「レフーッ!」 蛆実装が主人を呼ぶ声を上げる。 飼い主の男が声のほうに目をやると、蛆実装は尻尾を振りながら 餌をねだる表情でこちらを見ている。 -おっと、もうそんな時間か。 男は金平糖をひとつ摘んで蛆実装に与えようとしたが、 不意に遊びを思いついて金平糖を引っ込めた。 「なあ、ゴハンを我慢したらプニプニしてやるぞ」 蛆実装はプニプニと聞いた途端に身体をプルッと震わせると 仰向けになって手足をせわしなく動かしながら「プニフープニフー」と鳴いている。 「そうかそうか、よーし」 男は予想通りの返答にニヤリと笑うと、蛆実装の腹に指を押し当てた。 蛆実装への愛撫が始まる。 時に激しく、時に優しく、男の指先は楽団の指揮者のような軌跡を描いて 蛆実装の身体を余すところなく攻め立てる。 およそ日常生活で必要になるとは思えない技術であるが、その指さばきは まさに芸術と呼べるものだった。 蛆実装の身体はかつてない快楽に貫かれ、一分も経たぬうちに 排泄口から糞を吹き出してぐったりと果ててしまった。 「ヘフー、ヘフー」 静まり返った部屋の中で荒い息づかいだけが響く。 数分後、蛆実装の呼吸が落ち着き、我に帰る。 ひどい空腹だった。 食事を抜かれた上にあれだけ激しくプニプニされたのだから無理もない。 「レフーッ!」と主人を呼び餌をねだるが、飼い主の返事は冷たかった。 「ダメだ、おまえはさっきゴハンのかわりにプニプニを選んだじゃないか」 「次のゴハンの時間まで我慢しなさい」 蛆実装はエサが貰えないらしいと理解するとその場で泣き始めた。 なぜこうなったのかはよくわからなかったが、とにかく悲しかった。 涙を浮かべた目に、先ほど自分で出した糞が写る。 蛆実装は夢中で糞を全部食べると、そのまま眠ってしまった。 「おい起きろ、ゴハンの時間だぞ」 ゴハン! 蛆実装は飛び跳ねるように目を覚まして、夢中で飼い主の元へ這いよる。 主人が差し出す金平糖を舐めようとした瞬間、しかし今回も餌は引っ込められた。 泣きそうな顔をする蛆実装に男が囁く。 「ゴハンを我慢したらプニプニしてやるぞ」 蛆実装は迷うことなく仰向けになり、「プニフー」と鳴いた。 男は少し驚いたような顔をしたが、望み通りに蛆実装の腹に指を伸ばす。 そして始まる華麗な愛撫。 あっけなく果てる蛆実装。 その次の餌の時間も そのまた次の餌の時間も 男は蛆実装に餌かプニプニの選択をさせて、その度に蛆実装はプニプニを選んだ。 しかしこんな無茶な飼い方がそう長く続くわけがない。 蛆実装はみるみるうちに痩せてゆき、今にも死にそうなほど衰弱していた。 そして餌の時間 いつものように餌かプニプニかを選ばせる男に対して、 蛆実装またしても仰向けになって「プニフー」と鳴いた。 さすがに呆れ果てた男は、しばらく使ってなかったリンガルのスイッチを入れて、 蛆実装と会話してみることにした。 「おい、いいかげん食べないと死んじまうぞ」 『おなかすいたレフゴハンをくださいレフしんじゃいそうレフ』 「プニプニを我慢するんだな?」 蛆実装は首を横に振った。 「じゃあゴハンは抜きだ」 蛆実装は涙目になりながらも「プニフープニフー」と鳴いている。 「なあ、一度プニプニを我慢すればいいだけじゃないか」 『プニプニがまんできないレフ』『ゴハンはがまんするレフ』 男は念を押すように言った。 「死んでもいいんだな」 『しんでもいいレフ』 -そういう生き方もあるのかもな… 「よし、とっておきのテクニックをお見舞いしてやる」 男は自分に言い聞かせるように芝居がかった声を上げた。 最後のプニプニ それは相変わらず見事な指さばきだった。 指の腹で、爪の先で、衰弱した蛆の胴を痛めつけることなく絶妙な加減で攻め続ける。 蛆実装はその指技を存分に味わうと、一度だけ大きく身体をのけぞらせて それっきり動かなくなった。 パキンと何かが割れる小さな音が響いた。 -命よりも大切なものか… 無為に毎日を生きる男は、蛆の見事な死に様に少しだけ嫉妬した 。 完 1QN4owM0VQ
