− 実 装 石 に 出 会 っ た 男 − 実装石という生き物がいる。 赤と緑の目にしまりの無い口、足元まである栗毛。 緑の頭巾と服に身を包んだ、大人の腰元にも満たない小人。 それが実装石。 これは、もしもそんな緑の小人がいたら・・・ という世界のお話。 ===== 32歳 無職の男 ===== ちくしょう! なんだってんだ!? 俺は子供じゃねぇんだ! 自分の事は自分で決めるんだよ!! それが大人ってモンだろ? それをあのババア、二言目には「就職しろ」だの「働け」だの! 俺を働かして楽しようって魂胆だろ? 「「」ちゃん、面接の時はちゃんと敬語で話すのよ? もう32歳、子供じゃないんだから?」 「今度の所は組立てのラインだから、真面目にコツコツと頑張ればできるんだから・・・」 ああ、ウゼェ。 面接先に向かう道すがら、ずっとこの調子だ。 「ラインなんて馬鹿でも出来るよ。 ネットでの俺様のネタ職人としての才能がもったいねぇぜ」 「お? お母さん、あれ見てみなよ、あんなトコに実装石がいるよ」 「知ってる? 実装石って糞蟲って呼ばれて野良犬みたいにどこにでも居るんだぜ? アイツ等人間 に寄生しないと死ん・・・」 「「」ちゃん!! お母さんの話聞いてるっ!?」 おいおいおいおい、こんなトコで泣くなよ!? だからあの酒乱親父が暴れるんだよ。 離婚するなんてどっちもどっちだね、俺はそんな失敗しねぇけどな。 ほら、泣くなって、面接予定の工場に着いたぜ? 「じゃ、行くから。 初就職ってやつをバッチリ決めてくるから心配すんなって」 ・ ・ ・ 「「」ちゃん、どうだった? 真面目に働く気持ちを伝えられた?」 「つか、あのオッサン達、馬鹿じゃね?」 「・・・・どういう事?」 「月に二回も土曜日出勤だって。 で、一日馬鹿みたいな単純作業。 つったら、帰れってさ」 お! い! おいおいおいおいおい!!! 分かった! 俺が悪かったって!! 泣くなってババア! ああ、イライラするなぁ。 ・ ・ ・ ・ ・ はぁ・・・ なんかバタバタして、夢みたいだった。 俺が蹴った就職話の後、一ヶ月もしないうちにババアがポックリ逝っちまいやがった。 さすがにいきなりだったモンだから俺も慌てたけど、親戚の伯父さんが葬式の段取りを全部やってく れたから助かった。 そう言えば、あんな伯父さんいたんだったけ、忘れてたよ・・・ まあ、今まで通りこのままこのアパートに住めばいいんだから生活は困らないよな。 問題は生活費だ。 金だ、金。 この俺が銭のような俗世の事で悩まにゃならんとはトホホだぜ。 伯父さんが見せてくれたババアの貯金通帳には3万円ポッチしか無いと来たもんだ。 しっかり働けよババア!! まあ・・・ 一ヶ月くらいの食費にはなるだろう。 トントン トントントン 「え? は〜い、誰ですか〜?」 「おお 「」君、やっぱり居たね」 「あ、伯父さん。 葬式の時はどうも」 「実は生前に妹に、「」君のお母さんに「」君の就職の世話を頼まれていたんだよ」 ええ〜〜!? って、最後まであのババア!!! ・・・とは言ったものの、確かに食費って一ヶ月分だったよな? え? 何? 伯父さん何言ってるの? アパートの家賃? 電気代? ガス代? 水道代? え? おれのネットにかかるお金? 「 〜と言う事だ「」君。 幸いというか悲しい事と言うか、妹には君に残せる財産が無かったから 遺産相続なんてややこしい事は無いけども、これからは自分で自分の生活を支えるんだ」 う・・・ 生活ってこんなにお金かかるんだ・・・ で、明日ここに面接に行けってか? 何々〜 「有限会社 ミノリ警備」 ガードマンか何かか? でも、行かないと・・・ 生活できないよな・・・ つか、伯父さんそんな怖い目で見ないでよ、行くからさぁ。 ・ ・ ・ 伯父さんが怖かったのと金が必要なので、とりあえず俺はミノリ警備に出向いた。 が・・・ ちぃ〜、ガードマンかと思ったら、ただの交通整理かよ! とりあえず、今日でやっと法定研修期間とやらが終わってせいせいしたぜ。 あ、ミノリ警備の社長だ、この人も怖え顔してんだよな・・・ 「社長さん、研修期間終わりましたよ。明日からどうするんスか?」 「うん、明日からは実際に現場に出てもらうから渡す物がある。これが君の制服と防寒着と誘導灯だ。 それと君の家には電話が無いそうだから、君の伯父さんから社用に携帯電話を渡す様に頼まれいる。」 おほ! 携帯支給かよ、ラッキ〜〜! 「社用以外の使用料金はアルバイト代から減額するので、くれぐれも私用は無いようにね」 「ええ〜〜〜?」 「(え〜〜って、お前・・・)私は君の伯父さんに世話になっているから君を引き受けた。私が言う のも変だがくれぐれも伯父さんの顔に泥を塗るような働きはしないでくれたまえ。頑張ってくれよ!」 頑張ってくれよって・・・ 俺は好きで働くんじゃないよ、紹介されたから働いてやるんだぜ? 先が思いやられるよ、まったく。 ===== 無職、フリーターになる ===== −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− こうして、32歳無職の男は、母子家庭の中で甘やかし続けてくれた母親の急逝をきっかけに、伯父 の紹介で警備会社でアルバイトをする事になる。 32歳無職の男(童貞)、人生初の社会参加の始まりだ。 「」の派遣された工事現場は、2車線道路の片側を通行止めにし、道路を掘削する下水管工事の工事 現場で、20歳そこそこの交通誘導班長・虹浦氏の指揮で相棒の老人と3人で交通誘導をするものだ。 顎髭をたくわえた恰幅のいい現場監督の指揮の下、各種業者がきびきびと作業をこなしていく。 時折ちらりとアルバイトの「」に目をやるこの現場監督も、実は「」の伯父と縁のある男で、何かと 「」の面倒を見てもらうように頼まれているとは「」は知らない。 更に付け加えるなら、この顎髭の男はそんな頼みを「ハイそうですか」と聞くような生温い性格で無 い事は、「」にとっては露知らぬ事だった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「・・・・さん? 「」さん? 作業の内容は理解できましたか?」 「え!? ああ、うん。 ダイジョーブ」 いけねぇ、虹浦班長の話をちゃんと聞いてなかった、テヘヘ。 う・・・ 現場監督もコッチを睨んでるし・・・ やべぇ やべぇ 早いトコ持ち場に移動しよう。 持ち場・・・ ここでいいんだよな? ・・・お? あんな所に・・・ 実装石だ・・・・・ 俺が一般車両の「通行止め・解除」を行う持ち場の目と鼻の先に電柱があり、その電柱に腰丈ほどの 工事看板が2枚「ハの字」に開いて括り付けてある。 両面が工事看板の壁、背面は電柱の壁、前面は開放されて出入り口になっている。 まさか工事のオッサンどもは意図しなかっただろうが、実装石には頑丈な家屋だろう。 1、2、3〜 全部で5匹か。 デ〜 デスデス〜 デデスゥ あっははっ! 俺はあんまり外に出ないもんだから、実装石の事なんてよく分からないけども、確かに虐めたくなっ ちゃうね、分かる分かる。 な〜んか、小汚いし、ヨタヨタしてるし、アホヅラ下げてるし。 しかも寒いんだろ? ガタガタ震えてるよ(笑) リアル乞食の小人さんってか? 「「」さん!!」 「うわ!? なに!?!?」 いつの間にか虹浦班長が横に来てたぜ、ちょいビビッタ・・・ 「「」さん、無線の指示通りに車流してくださいよ!?」 「え? あ、いや・・・」 「あれ? 「」さん、無線のスイッチ入ってないじゃ・・・ 使い方は言いませんでしたっけ?」 ガ ガガ・・・ ピピッ 「う、聞いてないよ」(多分) 「ああ、スミマセン。 これは、こうで〜〜」 素直じゃないかこの班長、やっぱ年長者を立てないとね。 と、そこにスコップを担いだ小汚い土方の爺さんが話しかけてくる。 「虹浦君は真面目だの〜。ワシの孫にも見習わせたいわい」 「え? いやいや、そんな事無いッスよ。普通ッス」 「他の若いモンは学校で遊んどるのに、虹浦君は中学校出て真面目に仕事しとる、偉い!」 ・・・え? 何ですか? 俺、中卒の下で働いてるわけ? この俺が? 納 得 い か ね ぇ じ ゃ ん !! (怒) 「あの・・・ 虹浦君は高校行ってないの?」 「え? えへへ 僕、勉強苦手だったんで」 「それが今では班長さんじゃのぉ。立派立派!」 俺、一応は高卒なんだけど。 どういう理屈で中卒が立派な訳? それ、間違ってるだろ? 俺高卒だよ、学歴上だよ。 こうなれば俺様の能力を見せつけて、間違っている事を教えてやる。 今まで何もしてこなかっただけで、俺様はやれば出来るんだぜ? 本気を出せば。 ・ ・ ・ こうして、俺の不遇の社会参加が始まった訳だ。 残った物は今まで住んでたアパートと一ヶ月分にも満たない生活費。 俺のやり場の無い憤懣は、工事看板の下に住んでいる実装石の観察で癒すとしよう。 この小汚い下等生物共を見ていると、低学歴の土方のオッサンを見ているようだ。 ちっ くだらねぇ。 ===== 工事看板の実装石 ===== 工事看板の下の実装石を見ていて、気付いた事がある。 あいつら馬鹿なんだけど、馬鹿さ加減にも差があるんだよな。 腹が減ってるんだろうけども、工事してる土方のオッサンに毎日媚びては蹴飛ばされても学習しない。 デッス〜ン って気持ち悪く媚びてみたり、デスデス騒いでみたり。 でも、俺はあいつらの目の前に立って交通誘導してるのに、さすがに二度と来なくなった。 俺から数mも離れいていないトコの電柱の工事看板の陰から、時折チラチラと見てくるだけ。 無視してたら逆切れして糞投げてくる奴いたから、頭から踏み潰して産廃用の鉄箱ン中に叩き込んで やったからだ。 さすがに学習するってか? ひゃっひゃっひゃ! 昨日のあいつも傑作だったよな。 俺が一般車両止めてる時に、食品の絵が描いてある車両があると必ず運転手に媚びに行く奴。 ンなもん、小汚い野良実装の相手するドライバーなんている訳無いだろ。 そして毎回無視されて、デギャデギャ怒る訳だ、さすが糞蟲! でも昨日はちょっと違う。 「デッス〜〜ン! デスンデッス〜〜〜〜ン!!」 焼き鳥屋の軽ワゴンが通行止めの先頭車両だった為、その実装石は軽ワゴンの前に立ちはだかってデ スデスと媚びまくってやがった。 「ピピッ 「」さーん、車流してー」 虹浦班長から無線の合図だ。 「あ〜い」 無線で班長から通行止め解除の合図が入った時、俺は軽ワゴンの運ちゃんと目が合った。 そしたら軽ワゴンの運ちゃん、意味ありげにニヤリと笑ってた。 俺が車流すと、微妙にハンドル切って媚びてる実装石の足を轢いて行きやがんの。 当然、実装石はデギャデギャ騒いで逃げるけど、足が潰れてて這うようにしか逃げられない。 「デギャ!! デギョオオ!!」 少しずつ後続の車に下半身を轢き潰されて、まさに生き地獄(笑) で、圧巻だったのは、しばらくして軽ワゴンの運ちゃんがまた来てるの。 頭だけ残してアスファルトに貼り付いてる実装石の残骸見て、俺にGJ(グッジョブ)サイン出して 過ぎ去って行くんだもんな(笑) あれが噂に聞く、実装石を虐める虐待派ってやつかな? まあ、そんな事で、俺がここで働き出した2日の間に、5匹いた実装石は3匹になっちまった訳だ。 仕事は糞だが、観察は飽きねぇ(笑) ・ ・ ・ その3匹の中に、少し小さめの実装石がいる。 他の実装石が身長60cmくらいだとしたら、そいつは50cmくらいかな。 体が小さいせいだろうか、はたまた要領が悪いせいだろうか、とにかく生き残った3匹の中では何か と割を食って他の2匹に虐げられている。 俺は虐め役の2匹のうち、割と頭の出来が良さそうな奴を「大卒」、「大卒」の腰巾着になって苛め ている奴を「高卒」って名付けた。 苛められている実装石は「中卒」ってどうよ? ん〜〜、我ながらシュールなネーミングだわ(笑) 工事の為に一般車両を[止める・流す]だけの単純作業の中、この3匹の実装石を観察する事が俺の 暇つぶしになった。 ある意味、きつい肉体労働してる土方のオッサン共に比べれば、こうやって実装石観察しながら交通 誘導している俺って勝ち組じゃね? そんな俺も、確かに一日たってると足は棒のようになってくるんだけども。 まあいいや、今日も実装石の観察に励むとするか。 ===== 糞蟲 1 ===== 「ボケがぁっ!! ボサッとすんなあっっ!!!」 デヒィィッ!? 「えっ!? あ・・・ あああのぉ・・・」 例の顎ヒゲをたくわえた恰幅のいい現場監督が張り上げる怒声で、工事看板の陰に居る実装石どもが 悲鳴を上げてる。 俺も激ビビッた!! というか、交通規制かけてた一般車両の誘導を、実装石に気を取られてて間違えた俺に向かって怒鳴 ったんだけどね。 現場監督が一般車両に向かってペコペコ頭下げて誘導してる。 俺、交通誘導始めてまだ3日目よ? 失敗もするっつーの! あんた監督なら少しは作業員の熟練度を考えるべきだろ。 何で俺が怒鳴られる訳よ、それおかしいだろ、いやおかしい! こうなったら一言・・・ うわ! 「このボケが!! 金もらって仕事してんだ! 手前の持ち場、責任もって捌けや!?」 「ひっ・・・ ああああの あの ぼぼ暴力反対・・・・」 現場監督が鬼みたいな顔して俺の胸倉を掴み上げるぅぅ!!!! 「監督さん!! 申し訳ないッス! 僕の指示不足でした、気をつけます! スンマセン!!」 班長が走ってきてペコペコ頭下げてる。 助かるのか俺??? 「・・・・ 虹浦君、誘導員3人が3人の仕事をして一つの班だ。それを忘れずにやってくれよ」 「ハ、ハイ! 工事方には迷惑にならないよう気をつけます、スンマセンでした!!」 現場監督が班長の肩を軽く叩いて帰って行った・・・ う、うひ〜〜! 助かった俺〜〜!!! 「「」さん、どうしていいか分からなくなった時は、一旦周りの車両を全部止めて、前後左右を確認 しなおしてから車両流してください。それでも判断付かない時は無線でお願いします。」 「あ、う、うん。 分かった、分かったよ」 「じゃあ、大丈夫ですね? 引き続きお願いします」 はぁ・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・面白くねぇ・・・ 何だよ!? 監督も班長もペコペコ頭下げるくせに、俺には偉そうに!? デプ・・・ デププ・・・ !? 「だっ 誰だ!?」 「ピピッ 「」さん、何か言いました?」 「え!? い、いや・・・」 無線に流れちまった、班長は呼んでねぇ!! 誰だ!? 何処だ!? デププー! デピャピャ! じっ 実装石だ! 電柱の工事看板の陰に住んでる実装石が笑いやがったんだ!! チラチラとコッチを見ながら、まだ笑ってやがるっ!! この糞蟲がぁ! 貴様らまでが俺を馬鹿にするのか!? ぶっ殺してやるっっっ!!!!! 「ピピッ 「」さん、車流してくださ〜い! それと工事車両入ってきますから誘導お願いします」 「あっ!? え!? あ、ハイハイィ!?」 い、今また車両誘導をミスったら絶対に現場監督に殺される・・・ ぐっ!! ぐぐぐうぅぅっっ!!! こっ こっ こっ こここっこの糞蟲が! 命拾いしやがったな、この!! 後で必ずぶっ殺してやるぞ!!! ===== 糞蟲 2 ===== 「今日は少し寒いデス・・・」 「でも、何か食べ物探しに行かないとお腹減ったデス・・・」 「この間の、人間が乗ってる大きい箱に踏み潰されたアイツは美味しかったデスゥw」 「デスゥw」 「仲間を食べるのは・・・ 『悲しい事』デス・・・」 「「 デ? 」」 「デプププ! お前は馬鹿デス。 ウスノロにはお肉はやらないデス。 何が『悲しい事』デスw」 「どうせ食べられなかったから悔しくてそんな事言うんデス! デープププw」 例の、電柱の工事看板の陰に住んでる実装石どもの会話だ。 実はこの間、焼き鳥屋の軽ワゴンに轢かれたあの実装石は、その死体を仲間の実装石に共食いされる 最後となった。 信じられない事だけど、共食いは実装石の間ではよくある話らしい。 その時に死体の肉を食いっぱぐれた「中卒」を、「大卒」と「高卒」が馬鹿にしている訳だ。 共食いが美味しいだと? まったく、さすがは「糞蟲」と呼ばれる実装石だ、気色悪い奴らだぜ。 ところで、なぜ俺がこいつらの会話が分かるのか? 説明しよう! 「後で必ずぶっ殺してやるぞ!!!」 ・・・と、俺を笑った「大卒」「高卒」に言ったものの、 あの後は現場監督と班長が俺の様子を見張っているトコロへ持ってきて工事車両の誘導で手が離せな かったからだ。 イライラしながら実装石どもを睨んでいると、こいつらは何やらデスデスと会話らしきものをしてい る。 ・・・気になる! こいつら絶対、俺を馬鹿にしてやがるんだ!! で、頭の良い俺は思いついたんだ、貸し出された携帯に実装リンガルのアプリ落とせばイイジャン! そうすればデスデスの鳴き声を人間の言葉に翻訳してくれる。 後でアルバイト代から差っ引かれるだろうけど、ンなもん安い安い。 しかし、実装リンガルのアプリを落としたものの、画面を見ている暇が無い。 つか、班長うぜぇ!! 「「」さん、仕事中なんで携帯メールは控えてくださいね」 「「」さん、工事車両来ます。携帯しまってください」 うぜぇ! うぜぇ! うぜぇ! 中卒班長うぜぇ!! これは俺にとって人間の尊厳に関わる重要な・・・ 「携帯ばっかりいじってねぇえで前見とけやぁ!!!」 デヒィ!? デデ!? ひいっ!? 班長はうるさいけど、現場監督はマジ怖ぇぇ!! こういった訳で、作業中はとても携帯画面を見ている余裕が無かったので、今こうして作業終了後に 作業員休憩所でリンガルの過去ログを読んでるトコ。 いやあ、実装石の会話ってヤツは初めて見るもんで、実に新鮮だ。 馬鹿で糞蟲なところに悲惨な生活臭が出ていて面白すぎる(笑) そうだ! 帰りに耳に引っかける骨伝導タイプの携帯用イヤホンを買いに行こう! あれなら仕事で使う無線と周囲の音を聞きながら、リアルタイムで実装石どもの会話を聞く事ができ るぞ! リンガル機能の翻訳は、イヤホンから俺だけにしか聞こえないしなおさらグッドだ! これは明日が楽しみだ(笑) ===== 糞蟲 3 ===== アレだコレだと生活費で手持ちの金が消え、今日は携帯用イヤホンを買って、夕飯のコンビニ弁当 を買ったら財布の中は小銭だけ。 まあいい、明日はバイト先のミノリ警備から週払いのバイト代が入る。 滞納している光熱費を支払っても「人工少女3」が買えるぜい! それよりも、明日が楽しみだと言ったものの・・・ 初の音声リンガル起動が待てねぇ!!(笑) その夜、俺は貸し出されている携帯に実装リンガル音声版のアプリを追加でダウンロードした後、コ ンビニ弁当をかき込んで近くの公園へ自転車を走らせた。 なんとなく、この公園の風景には見覚えが・・・ あ〜〜・・・ そう言えば子供の頃に来た事あった。 あの酒乱親父と死んじまったババアが離婚した頃だ。 俺・・・ 嬉しそうに補助輪付きの自転車押してたっけ・・・ あの自転車、まだとってあるよ(笑) 懐かしいなぁ・・・・・・ だいたい・・・さ・・・ あの酒乱親父とババアがしっかりしていれば、ずっと気楽な生活だったはずだ。 俺様の身にもなってみろってんだ。 親がもっとまともなら、俺だって一流大学に入って一流企業に就職して、ウハウハの人生だったはず だ! 一ヶ月分の生活費も無いってどんな貧乏よ? そして今や、若造に命令されて、暴力監督に脅かされて、なんて俺は不幸なんだ・・・ って・・・おや? デースーゥ? お、何だ、実装石だ、実装石の方から近寄ってきたぞ。 待て待て、今リンガルを起動するからな。 君達の事を研究させてもらうとしよう。 「おい奴隷ニンゲン、高貴な私にディナーを用意するデス」 ・・・・・・ は ぁ ??? 「聞いているデスか、このウスノロ。さっさとご馳走を持って来いデス!」 ・・・ ナ ニ ? ど う い う 事 ? 1匹・2匹と、実装石が俺の周りに集まってきて、今や10匹近くがデスデスと合唱している。 つか、ナニコレ? 「高貴なワタシを無視するとは使えない糞蟲デス!!」 「・・・汚いお前達のどこが高貴なんだ、オイ?」 「デシャー! やっと喋りやがったデス!」 「ワタシの高貴さが一目でわからないとは愚か者デス!」 「奴隷ニンゲンがワタシの服を洗わないからこんな事になるんデスー!!」 「美しく賢いワタシは高貴に決まっているデス! お前は間違ってるデッス!!」 どっ・・・ どういった理屈そうなる? 「このボケナス! いつまで突っ立っているデス!」 ポフ 「このワタシの鉄拳をくらえデス! デププw」 ポム ポム 「デプププw この奴隷ニンゲン怖くて動けないデスw」 ペシ ペシ あ・・・ 頭の血管が・・・ キ・レ・ソ・ウ・・・ 「高貴なワタシが直々に奴隷の印を与えてやるデププw」 薄汚い1匹の実装石が下着に手を突っ込んだかと思ったら、ねっとりとした糞を取り出しやがった! 「デプププw」 「デーププ 「 こ の 糞 ガ キ ャ ーーー !!!」 デギュェ!! 糞を投げようとしていたそいつを頭から踏み潰してやった! 何だ!? 何なんだこいつらはっ!?!? なんちゅーフザケタ生き物なんだ!?!? デベェッ!! デギ… 周りに居る糞蟲どもを片っ端から踏み潰す! 我慢ならんわい!! デンギャア!! デヒェ! 高貴? 賢い? 美しい? 俺が間違ってる? はぁ? 何故に俺様が貴様の奴隷にならねばなんらんのだ!? ディナー持って来い? ふざけんなっっ!!! デギャオオオ!!! 「はあっ はぁっ はぁっ ・・・」 これが糞蟲と呼ばれる理由か? 俺は実装石には今まで興味が無かったから、ネット上で見かけてもスルーしてた。 ただの小汚くて頭の悪い小人だと思ってた。 違った!! スッゲームカツクッ!! 周りにたかっていた実装石どもを1匹残らず踏み潰して、荒い息を整えらながら考えた。 「俺、実装石の事、殆ど知らね〜・・・」 「ネットだ・・・ 検索かけて調べてみよう・・・」 ===== 3匹の実装石 1 ===== 眠い・・・ 今は交通整理のバイト中だが、立ってても寝てしまいそうだ・・・ 昨夜は公園から帰った後、実装石というものをネットで調べまくった。 性格:邪悪とも言える自己中心的な自尊心。自分がこの世で一番可愛らしく他は醜いと信じて疑わない。 興奮や動揺で頻繁に脱糞し下着を膨らませる。(これをパンコンと言う) 知能:生後すぐに同族語・人語を理解するが、性格も影響し大抵は幼児以下。不都合な事は忘れる。 身体:成体で身長60cm程度の小人。脆弱非力な身体内に『偽石』と呼ばれる命の結晶体を持つ。 異様なまでの再生能力を持ち、栄養状態が良ければ火傷以外は手足の欠損も再生可能。 容姿:赤緑のオッドアイにだらしない兎唇が特徴。後ろ髪は地面に着くほどの長さ。 生まれつき実装服と呼ばれる緑の服を身にまとっている。 生態:野生の実装石は主に野良実装と呼ばれ公園などに生息している。愛護派の施しと人間の出す生 ゴミが主食となる為に生活は厳しく、共食いも見られる。 まあ一言で言えば、 糞蟲!! って事だな。 俺は最初は、実装石なんて頭の悪い小猿か何か程度だと思ってたんだが、知れば知る程とんでもない 下衆な生き物だと分かった。 おまけに、生まれつき服を着てたり、千切れた手足が生えたり、体格以上の糞をたれたり、究極のデ タラメな生き物だ。 まあ、別な視点から新たな興味が沸いたんだけど。 分かりやすく言うと、「虐めてみてぇー!!(笑)」って事だ、ひははは! 「ピピッ 「」さーん、車流してくださ〜い!」 「(はっ!?)・・・はい了解?」 と言う訳で、時折入る指示の無線が無ければ寝ちゃってるよコレ(笑) 昨夜のネット漬けで眠いったらありゃしない。 遅刻したら現場監督に睨みつけられたし。 来るだけありがたく思えってばよ、俺が居ないと困るんだろ? 今はこの骨伝導イヤホンで携帯電話の音声リンガル聞いて眠気をしのいでいる。 とりあえず今日は交通誘導の仕事をしながら、ゆっくりと実装石の観察ができるぜい。 「デス〜 お腹すいたデス〜」 「そろそろご飯の時間デスね」 大卒と高卒がエサの話をしている。 ちょうど朝の通勤ラッシュが終わる今の時間帯に、昨夜のうちに出されたオフィス街の飲食店の生ゴ ミをあさりに出かける習慣のはずだ。 「ワタシもついて行くデ・・・」 「デシャー! お前なんか来なくていいデッス!」 「ご飯の分け前が減るデス!」 お〜、思っていた通り、この中卒は他の2匹に虐められているらしい。 ネットで見た通り、実装石は少数派や立場の弱い者を虐めるのが大好きだというのは本当のようだ。 「お前はお家を暖めとけばいいんデス」 「でも、お土産は無いデスよ デープププw」 「デェェ・・・」 大卒と高卒は中卒を追いやって、いつもの方角に出かけていった。 中卒は例の工事看板の中で、ふざけたミツクチ(兎唇)をポカーンと開けて馬鹿面をさらしている。 「くっ・・・ くくくっ!」 ちらちらと見ていた俺に気付いたのか、馬鹿面下げた中卒と思わず視線が合ってしまい、思わず笑っ てしまった。 「デェ?・・・ デスデース!」 笑われた事に気付いた中卒はデスデスと鳴いている。 音声リンガルの翻訳はこうだ。 「デェ? ワタシはお家を暖める仕事で忙しいんデス。 じろじろ見るなデス!」 家にこもっていて何が忙しいんだよお前、自宅警備員かっつーの(笑) 「きょ、今日のワタシは忙しいんデス!」 「い、今からお家を暖めるデス。 そっそそそ、その後はお腹が空くのを我慢する仕事・・・」 ゲハゲハゲハゲハ!! ひぃっ! 腹がいてぇ! 思わず大爆笑してしまう俺! ひ・・・ ひひひ。 いけない、いけない。 このままじゃ俺は変な人だ、前を走る車の運転手が怪訝そうな目つきで俺を見ていたぞ(笑) 中卒は真っ赤な顔をして、工事看板の下でプルプル震えている。 こんな時はアレだ、緑色の糞をブリブリとひり出して下着をパンパンに膨らませる、パンコン(パン ツこんもりの略)するんだろ? しかし、あれ? 実装石の緑糞はエラク臭いらしいけど、臭いも音もしないなぁ? ===== 3匹の実装石 2 ===== そんなこんなで実装石がお留守番の中卒1匹だけになってしまい、寝不足の俺が眠気を催した頃にあ の恰幅のいい現場監督がやってきた。 この人、昨夜は徹夜で役所に提出する書類を仕上げて、今はコンビニに遅めの朝食を買いに行った帰 りらしい。 はあ、よくやるよまったく。 歩きながらコンビニ袋から「豚トロまん」を取り出し、ガブリと食いつく。 「あぁぢぃー!!」 そう、「豚トロまん」はジューシーなアチチの肉汁が売りなので、無造作に食べるとこの火傷攻撃を 受ける羽目になるんだ。 目を見開いて驚いている現場監督は、ポトリと「豚トロまん」を道路に落とす。 「あちゃ〜! しまった! まだ一口も食ってないのに・・・」 相手は恨みつらみのある現場監督なんだけど、さすがにこの至近距離で笑うのは自殺行為だ。 現場監督は残念そうに「豚トロまん」を拾うと、それをどうしたものかと辺りを見る。 この俺と目線が合うと、食うか?とばかりのゼスチャーをしてくる。 いや、さすがにいいッス。 と、工事看板の下から涎をダラダラ垂らして覗いている中卒を現場監督が見つけた。 「・・・ お前、これ食うか?」 「デ? デスッ!!」 中卒は現場監督から「豚トロまん」を受け取ると、慌てて噛り付いて「デシャー!」と鳴いた。 泣いた、の方が正解かな? とにかく熱かったらしく口をハバハバさせている中卒に、現場監督が「ゴミはあそこに捨てるんだか らな?」と工事現場においてある灰皿代わりのブリキの一斗缶を指差して帰っていく。 熱さに懲りたらしい中卒は、はふはふと冷ましながら「豚トロまん」にがっつく。 携帯の音声リンガルからは「こんな美味しいもの生まれて初めて食べたデス」とかなんとか聞こえて くるので中卒の方を振り返ると、赤色と緑色の涙を流しながら食べてやがる。 ネットで見た情報で、実装石が本当に感激したり怖がったりした時は、左の緑色の目と右の赤色の目 から色付きの「本気涙」を出すというのは本当らしい。 へ〜〜と感心していると、そこへエサ探しに出かけた大卒と高卒が帰ってきた。 「デ? いい匂いがするデス!?」 鈍い中卒は家の前(工事看板)に来るまで気付かず、大卒の声に慌てて残りの「豚トロまん」を飲み 込む。 「デエ!? お前! 今なにを飲み込んだデス!?」 「いい匂いデス!! なにか食ってたデス!!」 「ドゥエドゥ?」 中卒がモゴモゴ言いながら一生懸命に首を振るが、そのモロバレな仕草で大卒・高卒の2匹に、滅多 にお目にかかれないようなご馳走を食べてた事がバレてしまった。 「デッシャー!! ウスノロなお前に代わってご飯を探してやっていたのに裏切るデスか!?」 いや大卒、何もやらないって言ったのお前だろ(笑) 「おおおおまおまおままデデデデンズゥ!!!」 落ち着け高卒(笑) 「「この糞蟲ブッ殺してやるデス!!」」 「デエエエーー!?」 後頭部をド突かれながら逃げる中卒を、大卒・高卒の2匹が追いかけて車道に飛び出てくる。 俺が一般車両を通行止めにしている目の前に、だ。 そしてベリーナイスな事に。 「ピピッ 「」さーん、車流してくださ〜い!」 「はい了解〜(笑)」 3匹とも死ねや(笑) 俺はコレまでに無く素敵な笑顔で一般車両に頭を下げて通行止め解除をした。うひひゃ〜! ブオオオオオオーーーッ!! 「「「デアアア!?!?」」」 ギアを1速から噴上げて、実装石など何処吹く風の眠そうなオヤジが軽トラで突っ込んで来た。 そりゃあもう、この世の終わりでしょ(笑) 「デッス! デッス! デンッ!?」 あと少しで車線を渡りきれそうだった中卒だが、軽トラの黒いバンパーに後頭部から跳ね飛ばされて ゴロゴロと猛烈な勢いで転がる、ハイ残念! 「デエー! 危なかったデスゥ!」 「デッス! デッス! デッ? ンギャァーーー!?」 大卒はいち早く向きを変えて引き返し無事だったが、引き返す判断が遅れた高卒はタイヤに頭巾を巻 き込まれて頭巾を毟り取られてしまう。 「デデエ!? ワタシの頭巾が無いデスー!?!?」 切り落とされた手足が再生する実装石も、生まれた時から身に着けている服と頭髪は再生しないそうだ。 いわば命の次に大事なものを無くしてしまった訳だ。 本気涙流してデスデス叫んでいる高卒を見て、大卒はデププと笑ってやがる。 そして跳ね飛ばされた中卒はと言うと、道路の向こう側で横たわってビクビク震えていて、頭でもパッ クリ割れたんだろう、頭巾がみるみる赤黒く変色していく。 更に、めくれた実装服から見える白い下着は、ブリブリとひり出される糞で緑色に膨らんでいく。 いや〜、実装石面白れぇーわ! ===== 3匹の実装石 3 ===== 軽トラに跳ね飛ばされててっきり死んだものだと思っていた中卒だが、昼過ぎ頃にフラフラと立ち上 がる様子が見えた。 あんなにドクドクと血みたいなモンを流してたんだぜ? ありえねぇ〜だろ(笑) それでもやはりダメージが抜け切ってないんだろう、ヨタヨタしながら道路を渡り、工事看板の家に たどり着いた。 「デジャアア!! 糞蟲が入る家は無いデス!!」 大卒は工事看板の奥でグースカ寝ているが、未だショックが冷めやらぬ高卒は、思いっきり振りかぶ り中卒の顔面にパンチをぶち込む。 もんどりうってひっくり返る中卒を、蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る!! フウフウハアハアと疲れ切って一旦休憩する高卒だが、ハッと我に返り頭に手をやりデズ〜と泣きな がら工事看板の家に引っ込んだ。 そのまま、頭のてっぺんに届かない短い手で頭を抱えてデズデスと泣いている。 どうやら実装石にとって服が一部でも無くなる事は相当ショックらしい。 またもや半殺しの目に遭った中卒はと言うと、しばらくの後にフラフラと立ち上がり、工事看板の中 には入らず、その外側に体育座りでしゃがみ込むしかなかった。 まだ死なないんだね? そこへ工事現場の見回りに現場監督がやってくる。 ひょいと「ハの字」に開いた工事看板の中を覗き込むと、「豚トロまん」の底紙が落ちているのを見 つけた。 灰皿代わりのブリキの一斗缶に捨てておけよ、と言いつけたあのゴミだ。 ムスッとした表情で3匹を睨む現場監督、おお怖ぇ〜。 奥で寝ている実装石、頭巾無しの実装石、黒っぽく変色した頭巾の実装石。 「ゴミ捨てとけっつっただろーがぁ!!」 奥で寝ている大卒に岩のような拳を叩き込む現場監督。 恐らく実装石にしてみれば大砲でも食らったようなモンだろう、大卒は声も出さずに痙攣中だ。 あたふたと慌てた中卒は、「デエ! ごめんなさいデスゥ!!」と叫んでゴミを掴んで一斗缶に走る。 「お? お前、感心なヤツだな」 いや、ホントは殴られるべきは中卒なんだけど。 ・ ・ ・ 夕方になって冷えてきた、いつもよりか寒い。 相変わらず大卒は工事看板の奥に横たわり、高卒はその横で頭を抱えていて、中卒は工事看板の外で ひざを抱えてうずくまっている。 少し風も出てきたもんだから防寒着を着ている俺でも少し寒いくらいだ。 ましてや薄着の実装石、工事看板の中の高卒はまだしも外に居る中卒はブルブルと震えるしかない。 寒さに耐え切れなくなったのか、中卒がのそりと立ち上がり独り言を言う。 「デエエエ、寒いデスゥ・・・ ゴメンしてお家に入れてもらうデスゥ」 「・・・ 詫びを入れるなら禿裸が基本デスゥ・・・」 「デエエ!?」 その独り言に、高卒がつぶやきで返す。 実装石の衣類と頭髪は二度と再生しないらしく、これらの一部でも失うと例え親子と言えども激しい 差別を受け、生き地獄の目に遭うらしい。 禿裸とは前髪と後ろ髪、それに頭巾・実装服・前掛け・下着・靴の衣類を失った状態だそうだ。 つまり高卒は中卒に、死んで詫びろと言ってる訳だ(笑) 第三者にしてみれば、どちらもハゲワロス状況だけどな。 寒さに困った中卒は工事看板の家に入る訳にもいかず、工事現場の周りをウロウロしだす。 ところが当然ながら暖房器具のような物も無ければ、代わりの家になりそうな物も無い。 無い、無い、とにかく何にも無い。 途方にくれた中卒は、俺を上目遣いで見上げながら恐る恐る近づき、奇妙なポーズをとりやがった。 右手を口元に当てて、小首をかしげて・・・ 「デッスー・・・ 「媚びたら殺す」 ネットで実装石を調べている時に何度か見かけた情報、いわゆる「媚びのポーズ」だ。 相手の注目を集めたい時や、都合が悪くなって困った時に、きまってこの仕草をするが、その仕草は 普通の感覚の人間には生理的に酷くムカツクそうだ。 つか、媚びの仕草をとり終える間も与えず即座に遮ったが、それでもかなりムカツクぞ。 媚びたら殺すと言い放たれて困り果てた中卒は、そのポーズのまましばし固まり、その後トボトボと 歩いてまた工事看板の横に座り込んだ。 そのままヒザを抱えてブルブルと震える中卒。 こっちも寒いんだよ糞蟲! 「ピピッ 「」さん、そろそろ作業終了の時間なので、通行止めのバリケード縮小して帰る準備して くださ〜い」 「あ、了解〜〜」 イヤッホウ! 今日の糞仕事は終わりだぜい! ミノリ警備の事務所に寄って、週払いのバイトを貰わなきゃ。 「という訳だ糞蟲ども、生きてたらまた明日な(笑)」 「デ?・・・」 ・ ・ ・ 帰り支度をする為に作業員休憩所へ無線やヘルメットなんかの装備品を戻しに来たら、2階の現場監 督専用の仮事務所から伯父さんの声が聞こえてきた。 「どうですか、「」君は真面目に頑張ってますか?」 伯父さんの声だ。 「う〜ん、まあ交通誘導班長の虹浦君が良く面倒見てなんとか続いてますけどね」 この声は現場監督・・・ 何コレ? この話の流れなんなの? 「そうですか、虹浦君という人が「」君の面倒を見てくれているんですか」 「ええ、キビキビ良く動く優秀で真面目な青年ですわ」 「それは良かった。私の妹〜 「」君の母になるんですが、妹が最後まで「」君が社会に出られない 事を心配していたものだから・・・」 !!! またあのババアの話か!? しかも何か? 俺があの中卒班長のお陰で仕事が出来るだとぉ!? 「「」さん、お疲れ様ッス。まだ帰らないんですか」 「!?」 しかもこの糞タイミングに優秀な中卒班長様がやって来やがった! 「明日はかなり寒いそうなんで「」さんも・・・」 「うるっせえよ中卒!! いちいち年上に注文つけんなよ!!」 「え!?・・・」 マ ジ 殺 す ぞ お 前 ら !!! どいつもこいつも俺の事を子ども扱いしやがって!! 俺はもう大人なんだよ!! ただ本気を出して無いだけだ、ふざけんなよ!! 「今度から気をつけろよ!?」 俺は中卒班長の野郎を睨みつけて、作業員休憩所を飛び出した。 ===== 弱肉弱食 ===== 翌日、朝礼の時から班長は元気が無かった。 俺に話す時も、目をそらして下を向いて。 大人の迫力ってやつにビビッたってトコだな、お前になら言えるぜー! ざまあみろ、優秀な班長様よ(笑) ところで、実装石の中卒の奴はまだ生きてた。 昨夜も冷えたんだろう、俺が持ち場に就いた時はブルブルと震えて鼻水たらしてた(笑) そこへ現場監督がやって来た。 「おい、「」よ。昨日、お前の伯父さんがミノリ警備から預かったバイト代を渡しに来てくれてたぞ」 「え? ああ! そうだ、バイト代貰う日だった!!」 しまった、昨日はすっかりブチ切れて帰ったもんだから、すっかり忘れてた。 そうか、それで伯父さんが・・・ 「本当は赤の他人の俺がお前の給料を渡すのはおかしいんだが・・・」 ゴソゴソと手提げ鞄の中から封筒を取り出して俺にくれる。 「その無線と誘導灯を俺に貸せ。俺がちょっと交代するから、今すぐ封筒のバイト料明細と金額を確 かめろ」 「いや、べつにいいです、そこまで・・・」 「馬鹿モン、金は真剣に扱え。金って物は汚くて、そして大事な物だ。 〜ほら、無線かせ」 そう言って現場監督は俺から無線と誘導灯を強引に取り上げる。 この人、ホントは交通整理好きなのか? 「ちゃんとある・・・、全額ちゃんとありますよ」 「おう、そうか。よかったな」 「それとだ、今日帰ったらすぐに電気代やガス代なんかを振り込まないと、止められてしまうって伯 父さんが言ってたぞ」 「あ、はあ・・・」 「亡くなった母ちゃんの口座じゃなくて、伯父さんが作ってくれている口座があるだろ、それに振り 込むんだ。振込先の切り替えは昨日のうちに伯父さんがやってくれたそうだからな」 「あ、はあ・・・」 「ホントはお前な、いい年してんだから、そんなの自分でやれよな?」 「あ、はあ・・・」 「お前、はあはあって・・・ まあ、好きにせい」 ほっとけって、いちいちウゼ〜。 現場監督は無線と誘導灯を俺に押し付けて、くるりと帰っていく。 ふと立ち止まって、実装石の家と化した工事看板に歩み寄ると、中を覗き込む。 「・・・・・ うぐを!?」 「?」 デス〜? 工事看板の中を覗き込んだ現場監督が、奇妙なうめき声を上げて固まった。 俺と、工事看板の横にいる中卒は、頭がハテナマークだ。 とりあえず、急いで音声リンガル起動ー!(笑) 「デプププw ひさびさにお肉デス〜w」 現場監督の足の間から見えたのは・・・ またこいつら共食いしてやがる! 「こ、この野郎〜。仲間食ってやがるぞ・・・」 でも、どっちが食われてるんだろ? 食ってる方は頭巾被ってるし・・・ 「この糞蟲・・・クッチャクッチャ・・・いつも威張り散らして生意気だったデス・・・ハグハグ ・・・糞蟲だったデスけど・・・モグモグ・・・美味しいから特別に許すデスw・・・ゴクン」 は? 「お前にはもうコレ(頭巾)は・・・グチャグチャ・・・必要ないから・・・ゴクン・・・ワタシが 貰ってやるですw・・・ゲェ〜〜プ ありがたく思うデスw」 なるほど〜、高卒の奴が大怪我して動けない大卒を襲って、ついでに頭巾を奪って被ってるんだ。 相変わらずエゲツない下衆な生き物だわ。 「おいお前、仲間食われてるぞ。 いいのか?」 デス〜? 現場監督が工事看板の横に座り込んでいる中卒に訴えるが・・・ デスデス デスー デデスデス・・・ 「次はワタシが食べられるデス。ニンゲンさん、助けてほしいデス・・・」 現場監督はこいつらの力関係を知らないし、もちろん言葉も分からない。 まあ実際には中卒の言うとおりになるだろうなぁ。 でもそれじゃあ面白くない、煽ってやろう。 火の無い所に煙を立てるってか。 「監督、こいつ『昨日、「豚トロまん」一つしかくれないから喧嘩になったデス。責任取るデス』と か言ってんじゃないすか?」 「おあ? そうなのか?」 「ピピッ 「」さん、車流してください」 「あ、はい了解」 あらら、いいトコだったのに。 とりあえず丁重に通行止めしていた一般車両を流す、えらくスマートな仕事っぷりの俺。 だって、目の前に鬼監督いるんだもん。 「お、お前ら。昨日の「豚トロまん」を取り合いしてこんな事になったんか?」 デスーデス デスデスデデスーデス デスデスデス 「違うデス。昨日ワタシがゴミを片付けなかったデス。それで代わりに殴られて、動けなくなって食 べられたデス。悪いのはワタシデス」 ちらりと目の端に、身振り手振りで話している中卒が見える。 「そうなのか、やっぱり1個だから喧嘩になったのか・・・」 会話通じてねーし!!(笑) 「しかしこいつ食い意地張ってるな。一人で1個丸ごと食べて、まだ共食いしてるのか」 ああそうか、確かに今の高卒の姿は、昨日の中卒に見えるもんな。 大卒は頭巾盗られて禿頭だし、中卒は怪我した時の体液で黒く変色した頭巾だし、監督は高卒が「豚 トロまん」を貰ったと勘違いしているんだ。 「ピピッ 「」さん、車止めてださい」 「はい、了解」 虹浦班長の無線に応えて一般車両を止める。 きっちり車列が止まった事を確認してから後ろの監督を振り返ると、すでに中卒たちを残して立ち 去った後だった。 ふと、先ほどの言葉が思い出される。 「悪いのはワタシデス」 実装石って、こんな素直な考え方するんだっけ? 今日も上がらない気温にブルルッと身震いしながら、俺はその言葉に違和感を覚えていた。 ===== 中卒を拉致してみる 1 ===== 寒いっ!! ちょー寒いっっ!!! 今日は昨日よりも更に寒い!! ちらりとテレビで天気予報見た時には、大寒波だとか言ってた。 昨日はあれから現場監督の言ったとおり、速攻でコンビニに走ってガス代だの電気代だのを引き落と し出来るように手続きを済ませた。 まあ、初めての入金で四苦八苦したんだけどもね、よくやったぜ俺。 とりあえずは家に帰ればエアコンでぬくぬくネットできるんだけども、今現在が寒すぎる! これじゃ死んじまうわ、昼休みになったらホッカイロ買いに行くべし! 高卒の奴は昨夜のうちに大卒を全部食べきったんだろう、今では衣服しか見当たらない。 高卒はその大卒の衣服に包まって、工事看板の中でガクガク震えている。 中卒にいたっては・・・ あれは・・・ 一応生きてるのか? もはや震える元気も無いらしく、小刻みにプルプル揺れているだけだ。 こりゃ死ぬな。 「ピピッ 「」さん、車流してください」 「りょっ りょりょりょ了解ぃぃ・・・」 だっ 駄目だっ この寒さは耐えられんっ!! こんなに寒けりゃ身体に悪いだろ? 工事している奴らは何も考えないのか? 頭おかしーぜ!? そんな俺の頭にピコーン!とアイディアがひらめいたよ、コレダ!! 俺は誘導すべき一般車両がしばらく来ない事を確認して、電柱の工事看板に駆け寄り中卒を掴みあげた。 寒さで死にかけていたが、さすがにこわばった顔で「デスー」と鳴いてやがる。 「・・・クンクン。 ちょ おま くせーよ!?」 きょろきょろと辺りを見ると、道路の掘削部を囲むバリケードに土嚢袋の束が引っかけてあったから 一枚拝借して、その中に中卒をぶっ込む。 「ニ、ニンゲンさん、何するデス!?」 「いーから大人しくしてろ! くせーんだよお前は!」 「デエ!? 暖かいときにはちゃんとキレイに・・・」 四の五の言ってる中卒を無視して、中卒入り土嚢袋を防寒着の中に突っ込み腹の辺りに収める。 ジャ〜ン! 天然カイロの実装完了ー!! ってか(笑) いや、我ながら名案だわ。 「デエエ。ニンゲンさん、ワタシは何も悪い事してないデス。ここから出してほしいデス」 「なんでこんな事するデス? 目障りならどこかへ行くデスゥ」 出してくれとせがむ中卒を無視して、俺は再び誘導にとりかかる。 しかし土嚢袋に突っ込んだのに、それでもまだ臭いが・・・ そうこうしてるうちに冷え切った中卒の体も暖まってきたのか、俺の腹の辺りも温くなってきた。 中卒も居心地がいいんだろう、もうデスデスと鳴かないぞ。 ・ ・ ・ そろそろ昼飯の時間なんだが・・・ 背中に感じる寒風は、ますます冷たくなってきている。 遠くを見ると、虹浦班長ともう一人の交通誘導員の爺さんも、寒さに耐えかねてその場で足踏みして いる。 こうやって考えて見るとやはり俺様は天才だ(笑) 実装石ホッカイロ、実用新案特許でも出してみるか? 「・・・・デス」 「ん?」 腹の中の中卒が何か言い出した。 「い・・・が・・・・いデス」 「なんだって?」 「息が、苦しいデス!」 「・・・・・止めれば?」 「デスーー!?」 「ひっ 酷いデス! 虐待デスゥ!!」 「32歳フリーターパァーーンチッ!!」 ドボォッ!! 「デゲァッ!?」 ふっふっふ、虐待とはこういう物を言うのだよ。 人間様に意見しようなどとは100年早いわ。 「こ・・・ このままで死んでしまうデスゥ・・・」 「え? おいおい、死んじまったらホッカイロの意味がないだろ。頑張れよ」 「む、無理デスー!」 そこへ昼休憩を知らせる無線が入る。 「ピピッ 「」さん、昼になるので通行止めのバリケード縮小してください」 「了解〜」 とりあえず、だ。 俺は昼飯を食う前に、中卒を休憩所の横の作業着専用洗濯機にほり込んで手早く洗うと、土嚢袋から 首だけ出す格好にして休憩所の外の換気扇フードの下に吊り下げておいた。 こうしとけば換気扇で排気される休憩所の温風で少しは乾きが早かろう。 ぐったりとして、ちょっと死にかけてるのが気になるけど(笑) さて、メシだメシだ! ・ ・ ・ 短い昼休みのお昼寝タイムが終わり休憩所を出ると、なんと現場監督が吊るしてある中卒に話しかけ ているではないか。 「お前、これも食うか?」 デスー デスデスー ポリポリ・・・ うを!? 現場監督が真剣な顔して餌付け中!? 髭面のガタイの良いオッサンと実装石、似合わねぇ。 あの人っていわゆる「実装石愛護派」なのか? 「ん? 何見てるんだ「」。ひょっとしてこいつお前が飼ってるのか?」 「え、いや。ホッカイロ代わりに懐に入れてたんで・・・ その・・・ あんまり臭いモンで、その 洗って干してたんで・・・」 「ホッカイロ? こいつでか???」 何? また俺怒鳴られる訳? でもそれ無いとマジ凍え死んじゃうよ。 「おい兄ちゃん、仕事の時間じゃよー!」 土方の爺さんが俺の腰をポスポス叩く。 見ると虹浦班長と誘導の相棒の爺さんが現場に向かうところだ。 ええい、どのみち怒鳴られるんなら寒くない方がイイに決まってる。 「じゃ、俺持ち場行きますんで!」 呼び止める隙も与えずに、俺は吊り下げた中卒をひっ掴んで懐に押し込む。 後ろで何か言ってるのが聞こえたけど、そのまま逃げるように現場にダッシュ! 「おうおうおう、ようやくあの兄ちゃんも仕事する気になったようじゃの〜」 「・・・まあ、少しはマシになったか・・・」 ===== 中卒を拉致してみる 2 ===== 持ち場に就いた俺は後ろを振り返って、おっかない現場監督が追っかけてこない事を確認して、バリ ケードの準備を終えた。 さっそく虹浦班長から無線の指示が入り、交通誘導にとりかかる。 「デ〜、ニンゲンさん真っ暗デス〜。このままではまた苦しくなるデス〜」 「あ〜、解ったよ、うっせ〜な。・・・・・ほら」 せっかくのホッカイロに死なれちゃ困るから、防寒着の首元を緩めて、そこから中卒の顔を出す事に した。 ぱっと見、人間と実装石のトーテムポールじゃん。 俺、愛護派じゃね〜のに・・・ まあ、あの悪臭も消えた事だし、とりあえず良しとするか。 「デプププw なんてマヌケな格好デスw」 工事看板の中からこの様子を見つけた高卒が、鼻水たらしてガクブル震えながら笑ってやがる。 「てんめぇ〜、ふざけんなよ糞蟲が。鼻水たらしてガクブル震えている野良実装ごときが何を勘違い してやがんだ?」 「デシャー! うるさいデス、この奴隷ニンゲン! お仕置きしてやるデッス!!」 「はぁん?」 何を思ったのか、高卒の野郎が俺めがけてポテポテ走ってくる。 お仕置き・・・ できるつもりなんだろうか? と言うか、それは走ってるの? その、人間の1歳児よりもトロくさい速度は? 棲家から、俺の足元まで・・・ ようやく・・・ あと少し・・・ バコーン! 「32歳フリーターキィーックッッ!!(笑)」 会心のサッカーボールキックをどてっ腹に決めてやったぜ(笑) 見事、工事看板の中へシュートが決まったその直後、後ろから「パッパ〜ン」とクラクションを鳴ら された。 振り向けばそこにいるのは、いつぞやの焼き鳥屋の軽ワゴンではないか。 軽ワゴンの運ちゃんは、爽やかな笑顔で親指を立てて走り去っていった。 いや〜、良い事をした後は気分がイイですな(笑) 「デ・・・ェ・・・ゲ・・・・」 高卒の奴は工事看板の中で、腹を抱えてボールのように丸くなり、ウネウネと悶えている。 せっかく食った朝の生ゴミも、足元にビチャビチャと撒き散らし中だ。 「おい糞蟲、お仕置きはどうなったよ?」 吐き出す物がなくなったのか、高卒は歩道のアスファルトに顔を擦り付けながら、滅茶苦茶に恨めし そうな目つきで睨んでやがる。 実装石って貧弱ね。はあと(笑) 「ニンゲンさん、乱暴は良くないデス〜」 「あ? うるせえよ。 中卒はだまってろ」 「デ? 「ちゅうそつ」ってなんデス?」 「はあ? あ〜〜〜〜・・・・ まあなんだ、俺が勝手につけたお前の名前みたいなもんだ」 「なっ 名前デス!?・・・・」 なんだこいつ? なに驚いてるんだ? 「ワ ワタワタ ワタシいい子にするデスゥ・・・・・」 「はあ?」 おいおい、なに人の懐でモジモジしてんだよ、こそばゆいだろ。 変な奴だな〜。 ・ ・ ・ それから中卒の奴は、一言も喋らずに俺の懐で大人しくしていた。 実装石は糞蟲って聞いてたから、文句でも言おうものなら殴ってやるつもりだったのに。 ず〜っと懐から顔を上げて、赤と緑の目で俺を見上げてるんだ。 実装石ってのは分からんわ。 まあとりあえず、今日の作業は終了した。 他の土方のオッサンは口々に寒い寒いを連発してたし、交通誘導で立ちんぼの虹浦班長と相棒の爺さ んはもうガクブルで震えていたよ。 もし実装ホッカイロが無かったら、俺死んでたかもな(笑) 土方のオッサンの話では、この後の数日間はもっと冷え込むらしい。 そうなると、懐の中卒が逃げたり死んだりしないように確保しとかないと・・・ どうしよう、どこがいいんだ? 実装石は糞を散らかすらしいから、まさか休憩所に閉じ込めておく訳にもいかないし。 ん〜〜・・・・ 「おい「」、まだ帰らんのか?」 「あ、監督・・・ そのぉ〜〜・・・・」 「どうした? 何か探しモンなのか?」 「いや、あの・・・ 今帰るトコで・・・」 タイミング激悪ーー!! って感じだ、くそー! しょうがねぇ、高卒の奴ぶっ殺して工事看板の中に突っ込んでおこう。 いくら寒くても屋根があれば一晩くらい持つだろう(多分)。 「おい、「」」 「は、はあ(だから帰るってば!)」 「そいつ(実装石)・・・ 俺がエサやっていいか?」 デスー? ===== 中卒の過去 ===== つほぉ〜〜〜!! マジ寒いッスよ兄貴!!(いねぇ〜けど) なんで俺、こんなに寒いのに朝から外にいるんだろ? こんなに寒いんだから、今日だけ工事中止にしちゃえばいいのに。 はぁ・・・ 実装石観察する楽しみが無かったら、俺、多分というか絶対現場に来てねぇーと思う(笑) 朝礼前に、さっそく実装石ホッカイロを実装しようと中卒を探す俺。 そしてなんと、休憩所の横にダンボールハウスがあるではないか。 「うわ〜、なにコレ・・・ ダンボール箱、二重になってるし・・・ これ出入り口?」 「うほん!」 「うあ!」 「「」よ、探しているのはこいつだろ」 後ろを振り向くと、現場監督が中卒の奴を土嚢袋に入れて差し出してきた。 中卒はというと、袋から頭だけ出してモゴモゴと手足を振ってデスーデスーと嬉しそうにしてる。 なにが嬉しいんだこいつ? 「さあ、並んだ並んだ。朝礼だぞ」 「あ、はいはい」 中卒を防寒着の腹ン中にしまいながら行こうとすると・・・ 「おい(実装石よ)、風邪ひくなよ」 「え(俺?)・・・あ はあ・・・」 ひょぇ〜、現場監督いつからこんなに優しくなったんだ!? もしかして、俺の肛門でも狙っているのか??? 朝礼の間中、俺の頭の中はハテナマークでいっぱいだった。 何故に現場監督は俺に優しくなった? 俺様の真面目で優秀な腕前に考えを改めたのか? そして、現場監督ってコテコテの愛護派??? でも大卒の奴に岩のような拳ぶち込んでたしな・・・ でもでも、実装石に「豚トロまん」をやってたし・・・ いやいやいや、あれは捨てる代わりにそこに居た実装石にくれてやっただけの・・・ あ!? やべえ!! いつの間に朝礼終わってたんだ!? 俺、朝礼場所の掲示板前に一人で突っ立ってるよ!! ・ ・ ・ いつもの如く持ち場について、いつもの如く交通整理なんだが・・・ 今日は寒いぜっ!! 死ぬほどによっっ!! まあ、実装ホッカイロのおかげでなんとか我慢できるんだけども。 「くぅ〜〜・・・ なんでこんなに寒いんだよ、まったくぅ・・・」 「デェ〜 ご主人様寒いデスゥ?」 「はあ!? 誰がご主人様だって!?!?」 懐の中卒、何を寝ぼけまくってる!? 「だってご主人様、ワタシに名前をくれたデス」 ポッ・・・ ポッ・・・ じゃねぇ! 何を頬を赤らめてんだ!! 「なっ・・・ 名前って、おま・・・ そんなもん」 「飼い実装になるのがワタシの夢だったデス。 飼い実装になれば、飼い実装の証の『名前』をご主 人様に付けてもらって、幸せになるデス。 ご主人様に・・・」 「飼った覚えは無ぇ」 「デデエッ!?」 「デス!? 名前を付けてもらったデス! 『ちゅうそつ』って名前をご主人様にもらったデス!」 「お前ら何匹もいたろ? 区別するのに適当に呼び方考えたんだよ」 「デエ!?」 「でっでででもデス! グルグル回るお風呂でキレイにしてもらって、こうやって暖かくしてもらっ てるデス!」 「あれは洗濯機だ、風呂じゃ無え。それに俺が寒いから懐に入れてるんだ、お前の為じゃ無え」 「デデデエッ!?」 あれから中卒はすっかり静かになった。 俺を見上げてモジモジする事も無くなった。 あれって、俗に言う「実装石の幸せ回路」ってやつなんだろうか? 何でも自分の都合の良いように解釈して、脳みそお花畑状態になるってアレ。 実装石にとって、名前って物は思い入れが激しい物の一つらしいから、それで勘違いしたんだろうな。 まあ、一言で言えば「この糞蟲め!」ってとこか(笑) 「ピピッ 「」さん、寒いですねぇ、ぅぅぅ・・・。昼になるので用意してくださいぃぃ・・・」 「了解〜」 虹浦班長、寒さのあまりにガクブルじゃねぇか(笑) これこそが高卒の俺様と中卒班長様の違いだね〜〜。 はっはっはっは! 昼飯の仕出し弁当を目指して作業員休憩所に向かうと、待ってました現場監督。 「お、寒い中ご苦労! ささ、エサの時間だ」 デスー! 寒い中ご苦労って、あんた・・・ まあイイや、俺の弁当削ってまでエサやる義理も無えしな。 弁当食って、うつらうつらと寝かかっていると、虹浦班長の携帯が鳴った、珍しい。 あの口ぶりは家族からかな? ぼそぼそと小声だ。 「そうか、母さん検査の結果良かったのか。良かったな、良かったな・・・」 「大学受験が近い双葉には苦労掛けるけど、ごめんな・・・」 「いいよ、兄ちゃん寒くないから。平気だよ、これくらい」 「うんうん・・・じゃあな・・・」 何? 母ちゃん病気? ご愁傷様で。 中卒じゃ母ちゃんも心配して病気にもなるだろうよ。 ふぁ〜ぁ・・・・ 始業を知らせるチャイムが鳴って俺が起きると、もう虹浦班長の姿は無かった。 良くやるねぇ、このクソ寒いのに。 「虹浦君・・・ お母さんの具合良くなったみたいだねぇ・・・」 「えっ!? あ はぁ・・・」 横でいきなり話しかけられて、ちょっとビクッてしちまった俺。 見ると交通誘導の相棒の爺さんじゃん。 俺、この人と初めて口きいたよ(笑) 「虹浦君が中学生の頃に、お母さんが突然難病で倒れてね。成績は良かったんだけど進学諦めて働く 事にしたんだよ・・・」 「はぁ」 「難病って言うくらいだからなかなか治らなくてね。補助金は出るけど生活はぎりぎりだろうねぇ」 「はぁ・・・」 「だけど、妹だけは学校に行かせてやりたいって、虹浦君頑張ってね」 「・・・・」 「大学はお金がかかるからね、ミノリ警備には内緒で、仕事終わった後は夜中まで飲食店で皿洗いし てるんだよ」 「マジで?」 うあ〜! 俺、空気読めてないじゃんか!? マズイ! マズイぜ俺!! 事情も知らずに、中卒呼ばわりして怒鳴っちゃったよ・・・・ 俺・・・ ちょっと自己嫌悪に陥りながら、俺は現場に立ってた。 他の人間はこの事知ってるんだろうか? 俺なんて思われてるんだろう・・・ 「デス〜? ご・・・ ニンゲンさん元気無いデスゥ?」 休憩所を出掛けに現場監督から受け取った中卒が、懐から俺を見上げて話しかける。 「んん〜? 人間様にはなぁ、色々とあるんだよ」 「デェ〜・・・」 「・・・・・・・・・・あそこに、虹浦って奴が立ってるだろ。あいつの母ちゃんが病気なのを知ら ないで、俺あいつに無茶苦茶言っちゃったんだよ。それでさ・・・」 「ニンゲンさん色々と大変そうデス・・・」 「ワタシのママは、ワタシが中くらいの頃に死んでしまったデス」 「元はニンゲンさんに飼ってもらっていた、とってもとってもお利口なママデス」 「ママは色々な事を教えてくれたデス。お洗濯やお風呂やおトイレや・・・いっぱいいっぱいデス!」 そうか、こいつの親は元飼い実装か。 それで知恵が回って育ちが良い分、生存競争にあぶれて虐められているのか・・・ 「ママは言ってたデス。キレイにして良い子にしていれば、ニンゲンさんが飼ってくれるデス」 「・・・そんな都合の良い話は無いだろ?」 「デ・・・ ワタシが飼い実装になって幸せになる事が、ママの夢だったデス・・・・」 まあ、まさに夢だな。 ペットショップで売られているような、生まれつき完璧に躾けられている高級飼い実装ならともかく、 元飼い実装に躾けられた程度の小汚い野良を拾うような物好きは滅多に居ない。 居るとすれば実装石の本性を全く知らずに拾う奴か、虐待目的の虐待師だけだろ。 どのみち最後は捨てられるか死ぬかだ。 野良から飼い実装なんて夢のまた夢だな。 「大好きなママの・・・ 大事な夢だったデス・・・」 をほ〜い、遠い目をするな遠い目を(笑) お前には良いママだったかもしれないけど、ちょっと無理な願い事だな。 もしかしたらあの現場監督が飼ってくれるかも知れないけど、実装石の本性を出した瞬間にあの大卒 のように殴り殺されるのがオチじゃね? 俺にしてみれば、実装ホッカイロが必要な間だけ生きててくれればそれでいいんだけどね。 それにしても、こいつの親は実装石にしてはまともな方だったんだな。 俺の親ときたら・・・ あのババア、何も残さねえで死にやがって!・・・ ・ ・ ・ 今日の仕事が終わってバリケードを縮小させていると、道に迷った初心者マークのドライバーに道を 尋ねられる運の悪い俺様。 おかげで現場から引き上げるのが最後になっちまったよ。 休憩所に引き上げてくると・・・ 2階の監督員事務所から伯父さんの声が聞こえる。 何でしょっちゅう来るの? 監視な訳??? 気に入らないねぇ〜! でも聞き耳立てちゃう俺(笑) ・・・え。 虹浦班長も居るじゃん・・・。 やっぱ、告げ口される訳? 俺? そ、そんなの悪気があった訳じゃ・・・ 「・・・ええ、「」さんは真面目に仕事されてますよ。最初は初めての交通誘導で戸惑っていたよう でしたけど、今では全然問題無しです」 『 問 題 無 し 』 問題無し、俺? あんなに噛み付いたのに・・・ 虹浦班長・・・ 「そうかそうか。「」君は人付き合いが苦手かもしれないと心配してたんだ、良かったよ」 伯父さん・・・ 監視じゃなくて、心配・・・ して・・・ 「うむ、最近は現場に走っていくようになりましたわ」 「ほぉ〜、そうですか。いや、良かった良かった。はっはっは!」 監督・・・ それは、あんたから逃げてるだけです。 なんか俺・・・ 嫌な奴じゃね?・・・ 俺一人でさ・・・ なんか神経質になって・・・ 「さ、中卒。今夜も冷えるから、こん中入って戸締りして寝るんだぞ。寒いだろうから、土嚢袋もう 一枚入れとくからな。エサは監督にもらえよ。じゃあな・・・」 「また明日も来てくれるデス?」 俺は中卒をダンボールハウスに入れて、伯父さん達に気づかれないよう、そっと帰る事にした。 何だかなぁ・・・ 今日は・・・ 俺、ちょっとウツだ・・・ ふと、帰り際に工事看板の中で震えている高卒と目が合う。 サッカーボールキックの改心の一撃からは回復しているみたいだけど、飢えと寒さでプルプル震えて いる。 「お前・・・ これ、食えよ」 デス!? こいつには誰もエサくれないからって、そう思って上着をゴソゴソすると・・・ あった、あった。 まだ一枚しか食ってない古びたガムが出てきた。 高卒は信じられないって顔してガムを受け取ると、デスデスと興奮しながらがっつき始めた。 あ〜、俺、ちょっとだけイイ奴? 偽善かな? これって。 なんかさ、今日はこうでもしないと、俺いたたまれない感じ・・・ ああ、もう今日は帰って飯食って寝よう! ===== 「」と中卒 1 ===== 昨夜はネットもせずに、久々に良く寝た、寒いけど気分爽快〜。 そんでもって朝礼が終わって、例の如く持ち場に就くと、少しだけ想定外の情景。 実装石の高卒。 ガムの一気食いで喉を詰まらせて死んでいた。 うは!!(笑) デスー 「ああ、口から泡吹いてるよな」 デスー 「もう死んでるよ」(多分、仮死だけど) デー へへへ、悪い事しちゃったかな? 懐の中卒は仮死状態の高卒を気遣ってデスデス言ってるから、足元に落ちていた針金で喉に詰まって いたガムを奥に押し込んでおいた。 実装石ってのは基本的に偽石が壊れない限り死なないはずだから、そのうち息を吹き返すかもしれな い。 おっと、そんな事よりもっと大事な事があったんだ。 携帯のリンガルを起動して、中卒に話しかける。 「あのさ、今朝の朝礼でさ」 「デス?」 「この工事現場、工事が順調らしくてさ、予定が縮まって明日で交通誘導要らなくなるらしいんだ」 「デ〜・・・ ご・・・ニンゲンさん、寒くなくなるデス?」 「うん、そうだ。 明日から寒い思いして立ってなくてもイイんだ」 「それは良かったデス〜♪」 「だからさ、お前と会うのも明日で最後だ」 「デスッ!?」 どえらく衝撃を受けている中卒に、実装石にも分かるようもう一度噛み砕いて説明してやった。 俺の言っている意味を理解した中卒は「デデ・・・」と酷く落ち込んで取り乱している。 いや、そんなに俺に懐いてもね、ご主人様じゃねえっつ〜の。 って、おいおい。 ポロポロ流してるそれって本気涙? まいったなぁ・・・・ ・ ・ ・ 結局、昼休憩の後も中卒は落ち込んだままだった。 実装石ってのは食いモンで何でも忘れてしまうほど単細胞なはずなのに、現場監督にエサもらっても 機嫌が直らないとは気難しい奴だ。 デエエエ・・・ その溜息はやめれ。 「おい、中卒よ」 「デス?・・・」 「お前のママは、なんで捨てられたんだ?」 「ワタシのママデス?」 「ワタシのママは、お金持ちのニンゲンさんの女の人に飼われていたデス。とても優しいご主人様だ から、ご馳走を食べさせてもらったりキレイなお洋服を着せてもらっていたデス」 「ほぉ〜。ペット実装が糞蟲化する典型的な例だな」 「違うデス。ママは絶対に贅沢や我侭を言わなかったデス。お利口さんだったデス。」 「ふ〜ん・・・」 「ご主人様はある日突然居なくなったデス。一緒に住んでいたあんまり優しくない男のニンゲンさん は、ママにご主人様がどこへ行ったか聞いたデス。でも知らないって言ったら・・・」 「公園に捨てられた?」 「そうデス。なんで知ってるデス?」 「定番だ」 「ていばん・・・デス?」 アレか、ペットショップで厳しく躾けられた高級飼い実装が、ご主人の気まぐれ・・・ この場合は 浮気の蒸発かな? で見捨てられて、最後に公園に捨てられるパターンだな。 しかし、普通はそんな甘やかした飼い方は、どんなに躾けた高級飼い実装でも糞蟲化するのが普通な んだけどな、こいつのママはかなり優秀な個体だったに違いない。 俺の親と取り替えたいくらいだ・・・ 「だから、ワタシたちはママにとっても厳しくお勉強させられたデス。だけど生きているのはワタシ だけデス・・・ ママのたった一つのお願いは、ワタシたちが優しいニンゲンさんに飼ってもらえ ることだったのにデス・・・」 「まあ、普通は野良は飼い実装になれないよ」 「で、でもデス! いっぱいお勉強したデス!」 「無理。だいたいお前、お勉強したはずなのに臭かったろ? 今でも少し臭うぞ」 「デ デエエエ!?」 「ピピッ 「」さん、そろそろ作業終了ですよ」 「了解〜」 あらら、会話で少しは元気付けようと思ったんだけど、逆効果だったかな? 俺はガックリうなだれる中卒をそのままに、作業終了の後片付けを始める。 ガタン ガタガタン! デエー・・・ 「常夜灯のスイッチを点けて・・・ と」 デエエ・・・ 「お前、うち来るか?」 デスゥゥ・・・ デスッ!? 「勘違いするなよ、断じて飼う訳じゃないからな。今夜、一晩だけ、人間様であるこの俺様じきじき に飼い実装になる特訓をしてやろうかなと思ってさ」 「かっ 飼い実装になる特訓デスッ!?」 「ああ。それにお前臭いしさ、風呂・洗濯の特訓ついでに、風呂で洗ってやるよ」 「おっ おっおおおおっ風呂デスゥゥッ!?!?」 「ははは、興奮してパンコンするなよ?」 ホントは野良に飼い実装の味を覚えさせちゃいけないんだけど、こいつなら大丈夫だろうと思う。 それに、こいつのママの胎教や躾けが良かったんだろう、野良とは思えないほど糞蟲臭くない。 現実には「体臭」そのものはあるけど。 特訓しだいで、何とかならないかなぁ?・・・ よーし、今夜は頑張っちゃうぞーー!! 作業員休憩所に帰ると、二階の現場監督事務所から監督が駆け下りてきた。 ホント好きだなー、この人。 「お帰り♪ 寒かったろ?」 と手を差し出す監督に、 「こいつ、今日だけつれて帰ります」 ニッコリ笑って背を向けて、俺様の唯一の交通手段のマイ自転車にまたがった時も、現場監督はその ままショボ〜ンと立ちつくして中卒を見送っていた。 ひょっとして、こいつをちゃんと躾ければ監督が最後まで面倒見てくれるんじゃない? ===== 「」と中卒 2 ===== 俺は中卒を自転車の籠に入れて、寒風中帰宅を急いだ。 土嚢袋二枚重ねの中卒は、カタカタと震えながらも自転車の速度で流れ行く景色を興奮して眺めてい る。 すると家も近くなった頃、中卒の奴がおかしな事を言い出した。 「ご・・・ ニンゲンさんはとっても優しいデス。きっとニンゲンさんのママさん、ニンゲンママさ んも優しかったデス」 「優しくなんか無えよ、働け働けうるさかっただけだ。よく知りもしないで好きな事言うなよ」 「・・・お前今、『優しかった』って言わなかったか?」 「ニンゲンママさんは死んだって聞いたデス」 「誰に!?」 「カントクさんたちデス。昨日の夜に、カントクさんのお家でご飯をもらう時に、カントクさんたち が話していたデス」 な!? 俺の居ない所で何のはなしをしてるんだ? しかも現場監督は親戚でも何でも無いのに? 多分、実装石が会話の内容を理解しないと思って、エサをやりながら話してたんだ。 「ニンゲンさんの「おじさん」とか言うニンゲンさんが話していたデス」 「そうだ、伯父さんだ。俺の母親のお兄さんの事だ」 「ニンゲンママさんは、ニンゲンさんの事をとても可愛がっていたデス」 「どこが・・・」 「ニンゲンママさんは、ニンゲンさんがとっても良い子だから頑張って生きてきたデス」 「・・・・どういう事だ?」 「ニンゲンママさんには、とってもとっても大きな『しゃっきん』とか言う物があったデス」 「え?・・・」 「実装石のワタシには分からないデス。でも、おじさんがとっても大変な『しゃっきん』って言って たデス」 借金て何だ? そんな話初めて聞いたぞ! もしかすると、あの酒乱親父が事業失敗してこさえて・・・ 「とっても大事そうな話だったらか、ワタシ一生懸命に覚えたデス。『にせんまんえん』とか言って たデス。お利口さんデス?」 なっ!!! 確かにババアは遅くまで働いていたけど貧乏だった・・・ だけど2千万円なんて借金があったんなんて一言も聞いてなかったぞ? だからあんなに働けって言ってたのか!! 「「」ってニンゲンさんの名前デス? ニンゲンママさんが言ってたそうデス。 ニンゲンさんは物 を大事にする良い子デス 子供の頃のプレゼントの『じてんしゃ』とか言う物?を大きくなっても 大事に持っている良い子デス」 子供の頃・・・プレゼント・・・・・ あの補助輪付きの自転車かっ!? あれは・・・ 公園で乗っていた記憶が懐かしくて、つい捨てられずに残してあったんだ・・・ 「ニンゲンママさんのプレゼントを大事にする良い子だから、ニンゲンママさんはニンゲンさんの為 に一生懸命働いたデス 働いて働いて働いたデス」 「・・・・・」 「やっと、大きな大きな『しゃっきん』を返し終わって、具合の悪かったニンゲンママさんは安心し て死んでしまったデス。大事なニンゲンさんには『しゃっきん』で苦しい思いをして欲しくなかっ たから、最後に安心して死んでしまったそうデス」 「!!!!!!・・・・・」 「優しいママさんデス〜・・・」 ・・・・なんて事だっ!!!・・・・・・・・・ 「おじさんは、こうも言ってたデス。ニンゲンさんをぶん殴ろうと思ってニンゲンさんの家まで行っ たデス。でも大事にしまってある『じてんしゃ』を見て、考えが変わったそうデス」 「?・・・」 「ニンゲンさんが『おかね』とか言うもので困らないように、ニンゲンさんがちゃんと働く事がニン ゲンママさんの願いだったそうデス。 だからおじさんはニンゲンママさんの願いをかなえる為、 カントクさんや『けいびのしゃちょーさん』とかいう人に、仕事が出来るように頼んで回ったそう デス」 ええ!? みんな伯父さんに頼まれて俺の事見てたのかっ!? 「おじさんが、ニンゲンさんがちゃんと働いてますかって、カントクさんに聞いてたデス」 「カントクさん言ってたデス、ニンゲンママさんはニンゲンさんの様子を天国で見て安心しているだ ろうって言ってたデス」 「ニンゲンさんが赤い棒を振ると、ニンゲンさんの乗った四角いのがピターッて止まるデス。ニンゲ ンさんちゃんと働いている偉いニンゲンさんデス♪」 俺は頭の中が真っ白になりながら自転車をこいだ。 中卒の話が終わりになる頃アパートに着いた。 自転車を自転車置き場まで押していくと、一番端っこに深緑のビニルシートに梱包された塊が見える。 俺が捨てられずに保管してあった、補助輪付きの自転車だ。 自転車をしまって中卒を籠から下ろし、俺は補助輪付きの自転車の前に佇んだ。 良く見ると、最近梱包のロープを結び直した跡がある。 俺は梱包してあるロープを解いてみた。 何もかもが、懐かしかった。 小さな白いグリップのハンドル。 ぶつけてちょっとへこんだ前面の黒い籠。 まだ光沢がある銀色のパイプに支えられた、戦隊物のプリントがあるサドル。 最後まで外せなかった、あの補助輪・・・ 深緑のシートに密閉されていたその中は、あの時のまま時間が止まっていた。 ふと見ると、籠の中に真新しい茶封筒がある。 表には、「「」様」とだけしか書かれていない。 誰からだろうと裏を返すと・・・ 俺の心臓が、痛みをともなってドキンと脈打った。 「お母さんより」と小さく書いてあるじゃないか!・・・ 震える手で、恐る恐る開封して中の手紙を取り出す。 確かに母の字だ。 「」ちゃん、お母さんです。 お母さん急に病気になっちゃいました、黙っててゴメンね。 生きている間に「」ちゃんに何もしてあげられなかった事もゴメンね。 お父さんがちょっとだけ借金を残して消えてしまったものだから、お母さんはお仕事が忙しくて「」 ちゃんにあまりかまってやれなくて、悪かったと思ってます。 でも、「」ちゃんにお母さんが買ってあげた、あの補助輪付の自転車を捨てないで大事にしてくれて いるから、お母さんは嬉しくてお仕事頑張れました。 もう「」ちゃんにご飯食べさせてあげられないから、今度は「」ちゃんが働いて自分でご飯を食べる 番ですよ。 「」ちゃん、がんばって!! 優しい「」ちゃんへ お母さんより 病気って何だよ? 聞いてないよ! ちょっとだけって・・・ 2千万円も借金があったなんて聞いてないよ! 補助輪付きの自転車をただ保管してただけなのに・・・ ババアうるせえっていつも言ってたのに・・・ デスー? デスー? ポフポフ デスー? デスー? 何だよ中卒? ちょっと静かにしてろよ。 俺の顔覗き込んで何してるんだよ。 「ニンゲンさん、どうしたデス? 寒いデス? どこか痛いデス?」 ううーっ・・・・・うううううーーっっ・・・ 誰だよ唸っているのは? 手紙にポタポタ落ちてるのは何だコレ? 「うううぁーー!! うわあああああんん!!」 「ニンゲンさん、どうして泣いているデス? お腹すいたデス?」 「うひぃーーーん!! ぐしっ うあ・・・うわあああああああああーーーんんんっ!!!」 何だ俺? 泣いてるのか? 体ブルブル震わせて、ポタポタ涙流して、俺泣いてるのか? こんなチンケな手紙読んで、大声で泣いてるのか? 何だよ中卒、俺の背中さすって、俺は子供じゃねぇんだ。 お前を殴った事もあるだろ、俺? そんなに優しくするなよ・・・ 「ニンゲンさん泣かなくていいデス。 ワタシがいるから大丈夫デス。 よしよしデス」 「ううわああああああーーーーんんああんあああーーーーんっ!!!」 「ごめんよーー!! お母さんごめんよおおおおーーーー!!!!・・・・」 ・ ・ ・ ひとしきり泣いた後は、やけにさっぱりしたモンだった。 なんだか肩の力が抜けてすっきりした気がする。 アパートの住人が誰も干渉してこなかったのは幸いだったなぁ。 「まずは洗濯の仕方だ、この洗面器にお湯をはってやるからやってみろ」 「デスッ!? このお水温かいデスッ!」 でも最初は中卒と目を合わせるのがこっ恥ずかしかった。 人間様が糞蟲と呼ばれる実装石に「よしよし」されるなんて、そりゃあ恥ずかしいよ。 でも中卒は初めて見る人間の部屋に超興奮しまくり、そんな事は忘れてしまったようだ。 今ではデスッデスッと初めて触るお湯に興奮しながらも、俺の教えた通り真剣に実装服の洗濯を練習 している。 そんな中卒を見ていると、こっちの指導にも熱が入るってもんよ(笑) 「よし、これで洗濯・風呂・トイレはマスターできたな?」 「デスゥ! 完璧デスッ!」 「(ホントかよ) じゃあ次は食事だ。実装石には贅沢は禁物。質素と感謝を忘れると、あっと言う 間に糞蟲になってしまうぞ」 「頑張るデス! 贅沢は敵デス、欲しがりません勝つまではデス!」 「お前そんなのどこで覚えた?」 「ママが言ってたデス」 「・・・・変わった飼い主だったんだな・・・」 実装石に贅沢は禁物(ってネットの聞きかじり)だから、本当は安物の実装フードを与えるんだけど、 そんな物はある訳無いから今朝食った食パンの耳を与える事にした。 「デデスゥ!? イイ匂いデスゥ〜! これは幻の珍味、食パンデスね!?」 「おおう、良く知ってるな? それは食パンの耳だよ」 「デエ〜 これは公園の過酷な生存競争の頂点に立つ、『キング オブ ジッソウ』でなければ食べ る事の出来ないご馳走の中の一つデス〜。ご主人様は太っ腹デスゥ〜♪」 「(自分の腹の肉をつまみながら・・・) ははは、だからご主人様じゃねぇって(笑)。 ちゃん と食べる前には手を合わせて『いただきます』ってするんだぞ」 「いただきますデスー!」 ポフポフ! いや中卒、拍手は要らないんだ・・・ 空き箱を横に倒してタオルを敷いただけの寝床を用意する頃には、薄っぺらい実装服もそれなりに乾 いてきていた。 実装服の畳み方を教えるついでに、今まで教えた事を一通りおさらいさせてみる。 こいつはどうなのかな? 実装石の中では頭の良い方なのだろうか、普通なのだろうか? 抜けている所やおかしな所もあったが、まあ大体は覚えているようだった。 「ご主人様、おやすみなさいデス」 「だからご主人様じゃねぇって。 じゃあ、おやすみな」 布団に入ってから、今日一日の事が頭を駆け巡る。 俺がちゃんと職に就けるように見守られていた事。 2千万円もあった借金の事。 借金の為に死ぬまで働いたバ・・・ お母さんの事。 補助輪付きの自転車と、手紙の事。 俺を慰めてくれた中卒の事。 無邪気にはしゃぐ中卒と、飼い実装の特訓をした事。 いっぱい泣いたけど、最後は楽しかった。 誰かとこんなに会話して、こんなに楽しい思いをしたのは・・・ 最後はいつだっけ?・・・ ・・・・・・・ 「おい中卒、よかったら・・・ この家に一緒に住もうか?」 デースー・・・ デースー・・・ ち、寝てるのかよ(笑) まあいいや、明日の仕事が終わった後、さよならする時に言って驚かせてやろう。 あ、そうだ。 明日の帰り、お母さんの仏壇に立てる線香買ってこなきゃ。 結構使っちゃったけど、まだ線香くらいは大丈夫だよな、もうすぐバイト料も入るし。 ふふ。 俺、明日からちょびっと頑張ってみようかな・・・ ===== 惨劇 ===== 「おはようございます!」 「うお!? おう、おはよう!」 初めて、現場監督に俺から挨拶してみた。 へははは、面食らってやがったな(笑)。 ホントは俺も緊張したんだけど、今日で最後だからさ、頑張っちゃうよ俺。 それからバリケードを設置して作業準備を終えると、びっくりするものが目に付いた。 なんと実装石の高卒が、工事看板の家の中からこっちを見ているじゃないか。 実装石は体の中の偽石が壊れない限り、再生して仮死状態から復活するってのは本当だったんだ!? 俺が驚きながら見ていると。 「おいニンゲン、何かご馳走よこすデス!」 カチ〜ン 「はあ? 寝惚けんな、手前の靴でも齧ってろ。『お前に食わせるカレーは無ぇ』って事だ」 「デスー! この馬鹿ニンゲン立場をわきまえろデス!!」 「ほ〜、コイツが欲しいのか? かかって来な(笑)」 俺は片足をちょいと上げて、ふらふらと威嚇をしてみる。 32歳フリーターキックちょっと頑張ってるバージョンだぜい。 「デ・・・ ば、馬鹿には係わり合いにならないデス! ワタシは高貴な存在なのデス!」 ああ、多少は学習能力あるんだ(笑)。 でも今度なめた口聞いたら粉砕しちゃうよ〜〜? 「デ〜。 ご・・・ニンゲンさん暴力は駄目デス」 「ん? はいはい分かったよ。お前は平和主義だな」 懐の中卒が俺をたしなめるが、どうやらそんな様子が高卒の癪に触るらしい、一層イライラした様子 でこっちを睨んでいる。 まあ、お前の顔を見るのも今日で最後だ、せいぜい長生きするこったな。 ・ ・ ・ 昼休みになって、俺は一目散にコンビニに走った。 お母さんにお供えする線香と、中卒に食わせる安物の実装フードを買う為だ。 さすがに休憩所の中に実装石を入れる訳にはいかないから、中卒は現場監督が作ってくれたダンボー ルハウスの中でお食事中だ。 しかしアレだ、監督さん、中卒が飯食うのを目の前に座り込んで観察するの、いい加減に堪忍してや れば?(笑) そんな時、虹浦班長が話しかけてくる。 「「」さん、あの実装石飼ってるんスか?」 「え? いやぁ、ははは。まあ飼ってるようなモンかなぁ」 「現場監督さん、あの実装石が気に入ったみたいスよね。拾って帰りそうな勢いだし」 「駄目駄目。それは困るよ」 「え〜? やっぱ飼ってるんじゃないスか〜?」 「あははは、まあね」 この班長、根っから気さくでいい人なんだよな・・・ 俺って・・・ 「班長さん。俺、不慣れで色々迷惑かけたよね。ゴメンね」 「え!?・・・・ へーきッスよ! 全然へーきッス、へへへ!」 ちょっと、お互い照れちゃった(笑) でもなんだか気分がいい、心の中まで春の日差しが差してるみたいだ。 俺、ホント。 ホント、本気で頑張ってみよう。 立ち上がって、思いっきり伸びをしてみる。 う〜〜っ、気持ちイイ! 「班長さん、そろそろ行きますか?」 「そーッスね、行きましょうか」 昼からは寒波が去った事もあり、この日差しで気温が上がってきた。 防寒着の中の中卒も暑くなってきたようで、はふ〜と舌を出している。 「おい中卒よ、さすがに暑いだろ? しばらく懐から出てるか?」 「そうするデス〜。ついでに晩御飯でも探してくるデス」 「おい、晩御飯はあるから・・・って、いやなんでもない」 「デス?」 中卒がどこで生まれてどこで育ったのかはまだ聞いてないけど、とりあえず中卒と俺が出会ったこの 場所は今日でさよならするんだ、散歩して見回ってくるのもいいかもな。 野良犬なんかに追いかけられるなよ? 「ピピッ 「」さん、車止めてださい」 「はい、了解」 赤い誘導灯を振って一般車両を止め、丁重に一礼。 エサを探しに行こうとしていた中卒がこちらを見て、なにやら誇らしげな表情をしている。 おう、ご主人様はちゃんとお仕事しているぜい!(笑) 今日でこの現場が最後かと思うと、さすがに気合入ってくる。 自分でも思うくらい、丁重で真面目な仕事っぷり。 いや〜、いままで反抗的で世の中なめまくってたな、俺。 でも、この現場は今日で終わりなんだけど、ミノリ警備のバイトはどうなるんだろ? これからも俺を雇ってくれるんだろうか? 今日から俺だけじゃなくて、中卒の面倒も見なければならない。 バイト期間終わればまた気楽なニート生活が出来ると思ってたけど、俺って大馬鹿だった。 俺のお母さんは凄過ぎるし、虹浦班長も偉いよ。 お金稼いで他の者の面倒見るって大変なんだ・・・ こんな俺、続けて雇ってくれるだろうか?・・・ 俺はその後も悶々と考えていたが、例えミノリ警備の社長さんが雇ってくれなくても、他にも頑張っ て仕事を探そうって決めた。 あれこれウジウジ考えていても仕方が無い、頑張れるだけ頑張るしかないって事だと気づいた。 実装石の中卒に、ご主人様の俺がみっともない所を見せる訳にもいかないしな(笑) 「ピピッ 「」さん、本日で作業終了ですので、ミノリ警備からのリース品を全部撤収お願いします」 「はい、了解です。とりあえずバリケード縮小して、一般車両開放しま〜す」 さあ、いよいよ作業終了だぞ。 俺は途中からこの現場に入ったから、どれがミノリ警備のリース品か分からない。 虹浦班長と相棒のじいさんに確認を取りながら、リース品を社用車の軽トラに積み込む。 「あ、じいさんそれ重いよ、俺が持つから」 「おお? 年寄りを大事にするとイイ事あるぞい、ふはははは」 「バイト料増えるかな?」 「それとコレは別じゃわい、ふははははは!」 ようやくリース品一式積み終えて、虹浦班長も作業終了の手続きを終えて現場監督の事務所から帰っ てきた。 「じゃあ「」さん、後は・・・」 デースー! デスデスデスーーッッ!! デズァァァッ!! 中卒っ!? え? どこだっ!? あそこだ!! 工事看板の所だ!! 中卒が、糞を手にした高卒に追い回されている。 昨日洗濯した実装服を汚されまいとして中卒は必死だ。 「この糞蟲、何が飼い実装デスか! ふざけるなデス!!」 「やめてデスーッ! 昨日一生懸命ニンゲンさんとお洗濯したデスー!!」 「デシャーッ!! 何がニンゲンさんデスッ!!」 って、ちょっと待て! そっちは車道だ、飛び出すなっ!! ボコボコーンッ!! 車道に飛び出した二匹があっという間に轢かれしまった!! 焼き鳥屋の軽ワゴンじゃないかっ!? 唖然とする俺に、軽ワゴンの運ちゃんはGJサインを出して走り去って行く。 「中卒ぅーーーーーーーーーっっ!!!!!」 俺は取り乱しながら轢かれた中卒に駆け寄る。 軽ワゴンは器用に左右の前輪で、二匹同時に轢いたようだった。 高卒は破裂するように轢き潰されていて、もはや原形を留めていない。 器用な轢き方が幸いしたのか、中卒は胸から下を轢き潰されたようだ。 まだ息がある!! 「中卒っ!!! おい!! 中卒ーーっっ!!!!」 やべーよっ!!! 何でだよ!?!? お前今日から俺の家族になるんだぞ!? 死ぬなよ、こんな所で死ぬなよぉっ!? ママが飼い実装になれって言ったんだろ? 俺もお母さんが心配しないように働くって決めたんだ!! 死ぬなっっっ!!!!! 「おい「」!! どうしたんだっ!?」 「かっ 監督っ!! こいつがっ こいつが車に!!・・・」 「じっ!! 実装ちゃんが轢かれたのか!?」 騒ぎを聞きつけた現場監督がやって来たけど、これじゃあどうしようもない。 意識が無いのか、中卒はピクリとも動きやしない。 「こ、この辺には動物病院なんて無いっ・・・ ペッ ペットショップだ! よし! ペットショッ プへ行くぞ!!!」 俺と虹浦班長と中卒は、監督の車に乗り込んでペットショップに走った。 ペットショップは奇跡的に2分とかからぬ近い場所に見つかり、俺たちはこれ幸いと飛び込んだ。 「ちょっ!・・・ この!・・・」 「店員さん! この実装ちゃん車に轢かれたんだ! 一番良く効く薬見てやってくれないか!?」 焦ってどもる俺に代わって、現場監督が神経質そうなメガネの店員と交渉してくれる。 俺駄目だろ! 飼い主の俺がしっかりしないと!!・・・ 「あ〜、これならまだギリギリなんとかなりそうですね。偽石を取り出して、偽石に栄養を与える栄 養剤と、実装石の肉体の再生能力を強制的に引き出す実装活性剤とを、ブレンドした物に浸しまし ょう」 「ああそれと、実装活性剤はちょっとお値段高いで・・・」 「金ならあるっ!!」 「!!・・・ はいっ失礼しました!!」 ひ〜〜 監督頼りになる。 俺、女だったら一生この人について行く! もう駄目だ、俺手が震えて涙出てきちゃった・・・ カウンターの上に毛布を引いて中卒を寝かせる、応急の処置台だ。 店員が体内の偽石のありかを探しているのか、頭や胸の辺りを探っている。 早くしてくれ〜〜〜!!!・・・ 「・・・・やばいな・・・ お客さんコレまずいです」 「なっ 何がだ?」 「何がですか!?」 「胸の辺りに偽石があったんですが、この偽石、轢かれたショックで亀裂が入ってます」 「それを活性剤とかに漬ければいいんだろう!?」 「だから、それがまずいんです。活性剤は強制的に働きかける物ですから、偽石に負担がかかります。 亀裂が入って弱っている偽石では負担に耐えられず割れてしまいます。それでは即死してしまいま すから。」 「・・・だっ! だったら・・・」 「こうするしかありませんね」 店員は取り出した偽石を、栄養剤の入った透明なビンにポトンと落とし込んだ。 「しかしこの程度の処置では殆ど意味がありません。偽石に処置を施して、レアな治療薬に浸さない と死んでしまいます。ですが残念ながら特別便で取り寄せても明後日になるでしょう」 「じゃっ じゃあ動物病院ならどうなんだ? 動物病院なら」 「ちゃんとした動物病院なら、必要な処置も投薬も出来るでしょう。ただ・・・」 「ただ 何だ?」 「一番近い動物病院はココから1時間かかります。しかも渋滞する時間帯です。そして・・・ この 実装石の怪我と偽石の状態から見て後30分ももたないでしょう・・・」 「ぐうっ・・・ ぬううううっ!!・・・・」 「そっ そんなー!! 店員さんなんとかして下さいよーーっ!!」 「お願いしまッス!! 助けてやって下さい!!」 「30分!!・・・ もって30分だとお!?・・・」 「ええ、残念ですが・・・」 「ぬうっ ぬおおおおおーーーっ!!!」 監督が耐え切れずに外に飛び出していった!! 中卒! どうしよう!? 俺、何にも出来ないよ? ゴメンな! ゴメンな! 金も無い、仕事も出来ない、駄目な飼い主でゴメンよぉぉ! 「中卒ぅぅぅ!!」 「「」さん・・・」 デ・・・ ス・・・・ 「ちゅっ 中卒っ!?」 「ニ・・・ンゲン・・・さん・・・ 泣いちゃ・・駄目デ・・スゥ・・・・」 「中卒! 死ぬなっ! 死ぬなよっ!! そうだ!あのさ! 俺、お前を飼う事に決めたんだ! だ からさ、死ぬんじゃない! 俺と一緒に暮らすんだ!!」 心なしか中卒のこわばった顔が緩まり、力無く震える手で頭巾のあたりを探りだす。 するとその手に何か香ばしい匂いのする物を持って差し出してきた。 「こ、これは・・・」 「ニンゲンさんにもらった・・・とびきりのご馳走・・・パンの耳デスゥ・・・・ 今夜・・・一人 になった時・・・・・・ニンゲンさんを・・・思い出して食べようと・・・思ったデス・・・」 「!!!・・・ そんなモン幾らでもやるからしっかりしろ!! してくれぇぇ!!!」 俺の大粒の涙がボタボタと中卒の顔に落ちる。 どうしよう!? どうしよう、どうしたらいいんだ!? 神様助けて!! 何でもするから助けてくださいっ!!! 「ニンゲンさんに・・・優しくされて・・・・・・・・・・・嬉しかったデス・・・・・」 ゴボゴボォ!! 中卒が急に痙攣して、口から赤や緑の血を吹き出した!! 「ひいいい中卒ぅ!! しっかりしろ死ぬなあああぁぁぁっ!!!」 だぁ、駄目だぁ! 中卒の痙攣が止まらないいいいい!!! 「あ〜・・・ お客さん、もう目が・・・」 中卒の目が、薄っすらと白く濁ってきた。 これって、これって・・・ もう・・・・ 「 「」!! そこをどけぇ!!! 」 「監督っ!?」 「おやっさん、この子だ!! この子にドバッとやってくれ!!」 「おっとっと! 慌てなさんなって。オレは管工事屋だぜ、実装は畑違いだ・・・よっと。イクぜ?」 バシュウウウババババーーーーッッ!!! いきなり監督と現れたオッサンが、ボンベから伸ばしたホースから何かを噴射させた。 見る見る真っ白に凍っていく中卒!! ボンベには「液体窒素」と書いてある。 「へへっと。こんなモンでイイかい監督さんよ?」 「おやっさん恩にきるよ。まだ休憩所に居てくれて助かったよ」 「監督、中卒が凍って!!・・・」 「おお、警備のあんちゃんか。これだけ凍ってれば、これ以上死にようが無えだろ?」 「そういう事だ「」。もう、これしか無い」 これって、SFアニメみたいに冷凍睡眠みたいな感じなのか? でもいくら実装石がでたらめな生き物だからって・・・・ 「ふむ、さすが工事屋さんですね。私もペットショップの人間ですから実装石は一応専門ですが、私 の考えもつかない発想ですね」 全員がくるりと振り返って店員に注目する。 店員が栄養剤の入った透明なビンを差し出す。 「この通り、偽石は割れずに安定しています」 ===== それから ===== 「ただいま〜」 「お帰りなさいデス〜!」 中卒が奥からポテポテと走ってくる。 あの時の大怪我が嘘のように元気だから、実装石ってのは不思議な生き物だとつくづく思う。 亀裂が入っていた中卒の偽石には補強のコーティングを施してもらい、今では偽石に負担を掛けない 限り心配も要らない。 俺はと言うと、あの時の治療代金一式を返済すべく、真面目に一生懸命働いた。 ミノリ警備の社長さんが俺の仕事振りを信頼してくれて、事務方を任される事になったんだ。 だから今は資格を取る為に一生懸命に勉強中さ。 「中卒、今度の金曜日は代休で会社休みだから、監督さんのトコ遊びに行くか?」 「デス? 監督さん! 行くデス!!行くデス!!」 「何かお土産を・・・」 「パンの耳が最高デッスー!」 「あはははは、お前さすがにそれは無いよ〜〜(笑)」 ・ ・ ・ ・ ・ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 実装石の事を知らない人でも読めるスクを書こう! と思い立って書き上げたスクです。 しかし、実装薄めの手軽な物のはずが、チョト長くなりすぎて・・・ 以前にショートスクを2発ほどアップしてからご無沙汰でしたので、ぼちぼち連載物に戻ります。

| 1 Re: Name:匿名石 2023/06/30-21:42:02 No:00007397[申告] |
| ええ話や |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/07/01-17:55:29 No:00007403[申告] |
| これは泣ける…
「」も中卒も良かったなと素直に思った |