今更、敢えて言うようなものでもないが。実装石とは醜い生き物である。その生態を寛恕しても、 酷く醜い。常に両目の瞳孔は開ききったままで、もしも人間サイズの実装石と暗所で突然はち合わせ たら、相当心臓に自信のある人間でも驚かざるを得まい。 まだしも、俗に『仔実装』ないし『親指実装(厳密にはこれも仔実装と呼ぶべきだ)』であれば、 まだ未成熟な動物故の愛嬌のようなものを持ち合わせているが、成体に近づくにつれ、自尊心の肥大 化。容姿の不快さなどが順繰りに増えて行き、成体になってしまえば、よほど愛情深い人間でなけれ ば、実装石を飼い続けることなどできないだろう。 餌も成長に伴って当然、量が必要になってくるが、どちらかと言えば犬や猫などと比べて大食とい うわけでもなかったりする。むしろ、犬や猫よりも餌代は必要としない場合あ多い(毎食人間と同じ ものを与えないならば、であるが)。問題は、その糞の量である。 食った分の100倍〜300倍。多い個体では1000倍以上の糞を一晩にひり出す。水槽で飼っていれば、 3日としないうちに水槽は糞の海と化し、掃除せずに放っておけば、数日で実装石は溺れ死ぬ。 更なる問題は、その糞の匂いである。幼実装(俗称・仔実装、親指実装、蛆実装)であれば、まだ 耐えられるが、これも成体に近づくにつれ、悪臭が増してゆく。 その匂いは数日放置しておいた生ゴミの袋に、熱湯を注ぎこんだような匂いである。どんな匂いか 想像もつかない人生経験が未熟なキミは、この機会に試してみるといいだろう。ただし、家の外でや る事だ。沸き立つ匂いが部屋中に充満し、芳香剤を買いに行く羽目になったと苦情を言われても私が 困るからだ。 ともかく、酷い匂いなのである。夏場ともなれば、もっとだ。マンションなどの集合住宅で実装石 の飼育が特に強く禁止されているのも頷ける話しである。 「カエセッ!! カエセテチャゥゥァァ!! ワタクチノオヨウフクヲ!!! カエシヤガレテチャァァッ!!」 真っ二つに裂けた実装服に何故拘泥するのかは知らないが、眼下で全裸の仔実装が私に向かって果 敢にジャンプを繰り返している。腕は折れ、痛いからか、服を失くして悲しいのか、両目からはしと どに色つきの涙を流して抗議している。私は、無視してレポートを続ける事にする。 実装石のその容姿は、ある意味では愛嬌があると認めることができるだろう。大きくカールした後 頭部の毛と、申し訳程度に生えた馬の尻尾のような前の毛。他の部分には、一切体毛がなく、実装石 が未発見動物で、唐突に発見された動物だと仮定した場合、実装石を見て、世界中の学者の九割以上 が『人為的に手を加えられた動物』だと言い切るだろう。体毛の代わりに実装服があるのだが、これ も俗説では皮膚の一種か、体毛が変質したものだとされている。 ただ、これに関しては覆すような事実も無く、証拠もないが、否定する理由もない。私個人として も、その俗説を信じたい気持ちだ。 「イマナラユルストイッテルテチャアアアアア!!! ウンチクワスゾクソニンゲンンン!!!!!」 五月蝿い。 私は、手を差し入れ、仔実装の額にデコピンを仕掛けた。ピンっ、と弾くとピンボールのように跳 ねて水槽の端まで㌧で行く仔実装。 「ヂャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!! イタイテチャ! イタイテチャ! イタイテチャ! イタイテチャァァァァァァァァァァ!」 余計五月蝿くなったな。 私は、仕方なく手を止めると水槽の中の仔実装を左手で掴み上げる。 「ヂガァアアアアアァァァ!!!!」 媚びるかと思ったが、親指にかみ付いてきた。少し痛い。皮膚が裂けるほどではないが、蟻に噛ま れたよりは痛い。 私は、仔実装の額を右手の人差し指で押して仔実装を親指から引き離すと、空いた左の親指を、開 いたままの仔実装の口に差し込み、そのまま下に下げて仔実装の下顎を引き裂いた。 「ヂ」 そして、そのまま無造作に水槽に放り投げる。馬鹿め。別にお前なんか死んでもいいんだぞ。不覚 にも憤ったまま仔実装を離してしまう。 「ァィァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!??」 水槽に落着した仔実装の体は、下半身が全て潰れ、でっぷりと肥えた下っ腹のあたりまで完全に潰 れてしまった。やりすぎたか、と思うがもう遅い。死ぬ事はなかったが、観察対象としては最早何の 価値もない。再生した個体でも構わないといえば構わないのだが、できれば、それは自然な実装石の 姿ではないので避けたい。 「アヒ…ァヒ…ァヒ…」 下あごがなくなってろくに言葉も発せなくなった仔実装は、さすがに脅えきった様子で私を見上げ ていた。少し、気分が晴れる。 「今、楽にしてやるからな」 私は、手を伸ばし、仔実装の頭を掴む。そして、そのままぐっと強く指を絞る。 「ァァヒァァヒァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」 ぶりゅぶりゅぶりゅ! と異音を上げて、仔実装の脳と糞が同時に体から出て行く。脳は耳から、 糞は当然、総排泄口から。 全て出し切った後、仔実装を水槽に投げ落とす。これでしばらく捨て置けば、仮死状態になる。レ ポートが仕上がったら、公園に偽石と共にリリースしてやればいい。 ぴくぴくと痙攣する仔実装から目を離して、再びレポートに視線を落とす。 禿裸というのは、髪、そして衣服。実装服を喪失した状態を指す。この状態になった実装石は、ど んな個体であれ、同種族から強烈な差別を受ける。大半は、そのまま暴力を加えられ、リンチ死する 大型の群れであれば、奴隷として扱われ、終生。最下層民として暮らす運命を辿る。 実装服を纏い、髪のある実装石は、まだ愛らしいと言えるかもしれない。しかし、その双方。ある いは片方を喪失した実装石は一気に気味が悪くなる。実装石を愛好する人間の中にも、この状態を嫌 う者がおり、愛情を注いできた実装石が禿裸になった場合、捨てるといったこともある。 禿裸の同種族間でも扱いは上記のとおりであるが、不思議なのは偽石を除去した場合は、差別の対 象にならないということだ。偽石は、血縁でない同種とのコミュニケーションにも密接に関係してお り、偽石を除去された個体は、他の個体と良好な関係を築けないという報告がある。しかし、それで も、差別の対象にはならないのである。 結局は、外見で差別しているというある意味では極めて人間らしい反応を垣間見る事もできる。 何故実装石が多くの人間に嫌われるかというのは、色々理由があるだろうが、つまる所は、人間と よく似ているのがよくないのだろう。 特に人間の汚点と実装石の生態には密接なつながりがあるのだから。 Fin
