——8日目 日曜日 今日は朝から大忙しだった。 とりあえず傷の治った親マラを適当にシャワーで洗って、汚れた服も洗濯、 更に最初こいつが送られてきたときに入れられていた水槽を綺麗に掃除を するという重労働が続く。 親マラは昨日までの様々な虐待のせいですっかり大人しくなっていたので とくに手を煩わせられるということもなかったけれど、それでもすべてが 終わる頃には、お昼を迎えていた。 「さって、あとは梱包して宅配業者に連絡すればOKねぇ」 「デスゥ〜……」 水槽の底で鳴く親マラを見下ろしながら私は人心地つく。 親マラは、昨夜から「デスゥ〜」と気の抜けた鳴き声しか上げなくなっていた。 思えば一週間、色々なことがあったけど、今となってはいい思い出ねぇ。 こいつにとっては地獄のような思い出かもしれないけどぉ。 「デスゥ〜……」 試しにリンガルを使ってみたけれど、その鳴き声は解析不能と表示されるだけだった。 少し一休みをして、梱包作業を開始しようとしたところで玄関の呼び鈴が鳴った。 「誰かしらぁ?忙しいときに」 私はドアにあるのぞき窓を覗いてみるが、外には誰も立っていなかった。 「なぁに?いまどきピンポンダッシュかしらぁ?」 私は腹立たしく思いながらもこんな状況での来客じゃなかったことに 少しホッとしながら再び梱包作業に戻った。 しかし、それからほどなくして、また呼び鈴が鳴らされる。 「なによぉ?またかしらぁ?」 私は大げさにため息をつくと再びのぞき窓を覗いてみた。 だけど、やっぱりそこには誰もいない 「まったくしつこいわ——」 そういいかけた私の視界に、緑色のものがチラリと見えた。 それはどうやら飛び跳ねているらしく、チラリと見えてはすぐ下に消え、 またチラリとその姿を下からあらわす。 そしてその緑色の物体は、私のよく知っている、あの頭巾だった。 「なに?実装石が人のうちを尋ねてきたのぉ?」 その珍客に私はおもわず大きくドアを開けた。 「デブゥ!?」 そのせいで、ドアの前でピョコタンと跳ねていたその実装石は したたかに顔を打ちつけ、さらにもんどりうって倒れこんだ。 「あららぁ……」 そういって倒れた実装石に駆け寄った私は、 その股間にここ一週間の間ですっかり見慣れたものを発見した。 「……マラ……実装?」 私がその珍客の、さらに珍妙な正体に呆気にとられていると、 そのマラ実装は立ち上がるとスカートの裾を二三度手ではたいて身だしなみを整え、 倒れた拍子に取り落としたであろうステッキを手にすると、 なにやら私に向かってデスデスと鳴きはじめた。 私は部屋に戻るとリンガルを手にし、 部屋に侵入もせずに外で待っていたマラ実装に話しかけた。 「えっとぉ〜、どちらさまかしらぁ?」 「こんにちはデス。ワタシは虐待紳士様の命であなたのところで 一週間お世話になるマラ実装のマーラーデスゥ」 そういって、ぺこりとお辞儀をするマラ実装ことマーラー。 「え?虐待紳士様の命って……」 私は開けっ放しのドアから奥に見える水槽に目をやる。 そこには相変わらず水槽の底に座り込んでいる親マラの姿が見えた。 状況が分からず混乱している私に、紳士然としたマーラーは一通の手紙を差し出す。 「これは虐待紳士様からの手紙デスゥ」 私はそれを受け取ると、封を開けるのももどかしいといった感じで 中の手紙を取り出して読んだ。 『ペナルティーとはいえ、淑女に躾けのなっていないマラ実装を送ることは 些かはばかられるので、特に厳しく躾けたそのマラ実装を君のもとに 寄越すことにしたのだが、手違いで一週間ほど遅れてしまい、申し訳なかった。 特に迷惑をかけることは無いと思うが、なにかあったら君からも容赦な く躾けてもらいたい。 それでは一週間、健闘を祈る 虐待紳士 』 「ど、どういうことぉ……」 私は手にした手紙を握りつぶしながら、 この状況を何とか理解しようと頭をフル回転させていた。 目の前の、このやたらと礼儀正しいマラ実装が虐待紳士様から送られてきた ペナルティーで、えっとぉ、それじゃあ今部屋の中にいるあれはいったいなに? 私はマーラーをその場に放り出したまま、水槽のもとに駆け寄ると、 中で「デスゥ〜」としか鳴かない親マラに往復ビンタを食らわせる。 「ちょっとぉ!あなたしっかりしなさいよぉ!あなたいったい何なのよぉ! あなたが虐待紳士様から送られてきたんじゃないのぉ!?」 「デブッ!デボォ!デベェ!い、痛いデスゥ!もう止めてデスゥ!」 「あのぉ〜……」 そんな私の背後から、今度は人間の声がした。 振り返ると、玄関から部屋の中の様子を覗くような格好で、 宅配業者の姿をした男の人が立っていた。 「少しよろしいですか?」 私の様子に恐れをなしたのか、おずおずとその男の人はそう切り出した。 ——後日談 私は仕事に出かける準備を済ませると、親指ちゃんたちのいる部屋に 立ち寄って「おりこうにしてるのよぉ」と声をかける。 「はいレチー」と元気な返事をする親指ちゃんたちに目を細めると、 私は部屋を出た。 廊下に出ると、私はふと隣の部屋のドアに目を向ける。 あれから一ヶ月がたった。 あの日、私のもとに訪れた宅配業者の男の人は、開口一番 「申し訳ありませんでした!」 というと頭を下げた。 その後も平身低頭を絵に描いたような状態で謝りつづける業者に 順を追って説明をさせると、話は非常に簡単だった。 ようするに、誤配送だったのだ。 その荷物とはもちろんあの親マラことマラ実装のことだ。 どうも上の階の人のところに送られた荷物を間違えて私のもとに おいていったらしく、一週間後のあの日の朝、お客さんからのクレームで 誤配送に気がつき、私のもとを訪ねてきたのだった。 まぁ、これがただの誤配送ならそれで話が済んだのだけれど、 この話がややこしくなるのは実はここから先だった。 その説明には、なぜ件の客が一週間もしてから誤配送に気がつき、 苦情を申し出たのかを話さなくてはいけない。 実は苦情を申し出たのは、荷物の受取人ではなくて、荷物を発送した本人だった。 その苦情を申し出た人間は、引越しのために自分の飼っているマラ実装を 一週間ほど手元において置けなくなったので、その間引越し先でもある マンションに住んでいる友人宅で預かってもらうためにマラ実装を送ったのだった。 ところが、この友人というのが非常にものぐさな性格だったため、 友人から送られてくるはずのマラ実装が届かなくても、「ああ、送るのをやめたんだな」 と自分の都合のいいほうに解釈して、特になんの手も打たずに放置していたのだ。 そして約束の一週間が過ぎ、引越しの終わった送り主が友人宅を訪ねてみて、 初めて誤配送の事実に気がつき、慌てて宅配業者に連絡をとった、というのが 今回の事の顛末だった。 このマラ実装にとって不幸だったのは、誤配送された私のもとに、 ちょうど同じようにマラ実装が届く予定があり、 さらにそのマラ実装が都合で到着が一週間遅れてしまったということだろう。 つまりこのマラ実装は、勘違いで私から一週間も虐待を受けつづけたことになる。 その事実を知ったときの、あの親マラの顔といったらなかった。 「ご免ねぇ、あなたじゃなかったみたいなのぉ」 そう謝る私の顔を眺めながら、親マラがきょとんとした顔をする。 状況が理解できてないようねぇ。 まぁ、無理もないけど。 「……デ?」 「だからね、勘違いだったのよぉ。あなたはこの上の階の人のところに預けられるのを、 間違えてうちに届けられちゃったのよぉ」 「…………デ?」 「だからぁ、あなたはここに来る予定じゃなかったのよぉ」 「………………デ?」 「だからねぇ、あなたがこんな目に遭う必要はなかったのよぉ」 「………………………どういうことデスゥ?」 「んもぅ、鈍いわねぇ。要するに、全部勘違いだったのよぉ」 「………………………………………………」 私の言葉に親マラが呆然と私の顔を見つめていたけれど、その顔に、 やがてこの世のすべてを呪うかのような深いしわが刻み込まれていく。 だけどその目には涙が溢れてくる。 そして、なぜか口からはまるで気の抜けた笑い声が響いてくる。 「デプ…デププ…あんな思いをしたのに、間違いだったデスゥ? 子供も全部死んで、それがただの勘違いだったデスゥ? …デププ……お笑いデスゥ……こんなの出来の悪い笑い話デスゥ……デププ……」 壊れたようにデププと笑い続ける親マラ。 その姿は、今まで壊したどんな実装石よりも可愛らしいと私は感じていた。 その後、壊れたように笑い続ける親マラをもとの飼い主のもとに返し、 間違いではあったけれどマラ実装とすでに一週間過ごした私は、その旨を 手紙に書いてマーラーに持たせ、虐待紳士様のところに持っていってもらった。 それで今回の件はとりあえず終わりとなった。 ところで、察しのいい人はすでに気がついていると思うけど、その送り主であり 元の飼い主というのが私の隣の部屋に引っ越してきた長月だったのだ。 今回私は勘違いだったとはいえ、他人のマラ実装に手を出したことになる。 一週間ぶりの再会に親マラをぎゅっと抱きしめながらも、壊れたように笑い続ける その姿に怪訝な顔をする長月に、私は今後面倒な話になるかもしれないわねぇ と半分覚悟を決めていた。 しかし、そんな私の覚悟とは裏腹に、長月から苦情の類は一切なかった。 最初の数日はこちらもドキドキしながら待っていたのだけれど、なぜ彼女が そういう話を切り出してこないのか不思議に思った私は、 一度彼女に親マラの様子を伺うフリをして少し探りを入れてみた。 そんな私に彼女は逆にドギマギとした様子で、逃げるように部屋のドアを閉めて しまい、ろくさま親マラの話をさせてもらえなかった。 それどころか、それ以来顔をあわせるたびに妙によそよそしい態度をとられた。 初めは私のしたことが親マラの口から漏れたのかとも思ったのだけれども、 それならば虐待をしたことに対して何か文句の一つもあってもいいような ものなのだけれど、それがない。 しばらく悶々とした日々が続いたのだけれど、ある日の夜にその理由が分かった。 その日の夜、少し空気の入れ替えをしようとベランダ側の窓を開けた私の耳に ヒステリックな女の声が聞こえてきた。 「なんでこんなになっちゃったのよ!この役立たず!」 一際大きな声で何かをなじるような声が聞こえてきたので、 私はベランダに出て耳をそばだててみた。 声の主は隣の長月だけれど、どうやらなじっている相手はあの親マラのようだった。 「まったく!あなたの存在意義なんて、そのマラにしかないのに!」 「デェエエエン!デェエエエエン!」 「早くそのマラ勃起させなさいよ!じゃないとぶつわよ!」 「デェエエン!デェエエエエン!」 「泣いてたって駄目よ!早くしなさい!」 「デギャアア!デギャアアアン!」 私がまず驚いたのは、親マラの泣き声にだった。 てっきり心を壊してしまったと思ったのに、どうやら元の飼い主の下に戻ったことで 正気を取り戻したようだった。 リンガルを使ってみると、「無理デスゥ!大きくならないデスゥ!」と言いながら泣いていた。 そして、長月のこの物言いにも驚いた。 と同時になぜ彼女が私に文句の一つも言わないのか、その理由が分かった。 彼女が実装石を飼っているのは、ペットとしてなんかじゃない。 彼女は、マラ実装を生きたバイブとして飼っていたのだ。 実際、実装石をバイブ・オナホールとして販売しているアダルトショップもあり、 それ専用の躾けや肉体改造を施してある実装石がいることも知っていたけど、 まさかこんな身近にいるとは思いもしなかったわぁ。 思えばあの異常なまでの性欲と射精の量は、バイブ実装としての肉体改造を 施されていたからだったのねぇ……。 恐らく、彼女は私に自分の性癖のことを知られたと思ったのだろう。 ——実装石相手にSEXをする女。 虐待だって人様には言えるような趣味ではないけれど、 実装石とSEXするなんて、それこそ言える趣味ではないわねぇ。 もてない男がオナホ代わりに実装石をレイプするのとわけがまた違うしねぇ。 結局、彼女も私が怖くて私を避けていたのねぇ。 私は長月の部屋の前から足早に立ち去った。 今でも彼女はあそこに住んでいるけれど、あれ以来あったことは無い。 お互いのためにその方がいいのかもしれないわねぇ。 私はそのまま仕事に向かった。 外に出て、マンションのゴミ集積所の前を通りると、ちょうどゴミ収集車が マンションのゴミを回収しているところだった。 「お、実装石がいるぞ」 そのまま素通りしようとした私の耳に、清掃員の声がした。 私は踵を返すと清掃員の吊り下げている袋の見た。 すると中には手足と口をガムテープでグルグル巻きにされた実装石がいた。 その足の付け根には、だらんと垂れ下がった貧相なマラがぶら下がっている。 あの親マラだった。 ここ何日か長月のヒステリックな声を聞かないと思っていたら、 どうやら親マラに見切りをつけたのねぇ。 まぁ、EDになったバイブ実装なんか存在価値ないわよねぇ、その手の趣味の人には。 私は近づくと、袋越しに親マラに憐憫の眼差しを向ける。 思えば、ただの勘違いから虐待され、子供を産まされ、そして全部殺されて、 そのせいでEDになった上にそれが原因で飼い主にも捨てられたのよねぇ。 ——まったく、不幸な実装石の見本のような一生ねぇ……。 「なんだい、姉ちゃん。これあんたの捨てたゴミかい?」 清掃員の男の人が珍しいものでも見るかのような目でこちらを見る。 「いいえ、ちょっと知り合いのペットに似てたのよぉ、その実装石が」 「お、そうかい?いるんだったら置いとくけど、どうする?」 「ん〜、ちょっと見せてもらってもいいかしらぁ?」 私は清掃員からゴミ袋を受け取ると、親マラに小声で話しかけてみる。 「ねぇ、あなた。そのままそこにいると分厚い鉄板に挟まれて、 潰されて死んじゃうんだけど、そこから逃げたい?」 私の言葉に、親マラは震えながらもコクコクと頷いた。 その視線はゴミ袋を次々と飲み込むゴミ収集車の鋼鉄のアギトに注がれている。 「そうねぇ。じゃあ、お願いしてごらんなさぁい」 私の言葉に親マラは必死に言葉を紡ごうとするが、 なにせガムテでグルグル巻きでは喋るどころか身をよじるのも困難だ。 そんな親マラに、私はにっこりと笑顔を見せた。 「残念♪」 私は親マラの入ったゴミ袋をゴミ収集車に放り込んだ。 その他のゴミ山を巻き込みバキバキと音を立てる無慈悲な鋼鉄の板。 それが親マラの入っていたゴミ袋目掛けて下りてくる。 ——ボチュ やがてそれは水風船を割ったような薄汚い音を残して収集車の暗闇の中へと吸い込まれた。 その様子を呆気に取られた顔で見つめていた清掃員の人たちに、 「ごめんなさぁい、勘違いだったみたい」 というと、私は再び歩き始めた。 やっぱり実装石は、親指実装に限るわねぇ。 ——おはり --------------------------------------------------------------------------------- すっかり忘れられた頃に書き上げたペナルティスクです といっても分かる人の方が少ないでしょうけども いろいろあって遅くなり申し訳ない、という謝罪ももはや意味が無いほど遅いですね 色々ひっくるめてスイマセン 最後の方はマラ実装じゃなくてもいいような虐待になってしまい反省です。 ともかく、こんな長いの最後まで読んでくれた人には本当に感謝です。
