——7日目 土曜日 その日の朝、親マラの様子を見に行った私はまず驚いた。 昨日の夜、親マラの水槽に一緒に入れていたマラ仔たちの姿が 見えなくなっていたからだ。 ひょっとしたら極限状態に追い詰められた親マラが仔食いをしたのかしらぁ、 と思ったのだけれど、そうでは無いというのはすぐに分かった。 水槽の置いてあるテーブルの向こう側の床に、赤と緑の血溜まりができていたのだ。 「マラちゃん?一緒にいたあなた仔はどうしたのぉ?」 私の言葉が聞こえないかのように、マラは昨夜と同じ様子で水槽の底で うずくまったままだった。 私は溜息をつくと、部屋においてあったリンガルを手にとり再生ボタンを押す。 無音状態の中に親マラのすすり泣く声とマラ仔のチィチィ鳴く声がするが、 そういうシーンはすべて早送りにする。そして再生後1時間ほどだろうか、 初めて何か会話をする声を実装リンガルは拾っていた。 『……ニンゲンはいないデス?もう寝たデス?』 『……ママ!?ママァ!ちんちんイタイテチィ!どぴゅどぴゅできないテチィ!』 『こんなところ早く逃げるデチ!その前にあの糞ニンゲンをやっつけるデチ!』 『お前達、静かにするデス。いいデス、ママの言うことをよく聞くデス お前達はここから逃げるデス。ここにいてはダメデス。お前達は殺されてしまうデス』 『イヤデチー!ちんちんイタイテチィ!どうにかして欲しいテチィ!』 『三人であの糞人間をやっつけるデチ!』 『無理デス……悔しいデスけど人間には敵わないデス。ワタシはともかく 歯向かえばお前達は簡単に殺されてしまうデス』 『『もうイタイのイヤテチィ……』』 『いいデス?ここからお前達を出すデス。 あとはお前達の力で何とかここから逃げるデス』 『ちんちんイタイテチ〜……』 『早くここから逃げるデチ!』 『いいデス?それじゃあお前達だけでも何とか逃げるデス』 『ママ、なにするテ、テチャアアアァァァァ……』 『や、やめろデチィ!こっち来るなデチ!』 『いいから言うこときくデス』 『やめろデチ!この糞親めデチ!放すデ、デチィイイイイィィィィィィ……』 『……なんとか無事に逃げるデス……』 私はそこまで親マラに聞かせると、親マラはうずくまったまま こちらに向けた背中にじっとりと汗をかきはじめている。 「あなた、仔蟲を助けるために水槽の中から外に放り投げたわねぇ?」 私の言葉にビクリと背中を振るわせる親マラ。 どうやら図星のようねぇ。 「まったく……私の腰ほどの高さもあるテーブルの上に置かれた水槽から 外に放り投げたりしたら仔実装なんてひとたまりもないじゃないのぉ」 私は床についた赤緑の血だまりを見ながらいった。 そこで一つおかしなことに気がついた。 死体が無いのだ。 もし投げられたマラ仔が落ちて死んだのなら、そこには二匹の死体が転がってなければならない。 でも、そこには死体が無い。 そこであらためて血溜りをよく調べてみると、 体液の海の中に仔実装のものと思しき服と靴が一匹分落ちていた。 そしてその血溜りの中から点々と続く、仔実装のものと思われる足跡が一匹分、部屋の隅に続いていた。 投げられたマラ仔は二匹。見つかった服は一匹分。そして足跡も一匹分。 そこで私はピンときた。 投げられたどちらかのマラ仔が落ちたときに死んだのか、 それとも二匹ともそれなりの怪我をしたが助かったのか、 それは分からないがとにかく最低でもマラ仔一匹は床に落ちても死ななかったのだ。 そして、助かったマラ仔は落ちて死んだか、それとも瀕死だったはずの自分の姉妹を喰ったのだ。 そうすることで体力と傷の回復を図り、この部屋のどこかに身を隠したのだ。 ふふふ……面白いことになったわねぇ……。 かくれんぼするマラ仔ちゃんを追い掛け回すのも楽しそうだけど、 残念ながら朝はそんなに時間がないのよねぇ……。 帰宅するまでは家の戸締りをしっかりして、逃がさないようにしなくちゃ。 それはそうと——、 「そう。あなたはマラ付の仔を助けたいというわけねぇ。あなたの意思はわかったわぁ」 私はそういうと、ガクガク震える親マラの傍に普通仔実装の水槽を並べて置く。 「チィ〜テチチィ〜」 「デス〜!デスデスデ〜!」 仔の鳴き声にうずくまって震えていた親がガバッと顔を上げると水槽の際に 顔を押し付けて必死に鳴き声を上げはじめた。 リンガルを使ってみると、まぁありきたりな親子の再会の場面が展開されているようねぇ。 「さて、親マラちゃん。あなたがマラ仔ちゃんを生かしたということは、 この仔達がどうなるか分かるわよねぇ?」 私が言うと、親マラは「デェ!?」と怯えたような鳴き声を上げる。 「あ、あの仔は勝手に逃げたのデスゥ!わ、私はこの仔達を助けたいんデスゥ!」 必死な形相でいう親マラ。 言うに事欠いて勝手に逃げたとはねぇ。さっきリンガルの記録聞かされたばかりで よくもまぁそんな大嘘が平気でつけるものねぇ。 「どちらにしても、私が処分する前にマラ仔を逃がしたとなると、 これは罰を与えないとねぇ」 わずかに微笑みながら言う私に、親マラは見た目に分かるほど大げさに体を震わせてうずくまる。 垂れた耳がこいつの精神状態を如実に表してるわねぇ。 だけど、まだまだ追い詰めるわよぉ。ふふふ。 私は冷凍庫から氷をいくつかと、仔実装の入っている水槽よりも一回り小さな ガラス板を用意した。先日親マラを押し潰していたあのガラス板だ。 私は用意した氷を仔実装の入っている水槽の四隅に、ちょうど仔実装の 背丈よりも少し高くなる程度まで積み重ねる。 その氷で出来た四本の柱の上に、ガラス板を置いた。 その上に私は広辞苑を乗せる。もしもこのガラス板が仔実装の上にのしかかってきたら、 間違いなく仔実装は圧死するだろう重さだ。 先日親マラを虐待するのに作った、落し蓋式の簡易吊天井形式虐待(虐殺バージョン)の完成よぉ。 「氷が解けて徐々に天井が落ちてくるのか、それともバランスを崩した 天井が一気に落ちてくるのか、見ものねぇ」 私がそういうと、「やめてデスゥ!子供に酷いことをするなデスゥ!」と泣き叫ぶ親マラ。 一方の仔実装は「テチ?」なんて緊張感のまるで無い鳴き声を上げて頭の上にある 広辞苑を不思議そうに見上げている。 「さ、それじゃあ私は出かけるから、あなたは可哀想な仔実装を最後まで可愛がってあげなさぁい」 そういうと仕事に出かける用意をするために部屋を後にする。 そんな私の背中に親マラの叫び声が響く。 「デジャアア!やめろデスゥ!その蓋を外していくデスゥ!約束が違うデスゥ!!」 「約束ぅ?」 私はわざとらしく言うと、親マラのほうに振り返る。 「そうデスゥ!この子達は助けるという約束デスゥ!約束を守らないなんて 糞人間以下デズゥウウ!!」 目を剥いて口角から泡を吹きながら必死に叫ぶ親マラ。 そんな親マラに私は肩をすくめて軽く溜息をつく。 「約束ねぇ……そもそも最初に約束を破ったのはあなたの方でしょぉ? それを棚上げにして約束もへったくれもない——」 「デギャアア!糞人間!糞人間!糞人間シネデジャアア!!呪ってやるデズウ! 子供を殺したら呪ってやるデズウウウ!!」 どうやらまたぶち切れちゃったようねぇ……。 そんな様子の親マラに隣の水槽にいる仔実装は怯えてしまい、頭を抱えて ブルブルと震えてうずくまっている。一匹にいたっては親に向かって「チャアア!」 などと涙を流しつつ威嚇しながらこんもり漏らした糞を投げつけている。 親も錯乱。仔も錯乱。 こういうどこかズレた親子愛がまったくもって実装石らしいわねぇ。 さすがに相手にしきれないので、私はリンガルのスイッチを切ると そのまま仕事に出かけることにした。 その日は仕事がいつもよりハードだった私は、帰宅する頃にはすっかり 疲れきっていたため、油断をしてしまっていた。 一匹のマラ仔が部屋のどこかに隠れているということを完全に失念していたのだ。 そのため、鍵を開けるとまったくの無防備に部屋のドアをあけてしまった。 「テヂー!」 「あっ!?」 ドアを開けると同時にその隙間からマラ仔がするりと抜け出し、外に逃げ出した。 おそらく私がきっちり戸締りをしたのでどこからも逃げ出せず、 朝、私の出て行くところを見ていたマラ仔はこのドアが開くのをずっと傍で 待っていたのだろう。 私は予想外の出来事に一瞬慌てたけれど、なにせ仔実装の足だ。 「デッチ!デッチ!」と本人は一生懸命駆けているつもりなのだろうけど、 その歩みは絶望的に遅かった。 私は、疲れているときに……とため息をつくと逃げるマラ仔をゆっくりと追いかけた。 そのとき隣の部屋のドアが開いた。 「あら?」 中から現れたのは女性というよりはまだ女の子といった感じのする女だった。 ぱっと見た感じだと女子大生といった感じかしらぁ。 私よりも年下なのは間違いないわねぇ。 あ、私も一応まだ30にはなってないわよぉ。 その女は足元にかけてきたマラ仔をひょいと片手で捕まえた。 「デチャアア!デチャチャア!!」 捕まえられたことでパニくるマラ仔。 手足を振り回しながらパンコンして泣き叫ぶその姿には可愛らしさなど微塵もなく、 手足の生えた醜悪な汚物にしか見えない。 その尋常ならざる様子にさすがに驚く女。 「え?え?どうしたの?ほら、飼い主さんよ」 そういって女は困惑顔で私にマラ仔を差し出す。 すると、余計に涙を流して大暴れをするマラ仔。 「チャアア!!デジ!!デヂャ!ジィイイイ!!?」 リンガルを使うとさぞや面白いことになっているのだろうけど、 残念だけれどこの場でそれをするのはチョット危険ねぇ。 「ごめんなさいねぇ。この仔、ちょっと人見知りが激しいから、びっくりしちゃったのねぇ」 私は彼女からマラ仔を受け取ると、片手で握り同時にうるさく泣き喚く 口の中にさりげなく親指を突っ込んで黙らせる。 「あ、そうなんですか」 そんな私の所作に気がつかずに、静かになったマラ仔に微笑む女。 「この仔を捕まえてくれてありがとう。えっとあなたはぁ……?」 いいながら、私はおかしいなと思っていた。 確か隣の部屋は空き部屋だったはずなのよねぇ……。 そんな私の表情を読み取ってか、彼女の方から自己紹介をしてくれる。 「あ、私、今日隣に引っ越してきた長月です。帰宅されたようでしたので ご挨拶に伺おうと思って出たところでちょうどこの仔が走ってきたから 挨拶が遅れちゃってゴメンなさい。」 そういうと、長月は小さな包みを差し出しながらぺこりと頭を下げる。 「あらあらぁ、ご丁寧にありがとう。私は○○というの。お隣同士仲良くしてねぇ」 私も適当に挨拶を返すと、長月は妙にニコニコとしながら話しかけてくる。 「私も実装石を飼ってるんですよ」 「あら、そうなの?」 答えながら、私は彼女の頭のてっぺんからつま先まで舐めるようにしてみる。 ……どうみても虐待派の持つ独特の空気は無い。 どうやら普通に実装石を愛でるタイプの飼い主なようねぇ。 あまり迂闊なことをいわないほうが良いわねぇ、このタイプには。 「引越しの間、一週間くらい友達のところに預けてるので、これから引き取りに 行くんです。またよかったらうちの実装ちゃんとも遊んでくださいね」 長月はそう言うと私が掴んでいるマラ仔に向かって微笑む。 だが、そんな言葉にマラ仔が答えることは無い。 マラ仔が、実は口に親指を突っ込まれて喘いでいるなんてことは、 後頭部しか見えていない長月には分かるはずもなかった。 そんなマラ仔に長月は苦笑いをすると、「それじゃあ」といってどこかに出かけていった。 私は彼女が廊下の向こうに消えるのを見届けてから、 握っていたマラ仔を眼前に持ってくる。 「……ッ!!……ッ!!」 必死で身をよじりながら声にならない叫び声を上げているマラ仔。 どうやら助かったのはやっぱり体の一番大きかった玉つきのマラ仔実装のほうのようねぇ……。 赤と緑の涙を流しながら体をピクピク振るわせるマラ仔に私は笑顔を見せてやる。 途端に暴れ方が激しくなる。 どうやらこのマラ仔は学習したようねぇ。 この笑顔が一番怖いということを。 「いい仔ねぇ〜」 私がそういうと、ぎこちないながらも頬を緩めてこちらを見つめるマラ仔。 「でもヤッパリまだまだねぇ」 私が握っていた手に力を込めると、マラ仔は激しくえづきながら更にボタボタと その場に糞を漏らした。 ガタン、という音とともに、ガラス板を支えていた氷の一角が溶けて崩れた。 『テチーッ!?助けてテチー!死にたくないテチー!』 『テェエエン!テェエエエン!ママー!ママー!怖いテチー!』 『お前達!こっちにくるデスゥ!』 『テェエエン!テェエエン!』 『嫌テチー!もっと美味しい物を食べたいテチ!幸せになりたいテチー!』 『早くこっちに逃げるデスゥ!なんとか逃げるデスゥ!』 『ママー!ママー!』 『ママー!怖いテチー!』 二匹の仔実装は親マラのいる水槽側の壁に駆け寄ると、 親マラに向かってガラス壁を叩いて泣き叫んでいる。 そんな仔に親マラも涙を流して水槽の壁にびったりと張り付いている。 『明日になればここから出られるデス!やさしいご主人様のところに帰れるデス! それまでの辛抱デス!』 『助かるテチィ?』 『幸せになれるテチィ?』 『助かるデスゥ……幸せになれるデスゥ……だから、頑張るデスゥ』 涙声で仔に語りかける親マラ。 『美味しい物が一杯食べられるテチ?』 『食べられるデスゥ。ステーキも毎日食べられるデスゥ』 『痛いことされないテチ?』 『痛いこともされないデスゥ。毎日とっても可愛がってくれるデスゥ』 『すごいテチ〜』 『夢のようテチ〜』 『だから、頑張るデス。なんとしても、今日を生き抜くデス』 『『うんテチ!』』 ガタン!ガタタン! 仔実装の返事と、残りの氷の柱が折れてガラス板が二匹の上に落ちてきたのはほぼ同時だった。 『チビュ!?』 『テビャ!?』 仔実装の短い悲鳴の後、まるで時間が止まったかのような、 あるいは録画に使用していた機器が壊れてしまったかのような錯覚を覚えるほど長い沈黙。 ピクリとも動かずに目の前においてある水槽の中で、今さっきまで言葉をかけていた、 とても元気だった我が仔の姿を虚ろな眼差しで探す親マラ。 しかし眼前にある水槽の中には広辞苑の乗ったガラス板があるだけ。 そして水槽の底とガラス板の隙間から、赤色と緑色の液体がじんわりと 滲み出してくるのを見て、親マラは初めてさめざめと泣きはじめた。 「う〜ん、我ながら中々いい出来だわねぇ」 私は着替えると、缶ビールを片手に朝出かけるときに仕掛けた ビデオカメラの映像を観賞していた。 傍には親マラの水槽を置き、目をそむけたり瞑ったり出来ないように 体はハンガーと布団たたきで固定、瞼にはセロハンテープを貼り付けて 一秒たりとも見逃さないようにしてある。 「デズゥゥ……デズァァァ……」 僅かに動く頭を左右に振りながら、赤と緑の涙を流して呻き声を上げる親マラ。 その様子にほくそえむと、私はリモコンを手に笑顔でいう。 「さって、リピートリピート。あ、あとで最後のシーンだけ繰り返し流れるように 編集もしなくちゃねぇ」 「デズアアアアア!!デジャャアアアア!」 うーん、いい悲鳴を上げるわねぇ。 「あ、そうそう。あなたに返しておかないとねぇ」 私はそういうと、朝拾っておいた血塗れの仔実装の服を水槽に投げ入れてやる。 「あなたが投げたマラ仔の服よ。残念ながら潰れて死んじゃってたようねぇ」 「デェエエ!?デギャアア!!デジャアアアス!!」 「あら、私が殺したとでも思ってるの?違うわよぉ——といっても信用しないわよねぇ」 私はやれやれという風に肩を竦めると、親マラの水槽に近づく。 「デス!?デェェ……」 途端に先ほどまでの威勢をなくし、怯えてガクガク震える親マラ。 しかし、そんな親マラの水槽の脇をすり抜けると、私は台所に向かった。 そして、再び部屋に戻ってきたときには、手に大皿を一つ持っていた。 皿には焼肉とサラダが盛り付けられている。 「……デスゥ?」 皿を見て小さく鳴く親マラ。 思えばこいつを預かって一週間弱になるけれど、 まともな食べ物を見せたのって初めてのような気がするわねぇ。 私の顔と皿を交互に見つめる親マラに、私はリンガルを使って話しかける。 「食べていいわよぉ。明日であなたも元の場所に返さないといけないから、 最後くらいは食事をして、痩せた体を元に戻しとかないとねぇ」 私が言うと、親マラは目を潤ませ始めたかと思うと、やがて大泣きを始めた。 なにを泣いているのかと思ったら、「仔達にも美味しいものを食べさせたかったデスゥ」とのこと。 本当に仔思いなのねぇ。 「そんなことより、食べるのぉ?食べないのぉ?」 私が言うと、「仔達の分までワタシが食べるデス!」と力強く答える親マラ。 どういう納得の仕方かしらねぇ……。 「ほらぁ、あ〜ん」 「あ〜ん、デスゥ」 体を縛り付けてあるため、私が箸で掴んで親マラに食べさせてやる。 まぁ、最後だしこれくらいはサービスしてあげるわぁ。 「ちょっとあなた、サラダの方も少しは食べなさいよぉ」 「葉っぱなんか食べたくないデス!肉をもっと食べさせるデスゥ!」 ちょっと甘い顔を見せると先ほどまでの怯えようが嘘のようねぇ……。 「そ、そっちのミートボールを食わせるデス!」 「はいはい」 私は言うとおりに口に運んでやる。 ——デヂー 「デス!?」 かすかに聞こえた仔実装の鳴き声。 それに親マラが反応する。 「あらぁ、どうしたのぉ?」 私が声をかけると、親マラは慌てたように「な、なんでもないデスゥ!」というと、 「次はそっちの肉を食べさせるデス!」と誤魔化した。 「じゃあ、はい、あ〜ん」 「あ〜ん、デスゥ」 ソテーされた肉をくちゃくちゃと汚らしく租借する。 「今度はまたミートボールを食べるデス!」 「はいはい、あ〜ん」 「あ〜ん、デスゥ」 ——デヂヂー 「デェエ!?」 先ほどよりもややはっきりと仔実装の鳴き声が聞こえたことに、親マラが 明らかに動揺した鳴き声を上げる。 「あらぁ、なにかしらぁ?」 私はわざとらしくそういって周囲をキョロキョロと見遣る。 「な、なんのことデスゥ?それよりもニンゲン、早く私に肉を食わせるデスゥ!」 明らかに動揺する親マラ。 ふふふ、本当に馬鹿な糞蟲ねぇ。 どうせ、「逃がした仔が生きていたデス!人間に気づかれないようにしないと いけないデス!」なんて考えてるんでしょうねぇ。 若干引きつったような顔で私に肉を催促親マラ。 「ねぇ、サラダも食べた方がいいわよぉ」 「う、うるさいデス!は、早く!今度はそのソーセージを食わせるデス!」 「はいはい、分かったわよぉ。ほら、あ〜ん」 「あ〜ん、デスゥ」 ——ッヂャアアアアアア! 突然の大絶叫に親マラがビクリと大きく体を振るわせた。 「な、なんデス?なんなんデスゥ?」 口から半分ソーセージをはみ出させたまま呆気に取られる親マラ。 正直、私もさっきの大絶叫にはちょっと驚いたわぁ。 まだあんな元気があったなんてねぇ。 「そうそう。親マラちゃん。さっきの話だけどぉ、あなたが投げたマラ仔はね、 やっぱり一匹は死んじゃってたのよぉ」 私は皿に盛られたサラダのレタスを指で一枚ずつ取り除きながら話しかける。 親マラはそんな私の様子を呆然としたまま見つめている。 「でもね、一匹は死んでなかったのよぉ。そして、もう一匹のマラ仔を生きたままか、 あるいは死体を貪ってたのよぉ」 ——デヂヂー レタスが除かれるとともに、先ほどまで聞こえていた小さな鳴き声が 徐々にはっきりとしてくる。 「でね、さっき私が帰ってきたときに、そのマラ仔ったら部屋から逃げようとしちゃったのよぉ」 ——デヂー、デヂヂー 親マラの顔が徐々に小刻みに震え始める。 口に半分咥えたままのソーセージ、いやソーセージのような物も同じように ブルブルと震えている。 その様子は、酷く滑稽だった。 「だからね、罰を与えたのよぉ」 私は最後のレタスを取り除いた。 「デヂィイイイ……ワタチのマラを……玉を……」 皿の上には、両目から赤と緑の涙を流しているマラ仔の首が据えられていた。 それはぶつぶつと小さく鳴き声を上げていたが、首だけになっていながらも、 最後に大きな叫び声を上げた。 「食うなデヂャァアアアアアアア!!!」 「デズウウウウウウウ!!!!」 その絶叫に口からソーセージことマラ仔のマラをこぼす親マラ。 そして、その絶叫を最後に事切れるマラ仔。 口からは舌をだらりと垂らし、白濁し始めた目は親マラを恨めしげに見つめていた。 「デデデデ、デェエエエエエ!!?な、なんデスゥ!?なにがなになな……」 ガチガチと歯の根の合わさらない親マラが激しくどもりながら私と大皿を見比べる。 そんな親マラに、私はいよいよ笑いが抑え切れなくなり、大きな声で笑う。 「あははははぁ!分かってるんでしょぉ?あなたが今食べた物が何か?」 「デェエ!?そんな、そんなはず無いデズ……そんなはず……」 涙を流して否定する親マラ。 「ほら、これがあなたが大切にしていた仔よぉ。 このマラ仔が最後の生き残りだったのにねぇ」 私はマラ仔の首を親マラの目の前に持っていくと、それを顔に押し付けながら言う。 「だけど、最後の仔は自分で食べちゃたのよねぇ。美味しかったかしらぁ?」 「デェエエ…やめてデスゥ…やめてデスゥ……」 それを避けようと、必死に顔をよじろうとする親マラ。 しかし、逃げたくとも体を固定されているので逃げることも出来ない。 顔を背けたくても頭もがっちりホールドされている。 目を瞑りたくても、セロハンテープで瞼が剥かれた状態になっている。 何一つ、そう何一つこいつにはできることは無い。 私に言うことをきかせることも。 子供達を守ることも。 そして今、体の自由さえも。 「デェエエ……デェエエエエエン……」 親マラの鳴き声が変わった。 はらはらと涙をこぼし、ただただ泣き続ける親マラ。 それは何もかも失った絶望の涙。 無力な自分を呪う泣き声。 そして、この世の中すべてに媚びるかのような細く長い慟哭。 「はぁああ、いいわぁ……やっぱり実装石はその鳴き声が一番可愛いわねぇ」 「デェエエエエン……デェエエエエン……」 私は震える手で親マラの顔を撫で摩る。 でも、親マラはその手に嫌悪感や恐怖を感じるでもなく、ただひたすらに泣きじゃくる。 まるで生まれたての仔実装のように。 しばらく泣き声を堪能した後、私はすっと親マラの顔から手を引くと、 親マラのスカートの裾を捲り上げた そこには下着からこぼれ出た、蛇口付きのマラがだらりと垂れ下がっている。 最初、あれだけ猛々しく盛っていた姿がまるで嘘のような一物。 飼い始めて二日目で取り付けられた蛇口のせいで、 それはすっかり男性機能を失っているかのように見えた。 「さぁ、最後の仕上げをしなくっちゃねぇ」 私はマラの先端についた蛇口に手を伸ばす。 「預かり物を返すときは元の状態に戻すのが、礼儀ってものよねぇ」 私は蛇口を掴むとぐっと力を込めて引っ張る。 「デヒェ!?」 その刺激に親マラが小さく身をよじる。 それを無視して私は乱暴に蛇口を引っ張った。 マラが限界まで引き伸ばされ、ミチミチという肉の引き千切られるときの 嫌な音が一物の先端からしはじめる。 「デグエェエエエ!?痛いデス!痛いデズゥウウウ!!」 先ほどとは違って、今度は血涙を流してわずかに動く顔を振り痛がる親マラ。 だが、それを無視して私は引っ張り続ける。 「ち、千切れるデズゥ!マラが!マラが千切れちゃうデズゥ!?」 そんな親マラに、私は笑顔で言う。 「大丈夫よぉ。最後に食事もしたから、少々怪我をしても明日になれば再生するわよぉ」 「ゾ、ゾンナの…デグェエエ……」 痛みのためにゲロを吐く親マラ。 「あらあらぁ、せっかく再生しやすいように食事をしたのに無駄になったわねぇ。 我が仔だけどぉ」 そんな私がいう言葉にも、既に親マラは反応できないようで、 ただ顔を真っ赤にして激しい痛みに耐えゲロを吐き続ける。 そしてそんなマラの張力がやがて限界をむかえる。 ——ブヅン! 「デッギャアアアアアアアアア!!」 蛇口がマラから引き剥がされると同時に絶叫を上げると、親マラは気を失った。 「あらあらぁ、これは痛いわねぇ……」 私は蛇口の根元にくっついてきた、親マラの亀頭の肉を見ながら呟いた。
