、いらっしゃい……って、何だ敏明くんか」 「何だはないでしょう……」 そんな俺たちのやりとりなどガン無視で双葉ちゃんは岩倉さんに向かって口を開いた。 「すいません、先日こちらのお店から、うちにお迎えした親指実装ちゃんが元気なくなっちゃって……」 「どれどれ? ……って、えっ?」 キャリーケージを覗き込んで唖然とする岩倉さん。 そりゃそうだ。元気ないどころか肉片になってるんだから。 でも、さすがは観察派。糞蟲のむごい死に様は見慣れているから、すぐに平静を装って双葉ちゃんに訊ねた。 「えっと……お客様、何があったんですか?」 「わかりません。たぶんウンチが出すぎたんだと思います。おなかが破裂しちゃうほど……」 逝っちゃってる眼のまま口調だけ冷静に答える双葉ちゃん。 岩倉さん、何とも複雑な顔で俺を見て、 「……敏明くん、ちょっと?」 俺はバックヤードに連れて行かれて岩倉さんにマンツーマンで事情を説明させられた。 というか俺も話したいこと山ほどあった。双葉ちゃんを待たせてるので、かいつまんでだけど。 一通りの話を聞き終えて、岩倉さんは苦笑いしながらも納得してくれた。 「……なるほど彼女が、あのヤンデジさんか」 「天然を通り越して、いまはご覧の通り絶対神モードですけど」 「しかしヤンデジの神のご降臨とあれば、こちらもそれなりの対応しないとな」 「どうするんですか?」 「神の前で人間が奇跡を演出してみせる」 「……は?」 岩倉さん、双葉ちゃんからキャリーケージを預ると。 相手に見えていないところで新品のキャリーケージに新しい親指糞蟲を入れてから、彼女に返した。 そういうことか。 「レッチューン♪」 我が身にこれから降りかかるであろう運命を知らず、さっそく「新しい」御主人様に媚びる親指糞蟲。 それを見た双葉ちゃんの眼が輝きを取り戻した。 「まあ、トシアキ、元気が戻ったのね?」 「レッチューン♪」 本当に嬉しそうな双葉ちゃん。 ああ、やっぱり彼女、愛護派なんだな客観的にはともかく。 岩倉さんは俺にウインクしてみせ、俺も新しい親指の代金をどうするかなんて野暮は訊ねなかった。 お互いオトナの観察派だぜ(俺は学生だけど、いちおう酒も煙草もオーケーの年齢だ)。 この先も面白いものが見られるなら、これくらいの投資は、ねえ? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 託児騒動からしばらくして、双葉ちゃん、もう一度料理を作りに来たいと言ってきた。 今度こそ美味しい手料理を俺に食べてほしいのだと。 きょぬーさんから、そんなこと言ってもらえる俺。感激で泣いちゃうね。 これで神でさえなければと違う意味の涙も出そうになるけど。 「今回は母の実家から送って来る特別な食材も用意します。楽しみにしていて下さい」 そして翌日、約束の時間であるお昼の少し前。 ——ピンポーン♪ 玄関のチャイムが鳴って、訪ねて来たのは宅配便の運ちゃんでした。 「伊藤様宛てにお荷物です」 渡されたのはクール便の発泡スチロール容器。割かし大きいけど平べったい。 差出人は……知らない名前だ。もしかすると双葉ちゃんの母方の実家? 双葉ちゃん、特別な食材とやらを、わざわざ俺宛てに直送させるとはね。合理的ではあるけど。 荷物は台所に運んだけど開封せずに待っていると、しばらくして双葉ちゃん本人が到着した。 「こんにちはー」 「レッチューン♪」 相変わらずキャリーケージ入り親指糞蟲のコブ付きか。オマエは何代目のトシユキだ? さて、双葉ちゃん。こないだから置いていった水槽に糞親指を移した。 場所はちゃぶ台の上ではなく机の横に移動してあるが。 「レチイッ♪ レチィッ♪」 はしゃいだ様子の親指糞蟲。 双葉ちゃんが、ふふっと可愛らしく微笑み、 「トシアキったら、家でまた元気をなくして、ここに来る途中、お店に寄ってきたんです」 「そっかあ……」 苦笑いする俺。 つまり、この何代目かますます不明のトシアキは岩倉さんの店で入れ替わったばかり。 すなわち俺のこのアパートが生まれて初めて連れて来られたニンゲンさんのおウチということになる。 だが、ここでずっと飼われると思い込んでもらったら困るぞ、糞蟲。 俺は観察派だ。愛護派でも調教系虐待派でもない。糞蟲を永住させる空間は我が家の何処にもないのである。 それから双葉ちゃん、持参したエプロンを着けて台所に立った。 まず包丁を研ぐのはお約束? おーい、荷物は先に開けないんですかー? 中身がちょっとばかり気になってるんですけどー? でも前回、一通りやっていたので、すぐに包丁研ぎは終わりました。 ちなみに託児糞蟲の成敗に使われた包丁は俺が責任もって処分済です。 いくら洗ったとしても糞蟲ぶった斬るのに使った包丁で料理してほしくありません。 そして、ようやく双葉ちゃん、クール便で届いた食材の開封にとりかかった。 調理台の上は狭いので発泡スチロール容器は床に置いたままだ。 気を利かせた俺が渡したカッターで梱包用の紐とガムテープを切り破り。 容器の蓋を開けると、中には—— 「……くっ、くっ、くそむしぃっ!?」 俺は思わず声を裏返らせた。 敷き詰められたおがくずに、親指禿裸糞蟲が二十匹ばかり、下半身が埋まった状態で突き刺さっている。 チルド冷凍で届いたので意識はないようだが、開けっ放しの両眼の色は正常なので死んではいないらしい。 「母の実家のほうでは『山ン仔(やまんこ)』って呼んでます」 にこにこしながら双葉ちゃんが言った。 「つまり山実装、でも親指は珍しいそうです。糞とワタは抜いて送ってくれたから、そのままお料理できます」 「え……、えっと……」 顔が引きつっているのが自分でもわかった。 生粋の観察派の俺が、まさか実食などという禁断の世界を体験することになるとは…… 「……こんな質問して怒らないでほしいけど、双葉ちゃん、いちおう愛護派だよね?」 「そうですよ? いまさら何を言ってるんですか」 くすくす笑う双葉ちゃんに、俺も愛想笑いしながら、 「でも実装石を食べるのは平気なんだ……?」 「だって人間に食べられるために大事な服も髪も奪われて禿裸になっちゃったんですよ、この仔たち?」 「そりゃそうだけど……」 「だったら美味しく食べてあげたほうが、この仔たちだって嬉しい筈でしょう?」 「そ……そういう考え方もあるね……」 でも、まだ生きてるんだぞ、この糞蟲どもは…… 双葉ちゃん、大きなざるを用意すると、親指禿裸を一匹ずつ、おがくず畑からつまみ出して放り込んだ。 「…レッ…?」「…レェェ…」 小さく声を上げるヤツがいるのは、早くも冷凍仮死から復活か。 ……っつーか、これを俺に喰えと? 何かの罰ゲーム? リンガルのスイッチは入れないでおこう。遺言を聞かされたばかりの相手を喰う気はしないです。 親指禿裸を山盛りにしたざるを、双葉ちゃんは流し台のシンクに運んで蛇口をひねった。 流水でおがくずを洗い、ついでに解凍するわけか。 「…レチャッ…?」「…レェェェッ…」「…レチィッ…!」「…レチレチレチレチ…!」 水洗いされて親指禿裸ども、次々と眼を覚ました。どれだけしぶといんだ、こいつら? どうせ料理されて喰われるんだから仮死のままのほうが幸せだったろうに。 「みんな、キレイキレイしましょうね」 禿裸を洗いながら楽しげに言う双葉ちゃん。 しかし、その手つきは可愛い小動物を扱っているというよりも食材に対するそれでしかない。 硬いざるの中で、しかも冷たい水で芋洗いされて禿裸どもが幸せなわけがない。 「…レェェェッ…」「…レチャァァァッ…!!」「…レピャァッ…!?」「…レチレチレチレチ…!!」 色付きの本気涙を流しているモノ、抗議の叫びを上げるモノ、手足を擦ったか血が滲んでいるモノ。 相手に意識があって意志もあるナマモノだと考えると結構な拷問だよな、これ。 もちろん同情しないけど。 それにしても双葉ちゃん、どこまで本気で自分を愛護派と思ってる? 「敏明さん、天ぷら鍋ってありましたよね?」 双葉ちゃんが言って、俺は「え?」と訊き返した。 「いや、ないけど。そんな話、前にしたっけ?」 「ありますよお、クロゼットの奥に。ご実家から送られて来て使わないまま、しまっちゃったんでしょう?」 「……はあっ!?」 俺は急いでクロゼットを開けて中をあさった。 積み重ねて置いた衣装ケースの下に、確かに新品の天ぷら鍋が箱に入ったまま鎮座していた。 そうそう思い出した、これは親戚の結婚式の引き出物で、実家では使わないからと親が送りつけて来たんだ。 もちろん俺も使わないからクロゼットの一番奥底にしまい込んでいたわけだが…… 俺は双葉ちゃんを振り返って訊ねた。 「……あの、双葉ちゃん? どうして、これがここにあるって知ってるの?」 「だって敏明さんが学校に行ってる間、お掃除に通って来てるから。そのために合い鍵、お借りしたでしょ?」 「……貸してない」 「え?」 「まだ貸してない。貸す約束したけど、こないだ渡す前に双葉ちゃん、帰っちゃったから」 「……えっと……」 「双葉ちゃん、この部屋にどうやって入ったの? 合い鍵があるとしたら、どこで手に入れたの?」 「それはですね……」 双葉ちゃんは困ったような顔をして、 「……聞かないほうが幸せなことがあるって、こないだ敏明さんも自分で言ってたじゃないですか?」 「……わかった、聞かない……」 俺はため息をついて肩を落とした。 ヘタレな俺を笑ってくれ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 洗い終えた禿裸を、双葉ちゃんは一匹ずつ、ふきんで拭いて調理台に用意した大きいボールに入れていく。 「…レチャチャチャ…♪」 ふきんがこそばゆいのか笑い声を上げる禿裸に、双葉ちゃんは眼を細め、 「禿裸でも可愛いですね、こうやって笑う姿は」 「……そうだね……」 俺は曖昧に頷いておく。その可愛い禿裸を、これから天ぷら鍋で生きたまま揚げてしまうんでしょうに。 双葉ちゃんが作ろうとしている料理は『山ン仔の地獄揚げ』というそうだ。 素揚げにしたところに塩をふりかけ、レモンを絞るだけらしいけど。 ……喰えるのかよ、ホントにそれだけの調理で実装石が? 「…レチィ…?」「…レチレチ…」「…レチレチレチ…」「…レッチューン…♪」 ボールに移された禿裸どもは妙に上機嫌だ。ふきんで拭かれたのが、よほど気持ちよかったのか。 これから先の運命を予想もできないのか媚びてくるヤツまでいる。 山実装でも媚びなんてするのか。未熟な親指である分だけ人間への警戒心が薄いのか? まさか飼い実装になれるとか思い込んでないよな? なに考えてんだろ、このアホの仔ども。 ……リンガル、スイッチ入れちゃおうかな? 「…レェェェ…」「…レビャァァァッ…!!」「…レ…レレ…」 一方、まだざるの中にいる禿裸は濡れた身体で震えている。 怒ってるヤツはそれだけ元気ってことだが、糞抜き済でなければ漏らしてそうなほど青い顔したヤツもいる。 双葉ちゃんは丁寧に一匹ずつ拭いて、ボールへと移す。 そのうちボールの中が混み合ってきて、禿裸どものご機嫌が下降し始めた。 「…レヂャァッ…!!」「…レェェェッ…!!」「…レチレチレチレチレチ…!!」 騒ぎ立てる禿裸を笑顔でいなす双葉ちゃん。 「はいはい、待ってて。もうすぐ美味しくお料理してあげるから」 糞蟲の中にはリンガル抜きで人語を解するモノもいるが、ここにいる禿裸はそうではないらしい。 これから自分たちが料理されると知ったら、もっと大騒ぎしているだろう。 ……あー、リンガルのスイッチ入れてーっ。 でもヤツらの言葉を聞いてしまったら、きっと喰う気が失せるだろうな。 というか喰いたくないのは最初からだけど。 山実装がグルメの世界で珍味として扱われてるのは知ってるけど、所詮はゲテモノじゃん? 公園でデププとかバカ笑いしてる薄汚れたナマゴミと基本的に同類だぜ? いくら、きょぬーさんが料理してくれるからって、ねえ? こないだみたいに糞蟲が託児に押しかけてくるとか料理が中断するハプニングはないものか。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ そんな都合のいいことは起こらないまま。 天ぷら鍋に油を張って、双葉ちゃんがコンロに点火した。 「油が温まったら、一気に揚げちゃいますね」 にこにこ笑顔の双葉ちゃんが言う。 料理を作るのを楽しんでいるらしい。これで食材が山実装でなきゃ俺だって素直に喜びたいところだ。 きょぬーさんの手料理。文句を言ったらバチが当たります。 でも食材は山実装。 きょぬーさんが俺のために作ってくれる手料理。どんな味でも眼をつむって食べるべきです。 でも食材は山実装。 あー、ちなみに、ひたすら実装石を糞蟲と呼んできた筈の俺が山実装は普通に山実装と呼んでます。 だって、これから自分の口に入るモノを糞とは呼びたくないです心情的に。 でも山実装は公園にいる糞蟲の同類。生態は結構違うといっても姿かたちは、ほぼ同じ。 「…レッチューン…♪」「…レッチューン…♪」 ボールの上のほうにいて窮屈な思いをしていないヤツが先ほどから、しきりと媚びてくるのだけど。 その媚び姿も、そこいらの野良や飼い糞蟲と全く一緒でムカつくんだよ! なんて思っていると—— 「…レヂャァァァァァッ!!」 けたたましい悲鳴が上がった。 瞬時に振り向く双葉ちゃん、その鋭い視線、すでに神モード全開です! 遅れて俺も双葉ちゃんの視線の先を追うと。 「…レギャッ!! レビャッ!!」 「…レププププ…」 何と机の横に置いた水槽の中に、いつの間にか親指禿裸が一匹、入り込んでました。 しかし哀れ、みじめに腹這いになってトシアキ(何代目?)に背中を踏みつけられ、じたばた足掻いてます。 同じ親指でもペット用より山育ちのほうが戦闘力は高い筈なのに糞抜きワタ(内臓)抜きで弱ってたか? 水槽をよじ登って中に侵入できたところは相当の身体能力だけど、それで力尽きたかね? 「たぶんこいつ、おがくずの奥に潜って隠れてたんだな。それが俺たちの眼を盗んで這い出して……」 俺の華麗な推理を双葉ちゃん、全く聞いてません。 無言で水槽に歩み寄って禿裸をつまみ上げ、台所に戻って手早く水洗い。 「…レチャァァァッ!! …レヂャァァァッ!!」 必死の叫びも完全に無視。 ぽいっと、禿裸は煮えたぎる天ぷら油の中へ放り込まれてしまいました。 「…レギャァァァァァッ…!!」 禿裸の白っぽい肌が見る間に赤く染まり、全体的にぷっくらと膨れ上がります。 それを眼の当りにしてボールの中の禿裸も大絶叫……には、ならないな。 天ぷら油の中で暴れもがく同属を指差し、レププとか嘲笑ってやがる。性格悪すぎだろ山実装のクセに。 そして鍋の中の禿裸は、次第に眼球が白濁し、最後っ屁のように糞を漏らし…… 「……って、糞!?」 ぷかーっと、うつ伏せ状態で天ぷら油に浮かぶ禿裸。 ガニマタ状態に広げた短い不格好な脚の間——尻からは、大量の糞をひり出していたのでした。 糞抜き済みじゃねーのかよ……って、ヲイ!? 「……トシアキッ!!」 またしても俺より先に双葉ちゃんが動いた。 水槽に歩み寄り、その中にいた親指糞蟲を捕まえて頭巾を剥ぎ取る。 はらりと髪の毛の束が落ちた。頭巾で押さえていただけの髪の束が。 そう、そやつの正体は食用禿裸だった。 本物の(と呼べるか怪しい何代目かの)トシアキから髪と実装服を奪い、見事に入れ替わっていたのである。 髪や服を完全に奪われるまで悲鳴を上げたり助けを求めたりしなかったトシアキも間抜けだけどな。 居眠りしてたのかね? ……って、そんな呑気なこと考えてる場合じゃねーぞ、俺。 トシアキが糞を漏らさずに死んでたら、俺は何も気づかないまま喰ってたってことだろ糞抜き前の糞蟲を。 ……オェェェェェ……! 「…レ…レレッ…!?」 おっかない顔をした荒ぶる神の双葉ちゃんに鷲づかみされて怯えきった様子の山糞蟲。 正体バレる可能性を考えてなかったんだろうな。さすが糞蟲の浅知恵だ、うん。 いや、もう俺の口に入る可能性はなくなったから糞蟲と呼んでいいよな? 「…レ…………レッチューン♪」 進退窮まった山糞蟲、媚びました! そして、 ——ぶぢっ! 首を三六〇度ひねられました。 「…レェェェ………………パキン!」 口から泡吹いて、だらりと舌を突き出して、パキンしちゃいました。 その憎むべき山糞蟲を、しかし双葉ちゃん、ぎゅっと胸に抱いてつぶやくように言いました。 「……またトシアキ、元気なくなっちゃった……お店に連れて行かなきゃ……」 おおっと山糞蟲、死んだあとになってトシアキ襲名です! いったい、これで何代目だ? だったら殺さなきゃいいというツッコミはなし。観察派の俺的には眼の前で糞蟲が死んでこそ面白い。 双葉ちゃんは故・トシアキ(元・山糞蟲)の亡骸を胸に抱いてアパートの部屋を出て行った。 行き先がわかりきっているので今回も俺は追いかけなかった。 天ぷら鍋の火を止めて、素揚げを免れた禿裸どもは公園にリリースしてやった。 野良糞蟲どもには思いがけないご馳走になったろう。 いくら元気な山育ちとはいえ禿裸の親指なんて、ただのエサだ。もともと食用に加工済だし。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 「——今度こそ本物の山実装料理をご馳走します」 山糞蟲の替え玉事件から数日後、双葉ちゃんは電話の向こうで力強く言った。 「あしたの朝、五時に駅前で待ち合わせましょう。敏明さんはレンタカーを借りて来て下さい」 「えっ……でも俺、免許……」 「持ってるの知らないと思ってるんですか?」 「いやでもペーパーだしオートマ限定だし……」 「無免許よりマシですよ。地図は私が用意しますけど、いちおうナビ付きにして下さい」 「レンタカー代も結構する筈だけど……」 「敏明さんの実家からの仕送り、きょうですよね? 預金残高でわかるけど、まだ下ろしてないでしょう?」 「……ちょっと、ちょっと待って! どうして俺の預金残高までわかるの!?」 「ネットでいつでも見れますよ」 「いやだから俺の口座番号とかネットバンキングの暗証番号とか……」 「敏明さんに関して私が知らないことがあると思ってます、もしかして?」 「……ごめん、愚問だった」 俺は大きくため息をついた。双葉ちゃんからは逃れられない運命なんだろうな。 いまからでも食べ物の好き嫌いに実装料理を加えちゃダメですか? もう遅いですかそうですか。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 翌早朝、命じられるままにレンタカーを借りて双葉ちゃん(with 数代目トシアキ)と合流した俺。 目指す先は双葉ちゃんの母親の実家——の親類の住む山あいの村らしい。 村道一本だけで外部と繋がった陸の孤島みたいなその村が山実装料理の本場なのだそうだ。 どうせ食べるなら本当の本物を、とか双葉ちゃん妙に張り切ってくれてます。 で、高速を含めて三時間ほどレンタカー飛ばして、その村に辿り着いたわけだが…… ------------------------------------------------------------------------------------------------ 「……せっかく捕まえといた山ン仔に、ちゃんやがマラけしかけてよォ」 双葉ちゃんの遠縁だという、いかにもお百姓さんらしい作業着姿の初老のオジサン。 頭にたんこぶ作ってベソをかいている小学生くらいの男の子の首根っこを押さえ、ぐいぐい頭を下げさせた。 そこは昔懐かしい雰囲気の農家の庭。 納屋に寄り添うように設置された鉄製の檻の中に、山実装の仔が三匹、いずれも白濁液まみれで倒れている。 両眼を緑にして、うわ言のように胎教の歌を歌う姿で、何が起きたか想像がつく。 「「「…デッデロゲー…デッデロゲー…」」」 オジサンは男の子の頭をもう一発、ごつんと叩き、 「ホントに申スわけねェ! 山ン仔ォ楽しみに来てもらったっつうのによォ、この、ちゃんやがッ!」 その「ちゃんや」って方言の意味を聞いてみたいけど、そういう雰囲気じゃねーわな。 沈黙してる双葉ちゃん、すでに神モード入ってるし。 きっと悪ガキとか、その程度の言葉だろう。 「で……マラ実装はどうしたんですか?」 俺は訊ねてみた。神の怒りの鉾先を向ける相手が必要だから。 マラを屠殺したら双葉ちゃん、正気に戻るだろう俺の運が良ければ。 山実装を諦めて帰るにしても神モードは解除して頂かないと。 「どスたんだァ、アキトシ?」 オジサンに小突かれて、男の子は泣きじゃくりながら答えた。 「山に逃げたよ! もともと山の麓で捕まえたんだ! 誰かが捨ててったんだよ、たぶん……!」 「村会議長ントコのドラ息子だべ。あいつァ前から実装石サ集めて悪さしてるっつう話だァ」 悪さ……つまり虐待か? こんな山奥の村にも病んだ人間はいるんだなあ。観察派の俺が言うことじゃないけど。 「……山に入りましょう」 双葉ちゃん——いや、神が仰せになった。きょぬーの神が。 「マラには報復が必要だし、代わりの山実装を捕まえなきゃならないし」 「いんや、山ァクマが出るでよォ」 オジサンが困った顔をして、 「オラちも二人以上で鉄砲持ってしか山には入らねェ。オラが一緒に行ってもいいけど、もう一人誰か……」 「必要ないわ、オジサンも。敏明さんと私の二人だけで行く」 きっぱりと双葉ちゃんは言うと、手にしていたトレッキング・ポールを逆さに持ち替え。 近くに生えていた柿か何かの木に歩み寄り、得物を一閃。 ——ぴしぃっ! かなり太い枝が切り払われて、地面に落ちました。 オジサンも、泣くのを忘れた男の子も、唖然としています。 神が手にすれば何でも切れ味抜群ですかそうですか。ただのトレッキング用の杖なのに。 「マラだろうがクマだろうが邪魔をすれば、この通りですよ?」 「ん……まあ、オメェたちがそう言うなら仕方ねェ……」 いや俺は何も言ってないし。発言者は双葉ちゃんオンリーです。 とかいって、きょぬーさんを見捨てて立ち去れるほどの悪党にはなりきれないんだよな、俺。 見捨てようとしても双葉ちゃんが許さないだろうってのもあるけどさ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ そして俺たちは山に入ったのだった。 俺たち——すなわち双葉ちゃんと俺、それに双葉ちゃんが提げたキャリーケージの中でご機嫌の親指糞蟲。 「レチィッ♪ レチィッ♪」 何が楽しいんだよ糞蟲テメェ。ハイキングとでも思ってやがるのか? 目的地が決まってないどころか、いつまで歩けば終わりになるかもわかんねーんだぞ。 かれこれ一時間は歩き続けてるけどな。 マラはともかく山糞蟲を一匹でも捕まえるまで、きょぬー神様は諦めそうもない。 おバカな野良と違って警戒心旺盛な筈の山糞蟲を簡単に捕まえられるとは思わないけど。 ……いや、待て。 俺の頭に閃くものがあった。 これまで双葉ちゃんが俺に手料理を振舞ってくれようとしては中断することになった原因。 すなわちトシアキと名づけられた親指糞蟲。 こいつがまだ「元気なくなって」くれれば、ここから引き返せるんじゃね? 俺チョー頭いくね? とりあえず死亡フラグ立ちやすいようケージから出してあげますか。 「……双葉ちゃん、トシアキをケージの外に出してあげたらどうかな? せっかく自然の中に来たんだし?」 「…レッチューン♪」 俺の真意を解さず、はしゃいだ声を上げるトシアキこと親指糞蟲。 いや、こいつ人語を解するのかね? 外に出すと言ったタイミングで喜んだのは、ただの偶然か? 人の心の中まで読めるわけじゃなさそうなのは安心したけど。 カオス実装なんて都市伝説だろ? きょぬー神様、足を止めるとケージの中の親指糞蟲に問いかけた。 「お外に出て歩きたい、トシアキ?」 「レチィ♪ レチィ♪」 「……わかった、出してあげる」 きょぬー神はその場にしゃがんでケージを開け、親指糞蟲を地面に下ろしてやった。 「…レッチーッ♪」 はしゃいだ声を上げ、直径一メートルの範囲をぐるぐる走り回るアホ親指。 いや、狭いところで駆け回らなくていいじゃん? せっかく大自然にリリースしてやったのに。 双葉ちゃん、空になったケージを地面に置いたまま立ち上がり、再び歩き出した。 おーい、忘れものですよー? 糞蟲ちゃんとケージ? ……仕方ない、ケージは俺が持ってやるか。 あとで糞蟲が歩き疲れたとかほざいたとき、素手で運ぶのは嫌だからな。 「…レチィッ!」 きょぬー神の後を追って俺が歩き出すと、慌てたように親指糞蟲も追いかけてきた。 「レッチ♪ …レッチ♪ ……レッチ♪ ………レッチ♪ …………レッチ♪ ………………レッチ♪」 あれぇ? 糞蟲ちゃん、どんどん後方に遠ざかっていきますよー? ……というか俺がバカだった。 親指ごときの脚力で人間について来られるわけがないのだ。歩幅が違いすぎる上に体力も皆無だし。 「おーい、双葉ちゃーん、やっぱりトシアキ、ケージに入れて運んだほうがいいみたいー」 俺は呼びかけたが、きょぬー神様は足を止めない我が道を行く。 仕方ない。俺が責任もって糞蟲をひっつかんでケージに放り込んでやるよ。少し乱暴に憎しみを込めてな。 俺が後ろを振り返り、親指糞蟲を回収に向かおうとしたところ—— 「……クマァァァァァッ!!」 吠え立てられました。いつの間にかそこにいた黒くて毛むくじゃらの野生動物すなわち、クマー! に。 「…レチャァァァァァッ…!?」 親指糞蟲、クマー! を見上げつつ悲鳴を上げつつ尻餅ついて、パンコンかましました。 「——としあき!」 きょぬー神様が素早く俺の横に戻って来て、トレッキング・ポールを逆さに構えます。 はい、例のアレ「のようなもの」の構えですね。 しかし、いまの「としあき」は、どっちへの呼びかけだったのか。 糞蟲をかばう目的なら、そいつとクマとの間に割って入るだろう。 俺の横に並んだということは、きょぬー神様、俺のことも守ってくれようとして? いやいや、いくら神っつったて、実際は俺より少し年下の女の子だぞ、きょぬーの。 居合いの達人でトンデモな戦闘能力を備えているといってもだ。 クマを眼の前にして、きょぬーさんに守られているなんて男として情けないだろ、俺? そして—— このスク冒頭の場面に話はつながるわけだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 双葉ちゃんはクマに向かって駆け出した。俺には止める暇もなかった。そして—— 「…レチャァァァァァッ…!?」 パンコンやらかしてる親指糞蟲の手前で急停止。 トレッキング・ポールを捨てると同時に糞蟲をつかみ上げると。 「…レッ…レレッ…?」 その口に、どこから用意したのか金平糖らしきもの、ただしドギツイ紫色したモノを押し込み。 「…レ…レッチューン♪」 思いもかけぬアマアマを口にすることになって至福の表情で媚びポーズした糞蟲を、大きく振りかぶって。 「…レ…レピャァァァァァァァァッ!?」 クマに向かって、投げた!? そして、親指糞蟲はクマの顔面に激突する寸前。 「…レッ…レヒッ…………ブバボバブビブベブリリリリッ!!」 多量の糞を尻から吹き出し、クマにお見舞いしてくれました。 やっぱドドンパか、あのドギツイ紫色は。 「クマァァァァァァァァッ!?」 糞の大量噴霧で緑色に染まったクマの顔面。 そこに親指糞蟲が激突したのは、うまいことクッションになったのか。 とにかくその場で肉片になることなく、ぽてりと糞蟲は地面に落ちた。生死不明だけど。 そしてその場を転げ回り悶絶するクマ。 「……クマッ……クマッ……クマァァァァァ……」 糞が鼻に詰まったか、単純に臭気の問題か呼吸が止まったようで、ぴくぴく痙攣するばかりになった。 それを静かに見やる、きょぬー神。 いや—— 「……ふっふっふっ……♪」 怪しい笑い声を上げ始めました、きょぬーの祟り神様が。 「……にくきゅー、にくきゅー……♪」 ……は? 何とおっしゃいました、きょぬー神様? きょぬー神、俺を振り返り、にっこり笑顔でただし眼は逝っちゃったままで仰せられました。 「敏明さん、クマの手って珍味で知られてるんですよ?」 ……はっ!? つまり肉球か? 「……ふっふっふっ、にくきゅーにくきゅー、ふふふふふ……♪」 例のアレ「のようなもの」を拾い上げて振りかざし、絶賛痙攣中のクマに近づいていく、きょぬー神。 「……あ、あの……双葉ちゃん? クマに可哀想なことするのはヤメにしない?」 糞蟲の味わう悲劇は俺にとって喜劇だが、野生動物には悲しい目に遭ってほしくない動物愛護派の俺。 まあ、積極的な愛護は何もしてないけどね普段は。 あと動物に糞蟲ごときナマモノは含まないのが俺ルール。 「……にくきゅー、にくきゅー……♪」 ああっ、きょぬー神様、聞いちゃいねーし。「のようなもの」振りかざして、振り下ろす直前—— クマがいる場所なら高確率でいそうなヤツらが現れたのさ。 つまりミツバチさんが、群れをなして。 だってクマってハチミツ好きじゃん? ------------------------------------------------------------------------------------------------ 「……きゃあああああっ!? ハチぃぃぃぃぃっ!?」 とっさに素に返ったような双葉ちゃん、トレッキング・ポール放り出して俺に抱きついてきた。 「ちょっと双葉ちゃんっ!?」 思いきり、きょぬーが俺の身体に押しつけられてます。 ぽいんぽいんって、すごい弾力です。 「やぁああああっ!! ハチッ!? ハチッ!? ハチなんて小さすぎて、ぶった切れないっ!」 ……それが弱点ですか、きょぬー神様。 しかし神モード脱してないにしても、いまの双葉ちゃん、ただのか弱い女の子みたいなもんです。 きょぬーの。 こんなときこそ火事場の馬鹿力。 きょぬー愛護派の俺、双葉ちゃんをお姫様抱っこして元来た道を逃げ出しました。 すたこらさっさっさ♪ 親指糞蟲は放置してきたけど、まあいいな生死不明だし。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ > 20XX年XX月XX日 > 『お別れ・再び』 > > また悲しいお知らせをしなければなりません > 先日、ご紹介したばかりの私の新しいパートナー > 愛するトシアキとお別れすることになりました > 今回は完全に私の不注意です > > 山へハイキングに連れて行って > 一人で歩かせていたところ、近くにクマが現れました > > 連れの友人ともども私はパニックになり > すぐにトシアキを呼び戻すことができませんでした > トシアキもパニックになったのでしょう > 大騒ぎしている私たちの前からクマが立ち去ったあと > 慌てて辺りを捜しましたがトシアキの姿はありませんでした > クマの獲物になったのかどうかは、わかりません…… > > 思えば私はいつも失敗ばかり > そして愛するパートナーたちを傷つけてきました > 私には実装石と一緒に暮らす資格がないのでしょうか? > > しばらくブログの更新を止めたいと思います > いままで読んで下さった皆さん > 応援やアドバイスを送って下さった皆さん > ありがとうございました > > いつか私が実装石の保護者として自信を持って > 新しいパートナーを迎えることができる日まで > しばらく、お別れです…… ……なんかシリアスすぎて煽りのコメントつけられません。 俺以外の読者もみんなそうなのか、この日のブログ記事のコメント全て真剣な激励でした。 笑える画像くらい添付しようよ、双葉ちゃん。 実際に起きたことを知ってる俺でもツッコミどころなさすぎて…… ------------------------------------------------------------------------------------------------ ——でもやっぱり、きょぬー神は、きょぬー神でした♪ 翌日、わざわざ大学まで俺を訪ねて来た双葉ちゃん。 「いつものお店の店長さんから連絡があって、私に紹介したい仔がいるんですって♪」 なんだか突き抜けた笑顔で、おっしゃいます。 岩倉さん、ブログ読んで早々に新しい生贄を捧げる気になったのですか祟り神への。 あんた立派な観察派だよ! というか積極介入しているところは「煽り派」とでも分類するべきかね? そして双葉ちゃんに引っぱられ、授業をサボって岩倉さんの店を訪ねることになった俺。 満面の笑みで迎えてくれた岩倉さん。 本来は客を入れない筈のバックヤードで、双葉ちゃんに紹介してくれた新しい仔というのが。 「…レフレフゥッ♪」 う……蛆? しかもデカい? 大根並み? 「わーっ、蛆ちゃん、可愛いーっ♪」 はしゃいでくれてる双葉ちゃん。 いや可愛いか? この大根サイズのデブ蛆が? 「レフゥッ♪」 岩倉さんが俺の肩を叩き、耳元で囁きかけてきた。 「……リンガル向けてみりゃわかるけど、こいつ見た目は蛆なんだが大したツワモノでさ」 「へえっ?」 「本当は仔実装として生まれる筈のところが親に粘膜を舐めきってもらえなくて蛆になったんだが」 「タチの悪いブリーダーが、わざとそうさせたんじゃないですか、虐待用に?」 「その辺りは想像に任せるけど」 相変わらず人の悪い岩倉さん、にやりと笑ってみせ、 「でも、もともと賢い個体として生まれる筈だったのか、なかなかユニークな台詞を吐くヤツなんだ」 「賢い蛆なんて蛆らしくないですよ、むしろツマラン」 俺が呆れ気味に言うと、岩倉さんは苦笑いだ。 「そう言うなって。自分の身の危険を感じる賢さはありそうだし、ヤンデジさんの新パートナーにどうかとさ」 「まあ、本人たちは気に入ってるようですけど、お互い……」 俺は大根蛆と戯れ合う双葉ちゃんを見やる。 水槽に手を突っ込んで、大根蛆のおなかを拳でプニプニ押している双葉ちゃん。 「そーれ蛆ちゃん、プニプニー♪」 「プニフゥッ♪ プニフゥッ♪」 俺は岩倉さんに向き直り、苦笑いしつつ、ため息をついた。 「アレをトシアキと名づけるのは勘弁してほしいですね。どうしたって、ただのデブにしか見えんし」 「それもどうなるかな。敏明くん結局、神様には逆らえないんだろ?」 「全くその通りです……」 俺はもう一度、双葉ちゃんを見やり。 「プニプニー♪ プニプニー♪」 「プニフゥッ♪ プニフゥッ♪」 大根デブ蛆と戯れる、愛すべききょぬー神の姿に、ため息をつくのだった。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 【終わり】

| 1 Re: Name:匿名石 2015/12/12-00:51:29 No:00001878[申告] |
| 糞蟲どころか神を観察できるなら危険に今命を張るぐらい安いもんだな
それにつけても天然愛護派ほど強力な虐待派もいないもんだ |