「・・・やべぇ」 近所の人から土産に貰ったカステラを戸棚の中に一週間ほど忘れていた まだそれほど暑くはないから傷んじゃないと思うがこれを喰うのは少し怖い カステラを眺めながらどうしたものかと悩んでいると甘い匂いに釣られてうちの実装どもが近寄ってきた 「デェ? なんだかとってもおいしそうな匂いがするデッス」 「もしかしておやつテチ?」 「蛆ちゃんあまあま好きレフ〜♪」 親を筆頭に3匹の仔と1匹の蛆が好き勝手なことを言いながら俺を見上げてくる 傷みかけているとはいえ好意で貰った食い物を粗末にしたくなかったので 「いやいや、これはお前らの餌じゃないぞ? このお菓子はカステラと言って人間様が食べるためのものだ お前らは実装フードでも齧ってろ」 と言うと俺は実装に見せ付けるようにしてカステラの角を齧った 「あぁ、カステラは美味いなぁ こんなに美味いものを喰えるなんて俺は幸せ者だ」 これ見よがしに自慢しながらカステラを食べていると 「デエェ ご主人ばっかりおいしいものを食べるなんてズルいデス」 と実装がほざきはじめた うちの実装どもは親が文句を言い始めると仔も同じように文句を言う習性がある 「テチャァァァ!! どうしてそんなイジワルをするテチ ワタシもそれを食べたいテチ」 「蛆ちゃんおなかすいたレフ・・・ 少しでいいからあまあまちょうだいレフ」 最初のうちは無視していたが途中からはそういうわけにもいかなくなった 今まで黙っていた一番上の仔が俺のズボンを引っ張るので何かと聞いてみると 「ゴシュジンサマとワタシだけのヒミツのおはなしがあるテチ ちょっとだけテーブルの上にのぼらせてほしいテチ」 と言ってきた 仕方が無いのでテーブルの上に乗せてやるとものすごく小さな声で何か言っている よく聞こえないので耳を近づけると 「ゴシュジンサマ、ワタシたちにもそのかすてらをわけてほしいテチ もしわけてくれないんだったらベッドの下にある本のことをご近所に言いふらすテチ」 と長女は呟いた その言葉を聞いた瞬間、俺は背中に氷柱を突っ込まれたような気分になった 「おい、ちょっとまて どうしてお前がそんなことを知ってるんだよ」 親実装たちに聞こえないように小声で話しかけると長女は 「この前蛆ちゃんたちとカクレンボしてたら見つけたテチ ゴシュジンサマがあんな本を読んでたなんて・・・ もしご近所の人が知ったらどう思うテチ?」 と言って底意地の悪そうな笑顔を浮かべた 仔実装風情に強請られる俺って・・・ 「まぁ、ゴシュジンサマが嫌なら別に構わないテチ ワタシも無理にお菓子をほしがったりしないテチ でも、もしかしたら明日お散歩に言ったときに独り言を喋っちゃうかもしれないテチ」 これは真剣にヤバいかもしれない なんとかしてこいつを黙らせないと・・・ 「どうしたテチ? ゴシュジンサマ、お顔の色が変になってきてるテチ」 長女はチェシャ猫のようにニヤニヤと笑いながら俺に話しかけてくる 口からは俺を心配しているような言葉を吐いているが、その表情からは嘲りと増長が溢れかえっていた 今まで気付かなかったがこいつは相当な糞蟲だ ただの糞蟲ならすぐに気付けただろうが無駄に小賢しく今まで猫を被ってやがったせいで見抜けなかった これは一生の不覚だ その場しのぎにしかならないが、とりあえずこいつを黙らせるためにカステラを与えることにした しかし、ただカステラを与えるのは癪なので、少しばかり嫌がらせをしておくことにした 「そこまで言うんなら少しだけやるよ ただし・・・」 そう言うと俺は包丁でカステラを斜めに切った 「この三角形のカステラをお前らだけで五等分できたらの話だけどな これがカステラをやる条件だ いつも言ってることだからもうわかってるとおもうが、俺は差別がだいっきらいだ お前達は家族なんだからどんなことがあっても平等でなければならない このカステラにしてもそうだ 誰かが多く食べたら他の誰かが損をする そんなことは絶対に許さないからな だから均等に分けないと… わかってるよな?」 俺は長女を軽く睨みつけながら三角形のカステラが乗った皿を実装親子に見えるように床に置いてやった 親子はカステラを取り囲みデスデステチテチレフレフと議論しているが、なかなか答えはみつからない さて、こいつらはどんな答えを出すのかな? 「こんないびつな形じゃ出来っこないデス・・・・・・ オマエたち、なにかいい方法は思いついたデス?」 「テチィ・・・ カステラおいしそうテチ でも、勝手に食べたら怒られるテチ まだガマンするテチ ・・・少しだけなら食べてもばれないテチ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・テチャァ zzZ」 「蛆ちゃんにはむずかしいことはわからないレフ・・・ 蛆ちゃん暇レフ 誰かおなかプニプニしてほしいレフ〜」 5分ほど議論が交わされていたが、まったく意見がまとまらない というか会話が噛み合っていない 無意味な時間が流れるなか、いきなり親実装が声を上げた 「…そうデス 私は身体が大きいから半分食べればいいデス 残りを長女が半分食べればいいデス これならみんなカステラを食べられるデス 私は天才デッスン」 自分勝手なことを言い出した親実装の頭を包丁の柄でかるく叩いた 「おい、俺の話を聞いてなかったのか? 俺は均等に五等分しろと言ったはずだぞ?」 叩かれた頭を押さえ涙目になりながら親実装は 「・・・ネタにきまってるデス 可愛い仔のことを考えないほどワタシはダメ実装じゃないデス 冗談が通じない人はモテないデスよ?」 と言いやがった ・・・・・・・・・チクショウ 親が叩かれる姿を見た仔は先程とはうって変わり真面目にカステラを分割する方法を考え始めた しかし、いくら真剣に話し合ってもなかなか良い答えが出てこない 同じような会話を延々と繰り返すばかりで時間だけが無意味に過ぎていく 所詮は仔実装の浅知恵で考え付くことなどたかが知れているのか と考えながら俺があくびをしているとそれまで一人でブツブツとなにか言っていた長女が大声を上げた 「わかったテチ 縦に切ろうとするから無理だったんテチ 横向きに4回切ればみんな同じ形にわけられるテチ」 ・・・なるほど たしかに幅さえ同じにすれば全て同じ体積に分けられる 最初のうちは長女の言うことを理解できていなかった親仔も俺の態度や表情から長女の言うことがそれほど的外れではないと悟ったらしく 「おぉ、それは名案デス お前は賢い仔デス」 「オネエチャはすごいテチャ これでお菓子が食べられるテチャ」 「レ? 蛆ちゃんにはよくわからないレフ でも、あまあまは大好きレフ 蛆ちゃん早くあまあまを食べたいレフ〜」 などと口々に長女を褒めはじめた もうカステラを食べられると思い込んで好き勝手なことを言い合う親子を横目に 俺はこのままでは長女が今以上に増長するだけで何も問題が解決しないことに焦っていた 「これでどうテチ?」とでも言いたげに俺を見てくる長女を踏み潰したい衝動を必死に押さえ込みながらどうしたものかと考えていると、あることが俺の頭の中に浮かび上がってきた 俺が 「じゃぁ、この分け方でいいんだな?」 と確認してやると長女は自信有り気な態度で大きく頷いた 俺は長女が肯定していることを確認してからカステラの横側を上に向けてまな板の上に置き、包丁で5等分してやった 自分の勝利を確信して俺を見下すような視線を投げかけてくる長女 甘いカステラにありつけると信じ込んではしゃいでいる妹 なんとかして仔のカステラを巻き上げようとたくらんでいる親 そしてそいつらを笑顔で眺めながら小皿にカステラを取り分ける俺 5切れのカステラを5枚の皿に取り分けると俺は長女をそっと手の平の上に乗せて俺を同じ目線になるように持ち上げた 俺の出した問題に正解したと思い込んでいる長女は眼下の家族に手を振って喜んでいる しかし、長女が家族が手を振り返している姿を見ることは無かった 俺は 「・・・残念でした」 と呟くと手の平を返して長女をシンクの中に落とした シンクに足先から落ちる長女の両足は本来なら曲がるはずの無い方向にねじくれていた いきなりの出来事に長女は自分がどうなったのか理解できていなかった しばらくは 「・・・テチ?」 などと言っていたが、自分がどうなったのかわかり始めると長女は火がついたように泣き出した 「テチャアアアアアア!! ワタシのあんよがーーーーーーーーー!!」 盛大に糞を漏らし見事なパンコン状態になった長女には先程までの余裕は微塵も無かった 「とっても痛いテチャァァァァァ!! ママ、助けてテチ 痛いのは嫌テチィ どうしてワタシがこんな目にあわないといけないテチ!!」 動かない両足を引きずるようにして長女は俺に向かって這い寄ってきた 「オマエは卑怯者テチ!! 自分の考えた問題を解かれた腹癒せにワタシに八つ当たりしたテチ ぜったいにオマエのヒミツを言いふらしてやるテチ」 眉間にしわを寄せて長女は威嚇してきた 生まれたときからこいつを見ているが、こんな表情ができるとは知らなかった しかし、どれほど必死になって威嚇してこようともまったく怖くない 滑稽な仕草で暴言を吐き続ける姿を見ているとなぜか笑いがこみ上げてきた 「いやいや、それは好き勝手に言いすぎだろ これは誤答へのペナルティだぞ? お前の答えは完全に間違ってたから俺はしかたなくやっているだけだよ」 「テチィ!! ワタシの答えのどこが間違ってたというテチ オマエだってニコニコしてカステラを切ってたテチ」 立ち上がれないながらも懸命に俺との距離を縮めよう這いずってくる長女の頭をかるくデコピンしながら俺は語りかける 「おいおい、俺が何時正解だって言った? 俺はただ笑顔でカステラを切っただけだ お前が勝手に正解したと思い込んで勝手に喜んでただけだろ」 俺は喋りながら先程カステラを切り分けた包丁を手に取った 「お前の言った切り方ののどこが平等なんだ? たしかに大きさは同じだけど、中身が全然違うぞ」 ゆっくりと見せ付けるようにした長女の捻じ曲がった足に包丁を近づける 恐怖に歪む長女の顔は涙と鼻水とよだれと汗にまみれていて、とても気持ち悪かった 「一番上は香ばしい皮があるよな」 そう言いながらまずは右足を切り落とす 「一番下には甘いザラメ砂糖があるよな」 次に左足 「でも、中間には何も無いじゃないか これのどこが平等だ?」 喋るリズムにあわせてテンポ良く両腕も胴体と切り離す 「さて、お前の身体で実演してやったんだが 理解してもらえたかな?」 しかし、話しかけてやっても長女からは 「・・・もうすぐした・・・ら・・・甘いカステラが・・・食べられる・・・テチ・・・ あの・・・ニンゲンは・・・ワタシの・・・僕になった・・・テチ・・・ これから・・・は・・・ワタシ・・・の天下・・・テ・・・チ・・・・・・」 などという言葉の断片が流れ出てくるだけだった どうやらこれまで感じたことの無い痛みと絶望で偽石が崩壊するより先に精神がやられてしまったらしい イカレたCDのように同じ言葉を途切れ途切れに呟き続ける長女を生ゴミの入ったゴミ箱に放り込むと俺は水道の蛇口を捻り手に付いた血を洗い流した 長女を片付けてから、他の実装の姿が見えないことに気が付いた どこにいったのかと思い探してみると親仔は 解答を誤った者がどうなるのか知ってしまったテーブルの下で身を寄せ合うようにして震えていた ちょっとやりすぎたかな? と思いながら一応 「・・・それで、まだお前らはカステラが食べたいか?」 と聞いてやると蛆も含めた全員が首を横に降った 「じゃぁ、このカステラは俺が貰ってもいいんだな?」 と一応聞いてみたが、誰も文句を言わなかったのであえて見せびらかすようにゆっくりとカステラを食べた 一口齧るたびに甘いだとか美味いだとか独り言をみると、その度に親仔が反応を見せてくれて非常に楽しかった しかしその晩、俺は食中毒による猛烈な吐き気と下痢で苦しむはめになったのは当然ながら秘密だ 【完】 甘いものが傷むと非常に危険なので皆さんもこれからの季節は気をつけてくださいね 数年前に古くなった大福の餡に当たった時はもうダメかと思いました あと、無意味に遅くなりましたが自分の拙いスクに挿絵を描いてくださったht氏、本当にありがとうございました すぐにお礼を言わなくてはと思っていたのですが・・・ 筆不精でごめんなさい 最後まで読んでくださった全ての方々に感謝 ではまた次のスクでお会いしましょう 朴Q ◆KizeSaPanQ
