タイトル:【虐哀】 春が過ぎた季節
ファイル:【虐】【哀】春が過ぎた季節.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:7329 レス数:0
初投稿日時:2008/05/24-04:27:49修正日時:2008/05/24-04:27:49
←戻る↓レスへ飛ぶ













アオイは、何時も手入れをしている竹の垣根にトタン板を立てかけていた。
隣ではマスターの父親が長さ1m程のトタン板に空いた穴に縄を通して垣根の竹に固定している。

「もう少しだからな、頑張れよアオイ」
「ボク」

やがてトタン板の城壁はグルリと一軒家の周りを囲んでる壁の内、垣根など隙間がある部分をすっかり塞いでしまった。

「お疲れ様アオイ、日曜日は力仕事で疲れるだろうから今日は早く休んでくれな」
「ボクー」


繁殖期である春が過ぎた頃、街では多くの野良実装を見かけるようになる。
愛護派の力が強くない街では、この時期になると増えすぎた野良を掃討する為に、自治体等で駆除作戦を行う事が多い。
余裕のある地区なら実装駆除会社に頼む事もあるが、生憎そこまでここの自治体は裕福ではない。
覚醒獣実装や実装さん等の危険な個体が確認されれば話は別だが、幸いにも数が多いだけのただの実装石が居るだけだ。

この自治体では、去年と同じように青年団や有志による実装石の駆除作戦を行う事が決定した。
実装石による被害はその地区に棲まう人間全てに共有するので意外に有志等の集まりは良く、この家の家長である父親もアオイと共に参加する。
明日の日曜日はその決行日。今日はそれに備えての下準備である。

決行日。
それはアオイが普段は庭いじりにしか使用しない鋏を、本来の意味合いで使う日だ。





日曜日。

多数の男衆と休日出勤した区の担当職員、極少数の飼い実装(蒼、紅、金)が区役所前に集合する。
普段は庭仕事以外には出さない鋏を抱えたアオイは、マスターの父親の隣で職員の挨拶と説明を聞いていた。

ちょっと前まではこうした集まりにやって来ては、口端から泡を飛ばして駆除に反対していた愛護派共はすっかり姿を見せていない。
大概は他ならぬ実装石に強烈なしっぺ返しを受けた後、虐待派に転向したり飼育が容易で愛らしい新種の実翠石に転んだりしていた。
今でも実装石を飼う人間は多いが、大概は長続きせずに直ぐに放り出したり殺してしまうのがオチだ。

「では、第四班は4丁目の駆除をお願いします」

アオイ達が担当した場所は、自宅の周辺だった。
やはり自宅の有る地区に回した方が、駆除にも身が入ると考えた行政側の配置である。
何せ、実装石は少数でも生き延びると短期間で増える。増えた実装石はゴミ場を荒らし、人家に侵入しようとしたり、糞害を発生させる。
自分と家族が安心して暮らす為には、気合いを入れて駆除するしかない。特に自宅の周辺ならば、と言うことだ。


4丁目は普段より人気が少なく、活気はあまり感じられない。
代わりに追われた実装石が入り込まないよう家々の門は閉じられ、家の周りの堀が補強されたりしている。
午前から正午にかけて、地域一帯の実装石駆除が行われている間町内は静かなものだろう。

「そんじゃまぁ、第一児童公園を駆除した後、奴らを見かけたっていう報告があった空き地と周辺を巡回捜索します」

纏め役の男性(高校の教頭)が区役所員から貰った四丁目の拡大地図を手に、男衆へ指示を出し始めた。
アオイは軍手を填め鎮圧用の木の棒を持ったマスターの父親の側に付き、第一児童公園へと向かう。

「俺ぁ、あんまりこーいうのは好きじゃないんだがなぁ。アオイ、お前はどうなんだ?」

アオイはマスターの父親からの質問に、少しだけ考え込んだ様子を見せてリンガル越しに返答した。

『特別好きではありません。ですが慣れていますし駆除を行う事に抵抗はありません』

一拍置いて、こう続けた。

『ボクは実蒼石ですから』
「そうか……まぁ、さっさと終わらせて家に帰ろうや」

アオイは公園の方を見る。
人間達の悪態や嬌声と共に、実装石達の悲鳴や罵声が聞こえてきた。
先行した駆除班が早速始めたようだ。



公園の中を素早く駆け抜けながら、アオイは次々と出会い頭に実装石を駆除していく。

「レチィチィーレベッ」

此方に背を向けて逃げる親指実装の後頭部を鋏の腹で叩く。
頭蓋の強度が鶉の卵と同じ程度しか無い親指は両目を視神経を付けたまま前方に飛ばし、空いた眼窩から脳髄その他を放りだした。
アオイは蛆や親指、仔実装には刃を使わず殴打で殺傷している。こうした方が後々の手入れが楽だし、切れ味が落ちるのが遅くなる。
何より、わざわざ刃を使って辺りを汚しながら殺すよりも殴打で殺した方が、後片づけが楽だからだ。

崩れ落ちる親指の死を確認するまでもなく流れるような動作で移動し、三匹の仔実装を連れて逃げる成体の脚を狙う。
必死に動かしていた短い足を払われ、親実装は前のめりに倒れる。
倒れた親実装に対して三匹の仔はそれぞれ違うリアクションをした。
先頭に居た仔実装は勢い余って倒れた親実装に突っ込み、結果脚を取られて転倒した。
2番目の仔実装は立ち止まる事は出来たが、状況を理解できないのか大声を上げながら倒れた親に縋り付いた。
3番目の仔実装は喚きながらも、親と姉妹を迂回してそのまま走り去ろうとした。

一連のリアクションを見たアオイは、冷静に優先順序を立てて行動した。
この一家の中で逃走を続ける事が出来きるのは3番目の仔実装。まずはコイツを処理しよう。

本石としては全速力で逃げているつもりだろうが、所詮は実装石。しかも仔実装だ。
小賢しくも親と姉妹を見捨てて逃げるのは正解だろうが、鈍臭さ極まる上に「テッチ、テッチ」と鳴きながらでは台無しである。

しかし近くには茂みもある。茂みの中に逃げ込まれたら少々骨だ。
素早い動きであっさりと追い着いたアオイは鋏で3匹目の仔実装の背中を軽く突く。

「テヂッ」

呆気なく転倒した仔実装の首筋に振りかぶった鋏の刃身を叩き込む。
ゴグッという鈍い音と共に、仔実装の首がぐにゃりと有り得ない方向に曲がる。
真後ろに居るアオイを見上げた丸いオッドアイの瞳がこれ以上ないと言う位に見開かれ、ミツクチから突き出された汚い舌がプルプルと杯戦慄くように動く。
ブリブリブリという不愉快な音と共にパンツがこんもりと盛り上がり、全身を痙攣させる仔実装が起き上がる事は二度と無かった。
まずは一匹。頭でカウントしながらも身体は速やかに駆除を行うべく動き続ける。

「デチャァァァァァ……ジィ!?」

親の側で起き上がろうと藻掻いている一番目の子実装の首筋に先程と同じように、鋭い一撃を加える。
実にあっさりと首の骨が砕け散り、仔実装は糞を洩らしながら痙攣するだけの肉塊となった。

「テ、チャアァァァァ、ジャアアアアアヂボォ!!」

未だに起き上がれない親に縋り、血涙を流し叫ぶ2番目の頭部が食い込んだ刃身により思いっきり凹む。
耳や鼻腔、口蓋から頭蓋の中身が血液と共に溢れ出し、デェデェ鳴きながら必死に起き上がろうとする親実装の背中を染め上げた。
これで仔は全て始末した。アオイは親実装がこれ以上無駄な試みを続けないように、腰の部分に刃身を撃ち込む。

「デギャアアアアア!!」

背骨をへし折られ、親実装が起き上がれなくなる。
アオイは首を打ち振り血涙を流しながら絶叫する親実装の頭を踏み付けて固定すると、後頭部に鋏の先端を突き付けた。

「ボク…………ボク!」
「デビャ!」

力を込めて押し込むと、先端が頭皮を引き裂き頭蓋を破壊して頭部に埋没する。
そのまま数㎝刃身を押し入れ、鋏の蝶番を開いて親実装の頭蓋を引き割っていく。

「デビ、デッ、デッ、デデッ!!」
「ボク」

ぐちゃぐちゃになった脳の中に弾力性を持つ緑色の石を見つけたアオイは、それを刃と刃の間に挟み込む。
実装石に意識があったら物凄く暴れただろうが、頭部を切開された為かデーデーと鳴くのみ。

「ボクゥ!」
「デ!」

蝶番が閉じると同時にパキンと音が鳴った。
親実装は戦慄くように痙攣し、それきり動かなくなった。
アオイは刃身に付いた血を親実装の服で乱雑に拭う。
休む間も無く、目に付いたダンボールハウスを暴いたり、逃走中の実装石達を分け隔て無く狩り続ける。

駆除の間。アオイの中には怒りや憎しみ、喜悦等といった負の感情はない。
只ひたすら、作業的に鋏を振るい視界に居る実装石を始末していく。
こういった作業があればこそ、自分のマスターと家族が頻繁に実装石に患わされる事もなく日々を過ごせるから。
自分が精魂込めて手入れをしている庭を汚されたり荒らされたりする事も無くなるから。
何よりも自身のマスターに、あの生き物と関わって不快な思いをして欲しくない。

「ヂィ!」

一瞬だけ力が籠もりすぎ、勢いが付いた鋏の先端が首を切り落とした中実装の隣で命乞いをしていた仔実装の喉笛を切り払う。
声を出す代わりに血の泡を吹き出しているそいつを、側にあったダンボールハウスの出入り口に蹴り込んだ。

「デスッ」
「「チャー!」」
「ビャア!?」

ベチャリという音と共に、蹴り込まれた仔実装に多量の糞がぶつけられる。
どうやらダンボールの中を窺おうとする駆除者の顔なり手なりに糞をぶつけるべく、待ち伏せていたようだ。
だが、アオイにはお見通しだった。奴らは悪意と雑音を周りに流しすぎる。お陰で成功する待ち伏せも成功しない。

「ボク!」
「デゥ、デホ、ゴボォ!!」

ダンボール越しに何度か刺突を繰り返す。
五回突いて三回手応え有り。向こうで何かが倒れる音が聞こえて来たと同時に、甲高い悲鳴と共に2匹の仔実装が出入り口から飛び出して来た。

「ボク」
「テチャアアアアアアチベ!!」

背中からの後頭部への一閃。頭部の体積が3割減となり、仔実装は前のめりになって倒れた。

「テチテチィ、テチ、テチューンテチューン……♪ テヒィチョバ!?」

もう一匹の方を見ると、酷く怯えながらもアオイに向けて開脚し命乞いしていた。
とっさの判断としては中々だが、色んな意味で間違っているだろう。
取り敢えずアオイにジックスの趣味は無いので、返事代わりに頭を牛蒡刺しにして上げた。
そもそも機械的に実装石を狩るように訓練されている彼女達に、命乞いなんて無意味なのだ。


そうして何十分か狩りを行っていると、公園はすっかり静かになる。
朝方までは、春の繁殖期を過ごし家族を構成した実装石達が、公園を完全に占拠していた。
デスデステチテチ鳴き、我が物顔で歩き回ってはゴミを集めたり同属を襲ったりしていた。

それが、今や死体の山を築き、無造作無選別に実装回収袋へと放り込まれて行く。
偶に瀕死状態で呻いている奴も居るが、コロリを口に押し込まれたり首を捻られたりして容赦なくトドメを刺される。
家族毎だなんて気にせず詰め込む。どれもこれも似たような顔で見分けなんて付かないし、『ゴミ』に配慮なんて一切不要だ。

「公園の駆除は終わりましたぁ。では、巡回の方行きますのでもう一踏ん張りお願いしまーす」

巡回して来た区役所の軽トラの荷台に、パンパンに膨らんだ十袋近くの実装回収袋と畳んだダンボールを積み込めばこの公園の駆除は完了だ。
班長から労いの缶コーヒーやペットボトルのお茶を受け取った男衆が賑やかに雑談しながら、静まり返った公園を出て行く。

「ボク」
「お、アオイ。今年も行くのか?」
「ボクゥ」
「ああ解った。まぁ、この辺では公園以外にはあんまり奴らは住んでないからな。お前が居なくても問題無いだろ」

マスターの父親は頷き、他の男衆と一緒に巡回ルートの方へ去っていく。
公園に残ったのは、アオイ一匹のみ。

「ボクゥ……」

鋏に付着した血と油も完全に拭い去った。
休憩は区役所が回収作業を行っている間に取った。
手持ちの実装回収袋は一枚だけだが、毎年の平均的な数は似たり寄ったりなので充分だろう。
こちらの『作業』を開始するのに問題は無い。

「……」

見上げた空は鬱蒼と曇り始めている。
アオイは口を堅く閉ざした後、静かに走り出した。






「……」

茂みの奥に隠蔽されていたダンボールハウスを見つけたアオイは、声を立てる代わりに短く嘆息する。
アオイはこれまでに三軒の隠れ家を暴き、3匹の成体実装と7匹の仔実装を始末してきた。
どれもこれも、なかなか手が込んだ隠蔽方法と場所の取り方だった。
特に二軒目などは、極微かな糞の臭いが漏れ出て無ければ、見落としていたかもしれない。

狩られた彼女らの最後も、一般的な野良実装と比較すれば随分と立派なものだ。
一軒目は親は仔を、姉は妹を最後まで庇い続けた。
二軒目は親も仔も一歩も逃げず、釘の突いた短い角材やガラスの破片を巻き付けた棒きれで最後の最後まで団結して抵抗した。
三軒目は親が命を捨てて突進して来る間に、裏から仔実装達が整然と脱出しようとした。
在り来たりな親を見捨てて自分だけ助かろうとしているのではないのは、明白だった。
アオイが親実装の突進を素早くいなし、茂みに入り込もうとした仔実装達を殲滅した時に親実装の上げた絶望に満ちた叫びは嘘偽りではなかった。
彼女らの情景はやわな虐待派や日曜日だけの駆除者なら、駆除するのに戸惑いや躊躇いを見せてしまうだろう。

しかし、アオイは襲撃の際に嘆息は付いても迷いを見せたり情けを掛けたりはしなかった。
血涙を流しながら必死の抵抗を行う仔実装や、瀕死になりながらも「仔は見逃してくれ」と懇願する親を殺す時に微塵も躊躇はしなかった。


アオイは賢くて善良だろうとも、相手が野良の実装石なら容赦しない。
賢い野良ほど徹底して追い詰め、必ず駆除すべきだとブリーダーに教えられたからだ。
彼女らの様な存在こそが、野良実装の中で最も厄介だと何度も繰り返し教えられた。
馬鹿で愚かな実装石ならば対策も駆除も容易だが、賢くて善良だと立ち回りが上手く逃げるのも隠れるのも巧妙だ。
そして、そんな個体から狡賢い輩が生まれ出たとしたらどうなるか。
可能性の問題でもあるが、基本的に実装石とは人間よりも遙かに悪性を内包した生き物である。
善良なる個体から産まれる仔にも必ず糞蟲が混ざる。
その糞蟲が親の知性を引き継いだ場合、人間に多大な迷惑を掛けるどうしょうもない存在が産まれる事になるのだ。

ならば、そのような存在が産まれる前に、根本から断ち切ってしまうのが一番良い。
それを人間の代わりに行うのが、人に飼われる実蒼石の為す事であり存在意義である。

そう、ブリーダーにアオイは教えられた。
アオイは愛玩用で販売されていたが、一通りの実装駆除教練も受けていたのだ。
緑色の害獣から幼い子を付きっきりで護衛してくれる存在を欲しいと言うのが、祖父が彼女を孫に与えた理由の1つだ。

アオイは模範的な飼い実装である。
『飼い実装の存在意義を全うする』のに、己の生を見いだしている。

アオイは理想的な主人思いの飼い実装である。
『主人の為に理想的な環境を整える』のに、全力を傾斜する。


アオイは、愚直なまでに『佳き実蒼石』であった。


「……」
「デ、デアアァァ、デ、デシャアアアア……」

アオイは無言で親実装の胸を突き刺した。
口から血の混じった泡を吹きながら、子実装を庇っていた親実装は床に敷き詰められた新聞紙の上に倒れる。
親を庇うべく威嚇しながら前に出た仔実装の首を一瞬で刎ねる。
仔実装の顔は威嚇顔のまま宙を舞い、部屋の隅にあったペット用水皿の中に落ちた。
全身に親と姉の血を浴び腰を抜かしたままの仔実装が、震えながらアオイを見上げている。
血涙に濡れた目が訴えている。何故親や姉を殺したのかと。優しかった家族を何故一方的に蹂躙したのかと。

「ボクゥ」

アオイは一言だけ仔実装に返事をしてから鋏を振り上げ、正確無比に勢い良く振り下ろした。
『それがボクの役目だから』。それがアオイの返事であり、仔実装達の殺害理由であった。





四軒の隠れ家から運び出した死体を、1つの実装回収袋に入れる。
もう少しすればマスターの父親が迎えに来るだろうから、その時に袋を運べばいい。
ダンボールの家は、後日解体してゴミ捨て場に持っていけばいいだろう。

「……」

見上げる空は雨雲。
梅雨が迫っている事をアオイはふと思い出す。
自分が丹誠込めて世話をした庭に植えてある紫陽花がそろそろ花を咲かせる時期だ。

「ボクゥ」

空を見上げてアオイは何事かを呟く。
空は返事の代わりに、雨粒を一粒アオイの頬に落とした。









完





————————————

感想を何時もありがとうございます。


過去スク

【微虐】コンビニでよくある事
【託児】託児オムニバス
【託虐】託児対応マニュアルのススメ
【虐】夏を送る日(前編)
【虐】急転直下(微修正)
【日常】実装が居る世界の新聞配達(微修正)
【虐】山中の西洋料理店
【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ
【虐・覚醒】スイッチ入っちゃった
【虐夜】冥入リー苦死実増ス
【冬】温かい家(改訂版)
【虐】繭を作った蛆
【教育】神父様の教え
【哀】風の吹く町
【哀】【春】急転直下2
【哀・虐】桜の季節
【虐】繊維蟲
【餌】釣り場での託児






■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため2403を入力してください
戻る