タイトル:【虐】 春の訪れ
ファイル:春の訪れ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:14759 レス数:0
初投稿日時:2008/03/21-19:50:54修正日時:2008/03/21-19:50:54
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   山実装の友狩り アフター
 
 『春の訪れ』


−− 1 −−


 12月・・・・ とある山陰地方の山中にて


 ………… …… ……  デ゛ェェェンデェェェン  ユメモ キボウモ ナカッタ デスゥゥゥ…・・


 禿裸で肥満体の実装石が谷川を流されていた。
 妊娠しているのか実装石の両眼は緑色に染まっている。

 この禿裸はもともと麓の村で飼われていた食用出産石であった。
 春に農協食石部から出荷された彼女は、晩秋の風物詩『山実装の友狩り』に使われる“おとり”として山中に放置された。
 彼女は飼い主に期待された最後のお勤めをみごと果たし、めでたく山実装の襲撃にさらされた。(詳しくは前スクを参照のこと)
 そして山実装の集団リンチで袋叩きにされた廃出産石は両腕を引きちぎられて谷川に放り込まれたのだ。


  デ ェ ェ ・・チ ・ チ ベ タ・・いデス・・ 
  デベッ! イ タ… イ デス ゲポッ! イ… イキができないデスゥゥゥゥ・・・


 冷たい水に体温を奪われ、岩に体を削られながらなすすべもなく急流を流されていく。
 丸太にされた体がクルクルとローリングするので顔面が水中になると息もできない。
 生んだ仔を人間に片っ端から奪われ、情け容赦なく調理され、美味しく食われてきた食用出産石。
 これからは人間に頼らず自ら未来を切り開いて強く生きる覚悟を決めていた。
 だからといって実装石の指の無いオテテでやすやすと切り開ける程に運命は優しくない。
 しょせん家畜でしかない廃出産石は無慈悲なる世界の前にあまりにも無知かつ無力だった。


  …… … やっぱ り  ダメだったデス ・・・オナカの仔どもたち…  
    …  …  ゴメンなさいデス・・・・・ママは もう・・おしま いみたいデ・・


 ちなみに彼女は胎にいるのが仔ども“たち”だと思いこんでいるが、胎の仔は一匹しか残っていない。
 残りの姉妹は“もったいない”精神を大切にする元飼い主によって丁寧に胃壁から抉り出され、既に美味しく食べられている。
 流れに弄ばれるまま彼女は岩場を転がり、ドボンと深みに落ち込んだ。
 だんだん意識が遠くなっていく。 


  ・・…  …  スゥゥ・・ゥ・? ゥ  ウ?!  


 しかし気まぐれな運命は彼女にまだ死ぬことを許さなかった。
 岩場を流れてきた谷川は最後は小さな滝になって本流に合流していた。
 本流の深く緩やかな淵に流れ落ちたのだ。
 やがて廃出産石は顔面を上にして浅瀬にのりあげた。
 腕のない不自由な体でヨロヨロと立ち上がる。


  デェデェ・・た すかったデ ス


 なんとか近くの岩に腰を落ち着けた。
 疲労困憊していたものの、息を整え周囲の様子をうかがう。
 この上流にはもっと大きい滝があるようで遠くからザーザーと大きな水音が聞えてくる。
 浅瀬の川底には色の褪せた落ち葉がたくさん水底に沈んでいる。
 そのくすんだ落ち葉の間に鮮やかな赤い塊が蠢いているのが見えた。


  デ? なんかいるデス? ???…ア! アレはこの前のアカバサミデスゥー


 赤い塊に見えたものはサワガニの群れだった。
 赤いサワガニが沢の一箇所に群れていた。


  いっぱいいるデス とって食べたいデスゥゥ
  デェェ ー ・・・ だけどオテテないからつかまんないデスゥ
  それにまたハサミでチョッキンされたらイヤデスゥ
  でもオナカすいたデスー


 ただでさえ動きの鈍い実装石、中でも鈍重な家畜の廃出産石に捕まるほどサワガニはとろくない。
 まして浅瀬とはいえサワガニは水中にいる。
 口を開いて顔面から特攻したところで川底にキスをするのが関の山。
 下手をすればハサミで反撃される。

 ウロウロと近くで逡巡しているうちに、警戒したサワガニはカサカサと岩の隙間に逃げていってしまった。
 デェー と残念そうな鳴き声をあげた廃出産石の眼に薄桃色の塊が見えた。
 サワガニの群れはそれに群がっていたようだ。
 食べられる果物か何かかもしれない。
 そう思った廃出産石は川底に転がるソレを脚を使ってなんとか岸に押し上げてみた。
 

  コレは?・・・ オ・・・オ ニク デスッ!


 何の肉かはわからない。だが腹を空かせた廃出産石はそれを夢中で貪った。


  オ イシ  イ・・・  オイシイデスッ オイシイデスッ オイシイデスーーッ


 彼女が口にしたもの、それはこの山に住んでいた山実装が冬越しのため泣く泣く間引きした秋仔の成れの果てであった。
 ちなみに山仔実装の肉は非常に美味で高級食材として名高い。
 多少水でふやけていたものの、美味な山仔肉は傷つけられ疲れきった彼女の身体に活力を与えてくれた。
 偽石成分を摂取したことで体の再生も大幅に早まるだろう。
  

 この時、気まぐれな幸運の女神は廃出産石に微笑んだのかもしれない。



−− 2 −−


 翌年1月・・・・ 

 灰色の空から白い雪がしんしんと降り積もる。
 山はすっかり雪景色となった。
 見渡す限り寒々しい風景だが、その地下の一画に全く雰囲気の違う別の世界があった。


 「カッワイイかわいいワッタシの仔ー いっぱい食べて早く大っきくなるデッスー」

 「ママァ もうアタチおなかポンポンテチュー もう食べられないテチュー」


 あの廃出産石と1匹の仔実装がヌクヌクした快適な巣穴で仲睦まじく暮らしていた。


 この広い巣穴は彼女を襲撃した山実装の越冬穴であった。
 ここを苦労して掘った山実装達は人間(出産石の元飼い主)の手で狩り出されていた。
 狩人は廃出産石をオトリに利用して巣穴の位置をつきとめたのだ。
 皮肉なことだがその後、あとどもなく山を放浪していた廃出産石は主のいなくなったこの穴にたどりついたのだった。
 保温材として仔実装服(廃出産石が産んだ仔の形見を多数含む)をたくさん敷き詰めた穴は冬でも温かく快適な環境である。
 またこの穴には元々いた山実装9匹分の越冬用食料が貯めこまれていた。
 壁面いっぱいに仔実装服を編んで作られた食料袋がどっさり積まれている。
 ドングリが大半を占め、一部クルミやクリが混じる保存食は親仔2匹が冬を越すのに充分すぎる分量があった。
 それに加えて近くには山から谷川へと続いていく小さな湧き水の流れがあった。
 そこも山実装達が水場として使いやすいように整備していていた。
 上手に生活用水として使う水溜りがあり、下手には実装石がまたがってトイレとして使える幅の深めの溝が掘ってあった。
 糞は水溜りの堰板(平たい石)をずらすと溜めてある水の勢いで谷川へと流れていく。
 臭いをたよりに捕食者に巣穴を発見されやすい実装石にとって厠の設備は貴重なものである。

 ただし天井にはポッカリと大きな穴が空けられていた。
 元々ここに隠れていた山実装を狩りたてるために人間(出産石の元飼い主)がスコップで掘ったのだ。
 これではいくらなんでも寒くて雨漏りがする。
 幸い近くにススキの束がたくさん置いてあったので、それを使って天井を塞ぐことにした。

 かくして廃出産石は住み心地のよい棲み家と冬を越す食料を労せずして手に入れたのだった。


 この安住の地で廃出産石は孕んでいた仔を安心して育むことができた。
 今度こそ仔を育て上げる決心を込め、彼女は胎の我が仔へ実生懸命胎教の歌を歌った。



      デッゲロゲー
      デッゲロゲー

      ママはアナタ達に早く逢いたいデス〜
      ぜったいシアワセにしてあげるデス〜


      オロロデッデエエンデーー

      ニンゲンはとってもコワいコワいデス〜
      みんなハゲハダカにされるデス〜
      いっぱいアツくてイタくてクルしくてぇ
      オイシクされてしまうデス〜
      泣いても媚びてもゼッタイ許してくれないデス〜


      デッデルゲー

      オヤマはキビシイところデス〜
      コワくてキケンなヤツらもいるんデス〜


      デッゲロゲー 

      だけどガンバって生きるデス〜
      シアワセもとめて生きるデス〜


      デッデロゲロンゲ〜〜♪ 

      哀しいこともあったけどママはシアワセデス〜
      アナタ達が生まれてくるからデス〜
      だから早く生まれてくるデス〜


      デッデロゲッス〜〜ン♪

      生きてるってすばらしいデス〜
      つらくてもあきらめないデス〜
      生きてたらシアワセになれるデス〜
      かならずオヤマをワタシの仔でいっぱいにするデス〜



 やがてほどなくして廃出産石は出産の時を迎えた。
 積雪地における山実装の出産期は4月終わりから6月の半ばである。
 雪解けが過ぎ、山に緑が芽吹く頃、山実装は集団で暮らした越冬穴を立ち去る。
 そして各個体ごとに仔育て用の巣穴を整えてから出産する。
 しかし近年における温暖化と山林に大量に飛散するスギ花粉は山実装の生態リズムを狂わせることがあった。
 野良と違って山実装は世界の変化に敏感で、なおかつそれに対して彼(女)らなりに対策を考える。
 万が一早春に出産個体が出た場合に備え、水場には出産設備も整えられていた。
 背もたれと広げた両足をかけるための角の少ないすべすべした石が水溜りの側に配置してある。
 股の先の水溜りは生まれた仔が溺れないよう、ちょうどよい深さ(=和式便器の底にある水量)にしつらえてあった。


  テッテレー♪

 誕生の喜びを込め、仔が大きな声で鳴きながら生まれてきた。
 パチャンと音をたてて浅い水に落ちる。
 そのままパチャパチャ跳ね回る元気な仔だった。

 最初の仔が無事生まれたことにホッとした廃出産石だったが、出産慣れしているためかすぐハッと気づいた。
 いつもなら一度にもっともっとたくさん産んでいたはずなのに、この仔一匹しか産まれてこなかったことに。


  ・・・アレ?…デエェッ?? なんでデス? なんでデスゥゥゥ? ・・・


 理由は前にも記したが貧乏性の元飼い主が出産石の腹を切り裂いて胎内の姉妹を食材として全部奪い取ってしまっていたからである。
 その間ずっと気絶していた廃出産石がそれを知る由も無い。
 デスー?デスー?と腹をポフポフ叩いたり総排泄孔をいじくって広げたりしてみても無いものはいない。
 それより一匹だけ生まれてきた仔が気がかりだ。早く身体を包む粘液を舐め取ってやらなければならない。
 今度こそ母となる喜びでいっぱいの廃出産石がいつまでも仔をほったらかしにするわけがなかった。
 その仔は放っておいたら自力で粘液を全部はぎとってしまいそうな勢いでピチャピチャ水溜りを跳ねている。
 仔実装を包むゲル状の粘液は出産時の物理的衝撃から仔の肉体を守るだけでなく体温を維持する保温材としても機能している。
 冬場の冷たい水の中で粘液をはがしたら寒くてショック死してしまうかもしれない。
 元気いっぱいに生まれてくれた待望の仔をいそいそと腕に抱き取ってペロペロと粘液を舐め取る。
 さっきまで元気に跳ね回っていた仔だったのに、それが母親の腕に抱かれるとすぐおとなしくなった。
 温かい母親の舌で粘液を丁寧に舐め取ってもらった手足がスクスク伸びてくる。
 柔らかく艶のよい後ろ髪もきれいにカールしながら伸びていく。
 テッチュ〜ンテッチュ〜ンと元気に笑う仔のパチクリとしたオメメを見つめ廃出産石は話しかけた。

  「ワタシがママデスー わかるデスー おヘンジするデスー」

  「ママーはじましテッチュン ママにあえてとってもうれちいテッチュ〜ン」

  「カシコくておギョーギのいい仔デスー さすがはワタシの仔デスゥ〜ン」


 廃出産石は待ち望んできた我が仔が健やかに生まれてくれたことを喜んだ。
 それも生まれてすぐにしっかり挨拶を返してくれた賢い仔だ。
 服と髪の色艶もよく、とびきりプクプクした健康優良仔だった。
 性格も素直で可愛らしい。

 元出産石の胸にいろいろな想いがよぎっていく。

 今までずっと産まれた仔は問答無用な人間の手で食材として即座に奪われた。
 腕に抱くこともなくザルにあげられ流水で乱暴に粘液を流され、手足が伸びる間も惜しむかのように髪と服を毟られる。
 そしてなすすべもなくママ ママァ… テチュケテーと美味しく調理されていく阿鼻叫喚の悲鳴を聞かされ続けてきた。
 人間は平等だった。
 よい仔にも、普通の仔にも、糞蟲にも、親指ちゃんにもウジちゃんにも・・ 与えられるものは等しかった。
 たまに手元に戻ってきた仔もじきに人間は奪いとっていった。
 共に過ごした時間だけ悲しみが増すだけだった。


  「ママ? どうしたテチ?」


 仔実装が不思議そうに母親を見つめる。


    ・・・ ワタシの仔デス… ワタシの家族デス…

 感極まってたまらず仔実装を抱きしめた。


 「テチィ?テチューンテチューン ママだっこしてくれるテチュー」

 仔実装も母に抱きついて嬉しそうにほおずりしてくる。


    ・・・・・あたたかいデス  シアワセデス シアワセにするデス ……

 
 「くすぐったいテチ でもうれちいテチュ ママ ママ だいちゅきテチュ〜ン♪ 」 


         この仔はワタシが守るデス ぜったい守りぬくデスゥ・・・


 安逸な家畜としての過去を捨て去った廃出産石は母として我が仔を育て上げる決意を新たにしていた。



 決して善意でなされたことではないが、胎仔が一匹だけに間引かれていたことは廃出産石にとって極めて幸いであった。
 高級ペット用実装石専門業者では資質の優れた仔実装を産ませるために胎内の屑仔を超音波破砕機で堕胎して少数の胎仔だけを育てる方法を用いることがある。
 こうすることで胎仔にいきわたる栄養が増して健康な仔が産まれやすくなる。
 また栄養状態さえ充分なら気温が低い時期の方が肉体の形成と脳の発達がバランスよく成長することも知られている。
 それに廃出産石が心を込めて歌った胎教の歌の内容も胎仔の性格育成にプラスに働いていた。
 まず第一に実装石がもつ糞蟲性の根本、『人間=ウハウハ飼い実装生活を約束してくれるドレイ』という大前提を完全否定していることが大きい。
 厳しい自然と危険な同属の存在(公園の野良に比べれば格段に甘すぎるものの)についての示唆は自分達の力量と分際について正しい事実を認識させるものである。
 廃出産石の胎教の歌には母の愛たっぷりでありながらも、生まれてくるこの世が決して安逸な楽園でないことを教える内容が多く含まれていた。
 これが胎仔の成長段階におけるシアワセ回路の発達を大きく抑える効果があったのである。

 健康優良な体に食用石にしては優れた知能、ほどよい胎教で育まれた素直な性格。
 手に入れたのは一匹だけだったが、これ以上無いほど理想的な我が仔。
 この仔は廃出産石にとってまさしく宝物だった。


 「オマエはゼッタイシアワセになるんデスー カワイイ仔どもをたくさん産んでお山をいっぱいにするんデスー」 

 「テチュゥ〜ン アタチ ママの仔に産まれてチアワセテチュー ママァだいすきテチューン」


 この時、彼女は本当に心から幸福であった。



−− 3 −−


 2月・・・・ 

 雪に閉じ込められた穴ぐらである。
 はっきり言って単調な毎日であった。
 一番の労働といえば水場までの雪かき。
 次が保存食である木の実の殻を石で割ること。
 生活のために必要な活動といえばそのくらいしかない。

 「やっとユキかき済んだデスゥ ヘトヘトだけど今日もオウチのリフォームにチャレンジするデッスー」

 廃出産石はできる範囲で居住環境を快適にしていくことで暇潰しをした。
 山実装達が造った越冬部屋は成体10匹程度が快適に越冬できるもので、一畳ほどの居住スペースがある。
 越冬部屋から外部に通じる穴は2つあった。
 玄関といえる広めの出入り口とくぐり抜けるにも少々苦しい狭い穴である。
 それは換気を兼ねた非常口で、天敵に巣穴を襲撃された場合に備えた脱出経路でもあった。
 しかし一畳に親仔2匹しかいない実装密度ではこの換気口は要らなかった。
 ただでさえ天井に空けられた大穴のせいで外界の空気は入ってくる。
 また山実装より大幅に肥満体型の廃出産石に通れない穴では非常口としての役割も全く果たしていなかった。
 故にその穴は外から冷たい隙間風が吹き込んでくるだけの寒い代物でしかない。
 だから元出産石は石や落ち葉、仔実装服の端切れなどを詰めて非常口を塞ぐことにした。
 暗がりの中で手探りの作業はなかなかはかどらない。けれど時間だけはたっぷりある。
 山実装の土木工事と比べたら日曜大工くらいの手間暇でしかない。
 だが自分の手で巣を改修することは住処への所有意識を高める。
 不器用な廃出産石であったが初めての工作に熱中し、念入りにしっかり隙間を塞いでいった。


 「いいカタチの石ころが足りないデス サムサムだけどお外で探すデス ?… オマエは何をしてるんデス?」

 「テチィ〜 ママにもナ イ シ ョ テチ」

 「?・・オフトン・・デスか? ヌクヌクそうデス オマエもガンバってつくるデス」


 仔実装は仔実装で別の工作に熱中していた。
 苦労を重ねて(?)自分を産み育ててくれた大好きなママへのプレゼントである。
 廃出産石も仔実装服を単純に腕と脚に通して防寒具にすることくらいはしていた。
 しかしそれでは全く胴体を覆うことができない。
 仔実装は裸で雪かきする寒そうなママに服をプレゼントしようと思ったのだ。
 この穴には大量の仔実装服があった。
 比較的知能の優れた仔実装は山実装達がドングリを入れるのに使っていた食料袋の縫い目を参考に服を作ろうとした。
 仔実装服に木の枝を刺して穴を開け、前掛けの紐を通して結びつけるのだ。
 次々仔実装服をつなげて大きな布地を作る。
 そして大小の仔実装服を組み合わせることで布地の形をうまく台形にしたてていった。
 台形の斜辺を縫い合わせると円錐状の貫頭衣になる。
 最後に廃出産石の体型に合わせ首と両腕を通す穴を調整して出来上がり(予定)。
 裁縫は暗闇の中ではまったくできない。
 昼間に出入り口近くの明るいところでチマチマ縫っていくしかない。
 もともと実装石の指のないオテテに裁縫の難易度は高い。
 それを一から試行錯誤しながらやっていくのだ。
 なかなか完成しなかった。
 一日一枚仔実装服を縫い合わせるのがやっとの日もあった。
 間違えて繋いでしまった仔実装服を泣く泣くほどいてやり直した日もあった。
 それでも大好きなママに喜んでもらいたい一心で仔実装は頑張った。


 「ママァ プレゼントテチ ガンバって縫ったお服テチ」

 「デェッ?! オフトンじゃなかったデスゥ?フクだったデスゥ!」

 「ブカッコでゴメンナサイテチ でも着て欲しいテチ」

 こうして禿裸の廃出産石は新しい服を手に入れることができた。
 ただしその姿は・・・ よく言えばスケイルメイルを着たような、ありていに言えば名状しがたい緑の物体であった。
 普通の実装服に比べて重たく動きにくい。分厚い割りに隙間だらけなので防寒性も案外良くない。
 しかし我が仔から贈られたこの上ないプレゼントに彼女は涙を流して喜んだ。


 巣穴に篭って越冬を試みる野良実装親仔の多くは暇を持て余したあげくのストレス性自滅行動で破滅する。
 この点、稚拙とはいえ生産活動に従事することで暇な時間を有意義に過ごすことができたのは非常に幸いであったと言えるだろう。



−− 4 −−


 3月・・・・ 


  デッデロゲー テッゲロゲー


 雪がまだまだ積もる山陰地方の山といえども晴れた日にはスギ花粉が飛散する。
 廃出産石は当然の如くまた妊娠していた。


  デッチュ〜ン もうすぐワタシにも妹ちゃんができるテス
  楽しみデチ イッショにいっぱい遊ぶデチ〜 


 健康優良仔として生まれたあの仔実装は順調にスクスクと育ち中実装になっていた。
 しかし一人娘として母親の愛情だけはたっぷり受けて育ったが、遊び相手がいないのを内心寂しく思っていたのであろう。
 だから自分に妹ができて家族が増えることを素直に喜んでいた。
 よほど待ち遠しいようだ。

  早くウジちゃんに念願のプニプニしてみたいデチュゥー
  ウジちゃんプニプニ2プニプニ あわせてプニプニ4プニプニ
  それプニフープニフー♪プニプニフ〜♪ 

 自作のプニプニの歌を歌いながらブニブニしたゾウムシの幼虫を使ってプニプニごっこをしている。
 ドングリの中身を食害するこの昆虫は親にとっては嬉しい珍味、娘にとっては食べられる玩具だった。


 まだこの時、彼女達は幸福であった・・・ このシアワセがいつまでも続くと思っていた。



−− 5 −−


 4月・・・・ 


  ………デ・・ェ・どうしようデスゥ・・・

   ……ママ・・・妹ちゃん多すぎるデス・・・


  「「「「「「「「ママァ オナカかすいたテチテチテチテチテチテチテチレチ」」」」」」」」
  「「「「「「「「ママァ オナカかすいたテチテチテチテチテチレチレチレフ」」」」」」」」
  「「「「「「「「ママァ オナカかすいたテチテチテチテチレチレチレフレフ」」」」」」」」
  「「「「「「「「ママァ オナカかすいたテチテチテチテチレチレチレフレフ」」」」」」」」 


 越冬穴の保存食は残り少なくなっていた。
 栄養状態がよければ際限なく増えるのが実装石である。
 まして出産石は家畜として肉質のよい仔を安定してたくさん生めるように品種改良されている。
 廃出産石といっても仔を産めなくなったから廃棄されたのではない。
 捨てられた当時ですら、多少劣化していたものの出産石としてまだまだ十分使用可能であった。
 ただ出産効率の悪い冬場の飼育コストを考えて他の目的へ転用されたに過ぎない。
 幸福過ぎる環境で精神的にも肉体的にもたっぷり休養を満喫した廃出産石の出産石としての性能はフルスペックまで回復していた。
 それ故、大気に蔓延するスギ花粉によって、ほぼ一週間ごとに4〜5匹の大粒の仔実装+オマケがついて生まれてくる。
 そいつらは成長しますます食い扶持だけが増えていく。


  デェェ… 仔供がいっぱいすぎちゃったデス
  これじゃゴハンがなくなっちゃうデスー
  どうするデス どうしようデスゥゥゥー 

 自然界で食料を確保するサバイバル技能など何一つ持たない。
 だからといって我が仔を間引きする覚悟もない。
 ドングリが詰まった食料袋はどんどん減っていく。
 無計画な産めよ増やせよの当然の帰結である。
 余裕があったはずの食料事情は急激に危機的状況を迎えていた。



−− 6 −−
 

 4月半ば・・・・ 

 
 空はよく晴れているものの山の風はまだまだ冷たい。
 雪解け水がゴウゴウと流れる川辺を廃出産石がトボトボと歩いていた。
 時おり立ち止まって石をひっくり返したり、手頃な新芽をかじったりしている。


  デェェ… ぜんぜんオイシイものないデスゥ 
  もうじき初マゴができるデス
  ムスメにエイヨウのあるもの食べさせてあげたいデス


 いよいよ保存食のドングリが底を尽いたのだ。
 近場に生えた新芽などはじきに食べ尽くしてしまった。
 それに加えてさらに頭を抱えたことに、既に成体に近い大きさになった最初の娘(以下判別のため「一番娘」と呼ぶ)まで妊娠した。
 健康優良な実装石なら当然のことだがこれは由々しき問題であった。
 せめてもの幸いは偽石を人工調整されていないので母のように短期間で出産せずにすむことくらいか。
 決意はあれど手段の伴わない廃出産石であったが、それでも親として食料を探しに遠出してきたのであった。
 一番娘は一緒に遠出の食料探しを手伝おうとした。
 しかしもうじき初仔の出産を控えた一番娘の身を案じ、用心して止めさせた。
 愛情があってもサバイバル知識のない廃出産石にあてなど全くない。
 バカの一つ覚えで以前山仔肉を拾った川ぞいをウロウロと歩いていた。
 水量の少ない冬場と違って春の川には雪解け水がゴウゴウと流れている。


  !・・あそこになんかあるデス 


 川に向かって倒れている朽ち木の枝に鳥の死骸らしきものが引っかかっていた。

  やったデス オニクデス! ゴチソウみつけたデスー


 廃出産石は倒木の上をソロソロと這って近づき、手を伸ばした。
  
  あぶないデスー グラグラするデスゥゥゥ で でも もうちょっとデス
  あとちょっとデ…オテテが と どくデッ!


 その時、朽ちてボロボロの倒木がペキッと音をたてて折れた。
 ガクンと冷たい水にはまり込む。
 そのショックで枯れ枝に引っかかっていた鳥の死骸が外れて流されていく。
 やっと見つけたゴチソウを逃すものかと廃出産石は無理をして手を伸ばした。


  デッ!ェッ? エ ェ ェ  ー!!


 そして案の定、元出産石は不安定な枝の上で脚を滑らせた。



−− 7 −−


 そのころ・・・・ 


  うんざりデス・・ これならお出かけしてた方がよかったデスゥ・・・


 初めての出産を控えているからと、留守番を仰せつかった一番娘だったが、聞き分けのないない妹達の世話に追われてかえって疲れていた。

 彼女は自分の妹たちのワガママと低脳ぶりに驚いていた。
 四六時中「「「「ハラヘッタテチ」レチ」レフ」の大合唱はともかく
 ところかまわず「ウジチャン ウンチいっぱいでたレフ〜」「レェェェン ウンチでちゃったレチュゥ」「ウンチでたテチ かたずけテチュ」
 「はやくフキフキしてレフーン」「キモチわるいレチィ オシリきれいきれいしてレチュー」「このノロマ さっさとかたずけろテチュ」
 「だっこしテチュ」「あそんでレチュ」「プニプニしてレフー」「プニフープニフー」「そんなグズだからいつまでたってもいかず後家なんテチュー」
  
 と、今この時もテチテチレチレフとうるさ過ぎる。 
 もともと品種的に食用石の知能などたかが知れている。
 また出来のよすぎる一番娘とのシアワセ過ぎる子育て生活は廃出産石の足りない脳みそから辛く悲しい記憶をすっかりすっとばしていた。
 当然胎教の歌も、この世はラクエンでシアワセいっぱいデス〜 賢くて美しいママと優しいオネエチャンが待ってるデス〜、といった月並みな内容になる。
 このため妹たちは皆、食用石標準レベルの知能とシアワセ回路を実装して産まれてきた。
 だから不恰好な服を着ている禿の母を蔑ろにし、世話をしてくれる一番娘のことすらニンゲンに飼ってもらえなかった「いかず後家」とまで罵る。
 むしろ好条件が揃いすぎて生まれた一番娘の方がイレギュラーなのだ。


  ・・・デッゲロゲー デッゲロゲー

   ワタシのカワイイ仔供たち〜
   強くカシコく健やかに〜
   みんな生まれて育つデスー
   ワタシはここを出てくデスー
   妹ちゃんたちは大バカすぎるデスー
   キョーイク的にヨクないデスー


 疲れてウトウトしながらも一番娘は小声で胎教の歌を歌っていた。
 人間の飼育下で家畜として成長した廃出産と異なり、一番娘はそれなりに野生で生きる本能を目覚めさせていた。
 そのため仔離れできない母と違い、巣立ちを促す本能の誘いを夢現の中に感じていた。
 遠出の食料探しを手伝いたがったのも巣の適地と水場、餌場の探索を無意識に求めてのことであった。


   ママは実生けんめい生きるデスー
   強くタクマしく生きるデスー
   つらくっても苦しくってもあきらめないデスー
   オテテでシアワセつくるデスー
   オウチもジブンでつくるデスー
   みんなゲンキに生まれてくるデスー
   ママと仲よく暮らすデスー

  デッデロゲー デッデロ … ゲ… ?・・ ェ ・??


 その時、越冬穴の暗がりに太陽の光が差し込んだ。
 天井の穴を塞いでいるススキの束がどけられたのだ。
 暗やみに慣れた目に陽光がまぶしい。
 一番娘は暗やみに慣れた目をうっすらと開けて上を見上げる。

  ・・・?

 天井の穴から何かがこちらを覗きこんでいた。
 明るい春の日差しを背にして、のっそりした黒い影がいる。
 胸元に前掛けのような白い模様が見えた。


  デェ? 誰デス?もしかしてお客さんデ・・?



−− 8 −−


 渦巻く激流に飲み込まれ廃出産石は流されていく。
 一番娘が縫ってくれた服は布地が多い分、水を含むと通常の実装服より一気に重くなる。
 手作りの服には母への愛情だけでなく欠点もたくさん織り込まれていたようだ。


  ワタシは死ねないデスー
  あきらめないデスー
  帰るデスッ
  ぜったい帰るんデスー
  ムスメの待ってるオウチにかえるんデスゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・


 どんな決意も現実を動かす力が伴わねば意味は無い。
 やがて彼女の悲鳴は冷たい水の中に消えていった。



−− 9 −−


 突然の来訪者に一番娘が驚いた次の瞬間、その珍客は文字通り牙をむき出して襲い掛かってきた。


  ?…?!デキャァァァァ!

  テチャー?!! バケモノテチー!


 廃出産石の留守宅を訪れた珍客は冬眠明けのツキノワグマであった。
 気温がずいぶん温かくなってきたところに、ところかまわず糞を撒き散らす仔実装達のせいで穴から実装臭が漏れていたのだ。
 その臭いが自然界で最悪の捕食者を招きよせたのであった。
 もちろんオナカがペコペコだ。
 秋に溜め込んだ脂肪がすっかり落ちた身体はダボダボの毛皮を着ているように見える。
 冬眠明けの飢えた猛獣は目の前にあった一番大きいお肉に遠慮なく喰らいついた。


  ギャーッ! デャヒィッィィィィィィ!!

 熊に組みつかれた一番娘はなんとか逃げようとした。
 だが実装石が強靭な熊の膂力から逃げられるわけがない。


  やめるデスゆるしてデスッ オナカに仔どもがいるんデスゥゥゥッ

 もちろん冬眠明けの熊に命乞いしたってムダである。
 腹にツメをつきたてた熊が力をこめると彼女の身体はまっぷたつに引きちぎられた。
 AパーツとBパーツに強制分離された身体から内臓がズルリとはみ出す。
 熊は穴の外に下半身を引きずり出してフゴフゴと食べはじめた。
 腸とつながった胃がズルズルと引っぱられていく。
 Aパーツだけになった一番娘は手を伸ばして胃を取り返そうとした。
 必死だった。
 胃壁にはもうすぐ誕生を待つ胎仔がいるのだ。


  ヤ・・ ヤメルデス ヤメテ  デ ・・ス ヤメ 


 もちろん抵抗してもムダだった。
 つながったハラワタごと一番娘Aパーツは穴の外に引っぱり出された。
 そして熊は引きずり出した胃を中にいる初仔ごと貪り喰いはじめた。


  テ…  仔ドモたちを食べな イ・・ テ ゛ ・ ・ ・


 その時、牙で咬み裂かれた胃の隙間からはみ出した1匹の胎仔が地面に落ちた。


  レフ? アカルイレフ?ココハオソトレフ?テッテレ・・レェェェェ?? 
 

 地面に落ちた仔は未熟仔の蛆実装よりも大きい成熟胎仔だった。
 落下の衝撃は飛び散った母の肉片がクッションになってくれたので無事だったようだ。
 外見は大ぶりの未熟蛆実装である。 
 ただし出産シグナルを与えられないまま母胎から剥離した胎仔は通常の出産と異なり身体を保護する粘液に包まれていない。
 これは眼球の着色による強制出産で排泄されるように適当に生まれてくる屑蛆と同様である。
 このような形で母胎の外へ外科的に摘出された成熟胎仔は未熟蛆と同じ変態プロセスを経て仔実装になる。
 繭化を必要とする奇形蛆実装と異なり、一週間程度で自然と手足と髪が伸長して仔実装形態に変態していく。
 もっとも人間から見ると蛆実装の細かい事情など瑣末な事なので、このサイズまで成長した蛆形態の実装石は由来に関わらず十把ひとからげに蛆仔と呼ばれる。


  ママ? ママー ドコレフー? ドコニイルレフー?
  

 温かな母の胎から無理やり引きずり出された胎仔が血糊にまみれピチピチと蠢く。
 頭上では熊が母の胃をハフハフと咀嚼している。
 一番娘は我が仔を逃がそうと最後の力を振り絞って叫んだ。

  ワ… ワタシの仔!… 無事だったデス・・・ ココは危ないデスッ・・早く逃げるデスゥゥウウ


 しかし生まれたての仔にとって最優先事項はまず保護者である母とのコンタクトである。

  ママッ ママのお声がするレフー ママァー 今そっち行くレフ〜ン  ママー♪

  デスゥーッ!!  逃げるデスッ! こっちきちゃダ メ ェ ェ ェ

 無理やり母胎から引き剥がされたこの蛆仔も本能に従って母親の声がする方向へピコピコ這いずっていこうとした。
 もちろんその進行方向は毛むくじゃらの巨体と一緒である。
 脚元を這いずる蟲けらに気づくこともなく、次のお肉を求めて進行をはじめた後脚が乗っかかった。


  レヘ゜ッ…

 小さな悲鳴をあげて蛆仔が潰ける。
 それと同時に一番娘の最後の希望も砕け散った。



  ・・ェ ・ ェ・・・ テ ゛・・・・・・  ス… ・・ …  … ・ ・ ・ ・  
                                  パキン

 ついでに偽石も砕け散る。
 母の愛と希望を一身に受けて生まれ育ったシアワセな一番娘。
 資質に恵まれた彼女なら新しい山実装一族の祖になりえたかもしれない。
 だが、そんな可能性も虚しく消え果てた。



−− 10 −−


 さて、続いて自業自得の仔蟲どもの運命である。

  オ?!オネチャ! オネチャ?!
  テェェェェン コワいテチコワいテチ
  こっから逃げるテチャー
  待ってレチー 置いてかないでレチィィィ
  レェェェン ウジちゃんもつれってってレビュ
  ウジチャン ウジチャァァァァン


 惨劇を目にした仔実装達は恐慌に駆られた。
 お互い突き飛ばし、すっ転ばし合い、脚元の蛆実装を踏み潰しながら我先にと出入り口へ殺到する。

 テチテチ悲鳴をあげながら脱出しようとした仔実装達だったが、出口には別の捕食者が待ち受けていた。
 子熊である。
 穴を襲った熊は親子で子熊を連れていたのだ。
 2匹の子熊が巣穴の出入り口を覗き込んでいた。

 子犬ほどの大きさしかないコロコロしたヌイグルミのような子熊だが、仔実装にとっては充分すぎる脅威である。
 巣の外に出ようとした仔実装達の前に2匹の子熊が立ちふさがった。
 真っ先に逃げ出そうとした仔が子熊のタックルをくらって転がった。
 小さくとも猛獣の本能の促すまま顔面に噛みつく。


  チュワッ?! チュワワッ!! やめるテチュエェェェーーン!!!! 食べちゃダメテチ食べちゃイヤテチャァ ァ ァ・・

 子熊に噛みつかれた仔実装が断末魔の悲鳴をあげる。
 新たな脅威に驚いた仔実装達は巣穴に引き返そうとした。
 しかし出口の様子がわからない姉妹に後ろからグイグイ押されてなかなか戻れない。

  どけテチ! なにノロノロしてる?ん?!テッチャァァァーッ!!
  レチャー! コッチにもおっきいのがいたレチィィィ
  テェェー! こっから出られないテチャー!!

 狭い通路で右往左往する仔実装達にもう1匹の子熊が襲い掛かった。
 小熊は手頃な仔実装の背中にのしかかって押し倒した。
 テェェェンテェェェンと泣き喚く獲物をたどたどしく引き裂いていく。
 子熊は首筋に噛みつこうとしたが、背面から噛みつくと実装服と後ろ髪が邪魔で食べにくい。
 それに気づいた子熊はいったんジタバタ暴れる獲物をひっくり返した。

  たちゅけテェェェンゆるちテェェェン テ ・・テ?・・ユルチテクレルテチィ? タベナイデ…オネカ ゛ッ?!・・

 そして飢えた野生動物相手に無意味な命乞いをした獲物の顔面にカプリとかぶりつく。
 服も髪も無いむきだしの顔面が一番食べやすい。
 こうやって子熊達は捕まえやすい獲物の味と狩りの仕方をマスターしていくのであった。
 

 子熊に追いかえされてテチテチ奥の部屋に撤退した仔実装達だったが事態は全く好転していない。
 どうせ泣き喚くことしかできない。
 そのうち天井の穴からまた母熊が首を突っ込んできた。

  テ?チュワッヂュァァァッ! テビャァァァァァァァーーー

 大き目の仔を一匹、頭からパクっと咥えるとアムアムバリバリとまる齧りにしてしまった。
 前門の子熊、後門の母熊に囲まれた仔実装達に逃げ道はなかった。
 まさに袋の仔蟲、いやネズミ。

  テェェェン テェェェン  ママァー ママァァァー
  コワイのいやテチー チぬのいーやーテチィィィーー 
  ママー ママー ドコいっちゃったテチー   
  早くアイツをやっつけテチャー
  ハゲのボケママーのバカー グズーー どこチンタラしてるテチー 
  デクノボーのオオネチャも役立たずテチュー
  だからいかずゴケだったんテチィィィ
  プニフー プニフー
  チャー! どこにも逃げられないテチィィィン
  出チテェー出チテェェェンこっから出チテェー
  チュゥゥゥテチューーーン テッチュウゥゥ〜ン
  ア・・ アタチたちもおあいそするテチュ〜ン テッチューウゥゥー
  テチュチューーンテッチャーーンテチテッチィィィィン   
  こわいレチュー レェェェン レェェェェン
  たチュけテー テチュけテェー ユルちテェェーーン 
  おねがいテチゥゥゥゥ ウジちゃんあげるからみのがチテェェェン
  レフ?
  テェェェン テェェェン テェェェェ・・
  プニフープニフーフ ゜
  レェェェンレェェ ェ・
  テチューーン テチュウーーン テビッギャァァァーーー … ・ ・  ・

 泣く仔、喚く仔、帰ってこないママに助けを求める仔、罵る仔、媚びる仔、命乞いする仔、取引しようとする仔、だが飢えた熊には一切関係がない。
 もちろん熊相手にプニプニを要求する蛆実装とて例外ではない。
 一石、また一石と熊の親子に捕まり、齧られ、引き裂かれ、喰われていく。

 壁面の横穴に逃げ込んだ仔実装もいた。
 そこはオマケで生まれてくる小さな親指や蛆用の避難所だった。 
 廃出産石が後から掘ったのだ。
 2匹の仔実装が押し合いへし合いしながら我先にと狭い横穴に潜り込む。
 先客の親指と蛆がいたものの問答無用で蹴りだした。


 「ここに ここに隠れるテチッ どけ!じゃまテチッ」
                           オネチャー ヤメルレチャアアァァァーッ!ナニスルレチャァァァー 
 「アァァァアタチだけはぜったい助かるんテチュゥ!」
                           レピェェェン タフケテレフー ウジチャン チヌノイヤレフェェェン 


 500mlペットボトルくらいの穴だから子熊でも入ってこれないだろう。
 ただし奥行きもペットボトル程だ。
 それでも2匹で黙って震えていれば助かったかもしれない。

  
 「ここならカイジューも入ってこれないテチィ アタチって頭いいテチ てんさいテチ」

 「そこドケッテチィーーッ アタチにはイチバン奥にかくれるギムがあるんテチャァァァ」

 「なにいってるテチ?! ここはアタチが先に入ったテチ」 

 「アタチがチんだらウチュウ的そんしつテチュ コウキなアタチにブサイクが譲るのはトーゼンのレイギテチ」

 「ふざけるなテヂャーァァァッ! オマエみたいなクソムシこそエジキになればいいんテチャァァァッ」


 だが自分が奥を取ろうと姉妹どうし取っ組みあいをはじめた。
 そのため横穴の入り口からテチテチチャーチャー鳴き声が聞えてくる。
 蹴りだされた親指と蛆も穴の入り口で未練がましくレチレフ泣いている
 まるで、この中にまだ隠れてますよ〜、と言ってるようなものだ。
 一通り越冬部屋の仔実装達を食べ尽くした母熊が親指と蛆をまとめてペロンと一飲みにした。
 そして前脚を伸ばしてちょいちょいと横穴の入り口を引っ掻いた。
 実装石のオテテで掘れる土が、爪のある熊の手で掘れないわけがない。
 バラバラッと土があっさりどけられて、中にいる仔実装達の姿が顕になる。
 熊親子の目にさらされる中、当初の目的を忘れて2匹の仔実装は組んずほずれつテチテチずっと喧嘩していた。
 母熊は2匹いる仔実装を子熊達に食べさせてあげようと思案したのかしばらく様子を見ていた。
 子熊の方は仔実装の格闘に興味津々でゆっくり観戦したいようだった。

 やがてとっくみあう2匹はゴロゴロ転がって部屋の中央へとリングを移した。
 母熊が天井の穴からいったん身体を外に出したので明るい陽光がスポットライトのように2匹を照らす。
 生存の危機をすっかり忘れ果てたテチテチポフポフ微笑ましいファイトは3分程で決着がついた。


 「チププ ジャクニクキョウショクはウチュウのシンリテチ ヨワムシのブンザイでツヨツヨのアタチにさからうなんテッ?!

 「いたいテチいたいテチィィィ テェェェンテェ エッ?!… ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ !!!! 


 おめでとう。観客からのプレゼントとして勝者には弱肉強食という言葉の意味を先に御教授賜る権利が与えられる。
 負け仔蟲を足蹴にしてふんぞり返る勝ち仔蟲に母熊が穴の上からパクッと喰らいついた。
 惜しくも敗れた負け仔蟲には愛くるしい子熊ちゃん達と長いこと遊び戯れてもらえる権利が与えられる。
 やや満腹気味の子熊達が地面に倒れている仔実装のところへ仲良く近づいてきた。
   

  テェェェ・・・ コナイデチィィ タ… タベナイデェェ タベナイデェェェーーン


 こうして廃出産石の仔供達(孫含む)は全員ツキノワグマ親子の糧となり腹に消えていった。

 もしも非常口を塞がず残していたなら被害甚大でもせめて全滅だけは避けられただろう。
 山実装が何故狭い非常口を越冬穴に作るのか。
 どうして広い越冬穴を放棄して、わざわざ別々に仔育て用の巣穴を整えるのか。
 大型捕食動物への対策と全滅リスクの回避である。
 野生動物としてそれなりに適応した山実装の生態にはそれ相応の理由があったのだ。

 かくして・・・ 廃出産石が夢見た希望の未来は儚く潰えたのである。

 


−− エピローグ −−


 鉄砲撃ちの爺さんの持ち山から少し下った土地は区の入会地になっている。
 昔はこの辺りの山は全部江戸時代から続く地主さんの土地だった。
 それが農地解放で地主さんが没落した時に山を分割して売却したとのこと。
 ここは手頃な山菜採りにちょうどよい。

 山道を外れ、鎌とコンビニ袋を持って川沿いを歩いていく。
 ベルトにつけた熊除け鈴がチリンチリンと鳴る。
 かなり鬱陶しいものの用心のためだ。



 ・・・・・・ん ?
 
 川原に襤褸を巻いた禿の実装石が倒れている。
 雪解け水で川の水量がずいぶん増えている。
 ちょっと変だが川に落ちて溺れた山実装かもしれない・・・ 食えるかな? 



−− 終わり −−

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